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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第1章 異世界で迷ったら奴隷になった 》 
16/229

<1-15> 「年季奴隷が病気?  (後編)」

最新の本文修正日は2014年10月22日です。

 こっちの世界に来てから災難ばかり会う俺ですが「その度に命は助かっているのだから問題ないでしょ」と、何処からか声が聞えて来そうだ。


 俺が急に倒れ高熱を発症して、料理馬車の荷台に運ばれた後に色々されたらしい。野営地で体の一部に違和感を覚えて目が覚めると白衣のドジッが俺の大事な所に指を突っ込んでいるではないか。違う趣味に目覚めたら責任を取ってくれるのでしょうか?


 それよりもっと強烈な事が有りました。この世界の看護婦さんに微笑まれ「可愛い物をお持ちで」と、まで言われてしまった俺はショックのあまり、また眠りに付く。


 目が覚めると、恐ろしい形相で薬を作っていた料理長補佐のカルさんに驚き、逆に彼女を驚かせてしまった俺であった。






 俺はこの地に来てから高熱で倒れる前も色々遭った。しかし、今回は熱病でうなされ死線をさまようのではなく、まったく違うものであった‥‥‥。俺にもっと酷い事が起きてしまう。




 「落ち着け!、落ち着くんだカルマイネ! それはやばいって‥‥‥。逃げるぞ黒! 早く来い!」




 慌てた感じのメルディムさんは黒猫ちゃんの首根っこを引張り馬車の荷台から退散しようとしている。



 俺は何がなんだか分らない。先程のメルディムさんの慌てた様子に、その前は確か黒猫チャンが俺の事を捕まえようとして、俺は言い訳をしたはずなんだが‥‥‥。


 後ろを振り返るとカルさんが、先程口にはマスクなどしていなかったのに、いつの間にか大きなマスクをしていて、何かブツブツ独り言をいってこちらを向き佇んでいる。


 その彼女は両手はだらんと下げ、手元によく食卓に上がるコショウなどが入っている陶器製だと思うが、その白い調味料入れを手に持ちそれをいきなり振り出した。




 「リョウジも早く逃げろ!」




 そんな言葉を言い残してメルディムさんは黒猫ちゃんの首根っこを掴み退散してしまう。



 退散したと同時に周囲が白い煙のようなもので覆われる。俺はそれを吸い込んでしまい咳き込みながら、慌てて外に出ようとするがなぜか体に力が入らず、やがて力尽きて意識が無くなってしまうのであった。






☆  ☆  ☆






 馬車の外では幸い、晩御飯が終わり誰も周囲には居なかった為、被害にあったのはリョウジだけであった。しかし、その料理馬車の荷台に飛び込む人影が現れる。


 それはマスクをした白衣のミリクナであった。彼女は中で白い粉を振りまいている張本人の鳩尾に当身を打ち黙らせ、リョウジと共に二人を抱え煙の中から出て来る。


 周囲に白い粉の及ばない場所まで2人を運ぶと、先にカルマイネを起こし慌てふためく彼女を落ち着かせる。




 「カル? カル? カル! もう大丈夫。もう大丈夫よ。この匂いを嗅いで落ち着きなさい‥‥‥。


 今回、撒いたのは何? これって大森林に生えてる『人食い蔦花つたばな』の花粉よね?


 確か、森に迷い込んだ愚者おろかものにこの花粉を嗅がせて体を麻痺させた後、眠らせて自分の肥やしにしてしまう『人食い蔦花』の花粉よね?


