<4-20> 「戸惑う年季奴隷 (後編)」
最新の修正日は2015年1月24日です。
現実の世界で「ニャ~ゴ」と、いう言葉で目が覚めた俺ですが、どうやらネコ系の鳴声ではなかったようです。
そのガッカリ感に追い討ちをかけるように右手と左足が骨折していたようで、その彼らに応急処置的な手当てをして貰い、鳴声の様な言葉の主から「自分達は『ニャ~ゴ』が進む先々で角笛吹く民」と、紹介される。その彼らの村まで俺は同行しないといけないらしい。
運ばれる途中気を失い、またもや自分の心の中の要塞内部にある映画館のような所で映像を見せられ「ニャ~ゴ」の意味を知る俺であった。
映画が終わり何故この映像を見せられたのか? 俺の横に座っていたプイホン1号にこの映像が流れた理由を聞こうとすると、俺は現実の世界に戻される。気が付くと日は落ち再び真っ暗闇の中を木々がざわめく音で、まだ密林の木々の上を移動している事が分かる。
そこで今までというか誘拐されるまでは夢で、心の中のあの白い空間で見た映像は現実の世界に戻ると忘れてしまうというか記憶がなくなっていた。しかし、ここ最近はその記憶がはっきりとある事にまたもや疑問が浮かんでくる。
何故に記憶があるのか? この間までは見ていた夢というか、あの映像の内容が分からなくてモヤモヤしていたのだけど最近はその映像の事をはっきりと認識する事に疑問が残る。
それに流れる映像は相変わらず無声映画であるが、映像に流れる会話などは何故だか理解出来るのも不思議な事であった。そういえば音が流れていなかったのにあのネコ共は何で「ニャ~ゴ」と、大合唱していたのだろうか?
‥‥‥。分からない。
余り深く考えると頭から煙が出そうになる。もう何がなんだか分からなくなりぼんやりと真っ暗闇の中の景色。いや、真っ暗な空間を見ていると背中がゾクゾクと寒くなり嫌な予感がして来る。一瞬真っ暗な闇の中に赤く輝く光りが見えて、大声で叫んでしまう。
「あ~~~~、ストップ、ストップ‥‥‥。止まれ!! 止まれ~~~~~~~!!」
すると、猛烈な勢いで右側、多分俺を背負っている人物の前方だと思うがその前を真っ赤な火の玉が通り過ぎる。もう密林に穴を開ける勢いである。嗚呼、こんな風景を俺はあの空間で見た記憶があるのだが‥‥‥。
多分俺を追ってきた人達が俺を背負っている人達を足止めさせる為に放ったの思うのだけど。若干殺気が見え隠れしていたのはボフボーニャさん辺りが放った魔素術なのかも知れない。このどさくさにまぎれて俺を抹殺してペルジャーネ先生を独占しようとまた企んだのか?
そんな考えを巡らしていると、俺を背負った彼は仲間を呼んで固まって攻撃してきた相手を迎えるようだ。真っ暗闇の中、何時もの探査術で周りを探ると俺を中心に5人が攻撃方向に固まる様子が分かる。
再び飛んで来た火球の明かりで彼らが俺にしては大盾のように見えるが彼らからしたら普通の盾のようで、その盾を軽く斜めにしてその火球を跳ね上げる様子を見せる。何度かそのような光景を目撃して攻撃してきた方向とは斜め逆方向から人の気配が感じられる。近付く双方に俺は叫んでしまう。
「ストップ、ストップ!! 嗚呼、止め!! 止め!! 御互い攻撃態勢を解いてください!!
