<3-28> 「気が付くとゴルムディア? (後編)」
最新の本文修正日は2015年1月12日です。
険悪な雰囲気というか若干一名の為に指揮車の中に居辛くなった俺ですが、外の世界は夏真っ盛りのようです。
緯度が上がったのか春と言うにはふさわしくない太陽。ああ、ここではサラム様であったが、それがギラついた外の世界であった。
その真夏のような日差しの中、ゴダ芋を収穫していたはずなのだが、何故だかまた俺は誘拐されてしまう。いつもなら直ぐというか、時を置かずして中隊の誰かが俺を助けに来てくれるはずなんだが、結局夜になっても誰も俺を助ける事は出来なかったようです。
俺を攫った人達は細心の注意を持って行動して、雇い主にも同じように注意してなんだか俺を攫った料金を吊り上げる事に成功したようです。幾らになったか聞いて見たいものである。
そんな中、晩飯を貰い人心地ついた時に凄まじい何かの流れというかそんな状況に遭遇する。俺を攫った奴の話ではそれはどうやら魔素術による探査術らしいです。あの凄まじさから考えるとペルジャーネ先生かデウシー先生が魔素術による探査をしたと思う。人攫いにあったいうのに、そんな事を考える俺であった。
誘拐というか攫われたはずなのに、今のところは俺に危害を加える雰囲気でもないし、飯まで与えてくれたので問題は無いのだが‥‥‥。薄暗い明かりの中、俺は彼等を観察することにする。
子分の方はどう見てもプイホンさんと同じ土猫系でマスクは意味を成していないというかそのマスク要らないだろと突っ込みたい。昔というかネットで見たことのある昔風の狐のお面で彼の顔にジャスとフィットしている。
毛並みは赤茶っぽい色でそんなには毛は長くない。今はマスクをずらして口を出して一生懸命晩飯をハフハウいって、俺が食べた物と同じようなオジヤを食っている。服装はプイホンさんと同じようにチョッキに少し大きめな短パンをはいていて後ろを向いた時なんかは短い尻尾がぷりぷりしていて可愛い。
ところがそいつの兄貴と言った人物は用心深いのか偶にしか俺の前を横切らない。俺の視界に入らないようにしているというか俺の後ろ側に回って俺が逃げ出さないようにしているのかもしれない。
先程見かけた時はポンチョ、いやローブじゃなくてそうそう、この地ではバーゼナといったものをすっぽり被って中の服装は窺い知れない。
彼のお面は目の周りだけを隠す感じで口元だけは見えた。しかし口の周りは無精ひげがびっしり生えており、表情というか口元の姿を伺い知る事は服装と同じように出来なかった。屋外にも人が居るようで小声で何か連絡を取り合って、俺が逃げる隙は何処にも無かった。
こうなれば体力勝負の持久戦となるので体を休める為に座っていた荷馬車の荷台に横になり俺が被せられていた茣蓙を掛け布団にして横になって寝ることにする。
いざという時に睡眠不足でフラフラというのはいただけない。なにか手馴れた物で妙に落ち着いてそんな行動に出てしまう。
普通なら震えながらこれから俺をどうするの? とか、命だけはお助け~っといった行動に出て寝るどころじゃないと思うが伊達にこの4ヶ月ほどこのアラレスティ大陸で過ごしていない。
こんな状況より恐ろしい事は山ほど体験していた為に何故だか妙に落ち着いていた。って、言うよりは半ば諦めた状態で、今更じたばたしても仕様がないといったほうが正解かもしれない。
俺が茣蓙を被って寝始めたので飯を食っていた子分は気が緩んだのか妙に流暢に話を始める。
「いや~兄貴?! このまま上手く行くんですかね? 兄貴は大金入ったら何に使うんですか? おいらは新しい鍬を買って、馬車もほしいですね! あっ、大陸を旅するのも良いな~‥‥‥」
取らぬ狸の何とやらで、見た目は猫であるが、彼は金が入ったら夢があるようでべらべらと話し始める。まあ、暢気というか間抜けというか。
こういう奴なんかは真っ先に始末されるのがセオリーなんだけど‥‥‥。大丈夫かな? 終いには兄貴分に黙れと怒られてシュンとなる始末である。それにしても夜動いた方が距離を稼げるし闇にまぎれて逃げ切ることが出来るはずと考える。そんな俺の疑問をあほな子分がご丁寧に兄貴分に聞いてくれる。
「それにしても兄貴? なんで今動かないのですか? おいらは夜目が利くし結構飛ばしても大丈夫ですよ?」
「馬鹿か?! それは手筈を説明する時に話したろ! 夜は音が響く。特に馬車なんかすっ飛ばすとそれだけで相手に探られてしまう。少しは頭を使え!」
またもやシュンとなる子分は口を噤む。まあ、その通りかもしれない。石畳なんかは馬車の音を反響させて結構でかい音を立てるのかもね。それに夜中に馬車をすっ飛ばすと返って怪しまれるか?
