<3-12> 「迫られる年季奴隷 (後編)」
最新の本文修正日は2014年12月17日です。
甘い誘惑で誘うのはあっちの世界でもこちらの異世界でも同じようで、今回は何とか見抜くことが出来た俺ですが、あっ、いや、その。偶然です。その何とか見抜けた真意は色々とあるようでした。
それより、実は親父共に迫られるよりも、女性に迫られた時は大いに心が動いたのは内緒です。元来の小心者の俺の危機アンテナがそうしたのかな?
アラレスティ王国の重鎮の公爵家関係者のいう事には王家八公爵家の内、七公爵家は俺に力を貸すというか、擁護してくれるそうです。まあ、なんだか良く分らないが、今回も頂けるものはありがたく頂こうと思う俺であった。
寝る前に何時もの探査の練習をして寝ようとした時に感じた6個の波紋が指揮車の方向に向ったように感じたが、睡魔には勝てなく寝てしまった俺は早朝にいつものように目が覚める。
プイホンさんは既にいなかったが、同じテントに寝ていた人達も丁度起きるようでお互いに挨拶を交わしていた。俺も彼らと挨拶をして起き上がり寝袋を丸める。
テントの外に出て仮設便所に向うと、昨夜に有ったあの集団のテントや馬、人もいなくなっていた。綺麗に片付いていて俺が起きる前に帰ったようだ。その時はもうこれで俺の内覧会のような物は終わりだと思っていた。
皆の訓練を横目に自分の訓練の素振りをする。ふと、昨日の朝に操られた俺の動きを真似してみる。動きのイメージはさすがに自分の体を使われていた為、まだ覚えているようですんなり動く。
対戦した彼女達を思い浮かべながら立ち振る舞う。まあ、他から見たら変な動きに見えるかもしれないが、幸い端っこでそんな事をやっていたのでドルバン車長やゴナベル奴隷長には見つからなかったようだ。
何度もあの時はこうだったとかこの時はこうだったとか反芻する。しかし、俺の体躯が悲鳴を上げる。まだ筋肉痛がしていて急激な動きはさすがに出来ない。仕方なくゆっくりとその動きを再現して体を動かす。3人分の動きを真似た頃にゴナベル奴隷長の解散の声が聞える。
皆がそれぞれ道具を持って自分達の馬車に向う途中、ドルバン車長が「中々良い動きだったぞ」と、一言いってニコッと微笑む。嗚呼、しっかり見られていたようだ。これからは昨日の動きの復習をしようと心に決める。
こればっかりは俺がここに来てから、あの恐怖の為に止める事は出来ない。魔獣は無理だが、この前の誘拐のように人に対してある程度抵抗できないとまた誘拐されちゃうよね?
それに前回は無事だったけど今度もそうなるとは分らない。今度の場合は機嫌が悪い人だったら困るからね。
周囲を見回して、昨日の道具の忘れ物が無いか確認をする。その後、何時ものように配膳の列に並んで朝飯を頂く。しかし、彼らは何時帰ったんだ? 全然音もしなかったような‥‥‥。良く分らない。
貴族は皆似たような服装でまるでジョルジョネ大尉達と同じ軍人のようであったと、今頃そんな事を思い浮べる。今度、大尉にでも聞いてみるか?
仮設食堂のテーブルや椅子を片付けるとギョットしてしまう。見た事がある女性が三人いるではないか。その三人は俺が昨日の朝に対戦した三人であった。その三人が大尉らと同じあの赤い服装でまったく同じ格好をしている。それに腰にそれぞれの武器が挿してあり、柄が短くなったような武器でなんか中途半端な武器であった。3人を改めて観察するとこんな風であった。
一人目の女性は薙刀の木製武器で最初に俺と戦った女性で金髪の長い髪を三つ編みにして腰まで垂らしているが、始め見た時はあれをお団子にしていたはずだが。その女性はあの目じりが上がってきつそうな女性であった。
二人目は髪が栗色で肩まであって、グレーの瞳に俺の身長より20cmは高い身長が目立つ。長い槍を振り回していた為、遠近感がつかめなくて彼女がこれほど大きな体格だとは思っていなかった。最初の女性と並んでみても20cmほど大きい。
最後の女性は対戦した時は大剣の木刀を振り回していた人である。小柄な体に似合わない大剣を器用に振り回していたんだよね~。この子は金髪なんだけど銀髪に近い色でショートボブという髪型だったかな?
