<1-19> 「ジョルジョネ大尉の日記」
最新の本文修正日は2014年10月31日です。
幸運のお守りであったはずの芋から出て来た魔素結晶の欠片が突然発熱して自分の胸の中に入った事に驚く俺ですが、その事をミリクナ医務長が怖くて事情を話せない。
だって、言えば絶対「お腹開いて見ましょうね~」と、言って解剖をされると思う。そんなの怖くて言える訳が無いよね?!
その後に話し声を耳にして、会議中の話を盗み聞きするも大した情報は得られなかった。そして、お約束の黒猫ちゃんが現れ、彼女の身体能力を見せられ危機にあうが何時も通りにメルディムさん助けられほっとする。
しかし、黒猫ちゃんと同様にミリクナさんにも脅され馬車に戻る。そして、何時ものように睡眠薬入りの薬を飲み眠りに就く俺であった。
目が覚めると、昨日と同じように馬車は既に動いていた。そう言えば、ここ2、3日熱にうなされ、薬を飲まされた俺は強制的にベットに拘束された結果、下着や上着なんかを着替えていない事に気が付く。そんな事を寝ながら考える。
そういえば昨日の会議で今日は馬車村に寄るはずで、夜には風呂ぐらいは入りたい‥‥‥。そんな事を考え何気なく上半身を起こすと、なぜか汚れているはずの俺のジンベという服が真新しい事に気付いてしまう。
あ~、どうやら下着も新しいようで、俺が薬で寝ている間に着せ替えられたようだ。また、何処かの看護婦か、違う見知らぬ女性年季奴隷に俺の裸を見られたようで、その証拠に俺の着ていたものの残骸が横に畳んで置いてある。
ふと、疑問が湧いて来る。そういえば洗濯袋は有るものの、肝心のそれを集める兆しはないよね?
何時集めるんだ? 馬車村は1日か2日しか止まらないようだし、そもそも誰が洗濯してくれんだ?
そういえば、プイホンさんは女性の年季奴隷が洗濯もしてくれると言ってたような気がする。ベンチで寝ていたミリクナ医務長も丁度起きて、俺に荷台の奥にある机から食事を運んでくる。
俺は先程の事が気になり食事をしながら彼女に聞いてみる。
「ミリクナ医務長、食事を何時もありがとうございます。それで、ちょっと気になることがありまして。あの~、洗濯物って、何時、誰が洗濯してくれるのでしょうね?」
「えっ? ああ、何時もは馬車村や村に寄った時に洗濯をしてるわよ。馬車村や町には大型魔素道具の湯沸かし器と洗濯装置、それに湯沸しの熱を利用した乾燥室があって、三つ時もあれば仕上がるわよ。洗濯物があれば確か洗濯袋に入れて宿泊所の受付に出せば翌朝には仕上がって部屋に持ってきてくれるわ」
「そうなんですか! ああ、知らなかった。ありがとうございます。ひょっとして常識ですか?」
「確か、奴隷契約書と一緒に貰える説明書に書いてあるわ」
が~ん、そんなの見落としていた。後で確認しよう。俺はミリクナさんにお礼を言って食事を平らげて、薬を飲む前に確認をしてしまう。
「あの~、この薬飲んじゃったら今日はもしかして寝たままここに放置とかないですよね? 確か今日は馬車村に着きますよね? そろそろ洗濯物がたまって洗濯しないと着替えが無いのですが。それに色々とやりたい事がありまして。その~、風呂に入りたいと、思いまして~‥‥‥」
「そうね~。でも、風呂は必要ないと思うけど。さっき、皆で貴方の体を拭いたし、洗濯は予備のジンベがあるから大丈夫!! さあ、心置きなくそれを飲んでお眠りなさい!!」
え~~~~~~っ、裸にされ、挙句に体まで拭かれたの? ああ、未婚の女性で体を見られたらお嫁のいけないとか言ってる台詞があるけど、俺も言って良いでしょうか「お婿に行けない~」と。そんなあほな言葉をあろう事か口に出してしまう。
「‥‥‥。大丈夫、皆が喜んでいたし『久々に可愛いもの見て元気を貰った』と、言っていたから気にする事ないよ!! ああ、皆って言っても五人位だし、色々触ったりしてないから気にしないでね。何かお守りのような大事な物も触ったりしてないし安心して良いわ」
