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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第3章 平穏な日常に飽きてくる年季奴隷 》
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<3-2>  「紙を作るよ何処までも  (後編)」 

最新の本文修正日は2014年12月9日です。

 わら半紙の生産準備が着々と進む中、次の馬車村に向う指揮車の中で今度は算術の教師をするらしい俺ですが、人には向き不向きがあってどちらかというと後者の方だと思っていた。


 しかし、そんな事は関係なかったようです。本人のやる気さえあれば算術の障害は大したことがなかったようです。






 ジョルジョネ大尉に二人の算術の教師みたいな事をお願いされた俺は困惑しながらも拒否する権利は無いと諦めた。


 「はあ、構いませんが。何処までやるとか、どの計算が出来ないとか。難しい問題を教えろとか言われても俺が困るのですが‥‥‥。お二人は九九は出来ますよね?」


 俺がそういうと若干1名が目を泳がした。俺は心の中で頭を抱えてしまうが、基本が出来ないと話にならないので別メニューを各個人毎に考えないといけないのかと考える。


 九九ははっきり言って暗記するしかない。そこで個別に予備の木の板に問題を書く。意外な事にアミュネス少尉は九九はばっちりなようなので、二桁の掛け算や数桁の足し引き算、割算など10問ほど書いて渡す。


 反対にユロジェン少尉には九九を逆に導き出すように最初に答えを書いて、何処まで覚えているか探る問題を出してみる。



 二人に個別に問題を出してそれぞれの計算途中を覗いてみれば何に引っかかるか概ね分る様に思えてそうやってみた。


 そこでアミュネス少尉の計算方法を覗くと、こちらの計算のやり方が何かおかしい事に気付く。九九は置いといてアミュネス少尉の出した問題を解く風景がどうも洋式の計算方法ではなく別の何かに思えてくる。


 格子を書いて桁ごとに掛算して足し算をしているのである。あ~面倒だよね~‥‥‥。足し引き算も桁の足し引きでつまずいている。


 ユロジェン少尉は論外で、この人には九九をミッチリ覚えてもらうのとアミュネス少尉は縦計算の方法で覚えて貰う事にする。



 縦計算にすれば足し引き、掛け算はいいとして割り算も小学校で教えられた俺式で教える事にする。


 道具袋から俺が漉いたわら半紙を出して今度はわら半紙にプイホンさんと同様に例題を書いて解き方を同じように書く。その下に同じように問題を書いて例題のように解く事に丸ごと納得して貰うしかない。それに何故紙を出して書いたのかというと、紙に書くのに慣れていた為と木の板に鉛筆では書きにくいからだった。


 それをもう一度アミュネス少尉に渡して俺方式でやってくれと有無を言わさず納得させる。桁の足し算を小さく書くように徹底させて細かい計算をするように教える。小さく書き出せば視覚効果もあって覚えやすいと思ったからだ。


 すると、アミュネス少尉は俺と同じようなエンピッツを巾着袋から出して今度は筆から持ち替えてニコッと微笑んで紙にエンピッツで筆記する。横のユロジェン少尉も同じように筆からエンピッツに持ち替えてわら半紙の問題を解いて行く。


 嗚呼、ジョルジョネ大尉から貰ったのねと、あの木箱の事を思い出す。大尉は部下に配ったのかと、感心してしまった。ふと、大尉を見ると後ろの席で何時ものようにニコニコしていたので無視する。



 気を取り直してアミュネス少尉のほうを見ると、彼女は思ったより飲み込みが良くて縦計算を順調に解いて行く。ああ、この人はやれば出来る子なんだ。


 そんな彼女に納得するが問題はユロジェン少尉であった。足し算や引き算はまあそれなりに出来るようなのだが、やはり九九が問題なようで答えから九九の問題を解くのに苦労している。


 仕方なく、九九を1の段から9の段まで書いてそれの答えを埋めていく問題にする。時間は掛かったが無事解くことができたが数字が大きくなって行くと、途端に間違えだす。


 俺は赤丸で覚えなければならない計算を丸していく。「2×9」と「9×2」は同じ事だと彼女に教える為だ。


 すると、沢山あって覚えれないと文句を言っていた彼女の顔が何か吹っ切れたように感じてくる。最終的に「これだけしか覚えなくて良いの?」と、ニコニコしてくる。


 彼女にも同じように例題を出して説く方法最初に書いて問題を解くようにすると、同じように時間はかかったが解いてしまう。




 「この方法だとなんか分りやすいですわ!」




 「そうね、お姉さま!! あれだけ嫌気がしていた計算がなんだか楽しくなってきます!!」




 ふと、嫌なというか。なんともいえない胸騒ぎのような感じがしてきて、ジョルジョネ大尉のほうを見ると彼はいつの間にか俺の横に立ってテーブルの上に乗っかっていたそれらの問題集をみて一人で納得している。


