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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第3章 平穏な日常に飽きてくる年季奴隷 》
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<3-19> 「年季奴隷と海人族  (前編)」

最新の本文修正日は2014年12月20日です。

 一つの体を共有している竜巻女こと、二つの人格であるペルジャーネさんとデウシーさんに困惑する俺ですが、彼女の過去を色々と聞くと才ある者にも色々と悩みというか俺には窺い知れない事情のような物があるようです。


 若くして頂点に立った彼女は奢ることなく日々旅をして何かを見つける為に生きているのかと想像してしまう。だって、宮廷魔素術使いの頂点なら王宮でふんぞり返っているよね普通は。


 そんな新たな仲間というか同じ指揮車の同居人である彼女の魔素術が発動する時のネオンのような綺麗な魔素陣などは、さすがに頂点を極めるにふさわしい華麗で綺麗な光であった。


 その彼女達は魔素術だけではなく、体捌きも一流のようで、波打ち際から攻撃してきた触手を見事に全てかわしてしまう。更にはその触手を切断して殺気を放ってその触手の主を追い返してしまうではないか。


 その切断した触手を今度は投げ捨てるような魔素術で俺の所に飛ばしてきた彼女はゆっくり歩み寄って来るのであった。そんな彼女に青くなる俺であった。






 彼女の表情が確認できる所まで来た時、何故だか俺は言い訳じみた事を話してしまう。


 「あっ、あの、いや、その。覗き見るつもりは無かったのですが。その綺麗な光に見とれてしまって。つい、最後まで見てしまいました」




 「あら、貴方も見えたの?」




 『俺のは綺麗で格好良かっただろ!!』




 「話には聞いていましたが同じような能力を持つ者に会ってしまうとなんだか嬉しいわね~」




 『で、どっちが一番綺麗だった?』




 はあ? 言っている意味が分らない。どっちが何をやったかなんて分るはずも無い。あの攻撃を防いでいた時も、入れ替わり立ち代りしていたのか?


 今の会話のように‥‥‥。分るはず無いだろ?


 「はあ、そういわれましてもどちらも綺麗で言う事無しでしたよ」




 『チッ』




 「あらあら、いじけてしまったわ。貴方も、これを食べる?」




 「はあ、美味しいのですか?」




 「どうかしら、久しぶりに食べるから忘れてしまったわよ」




 そういうと目にも止まらない早業で砂まみれの触手が一瞬で水洗いされる。次に空中に小さな竜巻のような物が触手を持ち上げながら浮かんでいたかと思うと、その小さな竜巻が一瞬赤く光って浮かんでいた触手君をこんがり良い匂いの食べ物に変えてしまう。


 いつの間にか出したか知らないが、白い砂浜に砂のテーブルが設置されていて、その上に白砂の大皿が置かれている。小さな竜巻が消えると、その大皿の上に焼かれた触手君が置かれるではないか。っと、いうよりはふんわりと大皿に載せられるという情況だ。その白砂のテーブルにはご丁寧に箸置きと箸、それに取り皿までが置いてある。全部陶器か磁器製かと思うばかりの艶やかで、まるで焼き固めたような物であった。



 俺はその様子を呆けて見ていたが彼女は構わずにテーブルの箸を取ってそれに手をつけようとする。その一瞬に丸焼きの触手が細かく一口大に刻まれる。その刻まれた一欠片を箸でつまんで口に入れるともぐもぐ咀嚼する。


 彼女は咀嚼しながら何か気に入らなかったようで、その焼きあがってばらばらになった物の上に、腰のポーチのような袋から革袋を出して中から白い粉を摘んではそれらに振り掛ける。


 多分、塩だと思うがそれをかけ終わるとお腹が減っていたのか勢い良くぱく付き始める。それに吊られて俺も食べてみたのだが、塩タコ焼きというかただのタコ足を焼いて塩を振ったものであった。まあ、悪くは無い。



 俺が箸をつけて食べ始めると、横にドンと座る人物が‥‥‥。マイネンスさんであった。




 「美味そうな物食べているからこっちに来ちゃったよ。ほれ、再開の祝杯だ。飲みな、ペル!!」




 「貴方は酒癖が悪いから嫌なんですけど。まあ、仕方がないわね」




 ペルジャーネさんはそういっている割には目が喜んでいる。お猪口というかぐい飲みに入ったちょっと匂いがきつい酒をそんな彼女は一気に飲み干してしまう。


 すると、仄かに頬が赤くなってきてなんだか様子がおかしい。目が据わったというか飲み干したぐい飲みを付き返してきてもっとよこせという感じにマイネンスさんの目の前に置いて催促を始めるではないか。




