<3-22> 「手紙ハトゥー始めました (後編)」
最新の本文修正日は2015年2月6日です。
自分の体の中でとんでもない事が色々起きていると知らされた俺ですが、それが良い事なのかは自分では判断できない。
俺の意識の奥底に見知らぬ他人が居ると言われたり、生誕属性が二つになって全属性が操る事が出来るが実際に使えないとか。
まあ、他人は言いたい事ばかり言って本人の気持ちは我関せずだよね。ジョルジョネ大尉なんかは選ばれた俺が羨ましそうな語り口で俺に話していた。
それに良い師匠の弟子のボフボーニャさんには羨ましがられて、何故だか恨みを買ったようです。「代われるものなら代わって欲しいよね?」と、そんな事を考える俺であった。
次の日、昨日と同じように何となく何時もの時間に目が覚める。悪夢はあれ以来見ないようで嘘のように何もなく目が覚める。
それに別人格が俺の心の中に現れる事は無かった。シャイな奴なのか? そんなあほな事を考えてテントの中の仲間に朝の挨拶をする。
何時ものように剣の素振りをして、仮想敵の中尉達と頭の中でイメージしながら対戦して体を動かす。昨日の重たかった体とは打って変わって今日は体が軽く感じられて調子が良い。訓練が終わって朝飯も美味しく食べる事ができた。
仮設食堂の後片付けを手伝うと、道具袋を持って指揮車に乗り込む為に向う。すると、海人族の長、チャモイヌさんが俺に声をかけて来る。
「短い間であったが内の奴がお主を気に入ったようだ。あのように気持ちよく我等の歓待を受け、尻ごみせずに我らの食するものを残らず平らげた者は久しぶりであった。
また来るといい、黒髪の勇者よ。我らの祖先が受けた恩は返しきれぬもので、こんな物でしかお主には返せない。どうかこれを身に着けてはくれぬか?」
そういって青白い500円玉ぐらいの平べったい丸い石に革紐が通してあるペンダントのような物を俺に渡してくれる。
「いやいや、私は何もしていませんよ? それに勇者はもう何百年もの前の人族ですし、直接私とは無関係ですが? それに高価そうな物をタダで貰うわけには行かないですよ?」
俺が躊躇していると、無理やり俺の腕を掴んで手の平にその青い石を載せてくる。困惑している俺に構わずそれを握らせる。そして、徐に革紐をとって俺の首に回して首に下げさせる。
困った俺は今持っている道具袋の所持品の中から、わら半紙の手帳数冊と鉛筆数本を変わりに彼に渡す。使い方を説明して鉛筆を削って紙に書いてみせると、彼はたいそう驚いてこんな高価そうな物を貰って良いのかと逆に俺に尋ねてくる。俺は頷いて彼に貰った青白い石のペンダントの代わりだといって彼に握らせる。
そうこうしているとゴナベル奴隷長の出発30分前の声が聞えてくる。すると、チャモイヌさんがまた俺に話し始める。
「海で困った事が起きた時はその石を見せるといい。大抵の海人族はお主の望みを無償で聞いてくれるはずだ。但し、本当に困った時にしか使ってはならぬぞ! では、お主の旅に幸が大からん事を!!」
そういって俺に対して手を振って見送る。俺は首をかしげながらもそれを眺めつつ、彼にお辞儀をして指揮車に乗り込む。それにしても、ただ出された物を食べただけなのにお土産まで貰うなんて‥‥‥。まあ、貰える物は何でも貰う主義なのだが、あの時も試されていたのか?
