<3-10> 「観察される年季奴隷 (後編)」
最新の本文修正日は2014年12月11日です。
果樹園で生っていたオレンジ色の果実はこちらの蜜柑ということ教えられた俺ですが、そのすっぱさに驚くが止められない後味に癖になりそうです。
そんなすっぱい出来事が宿泊所にに戻ってからも起きる。まるで俺を品定めするように話しかけてくるイケメンのハルーツンさんに俺は一矢報えたのだろうか?
そんな胃の中のすっぱい胃液が口の中にこみ上げてくるような状況に、その後のプイホンさんのアワアワタイムで俺は癒される。
それにしても、確か公爵は八家あるって言っていた。これから後、七家の人達が俺を見物しに来るのかと思うと、皆のがっかりした姿を思い浮かべてしまう。本当にご苦労な事であると考える俺であった。
次の日の朝に日課の早朝訓練で素振りをしていた俺は、またもや好奇な視線に素振りを邪魔されてうんざりする。視線の先には昨日のイケメンと美女の組み合わせであった。
一見、ゴナベル奴隷長達の訓練を見ているようだが明らかに俺のほうをチラチラ見ていて、その度に二人で何か話しているようであった。訓練が終わって皆と道具を仕舞い食堂に向うと、ニコニコして俺の前に座ったのはハルーツンさんであった。
「あ、今日も美味そうな飲み物があるのだね~。それ美味しい?」
「はあ、薬が美味しいという話しはあまり聞かないと思いますよ?」
「いわれてみればそうだね~。『良薬口に苦し』って勇者が言っていたよ」
「はあ、そうですか。それで今日はお帰りになるのですか?」
「え~、気になるの?」
「いえ、社交辞令で聞いただけです」
彼は「ふふ~ん」と言った後、昨日と同じように朝飯が美味い美味いといって食べ始める。俺はさっさと朝飯と薬を片付けると、身支度して指揮車に乗る為に外に出る。
止まっていた指揮車の扉を叩くと今日はジョルジョネ大尉が俺を中に入れてくれる。中に入ると二人だけのようで何時ものように日記を書いていると、扉を叩く音がして、大尉が扉を開いて中に入ってきた人物の顔を見て少しだけ驚く。
その少しだけ驚いた俺の顔を見たハルーツンさんは大げさにガッカリした仕草をする。俺は日記を封印してそそくさとその席を彼と彼女に譲ると前の席に座ってジョルジョネ大尉から今日の分の羊皮紙を受け取る。
早く指揮車が目的地まで行って止まるのを待つのだが、こういう時ってそういう時間が経つのは遅く感じるよね?
ようやく大尉が出発の合図をして馬車が動き出す。30分は長く感じたが止まって計算に熱中してしまえば外野は気にならない。
まあ、大尉と彼は何か話していたようだが、気にする事無く計算をこなして行く。何時もの時間。二時間程で、羊皮紙30枚ほどの計算を終わらせてしまう。しかし、何時も良くこれだけ計算する事が有るものだと感心しながら検算をする。
計算が終わって、何時ものように大尉に羊皮紙を渡して道具を片付ける。そして、指揮車から出て行こうとすると昨夜はごみを見るような感じで俺を見ていた彼女が今はちょっと違った雰囲気だった事に気付いてしまう。
その彼女の雰囲気に気付いたハルーツンさんも「ふふ~ん」と、感心したような鼻から声を出す。別に引き止められなかったので彼らにお辞儀をして指揮車の外に出る。
外に出て皮のベルトを装着すると、昨日と同じように一号馬車のメンバーが群がっている果樹を目指して走って行く。逸早くプイホンさんを見つけて彼を観察しながら果実の収穫を手伝う俺であった。
☆ ☆ ☆
一方リョウジが出て行った指揮車の中で3人は話し込む。
「まあ、頭が賢いというのは本当のようだわ、ハルーツンお兄様。たった一つ時であの計算をやってしまいましたわ!」
「そのようだね~。まあ、あれ位出来る奴は主計局なんかにいけば沢山いるけど。まあ、何か秀でている物が無いと私達も張合いがないからね」
「でも今朝のへっぴり腰の剣捌きは頂けませんわ!」
