<1-21> 「年季奴隷とエンピッツ (後編)」
最新の本文修正日は2014年10月31日です。
恥ずかしい名前の「知恵熱」からすっかり回復した俺ですが、この王国にも特許制度が有るそうです。俺が彼らに伝えた事により鉛筆が「エンピッツ」となって、彼らに普及するらしいです。
俺が考えた訳じゃないけどここは異世界、文句を言う人はいないよね?
もしかすると鉛筆のアイディアで一儲けできるかと思って、心が浮き浮きしてしまう。しかし、現実が厳しいのは異世界も俺の住んでた所と変わりなく同じらしい。
アイディアの買い手がいないと20年で特許が切れて誰もが作れるという事で、期限が短い様に思える。
詳しい事は分らないがそういう決まりらしい。後は許可受理の時に貰える報奨金が幾ら貰えるか分らないが、楽しみがあるという事は良い事だと思う。
そんな事を考え腕組みをした俺は荷馬車に揺られているのであった。
俺は荷馬車に揺られながら更に色々考え腕組みをする。
「エンピッツ」は色々改良点があり、俺が持っていた鈍らの十特ナイフでは刃が立たなかった。それに15mm角という太さも改良する余地があると思う。
その他にも、色々と作ってもらいたい物が次々と出てきて俺は何を優先してやるか目移りがして困ってしまう。紙の量産や鉛筆が有って消しゴムが無いのでゴム製品もその内に作らないといけない。
しかし、今はやらなければならない事があり、それは帰る方法を探しながらジョルジョネ大尉の秘書をこなさないといけないという事だ。本当に帰る事が出来るか分らないが、今は大尉の秘書をしながらひたすら情報を集めないといけない。
それと、俺の体の異変も気になる事がちらほら出てき始めた。「知恵熱」は置いといて、その病気前に朝食で食べていたゴダ芋という芋から出た「魔素結晶の欠片」の事だ。
大尉の話では人族はその結晶を身に着けられる量が決っていると聞いていたが、自分の体に取り込まれるとは聞いていない。
しかも、必要以上に身に着けると体に変調をきたし具合が悪くなると聞いている。もしも、このまま行って具合が悪くなると、理由を打ち明けないといけなくなりその後の結果が怖くて言い出せないでいる。最悪、生きたまま解剖とか怖すぎる。
先程、ジョルジョネ大尉から病気の全快祝いとかで中身が和紙製の日記を貰ったが怪しすぎて中身を書くか迷いが生じている。
まあ、無難な日々の出来事を書けば良いが、書き留めて置きたい事は業務手帳にでも書けば良いかと思っている。
彼らから貰う物がすこぶる怪しすぎて。ああ、大尉が怪しく見えるのが原因かもしれないが、その怪しい物の使い道に迷いが生じる。
そうだ、体の変調で思い出したが、その他に二つほど気になる事がある。それは、頭髪と髭が伸びるのが凄く遅いのと、手足の爪の伸びも遅いと言う事だ。
大した事ではないと思うが、熱病の後に女性年季奴隷達に体を拭かれ髭もそられたり、爪を切られたりしたと思っていたが、その熱病の前から髭と爪の伸びは余り変わっていなかった。
もう、こちらに着てから10日以上経っている。「どうなっちゃったの俺?」と、内心は不安でいっぱいだ。
色々と考え事をするとあっという間に時間が経ってしまう。
気が付けば、どうやら今日の野営地に着いたようで馬車が道を外れて平地に上がり馬車がゴトゴト揺れだし、やがて停止する。
荷台から降りると何時もの段取りでテントや寝床の準備をして、革袋に「エンピッツ」を入れてプイホンさんと仮設の食堂に向う。食堂には続々と皆が集まり晩飯を食べ始めている。
俺は配膳の時に何時ものように薬を渡してくれた料理長補佐のカルさんに睡眠薬が入ってないか聞いてみる。
「何時もすいません。あの~、今日の薬には眠たくなる薬は入ってないですよね?」
「‥‥‥。あ、あ、あの。何時も眠くなる薬は、い、入れて、な、無いです。き、き、今日も、は、は、入ってないです‥‥‥」
なんか、挙動不審でオドオドしながら首を傾げるカルさんを見ると怪しいが違うのかもしれない。マスクをしていて目も前髪で隠れて表情が良く分らない。
「へっ? そうですか‥‥‥。分りました。変な事聞いてすいません」
彼女に話した後は俺の方が首を傾げてしまい、彼女に頭を下げてその場を去る。
どうやら、彼女は睡眠薬を入れてないようだ。もしかするとミリクナ医務長か?