 しっかりして!」




 虚ろな目をしたカルマイネの体を揺らして気付の薬品を嗅がせる。ミリクナは周囲を見渡し他に被害者が居ないか確認をする。




 「あう、あう。あう。あ、ああ。あれ? ここは。はっ! またやってしまった‥‥‥。そ、その、その通りです‥‥‥。


 で、ですが、わ、わ、私の独自の調合でこれを周囲に散布して倒れた人には、そ、それを飲ませれば大丈夫です‥‥‥。も、も、申し訳ありません‥‥‥。」




 そう言うと、カルマイネは泣き出してしまった。




 その様子に「チッ」と、舌打ちするミリクナはその小型の霧吹きを受取り、中の薬品の匂いを嗅ぐ。その匂いを嗅いで後悔する彼女であった。


 彼女は急ぎ二人と自分に付着したであろう体中に霧吹きを動かし浄化し始め、それをリョウジの口に入れ霧吹きを動かす。暫くすると、その異様な匂いと味に咽ながらリョウジは飛び起きた。






☆  ☆  ☆






 「おえ~~~~! ごほっごほっ、ごほっごほっ」



 酷い匂いと味に咽る俺、最後に記憶があるは‥‥‥。周りに白い煙が舞っていた事である。どうやら今は夜で外に居るようだ。外は双子月が両方満月ではないが、それに近く普段の夜空に比べて周りは明るいように感じる。


 隣には泣き崩れる料理人補佐のカルさんがいて、白衣のドジッのミリクナ医務長もなんか安堵した表情でこちらを見ている。


 「あの~、ミリクナ医務長? いったい何が起こったのでしょうね? 教えていただく訳には行かないでしょうか?」




 「あ~、う~、え~とですね。あの馬車の荷台は病人の寝台と、そこのカルマイネ料理長補佐の調剤場になっていてね。その‥‥‥。その彼女は極度の人見知りで、近くに男の人が居ると緊張しちゃってね。その緊張の糸が切れると、その‥‥‥。ああなっちゃうの。一応、貴方には解毒薬飲ませたから心配しないでね!」




 いや「心配しないでね!」って、言われても、その解毒薬ってなんだ? あの煙は毒だったのか? ああ、ここは異世界、ここは異世界と自分を落ち着かせる。


 「あの煙は毒なのですか? 本当に大丈夫なんですよね? 後で謝られても困りますよ?」




 「多分・・、心配ないわ。今夜はあそこを浄化するので、どうしようかな~‥‥‥」




 「自分の寝床じゃ不味いのですか?」




 「お熱が下がるまでは、貴方を介抱する人が必要なの! 貴方は今平気なようだけど、まだ完全に熱は下がっていないし体はだるいはずよ?!


 ‥‥‥。じゃあ、私が介抱するから私の指揮車に来なさい!」




 「え~、私は男ですよ? いいのですか?」




 「私は医者よ、何かあっても治療できるから心配ないわ! 間違って、切断・・しても直ぐ、くっ付けて直してあげるわ。だから大丈夫!」




 今、凄く恐ろしい事を聞いたように感じるのだが、それは俺だけなのであろうか? 


 「手を出したら、その手を切断・・するよ!」って事だよね?


 それで、証拠隠滅・・・・で切った手を直すって言ったよね?



 俺とミリクナ医務長の二人で指揮車の方に歩いて行き、俺は脱力感とこれから起きる蛇の生殺しと、女性を目の前にして緊張した緊張感と、最後に恐怖感で一杯で指揮車の中に入って行く。しかし、中にはジョルジョネ大尉は居なかった。


 ああ、こっちは指揮車の二号車の方か、だけどアミュネス少尉もいなかった。指揮車の中にはベットが後部座席の方に用意してある。


 指揮車の中に入る前、内心こっちにアミュネス少尉が寝巻き姿で出て来たらどうしようかと悩み「あの胸で寝巻き姿なんかされたら寝られないでしょう」と、いう考えが俺の頭の中を駆け巡っていた‥‥‥。まあ、期待はしていなかったけど。



 そんなもんもんした俺を知ってか知らずか、彼女は寝袋を俺に渡し、後ろの簡易寝具で寝るようにと言って来る。更に、木製ジョッキに水と同じジョッキに昨日の夜に飲んだものと同じ白い液体が入っていたものを俺に勧めて来る。


 またかと思い、こんな物を飲んでから体の調子が悪くなった気がしてちょっと躊躇していると、彼女が俺がすんなり薬を飲むような事を言ってくる。




 「は~い、早くお薬を飲んで眠りましょうね~‥‥‥。あら、飲みたくないの? じゃあ、もう一回あの白い粉吸ってみる? そして、もう一回、あれで起こしてあげましょうか?