両方とも味方ですよ?! 攻撃をやめてくださ~~~い!!」
その声で木の上からと、その下の茂みから人の気配が近付いてくる。その中の一人が灯りのようなものを灯して俺の方を照らす。一瞬眩しくて目を瞑ってしまったが明らかに見たことがある金髪の天パと着ている服でデウシー先生かペルジャーネ先生と判る。
木の上からは黒い影が降りて来て俺の様子を見る。それに同じようにメルディム護衛分隊長が茂みから姿を現し俺を背負って固まるように警戒している彼らを見る。
ようやく警戒していた彼らはメルディム護衛分隊長の姿を見て自然に頭を垂れ、俺を背負っていた彼も俺を背負子ごと降ろすと「森を治める神」と、呟きひれ付する。
降ろされた俺の様子を見て光を照らされる状況に若干ざわついたが、メルディム護衛分隊長が一睨みすると皆は大人しくなってしまう。
「森を治める神、お許しください。これは我らの呪い師が森の精霊の言葉を聞き、その黒髪のニャ~ゴ様を迎えに行けと宣託が降りたので仕方なく。森を治める神がご立腹の理由が分かりません。
森の精霊と森を治める神は仲違いしているのでしょうか? どうか『黒髪のニャ~ゴ』が進む先々で角笛吹く民の戦士であるこの私めに教えていただけないでしょうか? 恐れ多い事は重々承知でなにとぞ、お教えを!!」
「嗚呼、面倒な事に引張りまわされたようだね、リョウジ? 嫌な予感がするのだけど? 今も何処かでくすくす笑いながら私達の様子を窺っている感じがするよ!!」
そのメルディム護衛分隊長の言葉で思い当たる事が二、三ある。何時だったか服装が汚れた二人の魔人に、意味ある含み笑いをしたあの空間の出来事。多分メルディム護衛分隊長の予想している事は120%当たりだと思う。
ミリクナ医務長が俺の様子を調べている頃、ようやくボフボーニャさんが追いついてきたようで火球が通ってきた密林の穴からヒョコリと顔を出す。すると、デウシー先生に頭を小突かれてお小言を貰っているようだ。
「う~ん。ここじゃ処置出来ないからあなた方の村に案内して貰おうかしら? 私は治癒者よ、そういえばあなた達も理解できるでしょう?」
「嗚呼、黒髪のニャ~ゴ、骨折れてる? 直せるのか?」
そうミリクナ医務長に尋ねる彼らは何か一安心したように武器を腰の鞘に仕舞い盾を背中に背負う。再び俺は背負子ごと背負われて彼らの村に連れて行かれるようだ。
先程とは打って変わって少し速度を落とした感じに木々の上を伝っているようで真っ暗な中もその速度にあわせてミリクナ医務長やメルディム護衛分隊長、宮廷魔素術使い師弟のコンビも付いて来る。
夜が明けて日差しが木々の間から漏れ出した頃、密林が切り開かれた場所に出る。朝餉の準備か、炊煙が立ち上る様子が横に進む彼らのお陰で見る事が出来る。
村の入り口と思われる丸太の砦のような場所に俺は下ろされメルディム護衛分隊長とミリクナ医務長に支えられながら門の前で待たされる。
先に俺を連れてきた彼らが門の中に入り多分長老辺りに報告しているのであろう。ふと、門の横に草で出来たドームのような建物を見つけてしまう。人が這ってようやくその中に入れるような建物に首をかしげながら見ているとメルディム護衛分隊長が舌打ちする。
「あちゃ~、生まれ変わりの儀式が残っているなんて久々に見たよ。これは四、五日ここの村にいないといけないようだよ」
「へっ? 生まれ変わりの儀式?」
「ああ、こういった村にはよそ者は入れないのが普通でね。そこでよそ者を村に入れる事に当たって、そこの小屋に一昼夜入って貰い再びその狭い所から出る。その出て来たあたし等を赤ん坊のように抱きかかえて村に入れるのさ。まるで産道のようだろ? あれは彼らの子宮、村の母親の腹と言う訳さ」
「へぇ~、そんな儀式があるのですか。生まれ変わりか~~」
「丁度いいわ、あの中で処置をしましょう。どうせその生まれ変わりの儀式までは出る事が出来ないのでしょうから‥‥‥」
