<1-14> 「年季奴隷が病気? (前編)」
最新の本文修正日は2014年10月20日です。
こちらに来てから10日程過ごした俺ですが、激動? そんな生活で体に異変が起きたようです。大半はヌルイ年季奴隷で馬車の移動でしたが、色々と慣れない生活で無理が祟ったのでしょうか?
いや、久々に算盤を使ったり、普段使っていなかった脳みそをフル稼働させたのがいけなかったのか? それに医者でもない俺が何処が悪いかなんて分るはずも無ない。そんな突然の病に寝込む俺であった。
突然、何かの違和感に目を覚まし、俺は生きていた事に感謝をしてしまう‥‥‥。最初だけでしたが。
うぉ~~~~~~~、俺は何をされているんだ?
目を覚まして周りを見ると自分の膝を抱えてベットに寝ているところである。周りに人影らしき者を認識すると、その人影が俺に話しかけてくるではないか!
「熱はまだかなりありますわね~。それに多分、結構体もだるいはずですよ! まだ暫く、安静にして寝てなさいね!」
人影の主はミリクナ医務長で、その彼女が俺の抱えた膝の向うから声をかけている状況である。その彼女がそういって立ち上がりながら、俺のお尻の方にあった右腕と体が一緒に動くと、素早く何かから解放される解放感を覚える。
そう、どうやら、直腸温度を彼女自ら指で測ったらしい。指をたわし? そんな何かをゴシゴシ洗う音がして手を洗っているようだ‥‥‥。そんな状況に「体温計はないのかよ!」と、俺が彼女に突っ込みたい!
その他にも人がいるようで視線を向けると、俺の膝を押さえている人物がいる。その人物はミリクナ医務長が手を洗い始めると、抑えていた俺の足を離し、パンツとズボンを一緒に上げてくれる。
その時、俺はその人物と目が合ってしまう‥‥‥。希望としては可愛い女の子だが、それだと一生、顔を会わす事は出来ないだろう。
まあ、期待はしてなかったが、筋肉質の腕が露出していたワンピースにエプロン姿の女性であった。
ああ、ここにも一応は看護婦が居るんだねと、納得してしまったが、彼女はちょっと微笑んで衝撃的な一言を言い放つ。
「可愛い物をお持ちで」
一瞬、何を言われたのか理解に苦しむが、いわれた言葉を反芻すると、とんでもない事をいわれたような気がして立ち直ることができない。しかし、その言葉を言い放った彼女は何事も無かったような素振りでもくもくと仕事をこなす。
その彼女に何か反論しようかと悩みながら彼女の様子を観察するとそのゴツイ腕の持ち主は俺の支度を整え、寝袋上の俺の体に寝袋の重ねしろ部分を掛け直し体を寝袋で包むと、立ち上がり外の方に出て行ってしまう。
その時、彼女の光に当てられた体のシルエットが見え、女性っていうか男性のように鍛えられた感じであった。
あれで剣と盾を持って向って来たら俺は逃げ出す自信はある。それに、ワンピースの下にズボンを履いていた。結局、彼女の鍛えられた肉体のシルエットを見て反論しなくてよかったと胸を撫で下ろす。
彼女が出て行くと俺の心の癒し係のプイホンさんが革製の氷嚢? そのような物を抱えて持って来る。彼はそれを俺の頭に乗せて、心配そうに髭を下げてこちらを見ている。
プイホンさんに俺はどれだけ寝ていたかと聞いてみると、先程から余り時間は経っていなかった様で今日の野営地に着いたばかりだと教えてくれる。
最後に今日はここで休むようにとミリクナ医務長に言われる。ここは何処かと聞くと料理馬車の荷台と教えてくれる。普段は傭兵が偶に乗ったり、病人をここに乗せるとも教えてくれた。
ミリクナ医務長も何処かにいってしまうと、一人残された俺は先程の「可愛い物をお持ちで」と、いう言葉が心に刺さりひどく落ち込んでしまう。
色々と考え、くよくよといじけている内にいつの間にか眠ってしまう俺であった。
☆ ☆ ☆
一方、アラレスティ王国の王都にある王宮の秘密部屋で、リョウジと同じように熱にうなされている一人の少女が居た。
彼女の周りには数人の男性と女性が沈痛な趣きで、その場に座っている者や立ち尽くしている者などもいる。
その中に一人、さっきまで泣きじゃくっていた女性に対して寄り添い、彼女を抱き寄せ慰めている男性もその場に居たようだ。
「后よすまぬ、今まで黙っていたこの我を恨んでくれて良い。これもこの我が王族であった為に起きた事である。本当にすまぬ、この娘があのような姿に生まれついたのはこの我の血のせいだ。だが、我はこの国の王である。国も守らなければならないし、今居る王族も守らなければならぬのじゃ、どうか愚かなこの王を許しておくれ」
「それは違います。貴方は私と出会い、結婚する前に正直にお話くださいました。私もこの国の王后です。覚悟は出来ていました。この娘が生まれた時に死産だと言われ、貴方は私を気遣ってくださったのでしょう?