指揮車の中には何時ものメンバーが定位置に座って、中に入って来た俺を見る。扉を開けてくれたのはマイネンスさんであった。
今朝はペルジャーネさんのようで、ボフボーニャさんと何か話し込んでいた。俺はデウシーさんに代わらないと彼女と話が出来そうも無いと諦め日記を付けることに専念する。
昨日の出来事や先程貰った青い石を懐から出して眺めては思い出したように色々と記述して行く。青白い石は半透明で魔素結晶の欠片のように綺麗な宝石のような石であった。中に何か入っているようで指揮車の中のランプに照らしてみたが小さすぎてよく見えない。
まあ、海で困った時には使えば良いといっていたので大事に懐に仕舞う。革紐だと思った紐はどうやら違ったようで良くわからない紐であった。何か高そうな物を貰っちゃっていいのかな? それにあんな鉛筆やわら半紙と交換してしまって良いのかなと首を傾げてしまうが今更であった。
そして、ペンダントの絵を日記に書いたところでいきなり首から提げていたペンダントの紐を引張られる。デウシーさんであった。いい加減ボフボーニャさんとの会話に飽きて突然彼女に代わって俺の様子を見ていたようだ。いきなり引張られたので首筋が紐によって擦られて赤くなる。やけどしたかと思ったが一応は大丈夫のようだ。
「あの? デウシーさん? 行き成り引張ると紐が擦れて首が痛いですよ?」
『‥‥‥』
俺の声は聞えていないようで真剣にペンダントを見ている。やがて飽きたのかペンダントを俺に戻してくる。
『良いもの貰ったなリョウジ!! それは滅多に貰える物じゃないぞ? あの海人族に気に入られたか?! 一体どんな手を使った?』
「いや~、どんな手と言われましても。昔の黒髪の勇者に御世話になったお礼を今の私が貰う事になって困惑しているのですよ。それに無料で貰うのも悪いので、私が漉いたわら半紙の手帳とエンピッツを渡しておきました」
『ふ~ん。で、早速手紙ハトゥーの使い方を教えてやろう!!』
切り替えが早くて自分の思った事にしか興味が無いようだ。相手のペースの事なんかは無視するようで腰のポーチから羊皮紙と筆記用具を出して俺の左腕を引張り前のテーブルのある席まで引張られる。
前の席にいたミリクナ医務長を無視して彼女の横に座ると、俺にはマイネンスさんの横に座れと促す。躊躇していると舌打ちまでしていきなり膝カックンされた感じに何かの力の影響でマイネンスさんの隣の席に強制的に座らされる。
ずいぶん強引な人だなと内心思っていたが、デウシーさんに文句をいえるほど腹が座った俺じゃない。彼女の言われるまま、されるままテーブルに置かれた羊皮紙を見る。
彼女は筆に墨をつけると小指を軸にして、羊皮紙を回して起用に筆を持って直径10cm位の円を書き始める。一つ目の円が書き終わると、その円の中にもう一つ小さな円を小指を軸にしてまた書き始める。そして、その二重の円の中に正三角形を書き足す。三角形の中にはどう見ても漢字で「風」と書いてある。
『いいか? 手紙ハトゥーは風属性の魔素術が基本になっている。それに無属性の事象属性と速さの事象を司る光り属性の魔素術を併用して三角と内側の円の開いたところに「無」と「光」と書けばこの魔素陣は半分完成した事になる』
「いやいや、あのですね? そもそも私が聞いた魔素術の属性って『火』、『風』、『水』、『木』、『土』の五属性しか聞いていませんよ? その他にも三つの属性があるのですか?」
『チッ、そこから説明しないといけないのか? 面倒だな~‥‥‥』
「いやいや、面倒でも説明していただかないと理解できないのですが‥‥‥」
こっちは魔素術の初心者ですよと、突っ込みたい。それに魔素陣の場合は属性が増えるというのも始めて聞いた。そんな俺の不安そうな顔を察したのか、急に瞳の色が銀色に変わりデウシーさんからペルジャーネさんに変わる。
「仕方がありませんよね~。リョウジはヒノモトの国の人族ですから魔素術は初めてなのですよ、デウシー?
では説明しますよ、リョウジ!!
魔素術単体で使う場合は五属性しか使えないのがこの世の中の決まり事というか魔素術の基本です。残りの『無』『光』『闇』は魔素陣を形成する時にしか使えません。この三つの属性を『無効属性』といい『無効属性』以外を『効力属性』というのよ」
「はあ、その無効属性を使うと複雑な魔素術を使う事が出来るということですね?」
「そう、『無属性』は主に効力属性を誘導したり他の無効属性を操るのに使う事が多く、『光属性』は効力属性の速度なんかを速めたり調整するのに使う事が多いの。最後の『闇属性』は空間を利用する事象を起こす時に使う事が多いのよ」
「ああ、じゃあ。魔技箱なんかは闇属性を利用しているのですね?」
「まあ、そうね。でもその他にも複雑な事をやっているから今ここでは説明しきれないわ。まあ、そういう事で魔素陣を使う時にはこの無効属性を上手く使って手紙を届けたい相手に届くように魔素陣を発動させるのよ。
それでね、ここから肝心な事なんだけど。大きい円と中の円の間には呪文めいた事を書かなければならないのよ。これが結構難しくてね。個人によって文言が違う場合があって、先ずはそれを探す事から始めないといけないわ!
