<4-19> 「戸惑う年季奴隷 (中編)」
最新の修正日は2015年1月23日です。
密林を彷徨い川に落下して溺れ掛けた俺ですが、気が付くと何時もの白い空間に佇んでいた。その空間でシャムネアお嬢様、元の魔人の姿であったそのお嬢様に俺の心の中で、外の出来事の映像を見せられる。
その最後の落ちは本人が力尽きかけた場所に居ないという。
その事実に戸惑うばかりの俺であった。
突然「ニャ~ゴ」と、いう言葉が耳から入って来る。その言葉というか鳴声なのかは分からないが、その囁くような音で俺は現実の世界に呼び戻された気がする。
まだ体が今一動かないし、それよりも寒気がして急に目の前に流れている風景に焦点が合う。今、俺は何かの背中に背負われて。いや、背負子のようなものに乗せられているのか、目の前の風景が斜め後方に流れて行く。
その斜めというか若干横に流れているようで右から左へ景色が流れる中、自分の頭を動かそうとしたが頭は動かないので固定されているのかもしれない。
それに体も手足も同様に背負子のようなものに固定されて動かない。そのような状態なので流れる風景に疑問を持ちながらも現状把握をしようと、俺は視線をキョロキョロさせてその様子を眺める。
風切る速さで、次々に木々の枝が俺の横を通って行き、何時の間にか夜が明けたのか木々の間から日差しが洩れて辺りの風景が見える。
時折、俺を背負っている人物のものかと思われる白と黒のストライプ、島縞模様になった細長い尻尾のような物がひらひらしていて、俺を背負っている人物はどうやら獣人らしいという事は理解できる。
そこで朧げながらも予想できる事が二つ。「嗚呼、いいもの拾った~~! これは俺の物! 持ち帰ってご馳走だ~~!!」と、いう事が一つ。
もう一つは「おや? こんな所に人族が倒れているぞ?! 助けてお礼を頂戴しよう」と、言ったような事である。あのジョルジョネ大尉も旅人を助けるとお礼が貰えるといっていたよね? まさか、無いとは思うがただ単に人助けというようなことは無いよね?
そんな考えが浮かんでくると嫌な予感がして来る。所有物という言葉である。前に見たテレビで人助けを含め、助けた人物は助けられた人を所有するという恐ろしい前世紀以前の話である。うわ~、それは無いは~‥‥‥。前例を経験している以上それが無いとは言いきれない。
しかし、今回は大丈夫! 確かジョルジョネ大尉に貰ったベルトの中にお金が入っているはず。それにアラレスティ王国の年季奴隷という印が左手の手の甲にある。
ここは、とりあえずのお礼としてベルトの金貨を渡し、後でジョルジョネ大尉に話してお礼の品を送って貰う手立てもありである。
そう自分に言い聞かせ、不安のような物を払拭する気持ちを湧き立たせる。そう、ポジティブに考えないとこの世界ではやっていけない。
そんな事をついブツブツ囁いてしまう。すると、突然今まで木の枝の景色から下に下りたのか木の幹が見える風景に変わる。どうやら木の枝から下に降りたらしい。
暫く地面に生えている草、草と言っても結構な背丈があるようで俺の目線では草の上を拝むことは出来ない。やがてその草が見えている視線から消えてしまう。
地面に降りてからも何故だか視線は右から左へと先程とは逆に流れて行く。どうやらこいつというかこの人というか、この人物は蟹歩きの要領で横方向にジャンプしながら疾走しているという事に気が付く俺であった。
そこで俺の少ない知識を総動員して俺の目の前をゆらゆらしている縞々の長い尻尾を持つ獣系を思い出すように検索する。
すると、あるアニメの台詞と音楽が頭の中を流れる。嗚呼、マダカスカル? そんな名前だったか、アフリカの斜め下の島がそんな名前だったような‥‥‥。この長い尻尾に横っ飛びのような疾走と来ると思い当たるのは「ワオキツネザル」であった。
小学生の頃、図鑑に載っていたものが、狐なのか猿なのか分からなくて悩んだ時もありました。自分で分からなくて両親を困らせ、小学校の教師に「和名であって正式名ではない」といわれ、話をはぐらかされうやむやになった事もあった。
確か、高2の何時だったかは忘れたが、何かの試写会でそのアニメを見て、周りは小学生ばかりではずかしくなって途中で出てきた記憶がある。
そうなのか? いや、ここは異世界で別の惑星。まさかと思うが犬や猫種の獣人がいるのだからこの種の獣人がいてもおかしくは無い。
そういえば何処だったか雑貨屋の主人が狸かアライグマのような獣人だったじゃないか? どれだけの種類が居るのかは分からないが、熊種の獣人も内の中隊にいたし、蜥蜴種も居たじゃないか?
