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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第2章 年季奴隷が前進すると地雷踏む 》
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<2-11> 「視線の先の恐怖  (前編)」

最新の本文修正日は2014年11月15日です。

 夜中に嫌な視線から逃げる悪夢を見て寝汗をドッとかいて目覚める俺ですが、そんな事が起き始め日中もその視線や他人の視線を感じて気になってしまう。


 ああ、普段電車に乗って他人の視線が気になり、視線の先の股間を見てチャックを上げた時とは違う視線です。


 なんていうか言葉には表せない視線だが、その他にジョルジョネ大尉と会話をしている時も違う視線に気付く。


 まるで俺とジョルジョネ大尉の会話に聞き耳を立てるような視線っていうか気配的な感じで、取りとめも無い会話になるとその視線は無くなり最初から感じる嫌な視線の方が気になってしまう。



 その会話で出てきた農家で飼っている家畜は普段耳にする家畜とは大違いで「やはりここは異世界なんだな~」と、何となく実感してしまう。


 それに前からの懸念事項の一つであった馬車村のハムエッグの卵の正体が分っただけでも良いかなと納得してしまう。こちらではハムエッグの卵は亀の卵らしい。割と美味しかったからどうでも良いけどね。


 そんな一つ不思議な事がおきると、前から思っていた疑問が一つ解消される俺であった。






 ジョルジョネ大尉と家畜の話をしていた俺はまだ時間に余裕があると思い、次はどんな取り留めの無い話をしようか考える。


 今度は嫌な視線とは違う俺ではないがこの馬車か、違う馬車に興味を持ったようなものに近い視線を感じてしまう。つい、その方向に首を向けようとするがジョルジョネ大尉の前であまり不振な行動はできない。


 そんな俺の仕草を見たのか分らないが少し早い馬の休憩の合図をだして、馬車は大きな音と共に暫くして静かに止まる。



 今日はこれで終わりなのかと思い道具を仕舞い外に出ようとすると、ジョルジョネ大尉は俺を制止して「ここにいるように」と、話して外に出て行くではないか。


 いったい何があるのかと思ったが何も言わないで外に行ったので「何事かと勘ぐってしまうではないか!」と、憤って見たが誰もいないのでそのはけ口は何処にも無い。


 また何時ものようにハブられたのかと、ため息をついて一人になった指揮車の中でモヤモヤしてしまう。暫くして、何か外の様子が騒がしい。


 更に金属音や怒号に似た感じの声がして外が騒がしくなってきたので気になって仕方がない。好奇心には勝てないので先程の興味をもった視線の方向にある覗き窓を開けてつい見てしまう。



 覗き窓から見える視線の先には草原があり、草原の中には灰色の兎が立ち上がってこちらを見ている。ああ、興味が沸いた視線の先はこいつかと首を傾げながら見ていると、周りの縮尺からいくとあきらかに何かがおかしい。


 結構近くにいる兎だと思ったが空気でゆがんで見えるその姿が遥か遠くにいるように見える。しかし、大きさから行くと風景から見る近場の雑草は腰ぐらいまであり、小さな兎では雑草の上まで体なんか出ないように思える。その兎は足まで出ていて妙であった。



 やがて横から何時も訓練で使用している大きな盾よりも更に大きなゴツイ盾を装備した集団が現れ、亀甲隊形で進んで行く。後ろにはアミュネス少尉がついて行き、もう一隊の亀甲隊形の後ろにはジョルジョネ大尉が一緒に進んで行くではないか。


 たかが兎一匹。あ、一羽だったか? そんな事はどうでも良いが、近付いているはずなんだが一向に兎のそばに着かない。あー、俺の縮尺の見方が間違っていた事にようやく気付く。あの灰色掛かった兎は多分10m以上ある馬鹿でかい兎なんだと、ようやく気付く事が出来る。



 ジョルジョネ大尉達が近付いて行き、逃げるかと思われた兎は鼻をくんくんさせる。やがて目の色が赤く光ると、凶暴な兎へと変貌して大尉達の方へ走りだす。僅かにドスンドスンと振動が地面から指揮車の床に伝わってくる。


 あわわわ、あれじゃジョルジョネ大尉達が潰されてしまうよと見ていると、いても経ってもいられなくなり思わず外に出てしまう。外の出ると指揮車の上で立って大尉達の様子を見ていたメルディム護衛分隊長から声を掛けられる。




