<1-29> 「年季奴隷と護衛分隊 (後編)」
最新の本文修正日は2014年11月7日です。
夜中に見た夢で奈落に落ち、現実では簡易ベットから落ちて夢から覚める俺ですが、何時ものようにその後にはトイレに行きたくなり、用を足した後に熊の獣人に出会って死んだ振りをしてしまう。
しかし、俺の記憶は当てにならない事を今更ながら思い起こす。熊に会って死んだ振りをすると、熊は興味を持って近寄ってくる事を改めて思い出す俺であった。
近付いてきた熊はこの奴隷旅団所属中隊の護衛隊の人達で獣人の森熊種のラグルードさんという人で、もう一人はバールートさんと言っていたが彼は覆面をしていて顔は拝めなかった。
この世界には猫や狼がいるのだから他の獣系の住人がいても不思議は無いよね。新たな楽しみが増えて喜ぶ能天気な俺であった。
そんな彼らと出会った後、俺は寝床に戻り寝袋に入る。明日の話は護衛分隊の話でもしようかと考えながら、また深い眠りに就く。
朝の日課が新たに増えてから三日目、大抵の人は飽きてその日課をやめる頃である。しかし、俺は何故か目が覚めて今日も木製の剣と盾を装備して素振りをしている。
素振りをする前は筋肉を解してストレッチはしたが、まだあちこち筋肉痛で顔が歪む。それに、相変わらず剣に振られていて足元がフラフラであった。
横目で他の年季奴隷達の素振りや組み手を見ながら参考にしようとしたが、人には向き不向きがあり、剣の振り方にも十人十色のようで色んな戦い方があるようだ。
基本は剣で攻撃をして自分の息が切れた時に相手がその隙をついて攻撃をしてくる。その時は盾で受けたり剣で受け流したりと基本はそうなのだが、中には足技を使って相手を攻撃したり、剣を握ったままパンチを繰り出したりと、どれも俺には出来そうもない。
比較的体格が似たような人の真似をするが自力が違い、これも当てにはならなかった。仕方がないので俺は今日も素振りをして、基本を見に着ける努力をする。
ああ、こんなまじめな努力をしたのは算盤の昇級試験以来だよな~、もう少し頑張ればよかった。
そんな事を思っていた為か剣を振り落とす時に変な力が入って地面をを思いっきり叩いて手がしびれる。こういう時は無心でやらないとだめなんだね。
今日の練習は終わりのようで何時もの日課を済まし、移動の準備のテントを畳みだす。相変わらずテントを畳む事には参加させてくれない。
まあ、彼らの仕事を奪ってまでやりたいとは思わないけど、少しくらいやらしてもいいじゃないか。そう抗議をしたいが、良く見るとテントを巻いていくのは大変そうだ。少しでも巻きが甘かったりするとグチャグチャになってまた巻き直しになる。
今日は周りのテントを畳む人達を見て、失敗して巻き直すグループを目撃してしまう。ああ、失敗すると、周りの視線が痛い事に気が付いてしまう。その様子に俺はまだいいかな~と、内心怖気ずくチキンな俺であった。
プイホンさんも今朝から狩りに行っているのか見かけない。仕方なく朝飯を食いに行くと、配膳の列に並んでいるではないか。ああ、最近、彼は冷たい。せめて、朝飯ぐらいは一緒に食べようと、貰った朝飯を持って彼の隣に座る。ああ、幸せそうな顔で朝飯を食っている顔を見れたからいいか。
そして、何時ものように道具袋を持って指揮車に向かい、中に入れて貰うと日課の日記を書き記す。今日は冬中月4日、未だに給料らしき物を貰える兆候がない。
もしかして俺の居た所と同じ五十日にもらえるのか?
そうすると明日の五日か? 十日か? 月初めって言っていたからやはり五日であろう。
そんな事を考えていると、今日もアミュネス少尉に不振顔で見られる。いやいや。今、俺は変な顔をしていたのだろうか? 鏡でもあれば分るがここには無いので確かめる方法はない。
そんなアミュネス少尉がこの指揮車から出て行き、馬車が動き出して大尉が俺を呼んで羊皮紙の束を渡してくる。その時に聞いてみる。
「あの~、俺って、日記を書いている時に変な顔をしてましたか? 先程もアミュネス少尉に睨まれたのですが」
「ああ、俺と同じで、君は楽しい事を考えると顔に出るようだな。ニコニコ顔が俺と同じに見えるかもな」
ちょっとショックだったがジョルジョネ大尉は席を立ち、後部座席に仮眠を取りに行ってしまう。
ポーカーフェイスの練習もしないといけないのか? それより、あんまり見つめられると顔が赤くなっちゃうじゃないか。
ここで、日記を付けるのやめようかと思ったが、ここの椅子は中々座り心地が良くて日記を書くのは辞められないし、周りの目を気にしなくて良いからいい場所なんだが‥‥‥。顔を隠しながら書けばいいのか?