「そうかい? と、いう事は‥‥‥。少しは興味が沸いて来たと思っていいのかな?」
ハルーツンがそういうとミラニエは顔をプイッと横に向けてしまう。
「ジョネ、面白かったよ。では、そろそろ王都に戻るかな。帰りに父に報告しないといけないし、兄も王都で首を長くして私の報告を待っていると思うんだ」
「はあ、閣下も大変ですな~‥‥‥。他の家の者にも公平に見せる事になってしまうと思いますよ」
「それは構わないよ。彼は国王陛下のものだからね。私達がとやかく言う権利はないよ」
「昨日は不都合な事があったようですが?」
「ああ、あれは召喚者の事が掴めなくて私を見張っていた奴等が動いてね。他家がこの隊の事を嗅ぎ付けたのを邪魔しようと思ったけど、これに忠告されてね。捨て置いただけだよ」
「直轄地では揉め事を控えるようになっただけでも進歩しましたな、閣下」
「え~、私は前から控えめだよジョネ」
「そ、そうでしたね。では道中気を付けてお帰りください、閣下!」
「うん、君も生きて王都で酒を酌み交わそうね」
そういってハルーツンは指揮車を出て行く。ミラニエはジョルジョネ大尉にお辞儀して彼の後に着いて行く。外には護衛の森人二人がそれぞれの馬の手綱を引いて待機していた。それらに跨った二人はこの奴隷旅団所属中隊を後に何処かへ向ったようであった。
それを見送ったジョルジョネ大尉はため息をして指揮車の中に戻る。直ぐに報告書を認めて上司に送る段取りをする。王家八家門筆頭のスアーダ公爵の次男がリョウジを気に入ったという話であった。
すると、手紙ハトゥーが飛んできて覗き窓から手元にやってくる。中身を見て、ミンハンス大尉から次は何処何処の公爵家が嗅ぎつけてそちらに向っているという手紙であった。但し、八家の内一つ以外はであったようだ。
それを見たジョルジョネ大尉はふと考える。
「たしか七家はそれぞれ軍人が家人にいる。という事は上司以上の階級の方々が俺の所にやってくるのかと頭を抱えてしまう。ハルーツン少将とは面識というか同期であるから気軽に声を掛けられたが、それ以外の家は気軽に声を掛けられる状況ではない」
そんな事を思い出してしまって、ジョルジョネ大尉は頭を抱えてしまう。そして、思わず呟いてしまう。
「どの家も家格は俺の家とは比べ物にならない。それに階級だってそうである。失礼がないようにしないといけない。そういう事が嫌いだったから奴隷旅団所属中隊に所属したのだが‥‥‥。いっそ大佐にお願いして相手して貰うかな?」
そんな事を呟いた後、色々と考え込むジョルジョネ大尉であった。
☆ ☆ ☆
順調に収穫作業をしていた俺はまたもや、遠くの方で馬に跨った集団を見つけてしまう。昨日と同じようにアミュネス少尉かユロジェン少尉が対応しているようだが、お構い無しに振り切って俺の方まで馬を駆ってこちらに向って来る。
馬に跨った御仁は昨日とは違い中年で少し歳をとった感じの人物で服装はあのハルーツンさんと同じような深緑でジョルジョネ大尉らと同じような格好であった。残りの二人はこれまた女性が一人に森人が一人である。3人でこちらに来たようで後のお付の集団はアミュネス少尉らの手前で待っているようであった。
俺らの回りに来るとゆっくり馬を歩かせて、俺に視線を向けてくる。まあ、昨日のイケメンよりはマシで白髪交じり茶髪の頭には服装と同じ色のベレー棒を被っていた。
彼は横にいた彼女に何か耳打ちしたようでひそひそと話し声が聞えるが何を言っているのかまでは分らない。横の彼女は昨日の彼女とは違い金髪で髪を後ろに束ねて丸めていた。顔はやや吊りあがった目じりにきつそうな性格が感じられる。
まあ、どいつもこいつも西洋人顔で昨日といい、今日のこの二人といい、俺に何か恨みがあるのかと言いたくなるような容姿である。一号車の面々が小さな声で今日は80点と言ったのは気のせいだろうか?
