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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第2章 年季奴隷が前進すると地雷踏む 》
41/229

<2-9>  「年季奴隷と悪夢  (前編)」

最新の本文修正日は2014年11月14日です。

 変な夢で出て来た人物と街中でぶつかり首を傾げてしまう俺ですが、その後にみすぼらしい老人がお金で困っていたので、お金をあげたつもりでお金を渡しました。


 ああ、良い事はするものですね。その晩に100倍返しに来てくれたよ。


 しかし、そこはチキンハートの俺である。何か申し訳なくなって、五倍の銀貨1枚だけ受け取ってしまう。


 俺が一応お礼の一部を受け取ったので、ご老人も納得してくれたようだ。今回はそれで良しとしよう。しかし、後になって、やっぱり素直に貰って置けば良かったと後悔する俺であった。






 ご老人が帰った後、直ぐに寝床に戻って気持ちよく寝たはずであったが、またもや変な夢にうなされる。それは何かの視線っていうか、良く分らないものであった。その視線に何処から見つめられているのかは分からないが、兎に角怖くて仕方がない。


 俺は必死にその視線から逃れようと走りまくるのだが、途中に隠れる場所が無い。その平地をただ走るだけの抵抗しか俺には出来なかった。


 昨日は見てきた事があるような予知夢のような動画のような夢であったが、明らかに今日のは悪夢である。変な爺に杖で叩かれたコントのような夢でなく、ただ走りまくる夢である。



 そのお陰で汗だくになりながら目が覚める。「いやー、怖かった」と呟き、胸を撫で下ろすが、一体何に追掛けられていたのか分らない。


 ひょっとして今の尿意に追掛けられたのか?


 そんなあほな事を考えながら、トイレに向う。廊下は薄っすらだが灯りはついている。用を足し、洗面所で顔を洗う。


 トイレの窓から見た空はまだ明るくないし、周りは静かでもう一眠りは出来ると思う。鏡があれば先程の俺は真っ青な顔をしていただろう。嫌な予感がびりびり感じてあまり良い気分ではない。「ああ、次は何が起きるんだ?」と、思わず囁いてしまう。



 便所から部屋に戻る途中、廊下の窓がガラスならば外の様子が見れるのだが、夜は木戸が閉まり外の様子が見れない。


 仕方なく自分の寝床に向かい横になる。モヤモヤして中々寝れそうもない。一体全体、あの視線は何を示すのだろうか。そんな事を考えていると、その内ウトウトとしだして寝てしまう。



 気が付くと、部屋の木戸が開いていて朝日が入り心地よい冷気が部屋に入ってきていた。そして、何時ものようにむさい男共の掛け声がする。


 どうやら寝過ごしたようだ。慌てて、ベットから降りてサンダルを履き窓から声のする方へ駆けて行くと、皆が広場で集まって訓練をしている。


 今日は警察の機動隊が持つような大きい盾を持って陣形のようなものを組んで、行進したり陣形を組み替えて訓練していた。



 ああ、魔獣から皆を守る為なのかな? と、眺めて視線を動かす。すると、広場の脇に何時もの木製の剣と盾が置いたあるので、ストレッチをしてからそれを装備する。


 皆に見えないように端っこで剣を上げ下げしたり、猫ジャラシ剣を振るう。今日の相手はこの前のプイホンさんを想定して少し早めに剣を振っていると、どうやら個別の訓練らしく、ばらばらになって組み手や素振りをしている風景になってしまう。


 今日も一段と激しい動きをしていて、俺があの中に入ったら10秒もしない間に倒されているだろうと思う。



 暫くして「今日は解散!!」と、ゴナベル奴隷長の大きな声が聞えてくる。道具を馬車が留めてある建物の方に持って行くので、俺も手伝い道具を馬車の魔技箱に仕舞う。


 すると、1号車とは明らかに造りが違う馬車を目撃してしまう。なんていうか箱馬車や工作馬車のような複合馬車とはまた違う馬車であった。良く見ると5号車と書いてあり、その横にも同じく6号車と書いてある馬車が留めてあった。


 一見普通の荷馬車に見えるのだが、なにか前後に分かれそうな切れ目が見える。俺がその馬車に見とれていると、ゴナベル奴隷長が近くを通る。




 「リョウジ、朝食に遅れるぞ!!」




 その声に慌てて返事をして、首を傾げながら皆と共に食堂に向う。食堂に着き何時ものメニューを平らげ、青汁を飲む。ああ、何時まで飲めば良いんだこれ?


