<閑話1-1> 「王子と呪い娘 (前編)」
最新の本文修正日は2014年10月12日です。
「そうだな~、ついでだ! 奴隷王事件が起こる少し前の話を少し話そう」
ジョルジョネ大尉は何時ものようにひと仕事が終わったこの俺に奴隷王事件が起こる前の話を始めてくれる。
それはこの俺がアラレスティ大陸と呼ばれたこの地に召喚される400年以上前の話らしい。プイホンさんが読んでいたあの絵本の話の少し入り口っていうか一端の話という事だ。
ジョルジョネ大尉が言うには奴隷王が暴れる王国歴1120年ごろから遡る事18年も前の話で、その日の夜も二つの月は満月で地上を照らしていたという話から始まるのであった。
☆ ☆ ☆
王宮の一角にある後宮では今妊婦が子供を産む真っ最中の出来事であった。暫くして、6番目の王子が生まれ、次に出て来た子供を見た産婆は驚愕する。
「大変でございます!! 6番目の王子殿下がお生まれになりましたが、双子のようで、もう一人は姫様です」
「おお、また王子が出来たか!! それは上々!! 喜ばしい事ではないか?!
何が大変なんだ?」
「その、姫様の方が異形でございます。その、なんというか私には分かりかねます」
そう言って産婆はその時の国王に報告をする。国王は妃の部屋に入り自分の子供の様子を見る。
「ほう、今回の王子は妃にそっくりではないか。毎回そうだが王子は嬉しいものだ! しかし、これは‥‥‥」
「宰相を我の執務室へ呼べ!!」
そういって国王は妃の部屋を出て行く。妃は子を生んだ安堵感なのか気を失っていたようだ。それぞれの子に初乳を飲ませる産婆は少し不安になる。
国王の命で王子はこの部屋に置かれ乳母に預けられる。そして、姫の方は人知れず別室の方へ連れて行かれてしまう。そんな姿を見た産婆はいっそう不安に駆られオドオドするばかり。しかし、妃の産後の処置がまだ残っている為、その処置に気を取られ不安をどこかへと追いやる。
執務室に呼ばれた宰相は何事かと思い不安になる。
「もしかしてお子に何か有ったのか」と、国王の表情を見て、少し不安になっていた。
「おう、来たか。非常に大変な事が起きたぞ。『王家の血の呪い娘』が生まれた。それも、王子と共にだ。これは吉兆なのか? それとも天変地異の前触れか?」
「そのような事は例の文献に書かれておりますのでしょうか? 私が知りえる知識ではお一人でお生まれになる姫様はございますが、お二人でお生まれになって、しかも片方が王子殿下という事は聞いた事がございません」
「我もそうだ。こんな事は見た事も聞いた事も無い。しかし、双子の姉妹の話は1件だけ有ったと思う。それも、片方だけなのだが、もう片方は直ぐに病死したと書かれてあった」
「先ずは妃が目を覚ます前に姫の方を例の部屋へ連れて行かせた。乳母は王子の控えの者を緊急で呼び寄せてその赤子につけた。しかし、産婆や周りの者の口を塞がなければならない。分かっているな?」
「はい、国王陛下。姫様はたった今、身罷りました。しかし、新しい王子殿下は無事健やかにお生まれになり順調にお育ちになるかと。それに産婆と取巻きの方々には今の所口止めをして、後宮から出歩かないように手配します。何れ、お妃様の容態が安定しましたらそのようにいたします」
「ふむ、分かってくれ。これも王国の為だ。仕方あるまい。」
このあと、王国中に新王子誕生の吉報とその双子の妹の姫が身罷ったという訃報の合わさった報告が伝令によって各地に広まった。王都では姫様の訃報は悲しい事だけれど所詮姫、王都では新しい王子殿下が誕生した事を喜ぶお祭り騒ぎで姫の訃報の話は有耶無耶になっていった。更に、そこで人知れず消された人物の事などは誰も関心を示さなかった。
