<2-17> 「探究する年季奴隷 (前編)」
最新の本文修正日は2014年11月25日です。
昼の休憩にプイの塩焼きをご馳走になり美味しく頂いた俺ですが、プイを捌く状況にも、なんともなくなる。散々スプラッターを見たお陰であろう。
空いた時間に紙を作る為に迷走するが、結局出来たものはわら半紙の出来損ないであった。科学的に石灰の量や薬液の濃度などを試さないと駄目なのかもしれない。しかし、ここは屋外。実験施設とは違い、色々と不具合があって思うように行かない。
最初の紙が出来上がった頃にジョルジョネ大尉の上司であるザルツベ大佐という人物に会ったが2、3会話しただけでその人物は帰ってしまう。しかもその会話の内容は、俺が五年間無事過ごして王都に付いたら年季奴隷を解放してくれるという話であった。しかし、保障は何処にもない。後になって一筆書いて貰えばよかったと後悔する俺であった。
特急馬車を見送って、俺はジョルジョネ大尉に聞いてみる。
「あのー、ザルツベ大佐の言った事どうなんでしょうね?」
「へっ? 何がだ?」
「いや、その。解放される話と文献を見せてくれる話ですけど。本当ですよね?」
「君ね、ったく‥‥‥。それは君のこれからの働きによると思うよー‥‥‥」
そういって、何時ものいやらしい顔に戻ったジョルジョネ大尉は話をはぐらかす。何時もの事でもう慣れたのだが‥‥‥。
「あっ、話は変わりますが今朝から指揮車の周りにひらひら飛んでいる何かを目撃したのですがあれは何ですか?
それに空を飛ぶ獣は居ないといいましたが虫は飛ぶのですか?」
「ああ、あれは魔素術の『手紙ハトゥー』という術で、身近な人への連絡に使う。あれも便利な様で不便でね。一回会った人じゃないと届かない。
それに虫は飛ぶが、殆ど地上の上しか飛ばない。なんていって良いか分らないけど五メト以上の高さしか飛べないし、殆どの虫がそうだ。それに、縄張りっていうかそういうのが強くて、他の場所に中々移動としないのが多いかな」
「はあ、そうなんですか」
「まあ、手紙ハトゥーはその内教えてやる。それに、暫くここに滞在する事は先程聞いていたので分っていると思うが、俺も色々と忙しくなるので二日程君の自由にして良いからな。先程聞いたが君は紙を作ってるそうだな? それを作って暇を潰すといい。三日目には色々やって欲しい事が有るからな!」
「そうですか、分りました。そのようにします」
ああ、なんか本格的に紙を作れと命じられたように思えてしまう。そうすると、道具なんかも本格的な物を作ってもらうかな?
新たな楽しみを見つけて気を紛らわせるしか俺には出来ない。大尉はそういうと自分の指揮車に戻ってしまう。そろそろ夕飯のようで良い匂いと虫除けの煙が混ざる。
あれから1号馬車は戻ってこない。あれ? 俺は何処に寝れば良いんだ? 完全に大尉は忘れているよね。まあ、何とかなるか。
プイホンさんが今日の分の馬の世話が終わったのか、こちらに戻ってくる。
「プイホンさん、ゴナベル奴隷長はいつ戻って来るのかな?」
「あっ、そうだね‥‥‥。でも、戻ってこなかったら草原で寝れば良いから、気にしなくてもいいよ。あっ、おいらがふかふかの草の寝床を作ってあげるよ」
「ああ、ありがとう」
うーん、微妙だ。これは一緒に草原に寝れるという事なのか? 彼はサバイバル訓練の一環で外で寝るのは苦にならないようだ。
だけど「俺は何か嫌だなー」とは言えなかった。っと、いうかプイホンさんを抱き枕に寝れるかもしれないという誘惑の方が打ち勝ってしまう。ああ、猫と添い寝ですよ勘違いしないでください。
晩飯が始まったようでボツボツと配膳の列が出来たので、俺とプイホンさんも一緒に並ぶ。何時ものメニューをお盆に載せて貰い彼と一緒にテーブルに着く。晩飯を平らげる頃にもゴナベル奴隷長は戻ってこなかった。
仕方なく、皆が草刈していて集めていた草を集めて簡易ベットを作ってそこに横になる。横にはプイホンさんが自分の寝床を作って寝てしまう。
「嗚呼、ふかふかの寝床を作ってくれるといってたのに~」とは言わず、じりじりと彼の側に寄って寝床の調子を見て手が届きそうな所に横になる。クックック、計画的に朝起きると暖かい所に寄って来る様に仕向ける俺であった。
しかし、日が落ちて暗くなって来ると、ある事が気になってくる。こんなファンタジーな世界につき物のモンスターについてである。
確か、死んだモンスターは夜になるとアンデットとして復活した事を思い出して、あの陸ハトゥーがそうなったらどうなるのかと気になってくる。しかし、あの嫌な感じの視線は向ってこない。
杞憂だと思って、布団の変わりに草で自分の体を覆うと、段々眠くなり目を閉じる。
暫くして、誰かに突っつかれて目が覚めるとジョルジョネ大尉であった。眠気眼で起き上がると何か言っている。
「あれ? 何でこんな所で寝てるんだリョウジ?」
「いや、だって。一号車はなんかの警備とかで帰ってこないじゃないですか」
「あ、忘れてた。そうだった‥‥‥。すまんかった。朝方は寒くなるから指揮車で寝るかね?」
「いや、結構草の寝床も暖かいですよ今日一日ぐらいは良いですよ。あっ、そういえば私の国って言うか外国で聞いた話なんですけど。この大陸の魔獣って死んでから甦って徘徊するとか無いですよね?
