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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第1章 異世界で迷ったら奴隷になった 》 
24/229

<1-23> 「年季奴隷と魔獣  (中編)」

最新の本文修正日は2014年11月5日です。

 何時もの日課であるジョルジョネ大尉の秘書仕事で表計算を手伝い、気になっていた魔獣の話を聞いた俺ですが、やはり荒野で野垂れ死にする前にもう一つ危機があったようだ。あの馬鹿でかい猪、岩猪という魔獣は人も襲うそうで運が悪いとあのお腹に収容されたのかもしれない。


 その話のついでに獣人と人族の間に交配種が出来るとも聞いてしまう。大きな町に行くと彼らの中には獣人の力を失い、見た目が獣人でも人族として扱われる者が居るそうです。


 町に行く楽しみが出来て喜ぶ俺ですが肝心な事を忘れてました。それは、人族の女性の前でも赤面して話が出来ないのに、獣耳少女に声を掛けるベリーハードモードは今の俺には不可能なミッションであった。


 しかし、チラ見は出来るから良いよね俺? そんな新たな楽しみが増えた俺に、またジョルジョネ大尉が何時ものように脅しをかけて来る。いい加減、逃げないから勘弁して欲しいよね。



 魔獣のランクもなんだかおかしいランク付けで、松竹梅に甲乙丙である。当然カタカナであるが、これもヒノモトから来たという勇者の賜物なのであろうか?


 段々、勇者の事が気になってくるがまだ時間はある。追々、ジョルジョネ大尉から聞き出そうと考える俺であった。






 指揮車での日課が終わり、何時ものようにプイホンさんの手伝いをしながら、彼の魔素術の水を出す行為を観察する。手慣れたもので、あっという間に左手の方から水を出す。何度見てもこれと同じように昨日の夜に俺がやった方法と同じに感じる。何がいけないのか分らない。



 やがて、何時ものように馬車は今日の野営地に向って進みだす。荷台から外の風景を見ると結構景色が変わっていた事に今更ながら気付く俺である。


 今までの赤茶けた荒野から段々茶色に変わってきて畑のようになってくる。やがて何かを栽培しているのか緑色の景色が見えてきて、突然振動がしてビックリする。どうやら橋を渡っているようだ石畳の道路の脇に水路のような水が満たされた堀を越えていく。


 石橋のようでそこを通り抜けると、また振動がして体が揺れる。なんか、久々に農村の畑の風景にちょっと感動してしまう。


 今日は村に止まると思っていたが違うらしい。畑の風景から次第に低木の風景に変わってくる。見た覚えのある木がちらほら見えるが、同じ物かは俺には分らなかった。


 暫く走ると、今度は速度を落としだして石畳の道路から抜け出すらしい。今度こそ今夜の野営地かと思ったがまた違ったようだ。



 石畳の道から普通の土の道路に進路を変えたようで、今まで見えた石畳の道路から今見えているのは草が生えていて車輪の通る所だけ土が見えている。普段は余り利用をしていないように感じる道に入ったらしい。


 周りが少し薄暗くなってきたようで、周りを良く見渡すとさっきまでの低木から馬車の高さより高くなってきたのが原因らしい。



 ようやく、今日の野営地に着いて、皆が一斉に降りだす。足元は草が生えているかと思ったが、少し湿った黒土が一面敷いてある。


 広さは何時も野営地で馬車が止まる広さがあり結構広く、森が切り開かれていた。何時も誰かが使っているのかも知れない。


 そんな事を思いながらテントと寝床の準備をしていく。すると、蚊取り線香のような匂いが周囲に充満してくる。良く見ると馬車の荷台やテントの周りになにやら燃やしているようだ。



 「プイホンさん、これって何を燃やしてるの?


 ひょっとして『ジョチュウキク』あ、う~ん。


 やっぱり『ジョチュウキク』かな?」




 「兄ちゃん、おいらに聞いて分ると思うのか?