因みに私の場合は『風よ~、私の思い人にこの手紙を至急届けておくれ~』ってな感じかしら」
そう言葉に出してスラスラと円の間の空間に文字を書いていくが、実際俺に見える言葉は違っていて俺にはこう見える。
「我命じる。風属性を使用して、無属性と光属性を使いこの手紙を思い人に届けろ!!」
何か凄くストレートに見えてこんなんで本当に手紙が届くのかと突っ込みたい。すると、その文言を書き終わったペルジャーネさんは左手を翳して書いてある通りの文言を今度は口に出して魔素陣を発動させる。
言葉を言い終わった後に陣の文字が順番に光りだして、まるでこの前の竜巻を消した巨大な魔素陣のように最後に外周の円が黄緑色に光りだして不意に手紙がひらひらと空中に浮いてしまう。
その手紙が何処に行くのかと思うと俺の目の前に降りてきて手元で止まってしまう。すると薄っすら黄緑色に光ってその光りが霧散する。
「別に文言を口に出さなくても良いのよ。一応手本を見せる為に見聞きさせただけだから」
「あの~、陣を発動させる時に魔素術の動作をしなくても良いのですか?」
「あら、ごめんなさいね! 私は動作をしなくても『集』や『圧縮』それに『発動』は出来てしまうから気にしていなかったわ!」
あ~、この人も天性の何かを持って生まれた人なんで、凡人が何で出来ないのか分らないのかもしれない。俗に天才は人にものを教えるのには向いていないと聞いた事がある。
「そういえば、この手紙ハトゥーは一回会った人物じゃないと使えないと聞いたことがあるのですが?」
「そうよ! 一回会った人物じゃないと、魔素陣を発動させる時に手紙を届ける相手の容姿を思い浮かべる事ができないじゃない?」
そうだよね~、見ず知らずの人に手紙なんかは書かないよね? それにどこに住んでいるか分からない人物に手紙なんか送れないのか。ああ、この国に住所という概念があるのかも分らない。一回会った事がある相手の顔を思い浮かべるのか~。面倒くさいな。まあ、ダイレクトメールなんかが来ないのは便利かもしれない。
「では、先ずは二重の円を書いて中に正三角形を描いてごらん?」
そういわれたので、道具袋から自分で漉いたわら半紙を数枚出して鉛筆を出してデウシーさんがやったように小指を軸にして紙を回して器用に円を書いてみる。我ながらフリーハンドで何となく円が描けてしまう。
「あの~、ちょっと気になる事があるのですが? なんで丸の中に三角形を描くのでしょうね? 私が見た事のあるのは三角形を上下逆にして重ねた星のような奴や、一筆書きの星をを思い浮かべていたのですが?」
「あら? 貴方の国にも魔素陣のようなものがあるのかしら? それは興味深いわね~‥‥‥。三角形は人族が使える魔素陣での属性が3種類と決っているからなの。
伝説では貴方が言ったような六芒星や五芒星を使う陣があるようなのだけど。人族では3属性以上は扱う事は出来ないわ。かの救国の賢者がそれらを使っていたという噂があったけど。実際に文献として残っているのはその三角を使用した物だけよ。
まあ、三属性以上を使う事が出来るのは王国に数える者しかいないわよ。それでも五属性が限界で八属性全てを同時に扱って制御できる者っていったらその救国の賢者か、後は人ならざる者。そう『神』しかいないわ」
「はあ?! 前にも聞きましたがこのアラレスティ大陸に目に見える神が居るのですか?」
「あら、神っていうのは目に見えるから有り難いのでしょ? 目に見えない神なんかを信じるのは創世大陸の何とか教徒ぐらいよ?