 それとも起こさないでそのまま永眠・・させましょうか?」




 ああ、この人。医者に見えるけど、その前に「この世界の人なんだよな」と、しみじみと納得してしまい、黙ってその薬を飲み干し水で流し込んでしまう。


 薬を流し込んでから直ぐに、今度は無性に眠気が襲ってくる。倒れる前に急いで寝袋を敷きその中に入った所で寝てしまう俺であった。






☆  ☆  ☆






 その寝てしまったリョウジを見てミリクナはため息を付いて彼の寝袋を直し、彼を寝袋で包む。そして、指揮車の外に出て隣の指揮車の扉を叩き中に入れてもらう。


 彼女は隣の指揮車の中に入ると事の顛末を彼らジョルジョネ大尉とアミュネス少尉に報告する。その彼女は報告の後に、これから後始末をする事を説明して身内・・の不始末の処理をする為に指揮車を出て行くのであった。



 彼女が出て行った後に、ジョルジョネ大尉とアミュネス少尉は二人して顔を見ながらお互い苦笑してしまう。




 「嗚呼~、あの奴隷組合の二人も大変だな~、うちらと同じで。ねえ、アミュ?」




 「はあ? それはこっちの台詞です。今晩の大尉は何処でお休みになるので?


 確か会議用の天幕が開いていますわよ?!


 あそこのテーブルでこれをどうぞ!


 でわ、私は少し仮眠をして次の歩哨当番に当たりますわね。


 でわ、お休みなさいませ!」




 そう言ってアミュネス少尉に寝袋を渡されジョルジョネ大尉は自分の城から追い出されてしまう。



 先程退避してリョウジが助け出されたのを見たメルディムは、呆然とするジョルジョネ大尉に獲物を狙う猫のようにそっと近寄る。




 「あたしが添い寝して上げようかジョネ? 荒野の夜は寒いわよ~」




 メルディムは甘い声でジョルジョネ大尉の肩に手を掛け誘惑する。その甘い誘惑と肩に添えられた手を慌てて振り払うジョルジョネ大尉は懇願しながらメルディムを見る。




 「あ~~~、何を言っておる。上官が部下と添い寝なんてしたら、それだけで俺は首になる‥‥‥。勘弁してくださいメルディム姉さん」




 ジョルジョネ大尉は両手を合わせて拝んでメルディムに頭を下げる。そして、彼はそのまま駆け足でその場を去り会議用天幕に潜り込み、中で寝ている御者親子・・・・を起こさないように自分も寝袋に入り眠りに就いてしまう。




 一人取り残されたメルディムは舌打ちして「また失敗したか」と、呟きながら反省する。これでかれこれ十七年も失敗している事にめげずに、これからどうやって口説くか考えをめぐらし野営地から離れて行く。




 彼女は。いや、森人族は3日に一度、動物の肉を欲する。他の日は何も食べなくても良いが、彼女は食べない日は代わりに酒を飲む。


 しかし、今日は肉を食べないと気が治まらない日である。彼女の獣僕達も今日は先行させて狩りの準備に行かせてある。そろそろ、彼女の方に獲物を追い込んでくるはずであった。



 そんな彼女の横にはいつの間にか、同族で男性の森人が横に立っていた。彼の名はラグフムといい、メルディムと同族の森人であるが彼女とは違い、下層の氏族出身であった。


 年齢もメルディムよりは若く傭兵の経験年数は37年で同じ特務少尉であるが、彼女は護衛分隊長で彼は護衛副分隊長という立場である。



 双子月に照らされているこの名も無い荒野に砂埃が舞う。土兎が数十匹‥‥‥。ここは異世界。彼らは兎を匹で数え、人族は土兎つちうさぎと呼んでいるが彼女ら森人族はその名を「プイホン」と、呼んでいた。


