<1-11> 「馬車村 (中編)」
最新の本文修正日は2014年10月16日です。
馬車村という所に着いたのは日が暮れて辺りが暗くなってからであった。周囲を観察するのは明日の朝かと思っていた俺ですが、部屋に荷物を置いた所で大尉に呼ばれ、着替えを5組支給されると、明日の予定も聞かされる。
明日の予定は俺とミリクナ医務長とアミュネス少尉で何故だか馬車村近くの石切り場の見学だそうです。護衛にメルディム護衛隊長と部下3名が付くVIP待遇なんだか、監視の為なんだかよく分からない待遇で見学するように言われてしまうのであった。
着替えを貰って部屋に戻ったが、既に皆さんは晩飯にでも行ったのか誰もいなかった。ドアにはこの建物の平面図が書いたものが貼ってあり、食堂に浴室、便所に各宿泊室等が羊皮紙に書いてあった。どうやら、ここは平屋建てらしい「まあ、土地が腐るほどあるからね」と、独り呟く。
俺は首にタオルを巻き、着替えをリュックに入れて食堂へと向う。食堂は混雑しているかと思ったが、50人程で混雑はしていなかった。多分、風呂に行っている人もいるのかな? 俺は迷ったがお腹がそれを許してくれなかった。
夕食のメニューは何時もと少し違って、今日は新鮮な野菜サラダと肉料理、スープが付いていた。それにテーブルにパンが載っている。今日はちょっと豪勢だな‥‥‥。ビールが飲みたくなる。
冷えたビールが飲みたい‥‥‥。きんきんに冷えたビールが飲みたい。無い物を欲しても虚しいだけだ。大人しく食事をして、ドアに貼ってあった平面図の浴室の場所へ向う。そういえばプイホンさんが居なかったが何処にいったのかな?
食堂にも居なかったが浴室の脱衣室に来ても、当然居るはずも無かった。浴室は銭湯と同じで当然男女別なのだが、女風呂は男風呂と離れた場所にあるらしい。
まあ、俺にはあの「鉄壁の要塞」に乗り込む勇気は無い。万が一覗くと剣やクナイがきっと飛んで来るよ。
脱衣室はいたってシンプルで天井に例のランプが2個ほど吊り下がっていて、木の棚に大きな籠が置いてあり、そこに脱いだ物を入れるようだ。
それに、靴をここで脱ぐようでサンダルを籠に入れてあるものが多い。足元を見ると木製のスノコが敷いてあり、俺も同じようにして服やサンダルを籠に入れ、リュックを籠の上に載せる。
浴場の扉は木製でガラス戸ではなかった。中は通路が二列ありそれを挟んでシャワールームのように個室のような仕切り部屋が4列に10個づつ並んでいて、全部で40部屋もあった。
扉は無く中を覗くと石鹸らしいものと小さな手桶が置いてあり、大きな樽が隣の境壁にあったが人が入る程じゃない。多分シャワー代わりにここで体を洗い樽のお湯で流すのであろう。常時チョロチョロとお湯が上から管を伝って流れている。
樽に入れるよりシャワーの方がよくね? 掛け流しか~? 温泉でもわいているのかな? しかし、硫黄の匂いはしないし‥‥‥。また、便利な道具でお湯を沸かしているのかな?