 これはゴナベルさんに聞かないとおいらは分らないよ!」




 「ああ、ごめんよ~‥‥‥」



 あああああ、またやってしまった。つい、聞いてみたが、またご機嫌斜めになってしまう。


 そんなやり取りを見ていたドルバン車長が後ろから声を掛けてくる。




 「これは虫除けでな。山間部等で野営する時はこれを焚くんだ。確かこれも勇者が伝えたとか。あれ、賢者だったかな? 確か『ジョチュウギク』とかいわれていたはずですが」




 彼はそういって仮設の食堂に行ってしまう。回りを見渡すとプイホンさんも居なくなっていた。ああ、大失敗、少し時間を置いてまた話をするか。



 俺は仮設の食堂のへ向い、配膳の列に並ぶ。今日の晩もお肉が出るらしい。ああ、当然木のジョッキの薬もあったけどね。


 俺はプイホンさんの隣の席へ座り、彼のスープ皿に俺の肉片を何個か入れてあげる。彼はビックリしていたが俺は小声で「何時もお世話になってますからどうぞ」と言って、自分の残りの食事を食べ始める。


 プイホンさんは嬉しそうにお肉を食べていたからその様子を見れただけで良いだろう。最近、彼のご機嫌を損なう事が多くなってきて反省しないと最悪嫌われちゃうよ。「今度は失言しないようにするぞ!!」と、心の中で叫ぶ。そう自分に言い聞かせ肝に銘じる俺であった。



 晩飯を食べ終わり、周囲を見渡し歩いていると、見た事があるような木がちらほら見える。広葉樹らしく葉っぱが青々としている。下のほうを見渡すと草が生えていて、田舎の何処にでもある裏山的な感じで何か懐かしい感じがする。


 確か、冬の割には昼の影が短く赤道に近い気がしていたので、ジャングルを想像していたがひょっとしてここは高度が高い場所なのかもしれない。和紙の原料の事を思い出し、周囲を見渡すがそれらしい物は見当たらなかった。


 その代わりに開けた野営地の一角に材木が切出して置いてあるのを発見してしまう。数えてみると100本以上置いてあって、それ以上数えるのが面倒になり諦めてしまう。



 その一角にジョルジョネ大尉とアミュネス少尉、それに見慣れぬ人達と話をしているようだ。良く見るとメルディムさんのような森人族のようだが、ちょっと歳をとっていて青年っていうよりは中年のような感じに見える。


 その傍に少し若い青年に見える人物が見えるが、その青年も見た事が無い人物だ。俺が彼らを発見して躊躇しているとジョルジョネ大尉が俺を呼び招き寄せる。


 ジョルジョネ大尉は彼らに俺の紹介をして、彼らの名前を教えてくれた。しかし、その発音が難しく上手くできないが、中年の方が「キャルヒアム」さんといい、この森の周辺を管理している森人族の氏族長の代理と教えてくれる。青年の方はその息子で「ヒガスセム」さんと教えてくれる。



 森人族特有のメイン武器以外の刀剣を多く腰や背中に挿していて、全身の革鎧にもクナイのようなものが刺してある。


 中年の方は背中に両手用の長剣を背負い更に二本の片手剣のようなものを背負っていて、腰には同じ片手剣を両脇に差している。この人はメインのほかに4本の剣を操って狩りをするらしい。


 青年の方は背中に同じ長剣を背負い、腰の両脇に片手剣を差している。どの片手剣もおそらく両刃だよね、そうしないとバランス取れないし。


 両人共、髪はメルディム護衛隊長と同じように灰色でくすんだ銀髪で後ろの方に結んでいるようで、露出している肌は白い。そして、白い顔に際立つオレンジの瞳が一段と怖さを演出していた。



 そんな彼らを観察していた俺に彼らの興味が沸いたようで、俺をジロジロ見て何か感じたようだ。




 「髪が黒いな。まるで、俺が子供の時に会った事がある、あの勇者に似ているな。剣術は‥‥‥。ああ、すまぬ、なんでもない。瞳の色と肌の色も似ているが勇者は少し肌が浅黒かったように思える。我らはこの一帯の森を見ている氏族に属している。再びここを通った時はお前を歓迎しよう」




 そう言ったのは中年の「キャルヒアム」さんで、俺の弛んだ腹と二の腕を見て瞬時に悟ったようだ。「ご明察!!、その通りです」と、心の中で褒め称えたが、その後は虚しくなるだけであった。




 「明日はここの木材をここで製材して、出発は明後日になるから早く休んだ方が良いぞ」




 ジョルジョネ大尉はそういうと、森人二人と部下のアミュネス少尉を伴ってジョルジョネ大尉の指揮馬車の方にいってしまう。すると、木材の陰からメルディム護衛隊長が出てきて俺に話しかけてくる。




 「彼らは行ったようだね? ああ~、鬱陶しい! 私ね、彼らが嫌いでね! あいつら私の村に来て、このあたしを『嫁にくれ!』って、言って来たんだ。横に居た若そうな奴が居たでしょ? あいつよ」




 彼女はそう言って今にも唾でも吐き捨てそうな感じでそう言い放った。俺はそれより大変な事に気付く。今の状況をもしもクワビムさんに見つかると、もう言い訳が出来ない。内心オロオロしてしまい、周りをキョロキョロしてしまう。