 しかし、この隊にもその名前の土猫が居た為、間違わないように人族の呼び名で「土兎」と呼んでいる。その後ろを馬並みの体躯を駆使して2匹の聖獣はそれぞれの相棒の指示を受け、お互い連携して土兎を追い立てる。獣僕の彼女らは逃げる群れから逸れそうなものを威嚇して追いたて逃げる群れに引き戻す。


 そして、その後ろから小山のような岩猪が土兎を目当てに大きな体躯を揺らし、地面に振動を伝えながら疾走してついて来ていた。




 森狼のボグフムは舌打ちをしながら思う。


 「土兎を追い込んでいたはずが岩猪まで来てしまうとは思ってもいなかった。風下から岩猪の匂いは感じていたが岩猪は夜行性でなく昼間活動するからだ。


 しかし、土兎は岩猪の食料であり、大量の土兎を追い込んだ事が仇となって、このような状態になってしまったのだ」



 だが、彼女は再び思う。


 「この程度の岩猪に、我らの主人は動じない事を。たかが体高が3メト((m))で全長8メト((m))程度、大森林にはこれより大きな獣が数多く居る。


 今日は、あの土兎よりこちらの岩猪の方が獲物としては最高だが。さて、主人はどちらを選ぶのかしら?」



 そう思案しながら獣僕のボグフムは荒野を疾走していた。



 やがて、野営地から1km程離れた場所迄、獲物を追い込む獣僕の彼女ら二人と2匹は、最後の追い込みに掛かかる。疾走するボグフムは視線の先に主人のメルディムとその隣のラグフムを確認する。



 それと対照的に落ち着いて、視線の先に獲物を確認したメルディムは獣僕の彼女らに人族には聞えない音の合図で作戦を伝える。その指示に従い、獣僕の彼女らは更に早く疾走して獲物を追い込む。その後ろには岩猪が直ぐ迫って疾走して来る。



 土兎の遁走する群れと獣僕達は二人の森人の脇をすり抜けて行く。



 「どうやら主人は岩猪を狩るのだ」と、ボグフムは頷く。しかし、通り過ぎた土兎のなかに4匹程頭にクナイが刺さり倒れたものがあった事にボグフムは気が付く。


 残りの土兎はすり抜けた後、ばらばらに逃がしたようで、岩陰に隠れるものやそのまま遁走するもの等、それぞればらばらになって逃げて行ってしまう。


 「どうやら、ばらばらになった土兎を追掛けないように4匹ほど倒して、その血の匂いで岩猪をおびき寄せるのか」と、納得するボグフムであった。




 「今日は主役は岩猪だね~。嗚呼、その呼び名は人族が呼んでいたね。あれは『ゴナベル』か~。そいえば、内の隊にもそんな奴隷長がいたような。人族の名は本当に紛らわしいね~、ラグフム。


 今日は『ちから』が戻ったか試してみる? 貴方が止めを刺すかい? 私はどちらでもいいよ」




 「では、お嬢様の仰る通りに致します」




 ラグフムはそう言うと前方100mほどの位置に疾走してくる岩猪まで疾走し始める。途中、走りながら背中の長剣に手を掛ける。長剣を両手で持ち身構えたと同時に腰の2本の両刃の片手剣が独りでに鞘から抜け出し、疾走する岩猪の足目掛けて飛んで行く。


 岩猪の大型トラック並みの巨体は走出すと急には止まれないが、走る為の足を狙われれば話は別である。飛んで来た片手剣には気がついたようで首を振り回しながら自らの牙で振り払おうとしたが無駄であった。


 剣は自在に軌道を変え、目的の岩猪の足の腱を切る。体勢を立て直そうとするがもう一組の片手剣が飛んできて岩猪の両目を潰し、その勢いで岩猪は前につんのめり、もんどり打って倒れ、周囲に土煙が舞う。



