<1-10> 「馬車村 (前編)」
最新の本文修正日は2014年10月16日です。
最初は計算を手伝うだけかと思っていた俺ですが、なんか年季奴隷でジョルジョネ大尉の秘書に正式に決り、中隊の一員に認められたそうです。
その前に朝食を食べていた俺は芋の中から「魔素結晶の欠片」という物を見付け、それは「幸運のお守り」と、いわれ一人ポカンとする。大尉の正式の秘書になったという事が、俺の幸運の一部なんでしょうか? 誰か教えてほしい。
馬の休憩が終わって馬車は走り出す。
大尉が俺の計算が終わった羊皮紙を細かく見ている間に、先程ガルボルテ工作長に貰った長い革紐が付いた小さい革袋を出す。これに朝食で芋から見つけた「魔素結晶の欠片」を移し変えようとした時に大尉の目が「魔素結晶の欠片」に止まる。
「お! どうしてそんな物、持っている?」
「今朝、朝食の芋の中から見つけまして。その時、ガルボルテ工作長に『芋の中から見付けたのだから幸運のお守りに常に身に着けろ』と、言われたので、貰った革袋に入れる所です。あ、ひょっとして奴隷の物は所有者に渡さなければならないですか?」
「いや、それは構わないのだがな。奴隷の私物をどうこうする権利は俺らには無いよ。
その『魔素結晶の欠片』だが。あ~、決まりって言うか法則っていうか、人が身に着けられる量が決っていてな。大量に身に着けると人体に影響して体に良くないという事だ。既に君は翻訳首輪をしているのでそれを手にしても大丈夫かな? と、思ってね。
別に持っていて何も無ければ問題ないよ。俺もこの指輪に『魔素結晶の欠片』入れているからな。そのぐらいの大きさでは問題ないと思うが一応ね、具合悪くなったらこの俺が困るからな!」
そう言って左手の中指に嵌めた赤くて綺麗な指輪を見せてくれる。それはまるでルビーのように輝いて、俺の持っていたものより遥かに鮮やかであった。
しかし、何かとんでもない事を聞いたようだが、自分のを手に持っていても別にどうっていう事ない。それより「魔素結晶の欠片」にはそんな制約があるんだと感心してしまう。
そういえば、奴隷契約書の魔法陣のようなものに嵌めてあったな。魔法陣に関係する物なのかな?
「大尉、この『魔素結晶の欠片』って、あの魔法陣と関係あるのですか? 首輪と奴隷契約書にあった魔法陣のようなものにも、付属していたような気がするのですが」
「ああ、あれは魔法陣ではなくてね『魔素陣』といってな。君が言っていた魔法じゃ無く、魔素術に関係するものだよ。その『魔素陣』を利用して複雑な魔素術を操る事ができる。詳しくは今度見せてあげるよ。俺も口で説明するよりは実際に見て貰った方が早いと思う。
その『魔素陣』を発動するのに『魔素結晶の欠片』を使用するのが一番良い方法らしい。四百年前の賢者様はそんな物要らなかったらしいけどな。魔素術が使えない者でも『魔素陣』と『魔素結晶の欠片』があれば誰でも使えるようになる。
魔素道具って奴がそうだ。魔技箱なんかは君でも使えたよな? それらの道具には色々な『魔素陣』と『魔素結晶の欠片』が内蔵されていて誰でも使える。ああ、内蔵されている『魔素結晶の欠片』は人体に影響は無い。一緒に結界が内蔵されているからな、安心してくれていい。但し、その翻訳首輪には結界が付いていないから注意してくれよ!」
便利な道具にはこの『魔素結晶の欠片』が使われているのか。えっ! この首輪は結界付いてないの? どうしようかと迷ったが、手に持っていても何とも無さそうだし‥‥‥。大丈夫かな?