何か言いたげな感じであったので、彼らの前に出て自己紹介でもしてやろうかと思うと、横からジョルジョネ大尉が来て何か話しかけているようだ。しかし、俺には聞えない音量で何かを話している。
そのおじさんの方は何か大尉に質問のようなものをしているようで、その度に何かを答えているようであった。その後、そのおじさんと視線が合ってしまったので御辞儀だけをしてしまう。
やがて満足したのか、そのおじさんは踵を返して向うの集団の方に行ってしまう。その後を女性が付いて行く。ああ、あからさまにガッカリした表情をしたのは別に気にしていないです。昨日の彼女の方がまだ愛嬌があったよと呟く。
「残念だったな! リョウジ!!」
そんな事を言ったのはドルバン車長であった。「今日のは80点だったな~」と、言っていたが横から「俺は好みじゃないな」とか「俺はど真ん中だ」などと言っていたのは聞き流してしまう。後6回もこんな事をしないといけないのかとため息が出てしまう。
大尉は彼らがいなくなると自分の指揮車に戻ってしまう。そんな事で仕事を中断してしまったので、また皆は話しながら収穫の続きを始める。やがてゴナベル奴隷長の声で昼の休憩になる。
皆でパンや果実を食べながら今度はどんなのが来るのかとか、何人が俺の事を気に入るのかと、また賭けを始める。嗚呼、本当に賭け事が好きな人達だ。
昨日と同じように猫車に果実が入った木箱を載せて護衛隊の皆に配りにプイホンさんと一緒に向う。配り終わって猫車を押していると、また先程と同じような集団がアミュネス少尉らがいると思われる所で屯しているではないか。空き箱を載せて皆の所に戻った頃にその集団から4人ぐらいの騎馬がこちらに向ってくる。
そうやって、その後の仕事の合間に5回程、集団が現れては俺を一瞥して消えて行く事を繰り返していった。どの人達も若い娘さんを連れて来ていて、皆同じように何かガッカリした表情をしていたのは気のせいであろうか?
いや、マジに皆がっかりして行った。ため息まで漏らした人までいたな。
嗚呼、計画通り。これで俺を巡って争う事なんか無くなるよね? そんな事を思って落ち込んだ自分を励ます。結局昨日のを含めると全部で七家だと思うが、その家の偉い人が俺を見にやって来たようだ。
作業が終わって車庫に馬車が入り、何時ものように厩舎を覗くと昨日と同じように厩舎が満杯でネコさん達がワラワラと馬の世話を忙しそうにやっている。いやな予感をビンビン感じてしまい、食堂に行きたくないな~‥‥‥。先に風呂に行こうかなと心で決める。
1号馬車に道具を仕舞って着替えを取り出し、直接風呂に向う事にする。手拭も買ってあったので問題ない。糸瓜のスポンジも使ってみよう。
浴室に入ると何人かの人達が入っていて気にはしていなかったのだが、俺が体を洗って湯船に浸かると見た事がある人達が俺を囲むように湯船に浸かる。
はて、何処かで見たかなと思い出すと全て俺を見に来た人達で、ジョルジョネ大尉に色々と質問していた人達であった。おいおい、君達も裸の付き合いをするのかねと、突っ込み所満載であるが黙って湯船につかるへタレな俺であった。
それぞれ自己紹介をしてくれたのだが、半分も名前は覚えられなかった。後で大尉に聞いて日記に書こうと思う。そんな事をしていた為折角のプイホンさんのアワアワタイムを見逃してしまう。俺が彼らの自己紹介を受けている横をゴナベル奴隷長に連れられたプイホンさんが風呂から出て行ってしまう。
ようやく六人それぞれが自己紹介が終わると解放してくれるのかと思うと、食堂まで彼らはついて来る。食堂に着くと、食堂の一角に衝立が立てられているではないか。その衝立は他の視線から隔絶された空間を作っている。
そんな空間に自分についてきた人達が俺を連行する。まあ、背中に手をかけられて、席に座らされただけだけどね
そこには先程とは違い、女を磨いた女性が6人椅子に座っていた。その横にそれぞれの男性が横に着く。まあ、それぞれ何か耳打ちしたようでお互いに牽制しあっているのが見て取れる。
まあ、大半の女性は仕方なくこの席に着いているといった感じで明らかに作られた表情でそれぞれ微笑んでいた。服装が格式ばった正装ではなかったのがせめての救いである。ジンベを着た俺とは明らかに釣り合いが取れないからである。
そんな事を思っていると、それぞれの女性の名前を紹介しているようで、趣味は詩を作ったりとか、お花を生けるのが趣味だとか、そういう事をそれぞれ説明し始める。
内心、先に飯を食えばよかったなと後悔してしまう。つい、お腹が鳴ってしまい皆の失笑を買ってしまうが、ここは無能な不利をしないと後々面倒になる事を思い出す。
俺はさっさと王都迄行って帰る方法を探さないといけない。ここでしがらみを残してしまうと帰れなくなってしまうよね? そんな事を考えていると使用人というか執事? そのような人が料理を運んでくる。
あちゃ~、俺はここのテーブルマナーなんか知らないよ?! 今まで奴隷旅団所属中隊で食べた様なものとは違い、フルコースの料理のような物が次々と運ばれて来る。俺は周囲の様子を見ながらまねをしようと観察する。
料理が運ばれてきてテーブルを見渡すと、なんとそこに箸があるではないか。皆さんは起用に箸を使って料理を食べ始める。
スプーンやフォークにナイフを使うテーブルマナーなら殆ど不可能に近いのだが、箸ならば話は別である。しかし、皆は上品に箸を使って料理を食べているので、皆を真似て料理を食べていた為どんな料理だったか食べ終わった後も思い出せない。
それに味わう所か砂を噛むようで、皆の視線が痛く料理を味わう所ではなかった。一般人であるこの俺がこのような雰囲気で料理を味わえというのが間違っている。
大体女性と面と向かって飯を食べるのはこれが始めてだ。まあ、確かに学生の頃はそういう事が数えるぐらいあったが‥‥‥。暗い過去を思い出してしまう。
社会人になってからは仕事が忙しくて合コンなんか参加した事など無かった。そんな奴がいきなり上流貴族との会食である。どんなバツゲーム?