 「おりゃ~、もっとつがんか~~」




 「はいはい、もっと飲みな!!」




 この人酔うの早すぎ。あっという間に出来上がって来る。すると、とろんとした眼差しで俺を見て何か言っている。




 「あたいの酒が飲めねえのか~~。おう、もっと注げマイ姉!! けちけちすんな~~~」




 酒癖悪すぎである。たったお猪口3杯目で、もうこの状態だ。それにペルジャーネさんは酒に酔うとお淑やかな彼女がデウシーさんのように乱暴な感じになってしまうようだ。すると、デウシーさんは優しい感じになってしまうのか?


 そんな疑問が浮かんでくると、急にペルジャーネさんから人格が替わってしまう。




 『おい、藪医者!! ペルに酒飲ますなよ~、介抱するこっちの身にもなりやがれ!!』




 違ったようだ。先程まで頬が薄っすら赤くなって、ほろ酔い加減の彼女であったがデウシーさんに入れ替わると頬の赤みが取れてしまう。俺はなんとも不思議な現象を目撃してしまう。




 「なんだい、もう入れ替わっちまったのか。お前はざるだから飲ましても面白くないのだけど‥‥‥。まあ、いいか~。酒のつまみもあるしね~。ほら、お前も飲みなよ」




 期待は裏切られる為にある。彼女はざるらしい。杯を重ねるが全然酔う気配がない。俺やマイネンスさんのほうが酔いが回ってきて、フラフラになってくる。


 ふと、周りを見渡すとマイネンスさんのお隣にはメルディム護衛分隊長が座っていてペルジャーネさんが焼いた蛸足を摘んで味見をしていた。「割りと美味しいね」と、メルディムさんは言っていたが後はひたすら酒を飲むばかりであった。




 気が付くと土のドームのような所で一人横になっている俺であった。酒のせいなのか、昨日見た恐ろしい気配が近寄ってくる夢は見なかった。それに、二日酔いの症状も無く晴れやかな気分で目が覚めてしまったのは一応のあの異様な気配が終結したという事であるのか? 分からない。


 もしかすると、あの異様な気配というのはあの竜巻の事なのか? 竜巻って自然現象だよね? またもや頭が混乱してくる。


 ペルジャーネさんが多分あの竜巻を消したのだから、もしかして最初の竜巻も魔獣によって起されたのか? 色々考えたが結局俺には分らない。


 このドームのように俺は何かに覆われていてスッキリする答えは出なかった。光りが入って来る方向に首を動かすと出口があるようでそこから光が漏れてその眩しさで目が覚めたらしい。何時ものようにモヤモヤしながら体を起してこの建物から外に出る。



 外に出ると何時ものようにゴナベル奴隷長を筆頭に訓練をやっているが、俺が外に出た途端にドームが仄かに黄色に光ったかと思うと突然崩れてしまい驚いてしまう。そういえば陸ハトゥーの時の氷魔素術を思い出してしまう。まあ、こういった驚く事が日常にありふれているので今更だが‥‥‥。久々にビックリしたよ!!


 再び訓練の掛け声を聞いて慌てて訓練に参加する為に体を解して、用意してあった道具を身に着けて素振りを始める。やがて、最近やっている3人の中尉達と対戦した時のイメージを思い浮かべて体を動かす。最初よりはスムーズに体が動いて仮想の彼女達の武器を防いで攻撃する動きをして木剣を振り回す。




 「良い様になってきたな、リョウジ!!」




 そう話しかけてきたのはドルバン車長であった。何時も彼は他の年季奴隷達の素振りや組み手を見て指導しているので、偶に俺の格好を見ては話しかけてくる。




 「たまには目の前に人を置いてやってみるか?」




 「いやいや、まだまだですよ? そんな人と対戦できるような技量じゃないです」




 「あらあら~、その割には私とやった時のような動きをしていたようですが?」




 突然声を掛けてきたのは仮想敵の中尉達でリーダー的な位置のギュレイジーナ中尉であった。春上月以来、俺を見学に来る貴族が来なくて結構暇なようで、今日も手には薙刀の形をした木刀を持っている。


 まあ、勝てるとは思えないが何処か試したいというか心の中で誰かから囁かれてその気持ちになって来る。しかし、明らかに俺の実力が違うから3分も持てば良いかなと結局半分諦めのような感じになってしまう。そう、物は試しというかそんな感じだ。


