<1-24> 「年季奴隷と魔獣 (後編)」
最新の本文修正日は2014年11月5日です。
初めて森林地帯に野営をすると、その野営地に置いてある木材を数えるが多すぎて数えるのを諦める俺ですが、そこにいたジョルジョネ大尉がこの付近の森を管理している森人族の氏族長の代理人っていう人達を紹介してくれる。
この人達もメルディムさんと同じく白い顔にオレンジ色の瞳が目立ち恐ろしいように感じたが、この次にここの森を訪れた時は歓迎してくれるらしい。
何か気の優しい人達のようで俺の体を見てヒノモトから来たのに剣術を使えない事に気付いて話をはぐらかしてくれる。
その後、夜中に何時ものようにトイレに行って山のような猪に襲われる寸前にボグフムさんに助けられる。
しかし、岩猪を倒した森人達の事が気になり彼女達に迂闊にも近寄ってしまう。その月明りに照らされて口の周りに血を付けたメルディムさんの顔を見て情けない話だが血の気が失せて倒れてしまう俺であった。
いや、そういう夢を見たんだ。外の喧騒に目が覚め、朝起きるとそう自分に言い聞かせてしまう。だって、起きたら何時も通りに寝袋に包まれ、簡易ベットで目が覚めたからね。
しかし、妙にリアルな夢だったな~。俺がPTSDになったら、誰が責任とってくれるんだ?
そんな事を考えながら起き上がり、テントの外に出た俺はあの出来事が夢ではない事を思い知らされる。
今日も肉祭りだそうです。まあ、何回もこういう光景を見ると、人って慣れて行くものだね。スーパーで売っているパック詰めの肉を見てもなんとも思わないこの俺が今更この惨状を見ても驚くはずが無い。
昨日は何かの間違いだと思う。そう、あれはイレギュラーだよね? あんなの夜中に見て正常にな神経を保てる人が居る自体おかしいよ。
さて気を取り直して周りを見ていると、ミリクナ医務長が俺を手招きしている。ああ、俺なんかやったのかな? 何もやってないと思うけどな~。
彼女に近付くと会議用のテントの方まで連れて行かれ、中のテーブルに着けといわれてしまう。
そこには、この前の魔素力を調べる魔素道具が置いてあり、この前と同じく椅子に座らされて、頭から左腕に計測用の配線をつけられ魔素術の動作をやらされる。
気が付くと対面にはジョルジョネ大尉だけが座っていて俺の様子を窺っていた。一通り動作が終わって計測値を見て、何時も通りにため息を付かれる。ああ、俺の方がため息を付きたいよ! 昨日はあんな目に合うしね。
結局その後、3回ほど計測したが彼らが思っていた以上の結果が出なかったらしい。早々に計測危機を仕舞いだし、代わりに朝食が運ばれてくる。
「あれ、俺って遅刻しちゃいましたか? まだそんなに遅くは無いと思いますが」
「いや、君は血を見るのに慣れていないようなので先に食事を済ませて、秘書の仕事をやってもらおうかと思ってな」
「いや~、昨日のは助かって安心した所にあの顔を見てしまって気が動転して気を失っただけですよ?」
「それを血を見るのに慣れていないと言うと思うがな。まあ、追々慣れてくると思う。彼女ら森人族はな、三日毎に食事を取る変わった種族でな。その時は必ず生きた獲物をとる習慣っていうか習性っていうかそういう人達でな。彼女の獣僕や、聖獣もそうらしい。
それでな、その狩りの後で獣を獲ると、森人族の儀式で獲った生き物に感謝をしてその血を飲む習慣があってな。その後、内蔵の肝を一口食べて儀式は終わるそうだ。君は見たのはその彼女が止めを刺した岩猪の血で儀式の途中だったらしい。
驚かせてすまないと彼女は言っていたよ。だから、次に彼女に会っても逃げないでくれよリョウジ!」
「はあ、習慣じゃ、仕様がないですね。俺も、気を付けて彼女の狩りの後は見ないようにします」