こちらではなんて呼ばれているか分からないが「(仮)ワオキツネザルさん」とでも呼ぶか?
そんな俺がブツブツ言ったりごそごそしていたのが気になるのかしきりに立ち止まって俺の様子を見て「ニャ~ゴ‥‥‥」と、いった言葉が聞えてくる。
そして、急に開けた場所に立止まると背負子と共に俺は下ろされる。縛っていた紐を解かれようやく体が自由になるのかと、一安心して右腕上腕と左足膝下の激痛に驚く。良く見ると添え木のようなものがしてあり布切れで縛って固定されているではないか。
嗚呼、あの落下した時にやってしまったのだろうと思う。それにしても骨折しながらもあの犬かきは火事場の糞力、アドレナリン全開で痛みを抑えて体の保全を図る為に必死に犬かきで川岸に辿り着いたのかと思い起こす。
それにしても包帯のような布切れの間から葉っぱのようなものがはみ出てジワリとだがスースーしてシップのような感じに多少は痛みが和らぐ。骨が折れているならば全治2ヶ月という所か?
まあ、命が助かっただけ儲けものとポジティブに考える。治療をしてくれたという事で、あの考えの前者は無くなる。やはり後者の考えで助けた俺にお礼のお金を請求してくると考えたほうが良いのかもしれない。
俺を下ろして縛っていた紐を解いた「(仮)ワオキツネザルさん」が俺の様子を見る為に俺の目の前に現れる。
驚いた事に俺を軽々背負ってあの速さで移動できるのだからある程度体が大きいと思っていたが、予想以上にその俺の前に現れた人物は体が大きい。手の平なんかは俺の3倍はあるかという大きさで、起用に俺の右腕や左足の包帯を解き始める。
すると、横からその彼よりは小柄な人物が顔を覗かせ俺の解かれた包帯の中に添えていた葉っぱのような物を取替え新しい物を添えて新たに添え木と共に包帯を巻いて縛る。
思わずお礼の言葉をかけてしまう。それがいけなかったのか分からないが、その身体に似合わず急に怯えて俺の目の前に平伏す。
「我らは『黒髪のニャ~ゴ』が進む先々で角笛吹く民、気軽にお声を掛けられる身分ではありません。我らの呪い師が森の精霊よりお告げがあり『黒髪のニャ~ゴ』様をお迎えに至った次第です。どうか、ご不便かと思われますが再び背中でご静養して我らにご同行してください」
そんな事を平伏する一人に言われてしまう。当の本人は一体何のことだか心当たりがまったく無いので戸惑ってしまう。今までのアラレスティ大陸に来て起きた出来事を思い出すが思いあたる言葉が当てはまらない。「黒髪のニャ~ゴ」は置いといても、その人物の進む先々で角笛を吹く民とか聞いた事が無い。
何処かで読んだか聞いたか分からないが、一瞬森人の名前の由来は人族が森に住む民という事でつけたのであって、それは正式名所ではないという事を思い出す。
嗚呼、こちらで呼んでいるのは殆ど人族目線であった。と、いう事はこれは現地の種族固有の呼び名が種族の氏族名になっていると言う事なのかも知れない。
随分長い氏族名だがこれは俺の言葉に訳されて聞えてくるので本当はもっと短いのかも知れない。そういえば海人族のチャモイヌさんも代わった氏族名であったけど本当は彼等の言葉で意味ある言葉だったのか?
