<3-5> 「年季奴隷と農作業 (後編)」
最新の本文修正日は2014年12月10日です。
プイホンさんを助ける為に猫騒動に巻き込まれた俺ですが、トラブルの原因はなぜだか俺のようです。過去の召喚者である勇者もトラブルに巻き込まれたり、巻き込んだりしたそうで、昔も森人が関ったトラブルに今回も森人の関係者であるメルディム護衛分隊長とクワビムさんが関る事になる。
それにしてもあの猫親分はかわいそうな事をした。下の者の不始末を着けに乗り込んでみれば仮病だと分り俺に謝り、メルディム護衛分隊長には古い仕来りを変えられてしまう。
最悪なのは弱電流の魔素術でアミュネス少尉に尻尾を愛でられてしまったからだ。別に羨ましいとはこれっぽっちも思っていませんよ。だって念願のプイホンさんを抱っこする事が出来たのだから‥‥‥。猫としてです!!
ジョルジョネ大尉から渡された絵本を読んで、召喚者はトラブルメーカーとメルディムさんから言われた俺は昔の召喚者の勇者と同じように、王子の変わりに奴隷旅団所属中隊に迎えられて旅をする事になって色々とトラブルに巻き込まれるようだ。
まあ、あの絵本には最後の方にしか出ていなかったけど、あれからの苦難の道を察すると俺もどうやらその道を歩むらしい。メルディム護衛分隊長話を聞いてそんな事を思う俺であった
ジョルジョネ大尉が描いたという絵本を読み終わり、感想的なものを言ってその本を返す。中に使われていたのは手帳と同じような羊皮紙であった。挿絵は大尉自ら描いたと思う。
あ~、森人族からしてみれば結構迷惑な話だったよね? それが俺が思った感想であった。当然大尉にはその事は言えない。
作業終了まで今日はお外に出してくれそうもないので、これからの日程の話を手帳に書きながら聞いてみる。まあ、途中で依頼や魔獣が出るとそれが優先になるようなので当てにはならないが、聞いて置くとそれなりに心の準備が出来る。
結果、基本は三日毎に馬車村に寄るという事と、春月に近付くと農作業が増えてくるという事であった。行程表のようなものが有るのだが、俺が居てそのように行った例がないと、逆切れまでされてしまう。
嗚呼、やっぱり俺が悪いようだ。俺は何も悪い事はしていないのだが‥‥‥。俺が悪いのか? 考え込む俺に大尉は諭すように付け加える。
「行程表を表ざたにすると、この隊の場合は先回りされる恐れがあるので気にするな。俺もちょっと言いすぎた
来月の給料はここから二つ目の馬車村で出すから、そこで作業と休暇をと考えている。まあ、そこで気晴らしをすると良い」
「はあ、分りました。それで明日は計算の後は農作業の手伝いをしてよろしいのでしょうか?」
「嗚呼、そうか。プイホン君が狩りの代わりに同じ作業をするから君も手伝うといい。まあ、あれは俺の確認が出来ていなかったせいでもあるからな。ここら辺の岩猫の仕来りがあんなものとは思っていなかった」
「へっ? 岩猫ってそんなに各地に居るのですか?」
「ん? あっ、そうか。君は知らなかったよな。岩猫って呼ばれているが、町や村の近隣に住み着く猫種の事を総じて岩猫と呼んでいる。主に、年季奴隷の仕事や、年季明けの者が自由人や市民階級になって、プイ狩りの胴元のような事をしている者も居る。まあ、殆どが小さな獣の駆除を生業にしているな。
土猫は農作業をする主な猫種の事をいっているのだが、小さな村では小さな獣。ああ、プイなんかを狩る事もあってな。彼はその仕来りの事は知らないのだろう。今回はその事で大きな話になってしまった。
まさか、リョウジが岩猫共を追い回すとは思っていなかった。偶に魔素術を使う奴が居るから気をつけろよ!」
「はあ、そうなんですか。あっ、その事はプイホンさんにも注意されました。でも、そんなに強力な魔素術を使うのですか?」
