<1-18> 「年季奴隷で療養生活 (後編)」
最新の本文修正日は2014年10月30日です。
獣人達の新たな一面を見れて一喜一憂する俺ですが、プイホンさんは幼い頃から社会に出た為に生き抜く知恵もあるようで、見事危機を脱したかに思われた。
しかし、やっぱり付け焼刃だったようで、恐ろしい身体能力の森狼種のボグフムさんには通じず、見事看破されました。俺は彼女がいつの間にかに俺の背後に回ったのが分らず、別の意味で恐怖してしまう。
白衣のドジッ娘と思っていたミリクナさんだが、彼女にもとても恐ろしい一面を見せられ、ビビる俺です。
しかし、脅迫する彼女が素かと思ってしまったがやっぱりドジッ娘だったらしい、俺の薬といって持って来た木のジョッキには蠢くミミズの姿が!
俺にマジでこれを飲ますかと一瞬思ったが、どうやら彼女は素で間違えたらしい。やはり彼女はドジッ娘属性を持った女の子なのか? 態とやっているのか分らなくなる俺であった。
多分、夜中だと思うが急に胸の辺りがとても熱くなり、焦げ臭い匂いがして目が覚め、慌てて服を捲りながら飛び起きる。
俺は誰かに焼き鏝でも当てられたかと思い周りを見渡すが誰もいない。周りが暗く良く見えないので月明かりに照らす為に荷台の出入り口に行き、服を捲り熱くなった所を見てみる。
すると、例の「魔素結晶の欠片」が薄く赤く光りながら俺の皮膚の中にめり込んで行くではないか。俺は慌ててそれを取ろうと試みるがそれは段々中に入っていき、仕舞には皮膚が再生して表面上見えなくなってしまう。
意味が分らない。
これって俺が見つけた「魔素結晶の欠片」だよね?
首にぶら下げていた革袋を取り出し月明かりに照らして見ると、焦げた跡があり小さい穴が開いている。
何が起きたか大体理解できたが、これって体内に入って大丈夫なの?
不安になるが今の俺の胸には傷一つ無く、火傷の痕さえなかった。
俺はこの件に関して非常に迷ってしまう。正直に話して取り出して貰うか、黙っているか‥‥‥。暫く考え、ひょっとして首輪の魔素結晶の欠片と反応して俺の体に入ったのか? いや、そうじゃないよね? だって大尉は具合が悪くなるって言ってたし。
あ、ひょっとしてこれが原因で熱が出たのか? ‥‥‥。分らない。
いったい俺の体に何が起きたのだろうか。やはり、正直に言うべきか?
‥‥‥。ミリクナ医務長が喜んで「お腹開きましょうね~」って、言ってきそうで怖い。やっぱり黙ってた方がよさそうだ。
しかし、次から次へと災難ばかり起きているようで、幸運のお守りの御利益はなさそうだ。もう一度さっきの場所に指を当ててみたが、シコリがあるかと思ったがその皮膚のもっと奥に潜り込んだようで、指で押してもその痕跡は分らなかった。
そんな事に首を傾げながら、俺は便所に用を足しに行く。用を足し終わり周囲を見回して誰も居ない事を確認してから、何となく例の魔素術の左手の動作をやってみる。
先ずは左手を開き天に上げ何かをつかむイメージをしながら手を握る。そして、心臓辺りに握った拳を持ってきて荒野の何も無い所に向き、最初に見たジョルジョネ大尉がやったような火球が出るイメージを思い浮かべながら手の平を突き出し開く‥‥‥。
自分で完璧に出来たと思っていたが、結果的に何も興らなかった。
俺はため息をして、その場を離れ寝床に向う。やっぱり俺には魔素術のセンスは無いようで、先程の魔素結晶の欠片が体内に取り込まれたので、もしかしてと思ってやってみたがどうやら駄目らしいと諦める。
だけど「何かが手の平に集まる感覚はあったよな~」と、呟きながら料理馬車に向って歩き、荷台に上がり寝床に座る。座った所で色々考えるが、結局何も分からず。
仕方なく履いていたサンダルを脱ぐと、寝転がり寝袋に入って寝てしまう俺であった。
☆ ☆ ☆
先程の便所の前でリョウジが魔素術の動作をしていた姿を見ていた者が居た。その人物はその時息を呑んでいた。
その人物はミリクナで、彼女はその時周囲の魔素が異様にリョウジに集まる感覚がして、恐怖を覚えてしまう。あれが圧縮して放出した事を考えると、それを考えただけで寒気を覚えたようだ。
しかし、実際はあれだけ集まった魔素は圧縮はされずに、なぜか手を握った時に霧散してしまった。その様子に原因は分っているとミリクナは呟く。