昼間なら誰もゴダ芋を運ぶ荷馬車なんかには興味が無くなるのが人間の心理かと何か納得してしまう。ちょっと、自分の探査術で周囲を探ってみることにする。
目を瞑って意識を集中して水面を思い浮かべる。俺は半径10m前後しか分らないので本当に回りだけなのだが‥‥‥。3人だと思っていたら結構周囲に人が居るようで6人までは確認することが出来た。
チョコチョコとこの建物の周囲を警戒しているようでゆっくりだが周囲を探っている物も居るようだった。
こうなったらいよいよ逃げ出すことは出来ないと諦めてしまう。彼等は俺の臭いまでも利用して敵というか捜索者をかく乱しているのでこんな間抜けな俺が逃げ出しても直ぐに掴まるだけだ。
それに今は手足を縛られる事は無く結構体が自由なのだが、逃げ出す素振りなんかしてしまうと縛られたり痛い思いをするのは勘弁してほしい。今は隙を窺う事しかできない。
何か俺だという証拠をどこかに残してそれを手繰って俺まで到達して貰うか、彼等の隙を衝いて逃げるしかない。できれば人が少ない場所よりは人が多い所で人ごみにまぎれるように‥‥‥。そんな事を考えながら気が付けば寝ていた俺であった。
☆ ☆ ☆
「こちら方面にはそれらしい物は感じられませんわね~。ではあちらをやってみようかしら? 三段構えでやるわよボフボーニャさん?」
「何で私がこんな事しないといけないのですか、良い師匠? あいつは大事な良い師匠と添い寝までした奴なんですよ? 私はもう疲れました~」
「そう? じゃ今度の査定では貴方は二番目以降に下がっちゃうかもね~。何せ査定する人物が目の前にいるのですよ?」
「え~、あいつの下になんかにいたくはありませんよ、良い師匠~~。分りました。今度は『八線』をやって見せますよ! ちょっと時間が掛かりますが直に魔素陣を地面に描きます。いつもなら土属性で書きますが今回はちょっと複雑なので頑張って描くので‥‥‥」
『いいから早く書け!!』
ペルジャーネからデウシーに急に変わった彼女に言われて、ボフボーニャはブツブツ文句を言って膨れっ面をしたかと思うと地面に巨大な魔素陣を描き始める。
中々複雑な魔素陣のようで半時ほどその陣を描くのに要してしまう。やっと陣を描き終わると陣の中心に立ち魔素陣を発動させる。陣の文言が順に光って行き周囲の円がより一層に黄緑色に光りだすとボフボーニャを中心に四方八方に黄緑色の光りが飛び散る。その間もボフボーニャは目を瞑って陣の中心に立ち神経を集中させている。やがて疲れ果てたようになってその場に跪く。
「良い師匠~、20箇所ほど怪しい所を見つけましたがその中はどちらもあいつは見えませんでしたよ~。流石に半径500メタは疲れますね。どれも農家の方というか厩みたいな所に居て怪しいのですが、今のここら辺はゴダ芋の収穫真っ盛りで夜遅くまで作業して納屋で馬を世話をしているかもしれないし、全部を探るとなると何日もかかりますよ?」
そう疲れ果てて文句を言う彼女達の様子を見に来たジョルジョネ大尉は「ご苦労様」と、ねぎらいの言葉を掛けて、差し入れで持て来た果実を彼女等に渡す。真っ赤な赤梨の実を彼女らに渡すと自らもそれを手にとって食べ始める。
「まったく持って手際が良くて驚きです。私達も油断をしていたのもありますが、まさか作業をしている時に攫われるとは思っても見なかったですよ。
一応警戒はしていたのですがまんまと陽動に引っかかってしまってメルディム護衛分隊長はそれに引張りまわされた挙句、下っ端を三人程捕まえて肝心のそいつらの頭には逃げられたようです。その100人以上もの大人数で陽動をかけるとは相当資金力がある連中ですよ?
