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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第4章 振り回される年季奴隷 》
114/229

<4-22> 「祭られる年季奴隷  (中編)」

最新の修正日は2015年1月26日です。

 ここ数日の間に自分の周りで人々の生き死にを体験して戸惑っている俺ですが、その事に戸惑っているのは俺だけではないようです。


 若干何名かは屁とも思わない発言があるようですが少なくとも戦闘狂と思われたメルディム護衛分隊長は違っていた。まあ、身内に対しての慈悲であり向って来る敵に対しては無慈悲この上ない。


 それに、無慈悲に人が自分の目の前で死ぬのはあまり良いものではない。確かに向うに居た時にも事故や病気で亡くなるような人に会う事はあるにはあったが、こうも簡単に目の前で死ぬ人が多くなると自分がやはり異世界に来たと改めて実感する。



 それと、俺を攫ったのは「二股の大蛇おろち」とかいう裏家業専門の組織のようです。5年前に王国によって壊滅させたはずが、今になって復活して誰かの依頼を受け仕事しているという話を聞き、一体誰が依頼したのか気になるが俺に分かるはずも無い。


 五日ぶりの奴隷旅団所属中隊に戻るとジョルジョネ大尉に質問攻めにされた挙句、今度は「黒髪のニャ~ゴ」として見世物になるようです。こんな貧相な体つきの俺が見世物になって果たしてこの密林地帯に住む人達は納得してくれるのかは分からない。


 しかし、多種多様な獣人けものびとを見たり、触れ合う機会になるのかと考えるとそれも悪くないと思う俺であった。






 突然の話で、都合上この俺が「黒髪のニャ~ゴ」としてこの中隊を先導する馬車の上に、まるで山車だしの如くこの密林の枝道を練り歩く話を聞き耳を疑う。


 いやいや、俺は今狙われている対象だよね? ‥‥‥。もう何度目の誘拐事件なのかこの人達は理解出来ているのか? つい口に出そうかと思った俺であるが、少し考えると密林には多種多様な獣人が住んでいるとミリクナ医務長が言っていたような‥‥‥。まあ、それも悪くは無いかな?



 こう何度も攫われては戻ってくる事を繰り返しているといい加減慣れてしまう。いや、もう諦めたといったほうが良いのか? なる様にしかならない。


 それに万が一攫われて現実世界で連絡が取れなくてもあの心の世界ではシャムネアお嬢様とは意思疎通は出来るよね? 切羽詰れば神頼みという事がこの世界では現実、いや心の世界で出来るので問題は無いよね?


 今は想像の域である多種多様な獣人に思いを馳せるべきなのかもしれない。嗚呼、そう思わないとやっていけない。もうどうにでもなれ~‥‥‥。




 「どうやらリョウジもやってくれるそうだメルディム!! ではそのように手筈を整えよう」




 「あっ、大尉。それと上と掛け合ってほしいのだけど‥‥‥。多分、この先こういった氏族間の争いが耐えないと思うのね。それでこういった争いの原因の多くはお腹に収まる物に対してその縄張り争いというか‥‥‥。他の森では森人が管理する事が筋なのは分かっているのだけど。ここは密林、他の森とは違って‥‥‥」




 「メルディム、皆まで言わなくていいぞ。取り合えず道路が開通している事だし輸送に関しては問題ない。後は密林に住む獣人けものびとが我らを受け入れてくれるかが問題なのと、我らが直接獣人と取引するよりは森人を介在させた方が断然いい。それに森人からの食料の一時配布としたほうが、この先色々と問題が少なくなると思うがな‥‥‥。


 俺個人としては千年前に無理やり連れて来られた人々を密林に侵食されたといって置き去りにした人族の罪はあると思う」




 「いや、それを言うなら‥‥‥」




 なんだか森人代表としてのメルディム護衛分隊長に人族代表としてのジョルジョネ大尉の意見のようだが‥‥‥。自分の住んでいた世界の事を思い出す。食料を与えるだけでは問題は解決しない事を。そして、つい言わなくても良いことまで話してしまう。



 「あの~、食糧問題以前に先ずはこれからというか、今も継続して対立している獣人達の様子を探らないといけないような気がするのですが? これから進む先々で紛争の処理をするのはいただけないかと。


 これから向う場所に住んでいる住民の数や敵対する氏族の分布位置など今すぐにでも森人の同意の下調査する必要がありますよね?