 倒れた岩猪はその勢いで一瞬気を失ったようで、静かにしていたがやがて目を覚まし、もがき始めるかと思われた。しかし、その前に止めを刺すべくラグフムは己の多数のクナイを空中に浮かせ、そのクナイに駆け上り、岩猪の頭上に位置していた。


 その高さは10m程あり、長剣を振りかぶり勢いをつけて自分で空中に浮かせたクナイから飛び降り、岩猪の首を一気に切断してしまう。それと共に岩猪の首から返り血を浴び、それを一口飲み干した。それは、まるで、吸血鬼かと思えるほど不気味な姿であったが、実は違っていた。



 彼ら森人の儀式の一部で止めを刺した獲物の血を飲む事は大地と森の恵みに感謝を表す。更には、大地と森の子に当たる獣達に感謝する儀式でもあった。その証拠に、メルディムも先程倒した土兎の首に刃物をいれてその血を飲んでいた。



 こんな姿を気の弱いリョウジが見れば気絶ものである。白い肌に血飛沫が飛んでいて白い肌の彼等には血の赤色が映える。ラグフムは体の首周辺にこそ血は付着していたが、長剣には血は垂れていなかった。


 素早く長剣を背中に背負い、周辺のクナイが彼の鎧に戻って来ると、自分の二本の片手剣は既に腰の鞘に納まっていた。


 ラグフムは頭部の両目に刺さった片手剣を抜き体液を腰の後ろにあった手拭いで拭き取りメルディムの方に投げていく。二本の剣は空中の途中で誰かに受け取られたような軌道描き、彼女の背中の鞘に2本共納まってしまう。


 彼女も土兎の頭部の眉間に刺さったクナイを手ではなく空中に浮かしながら自分の手拭いで体液を拭き取る。それが終わると本来あるべき鎧の鞘に独りでに収まっていく数本のクナイであった。




 息を切らして2匹と獣僕の2人がやって来る。だがまだ余裕はある様で彼女達は直ぐに息を整える。その後ろに控える聖獣達はよだれを垂らして待ての状態である。一部、っていうか一人だけよだれを垂らしていた獣僕も居たが‥‥‥。森猫のクワビムであった。


 獣僕の彼女らと聖獣は食欲を我慢して、岩猪の解体に取り掛かる。二匹の聖獣に岩猪の腹を出させる為にその体を引張らせて体を横にさせる。


 クワビムは自分の腰の剣で一気に腹をさばき内臓の中身を取り出し、その中の肝を切出した。先ずは止めを刺したラグフムにそれを渡し、次は主人にである。その次に先輩の獣僕であるボグフムに渡し、ようやく自分の番で一口、肝の一部に口を付ける事が出来たクワビムである


 そして、自分達の聖獣に残りの臓物を与える為に待ての姿勢を解くと、聖獣達は余程お腹を空かしていたのか内臓の殆どを食べ尽くしてしまう勢いで腹の中に頭を突っ込む。



 聖獣が内臓を食べ始めたので、ボグフムは主人とラグフムに前傾の姿勢になって貰い、水属性の魔素術で水を出して石鹸のような物で泡を出した手拭を使い彼らの顔を洗い始める。最後に水を流して綺麗な乾いた手拭で拭き綺麗にする。その後、彼らの汚れた手拭も綺麗に洗浄してしまう。



 獣僕の彼女らに、岩猪の解体を任せたメルディムとラグフムは、それぞれ両手に土兎を持って自分達の野営地の端にある、焚き火の所へ向って歩き出す。


 すると、歩き出した二人は、微かに地面から伝わる振動を感知して立止まる。周囲をお互いに見回し様子を見ると、双子月に照らされた二つの影を見つける。




 「あれは何? 一つは細長い影で結構大きそう。もう一つは普通の人族より小さく女性かしら?