貴方は知らないかしら? 千年前の大陸消失事件の話を? あんな事が出来るのは神ぐらいじゃないかしら?」
「いや~、千年前の話ですよ? えっ?! まだご存命で?」
「当たり前じゃない!! 神なのよ? 年なんか取るはず無いわよ?!」
「いやいや、おかしいでしょ? 千年ですよ? ‥‥‥」
そういってしまったが、そういえば森人の寿命が人族の10倍といっていた事を思い出す。あ~、千年ぐらい在りなのかもしれない。もしかしたら万年単位の種族が要るのかもね。
さすが異世界、何でもある。
「ひょっとして、あなた達が魔人族と、いっている人達の事ですか?」
「もう、そんな事まで知っているのね。 その人達はあの森人や獣人に神と崇められているのよ。実際、彼女の側に行くと威圧感が半端無く恐ろしいのよ‥‥‥」
そういって彼女は振るえ出した。すると、唇が真紅になって今度はデウシーさんが表に出てくる。
『おめぇな~! あれは化けもんだぜぇ~! この俺もさすがにびびっちまう存在だ! だから本当はゴルムディアなんかには行きたくねぇ~んだよ!!』
「まあ、無駄話は良いですからさっさとその陣を完成させて御覧なさい!」
再びペルジャーネに戻ってきて驚いてしまう。まあ、くるくると人格が入れ替わりせわしない人だ。言われた通りに陣を完成する為に三角を書いた後にその中に「風」と描いてあいている円弧の場所に「無」と「光」と書く。そして、文言を俺が見えた文言を書いてみる。
「我命じる。風属性を使用して、無属性と光属性を使いこの手紙を思い人に届けろ!!」
そう書いて、今度は魔素術の動作をして左手を描いた魔素陣に翳すと、なぜだかわら半紙が燃えて黒焦げの燃え殻になる。一体何が起きたのか分らないのだが‥‥‥。
『馬鹿か、おめぇは?! こんな小さな陣にその馬鹿でかい魔素力を込めたら暴走するのは当たりめぇだろ! もっと魔素力を小さくしろ!』
なんだか知らないが、出力の調整を間違えたらしい。そんなつもりは無かったのだけど‥‥‥。新たな紙を出して再び同じ魔素陣を描いて今度は力を制御するようにちょっとだけ魔素を集める感じにやってみる。
すると、今度は上手く行ったのか魔素陣が仄かに黄緑色に光って、ペルジャーネさんのように文言が順に光だし周りの円が光り出すとわら半紙がフワフワ浮いて空中に浮いた。
そのままフワフワと行くように思っていたが空中で一旦止まったわら半紙が急に勢い良く指揮車の壁に突き刺さる。丁度、ミリクナ医務長とペルジャーネの体の間の壁にあの柔らかい紙が刺さっているではないか。
『おめぇ!! 俺を殺す気か?! おぅ!! 殺るなら今すぐ決着をつけてやろうか?!』
そういってすごんでくるデウシーさんの顔を見て思わず顔が引きつってしまう。なんで壁に突き刺さったのか俺には理解できない。
「どれどれ~、なんて書いてあるのかしら? ‥‥‥。リョウジ、幾ら何でも光の速さで思い人に手紙を届けろというのはいただけないわよ?」
どうやら翻訳首輪に齟齬があるのか分らないが、俺が書いた文言は彼女が読むと違う風に見えるらしい。ひょっとして俺が彼女の文言を読んだ時も実際は違うのか? ‥‥‥。分らない。
「それにしても二回目で相手に手紙が飛んでいくのは凄い事ね!」
そういったのはそれぞれの横に座っていたミリクナ医務長とマイネンスさんであった。振り返るとボフボーニャさんは後ろの席でブスッとして膨れっ面の状態で俺のほうを見ながら舌打ちしていた。
「そう、だから自信をもっていいのよ。貴方は凄いのよ。さあ、今度は‥‥‥」
そういって突然ペルジャーネさんからデウシーさんに変わる彼女がニタ~っとイヤラシイ表情になると、自分の後ろを顎で示してジョルジョネ大尉に手紙ハトゥーを送れと言っているような雰囲気になる。
「え~? 大尉にですか? まだ上手く制御できないし、危険では無いでしょうか?」
『でぇじょうぶだ! 奴は武人、ちょっとやそっとの事では驚かないぜぇ?!』
そういってニヤニヤして俺を促す。仕方なく内容は「手紙ハトゥー始めました」と、短く書くと宛名をジョルジョネ大尉様と書いて送り主をリョウジと書く。それを畳んで魔素陣を書く。今度はペルジャーネさんが口に出した言葉を文言として書いてみる。
「風よ~、私の思い人にこの手紙を至急届けておくれ~」と、いったように書いてみる。
先程と同じように魔素術の動作をする時に魔素を調整して巨大にならないようにイメージをして陣を発動させると、不思議な事に今度はひらひらと空中に浮かびそのまま覗き窓から外に飛んでいく。
暫くすると出て行った覗き窓から違う紙質の手紙ハトゥーがひらひらと飛んでくる。俺の目の前に降りてくると、手元でパタリと落ちてくる。織り込んである和紙と思われるそれを開いて中身を確かめる。中身はジョルジョネ大尉から「おめでとう」と、一言書いてあるだけであった。
