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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第3章 平穏な日常に飽きてくる年季奴隷 》
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<3-15> 「読書する年季奴隷  (後編)」

最新の本文修正日は2014年12月17日です。

 指揮車で何時もの日課である計算の仕事を終わらした俺ですが、またジョルジョネ大尉からお話タイムを持ちかけられてついこの前読んだ本の話をする。


 その話で魔人族まびとぞくという種族と海人族あまぞくという新しい種族の話を聞く事が出来き、アラレスティ大陸の奥の深さを知る俺であった。



 俺が読書をするように奴隷旅団所属中隊の人々も読書をするようです。中には自分で物語を作って披露する人までいるようで、その物語の主人公が俺とプイホンさんのBLの創作本となると複雑な心境になる。


 その複雑な心境を逆なでするようにこの村に着いてから、続々と貴族様が俺を見物しにやってくる。もう誰が誰だか分らない中、見知った名刺を渡されて名刺の謂れを異世界人から聞いてしまう。こちらに来た勇者さんが謂れを伝えたそうで、名刺の名前は昔の中国から伝わったそうです。そんな事を知る俺であった






 次の日の朝に目が覚めると散らばった名刺が俺の顔に張り付いていた。それを集めて道具袋に突っ込む。早朝の日課を終えて朝食を食べに食堂に入ると、昨晩の貴族様はもう旅立ったようで何処にも見当たらなかった。


 支度を整えた俺は何時ものように道具袋を持って指揮車に乗り込む。それで日記を取り出して昨晩会った人物の名刺を見て誰が俺に会いに来たか確かめる。名前は省くがどれも侯爵で上級だったり準侯爵、後は普通の侯爵である。


 貴族の順番から良くと上から二番目から4番目の貴族様が会いに来たらしい。どれもこれも聞き覚えの無いというか発音しづらい名前でどうでもよくなる。日付は名刺に書いてあったので日付順に日記に貼り付けたいのだが肝心の糊が無い。米粒でもあれば潰して自作できるが肝心のその米粒も無い。今度ガルボルテ工作長にでも相談してみよう。



 そんな事を思いながら日記にチマチマ書いて行く。すると、馬車が動き出して30分程で農作業場に着いたようだ。アミュネス少尉とユロジェン少尉はジョルジョネ大尉に目配せして外に出て行く。


 俺は何時もの計算を終わらすと、さっさと外に出て皆の作業を手伝いに行く為に道具を片付け扉を開けようとすると、大尉に呼び止められる。何かと思って振り返るとまた隣の指揮車に向えと言われてしまう。


 仕方なく外に出て隣の馬車に向かい扉を叩く。今日は酒臭くないマイネンスさんが顔を出して俺の腕を掴んで中に引張り入れられるではないか。まるでなじみの客が立ち寄ったスナックに呼び止められるような感じだ。中に入ってからもそんな感じで後部座席に座らされた俺の隣に座るマイネンスさんは色々と話しかけてくる。




 「久しぶり~。全然来てくれなかったから寂しかったわよ~」




 そんなに繁盛に御世話になったら俺は死んでしまうよね? ここに来るという事はそういう事だと思うのだけど‥‥‥。意味が分らない。


 そんなマイネンスさんを無視するようにミリクナ医務長は俺に例の魔素力測定器の配線を無言で取り付けて行く。一通り通り付けが終わったようで、ミリクナ医務長は測定器の調整をする。俺は引き続き彼女に言われるまま魔素術の動作を行う。まだ10日も経ってないのにそんなに変わるわけないのにね~。


 すると、彼女の眉が僅かにぴくっと動く。それを見たマイネンスさんは立ち上がって測定器を覗く。画板に書かれた数字を見て二人でこそこそ話している。何事かと思って俺も聞き耳を立てるのだが専門用語なのかカタカナで話しているようで言ってる意味が分らない。




 「気になるようだから話すけど、今まで数値が余りに微妙だった為に気が付かなかったことが今確信に変わったから話すわ。魔素力の三要素が僅かだけどその数値が上昇している事が分ったの。だけど減ったりもしているようなので私達も意味が分らなくて困惑しているのが今の現状よ」