そういって俺の顔を見るミリクナ医務長は何か含むことがあるようで何か怖い。俺等が話していると門の扉から俺を連れてきた戦士達と彼らの長老らしき腰を曲げて杖を付く人に虫の殻なのか綺麗に着飾ったいかにも呪い師っぽい人物も同行して来る。その後ろから興味深そうに覗き見をする子供達のような姿が扉の隙間から顔を覗かせる。
彼らは俺より先にメルディム護衛分隊長に跪くと口上を述べる。先程戦士と呼ばれた人物の語ったような内容であった。その後、皆は言われる前に門の外にある丸太塀の横の、あの例のドームに入ろうとすると呪い師と長老が皆を制止する。
「ワシらの戦士パチャムから聞いたのだが治癒者がこの中に居られるとか? それに森を治める神が居られるようなので我らの儀式はしなくても良い。
いや、その、我らの都合で申し訳ないのだが。あの、兎に角、早急に治癒者に見て貰いたい者共が居ましてな。ささ、申し訳ないがその黒髪のニャ~ゴ様の治療の後で良いので診てはくださらんか?」
そんな長老の言葉にミリクナ医務長はメルディム護衛分隊長の顔を見て戸惑う表情を表す。そして、仕方がないといった風に肩を竦め、俺の介助をしながら皆その門を潜る。
砦のような村の中に入って先ずは血なまぐさい臭いに、皆は顔を顰める。歩みを進めると村の中央の広場に怪我をした彼らの仲間が血がしみこんだ包帯のような布着れを巻きつけたり、中には唸っている人物も見受けられる。
俺をその広場の一角に座らせると素早く着替えるミリクナ医務長。黒装束が素早く白装束の変わる。ああ、ただリバーシブルの黒衣を裏返しにして白衣にしただけなのだが‥‥‥。
そして、白衣のボタンを留めると先ずは俺という様にニヤッとするミリクナ医務長。目配せしてメルディム護衛分隊長やいつの間にか現れたボグフムさんにクワビムさんまで俺を取り押さえ先ずは右腕とばかりミリクナ医務長が俺のその骨折していると思われる腕を引張り始める。
余りの激痛に声にならない悲鳴が出る。暴れようにも三人にしっかり固定されていて暴れる事は出来ない。激痛の中、急に暖かくなった骨折部と思われる腕の痛みが何処かに飛んで行く。そして、素早く巻いていた包帯を使って添え木をして包帯を巻き直す。
そうすると、次は左足のはずである。痛みを我慢する為に体が硬直し始める前に行き成り激痛が走る。俺はこれまた声にならない悲鳴をあげてしまう。そして、右腕と同じように急に患部が暖かくなって同じように添え木をして包帯を巻かれる。
「ふう、もういいわ。二、三日は動かせないけどその後は歩けるようになるわよ」
意味が分からない‥‥‥。ああ、木属性の魔素術で生命活性の術だったか、それを使ってある程度折れ曲がった骨を引張って繋げたらしい。さすが異世界、久々に感心してしまう。
その後、クワビムさんにメルディム護衛分隊長を通して医薬品と応援のマイネンスさんを連れてくるように頼んだようで、愛馬というか彼女の大虎に跨ったクワビムさんは軽々と彼らの丸太の塀を飛び越えて外の密林に消えて行く。
俺の治療が終わると広場に横たわっている怪我人をざっと見たミリクナ医務長は重病人、中程度、軽症の3種類に怪我人を分ける。比較的軽症なものはメルディム護衛分隊長とボグフムさんい任せるようで彼女等は軽症の人達の集まりに行く。
中程度の怪我人はどうやって傷を癒すのか説明した上でデウシー先生かペルジャーネ先生とボフボーニャさんに任せるようだ。そして、行き成り自分の顔を両手で叩いたミリクナ医務長は重傷者の治療に取り掛かる。
今ある薬と器具で最低限の治療をするのか頭を捻りながら格闘しているようだ。やがて昼が過ぎ、軽症者の治療が終わったメルディム護衛分隊長とボグフムさんが中程度の治療の手伝いに入る。
そして、夕方。日が落ちかけた頃に黒い影が丸太塀を飛び越えて白衣を着たマイネンスさんを連れて来る。背中と手には道具を持って来た様で乗せられた大虎から降りると、急いでミリクナ医務長の元に駆けて行く。彼女は持ってきた箱を開封して次々に薬品のようなものと、器具を出して重症患者を治療し始める。
