<1-13> 「年季奴隷で秘書検定?」
最新の本文修正日は2014年10月20日です。
馬車村近郊の石切り場で「ビックリ人族ショー」を見せられ、魔素術の一端を知る事が出来た俺ですが、一番心に残ったのは馬車村に戻り風呂に入った時のプイホンさんの「アワアワショー」であった。彼が洗われる姿を見られて俺の心も洗われてしまう。
風呂場の出来事の後に酒に酔ったプイホンさんにも出会え、更に抱っこをしようと身構えるが奴隷長にその役を奪われ呆然としてしまう。その状況にヤケ酒をしようにも手持ちの奴隷銅貨が無いので、大人しく部屋に戻る俺であった。
部屋に戻った俺は一番上のベットに上がり毛布に包まりいつの間にか眠ってしまう。その晩は夢を見なかったが、昨日と同じようにプイホンさんに早朝に起こされる。
起き上がると荷物をまとめ、ベットの下に降ろして床に荷物を置く。食堂にプイホンさんと共に行き、朝食を食べ昨日のパンがまだあったことを思い出す。
朝飯を食べ終わり、部屋から荷物を取って来て建物の外に出ると、馬車はもう準備が整っていたようで外に並んで待機していた。自分の荷物を魔技箱に仕舞い、道具袋を持って指揮車に向う。途中出発一刻前、約30分前の合図が聞える。
指揮車に着き、ドアをノックする。扉が開いてアミュネス少尉と入れ違いになり、彼女は後ろの指揮車に向って行く。
俺が指揮車の中に入ると待ってましたとばかりに、羊皮紙の束を渡される。今日は全部で30枚もあった。分からない所が無いかペラペラとめくり中身を確かめる。
一昨日の表計算と同様で横の計算をして縦の集計をするようだ。今度のは横の計算は一切やっていなかった。
算盤と小筆、メモ用の木の板も出して準備が出来た頃、大尉が出発の合図をして馬車が動き出す。暫く揺れていたが、動きが安定した頃を見計らって計算を始める。
最初はのんびりやっていたが、段々熱を帯びると素早く手計算を行う。その内、そろばんを素早く弾く事に集中して、目の前に居た大尉が居なくなった事に気がつかなかった。
大尉が何時ものように後ろの席で仮眠を取って、そこから起き上がった大尉が馬の休憩の合図で天井を叩いた頃には8割方の計算が終わっていた。
馬車が止まった所で出来た分の再検算をして大尉に渡す。また馬車が動き出して安定すると、続きを始め残りの計算をやってしまう。
残りが終わり再検算が終わった頃、大尉が追加でもう10枚程後部座席から羊皮紙の束を持って来ると、俺に渡して来る。まあ、計算をする事に乗っていた俺は、文句を言わずにそれを捲り計算をやり始める。
次の馬の休憩時間には合計40枚ほどの表計算は終わってしまう。羊皮紙の大きさを考えれば、1枚A4の用紙2枚分はあるから全部でA4の用紙80枚ほど消化した事になるだろう。
中身を確認しているジョルジョネ大尉はその中身を見ても何も言って来ない。馬車が止まり今日はお勤めご苦労様と言われメモした真っ黒になった木の板と新しい板に交換して貰い、道具をまとめて外に出る。
「また、やってしまった」と、外に出た俺は舌打ちする。仕事のペースを上げると、必ず次の仕事のハードルが上がり、後で後悔する量の仕事が増える事をすっかり忘れていた。すっかり集中して墨で真っ黒になった右手を見ながら後悔する俺であった。
あの時もそうだったな~‥‥‥。
確か、入社して2個目か3個目の現場だったかな?
