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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第3章 平穏な日常に飽きてくる年季奴隷 》
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<3-24> 「悪夢再び?  (後編)」

最新の本文修正日は2014年12月26日です。

 探査術を覚えた時のように手紙ハトゥーを使って再び力尽きた俺ですが、人の夢の中に入ってくるのは反則だと思います。


 そんなプライベート空間というかプライベートタイムというか。そんな所に押しかけてくるのは非常識です。と、言ったものの、一体誰が押しかけて来たかと聞かれても俺に分るはずも無かった。


 内心、エッチな夢を見ていた時じゃなくて良かったと、後で胸を撫で下ろす俺であった。






 俺は首を傾げながら自分が寝かされていたミリクナ医務長の個室から食堂に向う。その道すがら、夢の内容を必死に思い出そうと巧み見るのだが一向に思い出せない。


 今まで見た夢。嗚呼、悪夢の方だがそれとは何処か違う感じで、上手く表現できないが悪夢ではないよう気がする。そんな感じである。すると、廊下の途中で俺の癒し係のプイホンさんが朝の挨拶をしてくる。




 「おはよ! 兄ちゃん!! また倒れたんだって? 皆には内緒だよ?」




 そういって両手に持った焼きたてのプイの姿焼きの一つを俺に差し出して来る。そして、俺は廊下の隅の方へ連れて行かれる。彼は彼なりにこの俺を心配して朝取れたてのプイを捌いて焼いて来たのかもしれない。


 あ~、果報者の俺!! ありがたくそれを頬張って食べてしまう。それを見たプイホンさんはニコリと微笑んだように見えた。その後に一緒に朝食を食べ、一号馬車まで一緒に歩き癒しを補充する。満タンには程遠いが仕方なく何時ものように道具袋を持ってミリクナ医務長の指揮車に乗り込む。



 今回はあらかじめプイホンさんには今日の移動する時の問題用紙を渡しておいた。朝渡しておけば彼が判断して移動の時に必死に問題を解くに違いない。なにせこの中隊の予定が俺には分らないからね。


 以前、ジョルジョネ大尉らの指揮車に乗っていた時は仕事が終わり次第解放されてプイホンさんの顔を拝めたのだが、こちらの指揮車に乗ってからは中々プイホンさんの顔を拝めない。



 そんな事を考えながら日記を開いて昨日の出来事や今朝の出来事を書いて始める。その日記を書きながら後ろの席をチラ見すると、何時ものように朝方はボフボーニャさんがペルジャーネさんを独占して後部座席で二人で話し込んでいる。


 一体何を話し込んでいるのか気になるが、ボフボーニャさんに近寄るとまた機嫌が悪くなったり、ダダをこねるように俺を責めて来るかも知れないので近寄りがたい。


 なので一番前の席の3人掛けの席に座って他人に見えないように日記を書いている。二人掛けの席にはマイネンスさんが座っていて俺が日記を書いていると覗かれるのもなんだか嫌なので、今は3人掛けの席に座って端の隅の方で丸くなって日記を書いていた。


 日記を書いている途中に出発の合図がかすかに聞えて指揮車は動き出す。そういえば今日は移動のはずなんだが‥‥‥。前までは気軽に聞けば大体の予定を教えてくれたのだが、最近というか竜巻に遭遇してからはなんか中隊の行動予定とかの説明が無いのは気のせいかな?


 「あの~、ミリクナ医務長? 今日は移動日ですよね? また三日ほど移動して次の馬車町か村に行くと思うのですが?」




 「ん? そうよ。何時もと同じじゃない?」




 そんな会話をしていると陸ハトゥーの時と同じような何かの視線を感じてしまう。まあ、陸ハトゥーの時の恐ろしいような視線じゃないが。


 あ、あの草原に居た馬鹿でかい兎に好奇な視線で見られた感覚に近い。俺の様子を覗き見るような感じである。つい、視線の先に自分の視線を移してしまい、ミリクナ医務長に不振がられる。




