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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第1章 異世界で迷ったら奴隷になった 》 
10/229

<1-9>  「年季奴隷で秘書見習い  (後編)」

最新の本文修正日は2014年10月15日です。

 え~、つい最近。神様に頼っていた俺ですが、幼い時はヒーロー物の特撮なんかで、よく誰かがピンチになると必ず現れるヒーローに憧れました。


 幼い頃、自分がピンチになったら必ず助けに来てくれると思っていたあの日。


 そう、お使いの帰りに出くわした近所のゴールデンリトリバー。当時、小学生の低学年だった俺にはその犬は巨大に見えた。その巨大な犬に追掛けられた俺は必死に走り後一歩の所で追いつかれ、後ろから抱きつかれて倒された。


 あの時には俺にヒーローは来てくれなかった。あれ以来、犬は恐怖でトラウマに残っている俺であった。






 夜中、便所で用を足した後、俺は暗闇に光る何かに対して好奇心に勝てなった。それ以上に寝ぼけた頭では深く考える事も出来なかった。俺はここが異世界で夜は危険が一杯な事をすっかり忘れていた。


 荒野であの馬並みの犬に追掛けられた事や死にかけた事、奴隷になって逃亡する事は死を意味する事などすっかり忘れていた。いや、最後のは逃亡したのではないし、暗闇に怪しい光を見つけて確認しようとしただけだ。



 刃物を抜いて近付く人の気配で、慄き尻餅をついて頭を抱える。俺は目を瞑って言い訳を考え、近付いた理由を口に出そうとしたが震えて声にならない。目を開けると近付く人の足元が薄っすら見える。



 俺のピンチに今回もヒーローは来ないと諦めた時、暗闇から月明かりに照らされて近付いてきた人?


 いや、人にしては足の幅がやけに狭いし靴らしい物の先っちょから可愛い足先が見えて、その可愛い足先の少し手前に何かが勢いよく地面に突き刺さる。


 よく見ると護衛隊長のメルディムさんが俺に見せたクナイにそっくりだ。どうやらメルディムさん? 俺にヒーロー? が、現れたらしい。




 「おい! 『くろ』お前は間抜けか! あれほど言ったのに。暗闇で見張りをする時、お前の目は光を反射するから立ち位置を考えろって! 彼はお前の光った目を見つけて近寄っただけだ!」




 「え~、姫様~、こいつ絶対逃げようとしましたよ~。見せしめにあんな事や、あんな事しましょうよ~」




 俺は声の主の方に立ち上がり頭を大げさに横に振る



 「トンでもございません、逃げようなんて、暗闇で光った物が何か見に行っただけですよ?」



 等と言い訳をする。俺を助けてくれた声の主はやはり、護衛隊長のメルディムさんであった。呆れた白い顔にはオレンジ色の瞳が光る。




 「ほ~らっ、言った通りだったでしょ! 私があれを見せて、それを忘れて逃げる奴はここ最近見たこと無いしね。脅かして悪かったわね、リョウジ」




 俺に謝る彼女の言葉が終わらない内に足元のクナイが例の如く、突然空中に浮かぶと、勢いよく彼女の鎧に戻って鎧に収まってしまう。




 「え~、姫様~。絶対、こいつ嘘ついてますよ~。だって、こいつあたい(・・・)の事いやらしい目で見てますよ~。間違いないですよ~」




 その「おまわりさんコッチです!!」みたいな言いがかりはやめてほしい。あ~、本人の名誉の為、言っとくがいやらしい目ではない!!