その現場で設計図の変更で施工図の手直しを偶々手書きで直していたら主任に声を掛けられてしまう。
「お、阿佐賀君、君は施工図も描けるんだ?! じゃあ、これも出来るよね?」
そう言われ、施工図のCADデータが入ったCDROMと赤字でチェック済みの施工図一式を渡されたな~‥‥‥。あの時は呆然としたよな。
普通、施工図は専門の業者に発注して、手直しを含めて業者の責任で施工図を完成させてCADデータと共に建設現場に納品させる。それか、施工図専門の係員がいて、その人が責任持って施工図を完成させるのが一般的だ。
しかし、俺の居た会社は中堅ゼネコン。
多分、現場が大規模で、工事の工期が長ければ施工図専門の係員が居たり、業者も余裕を持って完成した施工図を持ってくると思う。
俺の居た現場は工期は短いし規模は中ぐらい。施工図の業者は会社の関係企業で、その社長は俺の会社の社長と同族で同じ経営である。その会社はまともに仕事をやった試しがない。
最初に出来上がった施工図は必ず真っ赤になって返品される。それをすぐ直して持ってくればいいが、チェックにそれだけ時間に掛かるのに直すのにも相当時間が掛かって再提出が遅い。
結局必要になる頃には「再」が3つ程ついても完璧には治っていないという。現場では施工図を間に合わせる為に現場事務所職員の負担になるのである。
別に施工図を書くのや、直すのが嫌いじゃなかったが限られた時間に寝る間を惜しむのが精神上宜しくない。
ストレスがたまり、現場の所長や主任がビールを飲みながら机に向って仕事をしている姿と同じように俺は夜食やスナック菓子を食いながら図面を直していた。お陰で寝る前にビールを飲む習慣が身につき、この腹と体重が増えた。
そんなある日、主任に施工図業者を替えられないのですかと一度文句めいた事を言ってみた。しかし、返って来た言葉はガッカリする言葉であった。
「俺はまだ首になりたくないんでね」
そんな言葉と顔が引きつった主任の表情に唾を飲む。何を言っても駄目な現状にその後は流される。
そうして新たな能力を上の人に見られるとドンドン仕事が増えていき、毎日終電か、事務所に寝泊りする日々を送った事を思い出す。そんな事を思い出しながら前の馬車に向って歩いて行く。
すると、そんな俺の心を癒してくれるプイホンさんが丁度、馬の水飲み台を仕舞う所だったので一緒にそれを手伝う。
その後、プイホンさんに水を出して貰い手を洗い、座席に戻り道具袋を仕舞うと、リュックから昨日のパンを出して頬張る。
パンを頬張りながら荷台の前にあるコップに水を入れ飲み干す。コップを濯ぎ、戻してから揺れる馬車に気を付けながら自分の何時もの席に戻り座る。
席に着くと今日は久しぶりに頭脳労働をして疲れてしまい、馬車の心地よいリズムに思わず眠りこけてしまう。
気が付くと馬車は止まり、皆が降りている所であった。俺は飛び起き野営の準備を手伝う。テントと寝床の準備が出来て、晩飯にありつく為に仮設の食堂へとプイホンさんと共に向う。
配膳の列に並んでいると、俺の所にミリクナ医務長が現れる。
「夕食を済まして、会議用の天幕に来るように」
そんな事を言われ頭をかきながらも頷き彼女を見る。良く見ると彼女も先ほどまで寝ていたのだろう、頭には寝癖が付いていた。
自分の番が来て具沢山のスープをよそって貰う。すると、何時も影から見ていた例の彼女がこちらの方に来て、皆とは別に木製のジョッキに得体の知れない白い液体が入ったものを俺のお盆に載せてくる。
俺が首を傾げるながらまじまじとその白い液体が入ったジョッキの中身を見ていると俺に声がかかる。