そういえば、熱病前は別に眠気とか起きていなかった事に気付き、俺は首を傾げながらもテーブルに着く為に空いている場所を探す。
その前にガルボルテ工作長を見つけ「エンピッツ」の改良の件で食後に話がしたいと話をする。その後、開いてるテーブルに着き急いで晩飯をかき込んで、薬を飲み干す。口直しに水を流し込み、何時ものようにカルさんに見えるように儀式を済ませ、食器を下げて工作馬車に足を運ぶ。
あ、プイホンさんに話すの忘れてた。まあいいか。探しに来ればいいし、多分忘れて誰かに言われないと探しにこなさそう‥‥‥。早く信頼関係を結ばなければ‥‥‥。モフモフ出来ないじゃあないか!!
そんな事を考えながら「エンピッツ」を一本革袋からだして削った部分の見ながら表面の状態を観察してみる。良く見ると、どうやらこれは一本一本、木の棒を割って、溝を掘り、四角い芯を嵌めて接着しているようだ。
だから、一本がこのように太くなるのだろう。そんな事を考えていると工作長がやって来て、彼の寝床で荷台の方に案内される。
寝床は工作馬車の荷台のほうで、中は魔素道具のランプがあり結構明るい荷台である。工作長が言うには「色々と、この荷台には機能があって工作長が中に居る時は外に中の話し声がもれない仕組みになっていて、競争相手が聞き耳を当てても大丈夫なように工作長の自作の魔素道具が置いてある」と、言っていた。
だから、人目を気にしないように荷台の出口には中から木戸を閉めて「二人の空間だから安心して話をして欲しい」とも彼は言っていた。
「あの~、このエンピッツの件で、私が持っていた『ナイフ』あ、う、いや『小刀』がこれを削ろうとして折れまして、最初にこれを削る『小刀』を頂いて、これ専用の削る道具の案を持って来たのですが」
「ふむ、それはすまんかったのぉ~。ワシらの基準で作ってしまったから、頑丈に作りすぎてしまったのかもしれないなぁ~。代わりの小刀を小僧にくれてやる。それで案とは?」
彼はそう言って、刃渡り10cmも無いと思うがその小刀を鞘つきで渡してくれる。見た目は鍛造の普通の鉄製の小刀に見える。
「まず、これを削るので書くものを貰えないでしょうか」
そうすると、工作長は木の板を渡してくれる。そして、芯が折れたエンピッツを削り木の板に絵を書きながら説明を始める。
「え~とですね、こんな感じでエンピッツを中に挿入して外のこの薄い刃で削っていきます」
俺は手で削る鉛筆削りの絵を木の板に描いて説明をする。俺の居た所ではプラスチック製やアルミダイガスト製など色々な物があったが、ここではどうなるのかは分からない。
これぐらいなら鋳造して鑢なんかで削れば作れるだろう。鉋の変則的な物だし。あっ、手鉋使えばよかったかな?
「これを使えば『ナイフ』あ、う、『小刀』で削らなくてもすみます。それに、この『エンピッツ』は一本、一本作っていますよね?
私の居た所ではこれより薄い板二枚に、この芯が入るための溝を何本も堀って芯を入れまして、その後に二枚の板を接着乾燥させて後は、切り出して分けて作っていました。この方法だと格安に大量に作れますがどうでしょうか?」
「なるほど、その『エンピッツ削り器』とよべば良いか? それは良い考えじゃのぉ~。その件は分った。ふむ、後の話はそんな事だろうとは思っていたが、組合の工房にそのように話をしてみるかのぉ」
「ああ、そういえば。接着するのにひょっとして『ニカワ』あ、う『ニカワ』なんて使ってないですよね?」
「ああ、『ニカワ』を使っているぞ、確かこれも勇者から伝わっていて、ワシらも昔から使っていたがワシらの言葉で発音すると人族が発音できないからその『ニカワ』といえば皆に伝わるぞ」
ああ、やっぱり「ニカワ」しかないよね。「木工ボンド」があればいいけど。そういえばあれは何で出来ていたっけ? 分ってもここの技術じゃ無理かな? まあ、他にあれば『ニカワ』以外で接着してもらえば良いか。
「それより強力なものは無いですよね?」
「ああ、無くは無いが高価になってしまうからの~。まあ試作する奴次第かの」
「それと、その、なんていうか、もう少し細く出来ないでしょうか?
