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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第2章 年季奴隷が前進すると地雷踏む 》
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<2-15> 「懐疑で会議で懐疑?  (中編)」

最新の本文修正日は2014年11月20日です。

 陸ハトゥーの死骸を観察して自分の足元は観察しなかった為に落とし穴に落ちた俺ですが、改めて魔素術を目の前で観察する機会がありました。


 ミリクナ医務長の水属性の魔素術は見事なもので、洗濯機は必要ないようです。その後に何故だか魔素力の計測をしたが、いつも通りのため息しか聞えてこない二人の仕草になんだかほっとする。



 その後の尋問で俺の懸案事項の一つを白状させられたのですが、なんだか普通に「そんな事か」と言われてしまい、拍子抜けになる俺であった。






 俺は二人の拍子抜けした答えに何を悩んでいたのかと、馬鹿らしくなって来る。しかし、こんな事が一般に起きるのかと疑問に思ってしまう。だって、異世界の常識なんて分らないよね?


 「あの~、先程の話は普通の事なんですか?」




 「へぇ? ああ、そうよ。たまにそういう報告を聞いた事がありますわ!!


 ねぇ、大尉? あるよね?」




 「えっ? ああ、その事はそうですが。俺はもっと別の事かと思っていまして‥‥‥。医学的な事は俺には分りません」




 ジョルジョネ大尉は俺が違う事を隠していたのだと思っていたのか、何か拍子抜けした感じでそう話す。しかし、何か大尉の目が泳いでいたように見えたのは気のせいであろうか?


 それに、ミリクナ医務長は平然としていたので、真実は俺にも分らない。まあ疑い出したら切りが無い。


 「じゃあ、なんとも無いのですよね?」




 「ええ、今の所はね。だから、体に変調を来したら必ず私に教えてくださいね。もし隠すと、()()()になるから必ずですよ?」




 「はあ、その。もう一つって言うか、気になっている事がありまして」




 「「はあ? まだあるの?」」




 何か驚いた感じに二人してハモッて聞き返してくる。あらー? 何かまずいのかな? しかし、恐る恐る聞いてしまう。


 「なんていうか。爪と、髪の毛と髭が伸びるのが凄く遅くてですね。その事が気になっていまして。多分なんでもないとは思いますが、この際話しておきます」




 「なんだ、そんな事か。慣れない生活をするとそういう事が起きるって聞いているわよ。あんまり気にしすぎじゃないのかしら?」




 「はあ、そうですか。じゃあ、細かい事は気にしないようにします」




 「だけど、体の変調は必ず教えてよ、リョウジさん‥‥‥。そういえば、悪夢はまだ見るの?」




 「へっ? ああ、そういえば今朝は見ていないですね‥‥‥。今晩はどうなるかは分りません」




 「そう、隠し事をしたから、そんな夢を見たのかもよ?」




 最後にそうおどけて俺に詰め寄るミリクナ医務長は、何か普通の女子高生がおどけるような仕草であった。


 まあ、隠し事をすると何処か後ろめたい事があるのは事実だ。それに陸ハトゥーが逝ってからはあの視線は感じない。


 あの視線は本当に嫌な感じであったが、今はそんなことはない。今の感じる視線は俺の様子を見ている二人で、相変わらず少し呆れた雰囲気である。


 そんな俺の様子を見て、ジョルジョネ大尉が話しかけてくる。




 「リョウジ、悪いが食器を下げて、道具を持ってきてくれ。仕事は何時も通りにあるんでな」




 そう言われたので、食器とお盆を重ねて二人分を持って指揮車から出て行く。外に出ると周りの草をまだ刈っているようで、皆が休み休み野営地周りの草を刈っている。そして、虫除けの煙が辺りを漂っていて、何となく晴れやかな気持ちで食器を下げに行く俺であった。






☆  ☆  ☆






 一方、指揮車に残った二人はリョウジとは対照的に、張り詰めた雰囲気に変わり上司への対策会議が始まったようだ。





 「あのー、先生? 先程の件ですが、私はあんな事聞いた事が無いですよ?」




 「私だって無いですわ!! 今はどうやって上に説明しようかと考えています。今日の夕方にはこちらに来るって言っていましたので、そちらの上司と一緒に来るのでわ?