「体に良いから飲みな!!」
威勢のいい声でそんな言葉が聞えてきたかと思うと、ジョッキを載せた彼女が話したのではなく、声の主は料理長のギムネーヤさんであった。
その言葉に背中に冷たい物が流れ、俺が言葉に詰まっていると、後ろに居たこの前の親父が人事のように何か言って来る。
「飲んだほうが、いいんじゃね?」
その言葉に諦めが肝心なのかと、自分にも言い聞かせる。渡してきた人物の事を考えると飲まない訳にはいかない。仕方がなくそれを流し込む時にと、それとは別に水の入ったジョッキを貰い席に着く為に移動する。
空いてた席に座った俺はため息を付いてしまう。俺の背中にこのジョッキを渡した彼女の視線が刺さる感覚がしてとても痛い。振り返ると彼女が俺の方を見ているではないか! 周りの人も何か可愛そうな者を見るようで、目線を俺に合わせようとしない。
そんな状況を知ってか知らないのか、プイホンさんは俺の神経を逆なでするような事を言ってくる。
「あ、兄ちゃんだけ旨そうな飲み物があるね!」
仕様がない、俺は意を決してそのジョッキに口をつけ鼻を摘んで飲み干したが、結果的にそんな変な味はしなかった。
途中で息が苦しくなって普通に飲んだが、甘くも辛くも無いどころか、苦くも無かった。そのドロッとはしていたが無味無臭であった。
そして、具沢山のスープとパン二切れを完食して皿とジョッキを逆さにして、飲みました、食べきりましたをアピールをして彼女を確認する。
彼女は頷いて何かメモを取っていて、顎の方には下げたマスク? そのマスクのような物が見え、口はにやけた感じに口角が上がっていた。俺は義務? それを果たすと食器を下げ、会議用のテントへと向う。
テントではジョルジョネ大尉とアミュネス少尉、ミリクナ医務長の三人が俺が初日に何かの検査に使った道具を出してスタンバイしていた。俺は遅くなった事を謝ったが彼らは別に咎める事はなかった。
そして、初日と同じように座らされ、電極の様な物を左腕じゅうに取り付けられ最後に同じ電極の様なものが付いた帽子を被らされる。
また、例の魔素術の動作をやらされる。左手を上げ下げさせられ、待機する。そして、彼らの溜め息である。そんな事をまたまた、3度ほど見る事になる。
「あの~、一体全体、これって何をしてるのでしょうか? もしかして軍機ですか?」
「ああ、もうそろそろ話してもいい頃かな、魔素術も知った事だし。これね、その魔素術を使えるかどうかを調べる機械なんだ。君の生誕属性は分かったのだが、その魔素術の基礎である魔素力を調べるとな。
どうも君は他の人と違い、能力値がおかしくてな。実際俺らの真似をしても使えないだろう? その前兆的なものを見ていないよな?」
「あの~、生誕属性って、なんですか?」
「ああ、この大陸に生まれてくる人族が、生まれた時に持ってくる五大属性の内の一つでな。火、風、水、木、土という属性があって、くじ引きの様に生まれた瞬間に決る属性の事だ。大抵は親の属性に近いとされている。属性とは魔素術で扱える現象っていえば分るかな?
君はこの大陸生まれじゃないよね? だから、この土地に来て一番最初にこの土地産の物を体内に入れた時に多分影響されたと思われる。こっちに来てから最初に何か食べたか?」
「はぁ‥‥‥。あっ、そういえば。荒野に生えていた『サボテン』の。あ、え~と棘が一杯生えた木の様な物の葉と茎を少々頂きました」
「はあ? あれを食ったのか? 荒野の民に見つからなくて良かったな!
最悪袋叩きにあって殺される所だったと思うぞ?