 まあ、算盤を使えばこんな計算式いらないけど、無い時はこれが一番近いように思えるし。もしかして、ここの寺子屋みたいな所で教える為のマニュアルのような物を俺に作らせた気がしてくる。九九は別として、統一的な教え方がひょっとしてないのかもしれない。




 「あの~、ジョルジョネ大尉? こんなんで良かったでしょうか? 二、三日もすればやり方を覚えると思いますが、それまで問題を出せばよろしいでしょうか?」




 「ああ、そうだな。こんなに早く覚えてくれるとは思わなかったよ。さすがリョウジ!! で、この計算方法の名前とかあるのかな?」




 思った通りだ。やはり俺がプイホンさんに算術を教えている事を聞きつけ、それを試したに違いない。多分今日の報告かなんかで事細かく書かれて、鉛筆のように王国中に広まるのか?


 ‥‥‥。それは考えすぎか。


 しかし、ここは異世界「〇〇ん式」を俺式として広めても良いよね? 嗚呼、小学生の時にさんざんやらされた記憶が甦る。その割には身に付かなかったが‥‥‥。



 「え~と、特にないです。まあ好きなように呼んで下さい。小さい頃にこうやって解き方を最初に教わり、問題を解くと次々数をこなせてそれだけ早く覚えました」




 「そうか、じゃあ『リョウジ式算術解法』な!」




 「はあ、それはいいですけど、毎日続けるのでしょうか?」




 「そうだな~、これから10日もすれば計算方法を飲み込めるだろ。計算の合間に頼む!」




 「実はそういった解法は結構前からあったのだが、教える方に問題があってな。士官学校でも教えて貰うのだが算盤の方が先行してしまって、その足し引きはいいのだが、乗算と除算でつまずく者が続出してな。やはり、書いて覚えないといけないよな?」




 「はあ、そうですか」としか俺は言えなかった。まあ、あっちこっちちぐはぐな文化のアラレスティ王国である。今更そんな事には驚かないが、そんな事で大丈夫なのかと心配になってくる。



 そんな話をしていると、彼女達は計算が終わったようで、俺に答案を返してくる。それを見ると、どれも理解してくれたようで文句なしに合っている。苦手意識が強くて覚えるのを拒否していたのかもしれない。


 それに彼女達は士官学校を優秀な成績で卒業しているので、多分俺よりは出来がいいと思う。基本というか、造りが違うに違いない。


 そう思うと今度は自分の存在価値というか計算しなくなったら、俺には今後何が残るんだ? そういった感情がこみ上げてくる。


 しかし、逆に考えてみると、彼女達が計算が出来るようになると俺の自由時間が増えるという考えに行き着く。ああ、それも悪くないか。



 最近後ろ向き思考より、前向き思考に変わりつつある俺だが、プイホンさんの影響が大きいだろう。自由時間が増えるという事はそのプイホンさんと触れ合う時間が増えるという事だよね?


 そんな事を考えて顔が緩んでニコニコ顔になって目の前の彼女らに不振がられてしまう。慌てて言い訳をする。



 「いや~、こんなに飲み込みが早くて嬉しくなったというか、教え概があるというか。驚きました!」



 そう言って誤魔化したが、彼女達は「当然よ!」と、いう風な顔をして今日のお礼を言ってくる。丁度3回目の馬の休憩になって、今日はお役ごめんになる。後は馬車村までの時間はプイホンさんの観察タイムであり、今度はプイホンさんに算術を教える時間だ。



 俺は喜んで次の時間を楽しむ為に指揮車を出る。先ずはプイホンさんのお手伝いをして、彼の魔素術の観察から始める俺であった。






☆  ☆  ☆






 「いや~、良かったよ!! 君達もやっと計算が出来るようになって俺は嬉しいよ!! 10日もあれば事務仕事の計算も任して大丈夫だよね?」




 そう喜んでいたジョルジョネ大尉であったが、それはもろくも崩れ去る。二人揃って、「無理!!」と、言われてしまったからであった。


 その後の書類の整理や報告書など書き込んでいたジョルジョネ大尉の背中は何処か寂しい物があったという。






☆  ☆  ☆






 そんな事があったなんて知らない俺は今日もプイホンさんに新しい問題を渡し、やり終わった問題に花丸をつける。それを彼に返すと髭がピンと上がってご機嫌な事は丸分かりである。今日は頭を撫でただけでブラッシングはやらなかった。俺の男色の噂が一人歩きしない為である‥‥‥。後ろ髪惹かれる心境であったが仕方がない。