「そうしてくれるとありがたい。さあ、冷めない内に食べて、指揮車のほうに来てくれないか」
ジョルジョネ大尉はそういって会議用のテントの外に出て行ってしまう。あっ、岩猪の額に嵌っていた魔素結晶の欠片について聞くのを忘れていた。魔素力の計測器を仕舞って、ここから出て行こうとしていたミリクナ医務長を捕まえてそのことを聞いてみる。
「あの~、ミリクナ医務長? 昨日の夜の事なんですけど。その、例の猪の事なんですけど。あのですね、猪の額にですね。魔素結晶の欠片のようなものが嵌っていたと思うのですが?」
「へぇ~、貴方は夜目でも利く猫なのかしら? 魔獣にそんな物が付いているはず無いじゃない!」
そんな俺を馬鹿にしたように言い放ち、彼女はテントから出て行ってしまう。
そう言われると自信がなくなる。恐怖状態だったし、もしかしたら目が光っていたのかも知れない。
それにメルディム護衛隊長に驚いた為、前後の記憶があいまいで今一自信がない。
そんな、モヤモヤ感で朝食を平らげて木のジョッキの薬を飲む。ああ、不味い。これも何時まで飲まなければならないのかな?
朝は青汁もどき、夜は胃の検査で使うバリウムもどきである。そのお陰か今の所体調は良いが気になってしまう俺であった。
☆ ☆ ☆
「暫くは、肉に困りそうもないわね~」と、ギムネーヤは今の状態を確認して弟子の顔を見て微笑んでいた。そんなギムネーヤは昔を思い出す。
「弟子のメアは16歳で料理人見習いである。6年ほど前にこことは別の奴隷旅団所属中隊で料理人をしていた時に、新規の年季奴隷の中で教え概のある少女とあたしは出会った。彼女は物覚えが速く何よりも気が付くのが早く気立ての良い子であった。
7年前に最愛の夫を亡くして途方にくれていたあたしは、夫と今迄営んでいた料理店を畳み、奴隷旅団所属中隊の料理人になり大陸を放浪する事で気を紛らわせようとしていたのかもしれない。
そういえば、あたしも年季奴隷になったのは10歳の時だった。7歳の時、村を魔獣が襲われ両親はあたしを守る為に犠牲になった。それから、10歳まで奴隷組合の孤児院で生活させて貰い、そのまま年季奴隷になって料理人の道を歩んだ。
20歳で料理長として認められ、大陸中の食材が見たくて奴隷旅団所属中隊の料理人になって大陸中を巡った。そこで亡くなった旦那と知り合い結婚したが子供ができなかった。
今はすっかり、この子の母親気分でいる。しかし、後4年もすれば一人前の料理人として巣立っていく事を思うと切なくなるよ」
そんな事を思うギムネーヤは自分の首を振り「また新たな弟子を取ろうかしら」と、心のなかで自分に言い聞かせる。そんな事を誤魔化すように大きな掛け声を上げるギムネーヤ。
「さて、これを今日中に処理して、冷凍庫と冷蔵庫に仕舞い、残りは夕食に使うよ! 皆も頑張っておくれ!」
「はい、料理長!!」
ギムネーヤの張り上げる声に対して、一斉に声を張り上げ返事をする女性年季奴隷達であった。
野営地ではそんなギムネーヤや女性年季奴隷達とは別に他の男性年季奴隷達が朝食後、昨日の野営地から少し離れた岩猪の死骸の場所から解体した肉を天秤棒で担いで運んだり、毛皮などを剥がして処理をしたりと、昨晩森人が狩った死骸の処理をしていた。
☆ ☆ ☆
俺は朝食を食べ終えて、自分の馬車に戻り道具袋を出す。そして、指揮車の中に入ると何時ものように羊皮紙に書かれた表計算をこなして、大尉に話を聞いてみる。
「あの~、大尉? あの材木は昨日の森人族の人が切り倒した物なんですか?」
「ああ、そうだよ。それがどうした?」
「いや、あんなに材木があるようですけど、あの魔技箱に収まるのかなと思いまして。結構太い丸太ですし、重量も結構ありますよね?