それを見たデウシーさんが舌打ちをする。彼女が期待した事はどうやら起きなかったようだ。それになんだか三回目で成功して拍子抜けしてしまいほっとしていると、なんだかどっと疲れが出てきて目眩がしてくる。
まるで最初に探査術を覚えて際限なく使った時のようで、終にそのまま目の前のテーブルに突っ伏して気を失う俺であった。
☆ ☆ ☆
「あらら~、やっぱり落ちちゃいましたか。初めてにしてはよく出来たようだけど。それにしても陣は使えたようなのだけど、素では使えないのよね? 魔素術は‥‥‥」
「はぁ、そこら辺は良く分っておりません、ペルジャーネ筆頭!」
突然畏まって話をしたのはミリクナであった。彼女はペルジャーネ筆頭宮廷魔素術使いに対して報告をするかのごとく話し始める。
「彼は一体どういう事なのか私達はお手上げ状態でして。その胸の魔素結晶の欠片についても同様でして。その時に仕入れたゴダ芋の件で、その芋の取れた場所まで判明していますが、いたって普通の組合の農場でして怪しい所はありませんでした。
それに魔素結晶の欠片を一度見た大尉に聞いたところ、いたって普通の魔素結晶の欠片の粒でした。それが突然彼の体内に取り込まれたのが不思議でしてこんな事は初めてです。マイネンス補佐にも体内を走査させましたが、いたって普通の魔素結晶の欠片でこれと言って不思議な事はありませんでした。この前まではですが‥‥‥」
『やっぱあれじゃね? 奴の中に隠れている奴がやったんじゃねぇ?』
「その件につきましては私達には分りかねます。ですが、もしかしたらというか、別の件の話になりますが一つ解決したというか納得したというか。もう一人の召喚者の件でして」
「嗚呼、消息不明の? 学院までは連れて行く事が出来たというか、そこから忽然と消えた彼女の件ね?」
「はぁ、その彼女も同じように別人格が関っているのではないかと考えます。そうでなければ迷宮のような学院の隠れ部屋から忽然と姿を消す事は不可能です。また、最初の召喚者の件も説明できる事かと。このリョウジが突然生誕属性が増えた事を考えますと、火属性を使えない山蜥蜴種があのような惨事を起せる訳がありません。
以上の事を考察しますと、今回の召喚者に共通して言える事は召喚者の中に別人格が同居というか入り込んだのではないかと思われます。そういう事で今回の指令とは別にこの中隊に合流する事を命じられたのではないでしょうか?」
「ちょっと待ってください!! 私達が合流したのは偶然ではないのですか師匠?」
突然話に割って入ってきたのはボフボーニャであった。彼女は信じられないといった表情で師匠のペルジャーネを見る。
「特殊な事情で貴方はこれ以上聞かないほうが良いと思いますが、それでも聞きますか?」
そういってペルジャーネはボフボーニャの目を見て彼女に問う。ボフボーニャはゆっくり頷き彼女達の話の中に入る。先程の膨れっ面とは打って変わって真剣な表情で師匠達の話しに聞き耳を立てる。
「確かにリョウジの中には誰かが存在しています。辛うじてですが私には感じました。それにリョウジは一回現実というか夢のような所でその人物を目撃したといっていましたから。ああ、本人は夢で起きた事なので気にはしていませんでしたが覚えていたようですよ」
「私達は魔素術でそちら方面には詳しくは無いので分らないのですが、他人の心の中に別人格が住み込むというか入れ替わるというか、そういった術があるのですか筆頭? 私は聞いたことは無いしマイネンス補佐もそんな術の話は聞いたことは無いといっていまして‥‥‥」
その話を聞いたペルジャーネは暫く目を瞑り考える。そして、突然目蓋を開けた時にはデウシーのオレンジ色の瞳に変わっている。
『まだなんともいえないぜぇ~。分らない事だらけで。もっとこいつを観察しないと分らねぇ! 少し時間をくれ!』
「分りました。そのように組合には報告いたします。それに大尉にも同じ内容を報告します。また何かあった時には宜しくお願いします、筆頭!!」
『あっ、そろそろこいつ。目を覚ますぞ!!』
☆ ☆ ☆
なんだかおでこが痛くて目が覚めると今日はテーブルに突っ伏したまま放置されたようで、おでこを撫でながら体を起す。すると、この指揮車のメンバーが一斉に俺の表情を見ているではないか。あの俺が嫌いになった感じのボフボーニャさんまで俺を見ていたので一瞬たじろいでしまう。
「あの~どれくらい気を失っていたのでしょうね? それに三回ほど手紙ハトゥーを使っただけなのにあんなに消耗するとは一体どういうことでしょうか?」
全員の視線が注目していたので彼女達に質問する俺であった。
次話へつづく
次話は2/20木曜日の夕方に投稿する予定です。




