<2-26> 「計画する年季奴隷」
最新の本文修正日は2014年12月3日です。
馬車村でのウドンに舌鼓を打った俺ですが、肝心の醤油が無くなってしまい。それ以降は南部の町か村に行かないと美味しいうどんは食べられそうもないです。
そんな俺はプイホンさんに算術を教え始めるがこれもゆっくり見ないといけない、計算がスラスラ出来る猫ちゃんを見れるのも当分はお預けらしい。
何時ものような夢を見なかったことに不信感を覚えつつ平凡な日常が始まり、少し戸惑ってしまう俺であった。
荷物を自分の馬車の魔技箱に仕舞った俺は何時ものように指揮車に乗り込む。後部座席に座って日記を書いていると、二人の彼女達はそれぞれ書類のような羊皮紙の束を持ってこの指揮車から出て行く。日記を書き終わった俺は日記を封印をして前の座席に座る。
「当分は計算するものが増えるけど、大丈夫よな?」
ジョルジョネ大尉にそういわれて羊皮紙の束を数えるが、30枚であった。渡された羊皮紙の大きさは1枚A4の大きさの紙が2枚分程度の表計算であるから問題は無い。中身を確かめると何時もの簡単な数式であった為、二つ返事をする。返事をするとジョルジョネ大尉は後ろの席に行って寝てしまう。
結局計算と検算が終わる頃には2回目の馬の休憩時間まで掛かってしまう。途中、大尉が起きて俺の様子を見ながら他の書類に目を通して、俺が計算を終わらせるのを待っているようであった。
一通り、検算が終わって何時ものようにメモ書きした木の板を渡して新しい物を貰う。すると、座席の横から結構大きい木箱をドンとテーブルの上に置く。そして木の蓋のを空けて中身を見せてくれる。
中にはエンピッツの改良版と、色エンピッツが沢山入っている。どれも俺が知っている鉛筆と同じ太さで手にしっくり来る太さであった。色鉛筆は10色が一組になっていて羊皮紙のような薄い革製の入れ物に入ったものが10セットも入っている。鉛筆にいたっては10本の束が20本も箱に入っていた。
「あ~、例のエンピッツの改良版が出来たそうで、沢山作ったそうだ。三箱届いて、一箱はガルボルテ工作長に渡して、もう一箱は俺が頂いた。最後の一箱は君が自由に使っていいそうだ。このエンピッツ一束が銅貨五十枚、色エンピッツの方が一箱で銀貨1枚だという事だ。まあ量産されればもっと安くなるそうだがな」
「はあ、そうですか。それが安いのか高いのかは俺には判断できませんよ?」
「まあ、そうだな。君が使っている小筆が一本銅貨五枚する事を考えると、俺には格安で筆記するものが出来たように思える。しかも、これには墨がいらない。これを子供達に配って勉学に使うとどうであろうか? すばらしい事だと思う。後は、君が麦藁で作った紙を普及させれば良いと思わないかね?」
「はあ、そうですね。エンピッツも量産されれば銅貨一枚以下で作れるかもしれませんね?」
何か、大尉は少し興奮したような感じで子供達に格安の筆記用具が作れる事に感動しているようだ。それに「ワラ」は「藁」で良かったのかと一人納得する。
「嗚呼、これで君はこの王国に貢献できる人物であると証明したということだ!! もっと喜びたまえ!!」
あっ、そういう事か。結構へタレで役に立ちそうも無かった俺が、物を作るヒントを教えた為に王国の利益になったということか。と、いう事はわら半紙も製作していたのを観察されていたのか?