そんな事を考えながら計算をしていく。次第に熱を帯びて、無心でやり始めると先程考えていた事はどうでもよくなる。
最初の馬の休憩時には何時ものように計算が終わり、次の時間に何を聞くか考え始める。今日は昨日あった護衛分隊の事でも聞くとしよう。そう考えると、いつの間にかジョルジョネ大尉は俺の目の前の席に座っていて、馬車も動き出していた。
「今日は護衛隊、護衛分隊について少々お聞きしたいのですが宜しいでしょうか?」
「ああ、いいよ。軍機に触れること以外は教えるよ」
「あの人達って獣人族が多い様に見えるのですが、それは定説って言うか決まりのような物があるのでしょうか?」
「う~ん、別に決りは無いけど。そうだ、先ずは傭兵組合から話しておくか。この国には奴隷組合と商工業組合、それに三つ目に傭兵組合があってな。奴隷組合は国王陛下直轄で、商工業組合は王国の役所の管轄だ。そして、傭兵組合は王国軍の管轄になっている。
その傭兵組合はなんで王国軍の管轄になっているかといえば、王国軍の常備軍の経費を浮かす為っていうか、軍が悪さをしないように考えられたと俺は思う。正式には経費削減って言われているけど、王国がこの大陸を統一する前は軍事力で統一はしないと決めたからだと思う。隣国が攻めてきた事はこの四百年間無かったし、攻めて来ないように外交を誘導していたっていわれてもいるけどな。
常備軍の事はあまり詳しくいえないけど、王都に近衛師団と奴隷旅団、後は地方の守備軍ぐらいしか、常備軍ってのはこの国にはない。しかし、いざ事が起これば傭兵組合に加盟している傭兵共を招集して、何時でも侵入してくる軍隊に対抗できる仕組みは出来ているから心配しなくてもいい」
軍事部門の民間委託のようなものか? 良く分からん。しかし、異世界って言ったら冒険者ギルドじゃないの? 普通はそうだよね?
「あの~、冒険者『ギルド』あ、う、冒険者組合はないのですか? 私の居た所ではそんな感じだったのですか」
「冒険者組合か。確か、北東の創世大陸にそんな名前の組合があったはずだが。それの仕事内容はこの王国の奴隷組合と傭兵組合が兼ねてるからな~。この国には無いよ。
あっちはここよりなんか魔獣や魔物がなんとかっていう洞窟から沸いて出てきてそれを退治するのに冒険者組合を利用してるって聞いた事があるけどな。
この大陸にはそんな洞窟は無いし、魔獣っていってもこの前の猪ぐらいだし。それに奴隷旅団所属中隊が大陸中を巡回しながら仕事してるからそんな組合はいらないのかもな。
それで、傭兵組合なんだが。獣人が多いのは年季奴隷に入って手に職をつけるより戦いが好きな奴とか、奴隷って言葉に抵抗がある先住民が居る為にどうしても先住民が多くなる。王国も変わっているのだが、まだ信じられない人も要るって証拠なのかもしれない。
まあ、そういうことで傭兵には獣人が多い、森人はちょっと理由が違って、この国の森の樹木を切り倒すには彼ら森人の許しが必要でね。昔の奴隷王事件で王子との盟約でそうなってしまったから仕方がない。
その樹木の伐採作業を奴隷旅団所属中隊が主にやるので、彼ら森人族は王国の監視っていうか切り倒した後の植林をする為に必ず奴隷旅団所属中隊に入る。年季奴隷よりは少し自由な傭兵組合に入って奴隷旅団所属中隊に配属された方が良いと彼らは判断しているのだと思う。
この大陸の主な大きい町には必ず傭兵組合があって、常時そこに傭兵が仕事をしている。町の守備軍の仕事も請け負ったり、奴隷旅団所属中隊が周辺にいなく、魔獣が現れた時も地元の守備軍と共に魔獣を狩る事もある。要人警護の仕事もあったな」
ふ~ん、やっぱり民間委託の軍事組織で警察の仕事や軍の仕事など荒事専門の組織か~。
「じゃあ、何も無い時はどうするのですか? 傭兵の仕事ってそんなにないような気がしますが」
「君は変な事が気になるようだね、その時はなった事が無いから分らんよ。町の治安維持でも相当人数がいるし、火事や災害の時も軍より早く展開して救助などもするから、そんなに暇な時は無いと思うな。