 ‥‥‥。自己弁護だが信じてほしい。



 なんていうか、刃物を持って近付いてきた人物こそ、昼間の話で聞いた黒豹顔って言われていた本人である。しかし、黒豹っていうぐらいだから顔は凛々しいくて怖いイメージであったが、実際はなんというか顔は少し丸みを帯びて立って歩く黒猫・・ちゃんである。最初の声こそ恐ろしかったが言い訳の声は可愛らしい。



 身長はプイホンさんより大きく150cmぐらいで、俺の顎下ぐらいであろう。頭は黒豹って言うよりは近所にいる短毛の黒猫・・である。口元も大きく出っ張っているわけでもないし、黒豹の精悍さはない。


 おまけに肉球がピンクで尻尾が結構長い。早く大きく小刻みに揺れているのはイライラしてるのかな? あ~「プニプニ」と「モフモフ」したいオーラが体から滲み出る。



 さっきまで命の危険を感じていたが、緊張感がなくなりそんな事を思ってしまう。その姿が彼女にはいやらしい目つきに見えたのかもしれない。決していやらしい目などしてないし考えてもいなかった。いやらしい目つきなどしていない!


 大事なので二回言った。




 「いいからコッチにきな!!」と、メルディムさんに怒られ「黒」こと「クワビム」さんは耳が垂れ、シュンとなっている。仕舞いには首根っこを引張られ、連れて行かれる。


 クワビムさんは最後に「おぼえていろよ~、人族め~」と、かすれ声で言い放ち、その後「ゴン」と音がして「フギャ」と可愛い声を残して連れ去られて行ってしまう。




 いや~、怖かった。もう一度トイレに入ったが出なかった。さっさと寝床に戻ろうとした時、馬車の荷台から人が降りてくる。




 「はぁ~あ~あ。何か騒がしかったが何かあったか?」




 荷台から現れたのはドルバン車長で、欠伸をしながら降りてくる。




 「いや~、便所に起きて用を足して周囲を見たら、暗闇に光る物を見ましてね。殺されかけましたよ」




 「昼間、話した奴だろ。あはは、運よくメルディムさんにでも助けて貰ったのか? まあ、明日も早いから早く寝たほうがいいぞ。はぁ? 俺も便所だ!」




 彼も便所に起きたらしい。俺はさっさとテントに入り、サンダルを脱ぐ。寝床に入り寝袋に包まる‥‥‥。彼女も語尾に「ニャ」が無かったな‥‥‥。少し期待していたのに。やがて深い眠りにつき、夢は見なかったが熟睡はできた。




 昨日と同じで轟音と共に目が覚める。それからもう一回轟音がする。俺は起き上がりサンダルを履き紐を結ぶ。寝袋を畳み自分のベットを外に出す。プイホンさんにお願いをして水を出して貰い顔を洗う。顔を洗い終わるとつい独り言を言ってしまう。


 「あ~、風呂に入りたいな~」




 「兄ちゃん! 何言ってんだ?! あんな怖い所! おいらは、あそこは嫌いだ!」




 俺の独り言に対してそう言ってプイホンさんが震えて怖がる。あ~、何処の世界の猫もお風呂は嫌いですよね~。たまにネットの動画で風呂に入るのが好きな猫がでるが、あれは別格だ! 風呂を嫌ってこそ猫である。



 顔を洗ったあと歯も磨きたくなりプイホンさんに歯を磨くものが無いかと尋ねると、後ろからゴナベル奴隷長が太さ1cm程で長さ20cm程の木の枝と革袋に入った歯磨き粉らしいものを渡してくれる。


 一瞬、固まった俺に使い方を丁寧に教えてくれるゴナベル奴隷長。彼は新しい木の枝を出して来て、彼自身が見本を示さないで、そこに居たプイホン(・・・・)さんを後ろから羽交い絞めにして見本を示してくれる。今度、俺もやってみたい。




 「こいつはほっとくと、歯を磨かないからな。偶に俺が磨いている」




 プイホンさんの歯を磨き終わったゴナベル奴隷長はそういってはにかむ。当の本人のプイホンさんは自分で水を出して口を濯いでいた。俺もやってみたが余り旨くできなかった。プイホンさんに水を出して貰い口を濯ぐ。


 「でも、プイホンさん。歯を磨かなくても、顔は洗うか拭いた方がいいですよ、この『タオル』あ、う。この手拭・・で拭いてあげますよ~」


 彼に近寄りタオルで顔を拭こうとすると、彼は自分の手の甲を舐め顔を手の甲で拭いてしまう。彼のその仕草は猫のそれと同じであった。プイホンさん可愛いです。朝から良い物を見ることが出来て幸せな気分だ。



 よく見るとプイホンさんは体毛が長いと思っていたが、長いのはお腹周りと首周りだけで後は結構短毛であった。動画でよく見る立った猫にそっくりだが腕の位置が若干違うかもしれない。歩く時は爪先立ちのようで止まると踵が地面に付く。まあ、若干足も少し長いかな?