でも、あれは和紙の発展版のようなものだから特許にはならないと、ガルボルテ工作長が言っていたよね? まあいいか、それより少し恐ろしく感じてくる。
これでいよいよ俺を王国は放って置かなくなる様な気がして、少し寒気がしてくる。しかし、この王国から帰る方法を探さなければならないので、ある程度の協力はしなければいけないと思い直す。
ギブアンドテイクで、多少は王国の上の人の覚えが良くなって色々と便利になるかもしれないと安易な考えが浮かんできてしまう。
「いや~、こんな最弱な俺でも役に立てれば嬉しいですね~。
あっ、そういえば、俺の魔技箱って結構物が入ったいまして、これ入るかな?」
「それは大丈夫だと思うぞ、年季奴隷の魔技箱って結構物が入る。特にこの奴隷旅団所属中隊のは個人の物が結構多い。それに武器や鎧なんかを手入れする道具もあるから結構入るぞ? まあ、入らないようだったらこっちで預かるぞ?」
「はあ、そうですか。じゃあその時はお願いします。あっ、それとプイホンさんに算術を教えているのですが、いけない事だったでしょうか? 移動日だけの約束で教えていますが」
「何? 土猫に算術を教えているのか? そうか。ああ、仕事以外の時間はかまわんよ。まあ、やってみると良い。俺としてはアミュネス少尉か、ユロジェン少尉に教えて欲しいが‥‥‥」
「へっ? ユロジェン少尉も計算が不得意なのですか?」
「そうだ、だから先程も君は計算していただろ。彼女も計算より腕っ節を鍛える方が良いらしい。ミンハンス大尉が苦労していたはずだ。どうしてもこういった任務には腕っ節の強い部下を上の人は選ぶからな。まあ、多少は出来るらしいが、リョウジの足元にも及ばないと思う‥‥‥」
「どうだ? 教えてみる?」
無理無理!! 二人の女性に囲まれたら俺は話なんか出来ない。教えるとなったらなお更だ。面と向かって教えないといけないよね?
「あの~、本人達がやる気にならないと駄目だと思いますが? プイホンさんは俺が算術を教えるといったら喜んでいましたが、アミュネス少尉なんかは複雑な計算を見ると背中が痒くなって来ると言ってましたよ?」
「そうだよね~。ユロジェン少尉もそんな事をいっていた!! 彼女も優秀な成績で士官学校を卒業したといっていたのに計算だけは得意じゃないといっていた!!」
そういって情けない顔をするジョルジョネ大尉であった。
「さて、今日はこんな所かな。急いで自分の馬車に戻りなさい」
俺は慌てて道具を仕舞い、エンピッツが入った木の箱を抱える。大きさは細長くて、俺の魔技箱にでも入る大きさだ。それらを持って指揮車を出る。
走って一号馬車に乗り込み魔技箱に入れてみる。すんなり入ったので道具袋を取り出して手帳の方に先程の話をメモする。
パンを食べ水を飲むと、プイホンさんが俺が出した問題の答えを聞いてきた。俺は先程貰った色エンピッツの中から赤色を出して削る。そして、プイホンさんが解いた問題を見る。赤色のエンピッツで丸を付けて、ついでに花丸を付ける。
それを彼に渡すと驚いた表情で俺の赤エンピッツを見る。
「兄ちゃん!! それ何? 何で赤色出るの?」
「ああ、これは出来上がったばかりでね。試しに作って貰ったんだ。まだ改良しなければいけなくてね、色々と試さないといけないんだ」
「すげ~、兄ちゃん学者みたいだよ!!」
目を輝かせるプイホンさんを見てある事を思いついてしまう。
「そうだ、プイホンさん。さっきの花丸を百個溜めたら、この色エンピッツをあげるよ。そうするとやる気が出てこないかな?」
「え~~~、本当に?! 良いの兄ちゃん?! おいら頑張るよ!!」
「あ~、だけど。仕事がある時は算術の勉強は休みだからね! プイホンさんは仕事も覚えないといけないよね?」
「うんうん、そうだった。おいら頑張るよ!」
「それにあんまり無理をすると俺みたいに病気になってしまうから、移動日の馬車の中だけって約束してほしいな~」
「あっ、そうだね! おいら仕事も有るからそうするよ」
そう返事した後に、新たな問題を同じ紙に書いて、ついでに日付も書いてやる。今日は冬中月17日、俺がこの大陸に来て31日目である。それはちょうどこの大陸で一ヶ月過ごした事になる。結構長く感じたがまだ一ヶ月しか立っていなかったことに少し驚いてしまう。
内容が濃すぎてそう感じたのかもしれない。プイホンさんとは結構仲良くなれたし、クワビムさんの敵愾心は少し下がったように思える。夜中に便所に起きて襲われる事が無くなったからね。ただそれだけだが、結構前進したと思う。
プイホンさんに新たの問題を書いた紙を渡すと、彼は日付を見て今が冬なのかと驚いていた。
「兄ちゃん、これって暦なのか? 今冬なのにここは寒くないよね?」
「うん、そうだよ‥‥‥。その事については俺は分らないよ。ここの季節は初めてだし‥‥‥」
「あっ、そうか。そうだよね。おいらの村では冬はここら辺より寒かったんだ」
「じゃあ、雪とか降るの?」
「ユキ? って何?」
あれ~、雪は知らないのか?