その間、皆は交代で休み治療に当たっていたのだが、ミリクナ医務長だけは休まずに仕事をしていた。その覇気というか意気込みに、腹が空いていたのだが飯を食べる気にはなれなかった。
なぜだか彼女が治療している間、目が冴えて眠気まで消えてしまう。最後の一人が包帯に巻かれ夜が明けかけた頃、そのままその場に倒れるように寝てしまうミリクナ医務長を見て、メルディム護衛分隊長が彼女を抱いて広場の一角に設けられた病人用の寝床の一つに彼女を寝かせる。
「あら、リョウジ。貴方まで起きている事なかったのに?」
「いや~、彼女の凄さに飲まれたというか。
散々ここに来るまで寝ていたので眠気がしなかったので‥‥‥」
そういって俺は頭をかく。その側で助からなかった家族の何組かその亡骸のそばですすり泣き始める。それとは対照的に助かった家族も同様に涙を流しながらメルディム護衛分隊長の前に来て崇め奉り始める。俺等に朝食を運んでくる子供達の後ろから長老が呪い師を伴ってやって来る。
「本来ならば助からなかった命の多くを助けて頂、感謝致します、森を治める神よ。助からなかった命は森の土に返り、やがて祖先の下に召される事でしょう」
「まあ、御託はいいから。このあたしを拝むやつ等をどうにかしてよ!! うっとうしい!!
それより怪我の理由を聞きたいものね?! あの傷はどう見ても刃物による怪我よ?! まさか森人が不在だからといって森の子どうしで諍いを起こしているというの?!! きちんと説明して頂戴!!」
そのメルディム護衛分隊長の少し怒った口調に恐縮する二人はちらちら俺を見る。はあ? 俺が原因というのか? ‥‥‥。分からない。そして、重い口を開き始めたのは呪い師のほうであった。
「森の精霊の宣託が出た日、ワシらの近隣の村にも同じような宣託が出たと向うの呪い師がこの村に使いを寄越して来た。彼らの使いと入れ違いにワシらの使いもこの近辺の村に使いをやっていてな。どっちが本当の宣託を受けたのか言い争いになって‥‥‥。
ワシらの方が森の聖なる木の場所で宣託を聞いたのじゃぞ? やつ等はその選択を盗み聞きしていたに違いない。ワシらが宣託を受ける日じゃったからな。やつ等の宣託日は数日後じゃ!! ワシらが正しい!!」
そんな事をメルディム護衛分隊長に力強く主張し腕を振り上げる呪い師。同族なのであろうか? それとも違う種族なのであろうか? それに宣託を受ける神殿のような場所を共有って、意味が分からない。
そんな彼らの話を聞いたメルディム護衛分隊長は顔を顰め面に変えて、両手で顔を覆ってため息を付く。そして、小さな声で俺に耳打ちし始める。
「本来ならばこの地の森人がこういった種族、森の子の争い事を流血沙汰になる前に評議してどちらが正しいか決めるのだが、この地には森人いない。こういった場合流血沙汰になることがあるのよね。
しかし、大抵は近隣の森人が噂を聞きつけて沙汰を下すのだが長らくこの近辺には居なかったから‥‥‥。これは森人の不始末による争いだわ、参ったな~~。こんな事が他の森人に知られると非常にまずい。どうしよう‥‥‥」
「どうしよう‥‥‥」と、いわれても困るのは俺のほうである。森の子の不始末はその親である森人の不始末になるようだ。と、いう事は確かメルディム護衛分隊長のお母様かお父上が森人を束ねているのだよね? まさかとは思うがそれに取って代わろうとする他の氏族でもいるのか? 俺に他の種族間の権力争いのようなものを相談されても困るのだが‥‥‥。
何となくこの俺がこちらのほうに来たのが原因のような気がして来る。俺を利用して種族間の争いの火種に火を点け森人が不在になった土地の争いごとに苦言というか忠告の為にひょっとしたらあのお嬢様は宿題を出したのかも知れない。
そうすると、ここは知らない振りをすることは出来ない。なんだか自分の事のように考えないといけないのかも知れない。
「あのー、メルディム護衛分隊長? 私を連れてその近隣の村に行きましょう? きっと向うでも負傷者はいると思うのですが?
