<3-3> 「年季奴隷と農作業 (前編)」
最新の本文修正日は2014年12月9日です。
藁半紙の大量生産の計画をして移動日にも紙を作る俺ですが、10日程何も無く平和な日常に飽きてきたようです。
さんざん命の危険があって平和な日々に憧れていたのに違う作業があると何か浮き浮きするのは一体どういうことか分らない。
まあ、余計な事を考えているとジョルジョネ大尉は何か考えていたようで、二人の部下が算術を出来るように画策して俺にその白羽の矢が立つ。
その二人の部下である彼女達は最初の簡単な問題の時には何も問題が無かったのに、少し問題を難しくすると苛立って覇気を撒き散らして俺の胃が痛くなる。一人だけなら良いのだがダブルでそれをやられるとさすがに堪える俺であった。
10日程彼女達に教えているのだが。桁が多くなると頭を抱えるので、一体どういう事か俺には理解できない。やり方は同じなんだけどね。今度は算盤まで教えてやってくれといわれたらどうしようと、新たな不安がこみ上げてくる。
新たに始まった日課が終わって指揮車を出ると、何時ものようにプイホンさんで癒し成分を補充する。その後、何時ものように馬車村に着いたのは日が落ちてからであった。
明日は、移動しないで村の近くで農作業するらしい。しかし、何時ものように起きて作業場に向うらしいので、移動日と変わらない時間で行動するといわれる。荷馬車で農地まで行くらしいので、洗濯物と道具袋はとりあえず下ろして部屋に持って行く。
宿泊所の楽しみのプイホンさんのアワアワタイムを堪能して、お決まりの酔いつぶれる風景を眺める。今日も幸せな気分に浸れて満足する‥‥‥。異世界万歳である。
そうすると、この前に見せて貰った中隊の編成表を思い出す。そういえば特殊騎馬、聖獣が3匹に増えていた事と、新たに護衛隊員が増えたという事だ。俺の知っている聖獣は大狼と大虎である。今度はどんな聖獣が増えたんだ?
それに獣人はどんな人が増えたのか気になってくる。まあ、新たな楽しみが増える事は良いことだと一人納得する。部屋に戻ってベットに寝転がるといつの間にか眠くなってくる。何時ものように寝る前に探査の練習をして疲れて眠ってしまう。
ここ最近変な夢というか、夢らしい夢を見ていなかった。悪夢を見ない事は良いのだが、突然そういう夢を見なくなるというのも変な気分で物足りなくなる。
そんなモヤモヤした気分で早朝練習に参加して素振りの練習をする。そこでまた気になってくる。そういえば護衛隊の人達は一体何処に泊まっているんだ? 今度聞いてみよう。
朝飯を食べながら、ふと考える。また、ジョルジョネ大尉の部屋を聞くことを忘れていた。飯を食い終わってうろうろしていると、廊下で大尉に会って指揮車に乗れといわれる。
現場に行って計算の仕事をして、それから農作業を手伝うらしい。首を傾げながら指揮車をノックすると中にアミュネス少尉が先に居て扉を開けてくれた。
中に入って何時ものように日記をつけていると、残りのユロジェン少尉とジョルジョネ大尉が中に入って来る。暫くして出発の合図がすると、30分位馬車に揺られて急に馬車が止まる。二人の彼女達は降りたが、ジョルジョネ大尉は車内に残り俺に羊皮紙の束を渡して、後ろの席で仮眠を取り始める。
嗚呼、やはり俺は農作業の前に計算の仕事があるらしい。時計を見ると何時もの時間で、朝の9時半。24時間に直すと7時半ぐらいである。計算が終わると何時ものように11時位で24時間に直すと10時位迄掛かってしまう。
大尉が起きて来てそれを彼に渡すと今日の分は終わりで、話があるのかと思い待っていると特に無かったようで指揮車から追い出される。ああ、聞きたい事を整理していなかった俺にも非があるので仕様がない。
外に出ると起伏がなだらかな台地一面の果樹園であった。木の枝には真っ赤なりんごのような実がなっている。年季奴隷の皆がそれらに群がっていて木箱にその赤い実を剪定バサミのようなもので切り取っていた。
そこで始めて気付く、皆腰にあの分厚いベルトをしているではないか。腰にハサミを入れるホルダーのような物をベルトに取り付けている。ああ、あのベルトはその為に使うのかと一人納得する。色んな道具をあのベルトにつけるようだ。そういえば朝の訓練でも着けていた事を今更ながら思い出す。訓練の時は剣の鞘を付けていたような‥‥‥。