じゃあ、売ったら幾らになるのか大尉に聞いてみたところ「この位だと王国銀貨十枚ぐらいかな」と、教えてくれる。それでも10万円ぐらいの価値はあるのか。
俺は工作長に貰ったお守り用の革袋の中に見つけた魔素結晶の欠片を入れて口紐をきつく結び、付属の長い紐を調整して首に掛ける。一応、こちらに来て初めての金目の物だ。まあ、非常時の資金として大事にしよう。
「大尉? ちょっと気になった事で何時も王国金貨何枚とか言ってるようですが、お金の呼び方ってないのですか?」
「ああ、その事か~。昔はあったみたいだけどな、この大陸が統一されて行く過程でなくなってしまったな。他の国が在った時は『ルメル』って言われて一万ルメルが王国金貨一枚っていう使われ方してたけど商取引の時は不便でね、無くなってしまったな。
隣国の金貨と王国の金貨を両替する時に王国の金貨一枚に対して隣国の金貨一枚に銀貨十枚ってな具合になると『ルメル』なんか必要ないだろ。あくまでもアラレスティ王国通貨に対して他国の通貨何枚ってな感じに王国の力が強かったからなんだけどな」
そんなものなのかと感心してしまったが、それだと通貨の流通過程で色々問題は無いのだろうか? 複雑な経済や国際情勢がある俺の住んでいた所と違い、ここは大陸を統一した巨大国家である。今の所は問題が無いのかもしれない。
それにこの広大な国家の場合、普通は帝政でもおかしくは無いのに未だに王国を名乗っている。普通アラレスティ帝国って名乗って、国王はアラレスティ皇帝だよね。それなのに未だに王国って、規模がおかしいように感じる。
「あの~、大尉? アラレスティ王国って、このぐらいの大陸を征服したら、普通アラレスティ帝国って名乗りませんか? 国王陛下も皇帝陛下とか呼ばれてもよさそうな気がしますが」
「そんな事言われてもな~、俺は国王陛下じゃないし分からないぞ?! でも、帝国って名前には多分ならないと思う。王国がこの大陸に来た原因がその帝国によるものだからな。それにその帝国はあっさり滅んでしまったし、縁起悪いんじゃね? 多分、そんな事じゃないかな?
あ、そうだ。お金の話が出たから話す事がある。この王国の通貨の種類は白金貨、金貨、銀貨、銅貨の四種類なんだが、その他にもう一種類ある。それがこの通貨だ『奴隷銅貨』といってな、奴隷組合と奴隷との間に流通する通貨だ。
年季奴隷で5年勤めれば王国金貨五枚を報酬で貰えるが、これはあくまでも成果に応じた金額である。したがって、仕事を怠けたり働きが悪いと、報酬の王国金貨五枚から減らされる。その目安にこの『奴隷銅貨』が使われる。
最終的な『奴隷銅貨』の枚数で報酬の王国金貨が決るのではなくて、毎月の仕事の質と量、任せた仕事の成果によって翌月に仮の報酬として渡される『奴隷銅貨』の枚数で決る。そして、その月々の積み重ねで最終的な報酬が決るんだな~、これが!
全部が全部、俺が見ているのではなく奴隷長や各車長、それぞれの長など、時には各年季奴隷と面接して本人の状況を確認して仮の報酬を決めている。そうしないと色々と仕事をしない奴が出るからな。余り酷いと奴隷組合に配置換えして貰う事もある。
配置換えされた年季奴隷が後でどうなったかは俺は知らんが、噂では犯罪奴隷に入れられたと聞いたな~。まさかと思うが君はそんな事はないよね? 折角、この俺の秘書になれたのに犯罪奴隷となって、君とさよならするのは偲び難いな~‥‥‥。
ああ、そうそう。その『奴隷銅貨』で奴隷組合の購買所で好きな物が買えたな。私物扱いで誰にも取られる事ないし酒なんかもな。但し、酒は夜しか飲めないぞ。君の場合、来月の初めに貰えると思うけど、今月は途中で年季奴隷になったから少ないと思うが‥‥‥。
この『奴隷銅貨』は直接貰って自己管理しても良いし、帳簿上で処理して貰う事も可能だ。しかし、年季明けの時は精算して本人に支給されるが、次も年季奴隷をやる時は継続して帳簿で処理してくれる」
やっぱり、そうだよね~。成果主義にしないとサボる奴が出てくると思ってたよ。それに軽くジャブで脅されたし、どうしてこんな俺のような戦闘にも見た目にも役立たずを縛り付けて置きたいかな?
‥‥‥。分からない
「あの~、月何枚ぐらい貰うのが普通なのでしょうか? それにどんな物が売っているか一覧表があれば頂けないでしょうか?」
「ああ、そうだな~‥‥‥。普通の年季奴隷で基本は十五枚かな、それに役職や仕事の出来によって増減される。売っている物は季節や相場によって変わるから、ここにはないが奴隷組合の出張所や支所にいけば分る。今日の夕方には馬車村に着くし。明日、購買所に行けば分ると思うけど?
