<閑話2-2> 「王子と救国の勇者 (中編)」
明けましておめでとうございます。
今年も細々と話の続きを書いて行きたいと思いますのでどうぞ宜しくお願いします。
最新の本文修正日は2014年12月4日です。
森人族の集落の手前の森で第一王子の刺客の手から逃れたアウタルス王子と衛士ゾンディウムは森人族の集落で大森林の奥地へと行く事を許される。
その集落に案内された王子の言動を気に入ったのランドウフムという森人が道案内を申し出る。三人は馬に跨りながら目的地を目指していた。
道中で、御互い自己紹介をする。王子だけが名を名乗っていなかったからであった。
「さて、これから道案内で御世話になるのに名を名乗らないのは非礼に値する。私の名は‥‥‥」
王子が名を名乗ろうとした時にゾンディウムは王子の口を塞ぐように話し出す。しかし、アウタルス王子が更にゾンディウムの口を塞いでしまう。
「しかし、王子‥‥‥」
「これから三ヶ月、御世話になる人に対して名を名乗らないのは非礼に当たるよゾンディ!!
失礼しました‥‥‥。私は『アラレスティ・バラム・アウタルス』といいます。まあ、今では追われる身で、しがない人族ですが。あっ、アウタルスと呼び捨てで良いですよ。そのほうが気が楽で良いです」
「はっ!! 最近の人族の王子は堅苦しくなくていいな!! 王族といえば、どいつもこいつもえばり散らして威圧的な奴ばかりだったが、尚更お前は気に入った!! そうだな、イルソルの集落に行った後も暫く暇つぶしにお前に付き添うと決めた!! たかが人族の一生、我らのは一時の時間に過ぎぬ。
なあ、アウタルスと一緒だと中々楽しい事がこれから起きそうだな」
「嫌だな~、その楽しい出来事の大半は命のやり取りですよ? 損なのに付き合って良いのですか?」
「我らは長生きで。まあ、大森林に居てもこういった楽しい事は滅多に無いからな!!」
そういってランドウフムは笑い飛ばして道を先導する。険しい道は馬を降りて手綱を引きながら歩き、二日に一回は野営をして体を休める。森人のランドウフムと森人の血が入ったゾンディウムは野営をしなくても良いが、人族のアウタルス王子はそういう訳には行かなかった。
アウタルス王子はこういった旅には慣れてはいたが、さすがに寝ないで一昼夜歩くのは酷である。皆には気を使わせないようにしていたアウタルス王子だが馬に跨りながら寝てしまい、もう少しの所で落馬して崖下に転落する所をランドウフムが見かねて二日に一回、野営をしていたのであった。
今も焚き火を囲んで王子は深い眠りに就いている。ゾンディウムは彼の寝顔を見て微笑む。草むらの茂みから音がして一瞬身構えるが、出てきたのはランドウフムであった。彼の手には今日の獲物を持っている。
そのランドウフムはそれを捌いて肉を焼く。焼きあがった肉に塩を振り掛けて、ゾンディウムに進める。そして、自分もそれを食べると、親父に会ってどうするかとかそういう話をゾンディウムに尋ねる。ランドウフムに尋ねられたゾンディウムはその彼に困った顔をしてしまう。
「貴方は王子に心を許したから話しますが。確かにこの旅の目的は親父に母の遺品を渡す目的です。しかし、王子の力になってくれる者を探す旅でもあります。今は平穏なアラレスティ王国ですか、近い内に必ず厄災が起きると噂があります。
王子にはその厄災を跳ね除ける為の力が必要なんです。その下世話な話かもしれませんが、俺の親父の力がこの王子の力になれば俺は本望です」
「そうか、そうしてまでも尽くすべき主人という事か。この少年が‥‥‥」
「いけない事でしょうか? 私はこのお方の為ならば死んでも良いです」
すると、先程までいびきをかいて寝ていたアウタルス王子が起き上がりゾンディウムに語り始める。
「なに湿っぽい話しているかな? それにこんな良い匂いがしていたら寝れないよ~。確かに皆には力になって欲しいけど、ゾンディ? 君が死んだらそれは全て無駄に終わってしまうよ。俺の仲間は誰も死なせない!! 死なせたら折角上手くいっても台無しじゃないか?! さあ!! 俺にもその肉片おくれよ~」
そういって、焼いている櫛に刺した焼肉を手に取って頬張る王子を見て、ランドウフムは感心してしまう。一本をぺろりと食べ終わった王子がまた語り出す。
「それに、食事は皆で食べた方が美味しいですよねランドウフムさん?! 一人じゃ砂を噛んでいるような物ですよ。私は仲間になった者とは一緒に食事がしたいですよ!!」
そういって二本目の櫛に手を出して食べ始める王子を見てランドウフムはあっけに囚われる。そして、徐に同じように美味しそうに手に持っていた肉を食べ始める。それを見ていたゾンディウムも負けじと一生懸命焼肉を涙を流しながら食べだす。
「その肉は塩味がしておいしそうだねゾンディ!!」
「馬鹿な事を言わないでください。これは汗です。あ、それも塩味がしましたね!!」
