<4-21> 「祭られる年季奴隷 (前編)」
最新の修正日は2015年1月26日です。
ワオキツネザル系の獣人に助けられた原因が何となく誰の仕業か分りかけた俺ですが、その一見簡単に仕組まれた出来事の原因はもっと根深く複雑なものの様です。
俺を助けてくれたその人物の村らしき場所に入り怪我人の山に驚くが、彼らに対立していた村にも怪我人が居るという。そんな事なのでこの際面倒だから両方助けるようメルディム護衛分隊長に意見具申する。
だって、彼らの対立原因は昔からのようであったのだけど、直接的な紛争の原因はどうやら俺にあると分かったからであった。そうすると、出来るだけ俺の原因で死ぬ人は少ないほうが俺の精神衛生上好ましいと思う。
そんな事で、今何もしなければ俺は後悔の海に沈んでしまうのではないか?
それに「黒髪のニャ~ゴ」と呼ばれる伝説級の人物と比べられるのは戸惑う所であるが、その伝説級の人物の名前を地に落とす訳には行かないと思う俺であった。
朝飯を美味しく頂いてこれから原隊復帰の為に荷物を纏め、なんだか歩いている内に痛みが無くなった左足に首をかしげ、これまた痛みが無くなった右手で頭をかく。そして、若干虫の居所が悪そうなメルディム護衛分隊長を見て再び首をかしげて頭をかく俺であった。
そこで、嫌な予感というか何となくそうではないかと思っていたのだが‥‥‥。各々の部族というか種族の呪い師が受けたという森の精霊の宣託についてである。
多分、この近辺で最も仲違いしている種族を選んでそれぞれの呪い師の下に現れ、火を点けたのは間違いなくあのシャムネアお嬢様。その王女殿下に間違いは無いと思うのだが、理由としてはこの近隣に森を管理する森人を長年置かなかった事に対しての警告だと思う。
そのお陰で血が流れて、本来その紛争を収めるべき森人はこの密林には居ないし近隣の森人もこの密林地帯には近寄らない。その事に対してシャムネアお嬢様は一石を投じたという事だろう。
それも俺を利用してであり、昔この密林に縁のある救国の勇者「黒髪のニャ~ゴ」という伝説を利用して、この俺が「黒髪のニャ~ゴ」の再来なのでこの密林に迎えろとでも言ったに違いない。
利用された俺としては甚だ迷惑この上ない。しかし、助けられる命は助ける事に越したことは無いし、その血が少なければ少ないほど傷跡は浅くなる。だけど、双方合わせて10人もの獣人は実際に亡くなっている。
シャムネアお嬢様が焚き付けなければ、もしかしたら助かったというか死ななくてもよかった命だったのかもしれない。そう思うと、今メルディム護衛分隊長が機嫌が悪くなるのも何故だか納得してしまう。
だけど、森人の上層部の怠慢で失われた命であるからこれは複雑な気持ちになるのはメルディム護衛分隊長だけではない。彼女が親元、いや氏族長の親に手紙ハトゥーで知らせたら森人の上層部はどう思うであろうか?
今回、シャムネアお嬢様がらみで事が公にされた上、森の子である獣人の命が10人も失われたのだ。
そういった情報を聞きつけた森人の連中の事を思うと何故だか自分も複雑な気持ちになる。先ず最初に間抜けな俺が移動日に気を抜いて心の中に引きこもったから、俺を攫った奴等がその隙に俺を攫ったのも原因になるかもしれない。
その、仮定であるが万が一気を失っていなければ、そうやすやすと俺は攫われなかったよね? ‥‥‥。あれ? そうすると、シャムネアお嬢様は俺が攫われる事は知っていたと言う事だよね?
えっ? じゃあ、前もって俺は攫われてあの川のような所に真っ逆さまに落ちる事や、川原に辿り着いて気を失う事を知っていた?
更にはその気を失った場所を前もってお告げ、宣託を出しておいた獣人の彼らに、この俺を迎えに寄越したという事だよね?
おいおい。じゃあ、前もって知っていたのならあの痛い思いや、あの奇妙な出来事に火達磨の人物。それに伴って種族紛争と起きなくても良いことが‥‥‥。起きたのか?
いや、もしかしてシャムネアお嬢様にもどうにもならないことで、仕方なく被害を最小限にする為にあのような二つの種族に宣託を出して死傷者が10人で済んだと言う事なのか?