 あっ、ミリクナ医務長あたりはご存知のように思えますが‥‥‥。すると、彼らが一番必要なものはご存知で?


 それに紛争のどちらかに肩入れするという事になると、どちらかの不満が募り結果的に良くないことが起こりそうだと思うのですが? この際、アラレスティ王国と森人が本腰入れなければいけない問題のような気がして‥‥‥。嗚呼、一般的な話ですいません。」



 「嗚呼、君の言う事は尤もな事だがその為に先ず君、黒髪のニャ~ゴのお力をお借りする。お題目はこうだ『黒髪のニャ~ゴが密林に飲まれた西の小森のいさかいを止めに、困った氏族を救済に再び訪れる』救済を望む氏族は『ニャ~ゴの進む先で角笛を吹く民』を待てとな!


 基本は派遣される森人の手腕に頼るが、その前にきな臭いこの密林地帯を一時静かにさせる。黒髪のニャ~ゴが来てから森人が来訪したとなると、密林に住む獣人はやっとこの地に秩序をもたらす為に念願の森人がやって来るといって一時的に希望を持つことになる。


 そして、森人から援助されて間接的。いや、裏に人族がいた事を知り、人族に対して彼らの警戒心が薄れやがては受け入れる準備が整う。そこでやっとこの道路を使って密林の調査や時には虫に因る被害をなくす為に討伐隊の編成などが進むという訳だ。


 まあ、この内容で上司に報告するのと森人の代表者との擦り合わせもあるのだが‥‥‥。上手くいくかは神のみぞ知る‥‥‥。いや、ここに居たか?


 彼女に聞いてみればよかろう? と、いう事で頼むよリョウジ?」




 そういってまじめな顔つきで講釈を垂れていたジョルジョネ大尉が途端にいやらしい何時もの顔つきになる。そして、皆が俺に注目するではないか‥‥‥。



 「あ~、無駄だとは思いますが。一応は聞いてみますよ‥‥‥」



 そういって立ち上がると俺が席を離れる為にペルジャーネ先生が席を立つ。その場から退席すると指揮車を出る。


 内心、嫌々な状況であるが一応は皆が俺を頼ってというか、まともに話出来るのは組織に無関係な俺だけである。年季奴隷の戯言たわごととして聞き流してくれるかな?


 ‥‥‥。あ~、気が重い。



 シャムネアお嬢様が乗っていると思われる指揮車の前に来て扉をノックすると中から返事がする。嗚呼、何処にも行かないで大人しく今日は指揮車の中に居たらしい。中に入ると昼のパンをモシャモシャと口に頬張り、芋が入った汁にスプーンを入れていたお嬢様と視線が合ってしまう。


 お約束通りにモゴモゴと言って言葉にならない声でため息が出てしまう。彼女の前の席に座り昼飯が終わるのを待つ。嗚呼、結局ここの飯は彼女の口に合う様で、今日もおいしそうにパンを頬張ったり芋を頬張っている。


 あの時言い放った「奴隷旅団所属中隊の飯には期待しない」と、いったあの言葉は嘘ではないかと突っ込みたい。そんな事を思いながら木の皿の汁を惜しむように皿を傾け最後の一滴までスプーンで掬う。そして、プイホンさんと同じように皿を舐めようとしてお嬢様の隣に座っているラシャネスさんに止められる。


 「美味しかったですかお嬢様?」




 「これなら毎日でも良いの~!!」




 「お食事に満足していて気分が良いところに真に申し訳ないのですが‥‥‥。なにせこのアラレスティ大陸は広いですよね。一応、森人の代表者までここの現状を書き記した物を手紙ハトゥーで送ったそうなんですが‥‥‥。


 こういった紛争はこの密林にあふれているのでしょうかね?