 しかし、今日もカルさんのチェックは続く。飲まなければ後が怖い事を再認識する。身支度をして、今日は沢山の荷物があるので3回ほど馬車まで往復してしまう。


 そこで、今日はプイホンさんにまだ会っていなかった事を思い出し、周りをキョロキョロするが、先に馬車に乗っていたようで俺があげた手帳を食い入るように眺めていた。


 俺は彼にまだ鉛筆を渡していなかったので、道具袋から一本のエンピッツを取り出して彼に渡す。彼に使い方を教える為にエンピッツの先を削り、黒い芯を出して見せる。そして、俺の手帳に字を書いて見せる。




 「うひゃ~、すごいよ兄ちゃん!! これ墨が無くても書けるんだね! ありがとー」




 彼の喜んだ仕草が見れたので今朝は幸先が良い。道具袋を持って指揮車に向う。今日はアミュネス少尉とすれ違いになり挨拶をして中に入る。


 馬車が進むまで何時もの日課の日記を書き、三日程書いていなかった事を思い出す。色々思い出しながら書いているといつの間にか馬車は進んでいて、ジョルジョネ大尉が自分の席でニコニコしながら待っている。


 嗚呼、この人。何時もニコニコしているけど何か嬉しい事でもあったのか?


 そんな事を思いながら彼の前に座りテーブルの羊皮紙の束を受け取り、計算の準備を始める。何時も通りに計算は終わり、今日の議題は何にしようかと考える。すると、どうやら馬の休憩時間らしい。



 暫くするとジョルジョネ大尉の合図で馬車は進む。




 「さて、今日は何を話すかね?」




 「あっ、そういえば俺を誘拐した人って、もしかして馬車に落書きした何とか伯爵って人ですか?」




 「あっ、ああ、そうだとも。彼らは捕縛されて。そうだな‥‥‥。多分王都の国察院で尋問されて、大政院で裁かれんじゃないかな?」




 「あの『国察院』って何ですか? 多分『大政院』ってのは法律に違反していないか調べる『裁判所』あ、その『裁判所』の事ですよね?」




 「ああ、『国察院』ってのは、官僚や貴族を管轄してる役所だ。それに国の官僚や貴族を裁くのは『大政院』で、その『裁判所』は主に王国では民同士の問題を裁く事が多い。『大政院』の下部組織というかそんなものだ。


 その『国察院』だが、官僚や貴族の不正を暴いたり、監理監督する役所って言えば分るかな? まあ、そんなところだ。あっ、今日はその話をしようか? 俺は官吏じゃないから良く分からんけどな」




 「いえ、それはまた今度で良いです。それで、その伯爵はどうなっちゃうのでしょうね?」




 「うーん、どうだろうな。誘拐に軍の器物に落書きしたからな。あ、後者は証拠が無いから駄目かもな。誘拐は殺人に告ぐ犯罪だから罪は軽くないぞ」




 「じゃあ、あの大尉が首を刎ねた二人の蜥蜴の獣人もその仲間なのですか?」




 「それは調査中‥‥‥。何? なんで二人と知っているのだ? 首が転がったのは一人分なんだが‥‥‥」




 あ、やべー。夢で見た事を言っちゃった。俺は返答に困って、額に汗が浮き出てくる。


 「いやー、そういう夢を見ましてね!! まさか、当たるとは思っても見ませんでした。あはは~。第一、俺はあの場であの首を見て気を失ったじゃないですか‥‥‥」




 「嗚呼、そうであったな。君は俺が外に出てきた時、()()に運ばれたと聞いた‥‥‥。そうか、夢か。ふーん‥‥‥」




 ああ、その疑った目線が痛い。




 「最近、あの熱病から体調の変化とかないかね? 例えば魔素術が使えるとか?」




 「いえいえ、そんな事は無いですよ。すこぶる元気です。この前のはあの首をまともに見てしまいましたから。俺の国ではあんな事は起こった事が無いもんで、まだああいうのは慣れませんね」




 「そうなのか? 君の国ではいくさとか人族の斬り合いや盗賊なんかは居ないのかね?」




 「ああ、犯罪はそれなりに起こりますが、斬り合いなんか滅多に起こりませんよ。強盗は出ますけど盗賊なんかはいません。馬車町にいる守備兵? ってやつですか、それに似た組織があってそういう犯罪を専門に取り締まっています。軍隊もありましたがここ七十年ほど戦は無かったですね」




 「ほ~、戦があったのか。勝ったのか?」




 あらら。いくさ、戦争の方に興味を示したな、やはり軍人って事か。




 「いやー、負けましたよ。だけど、今度は違う形で世界に喧嘩を売りました。


 一度、その負け戦で国土は灰燼に帰しましたが、俺らの爺様方は不屈の精神で復活しまして。今度は直接の暴力じゃなく商売で世界を席捲しました。


 しかし、駄目でしたねー‥‥‥。大尉は『勝って兜の緒を締めよ』という『諺』あ、その『諺』を知ってますか?」




 「ああ、勇者語録に確か書いてあったな。それがどうした?」




 「その負け戦の前にも何度か大きな戦がありましてね。私の国はその言葉を忘れていました。七十年前の戦はその言葉を忘れた為に負けました。しかし、再び同じ過ちを犯しました。


 その商売の戦でも最初は勝ちましたが、その言葉を忘れちゃうんですよね~人って。いつのまにか下から来た商売上手の国に抜かれました。まあ、七十年前の負け戦みたいにボロ負けじゃないですけど‥‥‥。