それに、少なくてもこの争いで亡くなる人数を最小限にして喧嘩両成敗で事を収める方向にするのが良策だと思いますよ? 早くしないと向うの負傷者の人数のほうが増えるかもしれません。
嗚呼、私が行くのは一応彼らの面子を潰さない為で少なくともこれから向うその村にも訪れたという事で実績と言いますか、その。あっ、既成事実。その既成事実で彼らの宣託も正しかったという事でその村を訪れて。まあ、なんと言いましょうか争いを止めに来たといった様に言いくるめれば何とかなるかもしれません。多分普段から仲違いしていたと思うのですがね、彼らは」
そういってメルディム護衛分隊長に耳打ちして彼らを見る。すると、先程倒れていたと思えるミリクナ医務長が起き上がって俺の後ろに立つ。
「仕方がないわね、その村まで案内してもらいましょう」
「いや、でもお疲れのようですが‥‥‥」
「マイ姉も来ているし、皆でチャッチャと終わらせればいいじゃない? そして、神様のメルディム護衛分隊長にこの場を治めて貰って、さっさとこの場所から立去りましょう? もしかするとまだ追っ手が居るかもしれないしね!!」
その話を聞いたメルディム護衛分隊長はまたもや顔を手で覆う。そして、仕方がないというか諦めのため息をして、目の前の長老と呪い師を前にして沙汰を下す。
「先ずは、相手側の負傷者も助けに向う。同じ森の子、捨て置く訳にはいけない。その間の争いは禁止する。万が一それを破った場合、どんな理由に関らず罰を下す、よいな!! ではその村までの道案内を!!」
その言葉に平伏しながら聞き入る二人。そして、急いで立ち上がると長老が誰かの名前を叫び、呼ばれた戦士が来ると彼に命令して俺等をその村まで案内するように命じる。
すると、彼は背負子を持って来て、この俺にその背負子に座れと指差す。なんだか先程とは扱いが違い戸惑ってしまうが、もしかしたら俺を運んでくれた人物とは違うのかもしれない。
彼の言う通り背負子に座り腰を紐で縛られると背負子ごと俺を軽々持ち上げ雑に背負う。そこで、何となく彼の心境が読めて来る。そう、これから向うその村の住民を助けるというのが気に入らないようでブツブツとそのような事を口走りながら歩き始める。
ミリクナ医務長とマイネンスさんはそれぞれ獣僕の背中に跨りクワビムさんに掴まったりボグフムさんに掴まったりして行くらしい。他の宮廷魔素術使いの師弟とメルディム護衛分隊長は自分の足で行くらしい。まあ俺はろくに歩けないし、ミリクナ医務長やマイネンスさんは結構疲労しているから仕方が無いよね。
やがて村の皆が見送る中、入って来た門とは別の門から外の密林の世界に入る。相変わらずブツブツ言っている彼に俺は大きな声で話しかける。
「昔の黒髪のニャ~ゴはあなた方の息子、いや祖先か。その子供であった祖先だけを助けたのですか‥‥‥。違ったと思いますよ。どの子供も分け隔てなく助けたと記憶していますが? 違いますか?
