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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第4章 振り回される年季奴隷 》
110/229

<4-18> 「戸惑う年季奴隷  (前編)」

最新の修正日は2015年1月23日です。

 心の中にいつの間にか出来上がった要塞で得体の知れない巨大な三つ頭の大蛇がネコさん達に撃退される光景を眺めていた俺ですが、その危機的な出来事は何故だか現実世界でも起きていたようです。


 心の中で吐き気と体中の痛みに現実の世界に戻って見れば知らない場所に火達磨の見知らぬ人物の叫び声。それに自分の体中に血液らしき液体が吹きかけられその状況に尻餅をつく。その燃える人物が出した炎の灯りで周囲を見れば、見知らぬジャングルらしき場所に切り開かれた俺の周囲であった。


 次から次へ、訳の分からぬ状況に思考が停止するかと思えば、俺を攫った人物の事を思って恐怖し、この場から離れる為に周囲を徘徊してしまう。すると、お約束通り地面の無くなった崖らしき場所から川のような所へ真っ逆さま。落ちた場所から死に物狂いで犬かきをして、これまた約束通りに川岸に着いて力尽きる俺であった。






 昔、よく聞く怪談話というか。不思議な体験話で、お花畑にその脇を流れる川岸に長い行列が‥‥‥。そして、子供の頃に可愛がって貰った爺様が何故だか自分に手を振っている状況。


 その懐かしい爺様の顔に思わず近寄って行きそうになると哀しいそうな顔に変わる爺様は自分にこっちに来るなと手で追っ払う仕草をする。そして、現実に戻るという。そんなまことしやかな死線を彷徨う状況、そんな臨死体験の話を思い出す。



 今もそんな感じでぼやけた人物が一列に並んで何かを待っている風景が俺の佇んでいる場所から離れた場所に見える。


 それに、ちょっと違う方向ではこれまたぼやけた感じに俺に手を振る人物が一人‥‥‥。いや、二人いるではないか。はて? 二人とはどういうことか?


 爺様には可愛がられたが婆様には厳しく躾けられた為、あまり好印象は持っていないのだが‥‥‥。ああ、母方の爺様か? いや、俺は直接会わない内に早々に他界したと聞いた記憶が在るのだが‥‥‥。



 そのぼやけた感じに手を振る二人がすぅーっとこちら側に寄って来て‥‥‥。思いっきり自分の頭を叩かれる。その叩かれた音が周囲に広がり激しい鈍痛が‥‥‥。涙目になりながら頭を抑えて俺の頭を叩いた人物を見て二度驚く。



 シャムネアお嬢様とラシャネスさんであった。姿は元の姿の魔人まびとであった。




 「どうやら息災のようじゃな?! 心配かけよって!!」




 「いや~、こちらが文句を言いたい状況ですよ?


 ミリクナ医務長やデウシー先生に貴女方がついていながら、なんで俺が攫われるかな~? ‥‥‥」




 「仕方がなかろう? ‥‥‥。嗚呼、面倒じゃ!


 これを見ると良かろう!!」




 そういって彼女が指差した方向に視線を動かすと、何時もの映像が上映されるようだ。いつの間にかソファーのような3人掛けの背もたれがついた座り心地の良い長椅子に三人で座り、流れる映像を見る俺であった。






☆  ☆  ☆






 彼等が見る映像の始まり、ご丁寧にカウントダウンの文字が映し出され本編が始まる。それは至って普通の何時もの指揮車での日常の風景から流れ始める。


 その映像は時間を遡ってリョウジに今まで起きた事を見せるようだが、何故だか音声は流れない。まるで無声映画のように静かに映像は流れ始めるが見ている本人、リョウジには何故だか理解できるようであった。






 「こちら洞穴ほらあな、お客さんは持成もてなしに不満で別の店に行った模様。すまん‥‥‥。適当にあしらってくれ‥‥‥。任せる。先の店は開店準備を済まし、鍋の準備は出来ているそうだ。返信無用!!」