不死の魔物になるという伝説のようなものを聞いた事があるので。まさかと思いますがあんな陸ハトゥーが不死になって甦ったら怖いなーと、思いましてね」
「へー、そんなのがいるのか、お前の国は?」
「いや、物語っていうかおとぎ話での化け物ですよ。実際にいないですけど。もしかしたらと思いまして。」
「そんな伝説って言うか、言い伝えは聞かないな。まあ、実際に不死並に長生きする者はいるがね。近くに煙が行くようにここに置くから蹴飛ばすなよ!」
そういってジョルジョネ大尉はジョチュウギクを燻した物が乗っかっている皿を置いていく。俺はまた草の中にもぐり眠りに就く。やっと変な夢を見なくなって喜んで寝ていたのに、とんだ邪魔が入った。
暫くしてウトウトと始めた頃、また誰かに見られる視線を感じてしまう。嫌な視線では無く、なんていうか様子を見に来た感じの視線である。その視線は様子を見に来ただけなのか直ぐに感じなくなってしまう。すると、定期的に誰かの視線を感じるではないか。あれ? これって周りで警備している人の視線なのかと、あほな俺でも気付いてしまう。
そこで、そんな視線を感じるならその視線を送る人物や動物などを探る事は出来ないかと閃いてしまう。しかし、言うが易し。実際やってみると凄く難しい事で思うように出来ない。
そういえばこの前の兎のことを思い出す。あの兎の興味を示した視線は俺に向けたものではなく周囲の馬車に向けたものであった。それを思い出し、視線というものを何かに置き換えれば良いのかと考える。
懐中電灯のように照らして見える景色を想像すると。近寄った誰かの視線がライトのようにあっちをを向いたりこっちを向いたりとなんともいえないような感じに頭の中にイメージされる。そんなイメージの感覚を感じた視線は俺からそれ程離れていなかった。
また、近くを誰かが通る感じで急に視線を感じると、俺の方を向くライトが当てられたような視線を感じてしまう。それは別に俺を見たのではなく、俺越しに何かを見たようだ。
スゲーぞ俺、何かに目覚めたのか? しかし、そんな感覚を感じるのも集中力が結構いるようで、五分も経っていないのに凄い疲労感が襲ってくる。
なんていうかものすごく疲れて次第に意識が飛んでしまい気が付いたのは日が昇り何時もの大尉の目覚ましの轟音であった。しかし、目を覚ましたのだが、体がだるくて思うように起き上がれない。
俺の横に居たプイホンさんは既に居なくて折角の計画が台無しであったが、今はそれどころではなく疲労感が半端ない。ああ、慣れない力を使いすぎてこうなったのかと後悔する。しかし、今後何かの役に立つかと思い、少しづつ慣れさせないといけないのかもしれない。
そんな事を考えながら、やっとの事で体を起して体に付いた草を払う。フラフラになりながら歩いて仮設食堂に向うが、何かにつまずいて倒れてしまう俺であった。
気が付くと何処かに寝かされたようで、何時もの簡易ベットの寝心地であった。意識が戻ってくると、次第に誰かの視線を感じてしまう。
この感じは何となくミリクナ医務長の気がして目を開けると、俺が寝かされていた場所はやはり指揮車の中のようだ。顔を動かして周囲を見ると、定位置にミリクナ医務長が椅子に座って案の定、俺を見ていたようだ。
「あら、気が付いたのリョウジ。貴方も良く倒れるわよね?」
いやいや、その何割かは貴方のせいですよとは言えない俺である。
「滅多に慣れない屋外で野宿したのがいけなかったのですかね?」
「そう思ったら今夜は天幕の中で寝袋に包まって寝る事ね。熱は無いようだけど何か疲れるようなことでもしたのリョウジ?」
「いやー、疲れるような事はしていないですが。慣れない生活の疲れが出たのでしょうか?」
「まあ、いいわ。今日はそこで寝てなさい。あ、お薬と食事が有るけど食べて飲む?」
「そうですね。じゃあ、食べて飲みますか。あっ、そういえば。この薬って、何時まで飲めば良いのでしょうか?」
「貴方の体調がよくなるまでよ。こんなに倒れられたんじゃ当分は飲まないと駄目よ」
「はあ、分りました」
そう返事をした後にミリクナ医務長のほうに行って対面に座り食事を始める。