俺が困惑して色々な事を考えていた為、彼等は勘違いしてなにやらこそこそ話を始める。二人だけかと思ったらいつの間にか6人ほどの人数に増える。
「いや、ちょっと待って? 色々な事が起きすぎて、今はその事を考えていただけで。その‥‥‥。あ~、分かりました。傷の手当もして貰った事だし、そのあなた方の長老か、その呪い師の所にでも好きな所に案内してください」
その言葉に皆は安心したのか、小声で「よかった」とか「使命が果たせる」などと、彼等は一族の命で動いている事が窺い知れる。
想像するにその呪い師のお告げで彼等は一族を代表で選ばれ、俺か誰だか知らないが迎えに来たらしい。それでお告げの通りそこに気を失った俺を見つけて、応急処置で俺の右腕と左足に添え木をして包帯を巻いたのだろう。
その応急処置が終わり次第、彼等の村か集落に連れて行かれるようだ。俺が案内してくれという言葉に安心した彼等は腰の革袋から何かの緑色の茎のような物を差し出して俺に勧めてくる。
確かに腹は空いているのでありがたく貰う事にするのだが‥‥‥。貰った茎は直径5cmほどもある結構太い物で長さが20cmほどある。臭いはこれと言って無く恐る恐るその茎を舐めて見る。
俺がその茎に舌をつける様子をその場に居る6人が凝視する。横目で彼等の顔を見て俺の仮説が正しいことを確認する。彼等は白ではないが灰色掛かった基本の白色の体毛に目の周りが黒く瞳は金色で、俺の思った通りのワオキツネザルの容姿であった。
体は不思議な色の鱗状の鎧を纏って、腕や足にもその不思議な色の鱗状の鎧を纏っている。腰には俺が持てばドラゴンスレイヤー並の大剣であるが彼等したら普通の長剣であるものが差してあった。鞘にもその不思議な色の装飾がしてありとても綺麗である。光の当たる具合で色々な色に変化するまるで玉串色。嗚呼、そうか。その鱗は昆虫の外皮を使用しているのかもしれない。
俺が彼等から貰った物を舐めて彼等の様子を見ていたので更に俺がその茎のような物を食べないのかと彼等は心配しだす素振りを見せ始める。
慌てて俺はかぶり付いて、意外な甘さに無心に貪りつく。どうやら茎のような物は笹の葉のような物をこの白い何かに巻いて蒸したか茹でたか焼いたのかもしれない。
パサパサしているが甘めの味が空腹だった俺の胃袋が喜ばせ、もっと寄越せと五月蝿い。周りに葉のような物を取り貪るように食べ始め、思わず喉に詰まらせて慌てて彼等が竹筒のようなものに入った水を飲ませてくれる。
俺がその彼等の食べ物を食べ始めたのでようやく彼らも同じようなものを食べ始める。人心地つくと徐に立ち上がる彼等は俺に紐で縛ることに許しを請い、了承すると申し訳なさそうに俺を背負子に縛り、俺を背負子ごと背負う。
彼等は再び軽快に走り出し、見る見る間に景色が流れて行く。腹が膨れたのと疲れなど考えられる事は多々あるがいつの間にか意識が遠のき、寝てしまう俺であった。
突然、間延びしたブザーの音が響き、俺は映画館のような所で椅子に座っている。何故こんな所にいるのかは分からないが、横には見たことあるネコさんが大勢同じように椅子に座りこれから始まる映画を楽しみにしている感じにポップコーンのような物を摘んだり飲み物を飲みながら今か今かと待っている状況であった。
反対側を見ると同じようにネコさんが沢山座っていて俺の左にプイホン1号が座って俺に対して挨拶をする。
「これはご主人様!! 丁度良い時にこられましたな。本日は余暇の為、半舷休息と言いましょうか、交代で余暇の映画を上映いたします。宜しければご覧ください」
そういってポップコーンが入ったバケツを俺に寄越し、飲み物が入ったジョッキを渡してくる。行き成りで良く分からない状況であるが、記憶の紐を解きあの絵図面にあった空間を思い出す。