 「はあ、そうなんですか。親同士の結婚相手の押し付けは嫌ですよね~」


 そんな他人事のように言ってしまったが、彼女は勘違いしたようだ。




 「リョウジもそうだったのかい? ホントに鬱陶しいよね! それで、私は村を出てね。暫くは大森林を放浪したけど良い男が見つからなくてね。やっと、見つけたんだよ!」




 「あの~、ひょっとして、ジョルジョネ大尉ですか?」




 「あら、分ちゃった~? 彼ね、若い時は髭なんか生やしてなくてね、可愛かったのよ~。最近偉くなっちゃったから髭を伸ばして、今の感じにしちゃってね。年齢を重ねると又これが良くてね。段々、私の好みになって行くのよね~」




 ああ、惚気話をしだしたよこの人。貴方と長くお話をするとそれだけ俺の生存率が下がる気がするよ~「もう勘弁してください、メルディム護衛隊長!!」と、心の中で叫ぶ。




 「ああ、早くあいつらの村に帰ってくれないかな~。多分木材のお礼に今晩は酒盛りするよ、きっとそうだ!! ああ、そうだ、あたしちょっとお散歩してくるわ、じゃあね~リョウジ~。早く寝るのよ~」




 そう言い残して彼女は森の中に消えて行く。


 どうやら惚気話がしたかっただけらしい。スッキリした顔で行ってしまった。


 それより俺は周囲の警戒をして、今の会話をクワビムさんに見られたか確認しないとね! また襲われるのは勘弁して欲しい。どうやら周囲には居なかったようで安心して自分の寝床のテントに足を運ぶ。体に煙を燻して回りに虫が入らないようにテントに入る。


 そして、サンダルを脱ぎ寝袋に入り目を閉じる。今日のお肉でプイホンさんは機嫌を直してくれたのか気になってしまい目を開け横を見ると、薄暗いが気持ちよさそうに彼は寝息を立てていた。やがて俺も睡魔が襲い眠くなり、いつの間にか寝てしまう。




 一眠りして、また夜中に尿意を催してきて目が覚める。こういう時は危険が一杯なのを思い出し、テントを出る時と便所に向う途中、そして用を足した後に周囲をキョロキョロして安全を確かめないといけない。


 月明かりがあるので視界には困らないが森との境界部分はさすがに月明かりが通らなく真っ暗である。


 そんな所に光る物があっても気にしては駄目だ。クワビムさんの罠がきっとあると思う。周囲を見渡してもいないようなので安心していると、ちょっと離れた所からガサゴソと音がして暗い中でも何かが揺れた感じがする。


 あちゃ~、クワビムさん痺れを切らしたのかな? 彼女がこちらにでも来るのかと思い身構えてしまう。


 ああ、あれだけ注意していた俺はまたもや、この世界が危険が一杯なのを忘れてしまっていたようだ。本当に間抜けな人間であった。そう、この時は逃げるのが正解であった。




 森の方から出て来たのは月明かりに照らされて、この前に見た岩猪と大きさが同じ。いや、それより大きい猪かもしれない。


 顔は猪だが体が石切り場で見た岩人形並に大きく、体高5mはあるかもしれない。顔の口周りには立派な牙が2mは伸びていると思う。


 全長なんかは調べてる余裕なんか無い、今は足がガクガクしてきて力が入らない。ああ、ここに来て何回目の危機だろうか?



 その山のような猪がノシッノシッと大きな体を揺らし、低木などを踏み潰してこちらの方に向ってくる。途中、牙で木を倒して大きな音がする。


 すると、そんな猪の顔の眉間の辺りに何か光る物を見つけてしまう。まるで魔素結晶の欠片を額に嵌めているようで綺麗に光っている。そんな危機的な状況なのに変な物に視線が行ってしまい、相変わらずあほな俺であった。



 ああ、もう駄目かと諦めた時、俺の服を掴み引張りあげる人物が現れる。それは森狼のボグフムさんであった。


 彼女は突然、俺の目の前に大狼に乗って来ると、俺を服ごと掴み上げ大狼の背中に俺の体をうつ伏せのまま横向きに乗せる。そして、勢い良く跳ねてその場から離れてしまう。


 俺はその大狼の背中にうつ伏せで横向きに乗せらた為、頭と手。そして、足が宙ぶらりんになりながらも、必死に手で脇の毛を掴みながらも後ろを振り替えりその様子を見てしまう。


 すると、今俺が居た場所にクワビムさんが大虎に乗ってやって来て、山のような猪の気を引いて森のほうに誘導していくように見える。


 しかし、その猪は何かが気に食わないようで俺を乗せた大狼の方へ向ってくるよではないか!