お祭り騒ぎの王都では近隣の他の国の使節や各地の領主などが新しい王子の誕生を祝う為に集まってくる。その祝う使節や貴族を羨む視線で見るのは他の妃と正妻の后であった。そう、この時も何処の国でもある同じような次期王太子争いは続いていた。
王都に集まった貴族はお互い牽制し合う。ある貴族は無理をして国王に媚を売る為に新しい王子への贈り物をする。隣国の使節団はその様子をじっくり眺め、これからのこの王国の行く末を占う。
お祭り騒ぎの中心ではそんな事が行われていた。
当然、新しい王子の護衛の衛士、将来の側近や従僕なども厳選されて新たに選ばれる。生まれた時から、王子は見えない戦いの真っ只中に居たのである。
月日は経ち、王子が7歳になる頃には新たに、二人の弟王子が生まれていた。そして、よくある話で、この時もそれは起きた。
何時ものように朝食を母子二人で取る為に机に着く。母親の妃は息子の第6王子に運ばれてきた食器の異変を感じる。その時は先に気が付いた妃によって事なきを得たが、夕食の席である晩餐会ではそうは行かなかった。
第6王子は名前をアウタルスと名づけられた。3歳の頃から聡明で物覚えが良く、他の王子がまだ話せなかった幼き頃より早くに言葉を話し周りを喜ばせた。
国王は『王家の血の呪い娘』と一緒に生まれてきたこのアウタルスを最初は嫌悪していたが、賢い姿を目にすると自然に他の王子とよりも多くの時間を割くようになる‥‥‥。
結果、それがいけなかった。それ以降、他の王子の妃や正妻の后の手の者による所業か分らないが、このアウタルスの命を狙う為にあらゆる手立てで迫って来る日々になる。
そんな朝の出来事があったばかりであったが、今日はそのアウタルスの誕生日。一般には行わないが王族は違う。町中で祝うわけではないが、後宮でその儀式は行われる。その誕生を祝う晩餐会の時であった。
珍しく、国王がアウタルスに杯を遣わし、酒の代わりの果物の汁を注いでアウタルスに勧めた。しかし、母親の妃は杯の異変に気付き、代わりにその汁が入った杯を奪い、その汁を飲んでしまう。
驚いた国王は怪訝な顔をしたが、次第に顔が青くなっていく。その妃が血を吐いて、倒れてしまったからだ。それを見た国王はその場から退室していく。
残されたアウタルスは母にしがみつき泣き崩れる。周りの衛士やお付の者は慌てて、医官を呼んで妃の容体を見るが時既に遅し、すでに事切れていた。
母の葬儀はしめやかに行われた。死因が毒殺では体裁が悪い。泣き崩れる王子は母親の墓所で埋葬される棺桶を見て思う。
「私のせいで母上は殺されたのだ!! 私が得意になって書物で読んだ事を皆に自慢したから、他の王子の妃に不興を買ったのだ」と、独り言を呟いて自分を責める。
すると、突然頭の中に声が聞こえてくる。周りを見るが声の主の少女は何処にもいない。埋葬が終わると衛士とお付の者、数人がアウタルスを見守る。
『兄様は悪くはないわ!! 悪いのはあいつらよ』
最初は小声で答えようとしたが、それを躊躇う。心の中で返事というか問をかけてみる王子。
「君は誰? 私には妹はいないよ。妹は俺が生まれた時、一緒に生まれたけど死んじゃったんだ。君は誰?」
『そうなの? でもあたしは貴方の母上様の娘よ。今は貴方の事が心配なの。また、命を狙われないか心配で‥‥‥。兄様が母上様のように死んで欲しくないわ!!』
「えっ?! そうなの? でもなんで君の声が聞えてくるの?」
『もう疲れちゃった。そこって結構離れているのね。またお話しましょうね』
そういって頭の中に問いかけてきた声の主は返事をしてくれなくなった。つい、その時は「待ってくれ!! まだ聞き足りないんだ!!」と、つい大声でアウタルスは叫んでしまい、周りの者に不振顔で見られる。