因みにその影響だと思うけど、君の生誕属性は『木』で相関属性に当たるその両隣の『土』と『水』の属性を使えると思う」
「ひょっとして魔素術の属性って火は風に弱く、木は火に弱いといったような。そんな事があるのですか?」
「魔法術の相克関係の事を言っているのか? 魔素術はそんな物関係ない。火が風に吹かれて消えるような、そんな柔な物じゃないよ。すべては魔素力の大きさで決るので、属性で苦手な物に左右される事はない。」
「では、魔素力ってなんですか? 良く分らないのですが」
「あ~、分りやすく言うと、魔素術の考え方では、人には生まれながら持った魔素を扱う力があり、それぞれ『魔素を集める力』と『集めた魔素を圧縮する力』と『圧縮した力を放出する力』といい、それらを纏めて『魔素力』又は『魔素三要素力』といって魔素術の基礎になっている。
それで、君の魔素力の三要素の力の均衡が悪い為に、どうやら君は魔素術を使えないという事らしい。だが、多分まだこの大陸に来て日が浅い為に、このような結果になっていると思うので気を落とさないようにしてくれ。まあ、詳しくはまた道中で話すから今日はもう休んでくれていいよ」
ああ~、どうやら荒野で倒れる前に、袋叩きにあって殺される状況だった事に顔が青くなる。更に、今の状況と同じで年季奴隷で秘書という中途半端な感じな俺は、魔素力も中途半端で魔素術が使えないという状況らしい。
ミリクナ医務長に電極や帽子を外して貰い、自分の寝床に向いテントに入るが皆さんは既に寝ていた。暗がりにプイホンの寝顔がうっすら見えて、もやもやしていた気持ちが少し癒されてしまう。「寝よう」と呟き、サンダルを脱ぎ寝袋に入る。
ぐっすりと寝ていた俺であったが、夜中に便所に行きたくなって目が覚める。急いでサンダルを履き便所に向い、便所に入り用を足す。
便所を出ると何かの視線に気付く。ああ、この前もあんな暗闇に光るものがあったんだよな。そう、あんな感じで‥‥‥。またもや彼女だと思う。
目線を外しテントに行こうとしたら、後ろで「チッ」と、舌打ちした音が聞える。危なかった、黒猫ちゃんの罠にかかる所であった。
冷や汗が出る、こういう時はさっさと寝たほうが良い。テントに入りさっさと寝ようと歩き出すと、背中に尖った物があたる。
「おい、人族! 昨日は、馬車の中で姫様と何を話していた?
正直に言わないと、あんな事やあんな事するぞ?!」
ああ~、やっぱり昨日の彼女は俺の予想通りの事を口ずさんでいたんだなと、一人納得するが、背中の尖った物がチクチク痛い。どんな言い訳をしようかと考えていると後ろの方で「ゴツン」と、音がして「フギャッ」と、声を上げる。
「あ~ら、クワビムさん? 貴方はここで何をしているのかしら?
メルディム様に報告するわよ~。それに今の時間は貴方が馬の様子を見る番ではなかったかしら?」
「大丈夫よ! ボグフム姉さま~、私の相棒が見てるし~。
今、あたいは、この人族に聞きたい事が~~」
会話の途中で誰かが引きずられる音がしたので後ろを振り返ると、狼さんに首根っこを掴まれ、後ろ向きに引きずられて行く黒猫ちゃんの姿を拝む事が出来る。
何時までも引きずられていくのかと思っていると。
「いい加減! 自分で歩きなさい!」
そんな言葉が聞え、最後に「ゴツン」と頭を叩かれ、またもや「フギャッ」と、声を上げて暗闇に消えて行く。
「狼さんも結構良い奴なのかもしれない」と、心で囁く。さっさと寝る為にテントに向い大人しく寝床に入る。「当分はあの黒猫ちゃんと仲良くなれないのかな?」と、あほな事を考えながら何時の間にか寝てしまう。
朝は何時も通りに轟音で目が覚め日課をこなし仮設食堂の配膳に向うと、昨日の晩と同じジョッキに入った得体の知れないものを渡されてしまう。
例の彼女は何も言わないが料理長が威勢のいい声を上げる。
「体に良いから飲みな!