 「ったく、返信無用って‥‥‥。


 いや~参った、参った。地図! 地図!!」




 そういって、ちっとも参った顔をしていないジョルジョネ大尉は定時の無線連絡で司令部からの無線機、こちらでの長距離伝声魔素道具によって連絡を受けた所であった。


 その指示の後、指揮車の中で同じようにその連絡を聞いていたアミュネス少尉は急いで地図を前の席の机に広げる。


 赤く塗られた幹線道路を指でなぞり、今いる大体の場所を二度指し示す。その位置を目で追うジョルジョネ大尉は自分の指で幹線道路の分岐、密林地帯への枝道を目で追って捜す。素早く見つけた緑の道を見つけてしかめっ面を晒す。




 「いや~、一番通りたくない道を選択しなければならないようだ。一旦枝道の手前で小休止。その後、警戒態勢。いや、臨戦態勢で装備をやつ等にさせるか‥‥‥。すると、装備の分重くなって馬車の速度が遅くなるか‥‥‥」




 そう言って指揮車の中の二人の部下に聞えるか聞えないかの小さな声で自分の考えを呟いてしまう。




 「敵を引き付けるなら多少足が遅くなっても宜しいのではないでしょうか?


 それに直ぐに展開することを考慮しますとそのほうが‥‥‥」




 「君もそう思うか、アミュネス少尉?


 ‥‥‥。ユロジェン少尉? 君も同じ意見か?」




 「はあ、向って来る敵はこの私めが粉砕いたしますが‥‥‥」




 「まあ、俺も大した変わらんよ。ここは味方が待ち受けている蓋の開いた鍋に招き入れるほうが手っ取り早いと思うが‥‥‥。小休止して装備をする時間が勿体無いが別に追われている場面ではなく付け狙われる状況なので問題ないか?


 ‥‥‥。よし!! 二回目の休憩後にこの枝道に入る。次の休憩から二回に分けて完全武装、そうだな魔素術防御系で!!」




 「「了解しました、大尉」」




 二人の部下は声をそろえて返事をする。その後も地図を眺めて自分の髭を撫でるジョルジョネ大尉はまたなにやら考え、ハッとなって彼女等に問いかける。




 「あっ、そういえば。お嬢様達がついて来ちまったんだったな?」




 「はっ? ‥‥‥。嗚呼、中尉達の事ですか? それは仕方がありませんよ、軍の命令でゴルムディアに寄らずこちら、大尉と合流してしまったのですから。


 それにこれから領主達との交流する機会もあるようですから上層部はそのまま配置してろとの事ではないのですか?」




 「あぁ、まあ。そんな事だとは思っていたが、俺らに対しての首輪かも知れんな‥‥‥。あの人はそういう人だ」




 「はぁ、そうなんですか、大尉?」




 その間の抜けたアミュネス少尉の返事に、ジョルジョネ大尉は顔を引きつらせて何時もの作り笑いを彼女等に晒す。


 その後に指揮車の天井を一回ドンと叩く。すると、何事かと覗き窓から覗くメルディムに手合図でこれから警戒と事前に話していた追跡者の失敗を知らせる。


 その合図を見て微笑むメルディムに顔を手で覆うジョルジョネ大尉。また、警戒を厳重にと注意の手合図をして、もういいといった風に手で払う仕草を示す。


 直ぐに後ろのミリクナ宛てに手紙ハトゥーを認めると彼女に送る。そして、ため息を付くジョルジョネ大尉であった。






 急に流れる映像の風景が変わるようである。



 何故だかリョウジが乗っている大型の指揮車の中が何かに追突させられたように衝撃を受け、中に居た人物達、約二名は問題なく空中に浮いて難を逃れ、ミリクナは転がる指揮車の中で転がる方向とは反対側に壁を伝って歩く。


 マイネンスは力任せに座席にしがみ付き、ペルジャーネとボフボーニャも同じように半ば空中に浮きながら中の様子を眺める。


 仮設の寝具に寝かされていたリョウジだけが寝具ごと指揮車の中を転がる。大事無いように多少はシャムネアが力を貸したようだが突然の出来事ゆえ‥‥‥。彼、リョウジが死なない程度保護しただけであるようだ‥‥‥。