 王都に帰ったとばかり思っていましたが何処かで何かをやっていたようですね!


 それに、あの死骸は燃やすなですって!! 王都から研究者を呼ぶそうよ?! それまであれを監視していろという事ですわ。腐っちゃうわよね?!」




 「はあ、その事は聞いています。燃やさないで現状を維持しろと命令を受けました。しかし、研究者が来る前に腐っちゃいますよ」




 大尉が最後に話した腐っちゃうという言葉に、自分の心境が分ってもらえなかったミリクナは少しイライラした感じになりながら引き続き話し出す。



 「私が言っているのはそういう意味ではありません‥‥‥。あっ、最後に上司が面白い物を見せてくれるっていっていましたわ‥‥‥。久々にワシが直々氷魔素術披露するって書いてありました。私は氷は扱えませんので」




 途中でイライラしだしたミリクナを見て何を怒っているのか分らないジョルジョネ大尉は、ミリクナが氷属性を使えない事に意外に驚いてしまう。




 「えっ? あんなに水と土がお上手に扱えるのにですか?


 私はてっきり貴方がやるのだと思っていました」




 意外に驚かれたジョルジョネ大尉の顔を見てふて腐れるように視線を外し、ミリクナは文句めいた事を話してしまう。




 「私にだって出来ない事はあります。何故か魔素陣でも氷を扱う事は出来ませんでしたから。あれを扱うのは天性の何かか、獣人けものびとのように種族特性のような物が必要だと思いますよ」




 「そうですか‥‥‥。さて、なんて報告しましょうか?」




 折角自分の弱点というか完璧を持した自分の弱点を晒したのに、別に興味がないといった様にジョルジョネ大尉は切り返してくる。それを見たミリクナは段々悩んでいる事が馬鹿らしくなってきて、最後にはいい加減な答えを出してしまう。




 「ああ、面倒だからありのままを話しましょ。後はあの二人が判断してくれるわよ。私は少し疲れましたので休みますわ。でわ、上司が来る頃またここに来ますね!」




 ミリクナが最後にそう話して、上司への対策会議は終わったようだ。しかし、なんでミリクナが怒り出したかよく分らないジョルジョネ大尉は、自分はどう上司に報告しようかと思案顔になる。


 だが、結局ありのままを報告しなければならないと、同じような結論に達してしまうジョルジョネ大尉であった。






☆  ☆  ☆






 先程、隠していた事を話してスッキリした俺は、暢気に食器を食堂馬車の方に下げる。そして、自分の道具を取りに1号馬車に向う。


 鼻歌交じりに普段通り道具袋を持って俺は指揮車に戻る。何時ものように扉を叩こうとした瞬間に扉が開いてミリクナ医務長が出てくる所に遭遇する。


 一瞬、彼女の顔は曇ったように沈んだ顔であったが俺を確認した途端、普段と同じ感じになる。俺の肩を叩いて「お仕事頑張ってね」というと、自分の指揮車に入りいなくなる。


 ああ、何か有ったのかと考えるが俺に分るはずも無い。それに彼女らが困っている事を俺が解決出きる訳も無い。何せ自分の身に起きている事さえ解決できないからね‥‥‥。事実だから仕方がない。



 そんな事を考えながら何時ものように、仕事に掛かる。算盤を弾き、メモ用の板にメモを取る。そして、纏まると、羊皮紙の一覧に計算結果を書いて行く。


 それが一通り終わると、検算をして羊皮紙とメモ用の板を渡す。メモ用の板は新しい物が帰ってきて、それと共に道具を道具袋に仕舞う。結局、俺は仕事が終わった頃には先程の事などすっかり忘れてしまう。



 さて、今日はこれからどんな事が聞けるのかと楽しみにしていた時間だが、何時もと雰囲気が違う。なんと言うか、大尉が羊皮紙を受け取った後にせわしなく何かの書類を書いていて、彼に声を掛けるタイミングを失ってしまう。


 その後の質問コーナーのような、議論のような話の時間が今回は無いのか? 