そうすると貴族連中でも数が限られてきます。二、三心当たりがある貴族はを当たって貰っているのですが中々尻尾を掴ませないようです」
すると、リョウジの対貴族護衛を任されていた中尉達がその話し込んでいる大尉とペルジャーネの周りにやってくる。
「大尉の言う通り、改めてリョウジ殿に面会を求めてきた貴族を調べましたが怪しいのはこの表に書かれている人物でしょうか?
色々と実家に問い合わせた結果この人物なんかは背格好が全然違いまして、別人がこの貴族に成り代わってどうやら我々の内情を調べたようです。それに態々、日付をずらしてまで他の別人が来たようなので、実行犯辺りにリョウジの人相を確認させる為に会わせた可能性があります。
そうしますと、相手が貴族という可能性が薄れてまた違う団体というか集団の事を考えなければなりません。あらゆる可能性を考慮して非常線を至急半径1000メタで中に入る町や村、それに集落をしらみつぶしに捜索する手配を進言いたします!!」
「待った、待った! まだそれには早すぎる。返ってそんな事をしてしまうと敵の思う壺だよギュレイジーナ中尉!! 態々俺等が探していますよって宣言しながら探すものだ? 敵に俺らの動きを教えるだけで何の成果も上がらないだけだ。
ここは前後の中隊と連携して探すしかない。それに俺等の前方には3個以上の中隊が目を光らせているのでその中隊を追い越して進むとは考えにくい。同じ速度で進むと俺は考える。それに後ろも同じように3個以上の中隊が同じように俺等を囲むように進んでいるのだからな。
そうだな~‥‥‥。俺ならそれらの中隊を追い越さないように進みつつ後ろから来る中隊に抜かれないように大きな町。う~ん、ここからだと俺等の行き先のゴルムディア辺りまで行って町の人ごみにまぎれて俺等を撒く事を考えるけどな。
そうすれば、それぞれ中隊の斥候に引っかからずに過ごせる。すると、その俺等というか中隊を監視する為に俺等の周囲を監視する人物を探した方が早いかもな!!」
「しかし、大尉?! 西側の山脈を抜けてそのまま海岸線を下って南回りで我等を出し抜くかもしれませんよ?! 街道はありませんが旧道や獣道に密猟や密運送なんかの細い道は結構ありますから。早く手配しませんとそれらの道を通って抜けてしまいます」
「待ってくれ! その事は皆が考える事だと君は思わないかね? 君が考える事は敵も考えると見ていい。今はここら辺はゴダ芋の収穫で大小の馬車が街道を行きかう時期である。俺ならその封鎖の裏を書いて堂々と俺らと同じ道を通ってゴルムディアに向うがな。それも堂々とすればするほど俺等は気が付かないと思う。
一台一台の馬車を調べるとなると、これも骨折りである事には代わりが無いがな。先ずは同じ方向に向かう荷馬車は監視程度にして、俺等とは逆方向に向う荷馬車は要注意である」
「いや、大尉は同じ方向に向う馬車に注意と言いましたが何故通り抜けようとしたり違う方向に向う荷馬車なんですか? それなら街道を封鎖して検問した方がよろしいと私は考えます。そのほうが理にかなっています」
「だから、そんな考えだから相手に読まれ安いといっている。我等は敵の裏の裏をかかなければならない。一般的な考え方をすると今回のように出し抜かれてしまう。敵が頭を使う奴ならそれに合わせて我等も動かなければならない。それに一応向うには人質も居るからな、手荒い事になって万が一敵を追い詰めすぎるとリョウジの命の心配をしなければならない。
それらしい荷馬車を見つけ次第監視して、行き着く先を見極めた後に包囲殲滅するのが決まりだとは思わないかね? それに金で動く連中なら大金ぶらつかせてその隙にって事もありえるだろ? だからそれまではめぼしい物に唾をつけていつでも手を出せるようにしたほうが楽だとは思わないかね?」
「はぁ、流石に現場指揮官は奥が深くて勉強になります。ではお手並み拝見と言いたいところですが、私共も一応軍人です。何もしないで見てる訳にはいけませんので何をすればよろしいでしょうか?」