そういって三人は笑いながらその後一晩そこで過ごした。
王子達が大森林の奥地に向って三ヶ月程経つと目的の集落が見えてくる。しかし、王子達が集落に近付くと監視者の視線が感じられ、集落の手前でしっかりと尋問しに森人がお出向いに来る。
「ここから先は守護氏族の集落ぞ!! いかなる理由があってここに近付いた?! それに何故人族が同伴している?! 理由をそこのお前に問う!!」
そういわれたランドウフムは跪いて話し出す。
「はっ!! この者の中に、そのイルソル氏族に連なる者がいまして。その、その者の父親がイルソルの血を引いてまして、長老のお目通りを!」
「ふん! お前らはそこで待っていろ! 今、長老に確認を取ってくる」
警備の偉そうな森人がそういって王子達をその場で待たせる。王子達は暫く待ったが一向に戻ってくる気配がない。
待ちくたびれた王子が気の抜けた欠伸をしていると、集落の方から馬に跨った集団がやってくる。5、6人の集団で真ん中に偉そうな森人が一人、それを囲むように大柄な森人が馬に跨っている。背中には長剣を刺していて皆が複数の片手剣を腰や背中に刺している。その集団が王子達に近付くと王子達を威圧するように馬上から見下していた。
「ふん! こいつらか!?」
「はい、姫様。この者の中にイルソルの血を受け継ぐ物がいると言ってますが?」
真ん中の偉そうな人物は女性であった。周囲の中からは姫様と言われている。そこで王子は彼女らの前に出て話し出す。
「ハジメマシテ、モリニ チョウワヲ テキニ シヲ。ワレラワ モリニ チョウワヲ モトム」
「ワレラ、コノ ゾンディウム ノ チチオヤ サガシニ キタ ハハノ イヒン トドケニ キタ」
突然、流暢な森人が話す言葉で挨拶を始めたかと思うと、目的を話し始める王子に対して一番驚いたのはゾンディウムであった。その彼は何時の間にアウタルス王子が森人語を学んだのかと思っていた。
ゾンディウムも驚いたがランドウフムや目の前の森人族の集団も驚いていた。しかし、真ん中にいた姫と呼ばれた女性だけは静かにアウタルス王子が話終わるの聴いていた。
「あい、分った。それで、ゾンディウムとやらの父親の名は?」
「はあ、ゾングラムと言います」
ゾンディウムがその言葉を言うと周りの森人族に動揺が走る。森人語で早口にまくし立てる者までいるではないか。余りの早口の為、王子は何を言っているのか分らなかった。
「皆はそれは嘘だといっているわ!!」
「え~、でも、父親の名前は間違えようもないですよ?」
姫と呼ばれている女性がゾンディウムに否定したが、何故だか王子がそんな調子でそれを否定する。そして、王子はゾンディウムを肘で小突いて、何か話す。
するとゾンディウムは懐から木彫りのお守りのような物を手に取り、紐をはずして姫と呼ばれる女性にそれを見せる。それを見た側近らしい男が代わりに手に取って姫に見せる。
「なっ、これは私がお父様に渡した物じゃない?! 何で貴方が持っているのよ?!」
先程まで沈着冷静であった姫はその木彫りのお守りを見ただけで動揺し、取り乱してそんな事を言ってしまう。そうである、それが事実なら兄妹か、姉弟であるからだ。
周りの森人が何か動揺しだしてひそひそと何かを話している。姫に何かを注進している森人もいる。やがて何かの結論に達したのか冷静さを取り戻した姫が冷たく言い放つ。
「ゾンディウム! 貴方の父親のゾングラムはここにはいない。今は西の小森にある氏族を尋ねに出て行っていないわ!! そこに行って遺品を渡すが良い」
姫と呼ばれた森人はゾンディウムにそう言い放ったが、言葉を返したのは彼ではなくアウタルス王子であった。
「そうですか。その西の小森のどこら辺なんでしょうね? その、貴方達が住んでいる集落について詳しくない者でして~。誰か道案内を頼めませんかね?」
またもやそんな口調で姫に物を尋ねるが、そこでランドウフムが口を挟む。
「アウタルス。俺が道を案内してやろう!! それにしても冷たい姉貴だったなゾンディウム!」
ランドウフムのその言葉に姫はムッとして感情を露にする。
「分ったわよ!! 私が案内する」
その森人の姫はそう言い放つと周りのお付きの者が騒ぎ出す。またもや、森人語で早口にまくし立てる。しかし、当の本人はそれらの言葉に耳を貸す気はさらさら無いようで、馬を操り王子達の後ろに回る。
「ほら、早くしなさいよ!! 行くわよ!!」
基本の旅支度は無いようで、着の身着のままでいつでも旅支度が出来るようであった。お付きの森人から二人程姫の後に着いてくる者が居た。年齢が姫と似通っているせいかどちらも若く見える。すると、そんな若者とは別のお付の森人が情けない声を出す。
「嗚呼、姫様!! 長にはなんて説明したら宜しいでしょうか?!」
「そんな事まで私が考えないといけないの?