カル! お前が直接いいなよ!」
そのギムネーヤ料理長は最後にカルと呼ばれた彼女に文句めいた事を言う。
その彼女を見ると今は明るい所ではっきり姿が見えたので観察する。その彼女の歳は20代ぐらい? 年齢はそれぐらいで、身長は俺の口ぐらい有ったから155cmぐらいだと思う。
頭に灰色のスカーフ? 三角巾? そんな物を巻いていて、髪はショート? 周りの髪を後ろに縛っているのかもしれない。
それにはっきり目線が見えないように鼻の頭辺りまで前髪が長くて簾のようであった。そして、今日は口にマスクをしていて今一、表情が分からない。
服装はそこに居る女性共通の麻色のワンピースに灰色のエプロン姿であった。俺があまりジロジロ見ていたので彼女は馬車の陰に隠れてしまう。
そして、影からチラチラとこちらを見る。カルって呼ばれていたからカルさん?
カル何とかさんかもしれない。
席に着くと誰かが「がんばって飲めよ!」と、応援してくる。良く分らないが、がんばって飲むものらしい。
何が入っているかよく分らないが、今朝のは青汁ッぽい緑色をしていた。昨晩は確か白だったよな。これから毎日飲まされるのか? ‥‥‥。一気に飲み干した。
「うごっ」と、噴出しそうになるが堪える。昨晩は無味無臭であったが、今朝のは完全に青汁で、青臭い。口直しに朝飯をかきこんで水を飲んで流し込む。最後に何時もの動作をしてから食器を戻す。
やはり、カルさんは馬車から観察していて何かメモを取っていた。俺と目が合うと顎に下げていたマスクを上げ、馬車の影に隠れていなくなってしまう。そんな年齢不肖な人物であった。
指揮車に乗り込む準備をして、指揮車に着き扉をノックする。すると、今日は大尉がドアを開けて俺を招き入れてくれる。何時ものように羊皮紙の束を渡され計算の準備をしていると、大尉がニコニコしながら話し出す。
「しばらく体調の管理の為に君には特別な飲み物を支給するからな!」
「大尉、あれって何ですか? まさか常習性のあるもので飲み続けないと死んじゃうとか、そんな事は無いですよね?」
「ば、馬鹿な事を言っちゃいけないよ! 年季奴隷にそんなことしたら俺の首が飛ぶ!
気にしすぎだ! 二、三日もすれば体調が良くなると思う。だから、気にしないで飲んでくれていい」
今一、説得力に欠けるが、カルさんの出した物を飲まないと後が怖そうだしな~‥‥‥。まあ、俺に選択権はないか。そんな事を考えながら今日の羊皮紙はどんなものかと捲ってみる。
あれ? 昨日やったものとはちょっと違う。
う~ん、なんだか文章問題みたいなものが紛れ込んでいるぞ。おいおい、これってひょっとして俺の知識を調べられるのか? 2枚程そんな問題が書かれたものが紛れ込んでいた。
他のものは昨日までと同じ表計算である。大尉に聞こうかと悩んでいるうちに馬車は動き出す。そして、何時ものように大尉は後ろの席で寝てしまう。
仕方なく表計算の方からやり始めるが、昨日よりなんか桁が大きいし計算もちょっと複雑になってきている。まあ、枚数が少ないので助かるが、明らかにおかしい。考えても仕方がないので10枚程の表計算の方を片付ける。
あ~、計算をやっている内に、明らかにメモの木の板が足りなくなってきた。周りを見渡し大尉が何時も座っている椅子の上に木の板があったのでそれを拝借する。
横の計算に手間がかかってうまく進まなくて、頭をかきながら計算をしていく。結局、最初の馬の休憩時間まで横の計算で時間を取られてしまう。
俺は休憩の合図で起きて来た大尉に一言言ってみる。
「文章問題が間違って入ってましたよ?」
すると、大尉は明らかに目が泳いだ。
「今日の表計算はなんか難しいですね」
そう言って更に追い討ちをかけると、視線を外され言い訳めいた事を言ってくる大尉。
「あ~、気のせいじゃないかな?
