<4-17> 「彷徨う年季奴隷 (後編)」
最新の修正日は2015年1月23日です。
アラレスティ大陸の西の果てには崖の海岸線と虫が蠢く密林地帯があると知った俺ですが、原因はあの回廊大陸消失事件が絡んでいるそうです。
アラレスティ王国の上層部の極一部の人達は知っているようで、筆頭宮廷魔素術使いのペルジャーネ先生は消失事件の犯人を見るような目で俺が座っている席の前にいるシャムネアお嬢様を見る。見られた彼女は目が泳ぐといったお約束の仕草で西の密林の原因が彼女にあるらしい事が改めて解る事となる。
それはそれとして別に構わないのだが、密林の話を聞いてなるべくなら通りたくないと思うのは俺だけの様ではないようだ。
進む指揮車の中で再び心のファイアーウォール作成の為に自分の心の世界に戻って驚いてしまう。何故だか知らないがあのプイホン一号が俺の居ない間になにやら進めてくれたようで一応の外観の完成は間近のようだ。
その心のファイアーウォール。もとい、心の要塞の中に入って最初のファースト防護壁の四畳半部屋で要塞の全容を窺い知る絵図面を見て首を傾げつつ、外の様子がおかしいことに気付く俺であった。
廊下に出た俺は多数の足音や半鐘のような音を聞いて何事かと驚いてしまう。まるで蜂の巣を突っついたような喧騒に、またというか俺が来た時と同じ様に俺の心に侵入者がやって来たのだと気付く。
そんな事で、俺以外に一体誰が自分の心を覗きに来たのか気になり、外の様子を見ようと走り出して自分の馬鹿さ加減に嫌気がして来る。出口が分からないのにあのコタツ部屋を離れてしまったからであった。
一応は音のするほうに耳を傾けその方向に歩き始めるのだが‥‥‥。同じ様な廊下の造りに次第に方向感覚が無くなり、同じ所をぐるぐる回っているような気がしてため息が出てくる。
こういう場合、道は二つある。動くか動かないかである。しかし、外の様子が気になるし動くしかない。今いる廊下を眺めて考える。音が静かになってしまってからではどうしようもない。音のする方向に仕方なく足を進めつつ左手の法則を屈指して前に進む。
どのくらい彷徨ったのか分からないが廊下に扉がある所に出て、ふと部屋の名札を見つける。扉に耳を当て中の様子を窺うと、なにやら騒がしい音が聞える。再び名札を見ると「第1546監視所行き」と書いてある。
監視所と書いてあるので、もしかしたら外に出れるかと一縷の望みをかけて扉のドアノブに手を掛け中に入る。通路の先に進んで行く内に段々狭くなってきて立って歩くのが辛くなってくる。それでも通り抜けれない事はないようでやっとのことで小部屋に辿り着く。
どうやらあのネコさん達の体格に合わせて通路が作られているのかも知れない。その部屋はまるでトーチカのような銃眼が見え、そこから外の様子を覗けるようだ。
その銃眼の様子を見ると分厚い壁に穴が開いている事を見て取れる。壁には伝声管のような物が2本かけてある。右から微かに話し声が聞え、左からは何も聞えない。
外の景色を見るために銃眼を覗く。なにやら外がニャーニャーと騒がしい。その中で時折「進め~~!!」とか「急いで運べ~~!!」など軍が進撃する時に発する下士官の声がする。
どうやらここからは外の様子が今一窺えないようで、真っ黒な銃眼の先に声だけが木霊する。一瞬、夜戦? そんな事を思ったがここに来た時は結構外は明るかったような‥‥‥。それに昼夜がここにあるとは思えない。
一体何が起きているのか分からず色々と考えを巡らしていたが埒が明かないことに気づき、壁に着いていた左側の伝声管を引張り思わず声を発してしまう。
「こちら1546監視所! アサガ・リョウジである。外の状況を知らせろ?!」
暫くすると右側の伝声管から「ニャー?」と言った疑問系の声が聞える。再び同じ台詞を言ってプイホン一号を呼び出すように言い放つ。暫く向うでガサガサという雑音が聞え、次にガチャっと機械的に切り替わる音がする。
「こちら指令所、状況を送れ!!」
「こちら1546監視所! アサガ・リョウジである。外の状況を知らせろ?!