道具袋の奥に仕舞ってあったベルトを出して自分の腰に巻く。ああ、久しぶりにベルトを付けると、なんだか引き締まる感じで懐かしい気がする。建設現場で使っていた安全帯もこれぐらいの太さだった。
1号車の皆が集まっている所を探してそこに足を運ぶ途中、果樹園の外れで20人ぐらいの集団が何かやっているのを見つける。良く見ると、集団の中に森人達がいるではないか。集団の中で何かを話しているように見えた。
丁度、1号車のメンバーはその何かをやっている護衛隊員の近くで赤い実の収穫をしていた。一号馬車の横に木箱のような物が積まれていて、空き箱と中に赤い実が入ったものがある。猫車で何箱か積んで馬車の所に持ってきているようであった。
馬も繋がれていたので、遠くに離れると移動すると思うが、荷台の横にローラーが着いた台が置いてあることに気付く。その先を見ると少し大きめの魔技箱の蓋が見える。
首をかしげながらも、箱の近くに置いてあった予備のハサミを腰のベルトに取り付ける。ハサミの鞘は上からベルトに挟める作りになっていた。はさみは剪定用で鉄製である。
皆に挨拶をして同じようにりんごのような実を収穫するのを手伝う。収穫を手伝っているのだが、何か護衛隊の方が賑やかな声がしてそちらに視線を移すと、護衛隊も訓練のような事をやっていた。
そういえば護衛隊は18人に増えたのだが、この前までは森人が二人に獣人が4人であった。聖獣が一頭増えたはずなので、森人がもう一人増えたという事だろう。それを探す‥‥‥。あ、居た!! 白い聖獣の横に白い犬のような獣人が立っていて、その横に森人が立っている。
まあ、森人は背が小さいようなので、女性か少年なのかもしれない。ここからでは判別できない。それに白い聖獣はどう見ても犬だよね? 三角の耳に巻き上がった尻尾。それが獣人と聖獣の両方に着いている‥‥‥。両方にだ。まあ、俺が文句を言える状態ではない。
その他の人を見回すと、覆面の人は2人、森人が3人、その獣僕が3人、大きな熊さんが1人‥‥‥、あれ~、おかしいぞ?!
三回程数えたがどう数えても他の人数は9人である。その9人はどれも人族である。それもむさい男共だ。ああ、それはもうごつくて、筋肉隆々である。期待していた訳じゃないけど‥‥‥。少し期待してました。
気持ちを切り替えて訓練で対戦している二人の風景を眺めるのだが、メルディム護衛分隊長と対戦しているのはラグフム護衛副分隊長である。もうね、無数のクナイやお互いの片手剣が乱舞していて。あっ、真剣でやっていらっしゃる。
年季奴隷達とは違い彼女達の訓練は真剣を使うようだ。一向に決着がつきそうにも無い。その内、周りの一号車のメンバーの誰かが「お前はどっちにかける?」とか「俺は隊長に一杯」と、そんな言葉が小声で聞えてくる。この人達も好きだよね賭け事。やがて、今の場所の果樹から実を獲り尽くしてしまい隣の果樹に移る。
空箱がドンドン埋まっていきそれを猫車に乗せて荷馬車の方に持っていく。空箱が無くなると、今度は荷馬車のローラーが付いた台の魔技箱を作動させる所を見ることが出来た。次々に台の上に木箱を載せていき、それを木の棒で押して蓋が開いた魔技箱の空間に押して行く。
嗚呼、これが倉庫直通型の魔技箱なのかと納得する。100箱近くあった満載の箱が今度は空になって送り返されてくるではないか。奴隷組合の倉庫側にも職員が居て空き箱を送り返しているらしい。
1号車がその作業を終わると、直ぐに魔技箱の蓋が閉じられて、少し離れた横に居る2号車が同じように魔技箱を作動させて満載の木箱を送っている。次々、順番に奴隷組合の倉庫に送っているようであった。
戻ってきた木箱を猫車に乗せて、また同じ作業を繰り返す。ふと、何か物足りないような気がして、一号車のメンバーを数えると誰か足りない。
ゴナベル奴隷長は魔技箱を作動させている場所に行って何か指導しているので員数外なのだが、俺の癒し係のプイホンさんが見当たらないのである。果樹から実を採りながらドルバン車長に声を掛けると、プイホンさんは果樹園のプイを駆除していると言っていた。
実が付く頃になると、プイが増えてきて果樹園を荒らすらしく、村の猫種を動員しても足りないそうだ。だから、彼はこの馬車村にいる間は他の猫種と合同でプイを狩っているといっていた‥‥‥。そんなハーレムがあるなら俺が行きたい。
一体どんな猫種の方々が居るのだろうか? 気になって周囲を見渡すが果樹園が広すぎてどこに居るか分らない。それにしても広大な果樹園である。たったの三日程じゃ仕事が終わらないよね?