 細長い方は何かウネウネしていて私の趣味じゃないわね~。何でしょうね?


 私達以外にここで狩りをしているようね~、ラグフム!」




 「はい、そのようですね。助けに行きましょうか?


 ‥‥‥。あ、その必要がなくなったようですね。では、早く戻ってこれを解体して、早速頂きましょう。まだ酒は残っています。更に今日のあれで、また酒が手に入ります」




 「あれは誰かしら? 


 ‥‥‥。ああ、そうね。早く行ってお酒を飲みながら、これをさばいて焼いて食べましょうね」




 彼女は彼に微笑んで焚き火の方へ二人で歩いて行ってしまう。






 その人影は少し驚いて困惑していた。


 「医学書の薬学に記載してあった図柄と今対峙しているものが、実際とはかけ離れ過ぎ‥‥‥。今日は月明かりが一段と明るい為に直ぐに発見できたけど‥‥‥。しかし、見た目は医学書の図柄と瓜二つで、大きさだけがかけ離れ過ぎなんだけど」



 その人影はそんな事を呟き、先程はジョルジョネ大尉らに色々と説明と報告をして、カルマイネには後始末を命令・・してやらせいる事を自分の上司にはなんと報告するのか考える。そう、その人影はミリクナであった。



 カルマイネが足りないといっていた物を取りにミリクナはこの荒野付近を探索していた。彼女は直ぐに巣穴らしきものを発見して、彼女の左手首の特殊魔技箱である金属製の手甲から、真銀製の細い糸で編んだ組紐を伸ばし始める。


 その組紐の先端に付いた先が鋭利な錘を自在に操り、まるで蛇のようにその巣穴に忍ばせて行く。その時、彼女は目を瞑りその先端に集中して、その先端に居るそれを探っていた。



 やがてそれを見付け、と思われるその部分に組紐を操り巻きつかせる。その彼女の手には何時の間にか頑丈な革手袋が嵌めてあり、組紐をその皮手袋越しに掴み、勢いよく引張り始める。


 最初こそ抵抗があったが次第に全体が出てくると抵抗は無くなってしまう。そして、月明かりに照らされその大きさに彼女は呆れてしまう。


 彼女の記憶では、医学書に依ると全長は1メト()程と書いてあった。しかし、今出てきたのは3メト()程と長く、太さも彼女の胴周り以上に太くなって行く。それが全体だと思っていたものの、更にまだその先が地面に埋まっているようだ。


 やがて周りの地面が盛上り頭と思われる部分が、地面の土の中から勢いよく出てくるではないか。それは巨大な蚯蚓みみずであった。その医学書にはその体の肉を干して煎じて飲めば、解熱作用があり、獲るのは簡単と書いてあった。




 「あの医学書の著者め! 嘘書きやがって」




 ミリクナはそう呟き、毒ずく言葉を吐く。


 彼女が読んだ医学書には「荒野蚯蚓こうやみみず」と、書いてあり、用法の発見者は救国の勇者と書いてあった。多分、四百年前の勇者であろうとミリクナはそう思っていた。


 彼はあらゆる技術をこの国に伝えてくれた「ヒノモト」から来た人であった。その「荒野蚯蚓」もそんな伝えられた技術の賜物であった。



 彼女は左手の組紐はその荒野蚯蚓を逃がさないように左手で掴む。鎌首を持ち上げた荒野蚯蚓の多分、頭部であろうと思われた部分に右手の手甲から出した同じ素材で出来た組紐を巻きつけ勢いよく手前に引張り、ミリクナはその鎌首を切断してしまう。


 そして、組紐に付いた体液を振り払い右手の組紐を収納したミリクナだが、これから料理馬車の方に引張って行かなければならない事にため息を付く。



 ミリクナが荒野蚯蚓の頭部分を持ち上げると、頭部部分と思われる切り口から土がボロボロと出てきて軽くなってしまう。彼女は首を傾げ、こっちの本体もそうなのかなと思い左の組紐を外し、荒野蚯蚓の尻尾の方からその体を巻いていってみると、切断した方の切り口からドンドンと土が出てくるではないか。