「昨晩は良く眠れたの? この前、悪夢を見たといっていたけど」
「はあ、昨晩は良く眠れました。途中でジョルジョネ大尉に起されましたけど、その後は良く寝れたと思ったのですが。今朝、起きると何故か体が重くて朝飯を食べに行こうと思ったらそのまま倒れて気を失いまして‥‥‥。気が付いたらここにいましたから」
「そう。念の為、体中を診たけど虫なんかに刺された跡も無かったし、多分今までの疲れが出たのかもね」
「え~~、また俺を裸にひん剥いたのですか? 先生も『エッチ』ですね~」
「なに? その『エッチ』ってなんかいやらしく聞えるのだけど‥‥‥。私は医者として診ただけですよ?!」
ああ、何か可愛い反応を見てしまい、こちらの方が赤くなる。残りの食事を平らげて薬を飲む。そして、簡易ベットに横になり目を瞑ると、何故か昨日感じた能力のせいか周囲の視線が気になる。
周りの様子を頭の中で見てみると俺の頭の方向に隣のジョルジョネ大尉の馬車があるのが何となく分る。そして、透けるように中の様子が分るではないか。中には誰もいなかったが、それ以上は何故か越えていけないような気がして躊躇してしまう。
すると、急に誰かの視線を感じてその覗き見を止めてしまう。確かにそれを止めた時に俺の頭上の方から舌打ちした音が聞える。
「あらら~。リョウジさん、寝たのではなかったの?」
驚く事にミリクナ医務長がそんな事を言って来るではないか。非常にヤバイ気がして、押し黙ってしまう。
「なるほど。そんな事をしていたから今朝の状態ですか。あれって結構疲れるのよねー。で、それに気付いたのは何時かしら?」
俺は起き上がって言い訳を考えるが良い言い訳が思いつかない。
「いやー、昨晩っていうかジョルジョネ大尉が俺を起した後なんですが。まさか、ミリクナ医務長も見えるのですか?」
「私の事は良いけど、ジョルジョネ大尉は知っているのかしら?」
「いや、だって昨晩ですから知っているのはミリクナ医務長だけだと思いますけど?」
「その事は皆に話しちゃ駄目よ。私の事もね。大尉には私から話すから分った、リョウジ?」
「はあ、それはかまわないですけど。その、この力を使っても良いのですか?」
「まあ、程々にね。あまり使いすぎると死ぬわよ」
「え~~! 死んじゃうのですか?」
「それは言い過ぎかもしれないけど、その訓練は過酷で私もやっと習得したのよ」
「え~~! ミリクナ医務長って本当に十六歳なのですか? ずっと年上に見えますよ」
「女性に歳を聞くものではないわ。それに私は本当に十六歳よ。あと、あまり他人の事を根掘り葉掘り聞くのも、いいとはいえないわよ。それぞれ事情ってものがあるのだからね」
「はあ、そうですよね。それで、この能力が使えると俺に何か期待するような事はないですよね?」
「貴方も心配性ね。これは結構疲れるし、あったら便利な程度よ。戦場ではこれ以外に探る方法なんかは沢山あるのよ。例えば、魔素術での探査の方法なんて腐る程あるわ。だから、これが使えてもそれほど問題はないわ。この能力が使える者も多数いるからかえってこちらの居所が分かる事もあるのよ」
「はあ、分りました。まあ、程々にします」
「分ればよろしい」
ああ、偉そうな16歳だこと。それにしても、魔素術でもこういう事が出来るのか。何時になったら魔素術は使えるのやら。しかし、相手にも見えるということは、ライトのイメージはあながち間違った事ではないという事のようだ。じゃあ、見えない何かにイメージすればミリクナ医務長には見えないのかな?
暫く考えると2つ程思いつく。一つは音波のような感じで視線を音波で感じる事である。もう一つはレーダーのような電波的なものだ。しかし、電波的な何かはいったい何なのかが分らず、暫く考える。結局、先ずは音波的な何かをイメージしてやるのが良いと思い至る。
紙の事も気になるがこの際、今日はこれを探究してみよう。「紙は明日だ」と、自分に言い聞かせる。
先ずは相手の視線というか気配を察知することから始める。黙っていても回りに誰もやってこない。うーん、考える。ああ、普通ならレーダー表示で見えたり出来るのに何で俺はこんな七面倒臭い性能なんだ?