‥‥‥。分からない。
さすが神様。やることがえぐい。
時の流れは神様でもどうにかする事は出来ないという事らしい。どうせ起きると分かっているなら被害を最小限にするのがせめてもの神様の慈悲の心という事なのかも知れない。
「あの~、メルディム護衛分隊長? 何か有ったのでしょうか?」
「ああ、そんな風に見えた? いや、なに。私達が何もしなかったつけがこの体たらくだと、あの主様が笑っているのかと思うとね。自分達は普段、森の神だとか森の支配者とかいわれている事に何か恥ずかしくなってね。
多分、本来はもっと犠牲者が出る所を私達。いや、リョウジを巻き込んで被害を最小限にしてくれたのかと思うと、ふがいない気持ちが一杯で‥‥‥。それと自分の生まれを気にしてあの森を飛び出した自分が何だか恥ずかしくなっただけだよ」
「ああ、やっぱりメルディム護衛分隊長もそう思いますか?
いや、あのですね。私の為に亡くなったのではないのかと自分なりに普段の振る舞いに付いて考えたのですが。結局、シャムネアお嬢様の手の平で転がされていたという事が分かっただけでもいいかなと。
あの~、深く考えすぎると何か穴のような所に落ちてしまう気がして。それに両方の怪我人10人は助けられなかったけど‥‥‥。
それ以上の人は助けられたじゃないですか? 今はそれでいいではないかと‥‥‥」
「‥‥‥」
「お母様に手紙ハトゥーを出して早急にこの密林に住む森人を送って貰えばいいじゃないですか? 全部貴方が背負い込む必要も無いし‥‥‥。
私が背負えるのはこの背中一つ分ですし、メルディム護衛分隊長の背中もそれだけの広さしかないですよ? あとは、大人というか他の何も手を打って来なかった方々に背負って貰いましょうよ?」
「うん、そうだね。私一人背負うには10人の命は重過ぎる。これは森人全体で背負うべき失われた命!!」
そういうとメルディム護衛分隊長は何処か晴れやかな表情というか。スッキリした表情で部下の二人に何か話しかける。そのぼけっとしている俺のわき腹に肘鉄をくれるミリクナ医務長が俺の側に現れる。
「中々良い事いうわねリョウジ。と、いう事は被害を最小限にする為に裏であの王女殿下が糸を引いていたと認識して良いのかな?」
「はあ。でも、俺を攫った人物達はイレギュ‥‥‥。いや、思いも寄らなかったことだと思いますよ? 一応、私が気を失っている時に何時もの夢に出てきて心配する言動はありましたから。
それとは別に不思議な事がありまして。その~、何というか。人の心に入る事ってこの大陸では日常茶飯事な出来事なんですかね?」
「へっ? 馬鹿いわないでよ! そんな事出来るのは宮廷魔素術使いの連中でも数えるだけよ?
まして、魔素力が強い人物に潜り込める人物といったらそんなに多くは無いわよ?!」
ミリクナ医務長がそういって驚いた表情をする。その驚いた声に何事かとペルジャーネ先生が近寄ってくる。
「ちょっと聞き捨てならない事を聞いたのだけど?!」
『俺っち以外にそんなこと出来る奴ぁ‥‥‥。あっ、裏家業系の奴等か?
一応めぼしい組織はここ5年でぶっ潰したけどな~‥‥‥』
「そうなんですか‥‥‥」
『あっ!! あれやったのおめぇかよ?!』
その思い当たる事柄に対して問い詰められる事になるとは思ってもいなかった。目の前に立ったデウシー先生は俺の襟首を掴んで、自分の視線と俺の視線が合うように強制的に引き寄せられる。
近いよ、近いよデウシー先生‥‥‥。その何でも見透かされるような眼差しと沈黙の時間がただその場に流れる。やがて行き成り代わったペルジャーネ先生が驚いた声で叫ぶ。
「なにっ?! なにこれ~~~?!」
『なんじゃ~~~?!』
『リョウジの心の奥底に要塞がある。それに獣人が俺目掛けて何か打って来たぞ?