「あ、俺のお守り見ちゃいました?」
「いえ、私は貴方の裸は見てないし、多分首にかけたまま誰も触ってないと思うけど。それが何か?」
「いや~、それならいいです。あははは、俺の裸を五人もの人に見られちゃったんですか。そういえばこの間、この首輪をしたままお風呂にはいちゃったのですが問題ないですよね?」
「ふ~ん‥‥‥。ええ、問題ないですよ。だって汗もかくし、雨に当たる事もあるでしょうから、その事を考えて作られた物と聞いてますよ。今だって、別におかしくないでしょ、普通に会話してるでしょう?」
「あっ、そういえばそうですね~。あははは」
そんな乾いた声で俺は話をごまかしてしまう。これ以上粘っても、ボロが出そうなので覚悟して薬を飲み横になって寝てしまう俺であった。
☆ ☆ ☆
リョウジを乗せた料理馬車とその一行は夕方を過ぎ、日が落ちてから次の馬車村に着いた。そして、1号車の年季奴隷達の手によって、リョウジはここの宿泊施設に運ばれ、この前と同じような三段ベットの一番下に寝かされていた。
ジョルジョネ大尉は馬車村に着いてから諸手続きを終わらして、今日の宿泊所の一室で報告書の整理や頼んだ物の一覧表を見てほくそ笑んでいた。そして、何時もの日課の自分の日記を開き、捲りながら考え事をする。
「俺はスペンサー・ガリル・ジョルジョネ少尉だ。この中隊の主計長をしている宜しく頼む。君も士官学校を三年で卒業したようだね。なかなか優秀だと聞いているよ、え~と、アンジス・ガリル・アミュネス少尉候補生?
父上殿はアンジス伯爵閣下だよね? ガリルの貴族姓も付いてるし‥‥‥」
「うちの父上をご存知で?
‥‥‥。スペンサーって家名は聞いた事がありませんわ。新家ですの?
‥‥‥。え~、父上と私は関係有りませんので、伯爵家は持ち出さないでください!
一応武術は槍を少々嗜む程度で士官学校では主計科も専行してました。以上、配属の着任許可を宜しくお願いします!」
あ~、あの頃は初々しかったなアミュは、確かあの時は18歳だったよな~。俺は28で、丁度二回目の奴隷旅団所属中隊で五年の巡回が終わって王都に帰還した時だ。いや、三回目の出発式の前の日か。
この時、俺は新しく発足した奴隷旅団の中隊で副隊長兼主計長に任命されたけど、少しは楽が出来ると思っていたのにな~‥‥‥。あ~、あの時は主計科を専攻したって言っていたのに‥‥‥。詐欺だよな。
「私は主計科専攻しましたが計算は苦手ですの!」と、自慢げに言い放ったよな~。あれでよく三年で卒業できたよな? 俺の時の主計科っていったら計算出来ないと、単位貰えなかったはずだがな~‥‥‥。
そんな事を呟きページを捲るジョルジョネ大尉は羊皮紙製の本を捲るのを一旦休めて昔を思い出していた。ジョルジョネ大尉は豆に自分の日記をつけているようで、再び考え始める。
そういえば、リョウジは時々鋭い質問や指摘をしてくる事がある。平静を装う努力をするのだが、突然驚くような質問で俺の素顔が出てしまう。何時もニコニコして誤魔化しているのに、困った奴だ。
そして、日記のページを捲り昔をちょっと思い出す。
三回目の奴隷旅団中隊の五年の巡回が終わって王都に着いた時「あ~、この偽主計補佐とも、お別れなんだな~」と、感傷的になっていた。報告書を纏めザルツベ大佐。ああ、当時は中佐だったかな‥‥‥。
「おめでとう~、君には特別な仕事を用意した! あと、君の頭痛の種の問題を俺が解決できるように手を打っている途中だから、心置きなく三年程この実験中隊の隊長の任務に就いてくれ!」
「えっ? 隊長って中尉か大尉に昇進しないと、なれませんよね?」
「命令書と作戦資料を読みたまえ! それに中隊規模が書いてある。今回は60名で何時もの半分だが装備の馬車が試作品と試作量産品だ。君はこれら馬車の試験運用と耐久試験を行うのだ。また、様々な装備の試験も一緒に行って日々報告をする任務だ!