 「あら、やっぱり出てきちゃったかい。仕様がないね~。特等席で見せてあげるから、こっちへおいで」




 そういって、メルディム護衛分隊長は俺に手を差し出す。俺が躊躇しながら手を出すと、見た目の華奢な手からは創造できない力で俺は空中に引張られ、あっという間に指揮車の屋根の上に乗せられる。ああ、この人もミリクナ医務長と同じで力持ちなんだねと、納得するが今はそれどころではない。


 「あの~、メルディム護衛分隊長は行かなくて良いのですか? 一応この奴隷旅団所属中隊の護衛分隊ですよね?」




 「ああ、あんな奴。大尉達で十分だよ。私はこの馬車の守りを任されている。今に見てなって。あっという間にっつけちまうから」




 そういってメルディム護衛分隊長は視線を大尉達に戻してしまう。ああ、そういうものかと俺も視線を戻すと、大尉に向って走っていた巨大兎がいきなりもんどりうつ。


 微かに稲光のような物が光ったように感じる。アミュネス少尉の方を向くと彼女が亀甲隊形の前に出て例の稲光を放ったようだ。岩人形の時とは違い、砕かれなかったが明らかにダメージがあったのだと思う。


 もんどりうって地面に着地した大兎はさっきまでの勢いは無く、ゆっくり歩きながら次第に立止まり腹を見せて足を痙攣させ動かなくなる。ああ、あっけない最後だ。


 アミュネス少尉は怒らせないほうが身の為だなと呟く。これで終わりか? 呆気なかったなーと、ぼんやりしていると今度は凄い地響きに思わず指揮車の屋上で体がよろけてしまい尻餅をついてしまう。



 なんと、大尉達がいる方向とは逆の俺達の後ろの方から俺達の馬車を飛び越え、先程と同じような大きな兎の集団が大尉達を目掛けていくではないか。ざっと数えると10羽はいると思う。


 まるで、仲間がやられて怒っているようで、それぞれの目は真っ赤に輝いている。ああ、まるで‥‥‥。喉から出掛かった言葉を飲み込む。


 すると、何羽かに出鼻をくじくように雷が落ちる。4羽が腹を見せて足を痙攣して動かなくなる。それでも残りは6羽もいるが‥‥‥。その6羽は進路を変えて、今度はアミュネス少尉の方向に向ってしまう。



 今度はジョルジョネ大尉の方から、この前見た時とは違う大きな火球が大兎の頭を吹飛ばしていくではないか。


 ああ、スプラッター。吹飛ばすっていうか、もぎ取って燃やしていくといった方が正解なのかもしれない。飛ばされた首が6個、草原で燃えていた。思わず俺は手を叩いてしまい、メルディム護衛分隊長に変な目で見られてしまう。



 今日は兎肉祭りらしいと思っていると周辺の草叢からぞろぞろと人影が見えてきて、俺らの馬車に向って前後から馬車の集団がやってくるではないか。


 あっという間に兎の死体の周りに集団が形成されて解体ショウーが始まる。それぞれの死体の周りに荷馬車が集まり肉の塊を乗せている。


 最後に大尉達は隊列を組んでこちらに戻ってくる様子が見える。




 俺は大尉達が戻ってくる様子をぼーっと眺めているしか出来なかった。ああ、やっぱり魔素術ってかっこいいよね? 俺も大尉達みたいに手から火球なんか出せたらいいなーと、そんな事考える。


 すると、メルディム護衛分隊長は「まったく人族は」と、小さなため息交じりで囁く。



 何か森人の流儀に反したようだ。どんな事が気に入らないのか分らない。しかし、多分森人である彼女の気に入らない事なんだろうと思う。


 まあ、人族も生きていかなければならないからね。そんな事を考えながら御者のおじさんに断りながら御者台の方から地面に降りて行く。そして、指揮車の中に戻り椅子に座っていると、ジョルジョネ大尉が戻ってくる。


 「あの集団は何ですか?」




 「嗚呼、近隣の農村や村の皆に肉を分ける為に呼んだ。暫くは肉に困らないのではないのかな。それとあれは魔獣だ。『ヘイ級』の魔獣で二、三日前にあの集団の数匹に村の倉庫が襲われた。