 「あの~、その三要素って上下するものなのですか?」




 「まあ、大抵は上がる事は有るけど下がる事はないわ。でも、貴方は僅かだけど下がったり上がったりと一定ではないわね。まあ、この大陸の住人でないからそういう事が起きているのか。それとも召喚者特有の形式なのか貴方一人だけしか確認出来ないから分らないわ」




 「じゃあ、少し練習すると、もしかしたら上がるかもしれないのですか?」




 「それは分らないわ。師匠って言うか講師のやり方にいろんな方法があるの。その人族に合った個人の指導方法があって、闇雲にあの魔素術の動作をしても効果はないわ。師匠もその個人に合った師匠でないとその力を十分の一も引き出せない時があるからね。


 当然、私には無理だし貴方の力から言うと、この大陸に一人いるけど今は何処をほっつき歩いているか分らないわ。大事な使命を与えられて同じ方向に向っているはずなんだけどね」




 「はあ、この前のおばあさんでは駄目だったから俺に探査の練習をしろと言ったのですね?」




 「それは分らないけど、もしかしたらそういう事かもね。じゃあ、残りをやってしまいましょ」




 そういって、問診から始まり各々の計測が始まる。その数値はどれも変わっていなかった。身長や体重は分るのだが、爪や髪の毛など通常毎日伸びるはずのものは相変わらずであった。これに付いては彼女達も意味不明だと口をそろえて俺に答えてくれる。


 最後にマイネンスさんが一瞬先祖帰りして俺の体をスキャンする。しかし、それも変わらないと話していた。最後に10日前後にこれから検診を行うと今頃話される。もうそういった事には慣れてしまっているので気にはしない。




 「ねぇ、今度は何時来てくれるの? また待っているからね~」




 そんなことをマイネンスさん言われて、むすっとしたミリクナ医務長から指揮車を追い出される。いやいや、俺が決める事じゃないでしょ?


 指揮車から出た所で3人組みの中尉さんに連行される。いや、仕事があるからと言い訳をしたが無駄であった。指揮車から離れた所に中尉さん達の馬車があるようで、連れて行かれると同じような箱型の大きな窓が無い指揮車であった。


 その前に10人ほどが座って食事が出来るテーブルが置いてある。横には昨晩俺を邪魔者扱いしたメイドさん達が澄ました顔で主人達の命令を待っているようであった。



 俺はそのテーブルに着けと促される。仕方なく椅子に座って周りをキョロキョロしていると二組の男女が通される。俺の対面に座ってお辞儀をするので吊られて俺もお辞儀をしてしまう。


 俺がお辞儀をしている間に昨日見たような名刺がテーブルの上に置かれて、早速俺でも分る様にしてくれたようで、向うにも一枚同じような名刺が置かれていた。


 嗚呼、最初からこのようにしてくれれば困惑する事などなかったのにと、心の中で文句を言う。まあ、後は皆が一様に聞いてくる事柄で「イアイ」が使えるのかとか、どんな技術を伝えてくれるのだとか、その際にぜひ私共が資金を融通しますと言った話になる。


 最後にこれは私の親族で何々嬢で何歳、今婚約相手を探しています。などと、お決まりの文句が並べられる。もう、何人でも来るなら来いといいたいがさすがにそれは無理。後ろで腕を組んでふんぞり返っている約一名以外が目を光らしているので目線で無理ですよアピールを彼等に送る。


 まあ、その場では返事をしないで、今は年季奴隷の身で自由が利かないので何れまたの機会と最後は同じ言葉を吐く。まあ、悪い事ばかりではないが人生でこんなにお見合いというか女性を紹介して貰ったのは始めてであった。



 途中、お茶とお茶菓子が出てお茶会のような雰囲気のまま、今回は何も無く去って行ってくれた。名刺を見ると今回も日付が入っている。おまけに番号まで振ってある。二人が帰って行ったので俺はお役ごめんと思ったのだが、まだ解放されないようだ。