それに彼らにどんな内容の会話をすればいいのか俺には不可能なミッションであった。だから、終始彼らが話した事に頷いたり、聞かれた事に首を傾げたりと、さぞ頼りない人間に見えたと思う。
計画通りと言いたいが必然であった。さぞ皆さんはガッカリして帰っていくものだと俺は勝手に解釈して、早くジョルジョネ大尉辺りが助けに来ないかとやきもきしていた。やっと料理が終わって、お茶が出されて合コンが閉会と思っていたのだが、俺が甘かった。
女性陣が席を離れたので俺も席を立とうとすると、残った男性陣に囲まれてしまう。その中の一人が先程の執事さんを呼ぶと彼はガラス製なのか透明な容器に入った琥珀色の何かと、お猪口のようなものを七個持ってくる。多分ウイスキー? それか、アルコールの強いお酒だよね? それを俺に勧めてくるではないか。あ~、余り酔いすぎると記憶がなくなってしまうのだが‥‥‥。酔わして何をする気だこの親父共?!
もう、本当に高そうなお酒をお猪口に注ぐと、そのお酒を皆はグイッと一気に空ける。そんな様子を眺めていると、俺にもそうやれと勧めて来るではないか。ああ、もうどうにでもなれとそれを一気にお酒を空ける。その姿に他の6人は盛上る。
権力争いをしている割には妙な団結力があるのですねと彼らを突っ込みたい。3杯目までは記憶があったのだけど、気が付くと他の6人は酔いつぶれてテーブルに突っ伏している。結局、皆酔いつぶれていたようだ。
この前とは違い、フラフラであるが二日酔いのような症状は無い。あ~、何もしなかったよね俺? 俺がキョロキョロしているとミリクナ医務長が木製のジョッキを持って来ると、俺に渡してくる。
「あの~、俺は何かやってしまったでしょうか?」
「ん? そうね。この人達を酔い潰したのは貴方よ。この前もそうだけどあなたお酒強いのね。最後まで飲んでいたのは貴方だけだわ」
「はあ、そうですか。記憶が無いのですが、余計な事は言ってなかったですよね?」
「そうね、至極陽気に振舞っていたようで、飲みが足らないと彼らに説教していただけよ」
「そうですか。俺は酔うと説教するのか」
「まだ二つ時は寝られるから寝たほうが良いわ。これを飲んで眠りなさい」
そういって薬を飲むと、自分の寝床に行って寝てしまう俺であった。
気が付くと何時もの起床時間のようで同じ部屋の何人かの人達が起き上がって挨拶や窓の木戸を開けるところであった。皆に挨拶をして俺も起き上がると、やはりプイホンさんはベットの上にはいなかった。
皆と一緒に建物の外の広場に行き、体を解して広場の端で素振りをしていると、昨日と同じようにというか、彼らの護衛の森人達まで訓練風景を見学しているではないか。
こんな俺の素振りなんかを見学しても仕様がないと思うけどな? そんな事を考えていると、その中の3人の女性と思われる人達が手に各々の武器を模した木製の武器? 一人は薙刀、もう一人は長槍、最後に大剣のような木製の武器を持って俺の側にやって来る。
彼女達は何をとち狂ったのであろうか? たった一月程前に素振りを始めた俺に対して組み手を申し込んで来るではないか。はあ、直ぐに負けちゃうのは目に見えているのだが‥‥‥。盛大に負けて彼女達の嘲笑の的になるしかないのかとため息を付いてしまう。
仕方なく薙刀の彼女からお相手をする事にする。あ~、確かドルバン車長の言葉を思い出して戦法を確認する。左、左に逃げるのであったよね?
ああ、でも両手に武器を持った場合はどうするのだったかな?