 普段はあんなに大きくは無いのだが『湧き魔素の泉』であんなに大きくなりやがって、食べ物をあさる為にある村の食糧倉庫を襲いやがった。そういう事だ」




 「はあ、そうなんですか。でもなんか浮かない顔してますね大尉?」




 「嗚呼、まあ、あの草原兎には罪はないからな。普段は五メト((m))位の大きさで草原で草などを食べていて大人しい性格でな。人族なんか襲わないし、ましてや人族の村なんかには絶対近付かない。


 しかし、人族の村を襲ったから仕方がない。一度人族の物の味を覚えるとまたやってきてしまう。前回は人族に被害は出無かったが、次回も被害は出無いといい切れなくて仕方がなかった」




 嗚呼、俺はジョルジョネ大尉の事を勘違いしていたらしい。軍人だから戦闘狂かと思っていたが、彼は無駄な戦闘と殺戮は好まないらしい。少し同じ共感を持てて、何処かでほっとする自分がそこにいた。




 「だから、今回はメルディム護衛分隊長達にはこの馬車列で待機して貰っていた。何か言っていなかったか?」




 「はあ、まあそうですね。そんな事を思ったのか、ため息を付いていましたよ」




 「彼女らも命を奪う事があるがそれは生きる為だからな無闇には殺さない。いざ殺したらその対象を敬ってありがたく頂戴する。そんな民族が森人だ。


 さて、そろそろ道具をしまった頃かな? 出発して今日の野営地まで行くか」




 「あっ、俺は降りなくて良いのですか?」




 「あっ、そうであった、忘れていた。降りてくれ、事の顛末を報告しないといけないからな」




 そういってなにやら思案しだしたので挨拶をして指揮車を降りる。そして、走って自分の馬車、1号車の荷台に上がると最後にゴナベル奴隷長が乗り込んできて荷台の煽りを上げ前の席に座る。


 パンをモシャモシャ食べながら前にある水を飲む。食べ終わると、プイホンさんが外を恨めしそうに眺めている。




 「あーあ、折角取ったのにおいら達は食べられないのかー」




 嗚呼、凄く残念そうな仕草も可愛いです!! いやいやそうではない。


 「近くの村の倉庫があれに襲われて食べ物が無いそうですよ。彼らは俺達よりお腹を空かしていたそうです」




 「そうなのかー。それじゃ仕方がないね!! おいら我慢するよ」




 つい「我慢するよ!!」と、言った時に彼の頭を久しぶりに撫でてしまう。ああ、久々の癒しタイムに少し余計に撫ですぎた為に文句を言われてしまう。危ない危ない、嫌われる所であった。



 それにしても、嫌な視線は未だに続いている。馬車が動き出してからもヒシヒシと感じて、嫌な予感が頭の中を巡りだす。


 あー、ひょっとして今晩あたりに何かと鉢合わせするのかな? そして、指を折ってある数を数える。そういえば今日はメルディム護衛分隊長のご飯日だよー。



 外の風景を見ながら。嗚呼、今日は何を見てしまうのか不安になってくる。そこで久々にドルバン車長に教えて目線を送ってみると、頭をかきながらプイホンさんの隣の空いた席に来てくれる。




 「今日は何かなリョウジ、その目線は何か聞きたい感じだよな?」




 「はあ、すいませんねドルバン車長。あのですね、この辺にいる獣って先程の大きな『兎』。あ、その『兎』以外にも危険な獣っているのでしょうか?」




 「そうだなー、この辺で危険って言われてもな。あっ、ゴナベル奴隷長? この辺で危ない獣っていましたか?」




 「あぁ? そうだなぁー‥‥‥。人族を襲うとしたら岩猪位じゃねぇかなぁ? さっきのは魔素のお陰ででっかくなった奴だしなぁ」




 「だそうですよ。安心したかリョウジ? 後は無いかな?」




 「はあ、そうですか。あ、後はいいです。すいませんでした」



 まあ、腑に落ちないが「岩猪なら護衛の人達でも大丈夫よね」と、一人納得しながら腕を組み考える。



 嗚呼、いい加減この鬱陶しい視線、どうにかならないものか。最初は訳が分らなく少し驚いて恐れていたが、段々腹が立ってきて見えない相手にガンを飛ばす感じで頭の中でその方向を見て睨みつける。


