<2-23> 「モルモットな年季奴隷 (後編)」
最新の本文修正日は2014年11月30日です。
合流するといっていた研究者達は陸ハトゥーに目もくれず、俺を一生懸命研究する事に困惑する俺ですが、何か話が違うよね?
そんな事に文句を言える俺ではなかった。
その研究者達の中の筆頭宮廷魔素術使い補佐というばあ様に手を握られ複雑な心境になるが、どうせなら付き添いの魔女っ子が良かったなんて、そんな事は考えてもいなかった‥‥‥。嘘です考えていました。
次の日の陸ハトゥーの解体はあっけなく終わり、その痕跡を消す作業は圧巻の一言であった。その後にも俺の検査があるそうです。ここは開き直って異世界の健康診断だと思って諦めた俺であった。
魔素術について教えてくれると言った、ばあ様の筆頭宮廷魔素術使い補佐は勿体つけるように口を開く。じれったいがここは我慢をして耳を傾ける。
「先ずは、木属性の魔素術についてだが、ある程度知っていると思う。あれは生命活性化の術じゃ。あくまでも生命活動を促進するものであって、生命のないものには使えない。
元は森人が使っていた森を癒す術と聖法術が元になっているといわれているが、詳しく話すと長くなってしまうからな。おぬしが知っている傷を癒す力といえばよいじゃろう。
あとは、おぬしが使えるかという事じゃが、そればっかりはわしゃにも分らん! あ~なんだったかのぉ。勇者語録にたしかあったような‥‥‥。『時期尚早、必要になった時に機会は訪れる』だったかのぉ?」
「師匠様~!!。それ違います。それは、大賢者語録ですよ~」
「えっ? それは王家に伝わる諺よね?」
そんな魔女っ子の意見を否定したのはマイネンスさんであった。しかし、俺にはどうでも良いことで、話の続きが気になって仕様がない。結局俺には使えるのか使えないのかが気になって結論を教えて欲しい。
「あのー、魔素術の使い方を教えてくれるのではないのですか?」
「わしゃには無理じゃわい。今の街道を遡っていけば時期にあ奴に会えるじゃろう。それまで『探査術』の修行をするのが良かろう」
「えっ? こいつそんな事もできるのですかお師匠様?」
おいおい、いきなり「こいつ」呼ばわりかよ、魔女っ子は。あきらかに驚いた表情で俺をまじまじ見るので思わず顔が赤くなる。
「こんな変ちくりんですよこいつ!!」
「これ!! 心で思っていても言葉に出すもんじゃないよ。確かに黒髪でのっぺりした顔だが黒はあの魔人族と同じなんだよ。それに昔の勇者様と同じ風体なんだから馬鹿にするのはおよし!!」
十分貴方も馬鹿にしていますよと突っ込みどころ満載であるが、まだ俺には魔素術を学ぶ時期ではないらしい事だけは何となく分った。
「はーい‥‥‥。でも変な顔」
そう言ってもう俺には興味が無くなったようで前の座席にばあ様の手を引いて座ってしまう。どうやらばあ様の仕事というか、調べ物は終わったらしい。
今度は科学者? 白衣の医者コンビの男女が何やら始めるようで、色々な器具を昨日の魔技箱の鞄から出している。それで俺の目玉を除いて調べたり口を空けて中を覗いてみたりと、昨日とはまた違う事をされる。
終いには顕微鏡のようなものを出して、俺の髪の毛や、爪、さらには血液を調べている。血液は指に針を刺してガラスのプレパラートのような物に乗せてみている。こちらの二人は科学的に俺を徹底的に調べるようだ。
すると、嫌な予感がびんびん感じてくる。当然このまま行けば上から下に行くよね、研究の対象が‥‥‥。当然有無を言わさず、ズボンとパンつを脱がされる。そして、直腸検査をミリクナ医務長とマイネンスさんに抑えられてやられてしまう。
さすがに前の方は検査しないようであったが油断をしていた俺は不意に体の力が抜けて、意識があるのだが力が入らない。多分抵抗できないようにミリクナ医務長辺りが何かをしたのだと思う。
ああ、前も十分観察されました。実際触ったのは男の白衣を着た人物であったが、どうせなら女性の方が良かったよね? そんな事を少しだけ思っていた俺であった。
永遠に続くかと思われた下半身の検査が終わって、急に力が戻ってくる。急いで下ろされたパンツとズボンをあげると、顔は赤面していて周りの女性陣の顔は見れない。
あの魔女っ子にも見られたかと思っていたが、しっかりばあ様に魔女っ子の目は手で押さえられていた。何か文句を言っていたようだが俺には聞えなかった。
一通り俺の体のサンプルを取った白衣の男女は事務的にてきぱきと作業をしている。採った物を目の前で凍らせる魔素術を見せられる。
クーラーボックスのような物に凍らせた俺の元体の一部だったものが詰められていく。ああ、力が抜けた時に俺の分身も取ったようだ。白い液体が試験管のような物に入っていて凍らされていく。