余り女性の髪形に興味が無かったので美味く表現出来ないが短めの髪型であった。青い瞳がくるんとしていて150cm位の小さな身長と相俟って可愛い印象であった。
しかし、肝心の彼女達の名前が思い出せない。確か、自己紹介のようなものであの晩の合コンで教えて貰ったのだが‥‥‥。あの後の酒盛りで全て飛んでしまっていた。
まあ、その内改めて紹介があるよね? それに軍人さんであったのだと、今更成程と感心してしまう。
まごまごすると、出発の合図が聞えて、慌てて道具を用意して指揮車に乗り込む。今日も大尉がドアを開けてくれたのだが、中にはアミュネス少尉やユロジェン少尉がいて何か緊張している雰囲気である。俺の後に先程の三人が入って来ると更に緊張した雰囲気というかそんなものを感じてしまう。
「あれ? 彼女達も乗り込むのか?」と、疑問に思いながらも前の席に座る。すると、俺の目の前の席にあの三人が腰の武器を外して手に持って先程の順に座る。俺がどぎまぎしていると俺の横に座ったジョルジョネ大尉が彼女達を紹介してくれる。
「あ~、既に知っている顔だがあえて説明するぞ。君の前から順に行くと、ギルバーダ公爵公女殿下のギュレイジーナ中尉、スアーダ公爵公女殿下のサルメーナ中尉、ギルブレット公爵公女殿下のカインゼネ中尉である。
あ~、サルメーナ中尉はこの前のハルーツン閣下の妹君だからな。それに一緒にいたあの彼女のお姉さまだ。彼女達は露払いというか統合参謀本部の情報参謀の一員でな。余り詳しくいえない。中尉だが俺より格が違う。
ま~、これから向うゴルムディアまでの通行手形代わりだ。彼女達の名前を聞いて引き下がらない貴族はいないからな。ああ、彼女達の家は奴隷事件以前というかアラレスティ王国建国以来続いている家柄でな、同じ公爵でも格が違う。
公爵達の動きに敏感な公爵の下の侯爵や伯爵共の五月蝿いハエを払うというか、君に悪い虫が付かないように監督する役である。まあ、普段は自分の愛馬に跨るかお付の馬車に乗るから気にしなくて良い」
まあ、説明してくれたのは良いのだが、七家の女性陣の数が合わなくて頭が混乱してくる。あれ~、あの晩の合コンにいた人か? 分らない。
もう普段から女性に免疫がないというか接する機会が無かった俺には西洋人風の顔に見慣れていない事もあって、個々の判別はベリーハードモードであった。
それにこれからも他の貴族が俺を観察というか見物というか、知り合いになりに来るらしい。面倒なので顔写真入り名刺でもくれないかな?
そうすれば何となく分るのにと、愚痴を心の中でこぼす。それに一瞬、また俺に迫る為にこの奴隷旅団所属中隊に残ったかと勘違いしてしまったじゃないか。
あ~、そういえば参謀付きといえばエリートだよね? ジョルジョネ大尉以下、皆が畏まるはずだ。偉い人がそれなりに努力するのはどうやら本当らしい。
紹介が終わった後も皆が緊張しているので、今日は仕事はしなくて良いのかなと周りを見渡す。ジョルジョネ大尉が何時もの羊皮紙の束を持っていたのでそれを貰う仕草をすると、慌てて俺にそれを渡してくる。
道具を出して、計算を始めると、前の席の彼女達にガン見されてしまう。アミュネス少尉達が多少計算の特訓のお陰であちこち計算の結果が書いてあったので2時間程で計算が終わってしまう。検算を終わらせると大尉に渡し、それを貰った大尉は馬の休憩の合図を出す。
ああ、やっとこれで解放されると思っていた俺は道具を仕舞って出て行く準備をするのだが、横に座っている大尉が俺を外に出してくれそうも無い。横を見ると、お願いだからまだここにいてと言う訴えた目線である。仕方なく大人しく座っていると、向うから仕掛けてくる。
「下世話な話ですけど、私まだ婚約者が見つからなくてね。リョウジ殿はどんな女性が好みかしら?」
「はあ? この人何を言っているんだ?」と、思わず声に出そうになる。もう、昨晩話したじゃないかと言いたくなる。
「いやね、一応お見合いのような物をしたのだけど、どうしても家と家の付き合いになってしまってね。最近、もう二十五で行き遅れと陰口を叩かれましてね。どうしたものかと悩んでいるのよ」
一瞬何を言ったのか意味が分らない俺であるが、俺に求婚しているのではなくて、同じ年代の男性として意見を聞きたかったらしい。そんな事を言われても困るのは俺の方である。彼女いない歴25年のこの俺にそんな事を聞くのはどうかと思うよ?