「ああ、『風牙』と言ってな、風属性の魔素術を使ってくる猫種が居る。あれは真空の風の刃を飛ばしてくるから厄介だぞ。森猫系が使ってきたはずだ。あれだけは誕生属性やそんなものは関係なく使ってくる種族属性といっていい」
そんな恐ろしい技が使えるとは知らなかった。しかし、今更である。
「はあ、以後、気を付けます」と、俺はそれだけしか大尉に言えなかった。作業が終わりなのか、覗き窓を開けた大尉は左手を出して合図の音を外に響かせる。
何処か遠くでゴナベル奴隷長の「作業止め」の声が聞えてくる。暫くするとアミュネス少尉とユロジェン少尉が指揮車に戻ってきて大尉に報告をして出発する。
また30分程馬車に揺られて宿泊施設に戻るようだ。その間中アミュネス少尉は手袋を取って何かの感触を確かめるようにニギニギして思い出すようにニコニコしていた。さぞかし握り心地が良かったのだろう。
俺も同じようにプイホンさんを抱っこした時の事を思い出してしまった。そんな二人のニコニコ顔に怪訝な顔をする大尉とユロジェン少尉はお互いに見詰め合って首を傾げていた。
馬車が止まると俺は降ろされる。三人は仕事が残っているようで、俺が出ると出てこなかった。御者親子は、馬具をはずして、馬を何処かに連れて行く。続々と、車庫に馬車が入ってきては、御者をしていた年季奴隷達が馬具をはずして馬を何処かに連れて行く様で、厩舎は別にあるようであった。
気になった俺は馬を連れて行く彼らが厩舎に入るのを見届ける。中を覗くと、なんと言うことだ! ネコさん達がイソイソと馬の世話をしているではないか!! こんな所に居たのかよと一人驚愕する。
しかし、仕事をしているので追い掛け回すわけには行かない。だって、何人かは見覚えがあるようで俺の顔を見て逃げ出してしまったからだ。ショボンとしてトボトボと宿泊所に向う。
さっさと部屋に行って道具をベットに乗せて、洗濯されて戻ってきた洗濯袋の中身から新しい着替えを取り出す。袋を持って浴室に向う。昨日と同じようにプイホンさんのアワアワタイムを堪能した後に一緒に湯船につかる。
「兄ちゃん、凄いな~。あのでかい親分に一歩も引かなかったよね。おいら尊敬しちゃった!!」
嗚呼、今日の俺はこの一言のために頑張った気がしてその余韻に浸る。すると、ゴナベル奴隷長がプイホンの頭をゴツンと叩く。
「馬鹿やろう! 今日のはてめぇの為にリョウジが体張ったんだぞ!! 今度から忘れずに岩猫共と面倒起すなよ!」
怒られてしゅんとするプイホンさんにまたもやキュンとする俺。いやいや、そうじゃないでしょ!
「まあ、俺よりはクワビムさんとメルディム護衛分隊長にお礼をしないと駄目だよ?
君の事を守ったのは結局彼女達だからね。これに懲りて他人の縄張りは荒らしちゃ駄目だよ?」
そういうと返事をしてゴナベル奴隷長に連れられてプイホンさんは湯船から出て行く。最後に体を震わして水を切るプイホンさんは理解しくれたのか分らないが、多分これから晩御飯を食べる事に集中しているのであろう。彼は走って浴室を出て行った。
その様子を見た俺は首を傾げながら湯船から出て、タオルで体を拭く。あれ~、何かがおかしい。確かにおかしい。そこにあるべきものが無かったからだ。俺の勘違いなのかな?
俺の目の錯覚だったのだろうか。確かプイホンさんは男って話だったよね? なんでタマタマがないのだ? 新たな疑問が沸いてくる。着替えを済ました俺は、洗濯物を受付に渡して、食堂に向う。
変な話、隣のゴナベル奴隷長は確かに立派なものがぶら下がっていた。なのに、その横の彼は尻尾を上げていた後姿からは見えなかった。前から見れば見れるのか? いやいや、そんな事をしたら今度こそ変な噂が立ってしまう。何時も「おいら」っているし、胸はなかったよね?