数えてみたら百本以上ありましたが?」
「なんだ、そんな事を心配してたのか。まあ、知らないから仕様がないよな。あれぐらいの量なら千本はこの隊の馬車の魔技箱に振り分けて収納できるし、近場に奴隷組合の倉庫に直接送る事が出来るぞ?」
「へっ? 直接って? どういうことですか。そういえば、魔技箱で人や生き物は遅れないと聞いていましたがどういう事でしょうか?」
「ああ、魔技箱には大きく三種類の型があってな。一つ目がそこにあるような一回魔技箱に収納して、送りたい場所の魔技箱に物を送る事が出来る『素材移送型魔技箱』だ。
二つ目に何でも収容出来る『素材収納型魔技箱』だ。これは魔技箱の木枠の内側より大きな物は入れられないが奥行きがあり魔素結晶の欠片の力の限り収納出来る。しかし、余り入れすぎると途中で入らなくなったり、全部出すと少なくなったりする。
だから、製造された時に計測してある程度、そうだな全体の八割まで入れるのが決まりとなっている。あと、蓋が開いてる時に手や人が入っても大丈夫だが、中に入ったまま蓋が閉まると生き物は死ぬからな!
最後に起動すると近場の奴隷組合の倉庫の魔技箱に繋がり、直接倉庫の方に物を送れるという『倉庫直通型魔技箱』だ。まあ、これは前者の二個の良い所取りのようなものかな。大体、その魔技箱が設置された馬車から五百メタ位離れた場所の倉庫の魔技箱と繫がる。しかし、これは危険だから、君は触らない方がいい。
万が一、間違ってその魔技箱が繫がっている時にその中に入ってしまうと死んでしまうからな。最近は改良版が出て、間違って人が手など入れたときに自動で魔技箱を停止する装置が内蔵されているけど。触らないことに越した事は無い。
これらは例の賢者が作った仕組みでな。魔技箱の生産は奴隷組合の工房でしか生産されていなくて、中身を探ろうとして魔技箱を解体しようとするとそれを検知して大爆発するか、その場所を知らせて軍隊が乗り込むらしいぞ。興味を持つのは良いけど解体しようとは思わない方が良いぞ。
魔技箱の性能は、内蔵されている魔素結晶の欠片によって左右されてな。それによって、収納できる重量や移送できる重量、そして他の魔技箱に接続して移送できる距離など決るらしい。俺が知っているのはそれくらいかな。
ああ、そうだ。最近、冷凍冷蔵収納型魔技箱が出来てな。内の隊にも有るけどそれは見せて貰ったかな?」
「ええ、ギムネーヤ料理長に見せて貰いました。だけど、何で人間や生ものは送れないのでしょうか?」
「う~ん。昔、実験したわけじゃないけど、誤って。っていうか旅費を浮かせる為に、隊に侵入して馬車の魔技箱に入った間抜けがいてな。彼は哀れな姿になって死んだまま奴隷組合の倉庫に転がっていたそうだ。そもそも彼なのかも分らない程だったけどな。試そうとするのは頂けないな~。
生ものはな、なんていうか。食べられる状態にならないっていうか。なんともいえない状態で送られてきてな。乾燥した魚や、肉なんかは問題ないのだけど。生の肉や魚、卵とか獣の乳も駄目だっていってたな~。だけど、乳製品は大丈夫なんだよな。それに植物も生でも大丈夫なんだ。こればかりは作った賢者に聞くしかないな」
「そういえば、この前石切り場で見せて貰ったのですが。個人用の鞄っていうか四角い鞄にアミュネス少尉が長槍を仕舞うのを見たのですがあれもそうなんですか?」
「ああ、そうだよ。あれは軍の標準装備でな『携帯用収納型魔技箱』って言ってな。持ち運びが出来るが他人が触ると急に重くなって持てなくなるように出来ていて盗難防止の仕組みがあるんだ。その他にも色々な仕組みがあるから不用意に触らない方がいい」
