<3-8> 「観察される年季奴隷 (前編)」
最新の本文修正日は2014年12月11日です。
最近、至って平和な休日を過ごせた俺ですが、小さな事はチョコチョコ起きるので今までとは変わらない生活である。
俺が楽しい買い物をしていると、後を付ける影を見つける。彼女は俺がプイホンさんと移動していなかった事に不満のようであった。しかし、夕方に俺とプイホンさんとの一時を真剣に何かをメモしながら観察していたようで、なんだか満足していたような雰囲気は気のせいであろうか。
きっとBL本のネタにされるのだよね~‥‥‥。楽しみというか読むのが怖くなってくる俺であった。
次の日の朝、予定通りにこの前と同じような農園の作業があるようで、指揮車に乗り込んだ俺は30分程指揮車に揺られる。
作業場所に着くとアミュネス少尉とユロジェン少尉はジョルジョネ大尉に目配せして外に出て行く。俺も道具を出して計算を始めると、何時もは横の計算が書かれていないのだが、所々歯抜け状態のように数字が書き込んであった。そのお陰で何時もより早めに仕事を終わらせる事が出来る。
何時もよりというか、昨日の分が少し入っていたようで多めだったが横の計算が出来ていた為、確かめるだけで済む。縦の計算は最近算盤に慣れてきたのか素早く計算できる。
一通り計算が終わって検算をする。それが終わって大尉に確かめて貰い、道具を片付けて外に出ようとする。すると、大尉が俺を呼び止め「隣の指揮車に行け」と、言い放つ。
はて、別に体の調子は悪くないのだが首を傾げて外に出ると、ここも同じような農園で今度はオレンジ色の実が果樹になっている。ミカンかな? そんな事を呟いて隣の指揮車の扉をノックする。
指揮車の扉を開けてくれたのはマイネンスさんであった。少しお酒臭かったのは気のせいだと思う。
指揮車の中は至って普通だったので、そういう事だと思う。中に入ると後部座席に座らされて、二人が準備を始める。マイネンスさんは画板のような物を持ってチェック項目を確認している。
先ずは何時もの様に魔素力測定をやらされる。その結果、何時ものようにミリクナ医務長のため息を聞いて、順調に魔素力が変わらないというか。変わっていないという事であろう。なんか数字をメモするマイネンスさん。
続いて、頭髪の長さを測られた。つめの長さも測っていた。定規の様な物というか。あっ、ノギスのような測定器具できちんと測っていたよ。
そこで嫌な予感がしてくる。この調子だとこの前のように色々な物を採取されかねない。
「あの~、ミリクナ医務長? 変な事はしないですよね? この前みたいにいきなり力が抜けてとか。無いですよね?」
「ん? ああ、そんな事はしないわよ。私達は計測だけだから。それに、採取したって、向うに持って行くのは大変だからね。そんなに身構えないでよ」
「はあ、そうですか。安心しました」
俺はその言葉にほっとして、今度は彼女達から問診のような質問をされる。それに順番に答えていく。体調の事とか、便所に何回言ったとか、そんな日常の事を聞かれては彼女達に答える。
体重や身長は計測しないのかと思うと、問診の後にサンダルを脱がされる。次に壁に立たされると頭の上に何かを乗せられた感覚がして「身長は1.71メト」と、読み上げられる。
やはり若干メートルとは違い誤差があるようだ。健康診断で測った時は俺の身長は170cmであるからだ。
体重も同じように量っていたようで「80キラ」と、読み上げられる。健康的な生活のお陰で5kgぐらい痩せたのかなと思わず顔がほころぶ。
ニコニコしているとミリクナ医務長が「前回より4キラ減ったわね」と、呟く。やはり若干誤差があるようだ。っていうか、いつ計ったんだ?