 それを全部解決しないと俺。いや、私を含めてこの密林から出してくれそうも無いのでしょうか? ‥‥‥」




 「千年じゃぞ? その年月に滅んだ森の子の氏族はいくつだと思う? まあ、自然の法則から行くと弱きものは滅ぶのが摂理ではあるが‥‥‥。


 その間も何度かあの盆暗共ぼんくらどもの前に現れては忠告したのだが‥‥‥。基本、あやつらは年月に関する感覚が他の奴等とは違って良く言えば気長、悪く言えば鈍間であるからの~。妾も基本同じではあるが最近のこの大陸の目まぐるしさに慣れて昔よりは悠長には構えて無い。


 そういえば何時だったかの~? この前の召喚者が来た折にも、ついでに忠告したのだが‥‥‥。あの時はいろいろ有ったが為に有耶無耶になってしまったが、今回はそうは行かぬ。数少なくなった森の子同士での諍いが頻発しだすとは流石の妾も堪忍袋の緒が切れた。幸い奴等の孫がこの中隊に居るのであやつに血を見せてやったわい。これで動かなければ‥‥‥」




 そういってニヤリとした表情で考え出すお嬢様に寒気がして来る。ひょっとして王国の危機ってお嬢様が起すのではないかとそんな考えが浮かんでしまう。


 しかし、お嬢様は人族に関してはどうでもよさそうな気がして、そんな考えは消えてしまう。俺が考え出した所に急に座っていた椅子を降りて俺の手を引張り外に向う。


 一体何処に連れて行かれるのかと思いながらなすがままに彼女に腕を引張られ、ジョルジョネ大尉が居る指揮車まで連れて行かれる。


 徐に指揮車の扉を開いたかと思うと中で話し込んでいたジョルジョネ大尉を筆頭にミリクナ医務長やペルジャーネ先生を無視してメルディム護衛分隊長の腕を掴み外に引きずり出す。


 一体何事かと地面に引き擦り出され目を丸くしたメルディム護衛分隊長はガタガタ震えだす。そんな事はお構い無しに、今度は足で指揮車の扉を蹴って閉めると、俺の腕を掴んだお嬢様自ら再び扉を開けて。いや、独りでに扉が開いて、俺の腕を引張りながら「ついて来い!!」と、俺に言い放つシャムネアお嬢様であった。


 そして、視線でメルディム護衛分隊長を睨むと無言で頷き静々とメルディム護衛分隊長も後を付いてくる。




 再び入った指揮車の扉の中は見慣れぬ別世界であった。



 エメラルドグリーンの半透明な結晶のような物で出来た柱が連立する見たこともない場所で、その奥には黄緑色に輝く扉があり、上を見上げると青い空ではなく光が屈折して見える半透明な感じの天井で赤い夕日が柱と平行に下界とこの場所とは遮断するような苔むす石の壁と床を照らしていた。


 後ろを振り返ると同じような柱と壁、結構な距離まで続きその先を窺い知る事はできない。そして、再び振り返ると、メルディム護衛分隊長が絶句しながら呟く。




 「なっ!! ここは‥‥‥。大森林の大神殿? その奥は‥‥‥」




 すると、いつの間にか先を歩いているシャムネアお嬢様とラシャネスさん。そのシャムネアお嬢様が大きな声で俺等を呼ぶ声がする。


 その声にせかされ俺が歩き始めると、メルディム護衛分隊長がまだ呆然としている状況を目撃してしまう。俺はそんな彼女の目の前に立ち、意識を確かめる為に手の平を彼女の目の前で振る。その仕草にやっとメルディム護衛分隊長は我に帰り、俺と共に少し小走りでシャムネアお嬢様の後に続く。



 その回廊のような場所を歩き奥の光り輝く扉の前に来て、その扉の大きさにまたもや驚く。高さ20m、巾は5mは有ろうかという巨大な両開きの大扉で、一体何故黄緑色に輝くのかは分からない。見たこと無い素材で扉自体が光り輝いている。


 ふと、この場所には似つかわしくない子供達がはしゃぐ声と声がしわがれて、いかにも年を召した人物の声が耳に入ってくる。横を見ると、この回廊とは違う抜け道のような狭い通路に数人の人影が見えた。そこには一人の大人を中心に子供達が車座になって話し込んでいる状況であった。