一体なんだこれ?!』
そのデウシー先生の問に眉をひそめたミリクナ医務長までが俺に詰め寄ってくる。無言の圧力をかけに‥‥‥。その無限に続くかと思えた圧力に俺は屈してしまう。それはもう、洗いざらい心の中で起きたことを吐露してしまう。もう彼女達には隠し事は出来ない。
俺のその話に一々驚く二人。いや、正確には三人はその度に理由や何故そうなったのかと色々問われる。いい加減うんざりして来た頃にあの三つ頭の大蛇の話をしてあの場所で起きたことを話す。その三つ頭の大蛇の話を聞いた三人共心当たりがあるようで、顔をつき合わせてお互いに言い放つ。
「『二股の大蛇!!』」
「だって、あそこは組合で何年か前に潰した所よ? 何で今更? ‥‥‥」
ミリクナ医務長がそういうとまたもや突然入れ替わるペルジャーネ先生。その彼女がこめかみに指を当てながら考える素振りを見せ、思い出すように話し始める。
「余り詳しくは話せませんが、例の姫様がお生まれになってから一応後顧の憂いを絶つ為に十年下準備して、刈り取ったのよ。
私らは下準備には参加しなかったけど。え~っと、5年程前に何でも頭目の一人が凄腕の魔素術使いだったとかで。旅の途中、強制的に国王陛下に呼ばれてその刈り取る作戦に参加させられたのよね~‥‥‥」
その物思いに耽ったペルジャーネ先生がまたデウシー先生に代わると彼女も思い出したように話し出す。
『あっ、思い出した。結構やる奴で俺等が二人いたから勝てた。魔素術は大したこと無い奴だったが、俺等の隙を付いて内部に土足で足を踏み入れる奴だったな~‥‥‥。結局、形が残らないように始末したと思ったのだが?』
「それより、また仕事を請けるまでに組織が復活したという事に問題があるわ!!」
そんなデウシー先生が考えるような仕草をしたかと思うと、突然大声を張り上げるミリクナ医務長は懐から羊皮紙を取り出して何か書き込むと何時ものように2通の手紙ハトゥーにして何処かの方向へと別々に飛び立たせる。
その仕草に思い出したようにペルジャーネ先生も同じように何処かに手紙ハトゥーを飛ばす。彼女が手紙ハトゥーを飛ばす為に羊皮紙に書き記していた風景を見ていたボフボーニャさんも急に何かを思い出したように同じように羊皮紙に何かを書き記すと手紙ハトゥーを飛ばす。
ああ、皆さんそれぞれ報告する所がお在りのようで‥‥‥。ミリクナ医務長は奴隷組合と多分ジョルジョネ大尉に後の二人は上司に当たる人物だと思う。ボフボーニャさんの上司はペルジャーネ先生であるから、多分宮廷魔素術使いのお役所辺りに手紙ハトゥーを飛ばしたのだよね?
ペルジャーネ先生に至っては誰が上司なのかは分からないのだが‥‥‥。筆頭宮廷魔素術使いの上司って誰なんだろ? そこら辺、この王国の組織に付いては詳しくないので分からない。
それにしても三つ頭の大蛇ではなくて二股の大蛇とは‥‥‥。ものは呼び様に呆れてしまう。皆がそれぞれ手紙ハトゥーを出し終わり、気が付くとメルディム護衛分隊長も何処かに手紙ハトゥーを飛ばしていた。嗚呼、多分お母様にこれまでの顛末を報告したのだよね?