「まあ、名前を騙った貴族の背後関係と、そのなんだ。名刺の入手先を調べた方がいいかも知れんぞ! もしかしたらその名刺を作った所から背後が判明するかも知れん。俺はそういう事に長けていないので、その。中尉達の手をそこら辺の所から手を借りたいのだがね?」
そうジョルジョネ大尉が彼女等に言うと最初は不満顔であったギュレイジーナ中尉らは暗くなっていた顔つきがぱっと明るくなって自分達の仕事を全うする為に自分達の指揮車に向ってしまう。それとは対照的になんか疲れた表情をしたジョルジョネ大尉はペルジャーネらにお願いをする様に話し始める。
「っと言う事なのですが。多分リョウジに関しては探査術は役に立たないと思いますよ? きっと探査を無効化する結界か、探査の魔素術を受け流すように耐魔素陣でも張り巡らせています。あいつに就けた首輪が反応しないからね。よくもまあ、あの強力な首輪の魔素力を抑えているものだと感心しますよ。まったく無反応という事でした。軍本部に問い合わせて分った事ですがね」
「あらまあ、そうなの。だから途中でおかしな反応がしたのかしら? そういう事なら流れに乗って変な動きをする荷馬車を探してみるわね」
「はあ、そうなんですが今やっても無駄だと思いますがね? 多分やつ等は農家の納屋や厩に入ってじっとしていると思います。それに陽動を大規模にしてくるようなので荷馬車を探査するのもどうかと思います。
貴方だから言いますけど相手に探られないよう敢えて軍内部で騒がないようにしています。騒げば奴等の思う壺ですからね。何も無く通常通りにして俺等の前に居る中隊や後ろの中隊に連絡してあります。
彼女等が心配している最西端側の街道にも活動している中隊は五万と居るのでそれを追い越して南下するのは考えにくいと私もそうですが上司もそのように考えています。
一応はゴルムディアで網を張っていますので心配は無いと思いますが。馬車の速度を考えますと10日ですが、恐らく俺らと連動して進んでは立止まって速度を合わせていると思いますので馬車を探すよりは俺等を監視してる怪しい奴を探ってくれるとありがたいな~‥‥‥」
『まったく回りくどい奴だ! 素直にこの中隊を監視する変な奴を探せといえば言いものを! あ~、分った分った~。それらしい奴を見つけたらおめぇに知らせるよ! あ~くたびれた。寝るぞボフ公!!』
「えっ? 寝るのですか? えへへ、それなら良い師匠と変わってくださいよ~~」
『馬鹿いうな! ペルはさっさと先に寝てるぞ!』
そういって自分達の指揮車に向ってその場からいなくなる彼女達を眺めながらジョルジョネ大尉は引き続き話を続ける。まるで独り言を言っているのかと思われたが違ったようだ。暗闇に隠れていた人物に向って今までの経緯を話し始める。
「っと言う事なのですが先生! 結構遠くまで探索していたようなのですが何処まで行ってらしていたのですか? この時間まで戻ってこないから心配しましたよ」
そういい終わると普段とは違って黒装束を身にまとったミリクナが暗がりから顔を出す。素早く着ていたものを脱いだかと思うと裏返しにして何時ものような白装束の白衣姿に戻る。
「貴方も狸よね! 態とでしょ?! 怪しい貴族が会いに来たのでそれを知った上でリョウジに会わせといて。それに内情を見せておいて今度は態と誘拐させるとは‥‥‥。万が一リョウジに何か遭ったらどうするのよ! まあ、どうせ古狸の命令なんでしょうがね!」
「分っているのなら皆まで言わなくてもいいでしょうに。俺だって彼の事は心配なんですけど! 上の命令じゃ逆らえないですよ。で、彼は元気にしてましたか?」
「ええ、とっても元気でしたよ。晩御飯を食べて悪態をついて寝ていましたよ。まあ、よくもここまで性根が座ったというか肝が太くなったというか。以前に比べて大尉のように図々しくなったようですよ。まあ、あの状態で眠ることが出来るのだから当分は放っといても大丈夫だと思いますわ!」