周りをチラ見すると裸でタオルを腰に当てている人がいて、日本の銭湯と同じような雰囲気で何か安心してしまう。
さて、一週間ぐらい風呂に入っていなかったし、まずは個室の樽のお湯を浴び石鹸とタオルで体を念入りに洗う。
体を洗い流し個室から出ると、浴室の奥の方に広い浴槽があった。俺は思わず喜んでしまい浴槽に飛び込もうとしたが、先客が居て諦め黙って浴槽に浸かりタオルを頭の上に乗せる。
ふと、横を見るとゴナベルさんが居て彼に会釈をすると、その隣にはぶるぶる震えた耳と涙目のプイホンさんがそこに居た。
俺は驚いてゴナベルさんの顔を見ると、彼が言うには「普通、土猫族は水浴びをするそうで綺麗好きだが、どうもプイホンは水浴びが嫌いで晩飯前に一緒に風呂に入れている」と、いう事であった。こういう宿に泊まった時には必ず晩飯前に風呂に入れるそうだ。
俺はここの世界の猫も水浴びや風呂は嫌いであったと思い込んでいたが、どうやらコッチは事情が違うらしい。野営地での風呂に対しての拒否反応で判断したのは間違いであった。
多分、蚤取り首輪がある訳じゃ無いだろうし、こうやって風呂に入るか、水浴びで防いでいるのかもね。
浴槽から上がる彼は濡れ猫よろしく体のラインがハッキリ出ている。体つきは小学生のようだがやはり、足の構造が若干猫に近い、踵を浮かして爪先立ちで器用に歩いている。
ゴナベルさんに手を引張られて、っていうか今にも倒れそうで手で支えて貰って浴室を出て行くようだ。出る前にやっと解放されたと体中を震わせて体毛の水を払う。そして、すごすごと脱衣場へ出て行ってしまう。
ああ~、洗われているその姿、見たかった。しかし「ゴナベルさんGJ!」そして、お疲れ様でした。「今度は俺にやらせてほしいです!」と、心の中で囁いたが、嫌われてしまうかも知れないかという思いと、プイホンさんを洗いたいという思いが心の中で葛藤してしまう。
そんな事を思いながら彼らが出て行く様子を見て再び浴槽に入り一息つく。浴槽から出てタオルで体を拭き、着替えてサンダルを履き脱衣所から廊下に出ると、床に妙な後が付いている。可愛い肉球のようで食堂に向って跡が付いていた。俺も水を飲みたくなったので食堂へ向う。ついでにプイホンさんの様子でも見てみよう。
食堂に行くと少し毛が乾いたプイホンさんが今日のメインディッシュの肉にかぶり付いていた。先程の彼とは想像も付かない。
尻尾も風呂では股の方へ行っていたものが今ではピンと上に立っている。でも、まあ彼の地獄と天国の状況を見れたので満足だ。
水を飲んで部屋に戻る途中、パンツぐらいは自分で洗えばよかった事に気が付き、慌てて浴室に戻って洗濯をしてきて部屋に戻り3段ベットの手摺に干した。
皆が風呂や食堂からぞろぞろ戻ってきてベットに入る。新人や若い者は一番上らしく俺は一番上で毛布に包まり、消灯の時間に部屋のランプが突然消える。
ああ、時間が分からないと突然来る予定に困る‥‥‥。慣れればいいか。そして、睡魔に勝てず深い眠りに落ちてしまう。
寝てからどれだけ時間が経ったか分からないが多分夢を見たのだと思う。真っ白な所に俺が立っている。床が白いのか、景色や空が白いのかは分からないがそんな所に俺は立っていた。
突然、映画館のようにブザーが鳴って、目の前のスクリーンって言うか景色に映像が映るが、音が出ていないようで無声映画かと俺は首を傾げる。
最初は何処かの山か林、森かも知れないがその景色が地面を歩いているように流れていく。そして、景色が流れ森が急に開けて広い平地に出たようだ。
すると、正面に土肌の山が見え、所々山の表面に人が動いている様子が見える。天秤棒に平たい籠のようなものに土を載せて山の斜面を登ったり、土を山の頂上にあげ、空になった籠を天秤棒で担ぎ降りてくる。
あ~、こんな風景見たことがあるな~‥‥‥。なんだったかな? 夢の中の俺は思い出せないでいる。突然画面が揺れ横に景色が流れると馬に乗った人物が写る。その人物はこちらを見て何かを言っているが、話し声は聞えない。
その人物を良く見ようとすると、突然画面が揺れて目が覚める。プイホンさんが俺の頭を揺らして起こしてくれたようだ。あれ、何の夢?