まあ、今日はこんな所かな、そろそろ二回目の馬の休憩だ。次は色々と俺の報告書なんかを作る時間になるので、君は一号馬車に移ってくれるか。あ、そうだ。試し書きで使用した木の板は置いていってくれ、代わりの木の板をやる。今日はありがとう、これから何時もこんな感じになると思うので、これからもよろしくな!」
指揮車が止まると、今日はお役ごめんらしい。出て行く時に挨拶をして道具袋を持って指揮車から出る。すると、プイホンさんがまた馬の水入れの台を一人で出していたので彼の手伝いをする。
「あ、兄ちゃん、今日はもう終わったのか? それにしても凄いな~。隊長の秘書なんて、おいらには無理だよ~。秘書って言う事は計算とかするのか? 九九とかできるのか? ゴナベル奴隷長が、兄ちゃんは秘書になって計算の仕事してるって言ってたよ」
このプイホンさんでも秘書が何をするのか分っているらしいと最初は感心したが、どうやら期待を裏切らないようである。しっかり、奴隷長に聞いていやがる。だが、その俺を尊敬している時の仕草は合格である!!
「何が?」って具体的に聞かれても困るが、彼のピンッと立った尻尾と、それを大きくゆっくり振っている状況を見れば、多分、尊敬か興味が出て来た証であろう。
これで、会う度にその長い尻尾を俺に摺り寄せて来たら、もう鼻血物だ。スキンシップの第一段階が成功して、彼とは友達となって段々モフモフ天国が俺に近寄ってくる。
しかし、俺はここで焦らない。ここで焦って行き成りモフモフしてしまうと全てが水の泡である。ここは、ぐっと我慢して唾を飲み込む。平静を装い、自然体に「君には余り興味が無いんだよ」的な感じで彼の仕草を観察する。
これでブラシがあれば、彼との距離が一気に縮む可能性がある。あの、ポリ塩化ビニール製のブラシか、ステンレス製のスリッカーブラシがあればな~‥‥‥。多分そんなものは無いと思う。
しかし、豚毛製のブラシは無いのかな? あれでも無いよりはましだ。奴隷組合の購買所が気になるが、大尉の話では多分来月ぐらいには買えるのであろうか?
工作長に聞いてみようか? あっ、でも何に使うか聞かれてもな~。ここじゃ直ぐ噂になって変態扱いになってしまうかな?
そんな事を考えながら馬の水やりを手伝い、その馬の水入れ台をプイホンさんと一緒に仕舞い1号車の荷台に乗る。
道具袋の中に入れていたパンを食べる為に前の方にある水の入った樽から木製のジョッキに水を入れる。もちろん蛇口じゃなく、樽の側面の下部に木のパイプが出ていて、それに木栓がしてあり水を出す時はそれを外すだけである。
パンをかき込み水で流し込む。軽く木のジョッキをゆすいで水を外に捨てて、ジョッキを元に戻す。丁度、席に付くと馬車が動き出す。横にはプイホンさんがこの前と同じ絵本を出して読み始める。
「プイホンさん奴隷銅貨で買い物した事ある? どんな物が売ってるのかな?」
「おいらは無駄使いしないで貯めてるよ、ほしいもの無いしね 」
そうですよね~。って、いう事は日用雑貨に食べ物はあまり無いのか、それとも彼の興味を引く物はないって事か?
購買所には石鹸や歯磨き用の歯ブラシや研磨剤があるのかな?
そういえば皆さんが顔洗ってるの見た事ないし‥‥‥。っていうか俺が起きた時には皆さんテントにはいないし、俺より早く起きいるのか?