 俺が不思議そうな顔をしていると、ジョルジョネ大尉は少し疲れたような顔をして口を開く。




 「今日はこれからやる事があるので勘弁して欲しい‥‥‥」




 そんな事を聞いてしまうとグウの音も出ない。諦めて挨拶すると俺は指揮車から出る。何か釈然としないが向うの都合では俺は文句は言えない。



 指揮車を出ると1号馬車に戻り道具袋を自分の魔技箱に仕舞い、やる事が無いか周りを見渡す。すると、刈り取った草を運ぶプイホンさんを発見してしまう。


 彼は尻尾をゆっくり振りながら歩いていて、まるで俺を誘っているのか?


 いや、二足歩行に荷物を持って歩いているのでバランスを取っているのかも知れない。


 こんな状態は滅多にない事だと、俺も慌てて彼と同じようにそこに積んであった草を抱えて一緒に彼の後をついて行く。


 俺は尻尾の様子を観察しながら揺れる尻尾を見ていた為、急に止まった彼にぶつかりそうになって慌ててしまう。何で止まったのか分らないが彼に話しかける。


 「ねえねえ、プイホンさん。この草何処に運べば良い?」




 「あっ、兄ちゃん。仕事が終わったのか? ああ、じゃあ、付いてきてー」




 そう言われたので、また彼の尻尾を見ながら後を付いていくと、山になった草を貪るように馬達がお食事をしている。


 鞍のような物は外されていて柵にかけてあったり、馬具も同じようにかけてある。しかし、馬の顔には手綱のような物が付いていた。だけど、基本柵の中は自由なようで手綱は首に巻かれていた。


 柵も以前からあったような感じに地面に刺さっている。支柱を揺らしてみたが結構奥に入っているようで動かない。


 それに横の柵は金具で留めてあり、いつでも脱着出来て移動の際には素早くばらせるようになっているようだ。色々と仮設の割りには頑丈に出来ている様子に俺は感心してしまう。


 そんな俺の様子にお構いなく黙々と仕事をこなすプイホンさんは、草をやり終わった後に柵の中に入り柵に立てかけてあったシャベルを手に取ると、馬糞の掃除を始める。俺もそれを見習って柵に入ろうとすると、プイホンさんに怒られてしまう。




 「兄ちゃん、駄目だよ!! 慣れない者がこの柵に入ると馬が驚いて暴れるよ!! だからそこで見ていてよ!」




 さすが社会人一年先輩の貫禄である。彼は俺に注意した後、手馴れたように次々に馬糞を集め柵の外に出して一箇所に集め始める。


 俺は周りを見て、もしかしてと思い猫車を探すが影も形も無い。すると、二人の人影が馬車の影から姿を現す。一見親子のように見えた二人は、どうやら何時もジョルジョネ大尉の指揮車の御者をしている人達である。


 その二人が猫車を押してこちらに向ってくる。猫車はちょっとした物を乗せて押して荷物を運ぶのに使う道具だが、こっちの猫車の車輪はゴムタイヤではなく木の板を円く刳り貫いて作った車輪であった。まあ、ベアリングなどは無いから多少は押しにくいように思えるが、空荷の為か小さい方がそれを押していた。



 良く見ると何時もは帽子を被っていて良く見えなかった彼らだが、今日は帽子を被っていない。両方金髪で瞳はブルー、白い肌が少し茶色に焼けている感じで、時折焼けていない肌が袖口や肩口から顔を出す。


 典型的な西洋人の姿に日本人顔の俺は彼らの眩しい姿にコンプレックスが全開である。大人の方はその少年の方を「バト」と呼び、反対に大人の方を「親方」と呼んでいたが時々「父様」と呼んで、その呼ばれた方に怒られている。その様子を見て。ああ、この人達は親子なんだなと、思ってしまう。



 すると、親父さんの方が俺に声を掛けてくる。




 「すまないねー。リョウジ殿に草なんかを運ばしてしまって」




 「いいえ、俺が好きで手伝ったので気にしないでください。それに、殿はよしてください。なんだか背中がかゆくなります。普通にリョウジと呼んでください。えーと‥‥‥」




 「ああ、失礼。そういえば名乗っていなかったね。俺は大尉の専属で御者をしている『クラフトス』という。大尉とは昔から馴染みでな、ここ最近はずっと専属の御者をやっている。