自分が何の夢を見ていたのだろうと、頭をかく。プイホンさんに起こしてくれた御礼を言ってから、体を起こし3段ベットから降りる。すると、プイホンさん以外は皆起きたのか誰も居なかった。
そんな状況に俺は焦ってしまう、遅刻したのかとプイホンさんに尋ねたがそうではないらしい。先程皆は食堂に行ったそうだ。慌てて彼と一緒に食堂に向う途中にサンダルを履き忘れていた事に気付き、更に慌てて戻りサンダルを履いて食堂へ向う。
朝飯もそれなりに良かった。サラダとハムエッグ、スープにパンである。あ~、醤油がほしいと心の中で叫ぶ。しかし、無い物を望んでもビールと同じで虚しいだけだ。諦め大人しく朝食を食べるが、ハムが塩辛く醤油はいらなかった。
朝食が終わるとプイホンさんが「コッチだよ」と、俺の服を引張り、何処かへと連れて行こうとする。しかし、俺は彼をなだめ、彼に何処に連れて行くかを聞いてみる。
「プイホンさん? 何処に俺を連れて行くのかな? 俺は一応、大尉の所に行く予定なんだけど」
「ハッ! そうだった。あのね、ゴナベル奴隷長がね『今日はリョウジと一緒に石切り場に行け』と、言われて、一緒に外の馬車に乗れって言われたから‥‥‥。おいら慌てちゃった?」
俺はお約束の彼の頭を撫ぜながら微笑み「大丈夫」と、一言。テーブルの上のパンを何時もの如く貰って、部屋に荷物を取ってから行こうと彼を説得して部屋に向かう。
部屋に着くと道具袋からパンを入れるのに丁度良い革袋を出しパンをいれて革袋とタオルをリュックに仕舞う。毛布を軽く畳んで着替えなんかを隅っこに置き、リュックを抱えトイレに駆け込んだ。
トイレで用を足し、手と顔を洗おうと洗面所に行って絶句する。水を流せるように石の洗面台はあるが蛇口が無く、水を入れた樽も無い‥‥‥。
プイホンさんにお願いして水を出して貰い、手と顔を洗い顔を拭く。顔を上げると、鏡もなかった。これなら浴室に行った方がよかったかな? あ、皆は朝風呂浴びてから朝食食ったのか?
プイホンさんに急かされ、リュックを持って彼と共に外で待っている馬車へ向う。途中で大尉と廊下で出会い「外にある馬車の中で待ってろ」と、言われてしまう。
外に停めてあった馬車は指揮車より小さい箱馬車であり、御者は何時も大尉が乗っている指揮車の御者さんと御者見習い? そのプイホンさんと仲の良い少年が乗っていた。
彼らに挨拶をして馬車の中に乗る。中は4人が乗るには少し広く、6人が乗るには少し狭いという中途半端な大きさである。俺とプイホンさんは少尉と医務長が来るまで馬車の中で進行方向とは逆向きに座って待つことにする。
この馬車は指揮車と違い窓はあるが、ガラスが嵌っているのでは無く窓を閉める時には木の板の扉を閉める構造になっていた。
やはり、ガラスは高価なもので大量生産できないのかもしれない。軍隊という先進的な仕組みがあるのに所々文化がちぐはぐな世界である。そんなことを思っていたら。どうやら、他の人が来たらしい。
馬車の中にはアミュネス少尉と白衣のドジッ娘の医務長、外にはメルディム護衛隊長と彼女と同じようなエルフ顔でたぶん体がガッチリしているので男性であろう森人族の隊員が馬に乗っている。
その他に「黒」と呼ばれていて大虎の聖獣に乗った黒猫ちゃんのクワビムさん。そして、最後に大狼の聖獣に乗った狼顔のボグフムさんであった。
外にいる人達は似たような革鎧の軽装備だが森人族の男性の方は背中に長剣を背負っていて、腰に片手用だと思うが片手剣を左右に一振りづつ差している。この人は多分背中の長剣がメインで両脇の剣をメルディムさんのように飛ばして操るのであろう。しかも、彼女と同じように瞳がオレンジであり、共に見た目は怖い。