「じゃあ、先生が戻ってきたら駄目じゃないですか? あっ、代わりはもう潜らせているのですか。なんだ、組合も一枚かんでいたのか。どうりでそっけない返事だったからおかしいとは思っていたけど。まあ、これでゴルムディアまで変に安全というか。返って順調に彼をゴルムディアまで運んでくれるようで安心しました。
俺等は探す振りして彼等を追いかけるようにゴルムディアまで行けばいいのですからね。まあ、精々出し抜かれないようにお願いしますよ?」
「貴方がた軍がまたへまをしなければ問題ありませんよ。あ~、疲れた。それじゃ戻りますね。良い夢を!」
そういうとミリクナは自分の指揮車に戻る。ジョルジョネ大尉はその後姿をただため息をして見送るだけであった。
☆ ☆ ☆
あ~、あれからどれだけ経ったか分らないが早朝に叩き起こされる。昨日と同じようにうつ伏せにされて被って寝ていた茣蓙を再び上から掛けられその上に芋を乗せられる。少しは荷台を中空にして俺に負担がかからないように細工した荷馬車を作れないものかね? そんな悪態を囁きながら動き出した荷馬車に俺は揺られる。
まあ、粒が大きいゴダ芋のお陰で多少は力が分散されて痛いというほど重くは無いのだが、それでも結構痛い。馬車を乗り換える時は思いっきり背伸びをして体を解す。いい加減、何回馬車を乗り継するのかと呆れてしまうがさすがに誘拐犯に文句を言う訳にはいかない。これ以上待遇が悪くなると困るからね。
それにしても、どこに向っているのやらここら辺の地形に詳しくないから一体全体どこに向っているのか分らない。早朝は飯が当たらなくてそろそろお腹の虫がなって来る。
早朝から4回ほど乗り継ぎして、次の時に林の影で乗り継ぎをしようとした時にカッチカチの鋼板みたいなパンのようなビスケット? 乾パン? らしき物と水を与えられる。
せめてお湯ならばそのお湯に浸して食べるのだが水だとその固いパンに中々水が浸透しない。同じように手下の連中も文句を言わないで黙々とその硬いパンを食べ、俺には無いが干し肉のようなものを噛みながら雑談している。30分程休憩のような事をして俺は別の荷馬車に乗せられる。
またかよと、文句を呟きながら同じ格好になって荷台に上がる。それにしてもアラレスティ王国の軍隊って言っても笊だよね~。これで二度目だよ? 俺が攫われるのは。
普通、俺が要人というならしっかり守ってほしいものだよ! 内心腹が立ってくるのだが本人達が目の前に居ないので文句を言っても仕様がないのだが‥‥‥。
暇な移動の間にいろんな事を考えるのだが夕方というか暗くなるまで後何回か馬車の乗換えを行った後に昨晩と同じように何処かの建物の中に入って外の様子を窺いながら俺に晩飯を与え、トイレを許してくれる。
まあ、日中は大した物を与えてくれた訳じゃないので出るものも余り出なかったのだが。さすがに二日連続オジヤは飽きてくる。でもまあ、文句を言える立場じゃないので黙って食べるのだが。俺を観察している子分を見ながら与えられた物を食べる。この間抜けに自ら話すように仕掛けてみるかなと考える。
「いや~しかし、ますます故郷の味に似てますね? この味噌は何味噌ですか?
ちょっと塩辛いような感じなのですが」
「農民が食べる味噌は力仕事するから塩が効いているだけだよ。いいから黙って食え!!」
「お金は貰えたのでしょうかね? そうなれば俺は売られるだけか~‥‥‥。短い間でしたけど割りと美味しかったですよこれ」
「うるせぇ! ゴルムディアまでお預けになったんだよ! いいから黙ってそれを食っちまえ!!」
そんな風に怒った所で彼の兄貴分に頭を叩かれる。
「おめぇこそ、黙ってろこのあほが!!」
ああ、思った通り間抜けな奴で助かった。そうなのか。昨日の奴が現れなかったのか? それともまた違う奴に俺を売るということなのか? そういった所であろう。
誘拐って犯罪は一番割に合わない犯罪である。誘拐される側を取引相手が生きたままを望めば尚更である。時間が立てば経つほど犯人側の内情が人質にばれてしまい。万が一解放された時には自分達が捕まる可能性が上がってしまう。生死を問わずであれば話は別であるのだが‥‥‥。殺されないよね俺?