俺の心の中にある心の要塞下層にあった広い空間で何の為にあるのか分からなかった部屋の事である。どうやら映画館だったらしい。くだらない物をと思いながらもついていた灯りが次第に暗くなり始め映像が流れ始める。
始まった映像には表題の様な物は無く行き成り映像だけが流れ出す。
なにやら何処かの町のようだが薄暗くごみごみしていて、人がごった返している。映っている映像には数人の男のような姿があり、どれもローブのようなこちらでいうバーゼナを上から羽織って姿を窺う事はできない。
一体何の映像かと首をかしげながらも、どうやら映像を写している人物もこの数人の人物の仲間のようで、手招きされて前の人物達に追いつくように近寄って行く。
人だかりの中、ようやく視界が開けて絶句する。よくある中世の風景で舞台に鎖で繋がれた人物を競るように周りに指を差し出し数字を表している人物が映るではないか。
すると、周りのネコさん達が一斉にブーイングしてニャーニャーと五月蝿くなる。それはさて置き、その奴隷市場のような所を歩いていた映像を写す人物を含めその集団はその光景を侮蔑するように言葉を吐いたかと思うと、その中の一人が行き成り壇上に上がるではないか。その人物が壇上に上がったかと思うと、いつの間にか抜いた剣で鎖でつながれていた人々に切り付け始める。
驚いた事に切りつけた後にまるで大きな音を立てて床に落ちる音が聞えるように、繋がれていた鎖や首輪などその奴隷と思われる人々を繋いでいた物が舞台の上に落ちる。
すると、素早く舞台の下に居た彼の仲間と思われる人物達の所に彼等を預け始める。その様子に競をしていた奴隷商人と思われる男が唾を飛ばしながら怒り始め、用心棒と思われる舞台裏に居た男達を大声で呼ぶ。
そこからは万を辞してローブを羽織っていた人物達が一斉に羽織っていたローブを捲り、腰の剣に手を掛けその用心棒達を始末し始める。
絵に書いたような奴隷救出劇に首をかしげながらも音が出ていないが不思議な事に話す言葉が聞え、ただ流れる無声映画を見る俺であった。
☆ ☆ ☆
「ガイセウス!! あらかた片付いた! 後は攫われていた者を連れ出し、ここの領主の騎士が来る前にずらかる!」
「ちょ~、おまえ!! 俺の名前出す事無いじゃん?!」
「いいから助けた彼等を連れて例の場所で落ち合おう! お前等は先に行け!
殿は引き受けた!!」
声の主の所業で奴隷市場が混乱する中、逃げ惑う奴隷を見に来た人々に紛れガイセウスと呼ばれた人物は助け出された人々を誘導しながら他の仲間と共にその場から脱出する。
狭い路地をいくつもうねりながら、その場所から離れていく風景が見える。その彼等が追いつかれ、または邪魔されないように声を掛けた人物と共に宙を浮く剣が追っ手をさえぎる。
最終的にその剣が殿を勤め追っ手を巻くことに成功するようで、最初に声をあげた彼もその人ごみにまぎれて姿を隠す事に成功したようだ。
彼は走りながら後ろで空中に浮いた剣が暴れまわる様子に毎度の事だが驚く素振りを見せ、今は足がつかないように追っ手を撒く事に専念して、通りを複雑に曲がり時には屋根を伝い追っ手を撒く為に走る。
途中、彼に合流する見たことがある容姿の彼ら、若干一名は女性のようだが目つきは鋭く彼とは似ても似つかない長い耳にオレンジ色の瞳が光る。その彼女と併走しながら何処からかやって来たか分からないが先程空中で暴れていた剣の一部が彼女の背中に独りでに収まる。
「リョウゴ!! 相変わらず凄いね!! あの太い鎖まで切ってしまうとは驚いたわ!! そのカタナとかいう刃物はよほど切れ味が鋭いのね?!」
「参ったな~、どうして俺の腕とは言ってくれないのかな、姫様は‥‥‥」
「また、姫様という!! 名前で呼んで良いと言っているでしょ?!