大体、『十ミリ』あ、う、『十メル』か、それ以下にならないでしょうか?
それに四角よりは丸か八角形になると多少は強度が上がると思います。それで、板の時に事前に芯の溝とは別に楔型の溝を外に掘っておけば、切り出す時も楽で、切り出したら八角形になるかと思います」
「ふむ、ワシらはこの太さだと心許無いが、別に人族用に作って貰うか。それでも大きいのか、それだと芯も細くしないといけないのぉ。ああ、分った。そういう事でまた試作品をつくらせてみるぞ」
彼はそういって、エンピッツを手にしてジロジロ見ていた。そして、改まった顔をしてこう切り出してくる。
「それと、小僧に特許の話をするぞ。一応、申請は出してあるが受理されるのに時間が掛かる。それで、万が一、受理されると報奨金なんじゃが今回は一から小僧が作った物じゃないから、金額は期待しないでくれよ。
その代わり、この物の名前を小僧がつけた『エンピッツ』と名付け商品名として登録したぞ。もしかすると、商工業組合の誰かの目に留まり権利を買ってくれるかも知れないぞ。だけど、その金額も大した事がないから期待したらだめじゃぞ」
やっぱりそうだよね~。簡単にお金がガッポガッポなんて行かないよね? しかし、幾ら位貰えるのか気になるな?
この前の魔素結晶の欠片の値段も彼は大した金額ではないといっていたが、大尉の話だと銀10枚で大体10万円の価値があるっていってた事を思い出す。
「はあ、そういうものなんですね。じゃあ期待しないで待ってます」
あっ、そうだ。閃いた。色鉛筆もついでに作れないかな? 写真もなさそうだし。こっちは、水彩画とか色付きの絵があるか分らないけど聞いてみるか?
あっ、確か。クレパスが蜜蝋だったかを使ってたよな? あれ、違う科学的な物だったかな?
「あの、それで。ちょっと思いついた事がありまして、そのエンピッツの芯ですが、黒鉛の変わりに『ガンリョウ』あ、う『染料』とか色をつけてみてはいかがでしょうか? 多分、他に何かを混ぜないといけないと思いますが‥‥‥。あ、『ロウ』あ、う、『ロウ』とかありますか?」
「ふむ、色違いのエンピッツか『ロウ』‥‥‥。ひょっとして虫が巣を作る時に。ああ~、何だったかな? なんていう虫じゃったかのぉ。確か、勇者の伝えた物の中にあったような。まあ、思い出したらでよかろう。それも工房に意見を出しておくぞ」
ああ、蜜蝋の事を行っているのかな? でも「ロウ」と、カタカナになってしまったから違うものかもしれないな。あっ、ゴムはあるか聞いて見るかな。
「話は変わりますが『ゴム』といって植物の樹液で出来て乾くと伸び縮みしまして、焼き固めると色々と便利な物に使える。そういった植物はないですか?」
「植物の樹液から取れるのか? う~ん、ワシは聞いたこと無いけど学院の図書館で調べると分かるかもしれんぞ。それも工房に聞いみるぞ。他には無いのか?」
やはり、無いのかな? 学院って何か分らんけど。そこに行かないと駄目なような気がするな。じゃあ最後のあれを聞いてみるか。
「はあ、後は紙の件なんですが。今は『ワ紙』を使ってますよね。あれの原料が高価で余り出回っていないとかで。私の国では、木材を粉々に砕いて薬品と一緒に高圧の蒸気で蒸して繊維を取り出して紙にしてまして。その薬品は私には良くわからないのですが‥‥‥。
ああ、その他に『ワラ』げ、あ、う。小麦なんかの茎や葉を『石灰』あ、う。その『石灰』と一緒に煮込んで柔らかくして繊維を細かくして『ワ紙』のように作った記憶が有ります」
確か、小学生の時になんかの実験で作った記憶を甦らせてみたが、不確かで余り記憶に無い。しかし、こっちの和紙の技術と組み合わせれば何とかなるでしょ。
「あの~『ワ紙』と同じように作れるはずなんですがどうでしょうね?」
「ああ、紙は今な。工房の方で研究している奴が居るがそれも話はしてみるが、余り期待しない方が良い。その、なんていうか。それを研究してる奴とワシは仲が悪くて。その、なんだ。競争相手っていうか、奴はワシよりその分野が専門での、ワシも中々聞きにくいのじゃ。だから期待しないでくれ」
なんか、困った顔でガルボルテ工作長が話してくる。が~ん、そんな~。じゃあ俺のお尻の安全が~‥‥‥。遠のいてしまった。じゃあわら半紙は自作するしかないのか?