歯ブラシは、今朝、プイホンさんに歯を磨く物は無いかと聞いた時、木の枝を奴隷長から頂いた。皆、それに革袋に入った歯磨き粉をチョンとつけて起用に磨くそうだ。まあ、毎回、貰うのも気が引ける。
そんな事を考えながら外の景色をぼーっと眺める俺であった。
☆ ☆ ☆
時間は少し遡って昨日の夕食後の夜、会議用天幕の中で「リョウジ」がこの中隊に来てから始めての中隊会議が彼無しで行われていた。
主な議題は彼の事では無い。皆に知らされていなかったこれからの目的地の事であったが、議論は全然違う方向に行ってしまう。
「一応、我わらは約六ヶ月後に貿易都市ゴルムディアに着くように向っているが、大きな都市はなるべく通り過ぎようと思う‥‥‥」
会議の司会であるジョルジョネ大尉が皆に話して会議は始まる。先ず最初にギムネーヤ料理長がジョルジョネ大尉に文句めいた事を言い始める。
「ジョルジョネ大尉。一応、この中隊の編成時に物資の配給があったがぜんぜん足りないよ~。途中の村での補給は多少は出来たけど。特に調味料、あたしが頼んだ量の半分も来て無かったよ。今度の馬車村で大丈夫なのかい?」
「ああ、わるい料理長。一応、書かれた内容の物は催促してるが組合の方がちょっと立て込んでて余り良い返事が貰えてない。もう、そろそろ落ち着いている頃だから、次の村では物が届いていると思う。それに、保存の利くものは魔技箱で送ってるはずだが、なま物はな‥‥‥。あれで送ると悲惨な事になる」
「それは分かっているよ、あれでなま物を送ると、食べられる事が出来なくなっちゃうしね~。贅沢は言えないけど、もう少し肉が手に入ればよかったけどね‥‥‥」
「まあ、仕方が無い。あの調理馬車の冷凍庫と冷蔵庫が故障しちまったからな。王都に着いた時は問題なかったし出発して暫く使えたのにな、とうとう逝かれちまった。俺は悪くないぞ、無理をして試作品の実験部隊で使っていた物を俺ごと今回の中隊に編成した人を恨めよ~。
あっ、そうだ! なあ、メルディム~、お前さ、狩りするだろ? 自分の分と護衛隊の連中の分でさ。それを少し多めに取れないかな? 毎日でなくていいからさ~。お前が食う時に確か二、三日毎だったよな、お前が肉獲るのは? 酒代と交換で毛皮は買うし、肉は酒と交換でどうだ?」
「え~、どうしようかな~。一応、掟であまり多くは取ったら駄目なんだけどな~‥‥‥。えっ、お酒と交換? ‥‥‥。あまり沢山取らなければいいか~。ここら辺の荒野で取れる土兎は何食ってるか知らないけど、丸々して美味しいからね。大きいので三十キラもあるから取れたら持って行くよ料理長!!」
「そうかい! それじゃ隊長の許しも出たしお酒も調達しないとね! 大尉、お酒も追加して下さいね」
一つの問題が解決してほっとするジョルジョネ大尉に今度は、困った顔で椅子には座らず地面にじかに座ったガルボルテ工作長が話し始める。
「あ~、さっきの故障に付いて一つあるんじゃがな、大尉。途中でリョウジを拾うのに無理して飛ばしたお陰で馬車のあちこちにガタが来てる。できれば一日か二日どうにかならないかの?」
「じゃあ『リョウジ』抜きで全員で整備手伝わせるか工作長? それなら丸一日やれるぞ。彼には適当に理由つけて、これから行く馬車村の近場にある石切り場でも見学させるが。どうだろう?」
「まあ、そんなもんかの、どうせなら蹄鉄も替えたほうがいいぞ大尉!」
「じゃあ、馬車村に馬車の修理と蹄鉄の取替えの申請出しとくか。他に何かあるか工作長?」
「例の馬車の細工も起動させてみたいが、どうじゃろう。あの馬車は特別頑丈に出来ているから修理は不要じゃよ」
そう言って、ジョルジョネ大尉を見ながらガルボルテ工作長はニヤニヤしながら顎鬚を手で撫でる。
「ああ、そうだな。どう思うゴナベル?」
「そうですね~、この前の村では防御陣形の訓練しか出来なかったので、一応やってみたいと思いますが修理の人数は足りますか? それに五号車と六号車の人員十六名は取られますが?」
ゴナベル奴隷長は普段とは違い、畏まった態度でジョルジョネ大尉を見る。
「そうなると人目に付かない所でやるしかないな。朝は無理だとして昼の村外れでやるか。修理の人員は大丈夫よな工作長? それに工作長も立ち会わないと駄目だから昼の村外れしかないな。それで頼むよゴナベルと工作長」
彼らの意見を聞く為に、眉を下げながら情けない表情でジョルジョネ大尉は二人を交互に見る
「分かりました大尉、そのように手配します」と畏まるゴナベル奴隷長に対して、顎鬚を手で撫でているガルボルテ工作長は「分かった! 修理の方も何とかするぞ!」と、こんな感じで返事をする。
「医務長はどうします? リョウジの方へ付いていきますか? 一応少尉に石切り場を案内させて、彼女の魔素術や魔素陣を使う所を見せようかと思ってますが。石切り場までなら朝出て夕方頃に戻ってこれるかと思いますが」
自分と関係ない話ばかりでボケ~としていたミリクナ医務長に突然意見を聞くジョルジョネ大尉。
「へっ? ああ、じゃあ。大尉、私は彼の健康を任されているので石切り場まで行きます」
ジョルジョネ大尉に突然意見を求められ慌てて答えるミリクナ医務長。何か別のことを考えていたのかは分からない。
「と、いう事だアミュネス少尉。彼を適当にあやして朝から出かけて夕方に戻る様にしてほしい。ついでに土猫のプイホン君も連れて行っていいぞ‥‥‥。但し、彼の嫌がることは禁止だからな!」
隣にいたアミュネス少尉にそういって釘を刺すジョルジョネ大尉。
「石切り場までは確か? 一つ時は掛かりますよね? 九つ時から準備して出発、帰りは三つ時に馬車村到着で宜しいでしょうか? ‥‥‥。えっ連れて行って‥‥‥。チッ‥‥‥。了解しました」
ジョルジョネ大尉に釘を刺され、最後に舌打ちをして、膨れたほっぺが少し赤くなるアミュネス少尉であった。
「そうだな~、俺が向うに着いてからでも彼に話すか? ああ、それから『リョウジ』なんだけど、彼は俺の専属秘書になるから、1号車と度々指揮車を行き来してもらう。だから皆も頼むよ。
あと、何も無ければこれで終わるけど何かある?