私も最初は気落ちしましたがその後に3人目の王子を生む事ができました。他の妃に王子が出来た時は悔しい思いもしましたが、無事3人も王子を生む事が出来た私は幸せでございます。ただ、今はこの娘が不憫で仕様がなく、悲しいのです」
「侍医長! 医務官はなんと言っているのだ?! まだ熱は下がらぬのか? もう十日もこの状態だぞ!
やっと半月ぶりにこの部屋に戻って来たかと思えばこの状態だ。いったい、宮内の医務官どもは何をしている! このままもし、亡くなったとあらば、分っているよな?
‥‥‥。すまぬ、お前達の不眠不休の治療と、努力は分っている。取り乱してしまった。許せよ」
「いいえ、国王陛下。もったいのうございます‥‥‥。お顔を拝見させていただきましたが、医務官の薬士が姫様に合わせた薬を今朝完成させまして。先程、お気付きになられました時に薬湯をお飲みになれ、筆頭宮廷魔素術使い補佐が木の属性魔素術と併用して治療を施しました。今度は効くかと思われます。今暫くお待ち下されば良いかと」
数刻が過ぎ、国王は朝議に行かなくてはならなくなり、この部屋から後ろ髪を引かれる思いで退出して行く。本当ならば朝議など捨て置きたかったであろう。しかし、彼はこの大陸を支配する王国の国王であり、支配者である。私情で公務を休む訳には行かなかった。
時は更に数刻過ぎる。彼女の表情が段々安らかになり熱も下がりだす。すると、彼女は周りの人に水が飲みたいとか、お腹が少し減ったなどと言い、周りを驚かせる。
「お顔を拝見いたしますと先程よりは少し安らかになられているかと。それに、お熱もお下がりのようでお水をお飲みになるのと、少々軽くて柔らかいものをお食べになっても、大事無いかと思われます。今、薬を調合した医務官を呼びに行っております王后様」
王后は先程の泣き顔から一転、嬉泣きの顔に変わり泣き出した。周りも、いそいそと準備や替えの服や寝具など、慌しくなる。
一通り済ませると、水と果物を摺り下ろしたものが運ばれて来る。彼女は最初に水を一口飲み、次に果物の摺り下ろしたものを小さじ3杯ほど口に入れ飲み込んだ。そして、横になり、また眠ってしまう。
やがて、その他の人は出て行き、この部屋には看病する侍医と医務官、それに王后が長椅子に安堵の息を漏らし座っていた。
すると、突然勢いよく娘の部屋に入って来た国王陛下。娘の寝顔を見て急に静かに歩き出す。そして、侍医長に様子を小声で聞きだし、顔を綻ばしながらうんうん頷いてしまう。最後に機嫌良く、自分の執務室の方へ戻ってしまう。
自分の執務室に戻って来た国王は上機嫌でニコニコしているのではなく、実際は険しい表情をして、今は執務机に着き今後の対策を考える‥‥‥。
「自分の娘は『王家の血の呪い娘』である。今は、その呪いが解け姿は普通の人族に変わっていた。
王后と同じ金髪にやや赤みが増した肌色の皮膚、瞳も自分譲りのエメラルドブルーである。王家に秘蔵されていた文献は正確であった。娘は使命を果たすと普通の娘に戻ったのだ。
しかし、文献では、3名の召喚者を呼び出すと大抵は力尽き命を落としたと書いてあったが、最後の召喚儀式が終わって失踪するとは何処にも書いていなかった。
やっと半月近く経って元の王宮のあの部屋に戻って来たが原因不明の熱病にうなされていた。しかし、今の王国には魔素術があり、学院などで医学の研究も進んでいる事で今回は助かったのであろう」
等と国王は考え色々と推測していた。
そこで、もう一つ問題があると国王は考える‥‥‥。
「我の娘が生まれた時に、死んだと公式に発表している。それに、もしも『王家の血の呪い娘』が世間に出て、知られるのは非常にまずい。
民衆が動揺して、また四百年前の動乱が起こるかも知れない。だから、もしかしたら今回の娘の看病に携わった人々を、始末しなければならない」
そんな事も国王は考えていた。
その一人で考えていた国王の執務室を訪れる人物が現れる。奴隷組合の組合長である。彼は国王が彼女の件を任せる為の方策を探してきたようである。
「国王陛下、以前仰せのあった話で二、三心当たりがある施設がございます。奴隷組合の孤児院でございまして、施設の職員は全て私の僕で固めてあります。