確かに昨日よりは桁や計算が複雑かもしれないが、それは俺の必要な書類だし。
文章問題は~、あ、そうだ。ああ、君の秘書としての能力を確認するのに必要なんだよ? 秘書問題! そう、秘書問題だ! 難しかった?」
表計算はいいとして。後半、明らかに何か思いついて言い訳したよね‥‥‥。秘書問題って、秘書検定みたいなものか? ニコニコしてこちらの様子を伺っている大尉。
「じゃあ、文章問題が出来なかったら秘書を首になるんでしょうか?」
「へっ? ああ、気にしなくて良いよ! 出来なくても首にしないし‥‥‥。一応君の能力を見るだけだから出来なくても馬鹿にしないし、心置きなくやってみてよ!」
ああ、大尉がこんな顔で何かをさせる時って何か裏があるんだよね~‥‥‥。でも、俺に拒否権なんて無いよね。
俺は仕方なく彼に頷いて、表計算の残りから片付けていく。チラ見した大尉の顔には薄っすら汗が浮かんでいて、俺が黙って計算をやりだした様子を見てため息をする。
馬車がまた動き出し安定してから算盤を弾き出す。あとは縦計算だけなので30分もかからずに終わり、検算をして大尉に渡す。
次の文章問題を見ると図形の面積や体積、二次関数の問題まであった。あ~、小学生か中学生でやったな~と、懐かしくなる。二次関数の「X、Y、Z」は「甲、乙、丙」であった。
平方根らしい記号は見当たらないが、例題で一辺、一と書かれた正四角形の対角線の数字の前に見た事無い記号? 漢字? その文字に訳され「√」ではなく、読めない漢字1文字の横に漢数字の「二」が書いてある。
面倒なのでその文字に矢印を書いて「√」と書き込み、その「√」で計算して答えを出して書いてしまう。
1枚目は算数や数学の問題のようであった。2枚目は科学らしいのだがさっぱり分からない。辛うじて分かったのは建築力学のモーメント計算ぐらいで、それ以外は単位や記号は聞いた事のないカタカナ文字や読めない漢字に訳されて見える。
他の問題も同様に何かの化学式なのか、聞いた事ないカタカナ文字や読めない漢字に訳されて見えるのでこれも意味が分からない。
結局、次の馬の休憩時間まで一つ時で二時間弱経ってしまう。今日のはホントに疲れた。羊皮紙を大尉に返し、2枚目の言い訳を正直に話す。
「意味が分からない事柄が多すぎて出来ませんでした」
道具を片付け大尉に挨拶をしてから指揮車を出る。「問題を作った奴、出て来い!」と、愚痴を呟く。
指揮車を出ると、何か視界がおかしい。周りがグルグルまわって、急に寒気がしてくる。ああ、朝の青汁に当たったのかな? と、考えを巡らすが、足元がふらつきその場にしゃがみ込んでしまう。そして、そのまま前のめりに倒れて気を失ってしまう。
次に気が付いた時、うっすらと目が開き、誰かが「大丈夫か?」と、俺の頬を叩いたようだが、痛みはなかった。やがて、誰かに抱えられ、何処かに運ばれて行くようだ。
なぜか、抱えている人の毛? がチクチクしていて痛かった。やがて、何処かの荷馬車の荷台に載せられる。荷台に直に乗せられるかと思ったが、簡易ベットのような物の上に乗せられたようで背中がに柔らかい感触がする。
医務長のミリクナさんが俺の目蓋を指で大きくこじ開け、覗いてくる。ミリクナさんも何か言っているのだが何故か、声は聞えない。
ああ、なんか、やっと年季奴隷に慣れて秘書になったのに、自分の人生はこの見知らぬ異世界で終わるのかと嘆いた所で意識が無くなってしまう俺であった。
次話につづく
次話は明日10/14の夜までには投稿します。