俺はその事のほうが気になってくる。まあ、どうせ俺を抱えて計ったに違いない。
最後に画板を持っていたマイネンスさんがその画板をミリクナ医務長に渡す。徐にメガネをはずして、彼女の容姿が一瞬祖先の姿に変わる。森人の姿にである。
瞳がオレンジ色になり髪が銀色に、見えている皮膚が真っ白になったかと思うと、また普通の皮膚の色に戻り、めがねを戻すと瞳がグレーに戻っていた。金髪の髪を左手でかき上げてぼりぼりとかく。
「至って普通だわ。この前と変わっていないね、体もその胸のそれもね。ミリー先輩、やはり寝ている時に一回見たほうが良いよ」
そういってミリクナ医務長と話というか目線で会話しているようだ。はて? 何で寝ている時に見る必要があるんだ? 良く分からない。
ああ、心電図なんかは安静にしている時に計測するからそういう事かなと一人納得する。その内、小声で「最近魔獣が現れないから試しようがないわね」とか「その時にまた頼むよ」と、いう声がかすかに聞えてくる。
いよいよ、何の事か分らないが聞くのもなんか気が引けてくる。一応は聞いた事は何でも答えてくれるようになったと言っていたが、一線を越えてはならない事が絶対あるはずだ。
それにまだ彼女達も何も分っていなさそうで、答えが出てからでも遅くはないような気がして躊躇ってしまう。まだこれからは先は長いし「時間はたっぷり有るよね俺!」と、変に自分を勇気付ける。
ようやく解放されるようで、彼女達は画板に乗せられた羊皮紙をチェックし始めて、一つ一つ確認している。徐にというかそっけなく「後は良いわよ」と、言われて指揮車から追い出される。
その時にマイネンスさんはウインクして「また今度ね~」と、手を振っていた。どうやら定期的に調べるようだと、あほな俺でも理解できる。
指揮車を出ると、年季奴隷の皆さんが分散してオレンジ色の実を収穫している。いち早くプイホンさんを見つけてしまい、彼の元に走ろうかとすると、馬に跨った集団がアミュネス少尉かユロジェン少尉のどちらかと話している様子を目撃してしまう。
普通に話しているようなので気にはなっていたが何時ものように道具袋から革ベルトを出して装備する。
その馬に跨った集団とは反対側には、この前と同じように何人かの護衛隊員が練習のような事をやっている。人数が少ないのは何処かに行っているか、休憩?
もしかすると休憩しているのかも知れない。この前と違い何処かのんびりした雰囲気で剣術の稽古をやっている。
1号馬車の荷台に道具袋を置くと、そこに置いてあった剪定ハサミを持ってプイホンさんの側に走り寄る。仕事の途中だけど彼を観察して癒しで充電する。
すると、先程アミュネス少尉かユロジェン少尉と話していた馬に跨った集団がこちらの方にやってくるではないか。何の用事が有るか知らないが馬に跨っているのは絵に書いたような金髪で青い瞳の白人だ。
側面の髪が外側に巻き上がってカールした髪型に気品のようなものを唯寄せる雰囲気で貴族か偉い人という事は理解出来る。それに護衛なのか馬に跨っているのは森人が二人、もう一人は女性のようで茶色というかチョコクリームのような髪色で見事に長い髪をたなびかせて茶色い瞳とその光景に見とれていた俺は視線が彼女と合ってしまう。
そんなイケメンと美女の馬の前にジョルジョネ大尉が立ちふさがる。
「閣下の訪問は聞いておりません。どうぞお引取りを!」
「え~、ちょっと見るだけじゃん。見るだけもだめなのかい? 減るもんじゃないしちょっとぐらいいいじゃん!」
「はあ、そういわれましても。上司の許可を取って頂かないと困ります。それにこんな所に顔を出して良いのですか? お父上にはお話は通しているのですか?」
「ちょっと二、三話するだけだよ。挨拶ぐらいしても良いじゃん! 折角遥々こんな所まで顔を出したのに~、さあ?」
「そういわれましても規則ですから‥‥‥。って、言ってる側で馬を下りて何をなさるのですかそこのお嬢さん?!」
最初はそんなやり取りを聞き流して果実を収穫していた皆も綺麗な女性が近付いた事で手を休める。その彼女がゆっくりこちらに向ってくるではないか。
皆の注目の中、彼女は徐に俺の目の前にやってきてジロジロと品定めをするように俺を見る。かすかに良い匂いがして顔が赤くなる。だって、俺を見つめてニコリと微笑んだからだ。
更に近寄ってきて、俺は思わず顔を赤くしたままたじろいでしまう。そして、じりじりと後ろに下がってしまうが彼女は躊躇しないで、俺の周りを回って何か感心したように更に観察をする。その時間が永遠に続くかと思った俺だが、急に首根っこをつかまれて彼女から俺を離す人物が言い放つ。
「はいはい~、お客様~。お手を触れてはいけませんよ~。一応は国王様の所有物ですからね! はいはい~、十分見る事が出来ましたよね、お嬢様?」