それに、あの大きな灰色の狼も怖い。あんなのに襲われたらイチコロだ。大虎は黒がメインで灰色と白の縞が入った感じの模様である。その大虎に乗った黒猫ちゃんは俺と目が合うと、プイッとそっぽを向かれてしまう。一応、護衛隊の皆様にも挨拶はしたが黒猫ちゃんだけは俺を完全無視しましたよ。
馬車の中の人にも挨拶はしたが、外の異様さに目が行ってしまいそちらばかりを見てしまう。アミュネス少尉に今日の予定の説明を受けて馬車は出発する。当然、外の護衛隊の人達もついて来る。
獣僕達は少し先行して行くようだ。残念、黒猫ちゃんが見えなくなる。外の様子から中に視線を戻すと、馬車の中では別な戦いが‥‥‥。と、いうか葛藤? そのようなものが始まっていた。
プイホンさんは尻尾を背中の方に丸め身構えている。対する少尉は彼の尻尾の様子を伺っている。プイホンさんが俺の左腕を強くつかみ、爪がささり痛かったが、血は出ていなかった。
しかし、少尉の隣の白衣のドジッ娘は我冠せずというように座席に寄りかかり最初は舟を漕いで居たがしばらくして眠ったようだ。
そんな光景ばかり気になっていた為、この馬車村の様子を見ないまま道路に出ていた事に後悔してしまう。しかし、戻ってくる時見ればいいかと、その事はどうでも良くなる。
それより大事な事は少尉の目をプイホンさんから反らす事だ。俺は彼女の目を反らす為に白衣のドジッ娘を指差し少尉に尋ねる。
「何時もこんな感じで寝てしまうのですか?」
「白衣のドジッ娘」の印象が強すぎて俺は彼女の名前を忘れていてつい指差してしまう。
「ああ、ミリクナ医務長はいつもこんな感じですよ。歳は十六で医者ですけど腕は良いし、夜は遅くまで起きて医学書を読んでいるようです。普段、移動しながらの読書だと馬車に酔って具合が悪くなるようで移動日は移動している馬車で寝るようです」
そうであった。彼女は「ミリクナ」さんであった。今のところ、自然に少尉と話が出来ている。先程のあの現場を目撃した為だろう。意識してしまうと赤面してしまうのでプイホンを見て和み、今度は自分の意識を反らす。
「あの~、少尉? 今日は石切り場に行くって聞いたのですが、具体的に何を見れば良いのでしょうか?」
「ああ、大尉からは何も言われてないのですね。ここの石切り場は良質な石が取れまして。今日は別の奴隷旅団所属中隊がそこで、採掘作業をしてまして。いい機会だから大尉が『リョウジにも後学の為に見せろ』と、仰られましてね。
それと、私の魔素術と魔素陣の見学っていうかお披露目みたいな事をしようかと思いまして。医務長はまだ、あなたの体調が心配なのでついてきました。
その、そこのプイホン君は石切り場の食料倉庫と宿舎に『プイ』という小型の獣が出まして、その退治に呼ばれましてね」
だから、早朝のプイホンさんはやる気を出して先走っていたのかと納得してしまう。先程は俺の腕を強く掴んでいたが、今は外を見て何だかそわそわしている。アミュネス少尉と俺が話をしているので安心して「プイ」の事を考えているようだ。
そういえば俺とプイホンさんが先に馬車に乗って待っていると、少尉が乗って来て「チッ」と舌打ちした事を思い出す。もし、俺がプイホンさんと向かい合って座っていたら大変な事になっていたのだろう。俺も女性に対して赤面症が無ければ目的地まで彼女の気を引いて彼を守る事ができるのだが‥‥‥。
俺が黙ると彼女は俺の左側に座っているプイホンさんに視線を向ける。そして、彼は身を震わせる。仕方なく俺がくだらない事を質問する。そんな攻防を繰り返していると、どうやら石切り場に到着したようだ。どれくらい時間が掛かったかは分からないがプイホンさんを守り、無事解放する事が出来る。