 大狼を操るボグフムさんは俺を乗せたまま野営地を離れ、馬車が進んできた道を戻る進路をとっている。野営地に被害が起きないように誘導しているのであろう。


 俺はいつの間にかボグフムさんに服を掴まれ、今度は彼女の前に移動させられて大狼に跨らされていて、今は彼女が後ろに乗って大狼を操っている。俺は大狼のたてがみに必死に掴まり落とされないようにする。


 後ろの山のような猪も段々、速度を上げてこちらに追いつく勢いで追ってくる。その際、巨体が地面を踏む振動音が響いて、静かな森中に木霊する。



 何処まで逃げるのかと思っていたら直ぐ前方に人影が見えてくる。どうやら「ボグフムさんはその人影の方まで誘導したのかな?」と、思っていると。両刃の片手剣が二本、勢い良くこちらの方向に飛んで来る。


 俺の方に向ってくる気がしてその様子に思わず目を瞑ってしまう。どうやら旨く避けたようで、ほっとしているとまたもや同じ物が飛んでくる。一瞬、焦ったがそれはありえない軌道で避ける様子を見ることが出来る。


 その直後に二人の人影とすれ違い、大狼が急に速度を落として反転したようで急激なGに胃の内容物が出そうになる。



 やがて、向うから来る山のような猪の様子を見学できる位置に大狼は止まってしまう。なんで止まったのかは分からないが、俺は不安になってしまう。しかし、それは杞憂に終わってしまう。


 最初の二本の両刃の片手剣は猪の前足を狙ったようで猪が首を振りながらそれを防ごうともがく様子が視線に入る。猪は勢いの付いた体がもんどりうって倒れそうになるが踏ん張った様で倒れずこちらの方に向ってくる。


 その隙を突いて、次の二本の剣が猪の上空で左右に分かれ、突然空中で止まり剣が光り輝くように見える。


 どうやら、剣がドリルのように高速回転して月明りで光が乱反射しているようだ。それが勢い良く最初の一本が猪の耳の部分から頭の中心にドリルのように入って行き、対角線上の頭の反対部分から勢い良く飛び出てくる。


 そうするともう一本も同じように今度は眼球を狙ったようでそこから浸入して反対の眼球をぶち抜いて飛び出す。



 ああ、剣ってあんな使い方しないよねと一人覚めた目で見学していると、どうやら猪は脳を破壊されてもんどりうったまま勢いをつけて縦に一回転すると、大きな音を立て地面を滑り道路に伏せてしまう。


 その際、周りには砂埃が立ち、血しぶきが飛ぶ。道路に転がった岩猪は少し痙攣をしてやがて動かなくなる。額の魔素結晶の欠片のようなものも、今は光が消えて黒くなっていた。



 あの様子だと二人の人影はメルディム護衛隊長ともう一人の森人族で護衛隊員かも知れない。男性の森人族の名前を俺は知らないが、石切り場に行く時に見た人なので同じ護衛隊の人であろう。


 その二人が猪に近付き何かやっている。周りは月明かりである程度明るいが山のような猪の影に入ったようで詳細までは見えない。


 俺は大狼から降りようとすると大狼は気を使い伏せをしてくれる。なんて御利口な狼だ。俺の心の中で犬系の評価が少し上昇する。いやいや、今はそんな事はどうでも良い。彼らが何をやっているか気になって自分の好奇心に勝てなかった。



 彼女達に近付いて後悔した俺であったが今更遅かった。彼女の口の周りに血が付着したのが見えて、それが白い肌に月明かりせいか良く映えて見える。まるで怪奇映画の吸血鬼のように見えて、俺は情けない事に血の気がうせて気を失ってしまうのであった。