さよなら俺の分身とお別れの言葉を言うと、ばあ様がブッと噴出していた。魔女っ子は目を塞がれたまま何がおかしいのか気になるようで、しきりに何があったか聞いている。ああ、成人してからねと俺は心の中で囁く。
そういえばこちらに来てから性欲というかそういうものがなかった事を思い出す。まあ、そんな事はどうでも良いが‥‥‥。別にスッキリしたわけじゃないですよ?! 感覚が無かったからね。
最後に、また魔素力の計測機器を出して、配線を俺に取り付ける。昨日と同じように魔素術の動作をまたやらされながら、途中で男女の白衣の人達の会話が耳に入ってくる。はっきりとは聞えないがどうやらこの男女は少佐と中尉と呼び合っていて軍人のようだ。
そうすると、俺は三種類の研究者に体を調べられたのかとやっと何かが分った。ミリクナ医務長達は奴隷組合関係者、ばあ様は魔素術の研究機関だよねきっと。最後は軍関係者が一通り科学的に俺の体を調べたという事になる。そうなると、後は俺を調べる機関のようなものはないかと変に安心してしまう。
ほっとした所で一通り魔素力の計測が終わったのか? 素早く配線が外される。それが終わると、チェックリストを見るように落ち度がないか羊皮紙の何か書かれたものを見てチェックしている。
そして、別の羊皮紙を出して来て今後は何をやってほしいとか、ミリクナ医務長やマイネンスさんに何か話をしている。どうやら俺の今後の観察方法や検査の方法を話しているらしい。
もう、こうなったら完全にモルモットだよね?
しかし、これから一体何をされるのか分からない事に不安を覚える俺である。内心オロオロしている俺を他所に、なんだか陽気にミリクナ医務長が話しかけてくる。
「さて、一通り終わったし今日はこれでお仕舞いね。お疲れ様~」
「また見せてねリョウジ!!」
ああ、最後にマイネンスさんがとんでもない事を話していたようだが、俺は聞えなかった振りをする。最後にばあ様にお辞儀をして外に出る時に、またこの言葉を聴くことになる。
「王都で待ってるぞ、おぬしが着たら歓迎しよう」
そういって、俺を見送るばあ様の横から魔女っ子はミリクナ医務長に舌を出してあっかんべ~をしていた。どうやらミリクナ医務長は魔女っ子に嫌われたようだ。
そんな事はどうでも良いようにミリクナ医務長は外に出ていく。俺も後を付いて外に出ると、ミリクナ医務長とマイネンスさんはミリクナ医務長の馬車の中に入ろうとする。
「あれ? 自分の馬車に戻らないのですか、マイネンスさん?」
思わずそんな事を彼女に聞いてしまう。しかし、俺の背中を押してミリクナ医務長の馬車の中に一緒に入ってくる。そして、後部座席に俺を座らして、横にマイネンスさんが座る。そして、耳元で囁くように話しかけて来るではないか。
「これから宜しくねリョウジ。ムラムラきたら相手してあげるからいつでも言ってね」
何を言っているのか分らない。
「はあ? な、な、なに、何を言って来るのですか!! マイネンスさん。俺はそういう事は彼女とすると決めているんで‥‥‥」
「いい加減にしなさい!! マイ姉!! リョウジも困っているでしょ!!
そんな事はしなくても良いからねリョウジ!!」
「ちぇっ! そんな硬い事いわなくても良いじゃない。これから一緒に旅をするのだからね~、リョウジ!!」
ああ、良く分らない。こんな事は初めての事でどう対処していいか分らないチキンで童貞な俺である。どう反応して良いか分らずに顔が赤くなる。その様子を見て、マイネンスさんは微笑んむ。
「冗談よ!! 冗談!!
暇な道中そんな事でもしないとやっていけないじゃない!」
そういって俺から離れると、ため息を付いて話し出す。
「一応は医者の端くれでね。ミリクナ医務長よりは経験があるので、貴方の健康管理の一翼をになうのよ。そろそろ分っているでしょう? 貴方は国王様の年季奴隷、その間は責任持って貴方の面倒を見るから安心していいわよ。そうね、医務長補佐ってことで宜しくね、リョウジ!」
「はあ、分りました。これからよろしくお願いします。それで、なんでこんな所に監禁されたのでしょうか?」
「別に監禁したわけじゃないわ!! 一応昨日からの検査の説明をする為に来て貰っただけよ。それで、今の所は貴方の体には異常はないといっていたわ。まあ、なるようにしかならないって言う事。体と魔素術はね。
それに探査術の修行はしておくと良いと、あの婆さんも言ってたでしょ? そういうことよ」
「あの~、俺の血を採ったのは分るのですが。その、なんというか。俺の子種を取ってどうするのでしょうね?」
思わず聞いてしまう。まさかと思うが俺の子供かクローンを作るのかと思ったからだ。しかし、この国の科学技術でそんな事が出来るのかと疑問ではあるが‥‥‥。やっぱり気になるよね?