多少壊しても良いが全損だけはするなよ! 3年試験して実験資料として現物を必ず王都へ持ち帰ってくれ!」
「あの、作戦の中身は飲み込めましたが。その~、私の頭痛の種って奴らの事ですか? 別に構わないのに‥‥‥。あれ? この主計長の名前は間違いではないですか?」
「ああ、今の時期、実験部隊を任せるような尉官が居なくてね。彼女も昇進させて君に付けるよ。どう? 彼女は自由恋愛したくて軍人になったそうだ。確か許婚を打ち負かして結婚を蹴ったそうだ。君にお似合いだ! 後はその作戦資料を読んで明後日の出発に備えてくれ。では下がってよろしい」
その場は反論できなかったが「え~、彼女、俺の事嫌ってますよ中佐~‥‥‥」と、心の中で囁いた。それが目的だったのかな?
一応実験中隊の隊長かあ、手当て増えるのかな? 明後日出発とか、俺の一月の休暇は無しか‥‥‥。トホホ。
そんな事を思い出し「この頃も一緒なんだけど。相変わらず冷たいよね~、アミュは」と呟きながら日記を捲って行く。丁度、今の中隊に配属になった頃の記述をみてニヤニヤするジョルジョネ大尉。
「良く間に合って帰ってきた。また、休暇はお預けになったな!
しかし、昇進だ!! おめでとう、君の頭痛の種は処分された!
偉い方は没落して家が廃絶、下っ端の奴らは地方の守備隊で左遷扱いだ。奴らが片付いたので、君の大尉への昇進を邪魔する者は居なくなった」
当時、俺は実験中隊を率いて大陸を巡回していた。突然帰還命令が届き、慌てて王都に帰って来たのだ。訳を聞けば大尉の昇進と今の王国歴1548年の秋下月20日荷発足した奴隷旅団所属、548期西方第秋70中隊の中隊長への任命であった。
頭痛の種のあいつ等は、確か18の時。士官学校を3年で卒業して近衛師団の儀仗兵にならないかと誘われ、名前は思い出したくないが近衛師団の将校で伯爵の推薦を貰って儀仗隊に入隊した。
色々有って3ヶ月で転属願いを出したのが悪かった。その事で伯爵様の面子を潰した事になり今まで昇進の邪魔をされ少尉止まりであったのだ。
ザルツベ大佐が手を打ってくれたお陰で。ああ、何をしたかは聞けなかったが、何したんだあの親父? あの親父のお陰で大尉に昇進。中隊長になれたが、おせっかい親父がニコニコしながら言っていたな‥‥‥。
「今回もアミュネス少尉を付けといたからな!」
そんな事を言われて頭を書いた事を思い出す。その後貰った命令書で新しい中隊の編成を確認すると、殆ど実験中隊の馬車と人員が同じであった。追加されたのは、また新しい試作馬車と年季奴隷という名の傭兵達60名であった。
次の日、作戦書類を読みながら急いで待機場所の馬車村へ急行し、途中で料理馬車の冷凍冷蔵庫は壊れるわ、補給物資は足りないわでひと悶着あった。
到着した村の近郊で新しく入った傭兵達と実験中隊で一緒だった傭兵達を合わせて守備の訓練を行う。
斥候兵の連絡を受けて、命令で日にちを空けて様子を見てから現場に向かい、リョウジを拾ったのはいいが半分死にかけていたよな~。
それに貰った資料とは全然違った風貌であった。先の報告で安全の為に3箇所に枷を取付けたがちょっとやり過ぎた感じがしたが同じ命令であった。
あとは、始め土猫族の少年は何の為に使うんだと思っていたがリョウジが興味を持ってくれて助かった。まるでうちのアミュのような奴だよな。まあ確かに可愛いが毛が付くし、俺は狼のボグフムの方が可愛いと思うのだがメルディムには言えない事だ。
そういえばメルディムも長いよな~。俺が18の時転属願いを却下されザルツベ大佐に拾って貰い、転属が適い大佐。ああ、あの時は少佐だったかな。少佐に拾われ奴隷旅団所属中隊に配属して貰って、中隊に行ったら護衛の傭兵に居たから‥‥‥。17年か~、長いな。いい加減諦めてほしいのだが。