 何回か転がる指揮車の中から素早く外に出たのはミリクナであった。周囲を見渡しこの指揮車に衝突してきた原因を見て舌打ちする。


 ごく一般的な魔獣であれば瞬殺する自信はあったようだが。今、本来指揮車があった所に鎮座していたのは荷馬車と同じかそれより大きめの甲虫で長い胴体を丸めて偶然というか偶々転がってこの指揮車に衝突したようだ。


 その証拠に慌てて丸まった体を伸ばし密林の中へ分け入って遁走し始めている。前後の馬車は間隔を空けていた為、難を逃れたようだ。今は中隊全体が異変を感知して皆停車している状況であった。


 前後の馬車から異変を察知した完全武装の年季奴隷がわらわら出てきて荷馬車より大きな甲虫を見てたじろぐ。直ぐにその甲虫は自分達には危害を与えないで密林の中に消えた為、安堵する年季奴隷等は転がった指揮車を見て周りを警戒しながらも指揮車に近付く。



 密林地帯の枝道に入ってから一つ時、二時間ほど進んでから起きた出来事のようだ。まだ昼過ぎのようで太陽、こちらではサラム様はまだ空の高い位置に鎮座していた。


 しかし、一つ時も枝道をを進むと密林が鬱蒼と茂り始め、枝道の側まで来ている。定期的に道の整備で下草や密林が道路を塞がないように管理しているのか、それともつい最近出来たばかりなのか真新しい石畳が見える。それでも密林の進撃速度は速いようで所々密林から延びた蔦のような植物が枝道を横断している。



 流石に最新式の指揮車は外観状、何処も損傷しているふうには見えない。運よく密林の樹木が茂っていない場所に指揮車が転がったようで、背丈ほどもある草のような植物をなぎ倒しただけで、皆で起こせば何とかなるが馬のほうが‥‥‥。そんな状況を確認したミリクナであった。


 現状は4頭で引いていた馬の内、対角の二頭の馬の首や足が変な方向に曲がって絶滅している。辛うじて他の二頭は問題ないようでミリクナは集まりつつある人ごみの中のジョルジョネ大尉に声を掛ける。




 「4頭の内、半分は駄目ね。まあ、頑丈が取り得のこの馬も流石にあんなに回転しながらだと駄目ね‥‥‥。死んだのは私達のお腹の足しにしましょうよ」




 「仕方がありませんな。中はどんな塩梅で?」




 「見ての通り、また寝ていたリョウジが中を転がったようだけど、王女殿下が何とかしてくれたみたい。後はかすり傷程度よ」




 「では、皆で起こして馬を処理しますか‥‥‥」




 そんな会話をする二人の様子を窺う他の年季奴隷は目配せするジョルジョネ大尉の表情を読んだゴナベル奴隷長の掛け声で指揮車を起こす為に動き出す。


 先ずは暴れる馬をなだめながら馬具を外し取り合えず自由にして落ち着かさせる。死んだ馬は荷馬車を引張っていた別の馬を連れてきて道路まで縄で引張り解体作業を始める。


 そして、指揮車を起こす前に中に居た人物達を助け出し、皆でこうなった状況でも目を覚まさないリョウジを引張り上げる。


 あんなに転がったはずのリョウジの体であるが、体中擦り傷だらけで大きな怪我はしていないようだ。一通り先祖帰りして疲れた表情するマイネンスはミリクナに「内部の損傷は無い」と、報告する。


 その報告を聞きながらもミリクナは周囲の警戒は怠らない。転がった指揮車が枝道から30メト((m))ほど離れていた為、万が一起こさなくても良いものまで起こさないか警戒しなければならないからである。



 一応はゴルムディアの奴隷組合でこれから南下する地形の話は確認している彼女であった。道の状況や、知られている虫や魔獣の発見の報告など多岐に渡るようで、この辺りで虫の巣の話は聞いていない。そんな事を思い出し周りの状況を見るミリクナは、虫以外にも警戒は怠らない