 「また、何か近付いてるの?」




 「いや~、結構遠くの方だと思うのですが。なんていうか覗き見られている感じなんですよね~」




 「そう? ゴルムディアまではまだ一月近くかかるけど‥‥‥」




 そういって黙ってしまうミリクナ医務長は何か気付いた感じになってニヤリとしたかと思うと、俺の肩を叩いて言い放つ。




 「あんまり気にしすぎじゃないの? それより、また手紙ハトゥーの練習でもしたら? 陣を発動させないで陣を書く練習をするのも魔素術を理解するのに役立つわよ!」




 「はあ、そうですか」と、いう返事しか俺には出来なかった。日記を封印してから道具袋に仕舞うと替わりにわら半紙を出す為にガサゴソ漁っる。


 いざ、わら半紙を出すと心ここにあらずの状態で魔素陣を書く練習をする。あ~「コンパス」あったら便利じゃね? ガルボルテ工作長にでも作ってもらうか?


 それとも手紙ハトゥー用の判子なんか作っちゃえばいいのかな? 直径10cm前後の判子となると結構がさばるな~と、そんな事を考えながら手紙ハトゥーの陣ではなくそれを書く為の道具の絵を気が付けば描いていた。



 一通り道具の絵を描いてから、何故だか指揮車の中の風景をスケッチしていた。なんていうか勉強する時に何故か机の上の棚が雑然として、それが気になってしまい勉強には身が入らないでいつの間にか棚を片付けるというそんな感じであった。


 なんというか探査術の時は術の発動時間と身体にかかる負担というか、疲れが何となく比例している。今では何となく制御でき、気を失わないようにセーブでいているので気にはしていなかったのだが何となく気になっている事がある。


 それは、新しく覚えた手紙ハトゥーや魔素陣を発動させる時、力のセーブの仕方が今一分らない。それに陣に書く文言に関しても結構いい加減な感じがして本当にこれで良いのかも俺には分らない。


 そんな陣がまかり通るなら偶然に書かれた文字なんかが誰かの術に反応して陣があちこちで発動し放題じゃね? そんな小さな疑問が出てくる。



 一瞬、何処かで読んだ言霊信仰の話が頭を過ぎる。言葉には霊が宿っていて、口に出した言葉が実際に起きるから滅多な事は言うものじゃないという話だ。


 ここでは言葉を文字にして陣に書く。書いた陣を発動させるとその事象が実際に起きる。何か似てるな~と、ぼや~っとわら半紙に先程の続きで指揮車の内部の風景のスケッチを書きながら物思いに耽っていると、なんだか眠気がしてきていつの間にか寝てしまう俺であった。



 すると、今朝見た白い空間の中に俺がまた一人ぽつんと座っていた。



 とうとう、転寝をしている時にも夢を見るのかと半ば呆れてしまったが、自分の夢なので仕方がない。これから何が始まるのかと思うと回りが急に自分のアパートの近くの公園の風景になる。


 あれ? これはデジャブー? これと同じような感じの風景というかシチュエーションで今朝うなされたばかりなんだけどな‥‥‥。


 また、誰かが俺を見ていないか周りをキョロキョロするが誰もいない何時もの公園であった。夕方のようで西日が眩しい。何時も座っていると、公園にやって来る猫さん達。その猫さん達迎えるベンチに気が付くと俺は座っていた。



 嗚呼、このベンチはあんまり座りたくないのだけどな‥‥‥。このベンチに座ったお陰でこっちに来たような。そんな事を思っていると二匹の何時もの猫が擦り寄ってくる。



 嗚呼、擦り寄ってくるのだけど。なんかサイズが違うんだよね。プイホンさん並みに大きな猫が俺に擦り寄ってくる。まあ、それはそれで良いのだけど‥‥‥。「今度はこういう感じで来たのか」と、どこか冷めた感じの俺に対して公園の遊具の影から舌打ちする人物が現れる。




 「チィッ、もう気が付いたか」




 出てきた人物が猫の着ぐるみを着ているのは気のせいであろうか? 顔だけ出ていてあとは猫の着ぐるみである。まあ、贅沢言うともっと露出が多いほうが良いような‥‥‥。あっ、俺の考えている事は彼女に分るのだったけ?


 「いやいや、俺の世界の猫はこんなに大きくは無いので一発で分っちゃいますよ。今朝は途中で中断されたので文句を言えなかったのですが。貴方は私がこれから一体何をするのか分っていらっしゃるのですか? それとも貴方が私に何かをさせるのが目的なんでしょうか?」




 「おや、今度は質問攻めか! お楽しみを今話しちゃうと面白くないじゃないか!! っと言いたいのだが流石にわらわにも先の事までは見えぬわ!