そんな事を考えながら与えられた物を食べて水を飲む。便所に行く事を宣言して子分が後ろから付いてくる中、建物の隅の桶に用を足す。まあ、用を足す所を見られて嫌な気分になるのだが、俺が嫌なように俺を監視している彼も僅かに目をそらす。
その瞬間というか偶々落ちていた釘のような5cm程の古釘を見つけて手に握る。いざという時の武器にはならないが証拠というか俺が居たという証拠を残すのに木の板なんかに俺の居た証拠というか所在していた証拠を残すのに役立つかもしれない。何かスパイ映画のようだとドキドキしてくる。それを用を足した時に着ていたジンベの襟首辺りに潜ませる。
何事も無かったような表情をして俺が乗せらた荷台に上がると昨日のように横になる。まるで奴隷旅団所属中隊に居た時と変わらぬように何時ものように探査術を使ってその後は茣蓙をかけて眠りに付く。
そんな生活が十日も続けばパターンというか行動に規則的なものを見つけてしまう。何故そんな事が気になったというと、日付を忘れないように納屋のような所で拾った色んな物を道具にしていたからだ。
その日付に関して拾ったワラを一日経つごとに結び目をつけている。曜日感覚というか一応今が誘拐されて何日目か直ぐ分るようにしている。そうしないと暇で暇で可笑しくなりそうだ。精神を正常に保つ為にもそういった小さな事をしている。
それらは相変わらず俺に対してはゆるいというかヌルイ監視体制で見つけたものである。そんな奴等にお前等大丈夫かと言いたいのだが、さすがにその場から逃げ出せるほど彼らは間抜けではなかった。
話は戻るが、そのパターンはなんか奴隷旅団所属中隊と同じように3日動いたら3日動かないといったように何処か奴隷旅団所属中隊と連動して動いているようで、最初こそずっと動いていたのに気付いた時にはそんな感じに行動しているようである。
そこでジョルジョネ大尉がいっていた事を思い出す。俺等の奴隷旅団所属中隊の前後を挟むように別の中隊が連動して動いて居る事を。そうか彼らを追い抜かさないように中隊と中隊の間を昼間動いて行動しているのかと納得する。
更に日にちが経つと次第にゴルムディアに近付いているのか、外の人通りというか荷馬車の行き来が激しくなってくる感じであった。その状況はボロな荷馬車の荷台の隙間から観察することが出来た。
それに普段の事を思えば、奴隷旅団所属中隊で食べていた食事は結構いいものだったようで、今俺を攫った人達の食生活を見ると可愛そうになってくる。村や集落の近くになってくると肉らしい物を与えてくれるようで彼らと共に焼いた肉を貪るようにして食べる。
あ~、何とかシンドロームってのが頭を過ぎって来る。誘拐犯と長く共に過ごしていると情が沸くといった奴である。大半の住民はこんな粗末な物を食べているのか? 奴隷になればあんな良い物を食えるとは、まるで逆さまである。
普通は奴隷になって飯が食えるか食えないかの状況になるのであって一般民衆はもっとマシな物を食っていると思うよ? 相変わらずおかしなアラレスティ王国だね?