 結局、皆の作業が終わるまでひっきりなしに違う人達が訪れる。もう何人に会ったのか思い出せない。話した内容は一様に同じ内容だったのだが、金髪だったり赤毛だったり栗毛だったりと髪の色は様々いるのだねと、そちらのほうに感心してしまう。瞳の色も同様であった。


 どっと疲れた俺はそのまま彼女達の指揮車に乗せられる。中に入ると結構豪華な作りで特急馬車のように全席ふかふかの椅子であった。宿泊所に付くと有無を言わせず、浴室に連れて行かれる。着替えと手拭、を渡されて一刻、30分で済ませて上がって来いと厳命される。仕方なく風呂に入り体を洗っていると、プイホンさんとゴナベル奴隷長が入ってきてアワアワタイムが始まる。そこで俺は癒しを補充してこれから始まるお食事会に備える。



 浴室の扉をそ~っと開けると、やはり彼女達は待っていた。仕方なく付き添われてあの食堂の衝立の中の空間に押し込められる。今回もあらかじめ俺が座る席に前の席に座っている人達の名刺が置かれていた。有限実行は良いのだけど、結局話す内容はどれも同じ内容で、いかに自分たちに有利に運ぶ事だけを考えた話の内容である。いい加減嫌気が差してくるのだけど‥‥‥。ちょっと意地悪したくなってきて質問してみる。


 「あの~、召喚者で有る私がこの王国に来たという事をお分かりなのでしょうか? これから降りかかる災いを皆様はどうお考えなのかご意見を伺いたいのですが?」



 普段の俺ならばこんな恐ろしい事は口にはしないのだが、余りにも自分本位の物言いが多くてついこのような物言いをしてしまう。


 俺がその質問をした所、半分以上の貴族の方々がぽかんと口を開けていたが、中にはやはり頭が切れる御仁もいるようだ。すぐさま頭を切り替えた御仁は矢継ぎ早に国王陛下に忠誠を誓った我等はすぐさま、事が起こればはせ参じると、演説めいた言葉を言い放つ。


 しかし、具体的に何をするという答えは返ってこなかった。まあ、そうだよね?


 この前、具体的に何が起こっているか分らないと言っていたような気がするし。それも、この王国の軍が事情を掴めていないのに貴族様が先に事情が掴めるはずもないか。聞いた俺が馬鹿であった。その場はなんだかしらけた雰囲気になってそのままお開きになってしまう。



 昨日よりは早く終わったようで、その衝立空間から出ると厨房の女性達が夕食を取っていた。新作が出たのか真新しい薄い本を回し読みしている。今度の移動日あたりにアミュネス少尉やユロジェン少尉辺りまで周るのであろうか?



 結局次の日も俺は農作業をする事無く、訪れる貴族様の相手をさせられる事になる。僅か三日間で名刺が100枚以上溜まった事で察して欲しい。大抵二人だったり多くて4人で交互に俺を見物しに来た結果であった。


 それからも馬車町に泊まる度に衝立空間に閉じ込められる事になる。気が付けば春上月に入って噂で聞いていた畑仕事に入る月に入っていた。



 驚く事にその畑仕事をする馬車町に着いてからはパタリと俺への面会がなくなってしまう。まあ、煩わしさがなくなって万々歳なのだが、急に止まってしまうと何かもの寂しい限りである。


 畑仕事をするのかと思っていたが、初日は月初めの休暇と給料を貰う事が出来た。特許関係の報奨金は無かったがまだ蓄えもあったので気にはしなかった。それにある程度物を揃えていた為、特に欲しいものは無い。


 馬車町の本屋さんを何軒か覗くと中古本を漁る。店主にお勧めの本を聞いてみる。すると、俺が持っている本を薦められて苦笑する。どれも同じような本ばかりで中古本を諦め新刊を見るがどれも銀10枚以上したので諦めてしまう。


 この前のように買い物途中で攫われる事無く無事に宿泊所に戻る事が出来た。若干一名に監視されていたが俺が単独行動だと知ると知らない内に消えてしまったのは何時もの事である。