そこに『お嬢様』をお預かりさせてください。『お嬢様』はあの部屋で沢山の書物をお読みとお聞きしております。孤児院で教師などされて、これからの余生を過ごされてはいかがかと。
それに孤児院だと王后様も慰問等で、理由を付けてご訪問なされても周りには不自然に見えないかと思いますがいかがでしょう?」
「君は本当に頼りになるよ。じゃあ、今彼女の周りに居る連中を連れて行っても大丈夫なように手を打ってあるんだろ? さすが我が心の友よ、本当にありがとう。じゃあ君に全て任せるよ。娘には体が順調に回復すればその事をこの私自ら説明しよう。それに、后にもこの事を話しておくよ」
「いえ、国王陛下、私は貴方の忠実なる僕です。ご友人なんて、私が貴方様に受けたご恩から比べるとまだ返し切れない程のご恩があります。どうか、お気にせずにお過ごしください。では、最終候補地はこのように3箇所ほど絞っておりますご覧ください」
「ふむ、ここは王都に近すぎて、何かあると困るが目が行き届く。そこは、ちょっと、遠すぎて后が慰問に行くのも大変そうだ‥‥‥。やはり、ここしかないか。遠すぎず、近すぎず。王国から馬車で十日の所で、今は確か5番目の王子が居たな‥‥‥。あいつには知らせるなよ、色々と面倒だ! しかし、何かあればあいつに面倒事を任せておけば良いか。よし、ここにしよう」
「そこの町外れに組合の孤児院がございます。街中とは違い、目立つ事は無いかと思われます。それに、街道にも面しておりません。では仰せのままにいたします。では、準備の為、下がらせて頂きます」
そう言うと、組合長は執務室から下がっていった。それを見送り、ため息を付く国王、彼の正式名は「アラレスティ・バラム・サルフェルス・カシュゲル3世」といい、「アラレスティ王国第42代国王カシュゲル3世」と呼ばれ、1500年近く掛かってようやくこの大陸を統一できたアラレスティ王国の現国王である。
因みに、名前の「アラレスティ」は王家を表し、「バラム」は王族を示し、「サルフェルス」は王子の時の名であり「カシュゲル3世」というのは国王に即位した時に名乗る即位名である。
彼は机の上の書類に目を通す。内容は『リョウジ』の最近の報告である。この報告書は軍の方から上がってきたものだが、組合長から報告して貰った事と同じような内容が書かれていた。
彼は計算がそこそこできて、洞察力があるが少し臆病な所がある。今のところ、勇者の素質は見当たらないという事。魔素力の三要素の中で一つだけが計測不能で底力が計り知れないが、魔素術は使えないという事。しかし、これには時間が必要でゆくゆくは賢者の素質があるのではないかと書いてあった。
書類を机の引き出しに仕舞い、立ち上がり背伸びをする。そして、そこから見える外の景色を眺めて考える国王であった。
☆ ☆ ☆
リョウジが突然倒れ、メルディムから「リョウジが倒れた」と、覗き窓から教えられたジョルジョネ大尉は、慌てて外に飛び出す。
そんな事とは知らないアミュネス少尉は、次は大尉と一緒に報告書やら色々な書類の裁可を貰う為に前方の指揮車やって来る。しかし、その場に来るとアミュネス少尉も慌ててリョウジに駆け寄る。大尉はアミュネス少尉に医務長を呼びに行かせ、アミュネス少尉はミリクナ医務長を呼んでくる。
ジョルジョネ大尉はそこに偶々居た傭兵の一人にリョウジを抱きかかえさせ、料理馬車の荷台に乗せる為に運ばせる。その彼は全身黒茶色の毛に覆われた獣人族の森熊種で熊の姿をしていた。
その森熊種の熊は「ラグ」と呼ばれ彼は大尉に命じられるままリョウジを運んでいった。そして、寝袋を敷いた簡易ベットに寝かして去って行く。
そこに、一緒に付き添ってきた医務長のミリクナは、彼の横でおでこに手を当てたり胸に手を当て木の属性魔素術で手当てしていく。
それで埒が明かなく、彼のズボンを脱がし手伝いの女性年季奴隷に足を押さえて貰い、彼の体内温度をお尻から測ったり直接薬を指で入れる。俗にいう座薬である。
処置が終わり、彼の支度を整えて寝袋に包み、頭に氷嚢を乗せて様子を見る。馬車が動き出し、今日の野営地に向うと、ミリクナは考える‥‥‥。
「この症状って、あれだよね? 初めて子供が魔素術を間じかに感じて当てられるとかかる症状、あ~なんていったか‥‥‥。この前、読んだ症状なんだけど‥‥‥。それだとしても今頃かかるの?