「リョウジは魔素力三要素の内、最初の集の力が計測不能で、次の圧縮力が極端に小さい。この前測った数値はこの大陸の人族の平均以下であり、同じように放出力も同様だからね!」
ため息をして、暗がりから出て来たミリクナはもう一人暗がりに居たジョルジョネ大尉に声を掛ける。
「今のをご覧になりました? 私は寒気がしましたわ。前にもこんな事が有りましたが、これ程なものは見た事はありませんね。大尉はご存知で?」
「ああ、あれ程となると一人見たな。しかし、あれよりは劣るがもう一人知っているよ。劣った方は君は知っていると思うが、それでもこの俺でさえ足元に及ばないがな。前者は軍機でどうしても君には話せないけど、俺達がこれから向う所に居るとだけ言えば分るよな?」
「それって、あれですよね。ふ~ん、大尉は会った事があるんですね。あっ、だから今回選ばれたのか。あの方の知り合いなんか皆無ですからね。しかし、今回の事で私は迷っています。報告するかどうかなんですが、大尉はどうします?」
「あ~~~、どうしよ~。まだ不確かだしな~。彼もまだ本調子じゃないし、何回かやった所を見ないとな。今のは偶然かもしれないし、今回は報告しないけど君もそうした方がいいと思うぞ。上の方が勝手に喜んで勇み足になるかもな」
「じゃあ、私の方も確定したら報告します。お互い連携した方が良いですものね、そうしましょうね。じゃあ、私は指揮車のほうに戻ります。『メルディムさん』もそこに隠れていないで、話に参加すればよかったのに」
そう言い残して、ミリクナは指揮車の方に消えていってしまう。
それを聞いて驚いたメルディムは馬車の陰から姿を現す。
「気配を殺したのだけど‥‥‥。あのお嬢さんには効かないようね? ジョネ~、あの子出来るわ!」
そんな事を言うと、ジョルジョネ大尉に唐突にウインクをして彼女も何処かに消えていってしまう。
一人残されたジョルジョネ大尉はため息を付いてしまう。
「あ~、なんで俺なんだろ。本当なら今頃は弟と妹の三人で一月の休暇を楽しんでいたのに」
そんな独り言を呟いて、彼も指揮車の方に消えた行ってしまうのであった。
☆ ☆ ☆
突然、荷台が揺れて俺の体も揺れたようで目が覚める。どうやら、馬車が移動をしているらしい。昨日とは打って変わって体のダルさが取れた感じがする。
目を開け外の様子を見ようと上半身を起こすと、外の空から明るい日差しが荷台の後部から見える。横を見ると荷台のベンチに座り、壁に寄りかかりよだれをたらして寝ているミリクナ医務長を発見してしまう。
寝顔は普通の少女で何処にでもいるような感じだ。白人系の顔立ちで頭は茶色のショートボブ。今日も大きめな白衣を着ていて、袖が長いのか指先しか見えていない。
白衣の丈も大人用なのか足首付近まで長く、白衣の足元付近がはだけて見えた。足元は素足ではなく革のロングブーツを履いているようで白い肌は見えなかった。しかし、身長の補正の為のハイヒールではなく踵が少し低い普通の靴のような高さであった。
これで、眼鏡なんかを掛けていたら完璧な気がするな? しかし、足の付け根が見えそうで見えない。
「黒の短パンかスカートを履いて黒の下着を付けているのかな?」と、その俺のスケベな視線に気付いたかの如く、急に目をパチリと開け茶色い瞳が俺の顔を見る。
いきなり目を開けられた為、呆けた俺の顔を見られたかも知れない。俺は慌てて、視線を外し外の風景を見る。
「あら、目が覚めたのリョウジ」
そう言いながら彼女は俺のおでこに手を当て、熱を見る仕草をする。
「お熱は下がったようね。だけど、今日と明日はここで大人しく寝ていなさいね! 治りかけが一番危険なんだからね!」
ミリクナ医務長は少しきつい口調で言い、立ち上がって後ろの机に置いてあったと思われるお盆にのせた食事を持ってきてくれる。
俺は、今日の木のジョッキの中身を見て安堵する。昨晩はモロに蠢いた物を見た為、用心していたが今日は大丈夫のようだ。
粥のようなスープは冷めていたが、腹が減っていた俺には関係ない。お盆に乗った別のジョッキの水を一口飲んで喉を潤す。いざ、スープを食べようとスプーンを探したが‥‥‥。あ~、やっぱりこの娘は素なようだ。天然なのか?