そんな事を考えながら晩飯を貰ってテーブルに着く。晩飯を食べながらプイホンさんを観察するが何時ものようにがっついて晩飯を食べている。最後はゴナベル奴隷長にお酒を貰ってバタンキュ~である。う~ん、見た目だけじゃ分らない。
そんなプイホンさん異性疑惑が今度の俺の疑問になってしまった。嗚呼、別に女の子でもいいのですけどね。見た目は分らないし、これが獣耳少女なら話は別ですが‥‥‥。見た目は至って猫だからね。
次の日の朝に早朝訓練の前に厩舎を覗くと、プイホンさんが馬の世話をしていた。他のネコさんも同じように馬の世話をしていて、別にプイホンさんが苛められているような事は無かった。普通に会話していたし、御互い仲良くなったのかと表面上はそう見えて俺は安心する。
振り返って訓練をしに行こうとして、俺が追い詰めた丸猫さんと目が合ってしまう。向うは固まっていて動けないようであった。俺は気軽におはよ~と、声を掛けて彼に近寄ると、一目散に逃げてしまう。嗚呼、完全に嫌われてしまったようだ。
まあ、この次の馬車町か馬車村の厩舎を覗けば他の猫さんに会えるからいいやとその時は軽い気持ちで訓練の場に向かう。
何時ものように素振りをして良い汗をかく。そうか、朝飯の前にはプイホンさんは馬の世話をしていたのかと一人納得する。じゃあ、移動日もそうなのかもしれない。新たなプイホンさんの生態を発見できて昨日の事は捨て置いてしまう。
朝飯の後にいつものように道具袋を持って指揮車に乗り込む。今日はアミュネス少尉が俺を入れてくれた。やはり交代で早番のようなものがあるらしい。日記にその事を書いていると、残りの二人が乗車してくる。
昨日と同じように30分程で指揮車が止まって、ジョルジョネ大尉が俺に仕事をくれる。貰った仕事をこなすと今日は外に出て良いそうで道具袋を持った俺は解放される。直ぐに一号車を探して歩き回る。結構仕事が捗ったようで、二日前よりかなり遠くの方まで一号馬車が進んでいた。
そこまで歩いていく途中に、二日前と同じように護衛隊の面々が訓練をしている。歩きながらそれを見物していると、人族9人とメルディム護衛分隊長が対戦するようだ。しかし、ものの五分と掛からずに最初の4人が剣の腹で足をなぎ払われて倒れる。そこで目の前にクナイが飛んできてチェックメイトである。
残りの5人は連携して空中のクナイや片手剣を打ち払う。隙を見て交互にメルディム護衛分隊長を追い詰めるが余裕の表情でそれを全てかわす。さすがに五人が連携して攻撃と防御をやると隙がないのかと、勝手に思い込んだ俺であったがどうやら違ったようだ。彼らが連携して攻撃と防御をする様に仕組んでいたようだ。
その証拠にメルディム護衛分隊長の攻撃速度が段々速くなっていき、次第にそれを捌ききれなくなる五人は一人また一人と脱落して行く。あっという間に次々足を払われて倒れこむ。倒れこんだ所に目の前にクナイが狙い済ます。メルディム護衛分隊長は連携できるように訓練をしていたようであった。
交代して、今度はラグフム護衛副分隊長が新入りの森人を鍛えるようだ。この前と同じように空中にクナイや片手間が乱舞する。今日は瞬殺しないようで、じりじりと新入りの方を追い詰めていく。やがて、手詰まりになった新入りさんが、何かに躓いてひっくり返る。そこに長剣を目の前に指されて降参のようだった。
獣僕達は訓練をしないようで、あたりを徘徊して周囲を警戒しているようであった。残ったのは覆面二人組みと熊さんである。熊さんのラグルートさんと覆面の一人のバールートさんはペアを組んでメルディム護衛分隊長と対戦するようだ。