 審判はドルバン車長が入るようで俺と彼女は向かい立って構える。ドルバン車長が始めの合図を言い放つと、想定外の動きを彼女はして来る。この前は長いリーチを生かして少し遠い間合いから攻めて来たのに、今回はいきなり前に突っ込んで近接で勝負をつけるらしい。最初は驚いたが近接はこちらの間合いだ。盾で防ぎながら偶に剣で流したりと最初の方はすんなり交わすことが出来る。


 しかし、基本が出来ていない俺である。次第に防御に行き詰って来て、逃げの一手になってしまう。その中々当たらない彼女の攻撃に、段々彼女自身の苛立ちのようなものを感じてくるのだが‥‥‥。そのお陰でなんだか彼女の攻撃が単調になって来るではないか。


 これは俺のチャンスかと一瞬思うが、もしかしたら誘いのような物で俺が攻撃をしたらカウンターを当てられるかもしれない。そんな事を考えながら彼女の攻撃を裁いていた事に逆に俺は慣れてしまったのか油断してしまう。


 彼女は突然変則的に俺を攻めて、思わず彼女が仕掛けた攻撃に足を取られてふらついた所に切っ先が俺目掛けて飛んでくる。それをのけぞって避けたのだが、結局俺はバランスを崩してしまい倒れてしまう。そこに止めとばかりに彼女の切っ先が俺の喉元の手前で止まる。俺の負けであった。彼女は満足したようにニコリとして俺に手を貸して立たせてくれる。




 「まだまだね~。その様子だと当分は私には勝てないわ!!」




 得意げになってその場を去った彼女に対して取り巻きの中尉達からは「そんなんだから相手が来ないのよ!!」とか「貴方も大人気ないわね~」などと、二人から苦笑されていたようだ。



 ゴナベル奴隷長の解散の声を聞いた時にドルバン車長は「もう少しだったな!!」と、俺を誉めていたのだがホントの所はどうか分らない。まあ、素直に喜べばいいのかな?



 移動の準備の後に朝飯を食っていると朝飯のスープの中に昨夜食べた蛸足の切れ端が入っていた。昨晩の残りを無駄なく使ったようだ。それに今日は海人族の集落に行くそうだから楽しみで仕方がない。


 朝飯後に仮設食堂の片付けの手伝いが終わり、ミリクナ医務長の指揮車に乗り込むと既に皆は乗り込んでいた。何処に座れば良いのか分らなくてキョロキョロしていると、デウシーさんに腕を引張られて隣に座らされる。




 『今日は余り話せないが、移動日は魔素術の基礎をお前に叩き込んでやる!』




 「はあ、宜しくお願いします」



 お願いしますと言った後に言葉に詰まっていると、急にペルジャーネさんに代わってしまいボフボーニャさんが俺と彼女の間に割って入ってしまう。何かその事にモヤモヤしていると、やがて馬車が止まってしまう。海人族の集落に着いたようだ。



 外に出ると野営地近くの砂浜から岩場に変わって、周囲は砂利のような海岸になっている。大きな岩がごつごつと波打ち際に飛び出ていて奥のほうに行くと海と陸地を隔てるかのように切り立った崖が段々と大きくなっていた。


 その切り立った崖に洞窟のような穴がぼこぼこと開いていて、その穴から時々チラチラとこちらを窺うような視線を感じられる。海の中からも同じようにこちらを窺う視線を感じてしまう。



 馬車が止まって一番最初に店を広げたのはガルボルテ工作長の馬車であった。鍛冶道具を広げ、地面に魔素陣を描いて炉のようなものを作り出す。中に魔素陣を描いた鉄板のような物を入れて発動させると赤々と炉の中が輝き始める。


 それを確認したのか崖の洞窟の方からジャラジャラと金物の鍋や釜それに刃物を抱え持ってくる集団が現れる。海人族と聞いていたのに洞窟から出てきたのは体毛が生えた獣人けものびとであった。


 近付くにつれて姿が露になると、彼らというかその姿はラッコであった。もう、それは見事なラッコの体格はガルボルテ工作長と同じぐらいあるので2m以上はあるかもしれない。


 その大きな体躯の腰には腰蓑をつけていて、後ろには少し短い扁平な尻尾が垂れている。それに足が少し短いようでヨチヨチと歩いて、なんだか可愛く思えてしまう。


 家族連れも居るようで少し小柄な子供? そんな小柄なラッコもいて、鍋を頭の上に乗せて順番を待っているではないか。何を始めるのかと見ていると穴が開いた鍋を修理したり、ぼろぼろになった包丁のような刃物を修理して貰うらしい。お代はどうするのかと見ていると綺麗な石や宝石のような物をガルボルテ工作長の目の前に差し出している。