「ああ、あれね。健康と子供が作れるか診るんじゃね?」
そう言ったのはマイネンスさんであった。はっ、やはりそうなのか?
「そういえば勇者さんは若い方だったのですよね? 子供がいたのですか? もしかして子供ができなかったとか?」
「それは分らないけど、貴方に子供が作れるようなら上の人達は何かを考えるかもね?」
意味ありげに微笑むマイネンスさんの顔は、何かいやらしいさを感じる表情であった。対照的に赤い顔をして膨れっ面をしていたミリクナ医務長はその事には触れたくないような感じであった。
嫌だよね? 王都についたらパパ~って駆け寄ってくる子供達を想像してしまい、俺は未婚で多数の父親になるのか?
一瞬そんな想像をしてしまう。いやいや、そうじゃないだろ! 体外受精か人工的にそんなことを出来る科学力が有るのか王国?
ふと、家畜の話を思い出す。年中乳を搾るのに一角牛だかの出産時期の調整をしている事を思い出す。
「まさか、王都についたら、俺の子供と呼ばれる子供達がお出向かいする、といった事は無いですよね? そうすると、未婚で子持ちの父親になってしまうと思うのですが‥‥‥」
「ああ、心配ないわよ~。育てられなければ、奴隷組合の孤児院で立派な大人に育ててくれるから。そうね~、これからバンバン子作りしましょ?」
そういってまた俺の横に座ってくるマイネンスさんに俺はすこし困惑してしまう。目がマジになっていなかったのがせめてもの救い‥‥‥。救いなのか俺?
「そんな事が出来るわけないじゃない!! 今の所はそんな事は出来ないわよ?! 人族の体は複雑で神秘的なのよ! 魚の卵のように子種を掛けて、はい終わりという風にはいかないの。
リョウジもそんなマジになった顔をしない!! そうやって、うぶな男の子を毒牙に掛けるのがそのマイ姉の趣味だから、後で泣くのは貴方なのよ?!」
はあ、危なかった。もう少しで毒牙にかかる所であった。あっ、本当にそうなのかは分らないがそうなんだろう。俺が若干引き下がると、ガッカリした表情をしてマイネンスさんは俺から離れて行く。
「ちょっとぐらい味見したって良いじゃない!! ミリー先輩のけち!!」
「何言ってんですか、もうね二百五十歳もなって何時までそんなことしてんだか。いい加減にしてください!!」
へぇっ? 二百五十歳を越えているだと!! 急に何かがなえてしまって、まったくその気にならなくなってしまう。何って? 嫌ですよ気持ちに決ってるじゃないですか? そんな一人突っ込みをしながらまじまじとマイネンスさんを見てしまう。
「二百五十歳を越えているという事は一体何歳ですか?」
「いやだね~、女性に歳を聞くもんじゃないよ~。なに、ほんの二百五十三歳だよ。森人じゃ珍しくないよ? ここの護衛分隊長も確か二百三十四歳位じゃなかったかな? 傭兵になりたての頃に知り合ったから多分それくらいだよ」
「他人の歳はどうでも良いです。あの方はちゃんとジョルジョネ大尉一筋ですよ?!」
「え~、だって~。その前は違う人を追っかけていたよ?!」
なんだか女子トークのような話になってきて色々と情報が舞い込んでくる。すかさず俺は泣け無しの記憶領域に書き込んでいく。後でメモに書こ~っと。
「そんな事は言っていません。リョウジに手を出したら駄目ですよ。それだけです!!
リョウジも気安く誘いに乗ったら駄目だからね!!」
いや~、良く分からないけどミリクナ医務長の言う通りにしないと後が怖い。すると、指揮車の覗き窓が急に開いて、誰かが顔を出す。
「ったく、誰が私の事を噂していうると思ったら、あんたかい!! まったく腐れ縁だね~。まだそんな事やってるの?」
「だって~。仕様がないじゃない、このなりじゃ。結局こういう仕事しか出来ないのさ、半人はね‥‥‥」
「だから言ったじゃないか~。私といれば心配ないって」
なんだか妙な雰囲気になってきて、マイネンスさんが中にメルディム護衛分隊長を招き入れる。その彼女の脇には酒樽を抱えていて、お猪口のような物を持って前の席に座るではないか。あ~、酒盛りが始まるようです。俺は退散しようかと思い席を立つ。すると、マイネンスさんが俺を呼ぶ。
「私達の杯を受けないで出て行くつもり? さあ、先ずは一献どうぞ~」
俺はミリクナ医務長の顔を見て助けて目線を送る。しかし、彼女はあきれ果てて、後部座席に座って何かの書類を書き始める。
まだ昼だと思うのに酒樽が空になるまで飲まされるのか?