熊さんは大きな斧を振り回す。それを援護するように大きな草刈鎌を振り回して、左手の丸盾で飛んでくる剣やクナイを捌くバールートさん。彼らは他の人族の集団とは違い、上手く連携してメルディム護衛分隊長を追い詰めて行く。
しっかり役割分担が出来ているようで他の人達よりは長くメルディム護衛分隊長と対戦していた。しかし、連携を分断するようにクナイを操るメルディム護衛分隊長には敵わないようで結局負けてしまう獣人ペアであった。
いよいよ、最後に残った覆面彼女は新入りの森人さんと対戦するようであった。覆面彼女さんは大きな鉤爪が付いた手甲のようなものをつけている。それで飛んでくるクナイや剣を弾き、間合いを詰める。
体をひねったり、回転しながらその鉤爪の手甲で攻撃していく。すると間合いを空けたと思ったら、その鉤爪が勢い良く森人さんに飛んでいくではないか。
それを上手く交わして、例の如く空中で何かが掴むように彼女の鉤爪が奪われた感じになって、覆面さんに向っていくではないか。すると、今度は反対側の鉤爪を飛ばして攻撃する覆面彼女さん。
飛んで来た自分の鉤爪を軽く宙返りして交わし、地面に着地して鉤爪を踏んづける。すると反対の方も奪われたようで覆面さんに同じように向って行くが、踏んづけた鉤爪を素早く手元に戻すと、はっきりと見えなかったのだが飛ばしている鉤爪は何か紐のようなものが付いていて、その紐を引張って軌道を変えてしまう。
まあ、一進一退のような攻防をする二人は中々決着が付かない。へ~、結構やるもんだね覆面彼女。他の誰よりも長く戦っているではないか。しかも覆面彼女は一糸乱れることは無かった。
結局、相打ちのような感じにお互いの武器がお互いの急所を指し示して止まる。その対戦は唯一の引き分けであった。いやいや、森人相手にあそこまで粘るとは思っていなかった。結局立止まって彼女達の対戦を観戦してしまった。慌てて、一号馬車まで走って向う。
急いで道具袋から革ベルトを出して、荷台に道具袋を置く。剪定ハサミの鞘をベルトに挟み、皆と同じように赤梨を収穫する。今日はプイホンさんも同じように果樹の下のほうの赤梨を収穫していた。
木箱が直ぐに一杯になって、空き箱を持って来るついでに一杯になった木箱を馬車まで運ぶ。何気に視線を果樹園の境界の草叢に移すとガサガサ動く様子が見て取れた。
暫くすると草叢からひょいと顔を出したのは猫さんである。腰に革袋を下げていてプイホンさんと同じような格好をしていた。そして、直ぐにまた草叢の中に入っていく。それを羨ましそうな視線でプイホンさんは眺めていた。嗚呼、その羨ましそうな仕草も良いですよと俺は心の中で囁く。
そんな半分集中したというか上の空のような作業時間が過ぎて行く。太陽。いや、ここではサラム様であったが。それが真上に来るちょっと前に、ゴナベル奴隷長が休憩の合図をする声がする。
いつもなら、直ぐにいなくなるプイホンさんであったが今日は大人しく腰の革袋からパンを出してモシャモシャ食べ始める。そして、木箱から皆と同じように赤梨を取り出してシャクシャクと音を出して食べていた。
甘味には余り興味が無い様で美味しそうな雰囲気ではなかった。すると、ゴナベル奴隷長が戻ってきて、満杯になった木箱を指差して俺と二人で護衛隊人達に配ってこいといわれる。
猫車は彼にはまだ無理なようで、俺が代わりにそれを押して護衛隊の皆さんの所に二人で向う。俺が猫車を押しながら皆さん所を回って、プイホンさんが彼らに言われた数を差し出していた。
メルディム護衛分隊長の前に行くとプイホンさんは昨日のお礼を言っていた。クワビムさんにも同じようにお礼を言っていた。ああ、忠実に俺の言っていた事を守ったようだ。今日は森人達は赤梨に口をつけていた。近付いて分ったがやはり新しく入った森人さんは女性であった。