幾ら、婿探しだからって、人族の俺は勘弁してほしい。あっちは伝説級の長生きで、俺は彼女にとって一っ時の連れ合いにしかなれないのに‥‥‥。
「同族で探せよ!」
最後にそう呟くと、またページを捲り最近の事を回想する。
リョウジの観察では彼は結構計算が速く算盤の扱いも上手い。最初はヒノモトから来たというから武人が来たと喜んでしまったが、話しを聞いて失望したのは彼に失礼であった。
数学は俺より出来るかも知れない。報告書と彼が計算した物、メモに書いた木の板は全部本部へ送った。向うでどう判断するかは俺には分からないが、悪い評価はしないだろう。
一時期リョウジが倒れ、焦ったが彼の病状を聞いて驚いた。しかし、彼はここの人間ではない、油断は出来ない事を改めて思い知らされた。
明日も体を休めさせて明後日の出発に備えさせよう。そして、中隊の馬車も完全に治るようだし、足の心配は無くなった。これでまた多少無理をしても大丈夫であろう。
そんな事を考えるジョルジョネ大尉は、今日の報告の事やリョウジの様子などを日記に記入して日記を閉じる。そして、表紙に書いてある魔素陣を発動させ、保存と他者が見れないように封印をする。
徐に真新しい分厚い何もかかれてない本を出して、彼になんて理由をつけてこれを渡すか思案を始める‥‥‥。何か閃いたようで、またほくそ笑みニタニタして理由を考え付いたようだ。
最後に遅めの食事をして、個室に付いている風呂に入り、就寝するジョルジョネ大尉であった。
☆ ☆ ☆
そんな事とは知らない俺は次の日の朝、目が覚め今の状態に困惑してしまう。
あ~、ここは何処だ? 見た事ある部屋のようだが。あっ、馬車町の宿泊施設か。で、今はどれぐらいの時間であろうか? 気になり体を起こすと上のベットの床に頭を打ってしまう。
頭を抑えながら床に立つと、ドアの所に張ってある羊皮紙に目が行く。この前と同じような配置の建物のようでここも平屋建ての建物らしい。
色々見てると、購買所に目が行ってしまう。洗濯は予備があるから心配するなとか言ってたけど、やっぱり購買所だよね? 奴隷銅貨は無いけど、品物が分れば張合いが出るからね~。よし、見に行ってみよう。
ドアをそ~っとあけると隙間から白い壁が聳え立っていた。俺は慌ててドアを閉めベットに入る。すると、ドアが静かに開きミリクナ医務長が入ってくるではないか。つい彼女を見てしまい、目が合ってしまう。
「あれ~、リョウジさんは何処に行くつもりでしたの? そろそろ起きるかもと思って食事を運んで来て見れば、ドアが独りでに開くし、私はこんな魔素術使える覚えないけどな~」
「いや~、『トイレ』あ、う、じゃ無くて便所に行こうと思いまして!」
「それでしたら、堂々と行ってきても良いのに。なんで、ドアを閉めてベットに入って寝てるのかしら?」
「いや~、それはですね~。誠に『イカンに』あ、う、いや出来心でして、その『ビックリ』あ、う、いや驚きましてね。その、あの、大人しくその食事を食べて薬を飲みます」
「何か分らない事を言ってるようですが素直にしてれば、別に骨の一本ぐらいで勘弁しますよ。ああ、直ぐ直してあげますけどね。では、ゆっくり噛んでお食事してくださいね。その後、私がお便所に付き添い、薬を飲んだ事を確認して寝かせますわ」
「はい、その通りに致します」
あ~、やっぱりこの人恐ろしいよ~。本当にドジッ娘なのか?
大人しく食事を平らげる。当然、何を食べたか記憶に無いし味も覚えていない。
その後は本当にトイレまで付いて来て、最後に俺が薬を飲むのを確認して部屋を出て行ってしまう。
まあ、そのお陰で体調が良くなってきた事だし、熱も下がってダルさは無い。明日からまた働けそうな気もするけど働かせてくれるのか?
そんな事を考えていると薬が効いてきたようで眠くなり寝てしまう俺であった。
次話へつづく
次話は10/24の夜に投稿します。