 そんな状況には目もくれないでシャムネアお嬢様の横に立っていたラシャネスさんが無表情に回廊の大扉に手を掛けると、なにやら電子的な表示が扉に表示される。何故だか読めない文字が黄緑色に輝いていた扉に青白い文字で浮かび上がる。それが順に一層光り輝くと扉が静かに開き始める。その状況にまたもやメルディム護衛分隊長が驚きだす。




 「なっ!! この扉は氏族長じゃなければ開かないのに‥‥‥」




 その驚いたメルディム護衛分隊長を無視して、その奥に開ききった大扉を一瞥したシャムネアお嬢様は、またもやずかずかと足を進める。


 その大扉の先にはこれまた広い空間に20人が座れるような大きな円卓が置いてあり、ここの部屋の天井も回廊と同じように空の夕焼けが眺める事が出来ていた。


 その円卓の側に近寄ろうとして始めてそこに人が居る事に気が付く。一様に座っていた人物は驚きを隠せないようでメルディム護衛分隊長と同じような表情で俺達、いやシャムネアお嬢様を注視する。




 「何奴?! ここを何処と心得ておる?! いや、一体どうやってこの場所に?! ‥‥‥」




 その驚く人物達が一様にそのような言葉をいい放つ。その言葉を放たれた人物、シャムネアお嬢様を見てまたもや驚いてしまう。先程まではごく一般的なアラレスティ王国の人族姿であったが、今は魔人まびとの姿であった。


 そのお嬢様の姿を見ていた俺の横から王女殿下の姿を確認した円卓に座っていた人々の慌てふためく騒々しい音が聞える。その騒々しい音に視線を向けると複数の森人が床に平伏する姿であった。


 すると、その内の一人がメルディム護衛分隊長の事を「メル!!、メル!!」と小さな声で呼び、自分の横に来て同じように平伏するようにと指を差す。しかし、それを邪魔するように彼らと並んで平伏しようとしたメルディム護衛分隊長を王女殿下が手で制する。




 「そろそろ、娘の手紙が着いて使命を忘れた者共が何やら相談している頃じゃとおもうてな! それで意見は纏まったかや?!


 どうせ氏族が減って回せる者が居ませんと、グダグダやっていたという所かえ? 

 それにしても千年経っても結論が出せないとは‥‥‥」




 すると、平伏していた人物を数えてみると13人、席が20ある事を考えると7人減ったのかと一人納得する。長い年月の内に少なくなった森人に新たに森を制しろというのは酷な事なのかもしれない。


 しかし、なんで全国に散っているはずの森人の氏族長と思われる人物達が勢ぞろいしているのか気になってくる。それぞれ自分が制する森を抱えているはずで気軽にこのような場所に集まる事は稀なはずである。そんな疑問が浮かんだ所に王女殿下が話し出す。




 「一々、細かい事を気にするな~、もう。こやつ等は今度の遠路はるばる招かれた客人まれびとに対して、人族とどう対処するか未だに話し合っているのじゃよ。取り敢えずは自分の娘を人族に派遣させ、様子見を決め込んでた所かの?」




 その王女殿下の嫌味に我慢できないのか平伏した人物の一人が震えながらも話し出す。




 「恐れ多くも、主様ぬしさまに申し上げます。そもそも、先の原因は主様が短慮を起こされあのような事を起こしたと、先々代の氏族長から聞き及んでおります。それなのに我らが不甲斐無い言い方はあまりのことにございます」




 まあ、そうだよね~‥‥‥。そういわれた王女殿下は鼻で笑いながらも引き続きその森人の一人が最後まで話すのを聞き入るようだ。




 「まだあります。遥か以前にもそのような事で東の地も改変なされ、そこの近くにあった森が消滅したとも伝説には残っております。全て主様のなさり様の結果ではございませんでしょうか?」




 へっ? 東の地? 西の大陸回廊も消したのに東も同じような事をしたのか、この王女殿下? 二回もやっちゃうとかどんだけ堪忍袋の緒が切れやすいんだ? その事に呆れた目で王女殿下を見ると彼女は静かに。いや、皆を諭すように話し出す。




 「それもこれもお前達が不甲斐無いばかりか、上の大陸から流入してくる人族からお前達を守る為仕方なく致した事。そのお陰で数千年は気楽に過ごしたはずではないかえ?