昼の休憩になって一号車の皆で輪になってパンや先程採っていた実を頂く事ができた。りんごのように赤く見た目もりんごなのだが、どっちかというと梨のように感じる。名前を聞くと驚く事に漢字で聞こえてくる。
「赤梨」と、呼ばれているそうで、この地方では冬の果物の定番らしい。王国各地に転送されていて遠くに行くほど値段が上がっていくそうだ。
冬の時期しか実が生らないので、この忙しい時期に来る奴隷旅団所属中隊は総出で収穫を手伝うそうだ。俺らが三日程ここで収穫しても終わるものではないので、次々に他の奴隷旅団所属中隊がここで仕事をするらしい。
まあ、荷物を町や村まで運ばなくて良いのだから、収穫するだけの仕事で効率は桁違いに良い。喉が渇いていたが、この果実のお陰で喉が潤う。
ふと、護衛隊員の方を見ると、まだ森人の二人の組み手は続いていた。恐ろしいほどの体力と集中力だと思う。結局決着が付かなくて、俺らの休憩が終わる頃に対戦を止めていた。
素早くお互いのクナイが鎧にあるべき場所に戻っていく。最後に片手剣が戻って、御互い腰に垂らしていた手拭で汗を拭いていた。そして、俺らと同じように休憩を始める。
ゴナベル奴隷長が俺に、一箱50個程入った木箱を猫車に乗せて、彼らに差し入れして来いと言ってくる。俺は言われた通りに少し重い猫車を押して、護衛隊員の所まで運んで行く。
皆が車座になって座って休憩していたので箱を抱えて差し入れをする。皆は大抵一個しか手を出さないのだが、最後に残った20個以上を皆がラグルートさん、熊の獣人を指差して残りを彼にやってくれというではないか。
そういいえば、ジョルジョネ大尉の言葉を思い出す。熊さんは肉を食べないといっていた。熊さんは喜んで20個以上の赤梨を一口でパクパク食べだす。あっという間に20個以上を平らげてしまう。終いには、森人達の分まで貰って食べていた。ああ、森人達は三日毎に食事するからかと納得する。
戻るまでに新しく来た森人を観察するのは忘れない。女性であった。歳はメルディムさんよりは若く見えるが多分200歳前後ぐらいだろうか。獣僕もはっきり近くで見るとやはり犬であった。
森人が女性だから多分真っ白な犬の獣人さんも女性だと思う。俺にはまったく興味が無い様で見向きもしなかった。ああ、別に構わないのだが他の獣僕も約一名を残して赤梨は食べていなかった。
やはり、体が受け付けないのかもしれない。ああ、クワビムさんは美味しそうにシャリシャリいって赤梨を食べていた。まあ、それだけ見れたからいいけどね。
覆面をしていた二人は貰った赤梨を誰も見えない所に行って覆面から口だけ出して食べているようであった。余り見るのも悪いので直ぐ視線を移すが、バールートさんは蜥蜴らしいくない人と同じような平面な口であったが、もう一人は可愛い女性の口であった。何故覆面をしているのか不思議になる感じであった。
空の木箱を載せて猫車を押して皆の所に戻り、作業の続きで赤梨を採る。一時間位だと思うが、暫くして護衛隊員達がまた訓練のようなものを始める。
今度は、メルディム護衛分隊長と先程の若い森人が対戦をやるようだ。また、何人かの年季奴隷が賭けを始めるが、賭けは成立しなかった。皆がメルディム護衛隊長に賭ける為であった。
それ以前に技量が違いすぎて、最初の十分は粘っていたが、あれよあれよという間に、若い森人の剣やクナイが空中で見えない手に掴まれるようにして奪われていき、それをメルディム護衛分隊長が使って彼女を追い込んで行ってしまう。
最後は右手に持っていた剣までも何かに奪われるようにして空中に浮かんでいた。結局15分で決着が付いてしまう。
彼女はラグフム護衛副分隊長とも対戦したが、同じようにして15分ほどで決着付いてしまった。彼女が弱いわけではなかった。作業が終わる頃にもう一度彼女が他の護衛隊員五人を相手にして対戦をしていたのを見たからである。