どうしてアウメネエムと呼んでくれないのかしら?!」
「そろそろ隠れ家近くなので下に降りて息を整えましょう?!」
そうリョウゴと呼ばれた人物が言い放つと、何を言っても駄目という風にアウメネエムと呼ばれた彼女は後ろについて来た仲間に合図して、リョウゴの後に続いて屋根上から建物の下に降りる。
下に誰もいない事を確かめ、降りた4人は路地裏に入り人目を気にしながら建物の中に入る。素早く扉を閉め扉の隙間から追っ手が居ないか一瞥すると、扉を閉め閂を掛ける。
すると、中には大小の獣人と思われる人々が肩を震わせながらこれから何が起きるのか心配している状況であった。その様子に笑顔に話し始めるリョウゴである。
「皆、大丈夫。俺はリョウゴ!! ある人の家来でね。君達の親御さんに頼まれて助けに来たんだ!! もう心配しなくていい。温かいご飯を食べて一眠りしたらここから密かに連れ出してあげる」
そんな言葉に肩を震わせていた子供達は安堵の息を漏らす。そこにガイセウスと呼ばれた男が大きな鍋を持ってその鍋を机の上に置くと、皿に暖かい粥を注ぎ始める。
その暖かい粥が盛られた皿を順に子供達に配り、子供達は口で息を吹きかけ冷ましながら慌てて食べ始める。その光景を目を細めて眺めたリョウゴは「後はガイセウスに任した」と、言い放つ。リョウゴは彼女、アウメネエムとその共の二人と共に隣の部屋に入ってしまう。
部屋に入ると、そこには育ちがよさそうな青年が机に座って何かを書いている。その側に長剣を背負った人物が入ってきたリョウゴ達の姿を見て背中の剣の柄に掛けた手を離してニコリ微笑むと、まるでお帰りと言った様に目で合図する。
椅子に座った青年はリョウゴ達が部屋に入って来たことに気が付くと、一言「ご苦労様」と、言って再び机に向う。
「王子! 頼まれた子供以外にも数多くの子供を助けてしまい、本当にアウタルス王子にはまたご迷惑をかけてしまいます」
「本当にご迷惑と思っているのならその子供の行き先を考えなきゃね、そうだろリョウゴ? 私達の手の大きさには限りがある。しかし、私も君も欲張りだからね~、こぼれそうになって足まで使ってそれを救おうとする。困った性根だから仕方がないよね~、こればっかりは‥‥‥。
一応はこの町に滞在している旅芸人一座にお願いして知り合いの領地まで下働きとして仮に一座に入れて貰い、そこまで連れて行って貰う手配は出来てるよ。後は頼まれた子供達を親元に帰して‥‥‥。
あっ、アウメネエム達には悪いけどその子供達をその例の一座に送り届けてくれるかな? 大人しく一座に居て新天地でやって行く事を言い含めてお願いしたいのだけど。貴女達の言う事なら子供達も納得するよね? 森人の言う事なら聞くと思うけど?」
「仕方がないわね‥‥‥。これも仕事の一部だからね! でわ、行って来る」
そういって彼女等森人達はこの部屋から出て行く。その彼女等が出て行く様を目で追い、彼女等が扉を閉める事を確認してアウタルス王子は横に立っていた人物にも目で合図する。
その人物は彼らの話を聞かないといったふうにアウタルス王子に目で合図すると部屋の外に出る。彼が出て行った事を確認するとアウタルス王子はリョウゴに話し出す。
「毎度君に嫌な仕事を頼まなければいけないことに心苦しい事なんだが‥‥‥。子供等を森に返す前に手を打っておきたい事があってね。再び彼らが手を出さないようにきつくお仕置きをしてほしいのだが‥‥‥。
今回この話に絡んだ領主の長男とその取り巻きの奴隷商人の親玉にはこのアラレスティ大陸から退場して貰う。嗚呼、その領主の次男とは話がついているし、話の分かるその奴隷商人の商売敵には話は通っている。彼らが居なくなって喜ぶといっていた。
それにあからさまに奴隷狩りのようなことは慎むと言質はとっているのでこれ以上は酷くならないと思う。まあ、約束を違えば次は自分達という事は十分解っているので暫くは大人しくするさ」
「いや、アウタルス王子が心を痛める事ではありませんよ。人には向き不向きがあります。偶々私はこういった仕事が向いていたというだけで、それがああいった子供達が住みやすくなる世の中を作る為だと思えば屁でもないですよ?!