 いや、なにその。暇なんでそなたの様子を見に来ただけじゃ」




 どうやら暇つぶしに俺の夢の中を見に来ているらしい。こいつ友達いないのか? 

 そんな事を思っていると急に彼女は怒り始める。




 「妾にだって友人の一人や二人おるわ!! まあ、皆先に逝ってしまったがな‥‥‥」




 そんな事を呟いたかと思うと急に辺りが真っ白くなって行く。しかし、かすかに彼女の声がして「また来るからな!!」っという声だけが何か反響して鬱陶しく感じたのは気のせいであろうか?


 そんな猫の着ぐるみを着てしんみりしても‥‥‥。王女としての威厳が微塵も感じられれなかった。



 気が付くと俺は指揮車の中の簡易ベットの上に寝かされていた。酷く汗をかいたようでジンベの袖で汗を拭うと今まで見ていた夢の内容を思い出せなくなる。何か鬱陶しい事だけは覚えているのだけど果たして何が鬱陶しいかったのか思い出せない。



 俺が起き上がると俺の様子をマイネンスさんが見るが、直ぐに身体的にはなんとも無いのを見抜いてミリクナ医務長に代わってしまう。




 「酷くうなされていたようだけどまた悪夢?」




 「いや~、それがですね。なんていうか思い出せないのですが。この前というか竜巻の時の前の晩に見た夢ではなく。嗚呼、なんていうか。今のは鬱陶しいというか面倒くさいというかそんな夢でした」




 すると、腰に手をやったミリクナ医務長は小声で「王女様にも困ったものね」と言い放つ。


 王女様? はてどこかで聞いたような‥‥‥。そういえばこれから向うゴルムディアに住んでいるという魔王の娘の王女殿下の事か?


 え~~~、魔人族まびとぞくってそんな事も出来ちゃうの? 他人の夢に入り込んだり、他人の記憶を覗き込んだりとやりたい放題の事をやったのか?


 そんな事を考えているとメルディム護衛分隊長やペルジャーネさんの話していた事を思い出す。この大陸には現人神あらびとかみが居る事を。嗚呼、神様だから何でも出来るのね。何か変に納得してしまってなんだか馬鹿らしくなってくる。そうか、召喚者である俺がどんな奴か夢を使って覗きに来たのか。



 まあ、そこら辺は人族の貴族様と変わらないというか庶民らしいというか。俺が考え事をしている間にミリクナ医務長は前の席に戻って何かの書類? 手紙か分らないがスラスラと羊皮紙に文字を書いてそれを折り畳むと陣を書いて手紙ハトゥーにして何処かに飛ばしてしまう。俺が不思議そうにしているとミリクナ医務長は理由を話してくれる。




 「折角、体を休める為に寝ている人の邪魔をさせないようにお願いを王女様に届ける為の手紙ハトゥーよ! あの方は暇人だからこちらの都合なんて考えないのだから! 貴方が寝る度に悪夢のような夢にうなされたい?」




 俺が首を横にブルブル振るとまた話し出す。




 「だから、せめて夜中や貴方が熟睡している時に邪魔をしないようにお願いをしたの。このままでは四六時中貴方が寝ている時に夢に出てきて貴方の熟睡を邪魔するかもよ?! まあ、この手紙が届いて謁見するまでは当分貴方を見に夢枕に立つと思うわ、あの()()王女!!」




 どうやら俺の安眠を邪魔しないようにしてくれるらしい。それはそれでありがたいのだが‥‥‥。それにしてもどんな人物だったか思い出せないのはなぜなんだろうか?