そうやって内心愚痴を言いながらライトでは無く、音波を発するイメージをする。音波で周囲を探る様に頭の中でイメージするが何でか知らないが細かい横縞模様で見えてくる。
「な! 何やってんの?!」
そういって、いきなりミリクナ医務長が声を上げて驚くではないか。
「いや、ちょっと実験をしてまして、驚かしてすいません」
「いい加減にしなさいよね。まったく」
驚いた、ミリクナ医務長は最後に何かブツブツ言っていたが、暫くしてその声が聞えなくなる。なるほど、音波は駄目なのか。斯くなる上はレーダーの如く電波的な何かを飛ばすイメージをしてみる。
レーダーアンテナから電子が出るイメージをするが、そもそも、電波って目に見えるって言うかそんなイメージできるのかなと、そういう疑問が沸いてくる。
あ~、なんかの本で最初のレーダーはセンチ波とか言っていたことを思い出す。それに一定方向にしか向けることしかできなかった事などを少しずつ思い出す。
現実世界でいきなり高性能なレーダーが出来なかったように、俺もいきなり出来るはずもない。波的な何かを出して対象の人物に試しにやってみる。実験体はこの指揮車にいる人物で、この道には一目置いている人でないと駄目であろう。
試しにやってみると波的な何かが上下しながら伸びていくイメージをする。すると人体に当たってかすかに波形に乱れが出るではないか。しかも、ミリクナ医務長は何も言ってこない。ああ、今の所だが‥‥‥。
少し角度を変えて周囲に向けてみるとある一定以上はなんていうかその電波が届かないっていうか、そんな感じになって探査出来なくなってしまう。
そして、俺は電池切れのようになって気を失ってしまう。「ああ、これって結構神経を使うのか」と、最後にそう思って意識が無くなってしまう俺であった。
次に目が覚めたのは誰かがこの指揮車に入ってきた扉の音であった。その扉から入ってきた人物は気が付いた俺に声を掛けてくる。
「お、リョウジ目が覚めたか? お前無茶するなー。あんな事俺でも最近やっとできるようになったんだぞ。それを二、三日でやろうなんて無茶すぎるぞ。結局気を失ったそうじゃないか」
そう言いながら心配そうに俺を見たのはジョルジョネ大尉であった。そんな俺は彼に言い訳をしてしまう。
「はあ、何かこの奴隷旅団所属中隊で一番役に立ってなさそうなんで何か出来ないかと思っていましたら偶然、昨晩出来まして」
「何だ、そんな事気にしてたのか。まだ一月も経っていないのに無茶すぎるぞ。あれは結構精神が磨り減るから多用すると危険だと医務長から聞かなかったのか?」
「いや、聞きましたがこれ程とは思っていませんでした。多用しないように気をつけます」
「それがいい」
俺にそういって諭したジョルジョネ大尉のあとに、ミリクナ医務長が不思議そうな表情をして質問をしてくる。
「それより、最後のは何? 珍妙な感じがしたのだけど。何かがもにょもにょと当たる感覚がしたのだけど」
「はあ、ちょっと色々と試したもので分っちゃいました?」
「はっきりとじゃないけど何となく珍妙で笑うのを堪えたわよ」
「はあ、そうですか」
どうやら実験は失敗のようであった。何がいけないのか分らないが、電波的ななにかではなく何か違うものを飛ばしたらしい。
「あ、ひょっとして、何かって言うか、『デンパ』あ、う‥‥‥、魔素のようなものが流れたのが分るのですか?」
ミリクナ医務長は俺の問に、一瞬何かに詰まったように言葉を選んで話してくる。
「えっ? あ、あー。なんていうのかな水面に水滴が落ちると波紋が立つわよね?
私にはそれが分るの。乱れた魔素の波紋が見えるって言うか、感じるっていった方が良いかしら。そんなものね」
「へぇ~。なんか、急に色々と教えてくれるのですね」
「一応、上司の許可が下りたからね。貴方には隠し事をするなと。だけどジョルジョネ大尉には話したくなかったのだけど仕様がないわ」
そんな事を聞いてしまった事に、何故だか俺は体を起して彼女に向って謝てしまう。
「それは申し訳有りませんでした。以後気をつけます」
そうやって俺が謝ると、彼女は驚いた表情をする。まるで愚痴を言った相手が謝るとは思っていなかったようだ。
ああ、変な所で正直な俺であった。
中篇へつづく
中編は12/14の夜に投稿します。