 その綺麗な石や宝石を貰って変わりに生活雑貨の修理をするらしい。洞窟から来た連中とは別に海から上がってきた大柄な集団も列に並んで一人に自分が持っていた三椏の槍を渡して、それも修理して貰うらしい。


 大柄な集団はその槍を一人に預けると、洞窟の方に行って大きく中身がパンパンに入った麻袋を複数抱えてこちらの方に向って来る。その麻袋を置くと代わりに荷馬車の魔技箱から出した丸太を軽々と肩に担いで元来た洞窟に戻って行く。


 あれ? あの丸太ってゴナベル奴隷長達が10人がかりで担いで魔技箱に仕舞ったやつだよね? 海人族も他の獣人族と同じように人族より色々と優れているらしい。



 すると、麻袋を仮置きしている場所に画板を持った二人の少尉を見かけてしまう。アミュネス少尉とユロジェン少尉である。それにギムネーヤ料理長まで一緒にいて袋の中身を開けて確認しているようだ。


 ギムネーヤ料理長の指導の下、中身を仕分けしているようで男性の年季奴隷が指示を受けてより分けた物を天秤棒の計りの様なもので重さを量っているようであった。それをアミュネス少尉らが書きとめ仕分けしているようだ。


 次々に積みあがって行く麻袋はどれもパンパンに膨らんでいた。餞別されて、分別された物は果樹園で収穫した時に使っていた木箱と同じような大きさの木箱に入れられていた。箱には「乾燥貝柱特大、高級」とか「乾燥魚中、普通」など主に乾燥させた魚介類のようであった。



 箱詰めされた海産物は例の倉庫直通の魔技箱で移送されるようで、次々にその魔技箱の前に並べられて行く。そんな忙しいそうにしている皆に対して俺は見学する事しかできない。つい、プイホンさんを視線で探してしまう。彼は仕分けの所で木箱に何かを一生懸命詰めていた。



 暫く周囲を観察していると、誰かが俺を呼ぶ声がして周りをキョロキョロしてしまう。声のする方向に一際大きなラッコの側に立っている人物と目が合う。ジョルジョネ大尉であった。


 呼ばれた俺は急いで彼の元に向かう。向う途中に様々なラッコさん達を観察すると、俺は海人族と言われたのでてっきり半漁人を想像していたが予想は裏切られた。


 それにキョロキョロしながら大尉の元に歩いていった為、この中で一番不審者に見えたと思う。ガルボルテ工作長の列に並んでいた可愛いラッコの子供が俺を指差して、親か保護者と思われる大人に何か言っているのを目撃してしまう。きっと「おまわりさんこいつです」と、突き出されかねない状況だったのかもしれない。


 他の皆は周りをキョロキョロしないで一心不乱に仕事に励んでいたのもその原因だと思う。いや~、余りのラッコの可愛さに、昔水族館でガラス越しにラッコをがん見していた俺はもう少しの所で家族から存在を忘れられ、置いていかれそうになった時の事を思い出す。



 そんな事を考えながら大尉の側に立つ。




 「おっ、リョウジ来たか。こちらはここの集落の長だ。名前はクニャッムイ氏族のチャモイヌさんだ」




 紹介された人物は2m越えで見上げる姿勢の為、首が痛くなりそうだ。しかし、目の前の人物が寝転んでいたなら、絶対にダイブしたくなる。そのぐらい愛くるしい目をした可愛いラッコであった。



 「はじめまして、私はアサガ・リョウジと言います」



 すると、彼は首を傾げる。俺の黒い髪を見て何か考えているようで、いい加減見上げる体制がつらくなって顔が引きつってくる。




 「おっ、お、おまえ。ゆ、勇者か? 髪、黒い。昔、聞いた。俺の先祖から聞いた。勇者、髪と目、黒い」




 俺が返答に困っていると大尉が説明してくれる。勇者と同じ国の人族で勇者ではないと説明する。しかし、彼はそんな事を信じないと首を振る。何度か大尉が説明するが俺を指差し‥‥‥。思わずその可愛い手に見とれてしまい、途中で何を話していたか聞きそびれてしまう。