そういって俺と彼女の間に割って入ったのはメルディム護衛分隊長であった。一瞬、殺気だった物を感じたが、メルディム護衛分隊長の顔を確認したイケメン達の護衛の森人の二人が突然乗っていた馬から飛び降りてメルディム護衛分隊長の目の前に来て跪く。
その仕草を見たメルディム護衛分隊長はうんざりした表情をして、あからさまに嫌な素振りをする。一体何が起きたか理解できなかったが、何とか好奇な視線というか観察対象から守られたようなのでほっとする。
「あら~、貴方が森の姫ね! へ~、目線だけで私達の護衛を平伏させるのね。ふ~ん」
もう俺に興味が無くなったのか。そういうとお嬢様は自分の馬に乗ってしまう。それを確認した護衛の森人の二人はメルディム護衛分隊長に挨拶というか言上めいた言葉を述べてお辞儀をしてその場を立ち退く。
護衛の森人が馬に跨るとイケメンの方に近寄って何か耳打ちする。それを聞いたイケメンはあからさまに嫌な表情をして舌打ちしたかと思うと、踵を返して来た道を引き返すようだ。
何が気に入らないのか俺には理解出来ないが訳の分らない訪問者は去ってくれたようだ。それにしても、あのお嬢様は去る時に俺に投げキッスをしていった。俺が美女に見初められる謂れは無いはずだが‥‥‥。意味が分らない。
訪問者とすれ違うようにアミュネス少尉がこちらにやって来てジョルジョネ大尉に何か謝っている。
「申し訳ありません大尉! お止めしたのですが、さすがに公爵家となりますと私にも手が出せません」
「嗚呼、いいんだ。ちょっと様子を見に来ただけだから、それに他にもぞろぞろと着たようでその邪魔をしに戻っていったよ、あの人達。まったく困った人達だ」
「それにしてもなんですの? まあ、閣下の方はいいとして、女連れで一体何のつもりでしょうね?」
「ああ、品定めだよ。多分あれはリョウジが夫として十分か見に来ただけだ」
へっ? 今なんか仰いましたよね? 何で年季奴隷の俺が公爵の関係者と結婚を? それこそ意味が分らない。
「ちょっと、大尉!! 結婚とはどういう事ですか? 俺にそんなに価値があるとは思えませんが」
俺がそういうとアミュネス少尉が頷くようにうんうんと首を縦に動かす。回りも僅かに首を縦に上下させていたのは愛嬌だ。しかし、大尉はそんな事お構い無しに言い放つ。
「見てみろ、リョウジの黒髪を!! 黒髪は貴重だ!! それに勇者と同じ見た目の姿だ!! その評判を聞きつけて見に来ただけだ。皆も仕事に戻った戻った!! 彼女はお気に召さなかったようだよ。まあ、良くある事だ!」
なんか俺が貶された感じだが、まあ確かにその通りなのかもしれない。それにジョルジョネ大尉のその言葉を聞いた1号馬車の皆は苦笑いというか俺を哀れむような視線を送ると、自分の仕事に戻ってしまう。
プイホンさんだけは何も無かったように一生懸命果実を収穫していた。俺も仕事に戻ろうとすると、ジョルジョネ大尉に手招きされて、指揮車の方に肩を掴まれて連行される。
指揮車に入ると、前の席に座らされる。対面にはジョルジョネ大尉が座る。指揮車の中には二人だけで、メルディム護衛分隊長やアミュネス少尉は自分の仕事に戻るようで居なくなっていた。
「それで、本当の事はなんでしょうね、大尉?」
「嗚呼、本当の事だよ。あれは多分お見合いというか、君の品定めに来たという事だ。君は一応召喚者だからね、身近に置きたくなるのはどの貴族も一緒だよ。一番良い方法は自分の娘と結婚させれば良いからな。君はそういう立場だという事を理解して欲しい」
「はあ、だから最初に王様が手をつけて、他の貴族が手出し出来ないようにしたのですね?」
「察しが良いな。そういう事だ。年季奴隷になれば、少なくても5年間は手出しできない。まあ、だから彼らもああやって見に来たと思うよ」
「え~、っていう事はこれから続々あんな事があるのですか? 勘弁して欲しいです!」
「いや、あの方の家だけは特別だよ。奴隷王時代前からの由緒ある公爵家だからな。唯一、奴隷王時代のあの王子が信頼した家柄だからな、この大陸中に情報網がある。詳しくは分らないがそういう事だ」
「はあ、そうですか。あんな美しい女性にじろじろ見られるのは勘弁して欲しいです。眺めるのは良いですけど‥‥‥」
「君はああいうのが好みか? まあ、確かに美しいと思うが、あの仕草は頂けない。品位に欠ける。そういえばあの公爵に未婚の娘なんか居たのかな? ‥‥‥」
「そういえば、あの公爵のお名前は?」
「ああ、そうか。君も知っているはずだが。スアーダ公爵だ。ほら、俺が書いた絵本に載っていたアウタルス王子を助ける公爵家だ」
「はあ? そう言えばそんな名前の家でしたっけ? 今度は私と面識を持とうという事ですか? まったくご苦労な事で‥‥‥」
これは人生初のモテ期到来か? ‥‥‥。いやいや、違うでしょ!! 権力の道具に利用されるかもしれないよ?!
