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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第1章 異世界で迷ったら奴隷になった 》 
13/229

<1-12> 「馬車村  (後編)」

最新の本文修正日は2014年10月16日です。

 俺の居た世界にも便利な道具が沢山ありましたが、それは科学技術に基いた物で主に電気を使用していました。


 この異世界でも便利な道具があり魔素術に基づいた物のようです。主に魔素と呼ばれる物を使用しているらしいですが、俺には良く理解できません。


 まあ、俺の居た所も電気を使用した道具が普及したのはここ150年であり、それ以前の庶民には電気など良く分からない物でしたよね?


 俺は今、そんな状態です。


 そんな事でゴーレムが岩の塊を軽々切出し、そのゴーレムが岩の塊を2次加工場に運ぶ様を見せ付けられた俺ですが、更に木材を切るように石を切断する人達や、そんな常識外れの様相を見せ付けられた為に、先程紹介された人達の名前の事などすっかり忘れてしまうのであった。






 次に休憩を挟む為に食堂に案内される。



 途中の建物の影から何かを咥えて走り去る野生化したプイホンさんの姿を見たが、彼はまだ仕事があるようで別の建物へ走り去っていった。


 走り去った彼の腰に着けていた革袋は若干膨らんでいた様に思える。着実に仕事をこなしている彼である。彼が咥えたものは、はっきり見えなかったが多分鼠だよね、あれって。



 だから彼は朝食のパンを何時もは革袋に入れるのに今日は持って行かなかったのかと独り納得する。多分、彼の取った物の何匹かは彼の腹の中であろう。そんな事を考えていると食堂に連れて行かれ、テーブルの方に案内される。



 テーブルにはハムサンドのような軽食が置いてあり陶器のマグカップに大き目の陶器のポットで紅茶のような液体を入れてくれる。例のホット麦茶であった。


 アミュネス少尉がテーブルに置いてあったお絞りの様な物で手を拭き、ハムサンドを食べたのを確認してから俺も手をつける。割と美味しかった。ハムが若干塩辛かったがこれがここの味なんだろうと思う。



 暫しの雑談をしながら休憩をして、休憩後の予定を話している会話を黙って聞いていると、どうやらアミュネス少尉の槍術の演舞を見学できるようだ。


 仮設の演習場に、5mほどのゴーレムの形をした岩人形が10体ほど置いてあるそうだ。この日の為に作った訳じゃないらしい。


 先にアミュネス少尉が演舞するようで準備の為、先に休憩所を出て行ってしまう。残された俺とミリクナ医務長、それに何とか少尉と何とか少尉候補生は別に何かを会話することなく、暫くしてから仮設の演習場に4人で向う。




 仮設演習場の広さはサッカーフィールドが4枚入るぐらいあり、芝生では無くむき出しの土を平らにしてある地面であった。


 アミュネス少尉は革の手袋を嵌め先程の制服のままで演習場の中央で待っていた。俺らが来ると彼女は演習場の端の方に歩いていき中央から100m程離れた位置に立って何か準備をしている。



 俺達は演習場の中央付近で演習場から50m程離れた所で見学する。石の人形は彼女と反対側200m離れた所に5体、彼女から100m離れた中央に5体並んでいる。演舞と聞いていたのだが、どうやら演舞ってよりはビックリ人族ショーでもやるようだ。



 アミュネス少尉が例の投槍を地面から拾い投げ、準備をしている。この前、朝見た距離と同じぐらいだろうか?


 彼女は投槍を構え例の左手で魔素術で投槍に左手をかざす。この前と違い勢いをつけて水平に投槍を投擲する。



 あ~、皆さんは目の前で音速を超える物体が目の前を通過して行くさまを見た事があるでしょうか?