 今日は馬車村に宿泊なので、紙は作れない。一応乾燥室も覗こうかと考える。


 そんな事を考えていたが、計算の仕事後に問題を作るのが面倒なので残り少ないわら半紙にアミュネス少尉らの問題を作る。彼女らは出来が良いので今日より少し難しい問題を作り、道具袋の中に仕舞う。残りの紙を数えると、7枚になっていた。いよいよヤバイ‥‥‥。



 馬車村に着く前に工程表を手帳に書く。三日毎に馬車村に寄る予定なので、移動日の残り2日の晩に紙を漉かなければならない。


 そうすると、鍋3個分を煮ないと60枚漉ける材料が出来ない。馬車で移動してる時にどうしても煮ておきたいけど。動いている時はお湯がこぼれると危険だし、どう考えても一日鍋2杯分しか漉く事が出来ない。


 まあ、日中天日干しすれば乾くよね? それに事前にワラを少し細かく切って袋につめておけば直ぐに煮る事は出来るか‥‥‥。そんな事を考えていると今日の宿泊所に着く。



 馬車が止まると道具袋と洗濯物などを持って荷台から降りると、今日も中に入るまで時間が掛かる。そんな中、今日はアワアワタイムを必ず見ようと心に決める。この前はウドンが気になって見損なったからね。


 部屋に着くと、着替えと洗濯物を持って早速浴室に行って彼らが来るのを待つ。すると、半泣きになったプイホンさんの声が聞えてくるではないか。そんな彼がゴナベル奴隷長に連れられて入ってくる。


 ああ、最初から最後まで堪能させていただきました。最初に個室の樽のお湯を頭から掛けて直接泡沫石? その石鹸のような物をすり込む、あっという間に泡だってゴシゴシと、ゴナベル奴隷長がプイホンさんの毛を洗う。


 それが終わるとまた頭からお湯を掛けてプイホンさんは身を震わせて水を払う。ああ、地獄が終わった後の彼のスッキリした感じはグッとくる。その後は何時ものようにゴナベル奴隷長の背中を糸瓜のような物に泡をつけて擦るのだが、相変わらず羨ましい。



 そんな様子を湯船の中から見ていた為、湯あたりしたのかのぼせてしまう。フラフラしながら浴室から出ると、着替えてから食堂に行く。


 今度は酔っ払ったプイホンさんを見る為に、急いで晩飯を食べる。途中、洗濯物を出すのを忘れてしまい慌てて、それを預けにいってまた同じ席に着いて残りの晩飯を平らげる。


 そうやって待っているとニコニコした表情は分らないがスキップして食堂にやってっくる彼を拝む事ができた。猫もスキップするんだ~と、あほな事を考える。


 すると、慌てて晩飯をかき込む彼の仕草と、食べ終わった後にゴナベル奴隷長から酒を二、三口貰う光景を目撃する。やがて何時ものようにぶっ倒れて、それを抱えて一端部屋に戻ったゴナベル奴隷長が暫くして戻ってくる。



 そこで俺はうなってしまう。付け込む隙というか。俺がプイホンさんを洗ったり、酔いつぶれた彼を抱っこして連れて行く暇というか隙が何処にも無い。流れ作業のように馬車村に着いてから付け入る隙がない事に改めて感心してしまった。


 さて、どうした事かと考えながら例の白い薬を飲み干す。いやいや、そんな事はどうでも良いでしょ? 先ずは紙を生産することが先決だ。明日の朝はプイホンさんいお願いして藁をカットして貰って何時でも煮れるように段取りして貰わないといけない。



 そんな考え事をしていると、ガルボルテ工作長が食堂にやってきて俺を見つけるとニコニコ顔でやってくる。




 「おう、リョウジ! 完成したぞ!! 明日からいつでも使えるぞ! 使い方は簡単だ、明日の野営地についたら説明してやるぞ!!」




 「もう出来たのですか。ありがとうございます。じゃあ明日から早速使ってみますよ!」



 そういうと、彼はご機嫌な様子で配膳の列に並んでしまう。俺は食器を下げて、先程考えていた工程を考えながら部屋に戻る。部屋の戻ると、三段ベットに上がり探査の訓練というか瞑想というか、何時もの訓練をしてから眠りに就く。