 メインクーンと短毛の茶虎猫の交ざった感じがする。毛色は赤茶虎の猫だが、昨日の黒猫ちゃんと同じ様に色んな種類が居るのかな? リュックにブラシが入っていればな~‥‥‥。存分にブラッシングできるのに。




 そんなやり取りをしているとドルバン車長が教えてくれる。




 「今日の夕方は馬車村に付くから風呂に入れるぞ」




 ドルバン車長の話しでは、馬車村とは主な幹線道路にある交通の要所で、100から200km毎にあり馬車の駅みたいな所らしい。奴隷組合の出張所と宿泊施設があって、普通の旅人も利用できるが優先順序は奴隷旅団の中隊にあるらしい。



 テントとベットを収納し終わり、朝飯を食べているとジョルジョネ大尉が皆に今日の夕方に馬車村に宿泊する事や馬車の点検の為、明後日に馬車村に出発する事を説明してくれる。


 明日は馬車の点検と馬の蹄鉄の交換などをするので何人かの手伝いの話もしていた。その他にも仕事があるようで、細かい事は明日説明すると話してくれる。


 最後に俺の方を向きニコニコして声をかけてくるジョルジョネ大尉。




 「君には楽しい仕事・・があるから出発前には私の指揮車に来るように」




 ああ、恐らく秘書の仕事で表計算だろう。何故、ニコニコしているのかは分からないけど‥‥‥。その他にも有るのか?



 ジョルジョネ大尉の話が終わり朝飯の芋の煮汁を食べていると、口に入れた芋の中から硬い何かの感触を感じてしまう。口の中から出すと石では無かった。


 大きさは5mm程で赤く綺麗な宝石みたいな感じでルビーか? と、思い指で摘んで空にかざしていると、横からドルバン車長がそれを見て話しかけてくる。




 「おい、それ『魔素結晶の欠片』じゃね?」




 彼に見せると彼も空にかざして見ている。そして、彼は近くで朝飯を食べていたガルボルテ工作長に見せる。同じ様に大きな指で摘んで工作長も空にかざして片目を瞑って見る。




 「ああ、そのようだな。昔これに似た宝石の原石を見たことがあるがそれじゃねえな。小僧!、これは何処にあった? 芋の中か~‥‥‥。ああ、昔聞いた事があるぞ、この『ゴダ芋』に希に地の魔素が集まり芋の中で『魔素結晶の欠片』ができる事があると言ってたな。


 小僧! 貴様はついてるな~、滅多にお目に掛かれないぞ?! 大事にして身に着けていると、幸運・・に恵まれると俺達『山人族やまびとぞく』の言い伝えにあるぞ、よかったな~。まあ、売ってもそんなに金にならないけどな」




 ガルボルテ工作長に肩をバンバン叩かれ、俺は何か生返事をしてそのよく分からない「魔素結晶の欠片」を返して貰う。しかし、周りに人垣など出来る事無く、皆無関心なようでホントに珍しいのか? と、思ってしまう。


 そんな事を考えながら残りの朝飯をかき込み、昼飯用のパンを持って自分の馬車に行って魔技箱を開ける。



 昨日貰った道具袋に入っていた小さい革袋の中に「魔素結晶の欠片」を仕舞い、パンの入った革袋と一緒に道具袋にいれる。魔技箱を閉じ、その道具袋を持って指揮車に乗る為に荷馬車から出た時に、ガルボルテ工作長が声をかけて来る




 「これに入れて身に着けとけ」




 彼は長い紐が付いた小さな革袋を渡してくれる。彼にお礼を言って指揮車に向う。指揮車に着き、扉から離れてノックをする。すると、扉が開くと中から寝ぼけ眼の白衣のドジッが出て来る。あ~、この人、なんていう名前だったかな? 大尉にでももう一度聞くかな。




 「はあ~あ、もう出発ですか? 