他の人も決して弱くはないと思うのだが、ものの5分で五人全員が伸されてしまった。そうである、彼女はやはり森人で強さは人族以上であった。そうするとドルバン車長がいっていた森人の戦士は王国の兵士千人を降す事が出来るというのは強ち嘘では無いかもしれない。
満杯になっていた木箱を送り出すと、今日の分は終わりのようで空の木箱は戻ってこなかった。結局3回ほど送った事になるので300箱近くになると思う。一箱50個以上は入っていただろうか。結構な量だよね~、多分午前中に俺が居ない時にも送っているはずであるから400箱以上は送っているはずだ。多分明日の計算の数値に出てくるのだと一人納得する。
皆が帰り支度する頃、プイホンさんが疲れた感じに肩を落として帰ってくる。体中草や土にまみれていて今日の仕事のハードさを物語っていた。共同の為か腰の皮袋は空のようでプラプラしていた。多分これも元気が無い要因の一つであると思う。
「プイホンさんお疲れのようだね。今日は沢山取れたのかい?」
「あっ、兄ちゃんか。うん、おいらは三十匹は獲ったと思うけど、向うの人にあげちゃったよ」
「向うの人って?」
「こんなに大きな人で、あれはなんていう猫種なのか分らないや。もしかしたら使徒様かもしれない。おいら怖くなって獲ったもの全部渡しちゃったんだ」
何ですと?! 俺の可愛いプイホンさんを苛める奴が居るのかと、いきり立った所で使徒様の名前を聞いて萎えてしまう。縄張り意識が強いからこちらが下手に見られているのかもしれない。抗議しないといけないよね?
「集まった時には自分の取った奴は持って帰って良いとか、そんな話は出なかったのかい?」
「最初は人族の偉い人が来て説明してくれたんだ。獲った物は持って帰って良いってね。だけどあっちの人、少しおっかなくておいらびびっちゃった」
「じゃあ、取り返しに行く?」
「え~、今日はもういいよ」
「こっちにだって使徒様が居るじゃないか!! 向うをびびらしてやろうよ!」
しかし、肝心のプイホンさんがしり込みしてしまい勢いが付かない。俺はこのままでは後二日間彼の事が心配になってしまう。見た目は怪我をしていないようなのだが、あの土まみれは明らかにおかしい気がして気になってしまう。
皆が道具を片付け終わって、馬車に乗り始める。馬車村の宿舎に向って進むと、一計を案じてジョルジョネ大尉に進言しようと心に決める。俺の癒しのプイホンさんにこんな悲しい目に遭わせるのは容赦できない。
馬車村の宿舎に着くとゴナベル奴隷長にジョルジョネ大尉の部屋の場所を尋ねる。そして、大尉がいる個室の扉をノックして部屋の中に入れて貰う。中に入ると少し驚いた表情をしていた大尉に話を始める。
「あの~、大尉? プイホン君をプイ獲りの応援に出していますよね? そこで彼がいじめにあっているようなのですが」
なんだか大尉を問い詰めるような物言いになってしまった。
「はあ? 何だって? そんな事があったのか?」
「それで、プイホン君は体に怪我をしていないのか?」
「そこまではいっていない様ですが、体が土まみれでして小突かれた感じがします。本人は取った獲物を向うの猫種の獣人に渡して来たと言っていたのですが、複数だとさすがに彼一人じゃ文句は言えないですよね?」
「ああ、分った。じゃあ手を打つよ」
そういうと大尉はニコニコしだして、何かを思いついたようだ。俺は何を考えたかは大体想像できたのだが、彼女がすんなりOKするとは思えなくて首を傾げながら大尉の部屋を出て行く。
着替えを持って来るのを忘れていたので急いで馬車が収納されている建物に向う。建物の中に入って着替えを荷台の魔技箱から出して、外に出ると誰かの話し声がしてくるのに気付く。
気になって声のほうに足を運ぶと、プイホンさんが誰かと話しをしているようであった。
「てめぇ!! まだプイを隠しているだろ?! 三十匹取ったと自慢しやがったのに、俺らに渡したのは28匹しかなかったぞ!!」
「おいら、全部渡したよ~。本当だよ~」
その話を聞いた俺は思わず身を乗り出してしまう。そこにモフモフ天国が沢山居たからじゃないよ?