 今朝も無事に朝を迎える事が出来た。何時ものように朝練に出て素振りをするのだが、相変わらず木剣が重くて、それに振り回されてしまう俺に悪魔が囁く。「無駄だから辞めろ!」と。しかし、思い直して剣を振る。ゴナベル奴隷長の止めの言葉に何処かホッとして道具を片付ける。



 朝飯の後に乾燥室を覗く事を忘れていた事を思い出す。まあ、これからもあるから良いかと簡単に諦め。洗濯されて部屋に置いてあった洗濯袋と道具袋を持って自分の馬車に向かう。


 馬車に着くと、先に荷台に乗っていたプイホンさんに、ワラを10cm程の長さに切った物を麻袋に入れて用意して欲しいと頼む。紙に使うと話すと二つ返事でOKしてくれたので大丈夫だと思う。


 洗濯袋を魔技箱に仕舞い指揮車に向うと、何時ものように招き入れられ挨拶をする。彼女達は昨日と同じように前の二人がけの席に座っている。


 ジョルジョネ大尉は今日の仕事分の羊皮紙を俺に渡してくる。二人が来てからは少しは仕事が捗っているようで、何時もの様なイソイソとした雰囲気は無かった。首を傾げつつ前の席に座って馬車が動くのを待ちながら羊皮紙を捲ると、30枚程あり昨日と同じに感じる。



 馬車が動き出す前に、昨日書いた用紙を彼女らに渡して説明をする。馬車が動き出して安定すると、彼女達は難しい顔をしながら俺の出した計算問題を解き始める。


 それを見計らって自分の計算を始めるのだがテーブルが狭くて最初は苦労するが何とか計算して無事に終わらせる。その頃には1回目の休憩が終わって一時間ぐらい経った頃であった。


 次の休憩まではまだ時間があるので彼女らの採点を始める。間違った所を指摘して出来るまでやらせるのだが、アミュネス少尉は段々イライラしてきたのか舌打ちが多くなる。


 何に苦労しているのかと覗くと、掛け算であった。良く見ると九九を間違えて覚えていたようで、そこを指摘してやると答えがすんなり出て落ち着いてくれる。


 安心すると、今度はユロジェン少尉が頭を掻きだす。彼女を見ると同じように九九を間違えて覚えたようなのでそれを指摘する。すると納得できたようですんなり答えが出てきて機嫌が直る。


 ああ、こんなに胃が痛くなるものだとは思ってもいなかった。彼女達の機嫌が悪くなると殺気の様な、覇気の様なものを感じてそれがなんだか恐ろしい。



 まるで針の筵に座っているようで、凄い緊張感に包まれるのは気のせいであろうか? 全部出来たので、プイホンさんと同じように花丸を描く。すると、少女のように彼女らは喜んではしゃぐではないか。


 嗚呼、確かに赤で描かれた花丸は嬉しいものだけどね。それを回収して、次回の問題を裏に書くことを約束して2回目の馬の休憩で指揮車を降りる。



 降りるとどっと疲れが出て来てフラフラになるが、次の時間で癒し成分を補充できるから問題ない。昨日と同じように彼の答え合わせをして、問題なく花丸をつける。先にプイホンさんへの問題を出して渡す。次に先程返して貰った答案の裏にまた例題と問題を書いて道具袋に仕舞う。


 すると、プイホンさんは約束通りにワラを切断して麻袋に入れてくれていた。中身を見て、お礼を言って先ずは頭を撫でる。これで先程消耗した何かの半分ほど充填された気がする。


 嗚呼、これでお腹に顔をうずめてモフモフすると120%位になるけど、あの噂の為にそんな事は出来ない‥‥‥。脳内だけで済ませる。馬車が動き出してから、何時ものパンを頬張り水を飲む。



 自分の魔技箱から鍋を二つと、石灰を取り出しす。事前に用意しておけばそれだけ時間短縮に繫がる。鍋に石灰とワラを多めに入れ、プイホンさんに水を鍋に入れてもらう。少しかき混ぜながらこぼれないぐらいに入れてもらうと、後は今日の野営地に着くのを待つだけだ。