 結局、今回も残念な結果に終わり、街中にはネコ耳が溢れていなかった。厩舎に10人ほどのネコさん達だけが目にする事ができた獣人達であった。ここのネコさんは全て鯖模様のネコさんでどれも同じような姿に判別が付かなくて困惑してしまう。




 次の日の農作業は農耕馬に馬具で取り付けられた大型の鋤で畑を起していく、その後に畑を耕していくのだが、耕運機なんか無い世界だ。そもそも内燃機関や蒸気機関が無いのでそんな機械があるはず無いと俺は思っていた。


 大まかに鋤で畑を耕す農耕馬と違う場所に見た事が無い四角い箱が付いた荷馬車にしては中途半端な馬車が俺の目の前を通る。鋤で起こした畑はまだ水分が多くて粘りがあってその馬車は使えないようで、少し乾いた土の部分を御者とその馬車に乗った作業員が馬車の何かを作動させる。


 その馬車は耕運機であった。見る間に固まった土が徐々に細かくなっていき、何列かの溝が同時に出来て種等を蒔けるようになているようだ。その証拠にたすきがけに持った布袋一杯に種籾のよな物が一杯入っていて、それを均等に蒔いている人を見かける。話を聞くと春蒔き小麦だといっていた。年毎に転作している様で去年はここは牧草地だったと言っていた。



 こんな便利な道具があれば内燃機関の耕運機なんか要らないよね? そんな便利な魔素道具が付いた馬車を4、5台も見かける。乗っている人は同じ年季奴隷でそれを専門でやっているそうで、ここが終わったらまた違う場所に行くそうだ。


 種蒔きだけはどうしても人手が要るそうで、俺ら奴隷旅団所属中隊の年季奴隷が良く手伝うそうだ。初めて種まきをしてみると結構難しい物で間隔もそうだが種籾を複数蒔かないといけないそうで、それを手探りで蒔くというのは少し慣れないので上手く出来なかった。




 そんな農作業を3日行い、3日移動の繰り返しを繰り返す。殆どの農作業が種まきに費やされる。種も色々あって、何時も食べている朝食で出るゴダ芋とかいう馬鹿でかい芋も最初は米粒ほどの小さな種だった時には至極驚いてしまう。だってあっちでは種芋を埋めていたからだ。当然こちらでもそうすると思っていたのだが俺の予想は覆る。


 その種が3~4ヶ月程であのサッカーボール大の大きさになって大体一株5個ほど実るという事であった。これを掘り起こすのも結構大変な作業で村人総出に奴隷旅団所属中隊の年季奴隷が手伝って収穫するそうだ。



 まあ、最初は農耕馬が鋤を使って畑を起しながら収穫するそうなので人が鍬を手に掘り起こすのでは無いようなので安心する。その代わりゴダ芋を植えると次の年は牧草地にしないといけないそうだ。急激に育つゴダ芋が畑の栄養を根こそぎ吸い取ってしまうそうだ。大体平均4~5種類を転作して作物の種類を変えているといっていた。なんでもアラレスティ王国の魔素術学院の偉い先生が考えたそうだ。



 ここで結構聞くアラレスティ王国の魔素術学院に興味が沸いてくる。大尉は何れ訪れるといっていたのでどんな所か気になってくる。だがまだ先は長いようで1年半以上先の話と言っていた。




 種蒔きの間の移動日に最近は何処で仕入れたのか算盤を手に入れたアミュネス少尉とユロジェン少尉に俺は算盤のやり方を教えている。いよいよ俺の仕事が無くなるのかと心配になってくる。だが、まだ任せられる程ではないようで依然計算の仕事は俺任せのようだ。


 最近は陸ハトゥーが襲来してから魔獣と名が付く恐ろしい物には出会っていない。そのお陰なのか悪夢も見ることが無くなって夜は探査術の練習もあってぐっすり寝ることが出来ている。



 農作業の後の移動日には結構時間が出来て買ってあった本を少しずつであるが読むことが出来るまで暇な日々になってきた。ああ、もうこのまま貿易都市のゴルムディアまで平和な日々が永遠に続くのだと、その時の俺は思っていた。