 ‥‥‥。こっちには大尉は居ないですよ」




 等と寝惚け眼で出て来た彼女は頭に寝癖があったが「バタンッ」と勢いよく扉が閉まり俺は呆然としてしまう。


 俺は同じ指揮車が2台ある事をすっかり忘れていた。気を取り直して隣の指揮車の扉をノックする。少し扉から離れて待っていると、どうやら反対側から「ガチャッ」と、扉が開く音がして声が聞える。




 「あれ~? 誰も居ないですよ大尉」




 なんか、朝からベタなコントを見ているようだ。


 「あの~、こちら側なんですが!」


 やっとこちら側の扉があいて、中からアミュネス少尉が出て来る。お互い何か気まずい雰囲気になる。彼女も少し耳が赤いし、俺は赤面症で顔が赤くなる。中から大尉の声で彼女が体をどかして俺は中に入って扉を閉める。




 「まだ、出発には時間がある。そこに座ってこれでも飲んで待っていてくれるか」




 彼が差し出したものは紅茶かと思ったが麦茶であった。せめてホットな麦茶ではなく冷たくしてほしかったが、文句を言える立場じゃない。黙ってそれをすする。


 麦茶もいいが朝はコーヒーが飲みたくなる。もう、1週間以上も飲んでいないし忘れていたのに思い出すと無性に飲みたくなるものだ。



 彼と彼女は忙しそうに書類の分類をしていたり書類を魔技箱に入れて送り先の名前を言いながら扉に左手を当てている。どうやらあれは、転送用らしい。時計を見ると9時を過ぎたくらいで、それから計算をすると今は朝の6時だ。



 それから時計が一刻を指した頃作業が終わり、彼女は自分の書類の羊皮紙の束を持ってここから出て行ってしまう。隣の指揮車にでも行ったのかな? と、思うと、彼女と入れ違いにゴナベル奴隷長が扉から顔を出す。




 「そろそろですか?」




 大尉は頷き、ゴナベル奴隷長が俺を見る。




 「がんばれよ」




 その言葉を残して彼は扉を閉めてしまう。俺は彼に返事をして会釈した後に、何を頑張るのか考えてしまう。



 外の方でゴナベル奴隷長の声がする。出発一刻前で30分前の合図だ。何時もだいたい朝の7時頃に出発するようで、大尉は時計をちらちら見ながら書類のチェックをしている。


 時間になり覗き窓から左手を出し合図をする。窓を閉め背伸びをする大尉。俺に手招きをしたので揺れる指揮車の壁伝いに彼のそばに行き前の座席に座る。




 「今日は20枚程ある。ただの表計算で横の計算と縦の集計だけだから。まあ、気張らずやってくれていいよ。俺は次の馬の休憩まで寝るから後はよろしく」




 大尉はそう言うと後ろの席に行って横になり寝てしまう。俺は道具袋からそろばんと筆を出す。墨入れは机の隅に動かないように大尉のがセットしてあった。


 暫く待って馬車が安定するのを待つ。その間、書類の羊皮紙を一枚、一枚、捲りながらどんなものか見ていく。



 何かの重量計算表や人工表にんくひょうや必要物資の集計表などがあり、数字が入っているものや表の横の計算が終わっていないもの、縦の計算が終わっていないものもあり結構時間が食いそうだ。


 しかし、一つだけ問題がある。今はこの翻訳首輪のお陰で文字も何とか読めるが、数字は漢数字に見える為凄く大変である。



 数字を読むのはいい、書くとどうなるのか判らない事が問題だ! 俺はメモ用の木の部材を出し筆で数字を書く。まずは何時も使っているアラビア数字を書いて、次に漢数字を書く。