今も死線を彷徨っている人がこの地にはいるのですよ。あなた方だけを助けるのが黒髪のニャ~ゴが望んだ事ですか? 昔の黒髪のニャ~ゴも私と同じに傷ついた彼らを助けに行ったと思いますよ」
その言葉が効いたのか知らないが、先程までブツブツ言っていた彼は黙ってしまう。その黙った彼はそのまま森の中を進む。結構近隣なのか一つ時、2時間も立たない内にその村の近くまで来る事が出来る。空の太陽、サラム様がちょうど真上に来る前に着いたのでそれぐらいだと思う。
彼は背負っていた俺を降ろすと、前に出てまるで俺の盾になろうかという感じに前に聳え立つ。そして、ゆっくり歩き始め、その村の同じような丸太砦と同じような門構えの20m前後の所まで近寄る。
すると、門の扉が開いて俺を背負ってくれた彼と体格が同じぐらい大きい、顔が真っ黒で顔の周りに真っ白な毛が生えたワオキツネザルとは感じの違う別種のキツネザル系だと思う人物が武器を携えて扉の前に立つ。その時、俺の前に立っていた彼は一瞬身構える。
それを制してメルディム護衛分隊長が前に出るとその門の前に立った戦士のような人物は顔色が変わったような素振りで慌てふためく。門の前に立っていた顔が黒い彼は慌てた様子で扉を開けて中に入る。
暫くして向うの長老らしき黒い顔の杖をついた人物と、これまた同じような虫の甲殻で着飾った呪い師が現れる。そして、メルディム護衛分隊長の前に前に屈みながらひたひたと進み5m手前でひれ付する。
「先ずは怪我人を助けに来た。案内しておくれ。そして、そなた等の言い分を聞こう。分かったな?!」
うむを言わせずメルディム護衛分隊長はずかずかと前に進む。その後を皆が進み俺を乗せてきた彼もゆっくりだが後に続く。村の同じような広場には向こうと同じように怪我をした顔の黒いキツネザル系の人々が唸っていた。
早速同じようにミリクナ医務長が先ずは傷の程度をざっと見て同じように怪我人を分け始める。そして、同じ手順で人を分けて治療を始める。
その間、俺はやることが無いので包帯を渡したり水を運んだりとせわしなく足を引きずりながらそれを手伝う。その仕草に何を思ったのかワオキツネザル系の俺をここまで運んでくれた彼が俺と同じ様に皆の手伝いを始める。
最初は訝る黒い顔のキツネザル系の彼らは次第に傷が手当されていく仲間を見て、同じように俺等の手伝いを始める。結局傷の手当てが終わったのは同じように日にちが変わって朝焼けが見えた頃であった。
それからは気が付けば昼過ぎまでふかふかの草が敷かれた寝床で寝かされていたようで、目が覚めると食事の用意がされていた。
その料理といっても俺が一昨日食べた葉っぱに包んだ白い何かと、何かを姿焼きしたものに魚を焼いたものなどである。粗末な食べ物に見えるがもしかしたら彼らにしてみればご馳走かも知れない。
まあ贅沢はいえない、今の俺等にもご馳走には変わりなかった。飯を食べ終わると皆帰り支度しており、早く来いと手招きされる。
あれ? 評議はしないのかと首をかしげてメルディム護衛分隊長のほうを見て、彼女の機嫌が悪い事に気が付き何かがあったのかと勘ぐってしまう。まさかとは思うがまさかなのか?
そのまさかの出来事に戸惑う俺であった。
次話へつづく
次話は6/10火曜日に投稿する予定です。