 そんなやり取りをしていると指揮車が止まって周りが賑やかになる。どうやら今日の野営地に着いたようだ。なんというか、朝から転寝していたのに夕方までガッツり寝ていたのか? ‥‥‥。一日損した気分になる。


 俺らの会話を聞いていたペルジャーネさんはそんな損した気分の俺に対して「貴方も災難に良く会うわね」と一言。そう言ったのだが急にデウシーさんに変わると「あの王女とは関りたくねぇから」と冷たく突き放される。最後に追い討ちを掛けられた感じになって結構俺は落ち込んでしまう。


 それにしてもデウシーさんはよほど王女が恐ろしいというか畏怖する存在なのかもしれない。まあ、俺はそんな事構わないけどね。この俺に害が無ければだけど‥‥‥。あっ、あるか。悪夢のようにうなされて熟睡できなかったんだ。



 指揮車から外に出ると、何時ものように皆が野営の準備をしていた。俺は慌てて紙漉きの準備をする。プイホンさんにお願いして桶や馬の水のみ台に水を入れて貰い色々と準備する。


 準備が出来ると焜炉の上に鍋を置き、スイッチを入れたまま晩飯を食いに配膳の列に並ぶ。丁度俺の二人前にガルボルテ工作長がいたので後で話があると言付けをする。魔素陣の為のコンパスか、芋版のような判子を作っても貰う為だ。そのほうが断然早いし色々と応用が利くかもしれない。



 ガルボルテ工作長は二つ返事で晩飯が終わったら工作馬車に来いと言っていた。急いで晩飯を片付け、焜炉の火を一番小さくして昼間に書いた道具の絵を持ってガルボルテ工作長の工作馬車に向う。


 何時ものように工作馬車の荷台の木戸を閉めて二人だけの空間になる。



 「あの~、すいません工作長。いや、最近というか昨日手紙ハトゥーを覚えまして。その、魔素陣を書くのに慣れていないものでこういった道具があると素早く陣をかけて便利かと思いまして。


 『コンパス』。あ、う、じゃ無くて円を描くのにこのような道具だと便利でして。それか『ハンコ』。あ、う、なんていうか二重円と中の三角をあ、『玉璽ぎょくじ』。『印章』。あっ、そう。その印章を使えば手早く出来るかと思いまして。


 本当なら、この前話した『ゴム』を利用すれば耐久性のあるものが出来るのですが。まあ、印章は金属や別の素材でもいです」




 「ふむ、これは俺らの言葉で『ケルチョック』というのだが。まあ、金属や木の板に罫描きの時に使うものだから、リョウジの漉いたわら半紙には向いていないな~‥‥‥。あっ、そうか。これにエンピッツを取り付けるようにすれば良いのか。すると、あんまり大きな物ではなくてもよいな?」




 「まあ、紙に書くのはそうなんですけど。実は地面に描く時にも利用したいと思いまして。杖のように普段持ち歩いて使う時に開いて地面に円を描けたら、何か便利だと思いませんか?」




 「ほう、それはまあそうなんだが。まあ、よかろう。二、三日待ってくれ。大尉にも相談しないといけないからの。印章は確か何処かの雑貨屋に手紙ハトゥー用のが売っていたと思ったので注文しといてやる。確か大きさは八十メル((mm))だったかの? 代金は給料から引いて貰う様にしてもらうからな! ワシが作るものは金は要らんが売っている物を注文すると、ほれ。金が要るからの!」




 八十メル((mm))? はて、確かメトの下がメルだから8cmぐらいか。ああ、それぐらいが丁度良いのかな?


 まあ、確かにそうだ、何でもかんでも無料とは行かないですよね?


 「はっ、はい。宜しくお願いします。あっ、その。私の給料で払えるものをお願いします。余り高いと、その払えないので」




 「おう、任しとけ!!」




 そういってガルボルテ工作長は何かメモ書きをしていた。俺は彼にお辞儀をして工作馬車から去る。急いで紙を漉かないと寝る時間が無くなる。急いで自分の馬車に戻ると煮立った鍋を下ろして何時ものように紙を漉く準備をする。


 鍋から煮上がったワラを取り出して繊維を解す為に木の板に乗せて木槌でペッタンペッタンと‥‥‥。


 何時ものように紙漉きの作業をしていると、若干一名というか二名というか‥‥‥。俺の仕草というか作業風景を凝視する視線が気になってくる。俺がワラの繊維を解し終わってタライに繊維と例の粉を混ぜて紙を漉いていると不思議そうにそれを凝視する。



 一枚目が漉き終わり何時ものように荷台の天井の仕掛けを作動させて木の板を自分の手元まで下げると木の板に今漉き上がった濡れた紙を貼り付ける。もう、その一つ一つの動作までも凝視していた。ペルジャーネさんかデウシーさんであった。手元の光りからではよほど側に行かないと今の彼女がどちらの彼女なのか分りかねる。