まあ、適当に言っておいてよ!‥‥‥。あ、そこらじゅうに姉弟を作る親父殿に文句言ってくるって言っておいて!!」
森人の姫がそういい終わると、王子達に早く馬に乗れと急かす。何がなんだか分らないゾンディウムは仕方なく馬に跨る。アウタルス王子は当然というように馬に跨りランドウフムも勝ち誇ったように馬に乗る。馬に乗った五人はその西の小森に向う為馬を駆る。
呆気に囚われていた他の森人はまた始まったかとため息を付いて集落の長に報告に向って行く。
暫く馬に跨り旅路を戻る王子はふと、何かの影に気付いて指差す。
「あれは姫様の獣僕の聖獣なの?」
そんな王子の言葉にそれを遮るお付の森人が声を荒げてしまう。
「軽々しく姫様に軽口をきくな人族!! このお方は人族風情が軽口をきいて良いお方ではないぞ!!」
そんな荒げた森人の声に動じないアウタルス王子は引き続き軽口をきいてしまう。
「ああ、ごめんよ~。なんか書物に書いてあった感じと違うような気がしてね。姫様も人族の王族と同じように身分で人を見下すのか~」
「ちょっと!! それは聞き捨てならないわ!!
私達は人族とは違うのよ!! あれは私の獣僕よ!! 何か文句有る?!!」
「いやね~、絵に描かれていたのと違って綺麗な姿だと思ってね~。それにあんなに大きい物なんだね。あれじゃ人族の騎馬も役に立たないね」
「当然よ!! 聖獣はこの大陸の獣の王者よ。それを従えている我等森人こそがこの大陸を支配する種族なのよ!!」
「へ~、そうなんだ。その割には人族に追われてこんな森の中にひっそりと暮らしているよね?」
「なっ!! なっ、何を言っているの? 人族こそ、この大陸の覇者とでも言いたいのかしら? 確かに人族は沢山いるようだけど私達が本気出せばあっという間に駆逐できるわよ!!」
「へ~、そうなの? まるで何処かの王族が先住民を駆逐してやるといっているように聞えるね!」
「‥‥‥」
「私なら共存の道を探すけど‥‥‥。御互い、いがみ合っていても何も解決しないよね? 森は森人族が治めれば良いと思うよ。
そうだな~、人族は平らな土地を耕して住むのはどうだろ? 森人は平地には興味はないよね?
もしかして、他の種族の住む土地を奪ってまでも、そこを森にするという事はないよね?」
アウタルス王子がそういうと姫様は押し黙ってしまう。それを見ていたランドウフムはククッと笑い、姫の顔と王子の顔を見てその様子を観察している。
ゾンディウムは姫様のご機嫌が斜めになって道案内を断ってこないか冷や冷やしていた。そして、話そうか話さないか迷っていると王子が口を開く。
「そういえば名を名乗っていなかったね。私は『アラレスティ・バラム・アウタルス』といいます。以後お見知りおきを姫様」
「なっ!! な、なんだって? 王族なの貴方? ‥‥‥。
変わった王子ね貴方は。ああ、私は『イルソル・アウメネエム』よ、後ろの二人は『センダユム』と『ゴザルマム』よ。まあ、獣僕は追々説明するわ」
彼女の名前を聞いた時に一瞬動揺してしまった王子であったが直ぐに思い直し軽口を叩く。
「へぇ~。ものの見事に皆の名の後に『ム』が付くのだね。史書には森の子って意味って書いてあったのだけど?」
「そうよ。森で生まれる森人の名前の最後には必ず『ム』が付くわ。それに同じ氏族と認められれば氏族名を許されるわ」
「だけど、アウタルス王子? 貴方は私の名前を聞いて顔が少し曇ったけど何かしらね?」
「え~、そうかな~。気のせいだよ」
「あら、そうなの。まあ人族の事情には興味はないわ」
そういってプイッと前を向く姫は手綱を引いて後ろに下がる。そういったやり取りをしながら再び三ヶ月ほど大森林の獣道や名も無い道をアウタルス王子の一行は元来た所まで戻って行く。
半年ほど前に第一王子の刺客達の集団を撒いた森の入り口まで一行は馬を進めていた。誰かが待ち伏せしているかと思ったゾンディウムは先行して様子を見に行く。
ゾンディウムが先行して確認すると、残っていたのは野営用の天幕の残骸と焼け焦げた何かの荷物の残骸しかなかった。ゾンディウムは刺客が諦めてくれたと判断して王子達の所まで戻ってくる。そして、安全だと報告して馬を進める。
すると、大森林の出口まで来ると人影が一人だけ見える。ゾンディウムは不振に思ったが集団の気配はしない。恐る恐る近付くゾンディウムに対して森人達は我関せずでお構い無しで馬を進める。王子もそ知らぬ振りして馬を駆っていた。
王子達がその人影に近付いて人影の表情が分るようになってやっと誰だか分かった。王子達が馬を奪った奴で、ゾンディウムに縛り上げられた人物であった。それを見たゾンディウムは背中の長剣を抜いて威嚇する。
「何用か? 今度は切り捨てるぞ!!」
「いや~、良いのですか? 森の出口には1万の王国軍が居ますよ?」
「なに?!!」
驚くゾンディウムに対して、からから笑いながらアウタルス王子はゾンディウムの前に馬を進める。
「大方この馬を探しに来たんだろ! ほら返すよ」
「なんだ~。知っていましたか。でも、街道には貴方の命を狙っている刺客がごまんと居ますよ?