「それでは紙の話は工房に通さないでここで研究しませんか? その、小麦の茎や葉を使った物はそんなに難しい物じゃないですし、工作長が手を貸してくださると直ぐ出来る気がしますよ」
「そうかのぉ~。だが、この中隊は移動する事が多いからのぉ。止まって作業する合間にその研究をしないといけないから大変じゃぞ?! それで良ければ。じゃが、気長にしてくれないとワシも困るぞ」
うう、地道にやるしかないのか。緑が多くなればそれらしいものを採取して集めるか?
「はあ、仕様がないですね。いろいろ無理を言ってすいませんでした。今の所はそのエンピッツ関連と『ゴム』の話でお願いします。それじゃあ、お手間を取らしてすいませんでした。今日はこれで終わりにします」
そして、エンピッツ改良計画を話し終わり、工作長の荷台から降り彼にお辞儀をしてその場から去る事にする。
外に出るとすっかり日が落ちて辺りは暗くなっていた。しかし、今日も2つの月明かりのお陰で足元が見えない事はない。明日も早いし早く寝ようかと思ったがトイレに寄って用を足し、この前の事を思い出す。
周囲を見渡し、誰も居ない事を確認する。誰も居ないようなので、例の魔素術の左手の動作をやってみる。しかし、相変わらず無反応っていうか、兆しも起こらない。
俺はちょっと考え込みハッとする。この前、ジョルジョネ大尉は俺の誕生属性の話をしたことを思い出す。俺は確か木の属性が誕生属性で、その他に土と水が使えると聞いていた。しかし、木の属性ってなんだ? 土と水は分かるが。はて、何なんだ? 意味が分からない。
仕様がないので、プイホンさんの真似をしてみるか。あれが使えれば水に困らないだろう。そう考えた俺はプイホンさんがやっていたようにイメージをして左手の動作をやってみる‥‥‥。無理でした。
やっぱり俺にはセンスが無いらしい。相変わらず、何かが手の平に集まる感覚はするのだが、それからがどうもいけない。
手を握って心臓の所に持ってくる前に握った手から何かが逃げる感覚がして上手く出来ない。魔素術の師匠とか探さないと駄目なんだろうか? まあ、追々ジョルジョネ大尉に聞いて教えてもらうか。
そう考え、眠気がしてきて欠伸が出て来る。自分の寝床に向かい、寝ることにしよう。そう思っていた俺は肝心な事を忘れていたと、いう事を思い出す。
お守り袋を交換して穴あきの革袋を交換しないといけない。そして、変わりに何かを入れて誤魔化さないと‥‥‥。荷台を覗くと誰もいないようなので自分の魔技箱を開け道具袋の中から同じ大きさの革袋を取り出し、とりあえず穴あきの革袋を中に入れ、足元の小石を入れて口紐を強く縛って事なきを得る。
まあ、手遅れかもしれないが気休めでいいや。
ようやく寝床に行ってサンダルを脱ぎ寝袋に入る。ああ、紙はガルボルテさんの専門外か、暫くはあのトウモロコシのような皮で我慢するしかないのか~。
鉛筆は良いとしても、消しゴムが無いと間違って消すのに困るな~。あ、そうだ。確か美術でデッサンの時にパンで消した記憶を思い出した。ああ、もったいないけど試してみるか?
横を見ると、薄っすらプイホンさんの寝顔が見える。ああ、可愛いな~、ナデナデしたい。そんなくだらない事を考えているといつの間にか眠ってしまう俺であった。
☆ ☆ ☆
「どうやら彼は寝たようね、やっぱり凄いわ! 後何回か検査してみた方が良いかもねジョルジョネ大尉?」
暗闇から姿を現して、もう一人に意見を求めるのはミリクナである。
「う~ん、そのようだね。ああ、後2、3日もすれば山道にはいり、森林地帯入にるからその後のほうが良いかもな。彼は木の属性だ、何らかの変化があるかもよ? そうすると、森林地帯に入る前に一回計測した方が良いかもな」
そんな事を話して、彼女に思案顔で答えて腕組をするのはジョルジョネ大尉であった。
そして、彼と彼女は指揮車の方に消えて行くのであった。
☆ ☆ ☆
そんな二人の会話に気が付かず、深い眠りに就く俺であった。
次話へつづく
次話は明日10/27の夜に投稿します。