 俺はテレビなんかでジェット戦闘機が音速を出して上空を飛びぬけていく様子は見た事があったが、この目の前で見るとは思わなかった。


 彼女が投擲した投槍が徐々に加速していき、まるでミサイルの様に俺の前を通過する頃には衝撃波と轟音がして、それからは目で追う事が出来なかった。


 何かが爆発して気が付いた時にはそこに在ったはずの5mの岩人形が粉々に爆砕して破片がそこら中に降り注いでいる状況であった。



 次に彼女は長槍を両手に持って構える。そして、暫く槍を振り回した後、かすかに聞えた「雷光撃破」と、槍を打ち出した瞬間左手の手袋付近が光った。それと同時に長槍の先端から稲光を放ち演習場中央に立っていた岩人形にぶち当たったようだ。


 これも目では追いきれなかった。轟音で岩人形が破壊された音に気付いて振り向くと、こちらに破片が降ってくる様子が見える。


 あ~、俺はここで破片に当たって死ぬのかなと覚めた目で見てしまう。結果的に横で見ていた何とか少尉候補生が彼の魔素術で見えない壁を発動して破片がそれに当たり跳ね返って行く。


 あ~、そうだよねこの人達もどうやらビックリ人族ショーに出演するらしいです。



 最後に彼女は地面に何やら長槍の石突で描いている。どうやら魔素陣の実演をしてくれるらしい。描き終わった彼女が左手を魔素陣にかざしてなにやら言っているように見える。


 最初に陣にかざした手袋が赤く光だし、次に魔素陣が青白く光りだしたかと思うと空が急に曇りだし、ゴロゴロと空から音がする。稲光が輝いたかと思うと一番離れていた所に並んでいた岩人形の一つに雷が落ちたようだ。



 雷の落ちた轟音がして岩人形が崩れる様子だけ見える。俺の横の2人の少尉と少尉候補生は拍手をしながら何か言っていた。話の内容は「俺ならこうやって防ぐ」とか「噂で聞いていた通り、雷の属性は凄いですね」と、そういう話である。



 彼女が地面に長槍を置いていたのだと思っていたらどうやら違うようだった。魔技箱の鞄バージョンがあるらしい。槍を地面に垂直に刺していくと、最後に地面の中に完全に収まってしまう。そして、何かを閉じる仕草をしてアタッシュケースみたいな物を片手に持ってこちらにやって来る。



 個人用の持ち運びできる魔技箱なのか? いつの間にか彼らの足元にも置いてあった。っていうか彼らに余り興味が無かったので、唯単に持っていたのを気付かなかっただけだ。


 今度は何とか少尉候補生が見せてくれるらしい。彼もアタッシュケースを持って演習場の端に歩いて行く。端に着くと、彼はケースを開き長い棒状の物を出し始める。アミュネス少尉と同じ長槍かと思われたが違うらしい。



 最後に出てきたのは槍先に手斧ぐらいの大きさの斧が付いて柄の長さは3m位、多分ハルバートだったかなあれって。そして、彼も何回かそれを振り回し構える。そして、左手を離し魔素術の動作をする。すると、左手付近からバレーボール大の水の玉? その水玉を3個ほど出して空中に浮かせてしまう。



 彼は両手にハルバートを持ち勢い良く振り回してその水の玉にハルバートの斧の部分に当てる。俺はそこで水の玉は割れるか切断されるのかと思ったが違ったようだ。


 斧に当たった水は割れず斧に弾かれて三日月状になり中央付近の岩人形の腕に当たり、腕を切断していく。次々に浮かんでいる水の玉にハルバートを当て岩人形に当てていき、当たる度に何処かの部分が切断されてしまう。結果、3個の水の玉をハルバートで弾き岩人形を半壊させてしまう。



 次に、彼も地面に魔素陣をハルバートの石突で描き、同じように発動させると彼の魔素陣も青白く光る。今度は一番離れた岩人形の頭上10mぐらいの所に自動車ぐらいの氷の氷柱が出現する。それが急速に落下して下の岩人形に当たり破壊してしまう。どうやら彼はこれで終わりのようだ。




 いよいよ、何とか少尉がこの場で準備する。アタッシュケースからは良く米国の警官が持っているような警棒? 沖縄古武術で使うトンファー? そのような物を1本出して、両手に金属製のガントレットを嵌める。ガントレットは多分、拳で岩人形でも砕くのであろうか?