それにこの大陸の東側は創世大陸から流れてくる盗賊や冒険者と呼ばれる人族がいて、治安が少し悪いから仕事はなくならない。その分正規の軍人が少ないのはその為でもある。この奴隷旅団所属中隊でもそうだろ? 正規の軍人は俺とアミュネス少尉だけだし。メルディムやラグフムなんかは一応特務少尉だがあれは便宜上で正式な軍人ではない。
正規の軍人ってのはお金がかかるからな、装備や平時の時も飯を食わせなければならない。傭兵は仕事を選ぶ自由があり、契約が切れればさよならできるからな。向うも割り切って仕事をするしこちらも割り切って首に出来る。そういうもんだと俺は思う」
「その元傭兵とか悪さはしないのですか? 俺の居た所ではそのなんていうか仕事で培った才能を生かすって言うか、それで犯罪を起こす事が偶に問題になるのですが」
「それは何処の国でも同じだろ? そういうやつは何処にでもいるが、この国では掴まると犯罪奴隷行きだ。まず解放はされないし、奴隷組合の恐ろしさを知っている人族はこの国ではやらないで、創世大陸に渡ってやるかもな。ひょっとしたら、そういう奴が居るかもしれない。
奴隷組合に睨まれた犯罪組織はこの大陸では逃げられないぞ。大陸中に奴隷組合組織があって、三日も経たない内に大陸全土に手配されるのだぞ。まあ、確かに犯罪は無いとは言わないが、あってもしょぼい窃盗ぐらいじゃないかな? 仕事は年季奴隷に登録すれば貰えて、衣食住は保障されるし。基本犯罪を起こす奴は大陸の外から来る奴の方が多い」
「はあ、そういうものなんですか。ああ、そういえば、この奴隷旅団所属中隊の護衛隊員は十二名って言ってましたよね? 全員獣人なんですか? くだらない事聞いてすみません」
「ああ、そうだが。君は期待してるのかもしれないが獣人は4人だけだぞ。森人は二人だし、後の6人は人族だ。そんながっかりした顔されてもな~」
ああ、どうやら俺はあからさまにがっかりした表情をしたらしい。別にそんな気持ちは無かったのだが‥‥‥。いえ、確かに期待してました。
「はあ、そうですか。そういえばバールートって人が覆面していましたが。あっ、これは聞いちゃいけませんでしたか?」
「ああ、彼にも会ったのか。何れ分る事だし話しておくか。彼は岩蜥蜴種の獣人でな、主に山間の低い所にすんでいる。山肌に段々畑を作って生計を立てていてな。
彼らは基本農耕で生活していて温厚なんだが、彼らと姿が似ている山蜥蜴種ってのがいる。彼らとは性格が真逆で獰猛な上に荒い性格で彼らとは違って山間部で狩猟をする種族なんだ。
山蜥蜴種は時々周辺の人族の村やその岩蜥蜴種の集落を襲う事があってな。ああ、彼らはこの大陸の東に住んでいるからここら辺は安全だよ。
その山蜥蜴種に襲われた岩蜥蜴種の集落の一つにバールートの集落があったんだ。それで彼は襲ったその山蜥蜴種を探して旅をしていて、十年前だったかな?
俺が彼と知り合ったのは。俺は彼に探し者をするなら傭兵なって奴隷旅団所属中隊で国中を探すと良いって教えたんだ。
彼は律儀な人物で、そんな事を教えた俺に義理立てして敵を見つけるなら俺と一緒の方が良いって言ってな。それからの付き合いになる」
「ああ、でも。奴隷組合で手配しなかったのですか?」
「普通はそうなんだけど、彼が被害にあったのは十二、三年前だったからな。そこら辺の土地はまだ王国の土地じゃなかったんだ。彼の村の惨状を聞いて当時の王国で手配したが、その隣の国境を越えられて行方が掴めなくてな。
しかし、七年前にその国が併合されてからは手配したが、一向に行方がつかめないんだ。何人かの当時関った山蜥蜴種は捕まえたらしいのだが、肝心の彼の仇は見つからなくてな。未だに分らない。
まあ、そういう過去があって彼はここにいるのだが、その顔が山蜥蜴種に似てる為に顔を晒していると間違えて捕まえられることが多くて今は隠している。まあ、顔を隠していても左手には王国の紋章と、傭兵の印がついてるから問題ないよ。あれまで隠したら掴まるかもな。
それで、この隊にいる。それでラグルートって奴はそのバールートと気が合っちゃって、何時の頃だったか忘れたが彼も同じ傭兵になって一緒に着いてきたんだ。
なりはでかいが彼は気の優しい。そう、ガルボルテ工作長と同じように基本は戦闘が嫌いなんだけどな。だけど、なんでか傭兵をやっている変な奴だ。彼ら森熊種は基本肉は食わない。なんだったけかな?