‥‥‥。あっ、嗚呼。二人の顔は前に確認していますからちょっくら行って来ます。直ぐに済むと思うので‥‥‥。二時もあれば。それまでここを引き払う準備をあのガイセウスにでも命じてあげて下さい。
奴は俺のような仕事よりは子供達を相手にしているほうが向いています。それにあのゾンディウムは貴方の護衛に残さねばなりません。では、行って参ります王子!」
アウタルス王子は彼に一礼をして見送る。彼が部屋から出ると扉の横に立っていたゾンディウムはリョウゴに頭を下げて言葉は発しない。それが彼らの会話のように頭を下げた彼にリョウゴは微笑む。リョウゴが部屋の外に出て行くと書類の山を丸め始めここを引き払う準備を王子自ら行うようであった。
部屋を出たリョウゴは素早く違う扉を開け長い廊下を歩き自分の部屋に入ると黒装束を用意してそれを身に纏う。まるで何処かの忍びの出で立ちで腰に自分の刀を差すと顔を二、三度叩く。
気を引き締めその部屋から出るとまた違う扉を開け階段を駆け昇る。そのまま屋根裏部屋に出ると天窓から屋根伝いに外に出る。偶然かどうかは分からないが今日は新月で珍しく双子月が両方とも空から消えている真っ暗闇の世界であった。その暗闇の中を屋根を伝って彼は目的の屋敷に忍び込む。
奴隷商人の親玉は今日の不手際で幾ら損をしたかを部下を責め、見せしめに舞台の上で競をしていた部下を皆の目の前で鞭打ち始める。
それが終わり部下に攫われた奴隷を探し出すように命じると、自分は一人自室に篭り金勘定を始めだす。帳簿に今日の損金を書き記し何処で埋め合わせるか考える。
そんな中、急に部屋の灯りの蝋燭が消える。舌打ちした彼は扉に向おうと席を立つ。代わりの灯りを頼もうとしたが部下は皆、今日攫われた奴隷の捜索の為に追い出していてこの屋敷には誰も居ない事に気が付いたからだ。一人ぐらい屋敷に残して置けばよかったと後悔をする間も無く彼の首と胴は互いを離れて頭が床に転がる。
一方、奴隷商人の後ろ盾になっていたこの地の領主の長男は酒を飲みながら一人同じように自室にて悪態をついていた。彼もまた同じように部屋の灯りが消えたのと同時に同じように首と胴が離れて頭が床に転がっていたようである。
それは前もって話がついていたかのようにそれぞれに故人の病死の発表が行われ、故人に代わって新しく成り代わった人物達によって平常の日々が始まる。まるで故人が最初から居なかったかのように何時もの日々が始まり、新しい子供達を旅の一座に迎えこれまた普段通りにこの町を去り新しい町へと彼らは旅立って行く。
「領主の長男坊が病死したらしいぜ‥‥‥。悪い事は出来ないもんだな~‥‥‥」
「忘れものは無いかガイセウス? 5人の子供達にバーゼナを被せて他人の視線に入れさせるなよ?」
「分かってるって、リョウゴ兄い!!」
「ちょ~、お前。この前は俺の事を『お前』と呼んだのに何で今日は兄いなんだ?」
「いや~‥‥‥。いいじゃないですか、リョウゴ兄い!!
さあ、この子等の親の元に急ぎましょうよ!!」
彼らは問題なくここの領主が納める町を出る事になる。若干一名が門から出る前に振るえ始め、周りをキョロキョロしだして不審者をかもし出す。
しかし、何の問題も無く門番は彼ら一行を通してくれる。門番とその町に出入りする人々でごった返す門付近に彼らを見送る人影が一つ。
その人影は馬に跨るアウタルス王子に一瞥をくれる。その事にアウタルス王子は手を挙げ彼に応える。その人影は門番に問題なくあの一行を通すようにと命じた後その場を消えるように姿が見えなくなる。
問題なく門を通り抜けそれぞれの馬に子供等を乗せ目的の地へと向う為に馬の手綱を引く。深い森、森というよりはうっそうと茂る密林というのが正解な場所まで馬で駆けて来たアウタルス王子一行は森の影からチラチラ見える人影を見つけ、馬を降りると乗せていた子供を抱えて降ろす。
子供達は急いでその密林の切れ目に走り始める。アウタルス王子一行もその場所まで歩いて行くと、涙を流したその子供等の親が必死に自分の子供抱きしめる。その風景に若干一名貰い泣きをして鼻をすする音がする。
「長老!! もうこの近辺の人族はこの森近くでは狩り、奴隷狩りをする事は無いでしょう。また何かあればこの前教えた手紙ハトゥーを使って私に知らせてください。盟約を結んだ人達に困った事が起きれば必ず助けに馳せ参じます」
「真にすまなんだ。同じ人族同士に敵を作ってしまったのではないかね? 同じ種族が争う原因を作ってしまったのならワシらはとんでもない事を貴方にしてしまったのかと‥‥‥」