 俺は彼が近接格闘をやるのであろうと思ってしまう。準備が出来て演習場の中央の岩人形の方へ駆けて行く。そのまま、左手で何か発動して勢い良くジャンプする。その反動で右手でトンファーを振り回し岩人形に当てるのかと思ったが、違ったようだ。



 軽く6mはジャンプしたように見えて岩人形の頭上で右手に持ったトンファーに左手をかざす。すると、トンファーから炎の刃が伸び、それで岩人形の上から切りつけ真っ二つにしてしまう。その勢いで、中央の残りの岩人形をぶった切る。


 そして、地面にトンファーで魔素陣を描き陣を発動させると、今度は魔素陣が黄色に光る。



 突然地面に振動が起きて、俺は地震が起きたのかと思い少し慌ててしまう。ここから演習場の端に残りの岩人形が見えるがその地面の周辺が急に盛上り岩人形が地面に飲み込まれてしまう。結局、彼は俺が予想したガントレットで岩人形を砕かなかった。まあ、どうでもいいけどね‥‥‥。俺が分かる訳ないよね?




 どうやら、ビックリ人族ショーは終わったようで、3人の尉官は彼らの世界に入ってお互いを誉めあっている。


 「魔素陣を発動する時は陣全体が色々な色で光るのですね」



 そんな彼らにそういった感想をいうと「はぁ? 素人が何を言ってるんだ?」的な表情をされてしまう。




 「光るのは左手に身に着けている魔素結晶の欠片だぞ?」




 どうやら俺だけが魔素陣が光って見えたようで、何か気まずくなる


 「ああ、そうだったんですね、私の勘違いでしょう」


 半笑いになりながら彼らにそんな事を言って話を誤魔化してしまう。唯一人、ミリクナ医務長は俺にしゃがむように話してくる。その彼女は俺がしゃがむと俺の目の様子を観察して異常が無いか確かめたようだ。



 ああ~、女の子にそんなに近くで見られると顔が赤くなる。と、あほな事を思っていた俺の目は異常が無かったようで、直ぐにミリクナ医務長は俺を解放してくれる。そして、何かブツブツ言いながら建物の方に向って行ってしまう。



 そんな俺を他所に3人の誉め合い合戦は終わったようで、彼らもアタッシュケースを持って建物の方に会話しながら歩いて行く。その会話を聞きながら俺も付いて行くと、他の日本人が聞いたら何処の中二病患者だよというレベルの会話に俺は付いていけなかった。




 「俺の知り合いは魔素陣で炎を魔獣の形にして攻撃する‥‥‥」




 「内の大尉は一回の魔素術動作で火球を十連打する‥‥‥」




 そんな内容の会話が聞えてくる。最後に話していたのはアミュネス少尉であった。と、いう事は内のジョルジョネ大尉の事らしい。



 建物の中に入り廊下を歩いて行くと、扉の前で立止まる3人。扉をノックして中から返事がする。3人が中に入り俺は廊下でぼけっとしていると、アミュネス少尉に呼ばれて一緒に中に入る。中には最初に俺達を迎えてくれた何とか大尉が居て、どうやらここは彼の執務室らしい。



 アミュネス少尉が今日の見学のお礼を話し、お辞儀をしたので俺も釣られてお辞儀をする。それで今日は帰隊する旨の話をして、何とか大尉も「これからの道中気を付けるように」と、そういう話をしていた。


 そして、朝会った時にした敬礼をして、アミュネス少尉も答礼する‥‥‥。答礼した瞬間を偶然横から見えてしまう。


 地面が地震で揺れた時と同じように彼女の胸に左手の拳が2回当たった後、それは揺れた。直ぐに収まったがたしかに揺れた。ああ、ちょっと見ただけなのでチラ見ですよ? ガン見したら正面の彼らに見られるじゃないですか‥‥‥。本当にチラ見です。