 『へぇ~、おめぇが使っている紙ってそうやって作るのか?! どら、俺にもやらしてみろ!!』




 あ~、俺としてはさっさと作業を終わらして眠りたいのだが‥‥‥。彼女は24時間戦う人である。まあ、大げさであるが寝ないという噂なので俺の都合なんかは考えていないと思う。


 まあ、一応俺の魔素術の先生なので仕方なくやり方を見せて彼女に紙漉きをやらして見る。結構手先が器用なのかすんなりと均一な紙を漉けたのは驚いた。言葉遣いががさつなので手先もそうなのかと思ったのだが、考えてみればこれより複雑な魔素術を屈指するのだからそちらの方も才能もあるのかもしれない。



 彼女は紙漉きが面白いのか、調子に乗って何枚も何枚も漉いていた。そこでボソッと紙漉きに夢中の彼女にある事を聞いてみる。



 「あの~、なかなか上手いですね~。まるで職人みたいですよ! 驚きましたよ!」




 『あたぼうよ!! 俺ッチは天才なんだぜぇ!! 魔素術だって何だって直ぐにこなして見せるぜ!!」




 「はあ、そうなんですか? それでデウシーは夜は寝ないのですか?」




 『おう、ん? あ、ああ。その、なんだ。ちょっと恥ずかしいなって呼ばれるのは!」




 「先生よりの方がよかったですか?」




 『ん? いや、師匠はあのボフ公がペルに使って紛らわしいから「先生」がいいな!!』




 「それで何故夜に寝ないのですか。いや、そのですね。人族って言うのは。あっ、人族の体ですよ。その体は夜の睡眠時に休めるべきなので一応心配っていうか不思議というか。特にその余り言いたくは無いのですが、年齢と共にその睡眠不足は体、あ、「ビヨウ」に、あ、う。その美しさに関係してくるので気になったもので‥‥‥」



 我ながらなんとも歯切れの悪いというか何を言っているのか分らないというかそんな質問になってしまった。彼女は紙を漉きながら鼻歌混じりにと、いうかまるで俺が勇気を出して質問した事が聞えていない感じなのだが‥‥‥。




 『秘密だ!!』




 その一言だけ言って暗闇に消えてしまう。ああ、先程まで使っていた俺の大事な道具を放り投げたままである。なんていうか飽き性なのか?


 自分の年齢と彼女いない歴がイコールな俺には女の子というか女性の気持ちというか、そんなものは良く分らない。女心が分ってあげられる人間というか、男なら当に彼女の一人や二人は出来ていたのかもしれない。



 彼女が投げ捨てた道具を拾い上げ残りの紙を漉き終わると何時ものように紙漉きの溶液を樽に移し変え樽を抱えて料理馬車の所まで行く。偶然というか偶々というかカルマイネさんが欠伸をして荷台に上がる所に遭遇してしまう。一瞬体が硬直してしまう。まあ、それはお互い様のようで彼女も同じように固まっていた。彼女を驚かさないようにそっと声を掛ける。



 「あっ、あ、あの、リョウジです。い、何時もの奴を冷蔵型魔技箱に仕舞ってほしいのですが。その、あれでしたらその魔技箱の前に置きますので入れて置いてくれれば、その‥‥‥」



 そういって震える彼女を余り刺激しないようにそっと樽を置くと三歩ほど後ろに下がる。彼女は震えながらも頭を上下していたので理解してくれたと思う。もう五歩程後ろに下がってから頭を下げて宜しくお願いしますというと、恐る恐る俺の樽を抱えて料理馬車の側面にある冷凍用魔技箱に入れてくれる。俺はそれを確認すると彼女が驚かない程度の小さな声で「ありがとうございました」と、言ってその場を去る。



 ここまで慎重になるのは過去の毒物テロのお陰というか教訓というか。そのお陰であった。料理馬車から離れると、後片付けを済ましてようやく寝床に潜り込む。


 何時ものように寝る前に探査術を使うと、やはり探査距離が伸びている事を実感する。指揮車から出入りする波紋を感じ取る事が出来た。心地よい疲労感に浸ると何時ものように寝入いってしまう。