外を見ると平屋のプレハブ小屋のような感じの建物が連なった木造の建物前で馬車は止まり、建物の中から3人の人影が出てくる。
アミュネス少尉と同じ服装で赤いベレー帽を斜めに被っている。上着は赤色の学生服のようで詰襟があり詰襟と同じように上着のボタンは見えていない、ズボンは濃紺色でとび職が履いているようなニッカッポッカのようで太股部分と膝下辺りまで太く、そこから長い黒色のブーツを履いていた。
視線を戻すと車内のアミュネス少尉も同じ格好で、いつの間にか赤いベレー帽を被っていた。
え~、普通。下っ端が先に下りて目上の人が後で降りてくる。そんな社会的常識を俺は一応持っていたので、先にプイホンさんを連れて馬車を降り、少尉らが降りてくるのを待つ。待っていた人達はちょっと驚いていたが、彼女らが降りてくるのを待って馬車のドアを閉める。
あ~、我ながらなんて良い奴隷の見本であろう~と、自画自賛してしまう。少尉が先に外で待っていた三人に対し敬礼? その敬礼のような動作をして相手もそれに答えて左手を握り、胸の心臓付近を2度叩いて答礼をする。変な敬礼? だと首を傾げる。
その敬礼を見ていた俺は、その他にもおかしなことを見つけてしまう。先程からプイホンさんの様子が少しおかしい。彼の頭の上の耳がピコピコ動いて辺りに向いていて、彼本人も周りをキョロキョロしている。
アミュネス少尉は彼らにプイホンさんを紹介して、彼にもう「プイ」を捕まえに行っていいよと話すと、彼は何処かに走り出して行ってしまう。
どうやら「プイ」という小型の獣に気が付き様子が気になっていたようで、合図を最後まで聞かないで行ってしまう。彼の腰には大きな革製の巾着袋が下げてあってそれを揺らしながら走り去る。
ああ~、走るのも2足歩行なんだなと感心して見ていると、彼女らは自己紹介しているらしくアミュネス少尉が先に名乗り、ミリクナ医務長を紹介して、俺の事を年季奴隷でジョルジョネ大尉の専属秘書の「リョウジ」という事で紹介してくれる。
向うは、何とか大尉と何とか少尉と何とか少尉候補生という事で全員男だったので役職だけ覚えて名前は記憶にございません。名刺でも貰うか、日本人名なら記憶できたのであろうが、カタカナの名前を瞬時に記憶をする事は無理である。
まあ、なんとか大尉は直ぐに居なくなったし、少尉と少尉候補生は一緒に現場を案内してくれるようだ。
現場はそのプレハブ小屋から15分ほど離れた山の石切り場であった。その光景も名前を忘れた原因の一つであった。
あ~、普通の石切り場では削岩機で岩に等間隔で2、3cm程の大きさの穴を開けていき、そこに鉄の楔を打ち込んで大きく岩を切断する。そんな感じだったと記憶している。
俺の見た現場はそうではなかった。ちょっと呆然として前後の記憶が曖昧である。え~、そのなんていうか、岩の巨人。多分ゴーレムっていう奴ですか? ま~、だいたい身長10m前後で、そのゴーレムは頭が無い。頭の代わりに内の中隊のガルボルテ工作長みたいな人達が座っている。
そのゴーレムは結構長い腕を持っていて、姿勢を正すと多分手の平が地面に付くと思う。そいつらが馬鹿でかい半月状の手鋸を手に持って岩を切断している。
ゴーレムにも驚いたがその鋸で岩を切断してる風景は木材を切る要領で縦に引いたり位置を変えて横に引いたりして簡単に岩を切っている。まるで、彼らは重機にでも乗る作業員のようにゴーレムを動かしていた。
次に切り出した5m×2m×3mぐらいの岩の塊を1匹のゴーレムが抱えて2次加工場と呼ばれた所へ運んで行く。その様子を惚けて、ぽかんと口を開けた俺が見ている。