 そんな一瞬の出来事に得した気持ちになった俺は、その彼女が部屋を出て行くようなので先に扉を開け廊下に出る。彼女が廊下に出ると、俺が扉を閉める。


 そんな俺とアミュネス少尉が建物の外に出ると、何時の間にか今朝乗ってきた馬車が廻してあり、4人の護衛隊の人達もそれぞれの乗り物に跨っていた。



 馬車の扉を俺が開け、彼女を先に乗せようとする。その時、気が付けば良かったのだが彼女はプイホンさんが座席にいた事に目を付け、隣に座ろうとした。


 しかし「キャッ」と、いう可愛い声を出してプイホンさんから離れる彼女。俺が中に入り良く見るとプイホンさんは体中真っ黒になり寝ているではないか。


 更に口には食べかけの何かの尻尾が口からはみ出ている。プイホンさんは立派に仕事を果たし、ご飯を食べてどうやら途中で腹いっぱいになり寝てしまったようだ。


 食べかけの尻尾は「プイ」という小型の獣の尻尾のようだが、どう見ても鼠の尻尾であった。凄く幸せな感じで寝ているプイホンさんに心が癒される俺。



 結局、今朝ここに来た時と同じ席順で座り、俺とアミュネス少尉は向かい合って座る。彼女の隣には先に演習場から出て行ったミリクナ医務長が寝ていた。


 外から馬に跨ったメルディムさんが窓から顔を覗かせ、少尉に今日の演舞の話をしている。周りには居なっかったようだが何処からかで見ていたようだ。




 「いや~、久しぶりに鬱憤うっぷんを晴らせましたよメルディムさん!!


 この目の前の猫ちゃんは尻尾を触らしてくれないし、大尉は気持ち悪い表情で微笑むし、そんな事で鬱憤が貯まってたからね~」




 「ああ~、それであんなに張り切ってたのかい? 久々に稲光を見たけど相変わらず痛そうねあれ」




 いやいや、痛いとかそういう問題じゃないでしょ! 当たったら確実に逝けますよあれ。おまけに「私には効かないけどね!」と、ニヤッとして窓から離れていってしまう。そんな状況を目で追うと。黒猫ちゃんと目が合ってしまう。



 なにか口ずさんでいるようで、もしかしたら「私の姫様と何を話している人族め! 必ず殺す!」と、言ってそうで怖い。尻尾も不満さを表現するように大きくバタバタ素早く大虎の背中を叩いている。


 ああ~、俺と話した訳じゃないのに、無実だよ~と心の中で叫ぶ。そして、彼女はプイッと前を向き視界の中から消えて行く。




 帰る準備が出来たのか、馬車は馬車村へと向って走り出す。行きと違い帰りのプイホンさんはどうやら安全に過ごせるようであった。


 俺の方は今日の最初の起きた事でショックを受け、更にビックリ人族ショーに呆れ果て、今日はもう少尉には何も聞く気は起きなかった。その少尉もお疲れのようで壁に寄りかかり外をボ~と、眺めていた。


 夕方には馬車村に到着し、村に入ってから外の様子を観察していると、結構プイホンさんのような土猫種? そんな土猫種のような、それらしい獣人族けものびとぞくを見かけることに成功する。


 町に着く頃に起きたプイホンさんに聞いてみたが、あれは種族が違うと言われ、彼らとは性格も違うし習慣も違うと教えてくれる。


 まあ、確かに色は赤茶虎なんだが体毛が全体的に長かったような気がしたし、顔付きがちょっと違う感じもした。住んでいる所で微妙に違うようだ。



 そんな景色に見とれていると、どうやら宿泊施設に着いたようで、わき道に入り建物の裏手に周る。到着して、御者さんに安全に帰ってこれたお礼をして馬車から離れる。馬車を出て部屋に戻ろうとするとアミュネス少尉に声を掛けられる。




 「ミリクナ医務長とリョウジは大尉に報告する為、私と一緒に大尉の部屋に向うように」




 プイホンさんは沢山詰まった革袋を両手に抱えスキップして部屋の方へ行くようだ。「プイホンさん、君ねそのまま部屋に行くと、きっと奴隷長に手を引張られてお風呂行きだよ?」と、心の中で囁いた。天国から地獄へ一直線だよね~‥‥‥。「あ~、俺が代わりに洗いたいのに!」と、思いながら大尉の部屋に3人で向う。



 ドアの前で再び声を掛けられる。




 「順番に報告するので、最後まで待って居るように!」




 アミュネス少尉にそう言われ、俺は廊下にあった椅子にリュックを抱えボーッと、して座る事にする。先に少尉が報告するようで、ノックをして中に入っていってしまう。そんな彼女を眺め、自分の番が来るまで待つ俺であった