 春中月に入って4回目の給料と休暇を貰った頃にはすっかり俺が召喚者である事を本人すら忘れてしまうほど暢気な雰囲気であった。日々のんびり年季奴隷の仕事をこなす日々と、移動日には紙を漉く日々になってしまう。


 ガルボルテ工作長に相談してお手軽な糊を聞いてみると麦粒を蒸した物をすり潰して使っているという事を聞いて、糊付けしたノートを何冊か作ってみる。しかしどれも直ぐにはがれてしまってうまくいかない。


 結局あの薄い本のように針と糸で紙を縫ってわら半紙のノートを作る。何冊かプイホンさんに渡すと彼は喜んで文字や絵を描いている。彼も文字を有る程度覚えたようで俺と同じように日記をつけ始めたようだ。まだ短い文であるが絵日記のような日記を書いている。



 農作業が始まってからあれだけ訪れていた貴族様達が突然訪れ無くなった訳を聞いてみたが3人の彼女達も首を傾げて不思議がっていた。




 春下月に入って5回目の給料と休暇を貰うとプイホンさんと同じように厩舎に入り浸ってしまう。ここのネコさん達は好奇心旺盛で俺が馬の世話を手伝うというと不思議そうな雰囲気の中それを許してくれる。皆一様に鯖模様で尻尾が長いネコさん達でこの前の白黒のネコさん達のような殺伐とした雰囲気はここにはなかった。


 プイホンさんも紛れて一緒に手伝い、昼には何処で取ってきたか分らないプイを厩舎の皆で焼いて食べる。夜も同じようにプイの丸焼きを頂く事になる。


 そこのネコさん達が話すには白黒の岩猫は気性が荒くて縄張り意識が強いといっていた。変わりに自分達はよそ者に興味があって旅の話や噂話など色々聞きたいと話していた。住む所によっても性格も違うようだ。久々というか初めてネコまみれになって充実した一日となる。時間が経つのを忘れてしまいそうになってしまう。



 その為、次の日の農作業は晴れやかな気持ちで作業する事になる。若干1名が不機嫌であったが、指揮車の中の出来事なので無視をする。


 最近の移動日には彼女達は算盤で足し引きも出来るようになってきたので、俺は主に数字が書かれた物を確かめるだけになってきている。いよいよ計算の仕事はレイオフされるようだ。ここまで計算が出来るとは思っていなかった上司のおっさんは涙を流して俺に「ありがとう」と、言って来た時には悪い気はしなかった。




 平穏な日々を過ごす中、それを打ち破る出来事が起きたのは何時ものように馬車村に泊まってからであった。俺がこの地に着てから141日目、4ヵ月半を過ぎた頃であった。


 何時もの三日程の農作業が終わって明日が移動日という日は何か何時もと違う感じがした。と、言うのは久々に悪夢にうなされたからで、それもこの村に止まってから三回だ。最初は大したことが無かったのだが日を重ねるごとに恐ろしくなってきて、うなされたのか寝起きの時にはぐっしょり汗をかく事になる。


 あの陸ハトゥーの時の恐ろしい視線というよりは、恐ろしい存在に慄くといったほうが正しいかもしれない。そのなんともいえない存在は何なのかは分らないが、それが俺の方に向ってくる途轍もない状況に俺はただ走って逃げる。


 途中でその存在に潰されるような感覚がして目が覚める。まだ夜が明けていないようで、俺は汗だくになった顔を着ているジンベの袖で拭う。今日はなんだか便所に行きたくなり、手探りではしごを探して下に下りると便所に向う。


 用を足すと流しっぱなしの洗面所の水で顔を洗う。そして、今までと同じように何に怯えていたのか思い出せなくなる。しかし、今日のは一段と何か恐ろしい出来事のようだったような‥‥‥。


 何かに怯えていたのは分っているので顔を洗った後に今度は何が起こるのか怖くなる。この村に来てから三回も同じ悪夢を見るなんて‥‥‥。それに段々強くなってくるというか恐ろしくなっているような‥‥‥。すると、突然「今まで何も無かったのが不思議だったのだ!!」と、心の中で誰かが叫ぶ。「ここは異世界だぞ!!」と、そんな声まで聞えてしまう。