 すると、ようやく転がった指揮車の起こす準備が出来たようで、その前に損傷が無いかガルボルテ工作長が玄翁げんのう片手に指揮車の車軸や車輪を叩いて様子を見ている。


 やがて問題ないことが分かったのか、掛け声が響き皆と馬が指揮車に結んだ太い縄で引張り倒れた指揮車を起こす。



 その間、暇そうに欠伸をしながらシャムネアお嬢様とラシャネスは枝道に留めてある他の荷馬車の脇で簡易ベットに寝かされているリョウジを見ている。マイネンスも擦り傷の酷そうな所を見て治療の仕方を考え。なにやら画板片手に文字を書いていた。



 そんな光景を横目に一瞬起き上がった指揮車に皆が視線が向った時に悲鳴というか誰かが声を上げる。その声に一番最初に反応したのはやはりミリクナであった。


 素早くリョウジが寝かされてあった場所に走り寄ると道の脇に転がって尻餅をついているマイネンスが指でその声の原因があっちに行ったという風に指差す状況を見る。素早く目を瞑りミリクナは探査術を屈指するとその後を追うために茂みに向って駆けて行く。



 そのミリクナの行動を見て宮廷魔素術使いの師弟もそれに習う。その様子をニヤニヤしながらシャムネアお嬢様は彼女等が向った先を眺めていた。



 リョウジを攫った何者かの姿は見えないが何時の間にか白衣から黒衣に着替えたミリクナは舌打ちする。今朝早くに奴隷組合の仲間が今日行われた追跡者の掃討に手を貸したはずであったが探査術で見えたのは十二の波紋であった。


 一体追跡者は何人居たのであろうかと舌打ちする。朝方、ジョルジョネ大尉から来た手紙ハトゥーと共に親方様からも同じ様な内容の手紙ハトゥーは届いていた。


 親方様からの手紙ハトゥーに「24から12」とだけ書かれているだけであった為、その数字といま探査できた数字が合って納得する彼女であった。


 その間も袖に仕込んでいる特殊魔技箱である金属製の手甲から真銀製の組紐を伸ばし、手を翳すと独りでにその組紐が木の枝に巻き付く。すると、その手甲が薄く水色に光り、先程延ばした組紐が急速に戻り、体ごとその木の枝に引張られるミリクナである。


 彼女は巻き戻る組紐を意識しないで反対側の手甲からも同様に組紐が伸びてその先の木の枝に巻き付き、あり得ない速度で密林の中を進む。



 そのありえない速度でリョウジを攫ったと思われる集団を追っているのだが一行に追いつける気配がしないとミリクナは首を傾げる。彼女は途中、移動しながらも探査術を使って周りの気配を読む。



 すると、ミリクナは行き成り後ろのほうから空恐ろしい魔素を感じてしまう、その彼女が移動している下を凄まじい風の竜巻が進路を切り開く。その後を地面から少し浮いたペルジャーネ、いやデウシーを先頭にボフボーニャが後に続く。


 再びミリクナに追いつくとあらぬ方向に同じ様に密林をくり抜くように風の竜巻が密林をなぎ倒す。そこでボソッとペルジャーネに代わった彼女がミリクナに声を掛ける。




 「二人殺ったわ!! 後、何人?」




 「ちょっと、筆頭?! リョウジに当たったらどうするのよ!!」




 『俺がそんなへまする訳ねぇぞ?! どうせ捕まえても口は割らないやつ等だろ?』




 そういうとミリクナは僅かに頷く。再び第3撃を放ったのはボフボーニャであった。彼女が放った密林も同じ様に丸く穴が開いたが、デウシーとは違いその切れ目から焼け焦げた臭いと煙が立ち昇る。