その途中でメルディムさんののろけ話や、昔話に花が咲いて二人で勝手に盛上る。
マイネンスさんは泣き上戸のようで酒が回ると泣き出してしまう。特に昔の男の事で愚痴を言いながら涙を流す。反対にメルディムさんは陽気に彼女を慰め、俺にもっと飲めと酒を勧めてくる。
このお酒、なんていうか芋焼酎? それをストレートで進めてくる彼女達は一気に杯を開ける。俺はちびちびと口おつけるのが精一杯で、多分これをあけるとぶっ倒れる自信はある。はっきり言って水で薄めて欲しいが、俺は水を出す事ができない。黙ってちびちびやる事にする。
彼女達の話を聞くと、メルディムさんとマイネンスさんは偶然町の酒屋で出会って売れ切れ寸前の酒を取り合って以来、何年か傭兵の仕事を一緒にしたらしい事が分かった。その後は医者に弟子に入り色々と自分の体の事を調べているらしい。
しかし、マイネンスさんは普段の姿は人族なのだが、若干森人族の血が強かった為に魔素術を使う時など、力を使う時に森人の姿になってしまう事。
致命的な事に普通の人族とは違い見た目は人族なのに寿命が森人並みに長いという事。
魔素術を使う時だけ森人の容姿になり、それ以外の時はまったくの人族と変わらないという中途半端な為、どちらの集団にも馴染めないということらしい。
その話を聞いた俺はジョルジョネ大尉の言葉を思い出す。そういう事なのかと改めて思い知らされる俺であった。
次第に、最近の大森林と王国の間の地にそういったハーフが集まる集落が出来たという話になっていく。そこには色んな種族との間に生まれた子供達や家族が集まっていて、奴隷組合主導で一つの町を作る計画になっているというらしい。
まあ。中間ラインのようなものらしい。確かに森人族並みの寿命で人族の姿だと連れ合いになっても片方が人族だと下手したら5世代以上と過ごさないといけなくなるよね?
次に、森人族の男性の話になる。聞くところによると、森人族の男性は出来た子供が成人するとまた新たな家族を造りに旅に出るといっていた。
因みに森人族の成人は人族の10倍で150歳で成人として認められ、氏族の名前を与えられるとも言っていた。成長も人族よりは遅いのかと思ったが、5歳児までは人族と変わらない成長でそれ以降は成長速度が遅くなるようだ。
何故だか森人達も理由が分からないそうで5歳児以降、見た目年齢の十倍の年齢が目安になるそうだ。
また、新たに森人族の情報が入って来たがそれ以降、俺は地雷を踏まないように当たり障りのない事選んで彼女らに聞いていく。今の所はセーフらしいが、これ以上何か聞くとやばそうなので少しだんまりを決めて彼女達の話を聞く。
メルディムさんは人族と同じように家族仲良く暮らしてみたいらしい。でも、森人族の男は駄目だとか。人族ではジョルジョネ大尉が一番良いとか。後半惚気話になってきて聞くほうが赤くなってくる。
それを聞いたマイネンスさんはまた泣き出す100年前の彼は優しかったとか。子供を作っとけば良かったとか。兎に角泣いて憂さを晴らしているように見える。
あ~、人生色々だね~。人族より余分に長く生きるだけあって、ドラマがふんだんにあるようだ。
段々、なんていうか話がヒートアップしてきて、俺の杯が全然減っていないとイチャモンをつけてくる。そして、隣のマイネンスさんが俺を羽交い絞めにして、メルディムさんが俺に杯の酒を無理やり口に入れてくる。最後に鼻を押さえて飲み込むようにするではないか。
こいつら酒癖が悪すぎである。俺はその強い酒の為、咽ながらも顔が真っ赤に火照ってってきて目が据わってくる。
その後の事は今一記憶にないのだが目を覚ますと、何時ものように指揮車の簡易ベットに横になっていた。あ~、あいつらとは二度と酒を飲まないと誓った俺であった。
次話へつづく
次話は明日12/23の昼頃に予約投稿します。
年内はあと12/26、28、29、31日の4回予約投稿する予定です。