 西に至ってもこれは新参であるが妾の土地に根を降ろした人族を守らんが為、あの地は人族には害がある地。長く住むには向かない土地ゆえ、海で閉ざした。海で閉ざす前に妾はお前達に人族を止めるように忠告はしたはずである!!」




 そういって平伏す森人を一瞥すると、ため息混じりにまた話し出す王女殿下であった。




 「まあ、じゃが、そなた等の先代。いや、それ以前の代の氏族長の愚痴を今更言っても仕方がなかろう。一つ解決策を授けてやる。それを選択するのは自由、各々考える時間を授けようと思うが余り時間は無い。


 また直ぐにそなた等の娘とそこの今回の客人まれびとをあの元西の小森であった場所に連れて行かねばならぬ。先程、血を流す事までした森の子の諍いを彼と彼女が仲裁したのでな。明日の昼にはそこに戻らねばならぬ故、ゆるりとは出来ぬ。


 あっ、そうそう、愚痴ばかりで解決策を言うのを忘れておった。良いか? この森を含め元守護二十氏族に連なる氏族は今は十三である。いつの間にか作ったそなた達の決まり事からはみ出た守護氏族の末裔は未だに彷徨っているものから、この大森林で最下層と蔑まれた元守護氏族まで全部で十以上あるのだぞ?


 古から伝え聞く事を今辞めても何の不都合があるのかや? 今すぐにその禁を解き、彼らを新たな守護二十氏族として迎え入れる勇気を持ってもよかろう?」




 その言葉にざわめく13人プラス、俺の横に居る1名。今の言葉に森人も階層社会だった事に気が付く。へ~、最下層とかまるで何処かの人族社会と同じなんだなと変な事に感心してしまう。


 単純に集団を統制する一番の方法は階級である。少なくともこの森人にもそういった階級がある事に、森の支配者とか森の神という言葉に妙に納得してしまう。


 そこで、今朝のメルディム護衛隊長の悩んでいた事を思い出す。森の支配者、森の神などと呼ばれている彼女達のふがいなさを悔いていたような‥‥‥。


 何処だかの偉い人が言っていた言葉を思い出す。「高き身分に見合った働きを!!」と、そんな言葉である。もっと違った言い方だっただろうか?


 ようは「高貴なる者の勤め」と、言ったところか。そんな事を考えた所で俺の考えている事を察した王女殿下がニヤリとして俺を見る。




 「何だったかの~、ほれ。ジョネの所に居る奴は確か‥‥‥」




 「主様、イナゲヘアのラグフムです」




 王女殿下が思い出せない名前をラシャネスさんが補足するように読み上げる。その名前、多分氏族名に対して13人プラス横の一名がため息を漏らす。そして、13人の内の一人が恐る恐るまたもや意見する。




 「主様? そのイナゲヘアという氏族は禁忌を犯し今の地位に置かれているものでして、代々氏族長よりのいいつけにより禁を解く事なかれと‥‥‥」




 「そなたはその破った禁の事を知っているのかや? 知りもせずにグダグダ言っているとプイに変えてしまうぞ!!」




 そのドスの利いた脅しに意見をした者が縮こまる。いや、そうじゃなくて。そんな事までできてしまうのか、この王女殿下は?


 嗚呼、逆らわないようにしよう‥‥‥。




 「あ~、何時の事だったかの~‥‥‥。遥か昔とだけ言っておく。


 そのイナゲヘアに連なるある親子が居た。娘だったかな? 当時の禁忌は森人は多種族と交わる事なかれといったものであったか? 男共はそんな事は我関せずであったのだが、特に女子おなごが他種族の男と相容れる事を禁じた禁忌であったかの~?