 そうすると、不思議な事にあれほど鬱陶しい視線がぱたりと止むではないか。あらら、なんだ良く分からんが嫌な視線が止んだよ。「さすが俺!!」と、訳が分らないのに自画自賛してしまう。



 すると、またもや先程の嫌な視線がこちらに向ってくるではないか。再び頭の中で睨み付けると嘘のように止む。それを三回ほど繰り返すと、さすがに温厚な俺でも頭にきてしまう。思わず「いい加減にしろ!!」と、声に出して立ち上がってしまう。


 あっ、やってしまった。皆さんの視線が痛い。



 「あー、すいません。なんでもありません。ちょっと転寝うたたねして変な夢を見ていたようで、皆さんを驚かせてすいません」




 「兄ちゃん大丈夫か? 顔色が悪いぞ! あっ、プイでも食べたくなったのか?」




 「リョウジ、本当に顔が青いぞ。ミリクナ医務長に見て貰ったほうがいいぞ?」




 プイホンさんの隣に座っていたドルバン車長もそういってくる。


 「いやー、ちょっと休めばよくなりますよ。もう少ししたら今夜の野営地に着きますよね? 明日の朝は練習に出れるか分りませんが、夕食を頂いたら直ぐ寝ます」




 「そうか、一応先生に言っとくからな」




 最後にドルバン車長に念を押されてしまう。しかし、この鬱陶しい視線はどうにかならないものか。なんていうか距離が段々近くに来ているように感じる俺であった‥‥‥。




 どうやら、俺は気を失ったらしい。気が付いて目が覚めると指揮車の中の後部座席の簡易ベットで寝かされていた。灯りは前の席の方の灯っているようで薄暗いが、その灯りの下にミリクナ医務長が座ってこちらを見ている。


 あー、どうしよう。正直に話すか話さないか迷う。そこで、お腹の虫が空気を読まないで鳴ってしまう。




 「あら、起きたようね。お腹が空いたのならこれを食べるといいわ」




 そう言ってきたので仕方なく起き上がると、前の席に座り晩飯に口をつける。そこで、ついボソッと話してしまう。


 「最近、変な夢を見て寝れないです」




 「へっ? 夢?」




 「誰かに見られて追掛けられる夢なんですが、追掛けられて目が覚めると寝汗がひどくて‥‥‥」


 その後の話は口を噤む。ミリクナ医務長の様子を窺うと何か考え事をしているように腕を組んで何処かを見てうなっている。俺はその様子を見ながら晩飯を口に運ぶ。




 「私はそっちの専門家じゃないから分らないけど。どっちかというと肉体の話よりは精神の話かもしれないわね。一人、悪夢にうなされている人の事を知っているけど。人に話すと大分楽になったて言っていたわ」




 「それって、ラグフムさんですか? 昨夜、その夢を見て便所に起きた時に会いましてね、そんな事いっていました。ああ、何の夢を見ているかは言っていませんでしたよ」



 そう言って残った晩飯を平らげる。すると普段の薬と別にこの間の和紙のようなものに入った薬を進めてくる。ああ、これ飲むと眠くなっちゃうよね。


 「あの~、その前に便所行ってきて良いですか?」




 「構わないわよ」




 床に置いてあったサンダルを履いて外にでるとすっかり夜更けのようで少し寒気がして体を擦る。急いで便所に行こうとするとミリクナ医務長が付いてくる。


 「あのー、何故に付いて来るのでしょうか?」




 「はあ? だってお便所で倒れたら困るでしょ!!」




 「はあ、そうですね」


 諦めて便所に駆け込み便座に座り用を足す。すると、かすかに地面が揺れる感じがしてきて小刻みにガタ、ガタ、と仮設トイレが揺れる。


 慌てて、支度をして外に出ると、時々振動が止んで少し経つとドサッとかグサッと大きな音がする。そして、振動がまた小刻みにやってくる。


 嗚呼、こういう時は逃げないといけないと体で分っているのだが、あの嫌な視線の正体なのか大きな音の方から感じてくるではないか。




 思わず身構えてしまう俺であった。





 中編へつづく

中篇は明日12/1の夜に投稿します。

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