 頭を振りそんな声を押しのけるのだが、何処か身体がだるいというか足元がおぼつかない。フラフラしながら部屋に戻ろうとすると、青い顔をした俺を見て心配したのか、突然ミリクナ医務長が声を掛けてくる。一瞬驚いたが、ミリクナ医務長なので気にはしないのだが、腕というか肩をつかまれミリクナ医務長の個室に連れて行かれ尋問が始まる。




 「久々に貴方の青い顔を見たのだけど何があったのかしら?」




 「あ~、え~、っとですね。そのなんていっていいか分らないのですが。陸ハトゥーまで遡るのですが。その前の晩というか二、三日前から夜中に夢でうなされたのは話したと思います。それと同じような悪夢でうなされましてね。この前はその誰かににらまれる感じがしまして、今回はここに泊まってから3回ほど、何と聞かれても思い出せないのです。しかし、そのなんだか分らない物が襲ってくるというか、自分で言ってて何を言っているのか分らないです」




 「ふ~ん。また悪夢にうなされだしたという事ね。すると、ようやく何かが起きるという事か‥‥‥」




 最後は聞き取れなかったが思い当たることがあるのであろうか?




 「明日は何時ものように次の馬車村まで移動するのですよね?」




 そう俺が彼女に尋ねるとニコッとして「明日は海に向う予定なのよね~」と、それだけ話してこの部屋から出て行く。残された俺は一体どうすれば良いのか分らない。暫くするとミリクナ医務長が後ろに人を連れてくる。マイネンスさんであった。先程まで寝ていたようで寝起きの寝ぼけた顔つきで欠伸をしている。




 「ミリー先輩、一体こんな夜中に何用ですか~。あら、リョウジじゃない。あら~、何でそんな青い顔してるの? どれどれ~」




 そういうと一瞬先祖帰りして俺をスキャンする。




 「あらら~、どうしたのかしら?! ちょっと部屋を暗くしてみて」




 そういうと、部屋が暗くなる。すると、俺の胸を誰かが上着のジンベをまくって中の様子を見るようだ。俺も驚いたがマイネンスさんやミリクナ医務長も一様に驚いていた。しかし、直ぐに仄かに光っていた俺の胸の辺りが徐々に暗くなって行く。直ぐに明かりをつけたのはミリクナ医務長であった。


 一体何が起こったのか俺に理解できないように彼女達も理解できないようだ。全然気が付かなかったが悪夢を見た時には、このかつて魔素結晶の欠片が中に入ってしまった胸の辺りが光るようだ。


 呆然とする俺を他所にミリクナ医務長はまた外に出て行く。残された俺はマイネンスさんと二人きりである。しかし、彼女は真剣な目つきで俺の胸の辺りを見て考え事をしていて、普段あのいやらしさは何処にも無い。



 すると、廊下を走るような音がしてこの部屋の扉が開く。ミリクナ医務長はあの魔素力測定器を持って部屋の戻ってきたようだ。直ぐに準備に取り掛かって魔素術の動作をしている時に部屋の扉を誰かがノックする。


 マイネンスさんが返事をすると中に入ってきたのはジョルジョネ大尉であった。何かを発しようとした大尉であったが俺の青い顔を見て何かを悟ったように押し黙る。そして、測定器の計器を見て皆一同に驚いて口を塞ぐ。




 「なっ、な、なんで? もう一度計ってみますね。もう一度やってください」




 そういわれて魔素術の動作をする。それを5回程やって、段々皆のテンションが下がってしまう。まあ、理由は分るような気がするのだけど、あえて聞かなかった。と、いうか聞ける雰囲気ではなかった。


 もう、それは残念そうな表情を大尉を筆頭に皆に伝染する。マイネンスさん至っては頭をぼりぼりかきながらブツブツ言って自分の世界に入ってしまって聞ける雰囲気ではない。



 そんな状況の中で俺一人取り残された状態で時間だけが過ぎて行く。その中で青い顔色で困惑するだけの俺であった。





 次話へつづく

次話は2/2の日曜日に投稿する予定です。

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