 プイホンさんの肉球も可愛いが彼の大きな手も可愛すぎる。水族館で見たラッコの手の平と同じで真っ黒い肉球がプニプニしていそうで触ると感触がいいはずだ。まああれよりは若干大きくて指の長さもあるけど。嗚呼、この人も海に浮かんでお腹に石を乗っけて貝なんかを叩いて食べるのかな? ‥‥‥。



 ふと、我に返り、俺からオーラが出ているとか。普通の人族とは違う何かが見えるとか。そんな話をジョルジョネ大尉に説明して、だから俺は勇者だと彼は言い張るようだ。


 まあ、そんな可愛いお目々で俺の事を見ると困ってしまうのだが‥‥‥。「君の勘違いだよ?」と、言いたい。大尉が色々と説明するが結局自分で見た俺が真実というように自分で納得したようだ。その後に話を聞くと、予定通りに海産物と日用雑貨の物々交換など仕事の話が飛び交う。




 「長! 丸太は大小二百本あるぞ、その他に金属製生活雑貨に頼まれていた真銀製の生活雑貨に槍に刃物だ。他にほしい物はないのか? は他にどんな物を欲しがるのだ?」




 「深海種?」って、一体なんだ? 海人族にも獣人と同じように種類が一杯あるのか?


 色々と疑問が浮かんで来たが、今は俺が口を挟む余地は無い。二人で真剣に話し合っているので後で聞いてみるか。




 「ジョ~ネ!! そうだ。それ全部。丸太全部! それに真銀製の雑貨欲しい。真銀は錆びないから深海に住む彼等が喜ぶ」




 「後は直す道具があるなら今日中に持って来いよ。それに見せたい物って何だ?」




 別の馬車の魔技箱からは鍋や釜、包丁のような刃物に斧や武器も少数だが混じっているようだ。色々と魔技箱から物を出し始める。それを先程のラッコの長に見せている。どれも銀色に輝いていて高価な物のように見える。すると、別な話し声が聞えてくる。




 「やっぱし~、真銀製の釜はいいな~。俺も欲しい」




 そういってジョルジョネ大尉に詰め寄るラッコが数人現れる。




 「あ~、注文は長を通してくれよ?! それに仕事があるからそれが終わってからな!」




 その言葉を聞いたラッコ達は長のチャモイヌさんの顔を見る。分ったというような仕草を長のチャモイヌさんがすると、何処か喜んでいるような仕草で尻尾を振り振りする。何処か喜んだ彼らはチャモイヌさんの命令でその雑貨や武器を抱えて洞窟の方に運ぶようだ。俺と大尉はチャモイヌさんに呼ばれてその洞窟に向う。


 洞窟の中はオペラ劇場のような作りで中庭というか舞台と言うか、中央に広場のような物がありそれを囲むように廊下と部屋の入り口が見える。中央の広場は半径30m前後で結構広く、両側に岩で作られた階段と廊下があって全部で3階層ある。偉い人というか地位の高い物が一番下のようでチャモイヌさんは俺達を下の部屋へと導く。



 部屋の扉は無く海草か何かで出来たのれんのような物が垂れ下がっている。中に招かれると洞窟はジメジメしている所という先入観が有ったが、実際は湿度が一定で小奇麗な部屋であった。


 魔素道具のランプが天井から吊り下げられていて結構明るい。部屋の真ん中にちゃぶ台のようなテーブルがあり、その周りにワラか何かで編んだ座布団のような物が床に敷いてありそこに座るように案内される。部屋の奥からチャモイヌさんの奥さん? 多分奥さんであろう、一回り小さいラッコが女性の声で話しかけてくる。




 「良くぞおいでくださいました。白湯さゆですが、どうぞ」




 そういって出された湯飲みは巻貝の入れ物であった。サザエのような棘があちこちにあって、それが丁度ちゃぶ台に置けるようになっている。その湯飲みは結構大きな物で中身は昆布の味がした昆布茶のような飲み物であった。俺は何か懐かしくてそれを美味しそうに飲み干してしまう。


 それが良い事なのか悪い事なのか分らないが向うの女性は喜んでくれて、新しい白湯を出してくれる。つまみに二枚貝の貝殻を皿にした物の上に生の貝柱や刺身のようなものを出してくれる。それを見たジョルジョネ大尉は羨ましそうに俺を眺めていた。




 「もう、気に入られたか。君ね、歓迎されているのだよ。その白湯を一気に飲み干したからね。俺は飲み慣れてないから一気にはどうしてもいけない」




 そういってはにかんだ表情をした大尉はチャモイヌさんが奥に行って戻ってくるのを待つ。いや、実際に昆布茶美味しかったし、久々に生の貝柱は美味かったよ? 