「ジーナ、だからと言って抜け駆けはどうかと思いますわよ?! 私達だって困っているのですからね!!」
横の二人が突っ込みをハモッて入れる。ものの見事にハモッた二人が膨れっ面を晒す。その女性的な会話に俺の後ろの緊張していた二人の安堵したのか、ため息が聞えてくる。
「あの~、私は駄目ですけど。そうですね、寛大な心が必要だと思います。皆さんの理想の男性はこの世には存在しません。ああ、言い切ってしまうのは私がそうだからといえると思いますが‥‥‥。その~、妥協というか、始めて会ったその人の良い所を探せば良いと思いますが、何か一つぐらいはあると思いますが。どうでしょうか?」
俺のその話を聞いていた後ろの二人がうなり声を上げていたのは無視する。前の3人はうんうん頷いていた。しかし、偉そうに講釈しているが自分で言っててあほだな~俺と、考える。そんな事考えても無駄だったから彼女がいなかったのにと何処かから声が聞えてきそうだ。
「しかし、譲れないというか、許せないというか。そういうものは必ずあるので、その線をどこで引くのかと思います。歳と共にその線は下がって行き、理想とはかけ離れて行くのが現状です。しかし、あなた達は恵まれているので選び放題だと思いますけど? 私なんかは国では歯牙にも掛けられませんでしたよ」
あぁ、すっかり忘れていた暗い過去が甦る。学生の頃に勇気を出せばよかった場面が数多く、少ない勇気を出せば玉砕。社会人になって電車に乗り合わせたあの人には勘違いされて時間を変えられて二度と巡り合う事は無かった。
現場事務所の事務員の女性にはごみを見られる視線を浴びせられて、事務所に居辛くなった日々など走馬灯の如く甦る。そんな俺の静寂を打ち破るように彼女の一人が口を開く。
「リョウジ殿は金髪がお好き? それともこの茶色? ひょっとして彼女の銀髪がお好きですか?」
「はあ、私の好みは‥‥‥」
俺がそう考え出すとそれを凝視する3人の視線が痛い。そういえば自分の容姿が余り良いとは言えなかった為、そんな事は余り考えた事は無かった。若干二重顎になりかけた顎を撫ぜながら考える。あれ、顔の肉が少し落ちている。と、別の事が気になってしまう。
なんて言うか好みを改めて聞かれるとアニメ顔になってしまうのは気のせいであろうか。アイドルを追っかける暇なんか無かったから、取り貯めたDVDやレンタルして見たDVDの映像は全てアニメであった。
それにネットでよく見るのは所謂エッチな映像ばかりでそんな事は彼女達に口が裂けても言えない。洋物は萎えるのであえて見ていないが、目の前にいるのはそれである。改めて聞かれて初めて理想がなかった事に驚いてしまう。
小説なんかで出てくる女性もアニメなんかに置き換えて想像した女性像を考えていたし、この答えに俺は苦悶しながら腕を組んで考える。しかし、答えは出ない。
「すいません、考えすぎてしまって答えは出ません。改めて考えると答えが出なくて我ながら情けない話ですが、男性の理想像の女性は多分自分の母親を重ねる人が多いように思えます‥‥‥。ああ、喩えが悪かったです、身近な女性が一番ではないでしょうか」
そんな答えを出してしまったが、一番驚いていたのはジョルジョネ大尉であった。思い当たる事があるのであろうか。しきりに顎鬚を摘んではチラチラ後ろを見ている。前の女性は何かガッカリしている風だが、思い当たる事があるのかもしれない。何か考える仕草をして小さい声で「お兄様」と、そう聞えたのは気のせいかもしれない。
改めて自分の駄目駄目さを披露した俺だが、先程の答えを話してから後悔する。少しは彼女達を誉めておけばと。そうすれば、少しは彼女達を喜ばせたかもしれない。しかし、彼女達にぬか喜びをさせてしまい、変な誤解を与えてしまうのでその考えを拭う。
「中々の鉄壁ですねリョウジ殿。では、趣旨を変えましょう。身長が高い女性は好きですか?」
そういってきたのは真ん中の俺より身長が大きい女性であった。なるほど、最初の女性は玉砕という事か。次は私の番よという事でこの質問らしい。しかし、質問の内容は変わっていないように思えるのは気のせいであろうか?
「はぁ、身長は関係ないと思いますが、できれば同じ目線が良いのは理想です。しかし、かといって小さいのが好みと聞かれると困りますよ。身長は関係ありませんが、先程言った通り身近な女性が一番でないでしょうか‥‥‥」
俺のその言葉で残りの二人の女性も落ち込む。嗚呼、これで諦めてくれるとありがたいのだが‥‥‥。すると、妙な事が気になってくる。髪を触ったり、服装を触った時など、皆の左手が見えた時にその左手の薬指にはそれぞれ違った装飾の無い指輪が目に入る。
最初は魔素陣を操る時の魔素結晶の欠片の指輪かと思っていたが、ジョルジョネ大尉がしている指とは若干位置が違うし、魔素結晶の欠片が付いていない事に気付く。まさかと思うがもしかして、そうなのか?