‥‥‥。無ければ終わるよ、個別で用事ある人はこのまま聞くけど」
皆は各々の馬車に帰っていったが一人だけ残った人物がいた。ガルボルテ工作長である。
「リョウジが頼んだ物は作ってやるが。その、なんだ。新しいものを作ると特許が発生するじゃろ。それでな、彼の考えた物に対しても一応特許料を支払う義務が発生してな。もちろんそれに見合った金額は商業組合からでるのだが、これって奴隷組合も絡んでるじゃろ。どうしたものかと思ってな。
それに、彼はわし等より進んだ国の者じゃろ? あんまり新しい技術はその。まあ、危険って言うか。一応はお主にも相談するがの、はっきり言って困っておる」
「工作長、考えすぎでは? 四百年前の勇者が来た時も当時の王国には無かった物を伝えられたけど何にも無かったと聞いているけど。まあ、危険な武器や道具は工作長が判断して断ってもいいよ。まあ、理由なんて幾らでもあるじゃないか。
特許の方は商業組合なんだけど、報告があるし。う~ん、事後承諾で仕様が無いよね。どうせ商業組合の方で試作品とか作るから、そうだよね?
‥‥‥。何時もの年季奴隷なら商業組合に特許申請すればすぐに奴隷組合にも報告が行くはずなんだがね‥‥‥。明日の報告書で確認してみるよ」
「確認が取れてから申請する」
工作長はそう言い残し、自分の馬車に戻って行った。ジョルジョネ大尉も背伸びをして天幕の灯りを消して自分の馬車に戻って行くのであった。
☆ ☆ ☆
そんな会議が昨夜あった事とは夢にも思っていない俺は、まだ着かない馬車村がどんな所か胸を膨らませていた‥‥‥。色々とね。
何時もならそろそろ野営地に着いて野営の準備をする頃だが、今日は途中もう一回馬の休憩をはさみ、夕暮れを過ぎの日が落ちた頃ようやく馬車村に着いた。
暗くてよく見えなかったが、村に入ってから奴隷組合の出張所に入り、リュックと道具袋を持って荷馬車から降りる。
ドルバン車長に降りる前に私物で必要な物は、明日の馬車の点検で降ろせないと言われたからである。出張所横の宿泊施設は旅人の宿としても使っているらしいが、今日と明日は中隊で貸しきるそうだ。
皆の後を付いて行き、部屋の中に入る。中は3段ベットが4台入った部屋で通路幅が2mほどありベット2台分の奥行きがある程度の部屋であった。
俺が部屋に荷物を置いた時に奴隷長から「大尉がお呼びだ」と言われ、彼の部屋の場所を聞き、大尉の部屋を訪れる。
彼の部屋に行くと布の袋に俺が今来ている「ジンベ」という作業着の着替え上下5着と下着の着替え上下5着を渡される。服をよく見ると上着の襟やズボンにリョウジと三cm大の文字の刺繍で書かれていた。
そして、大尉から明日の俺の予定として、朝は通常と同じで朝九つ前にこの村の近くの石切り場の見学に行く事を告げられる。
しかし、俺は良く分からずに返事をして、着替えが入った袋を持って今晩泊まる部屋へ向うのであった。
中編へつづく