☆  ☆  ☆






 先にジョルジョネ大尉の部屋に入ったアミュネス少尉は疲れた表情を見せながら、ジョルジョネ大尉に報告を始める。




 「ただいま戻りました大尉、まあ、彼は結構驚いていましたが、特にこれと言って報告する事はありません」




 「ああ、アミュお帰り~。そうか~、その顔を見ると鬱憤を晴らして来てくれたようだね。よかった‥‥‥。ああ、それとプイホン君は立派に仕事をしてくれたようだね。分かった、明日からまた頼むな」




 「では失礼しました」




 「ああ、ご苦労様~」




 ジョルジョネ大尉の反応に首をかしげながらもアミュネス少尉は部屋を出て行くのであった。






☆  ☆  ☆






 何分経ったか分からないがアミュネス少尉が出てきて、ミリクナ医務長に目で合図する。そして、彼女が中に入って行く。去り際のアミュネス少尉の何か勝ち誇ったような表情に疑問を持ちつつ自分の番が来るまで考える。なんで俺が最後なんだろ‥‥‥。分からない。






☆  ☆  ☆






 先程とは違ってジョルジョネ大尉の部屋に入ったミリクナ医務長に先に話し掛ける大尉。




 「ああ、ご苦労様、医務長。何かありましたか?」




 「少尉が演習場で魔素陣を発動させた時、彼は陣が発動する光を見たそうよ。他の尉官達も同様に陣を発動させた時も同様らしいわ。彼女は気が付いたのかしら? 彼の目を見せてもらったけど異常無いように見えたわ。まあ詳しく調べないと分からないわ」




 「ヘッ? 魔素結晶の欠片が光ったのじゃなく? ふぅ~ん‥‥‥。もう一回検査して診るか? ああ、ここじゃなく野営地で!


 あ~、俺も魔素陣が発動する時、光が見えるって奴を知っているのだが‥‥‥。すっごく恐ろしい奴でな『そんなしょぼい光を放つ魔素陣で俺を倒せるものか!!』って言い放ち、いたいけな青年だった俺を療養所送りにした奴がそんな事を言っていたな~‥‥‥。ああ、思い出しただけで身震いする」




 「はぁ、そうなんですか。私も一人だけ思い当たる人物を知っていますが、多分同一人物でしょうね、一応それだけですよ。この事は組合・・には報告しますわ、それが私の仕事の一部ですから。でわ、失礼しました」




 「ああ、君も彼女を知っているのか‥‥‥。ああ、構わないよ。但し、隠し事はお互い無しでお願いします。お疲れ様でした」



 ミリクナ医務長が出て行った後、少し考え事をするジョルジョネ大尉。木の板に何かメモ書きして、再び書類に目を通すのであった。






☆  ☆  ☆






 ミリクナ医務長が大尉の部屋から出てくる。次が俺の晩だと彼女は教えてくれる。ようやく俺の番らしい、ノックをして中から確認の声がする。中に入ると彼は机に向って何か書いていた。扉を閉め、俺が扉の前に立っていたのが不思議そうに質問してくる大尉。




 「あれ? どうしたの? 何か有った? ‥‥‥」




 そんな事をいったかと思うと大尉は不思議そうな顔をする。


 「えっ? いや、アミュネス少尉が『大尉に今日の事を報告しろ』と、言ってまして‥‥。報告しなくて良いのでしょうか?」




 「あっ、まさかと思うが、プイホン君は無事だったよね?」




 「はぁ、出発した時は、一応俺が彼女に色々と会話して彼に手を出すのを防ぎましたが。それが何か?」




 「君ね、彼女に嫉妬されているのだよ。四六時中プイホン君を独占しているからな」




 「いや、独占なんてしてませんよ?」




 「だから、今日の最後にプイホン君と一緒にお風呂に入れないように、ここに寄越したのかもな! だが、折角来たのだから、今日の感想を聞こう!」




 あ~、どうやら、こちらの「モフリスト」の嫉妬を買ってしまったらしい。敵が2人に増えてしまった。仕方なく、今日見た出来事の感想を話し、3人の尉官に馬鹿にされた魔素陣が光った事の話はしないで報告を終わらした。