私なら刺客がいない道を知っていますが? ただし、ちょっとお尋ねしたい事がありまして、それに答えてくれればですが‥‥‥」
彼がそういって質問をしようとすると、それを塞ぐようにゾンディウムが前に出てくる。
「嘘を言うな!! こいつは信用できません!! お下がりくださいアウタルス様。こいつを‥‥‥」
皆まで話そうとしたゾンディウムの口を塞ぐように王子は口を開く。
「いや、いいよ。多分、彼が聞きたかった事は大したことではないよ‥‥‥。
こうだろ傭兵さん!! 『何故、俺の命を奪わなかった?』だろ?」
王子がそういうと、目を丸くするその男は驚いた表情をする。
「多分、貴方は縛り上げられた後に発見されて傭兵を首になったか、逆に消されかけたのだよね? それで半年もここら辺でくすぶっていたと思うよ。それに町へ行ったら私と同じでお尋ね者の仲間になっていると思う。
まあ、あほな兄様の部下らしいやり方だ。自分の不手際を貴方の責任にして王都にでも逃げ帰ったと思う。そんなところだろ?」
すると、驚いていた男は今度は拍手をして王子の推察に感銘を受ける。
「すばらしい~。噂では聞いていましたが、まさかここまで明晰なお方だったとは思いませんでした。まったくその通りです。
それで、ついでになんですか。御互い困っているようなので助け合いませんか?
俺もお尋ね者なんでついでに同行させてください。あっ、俺はガイセウスと言います、アウタルス王子殿下」
「やはり油断できませんアウタルス王子!! こやつ切り捨てましょう!!」
「嗚呼、共の者は多いほうが良いよゾンディ!! もしかしたら刺客の一味であっても、その時は人身御供になって貰えば良いし。それに、敵が中に居るとね、こちらの行き先が分るけど、相手の出方も読めるよね?」
そういって王子が流し目でガイセウスを見ると、その彼は緊張して額から汗を流していた。それを見たゾンディウムはニヤリとして言い放つ。
「そうですね! この森人の中で王子を害しようと考える愚かな人族はいませんね。しかし、お前は俺の前を歩け。そして、俺の盾となるのだ。それでもよければ仲間として認めよう」
「はあ、そうですよね~。まあ、信じて貰うにはそうするしかないですか。
あっ、森人の方々、始めまして、人族のガイセウスと言います。新入りですがよろしくお願いします」
そういってぺこりと頭を下げるガイセウスは返して貰った自分の愛馬に跨り先頭に行く。そして、振り返って聞き返してくる。
「あの~、どこに向うのでしょうね?」
その間の抜けた感じに一同は失笑をして、アウメネエム姫は部下のセンダユムに命令をして先頭を歩かせる。その後にガイセウスが付いていき背後にはゾンディウムが睨みを利かせる。その後を王子達が馬に跨りながら付いて行く。王子は口を開きアウメネエム姫に問う。
「そういえばこのまま北に向かえば最短で目的地に着くけど、人族の町や村があって目立つし、多分一端西の山脈を越えて大回りで人気の少ない所を目指して北西の森を目指すのだよね?」
それを聞いたアウメネエム姫は目を丸くして絶句してしまうのであった。
後編へつづく
次話は明日1/5の夕方ごろに投稿します。
後編と2章で登場した人物の簡易な紹介文を載せます。
それに第三章1話目も一緒に投稿したいと思います。