これって? リョウジが石切り場で見えたいっていた魔素陣の光の事が心配になり「カル」に薬を調合させて飲ませたが、少し遅かったのかな? ‥‥‥。もう少し時間が経てば分るかもしれないわ」
そう、自分に言い聞かせるミリクナである。
彼女はそんな事を考え、リョウジを介抱しながら馬車に揺られる。やがて、今日の野営地に着くと、ミリクナは彼の熱を直接体内で測り先程よりは下がったがまだ少し熱がある状況に、予想が確信に変わったようだ。
急いでジョルジョネ大尉の馬車に報告しに行くミリクナ。その彼女が話し出そうとしていたのを制止して、向うから先に病状を聞いてくる。
「なあ、医務長? 彼って今危ないのか? やはり、慣れない環境で表面上は平気に見えてもやっぱり駄目なのかな?
駄目ならこれから王都に戻って彼を王都に預けようか?」
そんな事を言って心配顔をするジョルジョネ大尉は医務長を見る。しかし、ミリクナは心配ないといった表情で彼に答える。
「ああ、心配無いです。もしかしてと思って『カル』さんに調合して貰った薬を直接お尻の方から入れると、彼の熱は先程より下がりました。彼は、私達が幼少の頃に良く掛かる『知恵熱』ですから、大丈夫ですよ。二、三日も寝てればよくなりますわ。彼に魔素術を見せてから何か刺激になる物を見せましたか?」
「へっ? え~と‥‥‥。あ、ああ、あれか? 本部の命令で結構難しい問題を彼にやらせたけど、それぐらいで発病するのか?
噂では『知恵熱』は子供が普段使っていない頭を使いすぎると熱を出すって奴か?」
そう言って、先程とは打って変わって呆れた表情をするジョルジョネ大尉である。その横でそれを聞いていたアミュネス少尉は「ぶっ」と、吹き出してしまう。
そんな彼らにミリクナは諭すように話し始める。
「それは俗説の方です、私の言っている『知恵熱』は幼少の子供が、初めて魔素術を見た後に発祥する事がある熱病の事ですわ。俗説は子供が掛かる事が多いので偶に大人がなれない事をした時、熱が出るとそういって揶揄する事があります。しかし、リョウジはこの大陸に来てまだ十日しか経っていません。馬鹿にしちゃ可愛そうですよ?」
そんな話をして自分の話を聴いて呆れる彼らを横目に真剣にリョウジを擁護するミリクナである。
「ああ、悪い、すまなかった。それでで二、三日寝かせておけばいいんだな?
丁度、明後日はまた馬車町に着くしそこで様子を見てみようか?」
「そうですね、そうした方がよろしいかと思います。私も、少し油断してましたし、最初の治療で回復したのかと思って薬を飲ませなかったのが原因かもしれません。今はもう少し早く、彼に薬を飲ませれば良かったと後悔してます。
でわ、私も組合に報告して追加の薬などを注文して送らせないといけませんので下がりますわ」
話し終わるとお辞儀をして指揮車から出て行くミリクナであった。
その指揮車の中で2人は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。しかし、ジョルジョネ大尉は急ぎ報告書を認め、アミュネス少尉に渡して急ぎ旅団本部に報告書を魔技箱で送らせるのであった。
指揮車を出たミリクナは料理馬車の方に行き、薬草に詳しい料理長のギムネーヤと彼女の補佐であるカルマイネに薬の事で料理馬車の前部にある箱型に入り相談を始める。
行き成りギムネーヤは怪訝な顔で話し始める。
「医務長? 私は薬草に詳しいけどそれは薬膳料理の事であって病気までは無理ですよ~。病気に効く薬草ならこのカルのほうが詳しいでしょう?」
そんなギムネーヤに諭すように話すミリクナ。
「いえ、ギムネーヤ料理長、彼に消化の良い物だけで良いですよ、薬の方は『カルマイネ料理長補佐』と、相談しますので大丈夫です」
「そうかい? じゃあ、あたしが作って持っていくね」
ミリクナの説明で安堵する料理長のギムネーヤはそう言って料理馬車の前部にある箱型の部屋から出て行く。彼女がその場所からいなくなると残った人物に話し始めるミリクナは問いただすような口調であった。
「カルマイネさん、この調合で彼の特別の飲み物をお願いします。それと念の為、さっきの薬も何個か造り置きして貰えませんか? 必要な物があれば組合に取り寄せさせますが」
「あ、あ、あの、こ、こ、これと、これを、御願いします。り、りょ、量は一樽は必要なので、だ、大丈夫でしょうか?