 ‥‥‥。よくある話で禁忌を犯して、そのイナゲヘアに連なる娘は恋をした。相手はある村に住む人族であった。当然その娘の親は禁忌に触れる事なので猛反対し、娘とその人族の男を別れさせようと娘をある所に閉じ込める。


 しかし、恋焦がれた娘はそこを脱出し、人族の男と駆け落ちする事になる。男は開拓村の自分の家に娘を連れ出し暫くは平和に暮らしていたようだが、ある日とうとう娘の一族が村を襲い男共々皆殺しにした挙句、あろう事かその娘の前でその男を見せしめに惨殺したという。


 普通なら一族がやった事なので闇に葬る事は出来たようじゃが、娘は親と一族を筆頭守護氏族長に訴え出る。事が公に成り黙って見過ごす事ができなくなってイナゲヘア氏族は蔑ませる最下級の地位に追いやられる。


 その事を見届けた娘は詮議が終わり、一族の主な物が詮議に不平を言い出したその場所で腹の子供を道連れに死を選んだという、哀しい出来事であった。妾がもう少し早めに意見していれば助かった物を‥‥‥」




 そういって視線を遠くを見るように向ける王女殿下は少し哀しげな様子であった。再びキリリとした表情になると、諭すように話始める。




 「下らん禁忌のお陰でまた禁忌を破る事になるという、真にもってあほな決まり事である見本のようじゃ!! 今はその一族で存命の物はいないというのに今だにその罰を償わせるとは‥‥‥。もう十分だとは思わないかえ? また悲劇を繰り返すのかえ? ‥‥‥」




 流石に最後の言葉が効いたのか反論する森人は居ない。皆黙って王女殿下の話を聞きいっていた。その聞いた事が有る様な無い様な悲しい話、一般的に何処でもあるような話で蔑む身分とはなんとあほらしい事であろうか。


 横に立っていたメルディム護衛隊長を見るとそんな事があったのかと感心している様で頷いていた。俺と視線が合うと若干目が泳いだのは内緒である。思い当たる事が自分にあるからね。今はジョルジョネ大尉を追っかけ、その前にも人族の男を追っかけていたという噂も聞いているし‥‥‥。




 「え~、今は種族の繁栄の為に他種族との交わりを禁じてはいるまい! 特に女子おなごの場合、血が濃く出るので男共が外で作る場合と違って必ず森人の姿で生まれるのは実証済みであろう?


 ‥‥‥。今は禁じていない事に対して、イナゲヘアの件は別というのは筋が通らないであろう。禁忌をその時代に合わせて変えているのに罰は永遠に続くとか‥‥‥。


 妾のめいを忘れ、お門違いな禁を作り自分達の首を絞めるとは‥‥‥。もう許されても良かろう? その内、守護氏族が居なくなり全員最下層の氏族に成り果てるのかえ?」




 その言葉が決め手になったか分からないがなにやらごそごそと話し出す13人の森人の氏族長は結論が出たのか、代表者が「主様の御意のままに」と一言。その言葉にメルディム護衛分隊長は何処となく嬉しそうな表情になる。何度も王女殿下の顔を窺い、自分の親である氏族長の顔を見る。




 「え~、仲良く親子の何年ぶりの対面と致したい所であろうが速やかに触れを出し、これまた速やかに例の森にイナゲヘアの者共を寄越すように手配せよ!!」




 その言葉に名残惜しそうに娘に目で合図した氏族長の一人が皆に合意を求め、何やら円卓に向かい書類のような物を出して書き始める。やがて、なにやら書き記した物に直筆の署名をしたかと思うとこの場に居る残りの12人の署名を求める。


 残りの12人の署名が終わり、この場にいた事を示す為に何故だか連盟で俺にもサインをしてくれと頼まれる。王女殿下の顔色を伺い、俺がサインしても問題ないのか躊躇していると「早く署名をしろ!!」と、急かされ次にメルディム護衛分隊長、ラシャネスさんと続き署名する。


 最後に王女殿下も署名すると思ったら王女殿下は手の平にインクらしき物を塗ると勢い良く書類を手の平で叩く。そこには王女殿下の名前ではなく、まるで相撲取りの手形のようで何を考えているのかと噴出しそうになる。


 すると、次の瞬間黒い手形が赤く光り朱塗りの手形になる。そして、小さな文字が浮き出てその文字が光る。やがてその光りが静まりこれまた黒文字になり、いかにもそれらしい文字でサインしたように見えるのだが‥‥‥。