「心配には及びません。その人族同士で話をつけて来ましたから、もう何の問題もありません。嗚呼、これは長老だけに話しておきたいのですが、私が王に成った暁には国中のあなた方の仲間で、奴隷になった者は解放する予定になっています。まあ、その時にはまた手紙ハトゥーにて知らせる事になります。詳しい事は話せないのですがその際、あなた方の戦士の力を多少ともお借りしたいのですが‥‥‥」
「今回、ワシらは貴方に貸しを作った。だからその時には我らの戦士が貴方の元に馳せ参じよう! 必ずじゃ!!」
「まあ、その時にはお願いします。では、今度はくれぐれもお子様達に目を離さない様に!!」
アウタルス王子がそういうと硬い握手を長老がして来て、王子はそれに応えるように固く握手をしてきた手に反対の手を添える。そして、手を放すと自分の馬に跨る。そこで先程親元に駆け寄った子供達がお礼を言いに彼らの元にやって来る。
「ニャ~ゴ! 助けてくれてありがとう!! おいら、大きくなったらニャ~ゴの進む前を角笛を吹きながら皆に自由になったと触れ回る」
「ニャ~ゴ! またここに来てくれるよね?」
「ニャ~ゴ! 大きくなったら絶対に‥‥‥」
その子供らが泣き始めて子供らの頭を撫ぜるリョウゴはその子供に「また会いに来るよ」と、言い残し自分の馬に跨り皆と共にその場を離れる。泣き始めた子供は何時までも「ニャ~ゴ」と、言いながら彼らを見送るのであった。
☆ ☆ ☆
映像が途切れて満場一致の拍手、終いには舞台に上がって「ニャ~ゴ」と、いう言葉の合唱を始める始末。まるで春の子供映画祭りのようである。
映画に興奮した子供や映画に飽きた子供が上映中にもかかわらず館内を走り始めたり、舞台の上に上がって暴れ始める。そういった状況である。興奮したネコさん達が同じように館内を走り回りあちらこちらで「ニャ~ゴ」と、いう言葉が聞え始める。
そんな騒々しくなってくる館内に一人静かに今見た映像を考える。あれって大森林から西の小森だったかに向う途中のアウタルス王子一行の映像なのか?
何故? 何故俺にその映像を見せるのか疑問が出てくるが「ニャ~ゴ」と、言った言葉の意味が分かって何となくモヤモヤしていた物の一つが晴れたような気分になる。
最初はまた今居るような心の世界のようにとうとう「にゃ~」と、いう言葉が現実に聞けるのかと思って喜んでしまったのは内緒である。
彼ら、現実の世界であるがどうやら「リョウ」という言葉を発音すると「ニャア」となってしまうようだ。すると俺のことは「ニャ~ジ」となってしまうのか?
なんとも間抜けな名前に変換されてしまうようで困惑してしまう。
いやいや、名前のことはさておいて。今頃というか何故にこの映像が俺の心の中に流れたという事のほうが大事でしょ? しかし、この俺に分るはずもない。
あの助けられた子供の子孫が俺を助けてくれた獣人の祖先という事は分かった。ああ、それは分かったのでこれで満足しろという事なのか?
それにあの救国の勇者らしき人物がいた所から確かジョルジョネ大尉が書いた絵本にハルーツン閣下のご先祖様の公爵家に立ち寄った後の話のようで、西の小森に向う途中の出来事らしい。
そうすると、昔この辺をアウタルス王子一行が通ったという事か? それにまだ、賢者様は現れていなかったよね? 映像を遡ってそれらしい人物を思い出すが見当たらなかった。
俺の隣に座っているプイホン1号にこの映画が上映された理由を聞こうと横を向いた時、何故だか視界が薄れてどうやら俺は現実の世界に呼び戻されるのかもしれない。
一見、もやもやが解決したように思えたが、なぜだか更にモヤモヤ感が増した気がして困惑しながらも悪態を付いた所で目が覚める。
辺りはすっかり暗くなっていて、それでも風切る音がまだ止まぬ。俺を背負った彼とその仲間達は未だに密林の中を進んでいるのだと実感する。
彼らは昼間の休憩以来ずっと自分の村に向って走りっぱなしなのか? 疲れ知らずで呆れてしまうのだが、彼らの戦士という言葉が頭を過ぎる。嗚呼、鍛えられた村自慢の戦士の方々だったのですねと妙に納得してしまう。
この流れで言うと彼らの村に着くと俺は「リョウゴ」。いや「ニャ~ゴ」として迎えられるのであろうか?
「もう何百年前の人間が彼らの前に現れるわけ無いでしょ?」と、突っ込みたいのだが果たして理解してくれるのかは疑問に思うところだ。
そんな困惑と言った気持ちよりは戸惑う気持ちになりながら彼らの村に着くまで考え事をする俺であった。
次話へつづく
次話は6/6金曜日に投稿する予定です。