村を立去る準備が出来て村の砦の門の側に歩いて行くと、心配そうな顔をしたこの村の長老と呪い師。いや、顔が真っ黒な毛で覆われているので表情は分からないのだが雰囲気は漂ってくる。
森人の評議の結果を聞きたいといったところか? 一体どちらが正しい事を言っているのか判断してくれるか? そんな所であろう。おれ等が門を出る時にメルディム護衛分隊長が重そうに、何度か躊躇いながらも口を開く。
「この問題は一晩詮議しなければならぬ。一応それぞれの村の言い分は耳に入った。現状も理解した。それぞれ悪いようにはしない。先ずは一人の戦士を私達に同行させ我らの仲間が居る場所まで付いて来て貰う。その場所に明日の昼、それぞれの長老と呪い師を同行させよ!! 分かったな?」
その言葉にこの村の長老ばかりではなく呪い師も一瞬驚きを隠せないようである。やはり、何か二つの村には因縁みたいなものがあるのか、呪い師だけは何か不服があるようで手がわなわな震えていた。
しかし、森人の沙汰は絶対のようで震えていた手を長老が抑えて耳打ちして諭す。さすが長老というべきか。一見、呪い師のほうが神や森の精霊の宣託を聞くことが出来るので力が上のように思えるが、実際は長老が舵を握っているのかもしれない。
その長老の耳打ちにワナワナと震えていた呪い師の手が止まる。そして、ニヤッと笑うように口角が上がるとメルディム護衛分隊長の話した言葉に従いますというように深く平伏する。
やっと解放されるようでクワビムさんが先頭で奴隷旅団所属中隊の方向へと鼻先を向ける。俺は相変わらず連れてこられた時と同じにワオキツネザルの戦士の彼に背負子ごと背負われる。
クワビムさんがマイネンスさんを迎えに行って戻ってきた時間を考えるとジョルジョネ大尉の所まで結構離れているのかと思っていたが、向うも移動しているのだからそんなに時間がかかる訳ではなかった。二つ時、4時間かかるか掛からないか。昼時に野営しているジョルジョネ大尉の奴隷旅団所属中隊と合流が出来る。
何時もの煙を炊いていた所にガルボルテ工作長より大柄の二人の彼らが現れて昼休憩を取っていた年季奴隷の皆が一斉に驚く。その大きな体もそうだがそれぞれの玉ぐし色の鱗鎧に腰の大剣にも驚いたようだ。
俺が降ろされると、わらわらと皆が駆け寄ってくる。その姿に困ったような素振りを見せる二人の獣人の前にメルディム護衛分隊長が遮り「皆に大事な用で来て貰っている客人だから」と、集まった年季奴隷を追い返す。
そして、連れて来た二人に「この場所に明日の昼にそれぞれの長老と呪い師を同行してくるように」と、命じる。二人の戦士は頷いたところに「自分達の同行のみで他の戦士の同行は許さない」と、メルディム護衛分隊長が釘を刺す。その後、メルディム護衛分隊長にそれぞれの村に戻るようにと諭される。
彼らが勢い良く疾走して密林に消えると皆が一様に驚く。そうだよね~、あの体であの素早さは人族から比べたら反則だよね。ドルバン車長は口を開けたままゴナベル奴隷長に何かを聞いていた。
考えれば分かることだがあの体格で村同士で争いを起こせば大変なことになることは明白である。それにその争いに巻き込まれる周辺住民にとっては甚だ迷惑どころの話ではない。いや~、小競り合いが止まってよかった~‥‥‥。
胸を撫で下ろしながらジョルジョネ大尉の指揮車の扉を叩いて一応無事で原隊復帰できた事を報告する。一応は何時ものあのいやらしい顔で俺を迎えてくれる。
そのまま挨拶して終わりだと思っていると、外に出ようとした所でジョルジョネ大尉に呼び止められる。すると、目配せして中にいたアミュネス少尉、ユロジェン少尉、それに何故だかゴルムディアまで同行するといっていた三人の中尉がこの指揮車から出て行く。
三人の中尉が何故この隊に残留しているのか首をかしげながらもジョルジョネ大尉に言われるまま、俺は彼の目の前の席に腰掛ける。
待ってましたとばかりにジョルジョネ大尉はまくし立てるように俺を質問攻めにする。ミリクナ医務長らに話した内容を彼女から貰った手紙ハトゥーを横に置きながら一々確認するように話し出す。
大尉はミリクナ医務長が嘘は言わないと思っているようだが手紙ハトゥーでは良く理解できない話の内容を確かめるように何度も自分が納得できるまで俺を質問攻めにする。