 結局、その文字を解読する事はあのここの部屋に入ってくる時に見た扉の文字と同様に解読する事はできなかった。理由は俺に聞かれても分からない。




 「ようし!! 今回の客人まれびとの顔見世も出来たし帰るとするかの~‥‥‥。あっ、他の氏族も順次。いや、早急に許す触れを出すように!! そうしないとこれから困る事が起きるかもね‥‥‥」




 最後にそんな軽い感じに暗くなるような言葉を発する王女殿下はもう用事が済んだとばかりに扉のほうに向って歩き出す。振り返ると青くなった感じと一様に不安な表情を見せる13人の氏族長の様子に、俺のほうが不安になるのだが‥‥‥。何か俺と連動する物言いのようで、俺のほうが不安だと突っ込みたい。


 あなた方は俺より遥かに優秀な人達だから問題が有っても跳ね返す力はあるだろ? 俺なんか探査術も中途半端なら魔素術は使えないは手紙ハトゥーはやっと使えるけど他は使えるか分からないなど、不安な事ばかりですよ?!


 その俺の不安な表情を他所にメルディム護衛分隊長は短い間であったが久しぶりの親子対面といった感じに母親と思われる人物と抱き合い、短い抱擁をすると部屋を出る王女殿下の後を追うように走り出す。


 その場所に置いて行かれた状態になった俺は慌ててその場にいる13人の森人にお辞儀をして王女殿下の後を追う為に走る。



 扉を出た所で先程の子供達に混じって1人居た老人らしき人物が王女殿下に平伏しながらなにやら話をしている場面を目撃してしまう。


 先に王女殿下に追いついていたメルディム護衛隊長はその老人に手を添えてなにやら「久しぶりお婆様」といって抱擁をする。へ~、この人がメルディム護衛分隊長のお婆様か‥‥‥。


 えっ? お婆様という事はあの話に出てくるアウメネエムご本人という事なのか? 驚きを隠せない俺は何故だ顔が引きつり彼女にもお辞儀をして先に立去った王女殿下の後を追う。


 走り去る俺に何か言葉を発せられた気がしたが、急いでいた為聞きそびれてしまう。引き返して聞き返そうと思ったがあのお嬢様を待たせるのも怖い。


 すると、大扉からある程度離れた所で王女殿下は立止まると柱の陰に入る。次の瞬間、柱の影から出てきた王女殿下は元のシャムネアお嬢様に戻った姿であった。


 エメラルドグリーンに透き通っていた柱ではあったが変わる瞬間は見る事はできなかった。そのまま苔むす壁際に寄ったお嬢様は何故だかこの時は静かに皆が集まるのを待っている。ようやくお婆様と挨拶が終わったメルディム護衛分隊長は走ってこちらに向って来る。




 これで人数が揃ったので直ぐに帰るとばかり思っていたが、そこで咳払いするお嬢様。すると、エメラルドグリーンに透き通っていた柱の一つに黒い影が‥‥‥。いつの間にか後をついてきたミリクナ医務長であった。ばつが悪そうな表情をしながら俺等の側に歩いてきたミリクナ医務長は、言い訳するようにモジモジと話し出す。




 「一応は、リョウジの保護者的な私が‥‥‥」




 次の瞬間、土下座してシャムネアお嬢様に謝り出す。「申し訳ありません」という言葉が10回ほど聞えて、ようやく帰る道が繋がる。


 先にお嬢様がその入り口に入るとすごすごと皆がその後に続く。一瞬の出来事で余り上手く説明できないのだが、ゴルムディアでの拉致されて料理屋に行った時と同じ感じで壁を通り抜ける。


 すると、そこは何時もの指揮車の中で、口をあんぐりと開けたジョルジョネ大尉が行き成り入って来た俺達をただ見ている状況であった。



 そこで、肝心な事を思い出す、これからの俺である。何故だかこの密林に新たな森人が派遣される話に胸を撫で下ろした所であるが、問題は山済みである。そう、これからこの密林を抜けるまで俺は「黒髪のニャ~ゴ」として祭られた挙句、見世物になるのである。



 そんな事を急に思い出してドキドキしてしまうチキンな俺であった。




 次話へつづく

次話は6/20の金曜日に投稿する予定です。

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