森の何とかという樹木の樹液を集めて甘い汁を作るんだ。あれは旨かったな~。それを小麦粉と水で練った物を焼いてその甘い汁をつけて食べるそうだよ。きみも機会があればご馳走になると良い。
その他の傭兵はごく普通の人族だから話す必要は無いと思うが。あっ、そういえば一人いたか。ああ、そういえばもう一人覆面してる奴が居るが彼女はそっとしてやってくれ。その、この前話た獣人だが人族って奴だ。彼女も気にしているから近寄るなよ!」
「はあ、そうなんですか。傭兵は女性もなれるんですね」
「ああ、腕っ節が強ければ誰でもなれる。しかし、彼女らに危害を及ぼすと同じように犯罪奴隷になってしまうから肝に銘じておけよ」
「いやいや、あのメルディム護衛分隊長がいる所でそんな事できませんよね。私はまだ生きていたいです」
「あはは、そういう事だ」
「それにしても色々な獣人がいるのですね。ひょっとして兎種っていますか?」
「はぁ? 兎種? そんなのはいないな。兎は土兎か野兎、後は山の方にいるといわれる山兎ぐらいだぞ」
なんということだ。「リアルバニーガール」は居ないのか‥‥‥。期待してた訳じゃないが、ここの世界だと俺の想像していたバニーガールと違う事に気付く。兎頭で赤い瞳で見られると足がすくんじゃうよね。いなくて正解なのかな?
「そんなにがっかりされても困るが。まあ、後は明日着く馬車町を見物する時にみればいい。あそこにも結構色んな種族がいたはずだ」
「明日、馬車村に着くのですか?」
「馬車町だ、馬車村と違って少し大きい町だ。交通の要衝になっていて、大抵は分岐点になっている事が多い。大体、あそこは一万人程居たはずだ。あそこはそのまま北西に向う道と南に向う道がある所で周辺の村々の農産品や鉱物など集積地にもなっている。だから、あそこの奴隷組合の倉庫は結構大きいぞ」
「はあ、そうなんですか。でも先立つ物が無いから、そこに言っても楽しみは余りなさそうですね」
そんな事を言ってしまいがっかりした表情をした為なのか分らないが、俺の気分が上昇する事をジョルジョネ大尉は教えてくれる。
「そう落ち込まなくてもいいと思うけどな~。一月に一回は大きな町に止まって例の奴隷銅貨が支給されて休暇が1日ほど貰えるのに君は何もしないのかね?」
「えっ? そうなんですか? それならそうといってくれればいいのに~、このジョルジョネ親父!!」と、彼に面と向かっていえる俺ではない。今のは心の叫びです。
「そうなんですか。じゃあ楽しみにしています。普通の商店なんかもあるんですよね? ああ、行って見たいな~‥‥‥」
「ああ、そうだが‥‥‥。余り過度な期待はするなよ。それに休みがあるがその前に仕事もあるからな! ‥‥‥。そろそろ時間か、今日はこれまでとしよう」
最後に何か言われた気がするが、俺は気持ちが高ぶっていた為聞えなかった。道具を仕舞い、馬車が止まると指揮車から出て思わずスキップして、自分の馬車に向ってしまう。
だって、もしかしたらこの前の特許の報奨金も一緒に貰えるかもしれないし、町には猫耳があふれているかもしれないのだよ?
そんな浮き浮き気分でプイホンさんの馬の水飲み台を運ぶのを手伝う。
「兄ちゃん、何か良い事あったのか? なんか気持ち悪いぞ!」
「ああ、ごめん、いやね。明後日、馬車町に着いて休暇を貰えるって聞いたら、なんか嬉しくってね」
「ふ~ん、休みの日はご飯出ないからな~。おいらは嫌いだよ」
へっ? そうなの? そうだよね~、休日にまでご飯が出る訳ないか。それにご飯がが基準かよ! っと、突っ込みたいが可愛いから許す。だって「ご飯出ないからな~」って言った時のしょんぼりした感じが可愛かったからです!
そんな事を話していたら出発の合図がして、急いでプイホンさんと片づけをして馬車に乗り込む。パンを食べ水を飲み干し、また町のことを考える。すると、馬車は動き出し、慌てて自分の座席に座る。
外の景色を見ながらまだ見ぬ町の事ばかり考える俺であった。
次話へつづく
「えっ?、1章は終わり?。はあ、そうですか」と、突然誰かにそう言われて返事をする俺でした。
次話から2話程外伝というか閑話みたいな話と、登場人物紹介のような物を投稿します。
拙い文章でしたが1章を終わらせる事が出来ました。引き続き読んでいただけると嬉しいです。
次話は11/10の夜に投稿します。