 ああ、それとこれは俺の息子でな。息子の『バハトス』っていって、皆にはバトって呼ばれて可愛がって貰っている。まあ、本当は駄目なんだが御者見習いをさせているから内緒にしてくれよな!」




 そういって片目を瞑って俺に合図をしてきたが、公然の秘密なように感じる。皆は知っているがお役所的にはいわないでくれっていう奴だろうと、勝手に解釈して俺は頷く。


 「ええ、分りました。それで、この馬糞はどうするのですか?」




 「ああ、リョウジさんは知らないか。魔技箱まで持って行き堆肥置き場に送るんだ。こんな所に捨てると何が寄って来るか分らないからな」




 「へー、いったい何が寄って来るのですか?」




 「聞かないほうが良いと思うが、それを聞くのか?」




 少し脅してきた感じだが顔はおどけた感じで目は笑っている。しかし、話して良いのかと俺の顔を見るクラフトフ氏は周りをキョロキョロして俺に話しかけてくる。




 「虫は知ってるか? その虫はここら辺だと、このぐらいでな‥‥‥」




 そういって、50cm位の大きさを両手で示すと、更に恐ろしい事を言ってくるではないか。




 「今は、ここら辺で虫を寄せない為の煙を燻しているだろ? それが無いと寄って来るんだよその虫が、こんなに大きいんだぞ!!」




 「えー! そんなに大きいのですか? 人族とか襲いますか?」




 「ああ、偶にな。だから煙は絶やせない。荒野にはいないが草原や山などにごまんといるぞー‥‥‥」




 とんでもない事を平然に話したおやじだが、横にいた子供のバト君がしかめっ面で父親の服を引張り始める。




 「父様、じゃ無くて親方!! そんな嘘を言ったら駄目ですよ?! リョウジさんが驚いてますよ!!」




 「えー、これから面白くなるのにー‥‥‥。冗談だリョウジ!!


 まあ、精々これぐらいの奴で馬糞に集まって困るからな、だから片付ける」




 そういって馬糞を猫車に積み始める。ああ、この人は割りと冗談が好きで、こういう人なんだなと思ってしまったが、冗談はやめて欲しい。


 思わず信じてしまったじゃないか!! 


 そんな事は言えずに顔が引きつる。でも、精々これぐらいだって言った虫の大きさも俺の常識の範囲を超えていた。


 その大きさは拳を示した大きさであったからだ。そうすると他の昆虫も必然的に大きいように思えてくる。おまけに魔素が湧く何チャラによってその虫も大きくなるのではと声に出そうになって口を噤む。


 結局恐ろしい事には代わりがなかったからである。



 しかし、ゴナベル奴隷長と同じぐらい歳を取っているのにこんな陽気な親父もいるんだなと思ってしまう。すると、プイホンさんは中の馬糞集めが終わったようで水を出して手足を洗い始める。


 そんな手足を洗い終わったプイホンさんに俺は質問をする。


 「次は何をするのでしょうね、プイホンさん?」




 「ん? そろそろ休憩だよ」




 そう、俺に答えるとプイホンさんは草叢くさむらに消えてしまう。それと同時に遠くの方でゴナベル奴隷長が「休憩!! 半時!!」と、叫び声が聞えてくる。昼の休憩は一時間程らしい。




 先程遅めの朝食を取った俺はやる事がなくなってしまう。仕方なく自分の馬車に行ってある事を思い出す。自分の魔技箱に仕舞った紙の原料の事である。


 道具や材料を出して準備をしていると、プイホンさんが口に何かを咥えて来るではないか。ああ、それに、何かこっちに向って歩いて来るよ?!




 「あっ、鍋で煮て食うのか?」




 彼はそういって咥えていたものを手に持ち替えて、差し出してくるではないか。


 そんな彼の仕草に思わず、目を背けてしまう俺であった。





 後編へつづく

次話は12/10の夜に投稿します。

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