いい加減何かの尋問のように俺を質問攻めにする大尉は、突然席を立ち後ろの席に行ったかと思うと両手にマグカップのような容器に何時ものホット麦茶を入れて自分の席に戻ってくる。自分が一口飲んで思い出したように俺にも一息入れろといった風にホット麦茶を勧める。そして、一言。
「信じられん‥‥‥」
いやいや、信じられないのは貴方だけではなく本人も大いに思っている事ですよ? そんな事を声を大にして叫びたい。話した自分でさえどうしてこうなったのか分からないのに‥‥‥。
心の中に要塞を築くなんて、誰が信じる事か? それにその要塞の中に獣人の猫種が指揮を取って俺の心を防衛なんて、話した俺でさえ信じられない事である。
半信半疑の大尉の顔を横目に出されたホット麦茶をすすり、もう質問は無いのかと考える。思い出したようについジョルジョネ大尉に質問をしてしまう。
「あの~、大尉? ちょっと小耳に挟んだのですが、その。あ~、え~と、そのですね。『二股の大蛇』ってなんですか?」
「ん? あ、まあ、その、なんだ。なんていって良いのか‥‥‥。犯罪組織といっていいのか、奴等はそういう仕事をしていたようだが‥‥‥。本当は違った集団でな。
まあ、追々話すけど。5年前に余りにも酷いもので整理したというか‥‥‥。あ~、面倒だ。
本来は救国の勇者が奴隷事件の事後処理の為に作った裏組織というか、そのような組織を作った。正式名は『八岐大蛇』といって、八人の頭目に一人の大頭目がいたとされている。その大頭目が救国の勇者が裏の顔として君臨し、各頭目に指示を出し自らも奴隷事件を起こしたやつ等の残党狩りなどをした。
奴隷組合が出来てから十年ほどは、裏から王国を支える陰の鎌といった役割をしたのだけど。ほら、そういう仕事は奴隷組合が本格的に動き出すと徐々に奴隷組合が担っていくことが大きくなったのと。一番大きいのは救国の勇者の所在が分からなくなって、行方不明になってからは‥‥‥。
あっ、表向きは死亡としている。嗚呼、救国の大賢者が奴隷事件後十年ぐらいで老衰で亡くなって、何年かしてからまるで王国が安定して役目が終わったというふうにな。自ら隠居してひっそり何処かで過ごして、やがて亡くなったのかも知れんがな。
その大頭目である救国の勇者が居なくなってから一時は解散したという噂があった。事実それぞれの八人の頭目は民にまぎれるように消えて行ったし、噂ではその頭目の何人かは奴隷組合に雇われたという噂もあったが、それはあくまでも噂で事実かは分からない。
それで解散となった話だったのが、奴隷事件後五十年位経ってから裏家業を請け負う組織の名前に八岐大蛇ってのが台頭して来てな。まあ、この四百年近く裏で王国の奴隷組合と殺り合って、ここ二十年位前にその裏組織を継ぐ頭目を三人まで減らしたのが二股の大蛇に。まあ、格が下がって二股ってことかな。
その総仕上げに五年程前にやつ等を殲滅する為に王国が本腰入れたというのがやつ等の最後だったのだが‥‥‥。どうやら復活して誰かの依頼を受けてなにやら画策しているようだな‥‥‥」
そういって考え事をする大尉が最後にまたやってしまったというふうに顔が引きつり沈黙してしまう。嗚呼、救国の勇者が裏家業の大頭目だった話であろうか? それとも、その流れを汲む奴隷組合の話であろうか?
‥‥‥。以前までなら即この指揮車の扉が開いて、ミリクナ医務長が飛び込んで俺の記憶を奪ったはずであるが今は首輪が無い。
その事を思い出して胸を撫で下ろすが突然この指揮車の扉からノックする音がして俺はビクつきながらも、扉のほうに振り向いたが大尉も同様に少し驚いた感じに扉の方向を見る。
直ぐに何時ものように誤魔化した風ないやらしい顔つきに戻ると「どうぞ」といって扉の外の人物を招き入れる。
その開いた扉から入って来たのはミリクナ医務長であった。一瞬頭の中に過ぎった先程の事に若干体が強張るが、ミリクナ医務長の後からペルジャーネ先生やメルディム護衛分隊長が入って来ると、妙に顔が引きつり変な所から声を出してしまう。
「なはは、どうしたのですか三人で? あっ、俺は。いや、私はお邪魔でしょうからここから去りますね」
そういって席を立とうとすると二人掛けの俺の席の隣にペルジャーネ先生がどかっと座りデウシー先生に代わる。
『まあ、座ってろ当事者!!』
はあ? 意味が分からない。何を仰るのか? 理解に苦しむ中、大尉の横にミリクナ医務長が座り、メルディム護衛分隊長は立ったままで皆を見ている。