 その後、彼は特に何も言っていなかったが「岩人形、凄いだろ」とだけ、どうやらガルボルテ工作長も使えるらしい。


 彼ら「山人族やまびとぞく」は彼らの種族特性であのようなゴーレム、彼が言うには『岩人形』と、呼ぶらしい。それを練成して使役できるらしい。


 ただし、常にゴーレムに触れていないと駄目という事で、それに長時間は動かせず、連続半日以上動かすと2日程疲労の為に寝込むらしい。だから、直接ゴーレムに乗っていたのかと感心してしまう。やっぱり重機みたいだと心の中で突っ込む。




 「明日は通常の移動日になるので今日は早く寝るように。それと、明日の朝から、また指揮車に同乗するように」




 最後にそのようなことを言われ、何個か質問をしようかと思ったが、またもや出鼻をくじかれた俺であった。仕様が無いので挨拶をして彼の部屋から出て自分の部屋に向う。




 俺は明日からまた移動だと聞いたので暫く風呂に入れないかもしれないと思い、着替えを持って浴室に向う。どうせ、プイホンさんの「アワアワショー」は見逃したと半ば諦めていた。


 脱衣所で服やサンダルを脱ぎ、浴室に入ると「フギャ~」と情けない声がして「ほら!! しっかり立ってろ!」と、ゴナベルさんの声がする。



 洗い場の個室の前を通るとプイホンさんが泡まみれでゴナベル奴隷長に洗われている。なんで奴隷長がプイホンさんを洗ってるんだ? と、首を傾げていると後ろからドルバン車長が来て話しかけてくる




 「ゴナベル奴隷長、故郷に息子と妻を残してここに居るからな。確か、息子があれぐらいの見た目の年齢なんだとよ」




 ああ、自分の息子と重ねているのか‥‥‥。だけど、うらやましい~。代わりに俺が洗ってあげたい。一通り洗い終わったようで今度はプイホンさんが糸瓜へちまのスポンジみたいなものに石鹸で泡を付け、ゴナベル奴隷長の背中を流すようだ‥‥‥。ああ~、うらやましい~、代わってほしい。



 仕方が無く自分の体を洗い流して、浴槽につかる。ゴナベルさんとプイホンさんが来て湯に浸かってきたので、俺が今日のプイホンさんは大活躍した話をしてやる。すると、プイホンさんの髭がピンと上がり尻尾がお湯から顔を出す。ああ、水にぬれた猫も可愛いよ~と、心の中で叫ぶ。


 どうやら、先に2人は上がるようで、プイホンさんが「食堂に来てね!」と、俺に向って言っていた。



 俺は風呂から出る前に自分の下着を洗い、そして絞る。着替えてサンダルを履き食堂へ向うと、テーブルの上の大皿に何かの串焼きみたいなものが置いてあり、塩が振りかけてあった。


 晩御飯は別にサラダと今日のメインは川魚? まあ、何かの魚の塩焼きらしい。そして、スープとパンである。塩焼きの魚には大根おろしと白いご飯だよね? ‥‥‥。無いので諦める。



 大皿の前には木のジョッキで多分中身は酒で、そのジョッキを持った人達が屯していた。俺は奴隷銅貨を持っていないので多分お酒は飲めないと思い、そこから少し離れた所の席に着き晩御飯を食べ始める。


 すると、プイホンさんが大皿の串を手に持ってきて、どうやら俺に食べろという事らしい。「いや~、得体の知れない物は遠慮したいな」と、思ったが串ごと口の中に入れてくる。


 小骨がコリコリしていたが割りと旨かった。プイホンさんを見ると目が据わって酒臭い。ああ、酔っ払っていらっしゃる。その顔も可愛いよと思っていると俺に話しかけてくる。




 「兄ちゃん! おいらの取ったプイの塩焼きは旨いだろ? もっと食え!!」




 ああ、やっぱりそうですよね~、昨日の肉も何の肉か分からなかったけど。まあ、悪くは無かったのでいいけどさ、目の前であの姿見ちゃうとね、想像しちゃってね。そんな事を思っていると、そのままプイホンさんは床に倒れてしまう。



 まあ、晩飯も食ったし。グフフ、始めての抱っこである。俺が抱き上げようとすると、ゴナベル奴隷長が来て「しょうがねぇ奴だな~」と、言いながら彼を連れ去って部屋のほうに行ってしまう。





 そこには呆然とする俺だけが一人、その場でぽつんと立っていた。




 次話へつづく

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