 漢数字を書いたつもりだが一瞬視線をずらし、再び数字に焦点を合わせると漢数字がへんな文字に見えるが暫くすると元の漢数字に見えてくる。どうやら漢数字を書くと現地語に直るらしい‥‥‥。凄いぞ翻訳首輪! 高校生の時、英語の授業に欲しかった。



 次に数字が書いてある表を見るとアラビア数字の如く、桁に漢数字の桁の千や百は付いていないようで、胸を撫で下ろす。「751」を「七百五十一」とかで書いてあると各欄に書き切れない。それにしても面倒だな~‥‥‥。まあ、仕様が無いか~。



 どうやら、この「指揮車」は他の荷馬車と違い余り揺れない。馬車が安定してきたのでパチパチそろばんを弾く。メモはアラビア数字で書き出たし、答えの検算をして確かめる。縦計算はいいが、横の欄を見ると数字と計算式が書いてある。和算・・とかで書いてあると俺には理解不能であり、そこで手詰まりだ。



 結果的には西洋式なのだが「+」が「足す」になり「-」が「引く」となる。「×」が「乗ずる」になり「÷」が「除する」と、訳されて見える。


 元の文字は訳のわからない物であるがそう訳されて見える。複雑な心境になる。例えば「四五足す五七乗ずる七では」は多分「45+57×7=」と言う事であろう。



 今の所、その程度の数式だがこれが関数や平方根など複雑化してきたらお手上げになる。何枚か、捲って確かめるが、どれも足し引きや小学生の乗算、除算程度で助かった。


 これで物理の応力や複雑な計算式など出てくると非常に困る。建築現場で使う簡単な物理は分かるが、果たしてこの異世界で通用するかは分らないからだ。


 簡単な数式はそのまま暗算で出来るが、桁数が多くなったり複雑な物はメモの木片にドンドン書いて計算をしていく。計算が終わる頃は木片が真っ黒になっていた。


 羊皮紙に書いてあった表の中に細かく計算した物や、行き成りアバウトで数字が出ているものがあったが、前者が大尉で後者がアミュネス少尉だと思う。


 例えば木材で生の丸太なんかの重さを出す欄がある。大尉は丸太両端の小口の面積をおおまかに出し、それを2で割り平均を出す。それに高さを乗じて体積を出して、体積に丸太の多分比重の係数を掛けて重さを出しているようだ。



 これは正式ではないが概ね近似値である。丸太の長さが長く両端小口の面積の差が大幅に違ってくると大きく違いが出るが4m程度の丸太ではそんなに違いは出ない。現に両方の小口の数値はそんなに違っては居なかった。



 それにこれを正式に計算式で俺に電卓無しでこれをやれと言うのは酷である。因みに丸太の先端の小口をA、根元の小口をBとして長さをHとすると「(A+B+√AB)×H÷3」でやって見ると正確な数値に近いものが出る。そこまで近似値にしなくても良いのであろう。



 しかし、彼女は丸太の長さと太さの数値は書いてあるがいきなり数値をだしている。大尉のと比べると結構数値が結構違っていて、目分量で丸太の重量を出しているようだ。


 彼女は計算が嫌いらしい、数値も小数点以下の数値が無く大まかな数で書かれていた。必ず彼女の出した数値に横線が引いてあり大尉が直した数値が書いてある。


 何に使う重量表だか分からないが、多分計算結果によって数字が大きく違ってくると思う。その証拠に丸太の本数が1本や10本単位じゃなかった。


 100本単位であり、彼女方式での数値になると大きく違ってくるのだと思う。だから、大尉は概算で出して確認をしてるのであろう。



 そんな事を考え時計を見ると11時チョット前で、だいたい午前10時頃になっていた。



 大尉を起こそうかと思って立ち上がろうとすると、大尉は立ち上がり天井を叩いて上のメルディムさんに合図を送る。コップをもって覗き窓を開け大尉が席に付く頃、覗き窓からメルディムさんが顔を出し合図の確認をする。




 暫くして馬車が道からそれて大きく揺れて暫くしてから止まる。大尉は欠伸をして俺が計算した羊皮紙を見ている。




 「結構早いな~、もうチョット掛かると思ったが‥‥‥。計算も正確だし‥‥‥。普通、始めは『秘書見習い』からなのに‥‥‥。おめでとう~、君はいきなり正式に『俺専属・・・秘書・・』ね!!