「遠くの山が冬になったら白くなるのは知っているかな?」
「ああ、あれがユキか~」
「そういえばプイホンさんは氷を作れるよね? あれはどうやるの?」
「う~ん、おいら店番している時に本を読んだんだ。氷属性魔素術って本」
「へ~、そんな本があるのですか?」
「うん、その中にやり方が書いてあって。あっ、その前に水と土属性が使えないと駄目って書いてあったよ。上手く説明できないけど書いてあった事を真似したら氷が出来て、おいら喜んじゃってその後に書いてある事皆忘れちゃった!」
「へ~‥‥‥!!!」
な、なんていう事だ、忘れちゃっただと?
ひょっとすると今教えている算術も何かに拍子で忘れちゃうのかプイホンさん?
嫌な予感がしたが、続けると約束した以上今更やめる訳にはいかない。それに嫌な予感の方が俺の不安を増大させるが、プイホンさんの可能性を信じるしかない。
そういえば俺がプイホンさんに算術を教えるといった時のジョルジョネ大尉の顔を思い出す。何か冷や汗みたいなものが出てくる。顔をぶんぶん振ってそれを打ち消す。
「それで、その本は正式になんて名前の本だったのかな?」
「あっ、忘れちゃった」
「そうですか。それは残念‥‥‥。あっ、そうだ。今度、町に行った時にその本を探してみましょう」
「うん、実際に見たら思い出すかも」
そういって、プイホンさんは俺が出した問題を頭を抱えてやり始める。
まあ、俺は生誕属性が木属性だから水と土が使えるはず。と、いう事は俺も何れは氷属性が使えるのか?
新たな楽しみが出来た。
そんな事を考えて道具袋の中のわら半紙を数えて、少し顔が青くなる。なんだかんだいって後十枚程しか残っていない。このままのペースでプイホンさんに問題を出していくと10日も経たないうちに紙が無くなるのである。これは非常にまずい、折角やる気を出したプイホンさんの妨げとなる。
俺は腕組をして考え始める。問題は何時生産するかである。移動日は乾かす時間が無い。夜中に乾かしてもたぶん生乾きになってしまうよね?
しかし、一回紙を漉いておけば馬車の天井に置いて移動しながらでも干せるか?
振動で落ちないように皮ひもで連結させるか?
などと考えてみると革紐の材料が無いよな‥‥‥。ある事を思い出すと魔技箱から馬車町で奴隷銅貨1枚で買った何とか見聞録だかを探し出し見つける。ある程度読んでもう読むことの無くなったものだ。
それを、出して手に取ると厚さをを確かめる。安っぽい羊皮紙なので多分切り裂くとぼろぼろになって使えない感じで諦める。ガルボルテ工作長の相談して馬車の天井につけられるように手配してもらうか?
ふと、馬車村の洗濯乾燥室を思い出す。あ~、でも不特定多数の人が出入りしたら貴重な紙が盗まれるかもしれないか。
そんな事を考えていると、今日の野営地に着いてしまう。野営の準備をして、晩飯の列に並ぶ。ガルボルテ工作長を見つけて夕食後に話があると話そうとする前に向うから話しかけてくる。
「おい、リョウジ。話があるから食べたら来てくれ」
返事をして、急いで晩飯をかき込み薬を飲み干す。手帳と筆記用具を一度自分の馬車に取りに戻ってから工作馬車の荷台に向う。荷台の前で待っているとガルボルテ工作長が戻ってきて荷台の中に招き入れられる。何時ものように中から木戸を閉めて準備が整う。
「あの~、話とは一体なんでしょうか?」
「ああ、これが出来たから見てくれ。前の野営地で作ってみた」
そう良いって渡された物を見ると鉛筆削りであった。鉛筆を入れて手で廻すタイプの奴で削りカスが直に出る奴だ。
筆記用具を持ってきていたのでそれで削ってみる。上手く削れて、鉛筆の芯が程よい長さで削れている。試作したのは3個ほどでどれも上手く削れて具合が良かった。
因みに何で出来ているかと聞いてみると、本体は真鍮で刃は鉄製で切れなくなったら螺子を外して交換出来るようになっている。螺子はこちらでもネジといわれていて、火縄銃と共に伝わったといっていた。火縄銃の尾栓に使われていた物が一般に普及したらしい。
それで、一先ずお礼を言って一個貰うと、後は自分とジョルジョネ大尉に渡すといっていた。それにこれも特許に出すと言われてしまう。