 その状況にミリクナは頭を抱えてしまう。彼女は土を全部搾り取ると普通の樽の3分の1しか容量が無い事に気付いたからだ。あと、この荒野蚯蚓を2匹ほど捕まえないと樽が一杯にならないのである。



 面倒になったミリクナは魔素陣を地面に描き出して、左手の革手袋に嵌め込んである魔素結晶の欠片で魔素陣を発動させる。


 発動すると地面に、ある周波数で人族には感じない振動が地面に広がる。範囲は半径100m程の地面に伝わって、地中深くにもその振動が伝わったようだ。


 暫くして、地面があちこち割れ始め先程と同じような荒野蚯蚓が出現して、のた打ち回り始める。ミリクナはその中で一番大きい物と次に大きい物がそれぞれ鎌首を持ち上げたので、両手の組紐をそれぞれ巻きつけ鎌首を切断してしまう。


 彼女は先程と同じように中身の土を搾り出して行くと樽の1つ半の量になる。その亡骸を左手の組紐で纏めて縛り、肩に担いで料理馬車の方へ運んで行くミリクナであった。






 そのミリクナの振動に驚いたクワビムであったが、周囲を見渡し何も無い事を確かめると、岩猪の解体に戻り皮を剥ぐ作業の続きを行う。


 ボグフムだけはあれが誰かを分っていた。彼女は森狼であり、鼻がとても利く。医薬品のかすかな匂いと記憶のある体臭の匂いで、ミリクナだと分っていた。しかし、その戦闘能力に少し驚いていたようだ。


 だけど、この隊にはそんな戦闘能力が高い者がゴロゴロ(・・・・)している為、余り気にはしていなかった。




 皮を剥いでいたクワビムの腹の虫が「ぐぅ~~~~」っと、鳴る。




 「ボグホム姉さま~、先に火を起こしてお肉を頂きましょうよ~」




 クワビムはそんな情けない声でボグフムに訴えかける。


 そう、彼女達は先ほどの肝以外何も口にはしていなかったのだ。




 「まったく。仕様がないわね~、じゃあ薪を持って来て! こちらで頂きましょう」




 ボグフムが言い終わらないうちに、クワビムは料理馬車の方へ向って走り去っていた。



 彼女らが火を起こし、肉を焼いて食べている頃、東の空が白んできて回りが明るくなって来る。そして、外に女性年季奴隷が起きて来て朝食の準備を始める頃、ジョルジョネ大尉とアミュネス少尉達も外に出てきて準備運動を始めだす。


 ジョルジョネ大尉は野営地から離れた所の焚き火を不振に思い、彼女ら獣僕達が居る所までやって来て岩猪の残骸を見てため息をついた。



 アミュネス少尉は焼いていた肉を見てクワビムに近寄る。




 「あら、美味しそうねクワビムさん?」




 そう言ってクワビムに、にじり寄る。少尉の目的は肉ではない。そう、クワビムの黒くて長い尻尾である。


 焼いた肉にかぶり付いていたクワビムは危険を察知して、肉を咥えたまま逃げ去り岩猪・・影に隠れてしまう。



 その状態にアミュネス少尉は「チッ」と舌打ちをする。




 「肉なんて取らないわよ~。クワビムちゃん~! 戻ってきてよ~」




 アミュネス少尉はそう彼女に呼びかけ、クワビムに再びにじり寄ろうとする。




 「そんな言葉に騙されないですよ~、少尉!」


 


 クワビムはそう言って、更に少尉と距離を取る。


 そのやり取りを見ていたジョルジョネ少尉とボグフムは顔を見合わせて微笑む。


 そんな楽しそうな攻防をしているとは知らないリョウジは、まだ指揮車の簡易ベットでぐっすり寝ているのであった。




 次話へつづく

次話は明日10/16の夜に投稿します。

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