 気が付くと、今朝から見ている例の白い空間に佇んでいる。またかと思うのだが‥‥‥。あれ? 俺は何回もこんな夢を見たのかと疑問符が浮かんでくる。


 良く分らないまま、瞬きした瞬間に気が付くと俺が居た所の現場事務所の中であった。俺は机に着いていて、ノートパソコンらしきものに触っているのだが‥‥‥。何かがおかしい。木製のノートパソコンを見たのはこれが始めてである。キーボードまで木製なのだが‥‥‥。書いてある文字がめちゃくちゃである。



 隣には、現場が竣工する前にいなくなったはずの主任が机に向って一生懸命仕事をしているし、その斜め横にいる所長も机に向って難しい顔をしていた。あ~、こんなシーンを何処かで見たような‥‥‥。おまけに竣工間際に辞めていった後輩君までいるではないか。少し離れた所の机には確か事務員のお姉さんがいたはずなんだが。何時も俺をごみを見るような視線で刺して行く彼女も今は机に向って仕事をしていた。



 あれ? 窓から見える風景は真っ暗で夜なのか? いやいや、夜なら事務員のお姉さんは帰るでしょ?! そういうとまた何処からか舌打ちする声がする。




 「チィッ、やはりそなたは中々の洞察力の持ち主じゃの? もうばれてしまった。」




 いやいや、何の事か分らない。あれ、昼にもこんな事があったような‥‥‥」




 ようやく何かがあった事を思い出すのだが‥‥‥。何か腹立たしかったような。あれ? 何に腹を立てていたんだ?



 俺に話をかけてきた人物を見ると事務員のお姉さんの格好をした何かであった。何かというのは思い出せないからであって、良く考えるとメルディム護衛分隊長達に良く似ているが、髪は漆黒で唇が真っ赤なルージュでも使っているのであろうか?


 彼女の姿を舐めるようにというか、じっくり下から上まで何度も見直すのだが顔を見る時に彼女の目を見上げようとすると何故だか視線が動かない。口元までは普通に見上げる事が出来るのだがどうしてもそれ以上見上げる事はできなかった。




 「何をやっておる?! そういえば妾の身の上を告げておらなんだな! あっ、まあいいか。どうせ起きたら忘れているし。それでそなたの机に乗っているこれは何じゃ? 真似ようとしたのだが記憶があいまいで良く分らん!」




 「はあ、それはノートパソコンですよ。それで書類を書いたり整理したり『シャシン』の整理にも使います。あとは建物の施工図。ああ、設計図のような図面を書いたりする事ができますよ」


 何故だか俺は彼女に聞かれた事を素直に答えてしまう。一体どういう事なのか良く分らない。もうこうなったらどうとでも成れ状態である。


 そのノートパソコンの話から室内にあるものを一つ一つ指差しては俺は彼女の質問に答えて行く。まるで、体というか俺の意思が縛られているが如くである。何か抗えない状態の中、俺は引き続き彼女の質問に次々に答えて行く。


 次第にその隷属状態に嫌気のような物を感じてきて、どうにか出来ないものかと考え始める。色々ともがく内に誰かに頭を叩かれた感じになって急に自我が自由になり始めた感じになる。


 我ながら何故だか分からないが急にその抗えない状態から解放される感じになって、体の自由が利くが如く意思の自由も戻ってくる。そんな自分に驚いてしまったのだが急に意思が自由になった途端に俺を質問攻めにしていた彼女が舌打ちする。




 「中々やるのそなた。今日も面白かったぞ!! そろそろ帰るかな」




 「ちょっと待ってください!! そのなんていうか、一応私は生身の体でして、その勝手に夢の中に入ってこられても困るのですが? 体の疲れを取る為に睡眠を取っているので安眠妨害ですよ?!」




 「あ~~、五月蝿いの~。分った分った。また今度な!!」




 嗚呼、本当にに分ってくれたのかは疑問であるが彼女が面倒くさそうにそういうと、周りから白んできて真っ白な空間になる。気が付くと指揮車の中で揺られて寝ていた俺であった。


 汗だくになりながら目が覚めた俺は何時ものようにジンベの袖で玉のような汗を拭う。そこで何時ものように何にうなされていたか分らなくなる俺であった。




 次話へつづく

次話は2/25火曜日の夕方に投稿する予定です。

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