「あ~、ここは異世界! ここは異世界!」と、心の中で叫び、自分を正気に戻す。見学者一向はプレハブの工場のような2次加工場に移動するようだ。ふと、周囲を見ると少し離れた所で護衛隊の4人がまばらに俺達の様子を見ていた。
2次加工場に到着すると、さっき運ばれた岩の塊が細かく配置された枕木の上に置いてあった。そして、周りの人を見て驚いた。
2次加工場では普通の人族で、多分俺と同じ服を着ていたので同じ年季奴隷の人達だと思うが、その人族達の頭には籐製? その帽子、多分ヘルメットの代わりだと思うがそれを被り、胴には胸まで隠れる革製の前掛けと手には革手袋を嵌めて、脛当てがついた安全靴のような靴先の革靴を履いて作業をするようだ。
その人達が次々と岩の塊の周りに木製の足場を組んでいく。おいおいここも安全第一か? 足場には手すりと踏板があり、転がり防止の為の板も付いていた。
次に岩に墨出しをしていくようである。足場の階段を上がり革手袋を脱ぎ、木の棒に印が付いたものを当てて、もう一人が木の筆ようなもので印をつけて二人で墨つぼ? そのような物から糸を伸ばし軽く糸を弾いて線を引く。そんな事を繰り返して岩の塊の表面に碁盤の目のように印をつけていく。
そして、先程の完全武装で別の作業員が足場に上がる。彼らの手にしている物が普通の材木を切るような大型の2人挽きの鋸である。
え~、目の前に見えている岩の塊はどう見ても墓石などに使われている御影石のような硬い花崗岩だと思う。白地に灰色や黒の斑点が見える事から、どう逆立ちしても鋸で切断できるものではない‥‥‥。意味が分らない。
桶に水を入れた人が足場の上から切断する場所に水を撒く、そして2人が石を挟んで両側の足場上に立つ、最初は短手方向から鋸を入れるようだ。鋸の中間で他の作業員が添え木を当てて両端の作業員が息を合わせてゆっくり鋸を引く。
一回、鋸を往復させると驚く事に3cm程鋸の歯が入っていき、10cm程石を切った所で止め、隣へ移って行く。
短手を一通り切り終わり、どうやら豆腐を切るように賽の目に石を切断するようだ。アミュネス少尉に何を作っているかを聞くと、幹線道路に敷く石畳の部材を作っているとの事であった。
長手方向は一人引きの半月状の片手鋸で切断して、なんかあっという間に岩の固まり上部平面状を縦横切断した。今度は岩の固まり横の一段目に鋸を横にして入れていく、最初と同じように今度は鋸に三箇所ほど添え木をして切れ目を入れていく。
最後に軽くハンマーで叩くと10cm×10cm×15cm程の石畳の部材に代わっていく。次々に横に引いていき分離した石を次々手渡しで運び出し、作業場の端に積んでいく。
俺は岩に近寄り、鋸で切断した石の溝を見る。幅は3mm前後、挽いている鋸はいたって普通の鋸だが一つだけ違っていた鋸の持ち手の一部分に魔素陣が書いてあり、例の魔素結晶の欠片がはめ込んであった。どうやらこれも便利な道具の一部らしい。
そんな、2次加工場の各所に置いてある主な道具はアミュネス少尉に聞くと、魔素道具で中には道具に魔素陣と魔素結晶の欠片が内蔵した物や、表面に魔素陣が描いてあり魔素結晶の欠片が嵌めこんでいるものが多数あるという事を教えてくれる。
俺の居た所の機械工業がここの手工業に負けた気がして、こんな便利な道具があれば丸鋸のようなモーターで動く機械は要らないよねと一人納得してしまう。
しかし、彼らに「魔素術で作れば良いじゃね」と、野暮な突っ込みを入れなかった。だって、ジョルジョネ大尉が魔素術は万能じゃないと言っていたからね。
後編へつづく