 そして、ようこそ。我が、奴隷旅団所属、五百四十八期西方第秋七十中隊へ!!


 『俺専属・・・秘書・・』になったので君を正式に一員として認めるぞ!


 ああ、五百四十八期とは王国歴千五百四十八年で、西方とはこの大陸を反時計回りで巡回する事、第秋七十中隊とはこの中隊が秋下月十日に発足した事を示す。約五年後には解隊する仕組みだ。これから五年間共に頑張ろう」




 あっ‥‥‥。調子乗りすぎて早くやりすぎたかな? 


 ‥‥‥。手加減してやるべきだった?


 えっ? 専属秘書・・・・? また新たに何かやらされるのか?

 

 ‥‥‥。今、正式に迎えられた? 意味が分らない。


 「あの~、大尉、正式に中隊に迎えられたっていうと、どういうことなんでしょうか?」




 「へっ? 嬉しくないの? ま、まあ、その。君の年季奴隷としての正式な役職に就けた事なんだけどな。普通は役職付くと箔が付くし、ただの年季奴隷じゃないし、君は嬉しくないの?」




 「へぇ~、そうなんですか‥‥‥」と、言ったものの、役職付くと給料が上がるのか? 俺の世界では役職上がると段々仕事が増えていき、苦しくなる事しか浮かばないのだが‥‥‥。なんか、不審そうな顔したジョルジョネ大尉を見ると、彼の機嫌を損ねて俺に厄災いが降りかかりそうで、後が怖い。



 「いえっ! 『ビックリ』しただけですよ~。だって、見習い(・・・)からいきなり専属秘書・・・・ですよ! だ、だ、だけど大尉! その、そのぐらいの計算なら出来ますが難しい計算とかは無理ですからね! それにこちらの計算の流儀なんかは分からないですよ~。あと、重量計算表のたぶん重さの単位なんですが『キラ』ってどれっ位ですか?」




 「へっ? 『ビクリ』? おぅ、そうかそうか~、そうだよな‥‥‥。あぁ、まあ、うちの中隊ではこんなものだ。主に資材や各地の産物の重量だし、そんな複雑な計算はないぞ。ああ、『一キラ』はだいたい・・・・。この俺のサーベルが『一と五分の一(・・・・)キラ』だ。これより軽いはずだ」




 よしっ! 話を流させた、グッジョブ俺! ‥‥‥。しかし、サーベルを渡されるが1kgのダンベルよりは重たいかなと感じる。ああ、面倒だもう勝手に1kgとしてしまえ!! どうせここの基準なんて分からないしと考えていると。簡単に単位を分かり易く大尉自身の木片で書いて説明しくれる。



 最初に、長さの単位で「最高で一メタ、一メタは千メト、一メトは千メル、1メルが最小単位で千単位で位の名前が変わり、百メト四方の一区画の土地を一ソマといい開拓地の基準に使われている」と説明される。この前教えてもらったので1メトは約1mと記憶しているが、これも脳内変換でイコールにしてしまう。



 次に、重さの単位「最高で一タラン、一タランを千キラ、一キラを千キナム、一キナムが最小単位で千単位で位の名前が変わり、液体も重さで取引されている。容積の取引でも精々、大樽一個とか小樽一個そういう感じだ」という説明で、概ね単位の考え方は俺が元居た所とほぼ同じであった。


 一里や一町、貫や匁、一升と言われたらどうしようかと思ったが、よく考えると単位が違ってもここの基準だから関係ないことに気付く。


 計算式も複雑なものが出てきてもここ流のやり方を学べばいいだけで、共に新たに学べば良い事にようやく俺の頭は気付くのであった。




 次話へつづく

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