み、みっ、三日程は余裕がありますのでお願いします」
ミリクナより自分の方が年上なのに何時も畏まってしまうカルマイネである。それに緊張しているのか、話す言葉がたどたどしい。
「分ったわ。こっちのは確か、ここら辺の土の中に居たわよね? 今晩探してみるわ」
そんなカルマイネに対して呆れながらも最後にカルマイネに質問して、返事を聞くと箱型の部屋から出て行くミリクナ。彼女がここから出て行くと気味悪い笑みを浮かべるカルマイネである。
彼女は料理人になった頃、ギムネーヤと同じ薬膳料理に興味を持ち、次第に薬草にのめり込む。最終的にこの大陸中の薬草から毒薬まで手を出して、今では奴隷組合で一、二を争うその道の専門家である。
そのお陰でこの中隊に奴隷組合から派遣されたのである。しかし、そのような事をやっていた為、未だに独身で見た目は20台だが彼女は今年で30歳であった。
その彼女が独身である理由はその薬のせいばかりではない。極端に人見知りの為、特に男性の前では極度に緊張してあがってしまい、話が旨くできないのも理由のひとつなのかもしれない。
その彼女は薬を調合する事が何よりの喜びで、今も薬が調合できる喜びをかみ締めていた。ふと、我に返りるカルマイネ。今晩のリョウジの為の薬を作りに、料理馬車の後ろの荷台の方に向う。
しかし、そこにリョウジがいる事を忘れていた為に、荷台に上がると思わず「キャッ」と、悲鳴を上げてしまう。リョウジは寝ていた為、ほっと安心するカルマイネ。
荷台の奥にある机に行き、照明を作動させ明かりをつける。次に、壁の魔技箱から道具を机の上に出し、同じ並びにある各種薬草が入った魔技箱の扉を開け薬草を出して気味悪い笑みを浮かべた顔で薬を調合し始めるのであった。
☆ ☆ ☆
俺は急に頭上が明るくなり、眩しさを感じて目を覚ましてしまう。
あれ、なんか明るい。頭の上の方から明かりが見える。そして、奥の方に誰かが居るようだ。寝ぼけ眼を手で擦り寝袋から起きると、この荷台の奥に人が居る事に気付く。
あれ~、誰だろ? その顔を見た俺は驚愕する。あれはやばい、何かやりながらニヤケている様にも見えるし、空恐ろしい表情にも見える。それは、あんな表情で夜中に出会ったら、小便ちびっちゃうレベルである。そんな事で思わず声を上げてしまう。
「うわ~~~~っ。だ、だ、誰ですか?! 俺は美味しくないですよ?」
そんな声を張り上げてしまい、寝ていたベットから落ちてしまう。
その声に驚いた彼女も大きな声を上げ泣き叫ぶ。すぐに荷台の出入口の方からメルディムさんが顔を出し様子を伺いにやって来る。
「大丈夫ですかカルマイネさん? 何がありましたか?
‥‥‥。あっ、カルマイネさん落ち着いてください! 今、私が来ましたから、その袖のものは仕舞って! 早く仕舞って~‥‥‥」
そして、メルディムさんの後ろから黒猫ちゃんのクワビムさんがやって来て、何か叫び出しながら身を乗り出す。
「あ~~~っ、とうとう現場を押さえることが出来ましたね! 姫様~!
これでこいつにあんな事やあんな事できますよ! さあ、捕まえましょう!」
へっ? なんかおかしいよねこれ。俺がカル何とかさんを襲った状況にされているよね?
なんで? いやいや、俺は何もしてないよ? したのか?
「あう、あう、あ、あのですね。違いますよ?」
そんな言葉にならない声を出す俺であった。
後編へつづく
後編は明日10/15の夜に投稿します。