でもあんな綺麗な人に迫られちゃうと‥‥‥。断る自信が無い。俺の障害は化け物じみた獣や魔獣だけかと思ったら、それ以外にもあるらしい。
「あ、でも。『イケメン』。いや、その男性のほうが何か舌打ちしていなくなりましたよね?」
「ああ、彼らの後を付けた連中を排除しに行ったのでは? そういう連中も居るようだし‥‥‥。嗚呼、心配しなくても良いよ。森人の護衛が付いていただろ? それに多分ほかにも護衛を引連れている」
「はあ、でも俺はどういう対応をすればいいのですか? 公爵といわれても偉い事は分りますが、どう対応していいか分らないですよ?」
「別に大した事はしなくていい。 ああいう人達が来たらニコッと微笑むだけでいい。そして、何時ものように仕事をしてればいいのさ。」
「え~、でも、大尉は権力争いは無いって言ってましたよね? 俺なんかを利用して何になるのですか」
「嗚呼、確かにそういったが表面上は権力争いは無いという事で裏側での事は分らんぞ。それに実力行使は少なくても5年間はしてこないから安心してくれ」
なんだかな~。これって、暗に5年立ったら年季奴隷を継続しろよという事なのかと考えてしまう。と、いう事は当分と言うか、権力争いのような物に巻き込まれない為にもずっと年季奴隷をしないといけないという事だよね?
それに大尉の目が僅かに笑っていなかったのは気のせいであろうか。何時ものように顔はニコニコしているのだが目は笑っていない。
「あの~、それで。もう仕事に戻ってよろしいのでしょうか?」
「ああ、構わないよ。これからもああいう事はあると心積もりしてくれればいい」
外に出た俺は大きくため息をしてしまう。
新たな不安な事が増えて困惑してしまう俺であった。
☆ ☆ ☆
ジョルジョネ大尉の奴隷旅団所属中隊を後にした彼らは先に護衛の森人を先行させる。イケメンの彼は排除を示す手の合図で指示を出す。その仕草に意義を唱える美女はイケメンに問いかける。
「ハルーツンお兄様宜しいのですか? もしかしたら他家の子息かもしれませんよ? こんな所で面倒事を起したら困るのでは?」
「あ~、そうだった。ここは直轄地だったね。じゃあ、どうする?」
「別に良いのでわ? なんか貧弱そうな方だったし、このアラレスティ大陸で生きていけるのかしら? 多分私と同じように皆様も気落ちすると思いますわ!
勇者とは似ても似つかない、あの姿では本当に王国の助けになってくれるのかしら?」
「そんな事いうもんじゃないよミラニエ。もしかしたら何かを隠していて、俺達の目を欺いているのかもしれないよ?」
「そうかしら? どうみても勇者や賢者には見えなかったわよ。奴隷組合も目が腐っているのでわ?」
その言葉を聴いたハルーツンは何を言っても駄目と諦めた仕草をして、待機させていた護衛の森人に再び合図をする。捨て置けという合図であった。
様子を窺っていた護衛の森人は再びの合図に頷いて他の者達に分る様に攻撃中止の合図を出す。それを確認したように30人程の騎馬が彼らを護衛するように集まって併走する形で馬を駆る。
「さて、今日はあの村にでも泊るかな?」
「え~、帰らないのですか? ハルーツンお兄様がお散歩に行こうって言うから付いて来たのに、結局お見合いのような事をさせられただけですわ!!」
「はいはい、ちょっとここまでは飛ばしすぎたから、他の皆も集結させる必要があるからね。まあ一泊ぐらいいいじゃん」
「でも、あの奴隷旅団所属中隊が泊っているからあそこには泊れないわよね?」
「そんな事どうとでもなるよ。任せとけって」
そういってニコリと微笑み馬を駆るハルーツンであった。
リョウジが見たら「爆ぜろイケメン」と、叫んでいたに違いない。
☆ ☆ ☆
そんな彼らが中隊を去った後、自分達が泊まっている宿舎に来るとは思わない俺であった。
中篇へつづく
次話は明日1/19の昼頃に投稿する予定です。