「あの~『スプーン』。あ、う、『匙』はありませんか? お盆に載っていなかったので」
「へっ? 『スプン』? ああ、『匙』ね‥‥‥。あれ~、ここにあったはず‥‥‥。あれ~、ないわ? ‥‥‥。あいつの道具箱に入ってないかしら? ‥‥‥。あった。まあ、洗えば良いわ。ちょっとまってね~」
彼女は荷台後部に行き外に向って、素早く左手で魔素術の動作を行う。すると、空中にソフトボール大の水の玉を浮かせ、その中に匙を突っ込み全部中に入れてしまう。
次に、その水玉を掴んでシェイカーのように振り、何回か振り終わると水の玉が弾け木製の匙だけを手で掴むミリクナさん、水は外に落ちたようだ。それを俺に渡して「はい、どうぞ」と、言って横のベンチに座ってしまう。
俺はその様子に呆けた顔で木製の匙を受取り、心の中で「ここは異世界、ここは異世界」と、呪文を唱える。
そして「何で水の玉を掴めるんだ?」と、いう疑問が浮かぶ。しかし、この前の石切り場の事を思い出し一人納得してしまい、出された物を平らげる。最後に例の薬を飲むと、また眠気に襲われベットに横になって寝てしまったが、これって睡眠薬入りだよね?
どれくらい時間が経ったのか分らないが料理馬車が止まり、周りの賑やかな音で馬車が野営地に着いた事は分ったが起き上がる事はできなかった。やがて、周りが暗くなり薬が切れたのか、目を明け起き上がる事が出来た。
すると、空腹感よりもトイレに行きたくなる衝動が強くなり、急いでサンダルを履き荷台から降りる。外の仮設便所に駆け込み用を足して外に出ると、複数の話している声が聞えてくる。
その声のほうに足を運ぶと、どうやら俺が尋問された大きなテントらしい。忍び足でゆっくり近付き、聞き耳を立て話を聞く事にする。
☆ ☆ ☆
会議は何時ものように皆の夕食が終わり次第行われていた。そう、中隊の運用主要人物による会議である。主な議題は明日の馬車村での補給の話と現状の問題点の話合いであった。
何時ものように司会をするジョルジョネ大尉が話しを始める。
「え~、今日の議題は、明日の馬車村での補給の話です。先の馬車村で馬車の応急処置をしましたが、まだ完全に直っていなかったり、交換部品が無くて修理できなかった物。修理不能で修理できなかった物が次の馬車村の魔技箱によって、送られているそうです。
頼まれていた荷馬車の車軸や、料理馬車の新しい冷凍庫型魔技箱の交換品が届いているそうです。工作長、修理にどれくらい掛かるでしょうか?」
「そうじゃの~、皆でやって半日もやれば終わるじゃろ。車軸の交換が一番面度だ、どれも特製馬車だからの」
「そうですか~‥‥‥」
次の議題に話を進めようとしていたジョルジョネ大尉の目線がミリクナ医務長に向いた。彼女が先に気付いたようで、会議の最初の方はぼ~っと、していた彼女が突然会議用天幕の外の方に視線を動かし、ジョルジョネ大尉が気が付くようにわざと眠りこけたようにテーブルに頭を打つ。
注目を集め起き上がった彼女はジョルジョネ大尉に目線で合図を送ったようだ。大尉も気付いていたようで素早くテーブルの試し書き用の木の板に伝言を書いてミリクナのほうに向ってテーブルの上で滑らして渡す。
内容は「大した事は話さない会議なので、外のリョウジに聞かれても大丈夫」と書いてあり、それを見たミリクナは「寝てしまってすいません」と、謝り皆の嘲笑を受ける。
「医務長、大事な話をしていますので寝ちゃ駄目ですよ」
その様子に気付かないアミュネス少尉は隣のミリクナに注意する。
外のリョウジに気付いたのはジョルジョネ大尉とメルディム、それにミリクナだけであったようだ。
会議は続く。外のリョウジは一旦話し声が聞えなくなって不振に思ったようだが「ゴン」と、何かの音が聞え、笑い声の後のアミュネス少尉の声を聞いたようだ。
その声でミリクナが会議中に居眠りをして頭を打ったのかと、一人納得して噴出しそうになり慌てて口を手で押さえていた。そして、また聞き耳を立てだすリョウジであった。
「あ~、なんでしたか。ああ、そうそう。それで冷凍庫型魔技箱の交換なんですが、また試作らしく安定しないようです。今、各中隊用の量産品の生産を急いでいるそうですが。多分、半年は掛かるようです。なので、余り長い間冷凍しないでこまめに中のものを使う事をお勧めします料理長。
後は、次の馬車村を過ぎて五日程すると荒野を一旦抜け山岳部を通過する予定です。そろそろ、いい加減荒野はあきたでしょ~。緑が見えてくると思いますよ皆さん。では、他に何もなさそうなので終わりますが、何かありますか?