そんなある日に、何時もの夜に何処かの建物で晩飯を貰って食べている時に例のあほな子分が愚痴をこぼしていたのを耳にする。まあ、例の如くその後兄貴分に頭を叩かれていたのだが。その子分が言うことには明日ゴルムディアに着くという事であった。
そうか明日ゴルムディアに着くのか、懐のワラの結び目は20を数え、明日になれば誘拐されて21日目か2日目である。誘拐され日を入れれば22日目でゴルムディアに着く事になる。
思えばこちらに着てから半年ぐらい経ったのか~。長くて短いようなそんな気分であったのだが、まさか目的地に誘拐されて着くとは思っても見なかった。
着いたらすんなり解放というか誰かに売られるのか? それともやっと俺を助けてくれるのか分らないが‥‥‥。美味い飯が食いたい。
それにプイホンさんは心配しているのだろうね~‥‥‥。勉強が中途半端になってしまったな。ごめんねプイホンさん。なんだかしんみりしてきて何時ものように茣蓙を被りながらそんな事を考えて探査術を使った後に寝てしまう‥‥‥。あっ、早く風呂にもはいりたいです。そんな事を呟いて目を瞑る。
翌朝、何時ものように叩き起こされると建物の横の用水路のような所に連れて行かれて、その用水路の水で体を洗えと命令される。
まあ、真夏のように暑い気温なのだが早朝はやはり寒い、泡沫石まで置いてあるのだが‥‥‥。もたもたすると怒りそうなので覚悟を決めて着ていたものを脱ぐと手桶を取って用水路の水を汲む。
それを一気に被って体をぬらすと泡沫石、石鹸を泡立て体を洗い始める。用水路の水は結構暖かくてそんなには冷たくは無かった。俺の覚悟を返してほしい。考えれば真夏に近い気温が連日続いているのだよね。
体を洗ってスッキリすると、先程まで着ていたものとは別の服を着るように言われる。よく見るとジョルジョネ大尉らが着ていたものと似たような軍服であった。
首を傾げながらそれらを着ると若干大きめなのかぶかぶかしていたが問題ないようで、その、俺がしている首輪が上手く隠れるように大きな服なのかと思う。丁度首輪が隠れるように詰襟も少し大きなものであった。終いには鬘まで被れといわれてしまう。茶色の髪質の鬘を被って真っ赤なベレー帽を被される。
その後、急かされて外に待たしてあった指揮車のような箱馬車に載せられる。箱馬車の中は指揮車と同じような作りなのだが、何かが違う。上手く似せて作ったのかもしれない。俺を挟むように両側に同じような軍服を着た人物に挟まれて座らされると、わき腹に刃物のようなものを当てられる。入り口から入って見られても見えないのが上手い。
その後、動き出す箱馬車に揺られながら説明というか命令のようなもをされる。
「おかしな事をすれば直ぐにわき腹から鮮血が出るぜぇ! お前は黙っていればいい。今日のお前はスペンサー大尉だ!! 呼ばれたら声を出さないで頷くだけでいい。分ったな?」
思わず「はい」と返事をしてしまい、わき腹の刃物をつんつんされて怒られてしまう。それにしてもスペンサーって何処かで聞いた事があるような無いような名前だな。そうしていると箱馬車が止まってまたちょっと動く、それを何度も繰り返して何をやっているのか疑問に思っていると、突然この箱馬車の扉をノックする音がして俺の右横の奴が扉を開ける。
「ようこそゴルムディアへ。貴官の姓名と身分、それに御用向きを賜る」
「こちらはスペンサー大尉である。王都から特別の任務を仰せつかってこの地にやって来た。早急にここを通して貰いたい。これは国王陛下直々の命令である!!」
そういって懐から上等な羊皮紙を出して相手というか門番なのか? そいつに見せる。
「幾ら国王陛下のご命令と言われましてもこちらも規定通りの任務でありましてご容赦を!!」
門番というか係官の人というか、彼は指揮車の中に入ってきて中を見渡す。中に入っている人数を確認しながらあちこち叩いて調べだして、まあこんこんと五月蝿いのだが‥‥‥。最後に俺のほうを見て敬礼をする。
まあ、ここの変な敬礼なのだが。左手を胸に当てる奴だ。それをやり終わると失礼しましたと言って外に出ていこうとするのだが、中に居た皆がほっとした感じになったところで急に振り返って俺の顔を見て話し出す。
「あれ、スペンサー大尉? そういえば何処かでお会いしましたよね? 確か王都の療養所で‥‥‥。その、隣に寝ていた私ですよ?」
そんな事を言われても意味が分らない。それは別人か‥‥‥。ただ困惑するだけの俺であった。
次話へつづく
へっ?。こんな良い所で終わりなの?
そんな事をいわれて困惑するが仕方がない。
黙って4章が来るまで待ちますと、誰かに返事をする俺であった。
この回で4章は終わります。
ここまで飽きずに読んでくれた方に感謝します。
次話は閑話が3話ほど続きます。
その次話は3/6木曜日の夕方に投稿する予定です。