周りの者は、王子が悲しさのあまり気がふれたと勘違いして、中には涙を流す者がいた。それを見たアウタルスは一計を思いつく。「このまま気がふれた事にすれば。その内、他の王子も諦めるかもしれない」と、幼いながらもそんな事を考える。
更に追い討ちをかける為、先程埋められた母の墓所の盛り土を手で掘り返し、泣き叫ぶ振りをする。第6王子のアウタルスとは、そういった利発な子供であった。
それ以降、アウタルスは気がふれた王子として周りに振舞う。お付や従僕は戸惑うばかりで、どうした物かとオロオロするばかり。しかし、仮にも王子の従僕を任された身で、困惑しながらも王子の様子を見るしかなかった。
衛士のゾンディウムは異色の衛士で、本来ならば王家に連なるこの王子に仕える事など出来ない身分であった。彼は人族から森人族と呼ばれた父親を持ち普通の人族の母親との間に生まれたからである。
異民族の血が入った者が王族の警護なんて選ばれるはずも無かったが、初代の衛士が暗殺された為、急遽選ばれた衛士であった。
森人族の父親の血を引いている為か、剣や小剣を空中に浮かせる事は多少出来た。鼻や耳も色々と利いたがその姿は母親の血が濃かった為か外見は人族そのものである。しかし、瞳が若干橙色をした為、衛士としては不適格の烙印を押されていた。
しかし、それでも構わないとアウタルス王子の母親の妃が森人族の血を信じて衛士に迎えたのである。きっかけは分らない。しかし、剣士としての腕の話は聞えていた為、大抜擢されたようだ。その事で衛士になる事を諦めていたゾンディウムは生涯その妃と王子アウタルスに忠誠を誓っていた。
その衛士ゾンディウムだけは王子の事を信じて彼の警護をする。その王子は今日も人気が無い、後宮の庭先で草にまみれて誰かと話をしているようだ。その様子を渡り廊下を歩きながら、他の王子や妃は小馬鹿にして口を隠し笑い飛ばしていく。
「ねえねえ、君の名前はなんていうの?」
『私の名前は無いわよ。皆には呪い娘って、言われているわ』
「えぇ~、そんな~。そんなに可愛い声なのに?」
『私は王家の血の呪い娘なんだって。だから、私が生まれたから王家に不幸がやってくるそうよ』
「そんな~、嘘だよ!! 人が生まれただけで不幸なんかやってくるものか!!」
『兄様も大人になれば分りますわ。私には、後。それほども時間が無いように思うわ』
「え~、どうして? 折角お話できるようになったのに~」
『今日は疲れちゃった~、またお話しましょ!』
「え~、待って~‥‥‥」
「今日はもうお仕舞いか~。さて、これから何しようかな~‥‥‥」
そういってアウタルス王子は汚れた姿で今日も後宮をうろついて時間を潰す。暗くなると、自分で見つけた秘密の通路を通って王宮の史書が保管されている蔵書館に篭り色々な書物を読み漁る。時には公文書が保管されている公文書館などに潜り込み、中の文書などを読み漁っていた。
そのアウタルスの側には必ず衛士ゾンディウムが影で付き添い、時にはアウタルスの食事なども用意して彼が気が付かないようにそっと身近に置いていた。今日もその食事を手づかみで食べながら書物を読み漁る。そして、日が昇り官や周辺の者が出仕して来て騒がしくなる前に人知れず自分が見つけた秘密通路から外に出て、建物の影や誰も通らない場所で人知れず眠る。
最近、体の変調なのか、森人族と同じように数刻しか眠らなくても平気になってきた。まるで親父のようだと衛士ゾンディウムは思う。
自分が成人するまでは家に居て親子三人で過ごしたが、親父が寝具に横になって寝て居る姿を見たのは数えるほどしかなかった。
その自分も15歳で成人するまでは夜は睡魔に襲われ貪るように睡眠を取ったが最近はその眠気すらなくなっていた。最初は不思議に思っていたが、王子の護衛をするのに都合が良くなって最近は余り気にしなくなった。