「あのー、そろそろ私をからかうのはよして欲しいのですが。貴方達の左手に嵌っている指輪は婚約している印のように思えるのですが?」
「あら~、思ったより早くに分っちゃった? 中々の洞察力ね」
その言葉に一番驚いていたのはジョルジョネ大尉であった。彼はそこらへんは鈍感なのかも知れない。それに彼女達は別段驚く事無くそんな事を話すのはさすが情報作戦参謀付きなのかもしれない。嗚呼、俺はまたやったよ~!! 今度も無事試練を乗越えたよ俺!!
「貴方の国もここに婚約指輪を嵌めるようね。国は変わっても身近な事は余り変わらないようね。習慣や仕草なんかもそうね。勇者が来た時と変わらないわ」
俺が彼女達を観察していたように彼女達もしっかり観察されていたようだ。嗚呼、制服を着た人物に要注意と心に刻む。
「安心したようだけど、もしかしたらこれは偽者かもよ? ‥‥‥」
そう言っておどけた風に指輪を見せるがしっかりと普段からしているようで食い込んでいるのが見えた。
「じゃあ、それを外して見せてください。指輪を見れば分ると思います」
確かジョルジョネ大尉は左手の中指に魔素結晶の欠片の指輪をしていた事を思い出し、さりげなく彼の左手を見る。ちょうど手を腿の上に置いていたので確認できた。しかし、二人はそれを外すのを躊躇する。それを見ただけで納得できてしまった。
「もう良いです。貴方だけ未婚か結婚まじかなのでは?」
「残念、私は本当に相手がいません。彼女達は夫がいますわ」
相手がいないと告白された事より、結婚してからもこうした軍人をやる事を許している環境に驚いた。
「えっ? 結婚をした後もお仕事を許されているのですか?」
「なんで、私の事を聞いてくれないのですか‥‥‥。まあ、良いでしょう。そんな事は普通ですよ。子育ては乳母に任せれば良いですからね。王国は優秀な人材を大事にします。だからそ、この後ろの二人も安心して私と同じように早く彼氏を見つけましょうね~」
最後の言葉は良く分らないが、なんじゃそれ。また大尉の言葉を思い出す。女性でも家長になれる事を。そうだった、この国は能力が有れば男女関係無く要職に就く。それが彼女達という事だろう。それに最後の言葉を聴いた後ろの彼女達が返事をしたのは気のせいだろうか?
「さて、そういう事だからこれからまあ4ヶ月弱だけど宜しくね、リョウジ殿! まあ、噂を聞き付けた貴族には目通りさせるけど、不当な約束なんかをさせない為と、目通りの期間があってね。本当は駄目なんだけどゴルムディアまでは目を瞑ると内々に決って私達が派遣されたのよ」
そういい終わると頃合を見計らったようにジョルジョネ大尉が馬の休憩の合図を出す。暫くして馬車が止まると彼女達が先に下りる。俺も降りようとするが少し待てと腕をつかまれる。完全に3人が出て行って扉が閉まってから大尉が口を開く。
「なあ、リョウジ? 婚約指輪は何時気が付いた?」
「はあ? いや。断る言葉を捜しながらあちこち見ていたら偶々目に入りまして、それに俺の国でも婚約相手には指輪を送りますよ」
「そうなのか。同じなのか‥‥‥」
「そうですね~。一般には銀だったり金だったり、上等なのはそこに宝石が付きますが。俺の知り合いは給料の3か月分の値段の指輪を送ったそうです」
「なに、そんなに出すのか。俺らはあまり同僚に滅多に会わないからな。特に同期なんかもたまにしか会わないからそういう情報が少なくてな。そうか、3ヶ月分か‥‥‥」
「もういいですか?」
「あ、ああ、いいよ。確かプイホン君に算術を教える時間だったな。明日からは通常に戻れると思うから彼女達の問題の方もよろしく頼むよ」
「はあ、分りました」と、返事をしてみたのだが‥‥‥。やはり、ジョルジョネ大尉は婚約指輪の事には疎いようであった。何かブツブツ言って前の席に座って考え込んでしまう。後ろにいた彼女達にお辞儀をして指揮車の外に出る。
自分の馬車に向いながら、渡したい相手がいるのかと考えるが俺に分るはずも無い。それこそ俺のほうがそういう事には疎いからであった。
怒濤の2時間であった為に消耗した俺はプイホンさんの癒しでそれを補充する。ちゃっかり、彼の答案に花丸をつけた時に頭をナデナデさせて貰う。
嗚呼、折角平和な日々であったのに魔獣で無くここの住民。それも女性がらみでそれを打ち破られるとは思ってもみなかった。
そんな愚痴を囁く俺であった。
次話へつづく
次話は1/26の昼頃に投稿する予定です。