 『ちょっ?! おめぇ!! そっちはやばいって! リョウジに当たったらどうすんだ?!』




 「ちっ!! 外したか‥‥‥。この際あいつには消えて貰ったほうが‥‥‥」




 皆まで言わない内にデウシーがボフボーニャの頭を後ろから叩き。素早くペルジャーネ変わった彼女に諭される。




 「そんな事あったら、あなたは宮廷魔素術使いから罷免されるどころか、私の弟子破門ですよ?!」




 そんな言葉を聞いてシュンとなるボフボーニャは再び密林に穴を開ける。同じ様に切り口から焼け焦げた煙が立ち昇る。




 「良い師匠!! 一人殺りました!! これでいいですか?」




 そんな気の抜けた会話で3人の命を奪う彼女らに、ため息をするミリクナは再び両腕の真銀製の組紐を使い枝を伝って追跡を始める。


 ミリクナが追跡を再開した頃、ようやくメルディムは宮廷魔素術使いの彼女等があけた密林の開口部を通って駆けて来る。


 メルディムは宮廷魔素術使いの師弟に追いつくと、二人があけた三方の密林の穴を見て呆れてため息を付く。そして、彼女の長い耳をピクピク動かし、他の彼女等が空けた密林の穴の一つに走り抜けて行く。



 そのメルディムが通った穴とは違う穴をそれぞれ宮廷魔素術使いの師弟は分かれて前に進む。



 4人の彼女達が前に進むに連れて、激しい轟音に混じって声にならないうめき声が何処からか木霊する。やがて、空が赤くなり周りが暗くなった頃、再び何処からとなく集まる4人の彼女達が話し出す。




 『俺が5人にボフ公が2人、先生は?』




 「私は3人、メルディム護衛分隊長が2人?」




 「ええ、簡易寝具を担いでいた二人を殺ったけど? そこには丸太が一本だけで、リョウジは見当たらなかったよ?」




 「えっ? ちょっと待って? 私が聞いている人数は全部で十二よ?」




 驚いたミリクナがメルディムの顔をまじまじと眺め不安そうにデウシーの顔を見る。仕方なくといった感じに一瞬にペルジャーネに代わった彼女はなにやらブツブツ呪文を唱える。



 凄まじい魔素が彼女に集まり彼女を中心に再び魔素が解放されて四方八方に飛び散る。周りに一陣の風が舞い、枯れ葉や枯れ枝が周囲に飛び散る。


 空に舞った枯れ葉が地面に落ちる頃、ペルジャーネが右手人差し指である方向を指し示し、左手で密林に穴を開ける竜巻を放つ。



 四人が辿り着いた場所は少し開けた、人為的に開けた場所であった。その場所に着いて周囲を探るように明るくする魔素術を使ったボフボーニャが黒焦げの死体と周囲に飛び散った、どす黒い物を発見する。それを見た皆が一様に眉を寄せる。




 「こいつ誰? まさか‥‥‥。リョウジじゃないよね?」




 そんな言葉を発したのはメルディムであった。素早く周囲を観察して、辛うじて人が通った足跡を見つけたのはミリクナであった。その足跡を見て何故だかほっとしたのはメルディムである。




 「リョウジの臭いがするよ!! よかった~‥‥‥。じゃあ、こいつは誰?」




 一つ解決したかと思うとまた疑問が浮んでくる状況に首をかしげながらも4人はリョウジが通った形跡を追って慎重に前に進む。


 行き着く先の地面に、真新しいぽっかりと空いた場所を発見して手で顔を覆ってしまったのはミリクナであった。


 そんな彼女は自分の組紐を身近な木の幹に巻き付け下に降り始める。その横を勢い良く飛び込むメルディム。その後を追って二人の宮廷魔素術使いの師弟が同じ様に飛び込む。



 結構な高さから飛び降りたのに水しぶき一つ上げないで川の上を自分のクナイを伝って歩き回り周囲を警戒しているのはメルディムである。同じ様に川面かわもに浮いた二人。そして、水に入らないように川岸に下りてきたのはミリクナだけであった。



 4人それぞれ暗いながらも宮廷魔素術使いの二人は周囲を照らす魔素術を使いリョウジの痕跡を捜す。




 『ちぇっ! じっとしてればいいものを! こんな暗闇の中、歩き回りやがって。その挙句に折角掴んだ気配が水に流れて分からなくなってしまったじゃないか!!』




 その愚痴を吐いたデウシーが川岸に見慣れぬ足跡と、人が横たわった形跡を足元に発見すると皆に急いで知らせる。


 足跡を消さないように慎重に石を飛び越えてくるミリクナが見たものは見覚えの有る足跡であった。その特徴のある足跡を見た彼女は自分の記憶の紐を解くと、この辺にある集落を思い出す。