じゃあ、何もないようなので多分‥‥‥。あ、そうそう、熱病の彼は皆にはうつらない病気なので安心してください。その彼もどうやら熱が下がり元気になったようですよ!!」
最後の部分だけより大きい声で話すジョルジョネ大尉はチラッとミリクナを見て目で合図するのであった。
☆ ☆ ☆
最後に大きい声で聞えたジョルジョネ大尉の声に、外で聞いてた俺はその声に驚き後ずさる。周囲を見回し、そそくさとその場を離れようとして振り向くと、少し離れた所で尻尾をゆらゆらと揺らしながら獲物を狙う猫のような感じで俺を襲う準備をしていたクワビムさんと目が合ってしまう。
「あ~あ、見ちゃったわ~、盗み聞きする所を! とうとう尻尾を出したわね、おまえの目的は何? もしかして、姫様か? 姫様は私だけのものよ! 覚悟するがいい!!」
そう言いながら、にじり寄ってくるクワビムさんは、右手を腰のナイフの柄に掛けて今にも抜こうとしている。
俺は「またかよ」と思ったが、あの可愛い仕草を覚えていたので今回のクワビムさんは怖くない。俺は彼女の後ろを見て「あ、ボグフムさん!」と、嘘を言って、彼女の気が散るのを見計らい退避する準備をする。
「えっ? 姉さん?」
クワビムさんは一瞬怯んで周りをキョロキョロする。俺は彼女の後ろの方に走って逃げ出したが、周りを見てボグフムさんが居ない事に気が付き、軽くジャンプして俺の前に回り込んでくる。
あちゃ~、この人の事、獣人って忘れていた。身体能力はきっと遥かに人族よりあるよね?
「何処にもいないじゃないか!! よくもあたいを騙した‥‥‥」
そう言い終わらない内に、彼女の後ろに人影が現れ、黒猫ちゃんの頭の上から拳骨が「ゴツン」と、音を立る。「フギャ」と、言った黒猫ちゃんが頭を抑えながら後ろを見て、耳が垂れ尻尾が先程と逆に下がり始める。
「あら、黒ちゃんは何をやっているのかしら? 確か、私はお仕事頼んでいたわよね? もしかして忘れちゃった?」
彼女の後ろから現れた人物を見ると、メルディムさんである。
メルディムさんは困った顔をしながら、黒猫ちゃんの首根っこを掴む。
「リョウジ~、毎回ごめんね~。この馬鹿には言ってあるけど、三歩歩いたら忘れちゃうのよ~。この猫は!」
そう言って、クワビムさんの首根っこを掴んで引きずっていき、暗闇に消えていってしまう。俺はため息を付き、馬車に戻るために歩こうとすると、今度は聞き覚えのある声がする。
「あら~、貴方はここで何をやっているのかしら? ここにも三歩、歩いたら忘れる男が居るのかしら?」
そんな事を言って近付いてくる人影が現れる。
「いや~、便所に来たらクワビムさんに会いまして~」
言い訳を言うと、人影の顔が月の光に照らされる。その顔を確認すると、ミリクナ医務長に回れ右して料理馬車の方へ走り出してしまう俺であった。
息を切らして料理馬車の荷台に近寄る。すると、料理長補佐のカルさんが荷台の奥の机に何かを持って行ったようで灯りが灯る。俺は少し後ずさり、小声で彼女に声を掛ける。
「カルさん。今そこに、私。リョウジが行っても良いでしょうか?」
声を掛けられたカルさんは少し驚いたが、今回は毒物テロは起こさなくて済んだようで、こちらを振り返る。
「お、お、お食事とお薬と水を、お、お持ちしました」
カルさんはそう言って、そそくさと荷台から降りて何処かに消えて行ってしまう。
俺は荷台に上がり奥の机の方に行き、机の上に置いてある料理を確認する。すると、今日はシチューのようで、スープが白くて具が大きいものがゴロゴロしていた。
お盆にあったスプーンで中を確認すると芋や人参? その赤くてそんな感じがした物と肉らしい塊を発見すると、喜んで口に運ぶ。
あ~、シチューだと思っていたのは間違いで、これは豚骨ラーメンのスープだ!