 それで、その時期のお陰で『ガッコウ』。あ、う、え~と『学問所』。あ、その『学問所』を卒業しても就職先が無くて困っている若者が多くて問題になってました。


 あっ、なんか。そんな話をすると暗い話になっていやなんですけど。こんな話は否ですよね?」




 「まあ、その国の事情が色々あるからな。かまわんよ」




 「あっ、そういえば。ヒノモトから来た勇者さんは『火縄銃』。あ、その『火縄銃』は伝えてませんか?」




 「ああ、そんなのもあったな。当時何丁か作ったと聞いているが、今はどうかな? なにせ、魔素術の方が強力すぎて役に立たないからあんな物。それがどうした?」




 「いや。じゃあ、その『火縄銃』の大型版で『タイホウ』。あ、う、『大筒』。あ、その『大筒』はどうですか?」




 「ふむ、『大筒』か、たしか文献に残っていたような。でもあれも駄目だぞ? 重すぎて運ぶのに大変で、今は魔技箱が普及しているから運べるかもしれんが。


 それに、大量の銅が要るからな、その割りに飛ばないし。そういえば試作に作った奴が奴隷組合だったかに展示していたような‥‥‥。あっ、士官学校に飾ってあったな」




 「昔、っていうか、俺らの戦はその銃と大筒の戦でして。多分その性能を遥かに凌ぐと思います。あんなのに攻撃されたらこの馬車もどうなる事か」




 「ほほー、そんなに攻撃力があるのかね?」




 「ええ、確か、銃で『一キロメートル』あ、う『千メト』位届いて、結構厚い鉄板を打ち抜いた感じだったような。人は即死ですけど。それに大筒はその十倍から二十倍は届きます」




 「ふむ、銃はそんなものか。だが大筒はそんなに届くのか。それで作り方とか分るのかね?」




 「とんでもない。私はあの組合の前で売っていた見聞録? その見聞録のようなもので知っていただけですから造り方なんて知らないですよ。大筒の玉なんか確か何十キラ((kg))もありまして、当たると凄い事になりましたよ。あっ、そういえば大尉が見せてくれたあの爆風よりも凄いです。


 それを作るには『こう鉄』あ、う『鋼』が沢山入りまして、こちらの技術で作れるかどうか分りません。『火薬』あ、その『火薬』も多分火縄銃の物とは違うと思います。


 そんな物で攻撃されるとまさにですよ。その衝撃音で精神を病んだ兵士の話を聞いた事があります」




 「ふむ、そういうものか。まあ、君が作り方を知らないなら問題なかろう。そんな特殊な『鋼』を使うなら、それも大量に使うなら尚更だ。直ぐ、組合に見つかって調査されて露見するだろ‥‥‥」




 「へぇっ? なんで組合が調査するのですか?」




 「あっ、ああ、そんな危険な物が取引されたら困るだろ。品物を移送している組合が軍に通報してくれるという事だ!!」




 「はあ、そうですか。大尉は火縄銃を見たことはあるのですか?」




 「ああ、士官学校で見せて貰った。っていうか実演も見せて貰った。しかし、あんなもの飛んできても跳ね返せるぞ。今は対処方法が確立されている。ほら、このように軍服に対物理魔素陣が内蔵されている。鉛玉のような物が自分に向って来ると、これが自動的に発動して防いでくれるぞ」




 そう言ってジョルジョネ大尉は軍服を捲り見せてくれた。あはは、さすが異世界、何でもある。でも、火縄銃でも結構初速は速いよね。そんなのにも対処できるんだ。さすが魔素術!


 「いや、でも近くの時なんかはあれでも結構早く玉が出ますよね?」




 「近付いたら火縄の匂いがするだろ?」




 あー、そういう事か。


 「あのですね、火縄銃の後に火縄を使わないで『火打石』。あ、その『火打石』式の銃が開発されまして、そのなんていうか。その銃で暗殺された偉い人が居ましたよ?」




 「なぬ! そうなのか? それはまずいな。君はその作り方を知っているのかね?」




 「いやー、原理は分りそうだけど。いざ作れって言われても困りますよ? ここの国の材料の名前すら分らない俺ですよ? 火薬の材料だって名前は分りますが、ここで同じ物が取れるのかさえ分らないですからね」




 「ふむ、この事は誰にも話さないようにしてくれるかな? 武器の話はまずい」




 「はあ、そういう事でしたら口を紡ぎます」




 「そろそろ、馬の休憩時間か」




 そういってジョルジョネ大尉は合図をして馬車が止まると、またもや指揮車のドアがノックされる。いやな予感がするのは俺だけじゃないようで、ジョルジョネ大尉も心なしか顔が引きつっている。



 ジョルジョネ大尉が扉を開けると素早くミリクナ医務長が中に入ってきたかと思うと、俺の背後に回りまた何かをしたようだ。




 薄れ行く俺の意識のなかで悪態をつく。「またかよ!!」と、そういって意識が無くなってしまう俺であった。





 後編へつづく

次話は11/28の夜に投稿します。

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