「はあ、色々な仕組みがあるのですね。じゃあ。個人で所有なんか出来なさそうですね」
「年季奴隷になれば個人用のものが持てるけど、奴隷組合は魔技箱の管理は厳しくしてるからな。魔技箱が自由に使えれば武器や、危険な物が王都や町などに自由に持ち込めちゃうからその分厳しい。その事は勇者や賢者も憂慮して色々考えたらしいよ」
「へ~、そうなんですか。そういえば何時も勇者とか賢者って呼び捨てのようですけど名前は無いのですか? この国を救ったのに名前が呼ばれないのが不思議に思います」
「ああ、それか~。勇者はね、この国では『救国の勇者』と、言えば、それはヒノモトから来た勇者だと認識されているからな~。まあ、彼が当時、この大陸に来た時に、名前を思い出せなくなるような怪我をしたそうなんだ。それで、色々な名前を名乗ってたのが一番の原因かもしれないな。
本人の名前が無いから勇者でいいやってなったのかもしれないし。奴隷王事件の後始末で色々暗躍してたみたいだしな。そういう事であえて名前は忘れ去られているのかもしれないな。
それで、賢者って人は自分の名前が広がるのを嫌う人だったらしい。当時の国王陛下にまで。ああ、第六王子な。その彼にも名前を言わせなかったらしいよ。恥ずかしがり屋さんなのかもな。ああ、これは冗談だ。それで彼も後世には『救国の大賢者』と、呼ばれて名前は伝わっていないな~‥‥‥」
「えっ? じゃあ普通にお亡くなりになったのですか?」
「そうらしい、大賢者は奴隷王事件のあと十年程して老衰で亡くなったそうだ。事件の時にも結構、お年を召していたらしいからな。勇者の方は大賢者が亡くなって、十年程して行方不明になったと記録には残っている。噂では創世大陸に渡ったと言われているけど消息は不明らしいよ」
「そうなんですか。名前は無いのですね‥‥‥」
「今日はこんな所かな。この後はそろそろ肉の処理は一段落着いて、材木の製材をやっていると思う。君は慣れていないと思うから見学だけするといい。では、私は自分の仕事があるからこれで終わりにしてくれ」
ジョルジョネ大尉はそういって話を終わらした。俺は道具を袋にしまい、指揮車を後にする。
外に出ると、この前と同じように猪の頭の残骸が俺をにらむように、指揮車の外に置いてあった。まあ、2度目だし、慣れたもので少し観察してみたが回れ右をして、その場から離れてしまう。
そこには文句をブツブツ言って猪の頭の皮を剥がしている黒猫ちゃんのクワビムさんが居たからだ。俺の事には気が付かなかった様で自分の得物で器用に頭の皮をはがしていた。
そこから離れた所に様子を伺っていたプイホンさんを見つけてしまう。多分、また頬のお肉を貰えるかと思って隙を窺っているのだろう。その姿が可愛いから許す。「存分に隙を窺うと良いよプイホンさん」と、心の中で囁き、その場を離れ材木置き場の方に足を運ぶ。
材木置き場には5分も掛からずに着く。この前の石切場のような二人引きの手鋸や片手の鋸で木材を台の上に載せて、板や角材などに製材していた。
見てるだけと言われたが、あの鋸を使ってみたくなってくる。だって、簡単に鋸を引いて、一本の丸太が簡単に板になったり、角材になるのだよ? 石切り場の時と同じに在り得ない風景である。
仮置きしてある製材済みの板や角材は下の丸太が乾燥してあったのか、手に持つと意外と軽かった。見た目は杉材か、針葉樹のようだけど、周りを見てもそんな感じの樹木は見えない。匂いを嗅ぐと松の樹液の匂いもして、頭が混乱する。まあ、結局ここの樹木なんだと自分に言い聞かせ納得するしかなかった。