それに、最近のアウタルス様の奇行が、周辺を落ち着かせたのか。いや、対象が他に向ったのかもしれない。その証拠に幼い第7王子、末の王子はこの前のお妃様の葬式以後、数日と経たず変死した。
国王陛下も自分が通ってきた道なのか、身罷った王子には見向きもしない。主君アウタルス様以外は明日が我が身と他の王子と妃共は、戦々恐々としているに違いない。
そんな事を思いながら今日も主君のアウタルス王子を見守る衛士ゾンディウムであった。
そんな日々から日が経つにつれて、王子が独り言を話しているのではなく、誰かと話している事に気付く衛士ゾンディウム。今日もその様子を見ていると、誰かとのお話しが始まったようだ。
「今日はどんなお話しをしようか? 昨日は史書館で見つけた面白い話はしたし、何を話すか迷っちゃうよ」
『ほんと兄様のお話しは面白いのね。私が知らない事で驚くばかり! このままずっと、この時が続けば良いのに』
「えっ? どういうこと?」
『あのね、兄様。私達、明日で成人になるのよ。そうすると、多分私は使命を果たさなければいけないように感じるの。その後は‥‥‥』
「えっ? その後どうなっちゃうの?」
『そうね‥‥‥。あ、もしかしたら兄様に会えるかもね』
「えっ? どうなっちゃうの? ‥‥‥。えっ? 私に会いに来てくれるの?」
「本当に訳が分らないな~、君は。あ、そうだ何時も君って呼んでばかりだから会った時に名前をつけようか? そうしよう!!」
すると、声の主からの声が聞えなくなって、何度も頭の中で叫んだが声の主は返事をしてくれなかった。
そして、アウタルス王子は自分が成人する事をようやく思い出すのであった。
この国にはある慣わしがある。成人した王子はアラレスティ王国を何年か旅してそれ以降の政治に役立てるという慣わしである。
王子は自分の奇行のお陰でその成人式まで生き残る事ができた。残る兄弟は長兄の第一王子だけであった。その長兄は自分が生き残っていても歯牙にもかけずその奇行のお陰で国王、父親からもぞんざいに扱われていた。多分、仕掛けてくるとしたら成人の儀の後の国内視察の時であろうとアウタルス王子は思っていた。
やがてその日が来ると、盛大な成人の儀式は行われず、ひっそりとアウタルス王子の身の回りの者だけで形ばかりのお祝いをして、その次の日に旅立つ事を国王に許された。
身内のお祝いが終わったアウタルス王子は何時ものように後宮の庭先で今日の双子月を見て感慨に耽っていた。すると、王宮の一番高い鐘楼から、人影が飛び降りるではないか。
慌てて王子はその飛び降りた死体と思われる人影の側に近寄る。月に照らされたその姿を見て、少し驚く。少しなのは衛士ゾンディウムの人族とは違う瞳の色と史書館でみたこのアラレスティ大陸に住んでいる先住民族の資料を読んでいたのからかもしれない。
そして、アウタルス王子が声を掛けようとしたその時に何時ものように自分の頭に声が聞えてくる。
『初めまして兄様! 今日は特別な日なのでこの姿だけど、驚かしちゃった?
何時もは胸から下の体中に毛なんか生えていないからね! 今日だけだからね。あ、もしかするとこの後も有るかも!」
そういってアウタルス王子に微笑む姿は自分の顔にそっくりな顔であった。思わず抱きしめて来た王子に、少し戸惑う少女。
「うわ~、ちょっと驚いたけど、顔が私や母上様に同じでそんな事、何処かに行っちゃったよ~。そうだ、明日一緒にここを出よう!! 荷物にまぎれたら分らないよ!」
『それは出来ないの兄様』
そう言って、哀しい表情をする少女であった。
後編へつづく
次話は11/12の夜に投稿します。