などと考えていると、三人の彼女の一人が審判を買って出ていつの間にか組み手が始まる。当然直ぐに負けると思っていた俺ですが、何かに操られるように彼女と互角に渡り合う。
変だな~と、思いながらも彼女が繰り出してくる薙刀の先端を盾で受けたり、右の剣で受け流す。何時もより回していますといったようにぶんぶん薙刀を回す彼女の攻撃を俺の腕ではないように体が勝手に動く‥‥‥。段々仕掛けのタネが分ってくる。
この感じは一度感じた事の有る感じだ。多分剣や盾を離すと勝手に動いてまるで誰かに操られているように空中に浮いているよね? そう、多分メルディム護衛分隊長辺りが面白がって操っているのに違いない。
その雰囲気に近くで見学して護衛の森人達がキョロキョロして誰かを探しているようだ。いい加減道具に振り回されて疲れて息が上がってくる。それを見越したのか、彼女の隙を突いた一撃で今対戦している彼女の喉元に剣を突き立てる。当然、寸止めであるがそれを見た彼女は舌打ちして次の人と交代するようだ。
ちょっと待って欲しい、その体力的に限界なのだが。俺は首を横に振ったつもりなのだが縦に首を振ってしまったらしい。審判役と交代した大剣さんが今度は審判をやって、次は長槍の彼女らしい。薙刀女と同じように長いリーチを生かして俺を攻め立てる。
まあ、勝手に動くので他の事を考えて彼女達の後ろに控えている森人の一人に視線が向ってしまう。なんというか薄っすらというか。今対戦している彼女の武器に何かが操っているというか、操り糸のようなものが見えるというか感じてしまう。
美味く表現できないが透明なのに透けて見えるというかそんな感じである。すると、自分の武器や俺の体中からまるでマリオネットのように操り糸が見えてくる。
「へ~、彼女は俺と同じようにずるしてるのか~」と、眺めていると。変に力が入ってしまい、彼女の操り糸のようなものを剣で切断するというか、巻き取ってしまうというかそんな状況になる。
すると、森人の一人が舌打ちをして明らかに不機嫌顔になる。すると、今度は俺に変われといったように見えて別の森人が前に出てきて新たな操り糸のようなものが長槍の柄に張り付くというか、まるでアイハブコントロールと聞えてきそうである。剣筋というか槍の攻撃パターンも変わってくるが、そんな事お構い無しに俺の体は見事に動く。
あ~、いい加減にしてくれないと、多分筋肉痛で明日は大変な事になるような気がするのですがと呟くと納得してくれたのか、急速に相手を無力化して組み伏せてしまう。
「へ~、理解してくれたんだ」と、感心していると、審判をしていた大剣の彼女が最後に対戦するようだ。
休憩していた薙刀の彼女が審判になって始めの合図をする。え~、俺は返事していないのだけどと、突っ込みたいのだが体が勝手に動く。大剣の彼女のエンジンが掛かる前にあっという間に組み伏せてしまう。
その光景に後ろで控えていた森人の一人が悔しそうにしていたのは気のせいであろうか。まるでこの対戦が終わったという合図のように遠くでゴナベル奴隷長の解散の声が聞えてくる。
やっと解放されると思ったのだが、急に力が戻ってきて自分の感覚で体が動くようになってくると、体中が痛くなってくる。思った通りだ。筋肉痛を我慢して道具を仕舞いに馬車の所に向うと、道すがらドルバン車長が話しかけてくる。
「リョウジ、良い剣筋だったぞ!」
「何を言っているのですか。俺があんなに動けるはずが無いですよ。メルディム護衛分隊長辺りが細工したに決まっているじゃないですか」
「へ~、そんな事も出来るのか森人って、俺は初めて聞いたぞ?」
「私の持っていた武具を操作したと思いますよ」
「ああ、なるほどな。そういうことか。でも、その動きに見事付いていったじゃないか。それだけでも凄いと思うがな‥‥‥」
「はあ、それはドルバン車長のあの教えによる所が大きいですよ」
そんな皮肉を言ってしまったが彼は少し考えてしまい、そのまま道具を仕舞って行ってしまう。「はて、俺の皮肉で怒っちゃったのかな?」と、首を傾げるが怒るような事ではないと思い直す。それに人を操る事は出来るのを始めて見たと言ったが、対戦相手の彼女達も操られていたのにと考える。
食堂に入ると部屋の片隅で青くなった男性陣を見かける。彼らの執事達に介抱されていた。それを横目で朝飯を食べ薬を飲む。
「今日は移動日なのでもうあんな事から解放される」と、その時は思っていた俺であった。
次話へつづく
次話は1/23の夕方に投稿する予定です。