他に視線を移すと、積んであった丸太の太さは大きい物で直径50cm位で長さは4m程、重さは軽く計算すると300kgから400kg位はあると思う。
それを上から木製の長い柄の先に金属のかぎが付いた手鉤で丸太の小口に引っ掛けて両側から4、5人で引張り転がり降ろす。それを台の上に転がしながら移動させて固定する。
次に金属製の曲尺で印を付けて墨つぼから糸を引いて墨を引いて行き、魔素道具の鋸でスパスパ切断してしまう。なんだか動力機械の産業革命を全否定しているようだ。
あっ、そこであほな俺でもある事に気付いてしまう。この国っていうかここって産業革命は起こっていないけど、いきなり物流革命起こっているよね。
俺が居た所と順番がまったく逆なように感じてしまっう。いきなり物質転送だったり、軍隊制度など一見進んでいそうだけど、ガラスは無かったり、奴隷制度だったりとなんともちぐはぐな所だけど今の所うまくいっているという。
なんとも不思議で良く分らない世界であった事に今更気が付く俺であった。
そろそろ、晩飯なのか旨そうな匂いがあたりを包む。ゴナベル奴隷長が作業の終了の掛け声を張り上げると、皆は道具を仕舞ったり片づけを始めだす。俺は、手帳に道具の名前や切出した材木の大きさなど目算で書き出して、後学の為の資料とする。
作業が終了してしまったので、先程の事が気になり指揮車の脇を抜けプイホンさんの様子を見に行く。すると、どうやらご相伴に預かれたようで何かを食べ、舌なめずりした所を目撃してしまう。直ぐ指揮車の陰に隠れ彼らの様子を観察する。
多分、この前と同じようにプイホンさんを出汁にして頬肉を削ぎ取っているのだろうと思っていたら、どうやら違ったようだ。森狼のボグフムさんが肉を削ぎ取ってプイホンさんに与えていた。
へ~、やさしい所もあるんだな~。そう思っていたら、猪の首の影に紐で縛られた黒猫ちゃんのクワビムさんがシュンとなって座らされている事に気付いてしまう。
ああ、今回も意地悪をされて、マジにプイホンさんがボグフムさんに通報したのだろう。そのお礼に頬肉を貰ったのか? 中々やるねプイホンさん!! しかし、あのシュンとした姿のクワビムさんも可愛いね! 久々にその光景を目に焼き付けておく。
ここで俺は閃く、クワビムさんに助け舟を出して恩を売れば多少は敵愾心は下がるのではないだろうか? うまくいけば仲良くなったりして。
ああ、でも彼女は原種に近いっていってたから、野性味が強すぎて人族に慣れてくれないのかもしれない。結局迷ったが手を貸す決意をして、3人の前に歩み寄る為に近付き声を掛ける。
「あの~、皆さん何をやっているのでしょうか?」
「あっ、兄ちゃん! 俺ね、ボグフム姉ちゃんに知らせたらお肉貰えたんだ!」
おいおい、君は使徒様と仰いでいる人を肉を得る為に売ったのかね? ああ、なんと言う誇らしげな表情なんだろ、その顔もありだ! いやいや、今は違う、クワビムさんを助けないと。
「ボグフムさん、その、なんと言うか身内の事に口を挟む訳じゃないですけど‥‥‥」
すると、話が終わらないうちに俺の後ろからメルディム護衛隊長がやって来てボグフムさんと俺に話しかけるではありませんか!!
「あら、また、やったのかい? 仕様が無いね~、黒は。成人したと言ってもまだ子供だから許しておやりボグフム!
それに、リョウジ! 昨日は驚かしてすまなかったね。まさか、こちらの方に近寄ってくるとは思っていなかったからね。許しておくれ」
「いや~、俺はあのでかい猪に驚いて気を失っただけですよ。俺はか弱いヘタレな男ですからね~。メルディム護衛隊長がどうかしたかなんて気を失っていたので知りませんが何かあったのですか?