 だけど贅沢言うとワサビと醤油が欲しかったよね。


 そんな事で何の躊躇も無く彼らが出してくれた刺身をぱく付いたので尚更気に入られたようだ。結局貝の皿に乗っていた刺身のつまの海草まで美味しく頂いてしまう。そんな俺を見て大尉は良く食えるなと言った表情で俺を見る。内陸の人族は新鮮な刺身を食べる習慣がないようだ。



 二皿目に手をつけようとすると、木箱を抱えてチャモイヌさんが奥の部屋から戻ってくる。中から綺麗な宝石や石、それに珊瑚のようなものを取り出して大尉に見せる。すると、大尉は鼻歌交じりにそれらを素早く仕分ける。




 「え~と。ふふ~んっと! これだけで今日持ってきた雑貨の代金は賄える。これは、また今度の時に出した方がいい。あと、これ一つで今日の雑貨の倍以上の価値がある。商人には絶対見せるなよ。


 軍人には見せても良いが余りおおっぴらに見せ付けるな。それと、最後のこれらは俺には価値が分らない。内のガルボルテ工作長の見せたいので預かっても良いかね?」




 「ああ、ジョ~ネは友達! 信用してる。持って行って見せるが良い」




 どうやら自分達が獲った物の価値を聞いているらしい。最初に見せたのは赤い色をした木の枝の団扇うちわかと見間違えるような綺麗で立派な珊瑚だ。


 それにしても価値が2倍以上があるといったのは、ルビーのような真っ赤な宝石で500円玉ぐらいある大きな宝石であった。もしかしたら魔素結晶の欠片かもしれない。珊瑚は加工したら多分宝飾品に使われるのかな? それらの貴重品をこの俺にも見せてくれる。


 思わず価値が二倍もあるという真っ赤なルービーのような宝石を手にとって眺めてしまう。



 「大尉? これって魔素結晶の欠片ですよね?」




 「ああ、そうだ。あんまり長く持っていると体に毒だぞ!」




 そういわれたので、胸の魔素結晶の欠片を思い出して直ぐに彼の木箱に戻す。珊瑚のほうは手に持つと壊しそうなので眺めるだけにした。そこら辺はチキンハートの俺である。万が一壊して弁償しろといわれても困るよね?


 最後にガルボルテ工作長の見せるといった石は波に洗われていて拳大の角が無く丸くなった石が多数であった。どれも何処にでもあるような石に見えるがランプに照らすと薄っすらと緑色に見える。



 「これって『翡翠』。あ、う、翡翠ですよね? 俺のいた国でも珍重されていましたね~」




 「ほう、これが翡翠か?」




 「ああ、すいません。もしかしたら違うかもです。良く似ていたものでつい口走ってしまいました」



 そういって大尉に渡す。それを俺と同じように大尉は天井に吊るされたランプに翳して一つ一つ確かめているようだ。そして、全ての石を見終わると徐に懐から木の板を出して次回の注文を取るように話し出す。それに答えるようにチャモイヌさんは思い出したようにまた奥の部屋に行って何かを取りに行ったようだ。


 何となく先程の魔素結晶の欠片が気になって、俺は箱を覗いてしまう。そして、それを取り出してランプに照らして覗いてみる。すると、赤く透き通った綺麗な結晶の中に小さな丸い魔素陣のようなものが見えてくる。


 良く見えないので目を凝らして見るが光だと見えにくいのか中々見えない。つい左手の手の平に置いて観察してしまう。大尉は何かのメモを木の板に取っているようで俺を見ていなかった。



 その赤く透き通った魔素結晶の欠片が一瞬輝いて手の平が熱くなり、慌てて魔素結晶の欠片を手放し箱に戻す。その様子に怪訝な表情をするジョルジョネ大尉は俺に何かあったのかと心配になって、俺の左手を掴んで手の平を覗く。しかし、何もなかった事を確認すると俺が戻した魔素結晶の欠片を手にとって覗くではないか。




 「また何かあったと思ったぞ! 焦らすなリョウジ!」




 その言葉に再び自分の左手の手の平を見ると、小さく一円玉ぐらいの大きさの焼け焦げた丸い何か焼印のように記されていた。


 その手の平の焼印に、一体何が起こったか理解できない俺であった。




 後編につづく

次話は2/13木曜日の夕方に投稿する予定です。

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