あ~、ここに麺を入れたい!
無い物は仕方なく、二切れのパンを浸しそれを綺麗に平らげて「この世界には麺も無いのか?」と、独り言を呟いてしまう。
あ~、ラーメン食べたい。俺が何時も行くとんこつ系で、細麺のラーメンが食べたい‥‥‥。麺か~、あれって材料なんだろ? 小麦粉と、卵。それにかん水だったかな?
あ、かん水ってなんだ? あ~、料理の勉強もしとけばよかった。
あの時は現場の事務所に寝泊りしていて米を炊いて自炊してたけど、オカズはコンビニだったりで大した物は作らなかった事を後悔する。
そんな事を考えると白い米が食いたくなってきて、卵かけご飯を食いたくなってくる。ここには米は無いのかな? ヒノモトから来た勇者さんは伝えてないのかな?
今度、ギムネーヤ料理長に聞いて見るか、それともカルさんは知っているかな?
等と、そんなあほな事で悩んでいた俺は暫く悶えたが、やがて諦めると木のジョッキに入った薬を飲んで大人しく寝てしまうのであった。
☆ ☆ ☆
リョウジがいなくなった後の会議用天幕ではジョルジョネ大尉とガルボルテ工作長の二人だけで残って話をしていたようだ。
「そういえば、この前の話どうなったんじゃ大尉?」
「へっ? ああ、特許の話か? ああ、それは基本は武器に関するものは奴隷組合を通してそれ以外の道具に関する事は、商工業組合に任せるといっていたが。
その道具を作る過程で武器に転用できる物があると困るので、結局は奴隷組合を通して商業組合に通知するそうだ。
結局奴隷組合の許可を貰ってから特許の申請をしてくれって事だが、リョウジが言ってた『エンピッツ』と、いう物は筆記用具だし、問題なく商工業組合に申請を出してかまわないそうだ」
「ふ~ん、良くわからんが、結局大尉に話を通せばいいのか?」
「ああ、そういう事だが、試作品を作る場合は工作長が直接作るか、俺の許可を得て商工業組合で作って貰う事になる」
「あ、その『エンピッツ』は、ワシが作ったのではないぞ。もう依頼してしまって纏まった物は多分次の馬車村に届いていると思うがの。
何せ、移設型魔技箱はワシらが移動しているから相手から直接馬車の方には送れないし、連絡はこちらから試作依頼は出せるが時間差があるからの。
それは『手紙バトゥー』で、一本だけ届いた物だ。あれは本人が移動しようが関係なくこちらを探してくるからのぉ。会議の前に俺宛の手紙の中に入っていた」
そういってジョルジョネ大尉に彼等が作った四角い木の中に黒い芯が入っている先を削った『エンピッツ』の試作品を手渡して見せるガルボルテ工作長であった。
ジョルジョネ大尉は自分の試し書き用の木の板に、その渡された『エンピッツ』を使い、色々と文字を書きながら話す。
「ああ、結構滑らかに書けるね。俺の知ってる奴と違うようだが。確かあれは『鉛』と『錫』を芯に使ってたよね?」
「ああ、そうじゃ。あれは厚手の革や金属を罫描く時に使うからな。基本文字は書かない。文字を書く時は筆で書くからのぉ。
しかし、それは革や木の板より、勇者が伝えてくれた『ワ紙』の方が書きやすいように思えるのじゃが」
「ああ、そうですね。あれの方が書きやすいかも‥‥‥。これって量産して売る事が出来るのですか?」
「ああ、最初は結構四苦八苦したそうだが、偶然陶器の実験工房で良い粘土を見つけたそうで、すんなり旨く行ったそうだ。後は『黒鉛』なんだが、その使い道が分らなかった物が取れる『黒鉛』鉱床を放棄していた所が何箇所か在っての、鉱山を再開して大量に取れれば安くなるそうだ」
「じゃあ、時機に俺でも買えるようになるな。そんなところで後は良いかな?」
「後は何もないのぅ」
返事をしたガルボルテに何かを呟くジョルジョネ大尉。
「あっ、そうだ。良い事、思いついた」
そんな言葉を呟いてジョルジョネ大尉はほくそ笑む。そのいやらしい笑みを不振に思うガルボルテは首をかしげその場から去ってい行く。
そうして、この日の会議は終わりジョルジョネ大尉は、早速報告書を書く為に自分の指揮車に戻るのであった。
☆ ☆ ☆
そんなジョルジョネ大尉の新たな悪巧みの事など知らないで、深い眠りに就く俺であった。
次話へつづく
次話は10/22の夜に投稿します。