それよりこちらの方がお礼を言わないといけませんよ。ボグフムさんに、もう少しの所であれに食われる所を助けて貰い、更にクワビムさんにも助けて貰って。色々ありがとうございました。
それにメルディム護衛隊長と、もう一人はなんていうか存じませんけど色々とありがとうございました」
我ながらすらすら世辞が出てしまったが、大尉の話を聞いた今では殊更大きく話す事もないでしょ。確かに恐ろしい形相だったけど、そんな事を言っても仕様がない。ここは紳士の如く対応で済ませば良いのではないでしょうか?
「そうかい、何か気を使わせちまったようだね。じゃあ、その事はそういう事にしておくよ。ああ、もう一人はラグフムって言うから名前を覚えて損は無いよ。じゃあ、あたしは用事があるから。あ、ボグフム! クワビムを許しておやり。お前と違ってこいつは森猫だ、目の前の美味しい物には我慢できないのさ」
「そうです、姫様~。あたいは我慢できないんだよ~、ちょっと味見しただけなんだよ~。もう許してよ~、ボグフム姉さま~」
「仕方がありませんわね、クワビムにこの仕事を任せた私の責任もあります。以後気をつけるのよ!」
ボグフムさんはそう言ってクワビムさんの縄を解き解放すると、そぎ獲った頬肉の一切れを彼女に渡して頭を撫でていた。クワビムさんは先程の哀願状態から一転して嬉しさを隠せないのか尻尾をピンと立てて美味しそうにその肉を食べ始める。
嗚呼、とても良いものが見れて幸せです。しかし、クワビムさんが自由になってからはプイホンさんはいつの間にかいなくなっていて姿を消したようだ。
そうだよね~、自分達の神様の次に偉い使徒様を売ったからね。今頃は何処かで耳と尻尾を下げて隠れているよねきっと。
その姿を想像してしまい思わずニコニコしていると、黒い顔のオレンジの瞳がこちらを睨んでいる事に気が付く。クワビムさんであった。彼女の顔を始めてまじまじと見た為、そのオレンジの瞳に気が付いたのである。
「あの~、なんでしょうか? 私は貴方が美味しそうにお肉を食べていたので、微笑ましく思って顔が緩んでしまっただけですよ?」
「違う! 姫様に気を使ってくれて‥‥‥」
最後の方はモゴモゴ言って聞えなかったが多分「ありがとう」と、言ったのだと思う。嗚呼、グッジョブ俺!!
しかし、安心するのはまだ早い。爽やかにここを去らなければならない。俺がここを去るために皆にお辞儀をして去ろうとした時にクワビムさんがさっきとは打って変わって俺に釘を打ってくる。
「だけど、姫様に今度近付いたらあたいが容赦しないからな!!」
ああ、やっぱりね。まだ許されてませんよね~、分っていますよ~。「徐々に外堀を埋めさせてもらいます」と、心で囁き、その場を後にする。俺は仮設食堂の方に歩いてい行く。
仮設食堂の方に行くと、どうやら今日は焼肉のようで焼いたお肉とタレの匂いが混ざって良い感じの匂いになっていた。
何時もの木の大皿に今日はスープじゃなくて焼いた肉切れと付け合せのゴダ芋と多分人参、それと緑のブリッコリーのような野菜が乗っている。似た様な野菜がここにもあるんだなと感心したが、名前を聞いてもあれなんであえて名前は聞かなかった。
だって、後ろに並んでいる人達に睨まれそうで時間をここで取らせるのは悪いからね。
焼肉のタレはなんていうか、ウスターソースのような違うような、俺の舌はグルメじゃないから良くわからないけど。ただ、マヨネーズが欲しい事だけは感じていたが割と美味しく頂きましたよ。最後のバリウムみたいな薬さえなければね。
あっ、そうだ。プイホンさんは人影に隠れながらびくびくして、お肉を頬張って周りをキョロキョロしてましたよ。
こうして、今日の日は暮れて、皆が寝静まり一日は終わってしまう。しかし、例の如く上半身を起こし「何で森人族達の名前の最後に『ム』が付くんだ?」と、いう新たな疑問を持ってしまう俺であった。
次話へつづく
次話は11/2の夜に投稿します。