☆  ☆  ☆






 あたしはリョウジがこちらの方に来るとは思っていなかった。なので何時ものように儀式で獲物の血を飲んでいた。



 リョウジが近付いて来たので振り返ると、彼はあたしの顔を見て気を失ってしまう。そんな彼にあたしは「なんて失礼な奴だ!!」と、内心毒突く。


 ボグフムがリョウジが地面に倒れる前に彼を支え大狼に彼を乗せて、あたしの命令を待っている。


 彼を寝床に寝かせて、ジョルジョネ大尉を呼んで来るように命令を出す。やがて、ボグフムがジョネを大狼に乗せて連れて来る。




 「あらら? なんでこんな所に魔獣こいつが居るんだ?」




 あたしに意見を求めるジョネだが、あたしの顔を見ると文句を言ってくるではないか。




 「顔を洗ったほうが良いぞ、気の弱いリョウジが見たら気絶するぞ?!」




 あたしは「その顔も良いわね、ジョネ!」と、心の中で囁き、彼に微笑む。


 「えへへ~、遅かったようね。彼は私を見て気を失っちゃって、ボグフムに大尉を呼びに行かせる時に彼の寝床に寝かせてきたよ」




 「そんな、可愛い振りしても無駄だぞ! 頼むから、彼を苛めないでくれよメルディム姉さん!」




 「え~、そんな事言ったて仕様がないでしょう?! リョウジがこちらに来ると思ってなかったのよ!」




 「あ~、はいはい、分ったから。それでこいつはいったい何なんだ? 一見、岩猪だが、違うようにも見えるし。お! 何だ! これは、何で額に魔素結晶の欠片が嵌ってるんだ?」




 「だから、大尉をお呼びしたのよ!! あたしも始めてよ、こんなのはね。確かに『湧き魔素の泉』で影響を受けた魔獣は体が大きくなるけど。特定の個人は判断できないし、それが視界から消えたら次の獲物を探して執着しないはずなんだけどね?」




 「えっ! そうなのか? まさか、リョウジを追掛けたのか?」




 「ええ、寸前の所で彼をボグフムが連れ出して、クロに猪の目くらましをやらしたけど。黒には目もくれずにリョウジを乗せたボグフムと相棒の方を追掛けてきたのよ?!」




 「あらら~、そうなんだ。こっちの道を通って来たのが裏目に出たかな? まあ、仕様がないか。森を抜けるまで気を抜けないな、哨戒を密にして頼むしかないな」




 「そうね~、それしかないわね。それで、これどうする?」




 「へっ? どうするって、食べないの? 今迄の魔獣だって食べても大丈夫だったよね? 俺も食ったし。あれだったら、医務長にでも見て貰う?」




 「そうね、お医者様に見て貰ったほうが良いよね?」




 あたしがジョネにそう答えると、猪の影から小さい白い影が現れる。




 「ああ、これは最近見かける型の魔獣よ。最近って言ってもまだ3例ほどしか報告無いけどね。最初に見つかった奴を徹底的に調べたそうだけど。結論は額の魔素結晶の欠片が原因としか分らなかったわ。


 ああ、お肉は問題なく食べれると報告は来ているわ。但し、魔素結晶の欠片は私が保管して奴隷組合に提出しますからお願いしますね」




 ミリクナ医務長はあたし等にそういうと、彼女の左手から先端の尖った錘が付いた、多分真銀の糸で編んだ組紐がスルスルと伸びてくる。その組紐はまるで生きているように独りでに魔素結晶の欠片をえぐり出して掴むと、彼女はそれを引き寄せて右手で掴む。


 難なく魔素結晶の欠片を取った彼女はそれを持って野営地の方へ戻ってしまう。あたしはその光景に思わず驚いてしまう。




 「うわ~、えげつないね~。ジョネ、今のは何?」




 「ああああ、今のは誰も見なかった、見なかった~~~~と、いう事で頼むね? 

 そこの森人のお二人と二人の獣僕達よ。それで、明日一番で材木を後にしてこれに人員を廻すよ。ではお食事の邪魔になるといけないから‥‥‥。なんじゃこれは?!」




 あたし達も驚いたが、ジョネはその様を見て更に驚いていた。なんと、先程の結構な大きさの岩猪が少し縮んで普通の大きさの岩猪に戻ってしまったからだ。こんなのは今迄見た事が無いわ?!


 クワビムは怪訝そうに岩猪の匂いを嗅いでいる。ボグフムは血を指につけて一舐めしてこちらを見ている。




 「姫様! なんか何時ものと同じ味に戻りましたわよ! この子も腹を空かしているので食べさせてもよろしいでしょうか?」




 あたしは暫く考えたが何時ものように肝を取り出し儀式を完成させないといけないような気がして、解体の命令をクワビムに出した。あたしら、最初に血を飲んだけど特に変な味はしなかったし、その後もこいつの血を舐めたけど不振な味はしなかったから大丈夫よね?


 ジョネは呆れて、ブツブツ言いながら野営地に戻ってしまう。どうやら、あいつらは帰ったのかもしれないわ!


  早く解体してお肉とお酒を飲まなきゃ!






☆  ☆  ☆






 そんな出来事が起きているとは夢にも思っていない俺は気を失ったままであった。結局、朝まで目を覚まさなかった俺であった。




 後編へつづく

次話は10/31の夜に投稿します。

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