「あっ、リョウジ! そういえば紹介していなかったね。リョウジの護衛を偶にするから覚えておいてね二人共! 彼女は前の中隊の副分隊長をしていた『ランメネエム』という」
「はあ、ランメネエムさん始めまして、リョウジといいます。護衛の時はよろしくお願いします」
そう言って深くお辞儀をすると、彼女は凄く驚いた表情をして俺と同じように頭を下げる。
「ねえねえ、メルディム姉さま! お爺様に聞いたようにこいつもお辞儀するんだね!」
「嗚呼、そうだよ。彼もあの勇者のように『ヒノモト』から来た人だから礼儀正しいよ。但し! 武術は苦手だからね余り突っ込まないように。だけどあたしらと違ってここがいいから計算は速くて見事なものだったよ」
「へ~、こいつ『イアイ』は使えないのか~」
嗚呼、確かに年下だからこいつ呼ばわりされても構わないのですけど、どうしても見た目が二十歳前の女性に見えて何かカチンと来るが我慢する。それにメルディムさんがフォローを入れてくれて計算が出来る頭が良い男アピールしてくれたから良しとしよう。覆面彼女に引き分けたくせにと心の中で毒づく。
それにお爺様? とか言っていたような。彼女の名前が何処かで聞いたようで思い出せない。しかし、しっかり名前の最後に森の子を示す『ム』が付いていた。
「彼女には獣僕がいたのだけど何処行ったかな?」
そう言ってメルディム護衛分隊長はキョロキョロするけど、いないようだ。
「まあ、真っ白な奴だから今度見かけたら紹介するよ。確かなんていったランメネエム?」
「はあ、私の最近獣僕になった奴で彼女は森狼の『ボゾシカム』って言ったかな」
おいおい、そんないい加減でいいのかお嬢様? しかし、同じように最後に『ム』が付いた。それに偶然なのかボグフムさんと同じように最初に『ボ』が付いたのは偶然なのだろうか? それにしても森人族関係者は名前が呼びにくい。この前会った森人達も似た様な名前で呼び難かった事を思い出す。
「はあ、その方も森狼なんですね」
「ああ、森に住むのは皆狼って呼ぶのさ」
俺がメルディムさん達と話している間に残った赤梨が入った木箱をプイホンさんが抱えて熊さんの所に持って行く。全部配り終わって箱を抱えてこの場から離れて行くプイホンさんが気になったがついつい長話をしてしまう。
「そういえば先程の練習を見せて貰ったのですが、覆面の彼女は強いですね~」
そういうと少しムッとするランメネエムさん。
「ああ、彼女か。唯一こいつと対等な腕を持っているよ。中々使えるが私には敵わないよ!」
なんだか自慢話のように話すメルディムさんであるが、ランメネエムさんをこいつ呼ばわり出来るのだからそういう事だろう。
「私だって日々強くなっているのですよ!! いつか勝って見せます!!」
「ったく。これだからお嬢様は世間知らずなんだよ。彼女は人族。私らとは違い、お前が使えるようになった頃には彼女は引退するよ!
さあ、休憩は終わりだよ! もう少し連携の訓練をするから覚悟しな!
ほら! 給料分は仕事しな!!」
そういったので俺はすごすごと引き下がる。ランメネエムさんは他の森人達とは違ってくすんだ銀色の髪を後ろには縛っていなかった。短く髪を切ったショートヘアで細長い耳の耳たぶには赤色の宝石のようなイヤリングをしていたのが印象に残った。しかし、あのオレンジ色の瞳だけは慣れない。視線が合ってしまうと腰が引けてしまうのは俺だけだろうか?
ランメネエムさんのお爺様が勇者を知っているといっていたよね。それにメルディムさんのお婆様も知っている風な会話だったよな~。あれ? と、いう事はまだご存命で、奴隷王事件の話を直に体験したという事か?