「それでですねガルボルテ工作長。紙を本格的というか、移動する時にも生産したくて、その。移動している馬車の屋根に紙を漉いた木の板を載せて乾かしたいと思うのですが、駄目でしょうか?」
「ふむ、移動している時にか‥‥‥。それは良い考えだが、やるとしたら先頭車両しか出来んぞ。一応気象結界が付いてるとはいえ、埃は飛ぶからな」
俺は分り易く手帳に馬車の絵を描いて、天井に載せた板を滑車のような物で長手方向に引張りながら上げ下ろしが簡単に出来るように絵を描く。馬車の長手の両端は野営用のテントが巻いてある為、長手方向しか融通が利かない。それをガルボルテ工作長に見せると彼は腕組をしながら考える。
「結構大掛かりな仕掛けだな。これだと、屋根に全部つけると馬車の中が真っ暗になるぞ。精々二列か三列付けるのが限界だな。精々1列20枚の板を並べるのが限界か、すると60枚はいけるのぉ」
「いや、どうせなら裏表回転させるようにすればその倍を乾かせるように思えますが、濡れた漉きたての紙は板にくっつきますし、乾いても強風が吹いても取れませんよ。それに気象結界があるからそんなに強い風は板には吹かないですよね?」
そういって、キャタピラのように板を結んで連続して回転できる絵を描く。
「これは駄目じゃぞ。これだと天井が高くなって車庫に入らなくなる。最初のように一面だけを前後に移動する方式にしないと、紙を張るのも大変だし、紐を長くしておけば板を馬車から垂らしてそれに貼り付けていき紐を引張れば、ほれ、楽じゃぞ」
「はあ、それもそうか。じゃあこれを作るとしてどれくらい時間がかかりますか?」
「部品は移動している時にでも作れるが、取り付けるとなると半日はかかる。それに、ジョルジョネ大尉に許可も貰わないといけないぞ。一応馬車は軍の備品じゃからな」
「はあ、そうですか。それとですね、紙を漉くのにこの前貰った粉なんですけど、紙を漉くのに40枚が一回に生産するのに限界で、その度に捨てるのが勿体無いのですが。かといって生ものでして長時間置くと腐りますよね。どうしたものかと思いまして」
「まあ、確かにあれで百枚以上は漉けるはずだからな。移動しているからそれは仕様が無いじゃろ。そんなに高い物じゃないし、簡単に手に入るといっていたが‥‥‥。
おっ、そうじゃ。樽に入れて冷蔵庫にでも入れてもらうか? 冷やせば腐らんじゃろ?」
「はあ、それはそうですが。それでも精々三日ほど持つかもしれませんね。一度試してみますか。樽はお願いして良いですか? それと『漏斗』。あ、漏斗があれば尚いいです」
「ああ、漏斗な。あれが無いと樽に入れるのは大変じゃ」
「じゃあ、そんな事でお願いして良いでしょうか? 大尉の許可は俺から言った方が良いでしょうか?」
「いや、会議の時にワシが皆に話を通しておく」
そういったのでガルボルテ工作長に全てお任せして荷台から出る。有る程度紙の大量生産の目途が付いてほっとする。
しかし、何か忘れていた事を思い出し立止まる。思い出した。まだ返事が来ていないないのか?
それともガルボルテ工作長が忘れているのか分らないがゴムの話である。
でも、催促するのも気がひけてしまい、気長に返事が来るのを待つ事にする。あれこそ旅をしながら研究できる物か分らないしね。今は目先の紙の製作に集中しようと思い直して歩き始める。
まあ、贅沢は言わないが俺もこんな専用荷馬車が欲しい。あればやりたい事が移動しながら研究できるからいいが、所詮年季奴隷。そんな自由はないよね?
新たな野望というかやる事を見つけ、自分の寝床に向う。空はすっかり暗くなっていた。テントに入り、何時もの日課を始める。寝袋に包まれながら、探査術の練習である。何時ものように5分ほどそれをやると程よい疲れが襲ってくる。
ふと、なんか最近一日が充実してきて最初の頃の不安や、何をやれば良いか分からなかった事が思い出のように頭を駆け巡る。半分以上は恐怖の毎日であったがここ二、三日は平穏な日々を送れている。
このまま、ずっと平穏な日々が続いてくれれば良いと切に願う俺であった。
次話へつづく
もう2章が終わりだそうです。
そんな声がどこからか聞こえた俺であった。
第2章はこれで終わりますが、後3話ほど閑話があります。
3話目の閑話の末尾に2章で新たに登場した人物紹介を乗せる予定です。
次話は12/31の夕方に予約投稿します。