いや、確かにプイホンさん以外にモフリ尽くしたくなるような猫種が10人程いたは事実であった。
その中のリーダーというかボス猫がこれまた丸っこい感じで、プイホンさんはこれぐらい大きいと言っていたが実際は横に大きくて身長はプイホンさん以下であった。
まあ、取り巻きがプイホンさんと同じぐらいで120cm前後、皆が白や黒の斑模様で何処にでもいるような野良猫風情であった。
尻尾も短い物や長い物など選り取り見取りで、プイホンさんを助ける為に身を乗り出した事などすっかり飛んでしまっていた。
もう、自制が効かなくなっていて両手を前に出してモフモフする手つきで両腕を突き出して彼ら獣人の集団をつい追いかけてしまう。
唐突に俺のその変態染みた行動のお陰で皆が一目散に逃げ出す。俺はつい逃げ足の遅い丸っこい親分を追いかける。はっきりいって、今までの鬱憤が溜まっていたのだと思う。思うように目の前のプイホンさんにモフモフできなかった日々の何かがはじけてしまい、今は目の前のそれを追いかけて捕まえる寸前まで行ってしまう。
親分猫の獣人は半泣きの声色で手下に助けを求めているのだが、俺の異様さに皆は及び腰で近付いてこない。建物の入り組んだ所の行き止まりまで追いかけてしまう。他の獣人は植木の影や建物の影からそれを見ている様だった。
「さあ、モフモフさせたまえ茶権蔵君!! そのお腹はさぞモフリ概があるよね?」
彼の口の周りは茶色になっていて。所謂、茶権蔵状態になっていた。俺はじりじりと彼に近付いて、ふと我に返ってしまう。
「さて、俺の可愛いプイホンさんを苛めたのはお前かな?」
「つ、つ、土猫の事か?!」
「そうだよ~。お前が親分なんだろう? 今から君に制裁をしちゃうぞ~」
「ひっ!! 許してください!! ほんの出来心でして、今日獲った分はお返しします!」
そういって俺の後ろの方にいて建物の影に隠れていた子分らしき猫種の獣人に目配せをする。すると、その子分の一人が、渋々呆気に囚われていたプイホンさんに袋ごと渡す。それを確認した俺は更に追い討ちをかける。
「明日と明後日も果樹園でプイを獲るらしいよね? もし、プイホンさんに手出しをしたらどうなるか分るよね? 地の果てまで追いかけてモフモフしちゃうからな!!」
彼は首を縦に何度も振っていた。そして、頭と耳を下げながらその場を去っていった。若干、損した気分になってしまう。最後までモフれば良かったと後悔する自分がいたが、後ろにはプイホンさんがいる。モフる事が恐ろしい事だと思わせてしまってはいけない。俺の所業を怯えて見ていたプイホンさんが俺に駆け寄ってくる。
「兄ちゃん凄いよ!! 十人もいた岩猫種相手にしてあれだけ追い回すなんて、おいら驚いたよ!! 岩猫は偶に魔素術使ってきて恐ろしいんだぞ?!」
今度は俺が冷や汗を掻く番であった。冷静な彼らの場合、魔素術を使ってきたかもしれないと考えると、俺の奇策は成功してほっとする。奇策というよりは理性のたがが外れただけだが‥‥‥。よかった~俺、猫種だけにしか通じないよねあれ。
明日はジョルジョネ大尉も手を打ってくれるといってくれたし、プイホンさんも嬉しそうに革袋を抱えて、宿泊施設の建物の中に入り食堂の方に歩いて行く。
俺は猫共を追いかける時に落とした着替えを拾って急いで建物の中に入る。早く風呂で待ち伏せしてアワアワタイムを堪能しないといけないからだ。
俺はこれで一応の解決をしたと当然思っていた。それにプイホンさんも明日は安心してプイ駆除の仕事に専念出来ると思っていた俺であった。
中編へつづく
次話は1/11の夕方に投稿します。