 ぼーっとしていると、いつの間にか大きな振動がして慌てて鍋を押さえる。馬車が止まると慌てて邪魔にならない所に鍋を移して野営の準備を手伝う。準備が終わり、直ぐ魔技箱から焜炉を出して鍋を火にかける。紙を漉く為に準備を始めるのだが肝心のプイホンさんが飯を食いに行ってしまい、仕方なく荷台の前に置いてある水樽からタライに水を満たす。



 準備が出来た所で仮設の食堂に向おうとすると、ガルボルテ工作長がやってきて紙を干す為のからくりの説明をしてくれた。


 いたって簡単で一本の細工したレールの上を金具が付いた木の板がすべる仕組みである。革紐を引張ると連なった板が前の方に引張られて行きに馬車の上部にスライドする仕組みであった。


 最初は全部引張って上から垂らして、漉いた紙を貼り付けて板の金具をレールに合わせて乗せて順次紐を引張っていく。途中で留める時はその紐を金具に結べば途中で止まるようになっていた。若干、板をレールに乗せる時に面倒だが、仮設だし仕様がない。


 全部で3列あって板は60枚並べてある。一度に60枚は漉けないがこんなもんだと納得する。お礼をガルボルテ工作長にいうと、まだこんな物じゃないといっていた。と、いう事は時間が経つと改良していくらしい。



 まあ、便利になるのは問題ないと首を傾げながら配膳の列に並び晩飯と薬を貰う。素早く晩飯と薬を片付けると、鍋の火が気になり慌てて戻る。


 すると、グツグツ煮立っていて、火力を調整する。ふと、レバーを弱火と中火の中簡にするとそれでも使えるようでその事に驚く‥‥‥。すげー、魔素道具。


 夕暮れの中、そんな事に感心しながら徐に日記を出して色々と書きながら、ワラが柔らかくなるまで煮込む。頃合を見計らってワラを取り出してペッタンペッタンやるが、周りの事が気になって次第にすり潰すように繊維を解す。その間も次の鍋は火にかけてある。



 丁度プイホンさんが戻ってきたので、水を空いた鍋に出してもらいランプを借りたいと話す。すると、彼は自分の魔技箱からランプを出してくる。ああ、これはプイホンさんの私物だったらしい。今度、馬車町の店に行ったらランプを買う事を忘れないようにメモを取る。



 結局ワラの量が多かったお陰で60枚程の紙が漉けた。残りは水に溶かしたまま樽に入れて料理馬車の方に持って行く。丁度、ギムネーヤ料理長が会議用のテントから出て来た時であった。それを持って冷蔵庫に入れて貰う為に運ぶと彼女は冷蔵庫に入れてくれた。明日の野営地に付いたら外に出して欲しいと頼んでそこを後にする。



 道具を片付けランプを消すのに戸惑ってしまうが、スイッチを見つけてそれを押すと消えるではないか。懐中電灯か?! と、突っ込みを入れた。それを彼の寝床の下に置いて寝袋に包まり横になる。



 寝床に横になりながら考えると、これが上手くいけば、日産60枚であるから3日毎に作れば一日ぐらい寝不足でも問題はないと思う。それとも鍋一つ分にして毎日作るか? そんなことを考えているといつの間にか寝てしまい、気が付いたら朝であった。


 慌てて起き上がり外に出る。まだ訓練を始めたばかりのようで、皆はまばらに組み手などをやっていた。昨夜の暗がりで後片付けをした為、念のため道具の忘れ物がないか確認をする。


 何も無かったようなので天井に干してある紙の様子を見ると、やはり暗がりで漉いた為、若干粗雑な作りになっていた。やはり鍋二つ分は無理がありそうだと納得してしまう。


 朝練の道具を持って何時ものように素振りをして訓練風景を見る。昨日の様な派手な訓練ではなかったが、俺はとてもあの中では戦えそうもない。




 そんな平穏な日常が始まっては過ぎて行く。3日毎に馬車村に着き、それから馬車村を2箇所通りすぎる。3箇所目の馬車村まで来た時には、アミュネス少尉とユロジェン少尉に10回程練習問題を渡していた。紙も順調に作る事ができて手馴れたもので二日毎に120枚程量産していた。まあ、均一ではなかったが所詮わら半紙、文字だけ書ければ良い。




 何時ものようにもうじき3回目の馬の休憩になろうかとした時にジョルジョネ大尉から話があった。明日から3日程、次の馬車町に止まって農作業を手伝うという事であった。丁度刺激が欲しかった時期なのでそれもありかと一人納得する。あれだけ平穏な日々を望んでいた筈であったが、まったく現金なものの俺であった。




 次話へつづく

次話は1/9の夕方に予約投稿します。

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