「既に聞いていると思うがジョネ。いや、大尉。今回は森人の不手際でこの地に滞在させる羽目になって申し訳ない。森人を代表して謝る」
そういって頭を下げてお辞儀までは行かないが誇り高い森人が人族であるジョルジョネ大尉に頭を下げたのである。一応は上官であるがあくまでもそれは人族のルールであって今まで見てきた森人からすると人族に頭を下げる様子は見たことが無い。
あの雇われていた森人さえ雇い主には頭を下げていなかったような‥‥‥。そのような森人が、今目の前で頭を下げたのだから顔が引きつって驚いているジョルジョネ大尉の驚きようはそれが尋常ではない事が起きているという事を示しているのかも知れない。
「それで、主な者には明日下す裁定の内容を話そうかと思って。一応は母様。いや、イルソルの氏族長に話を通す為に手紙ハトゥーを送って、早急にこの地に仮で良いから治める森人を寄越すように書いたが‥‥‥。
手紙ハトゥーが手元に着いて返事が来るまでは早くても明日の昼まで付くかどうか。だけど何時までも待たせる訳には行かないし。最悪は私かもう一人のイルソル氏族であるランメネエム辺りに間に合わせだけどこの地に滞在する事になると思う。私がこの地に留まる訳には行かないのは大尉は分かっていると思うので、結局ランメネエムに残って貰うしかないと思う」
ジョルジョネ大尉はメルディム護衛分隊長が残るといった時に渋い顔をしたが、結局ランメネエムさんを残すと話してからは何処かほっとした表情になる。だけど何でメルディム護衛分隊長がこの隊を離れる事が出来ないのかは分からない。まあ、色々と事情があるのだけは何となく分かるのでうんうんと頷いて話を聞く。
「あと、肝心の裁定だけど困った事に張本人に問いただす事は私には無理だし‥‥‥。いや、不可能だから。それに二つの集落に顔を出した張本人に責任を取って貰いたい所だけど、それも無理。
そこで仕方がないので、彼らの氏族名である『「黒髪のニャ~ゴ」が進む先々で角笛吹く民』の本懐を遂げられるように、この隊がこの密林を抜けるまで彼らに思う存分に隊を先導して角笛を吹いて貰う事にしようかと思うの。
それでね、リョウジ。貴方はこの密林を抜けるまで先頭馬車の御者の席に座り、その‥‥‥。悪いのだけど『黒髪のニャ~ゴ』と、してこの枝道を通ってほしいのだけど。駄目かしら?」
途中まで、メルディム護衛分隊長の話をうんうんと聞いていた俺は自分の名前が出て呆けてしまう。まさに寝耳に水でそんな話は聞いてないよ~状態である。俺に見世物になれといっているようなのだけど‥‥‥。この場の雰囲気としてはやらないと駄目なようです。
「いっ、いや。やっても良いですけど御者なんかやったこと無いですよ?
それに馬にも触ったこと無いのに‥‥‥」
「大丈夫だ、リョウジ! お前が御者をやることは無い。
ちょっとあれを軽く改造してやれば御者は何時も通りにして‥‥‥」
不安な顔をした俺を他所にジョルジョネ大尉がなにやらブツブツ言って考え出す。そして、考えが纏まったのか何時ものあのいやらしい表情になると、俺の肩を正面から叩く。
「そうなると、盛大にやるか?! そうすれば人が集まり俺等を襲う機会が少なくなるといった所が狙いか? だが、その分警護が大変だぞ? きっと伝説の『黒髪のニャ~ゴ』を見に、枝道の路肩には近隣の集落からの人で混雑するぞ?
一応は百メタ以上はこの密林を南下したがまだ九百メタ以上はこの密林が続くからな! これから南下すればするほどこういった獣人の集落は多くなる。何故だか知らないがこの枝道は密林を南北に蹂躙しているし完成は最近だと聞く。まるでこれを見越しての枝道作成だよな?」
そういって、まるで誰かの事を思い起こすように何処か遠くのほうを見て、考え始めるジョルジョネ大尉であった。まあ、今までと違って外の様子が見えない箱の中よりは外の景色が見える外のほうが断然良いのだが‥‥‥。
だけど、今って俺が狙われている状況だよね? 第二陣までは見事というか偶然にも防ぐことが出来たようだけど。今後全てが上手くいくとは限らないよね?
しかし、誘惑が無いとはいえない。これから密林を南下するといっていたようだがその密林に住む獣人が見放題。ひょっとしたら触れ放題という事である。果たしてその魅力にどうしようかと考え込む俺であった。
次話へつづく
次話は6/15に投稿する予定です。