 しかし、この足跡は当てはまらないと彼女は首を振る。そして、彼女は散々考えた挙句100メタ((km))ほど南にある集落に住む獣人けものびとの顔が浮んでくる。



 彼等は密林に住む獣人で果たして自分達が追いつけるかは分からないと、ミリクナは考える。森の中での獣人に追いつける者はそう、目の前にいる森人のメルディム護衛分隊長だけで彼女の顔を見てやれそうか覗くミリクナであった。


 しかし、ここは森人も住まない密林地帯である。メルディムは明らかに不安そうで顔が引きつっている。




 「あの~、メルディム護衛分隊長? ‥‥‥。無理ですか?」




 「行けと言えば行きますが、少し準備しないと私一人だけではなんとも。


 白と黒を連れてくれば何とかなるか‥‥‥」




 普段は沈着冷静、感情をジョルジョネ大尉以外には露にしない彼女の顔が引きつっているのは見なかったことにするミリクナであった。


 ミリクナは衣装を変えた時に嵌めた特製の手袋を取り外し口で咥える。そして、懐から羊皮紙と筆と筆の蓋に墨壺が仕込んである筆記用具を出して何かをしたためる。


 彼女は早々に書き終わると素早く折り畳み、術を発動させると手紙ハトゥーは何処かへと飛んで行く。




 「中隊は枝道をそのまま進んで貰いその先の更に南下する密林の中道を通って貰いましょう。私達はこのままこの足跡の主を追いましょう。メルディム護衛分隊長、貴女の部下は今どの辺ですか?」




 「今、合図したからその内にやって来るかと思う‥‥‥」




 『よう~しっ! それまで腹ごしらえするか!!


 昔の勇者が言っていたよな?


「腹が減っては仕事は出来ぬ」と!!』




 すると、何処から見つけたというか捕まえたか知らないが、数十匹の川魚を枝にさした物を自ら出した炎の柱で焼き始める。


 やがてその香ばしい臭いに腹の虫がなったのは彼女等に駆け寄ってきたクワビムであった。






☆  ☆  ☆






 そんな楽しそうな彼女達の食事風景で流れていた映像は終わる。不思議な事に音は出なかったのだが話していた会話の内容は理解できた。それより俺が倒れていたと思われる場所に本人が居ないという事実に困惑してしまう。


 「ちょ~、何故ここで終わるのですか王女殿下? それに俺は今何処にいるのですか?」



 俺の横に座って同じ様に映像を見ていた王女殿下が俺の顔を見てニヤニヤする。




 「そういう訳で今はそなたをあの6人が追っておる。心配するな。今は‥‥‥。嗚呼、まだ無事のようだぞ? ‥‥‥」




 ニヤニヤしていた王女殿下が何処か遠くの方を見て確かめたような表情をすると、俺に向ってそんな言葉を言い放つ。


 その言葉を聞いて不安な気持ちになるがそんな事は我冠せずのようで、彼女等は立ち上がり最後に俺がガッカリする言葉を吐くではないか。




 「妾達は傍観者じゃからの。妾は楽しむだけじゃ!!


 また気が向いたらこっちに来てやるからの~~~~~」




 その間の伸びた彼女の声が俺の白い空間に木霊する。その木霊した声が聞えなくなると、なんだか肌寒くなって身震いしてくる。ガタガタ震え初めてその場にうずくまって倒れてしまう。


 今度はどんなバツゲームが始まるのかという疑問が浮んで、意識が遠のいてしまう。



 そんな夢の中というか心の中での肌寒さであったが、現実もその肌寒さを実感し目が覚め、気が付くとぼやけた視線の先に「ニャ~ゴ」と、いう静かにだがはっきり聞える声だけが耳に残る俺であった。





 次話へつづく

次話は6/1日曜日に投稿する予定です。

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