ははは、長生きだね~。そういえばガルボルテ工作長も直接体験したといっていたから、結構身近な事なのかもしれない。
皆の所に戻ると、収穫作業を始めていた。溜まっていた満杯になっていた木箱を馬車の魔技箱前まで運ぶ。何度か往復して空き箱を補充する。そんな事をしていると。空き箱が無くなり、また魔技箱で転送する。いたって単純な作業であった。
今日は何事も無く作業を終える。道具を片付け、宿泊所まで帰るのに皆が馬車に乗る。明日はまた移動日だ。また、紙を漉かなくてはいけない。結局、紙は移動日中の二日に漉く事を決める。鍋一杯にワラを仕込めば50枚は漉ける事が分った。二日で100枚になる。紙を漉く時に入れる、ぬるぬるした粉も1回で済む。
そんな事を考えていると車庫に着いて皆が降りる。何時ものように降りると馬を厩舎に連れて行くようだ。これからの日課に新たな楽しみが追加される。
その日課をこなす為に厩舎を覗く。今日も一杯居るよ!! 10人ほどのネコさんが馬に飼葉をやったり、束子のような物で体を擦っていたりと甲斐甲斐しく世話をしていた。
中には物陰で何かを捕まえているネコさんも居る。嗚呼、厩舎にもプイ。鼠が出るのかと納得する。クイッと首をひねって腰に革袋にそれを入れている。その時は得意そうに髭がピンと上がっていた。今日は彼らに見つかることなく堪能できた。慌てて、アワアワタイムを思い出して宿泊所まで走る。
着替えを持って浴室に飛び込むと、タッチの差で泡踊りは見ることが出来なかった。丁度湯船に入る所であった。仕方なく体を洗い、湯船に入る。すると、彼らは上がるようで湯船から出て行く。
ふと、彼の股間を見たが濡れた毛が邪魔ではっきりと見ることは出来なかった。しかし、ゴナベル奴隷長が彼の体をじかに手で洗っているから女子なら気付くよね?
自分で解決したいがまだ機会はあるかもしれないと自分に言い聞かせて浴室を後にする。これから5年近く付き合うのだからチャンスは無数にある。昨日だって抱っこできたじゃないか。
晩飯を貰って席に着くと、今日のプイホンさんはお酒を飲んでフラフラ歩いて自分の部屋に歩いて行く。その後をゴナベル奴隷長が付いていく。羨ましい光景であるが今はゴナベルタイムであるから俺が邪魔する余地は無い。
横目で眺めながら晩飯を食べていると、厨房からの好奇な視線を感じる。俺の仕草を観察されていたようで、どうやら俺はもの欲しそうな顔になっていたらしい。
「ゴナベル奴隷長とリョウジがプイホンさんを取り合っている」とか「リョウジが嫉妬の炎で燃えている」とか、そういう話が聞えてくる‥‥‥。勘弁してください腐女子の皆様。
大人しく薬を飲んで食器を返しに良くと、彼女らの視線の為不審者のように食器を下げてしまう。その時に、ギムネーヤ料理長からお声がかかる。
「リョウジ、この前ウドンを作った時に。その~、紙だったかを分けてくれると話してくれたよね?」
「ええ、今順調に作れているので。あ、でも、羊皮紙みたいには立派ではないですよ。文字はかけますが、俺が作ったものなんでちょっと雑ですが‥‥‥。それでもよければ分けますよ。
あ、お金なんか入らないですよ。材料は支給されているんで、お金取ったら俺が怒られます」
「そうかい、じゃあ少し分けて欲しいのだけど」
「ちょっと待っててください」
そういって部屋の戻って道具袋に入っていた20枚程の紙の束を持って食堂の厨房に戻る。それを渡すとお礼を言われる。眺めていると枚数を数えて半分10枚程を少し小柄な女性に渡している。そこに居る女性と変わらない容姿で金髪に青い瞳の少女である。彼女は紙を手にするとニコリとして俺にお辞儀して厨房の奥に行ってしまった。
ギムネーヤ料理長にまた必要なら声をかけてくださいと言って厨房を後にする。一体、あの紙を何に使うのか気になりながらも、部屋に戻ってベットに寝転がり5分程探査の訓練をすると、眠ってしまう俺であった。
次話へつづく
次話は1/13の昼ごろに投稿します。