外は真っ暗で何も見えない!」
「‥‥‥。なっ、な、なんで? なんで、ご主人様が最前線の監視所なんかにいるのですか?
ご主人様のお部屋にご案内したのに何故? ‥‥‥」
「そんな事はどうでもいい。それより一体何が起きている?」
「‥‥‥。今、そちらに部下を迎えに寄越しますのでそこから急いで離れて扉の前でお待ちください、ご主人様!
そこは危険です!!」
伝声管から聞えてきたのはそんな話であった。すると、腹のそこに響くような振動音と共に天井から砂粒がパラパラと落ちてくる。かなり近いようだ。
俺は慌ててその場から退避する為に狭い通路を這って廊下に出る。一安心した所に「ニャー」と、声がしてネコさんが現れる。そして、俺の手を握って引張り始める。
まあ、彼の肉球の感触を今は堪能している場合ではない。慌てて彼の引張るほうに足を向ける。暫くこれまた階段を上がったり降りたり長い廊下くねくねと曲がってようやく目的地に辿り着く。
目的地に付く間、色々と侵入者について考えを巡らすのだが‥‥‥。シャムネアお嬢様かラシャネスさんか? はたまたペルジャーネ先生かデウシー先生か? 彼女等であれば問題ありである。
俺が心の中で何をやっているか知らない彼女達は突然の事に驚いて暴れているのかもしれないし、特にお嬢様であった場合は大問題だ。彼女が暴れた場合、俺の心が荒廃しかねない。
この時点で外部侵入者について、俺は考えていなかった。それは現実の世界の俺は安全な指揮車の中で寝ているはずで周りにそんなやつ等が現れ次第、先ずはミリクナ医務長が排除し、デウシー先生がばったばったと外敵を排除しているはずであるからだ。そうすると今回の侵入者は身内という事になり、俺の心の世界が大惨事になりかねない。
自然と目的地への足は速く進む。息を切らして目的地の指令所に着いて唖然とする。この部屋は艦船のCIC、戦闘指揮所のような場所で透明な地図に戦況を書き記すネコさんに多数ある伝声管に命令を出すネコさん。
薄明かりの中、ネコさんが右往左往していて外の状況はまるで分からない場所であった。我ながら手で顔を覆いたくなってしまう。忙しそうにしていたプイホン1号を見つけ外の状況が分かる場所に案内しろと思わず声を荒げてしまう。
そんな俺にプイホン1号は渋々部下に命じて、俺を上層階の監視所に連れて行くように命じる。俺はそのネコさんを急かすようにしてその監視所に向う。
エレベーターという機械的なものが無い様で自分の心の中だが、一生分の階段を上がったような気がする。肉体的な疲れは無いがなんというか、心が疲れるというか精神的に疲れるといったほうが正解かもしれない。
廊下の扉を開け、これまた狭い通路を這って少し広い部屋に出る。上層の監視所は天蓋が無い様でようやく空の白い空間と外の全容を拝む事が出来た。
どうやら俺が外に出た所は要塞の中央部の小高い丘の上のような場所のようであった。結構高さがあるようで眼下に見えるネコさん達が豆粒以下に見える。その豆粒が百、いや千単位で纏まって隊列を組んで黒い何かに向っている。
どうやら、この要塞の海岸線まで黒い何かが攻めて来たようだ。千単位の集団が要塞の中から隊列を組んで次々にその黒い何かに向っている。まあ、所詮ネコ。千単位が集まってもその黒い何かは動じないようでじわじわとこちら側に向って来る。
どうやら敵というか侵入者は、六芒星の形をしたこの要塞の尖った部分ではなく入江側、又の部分に侵入だ。なので、海上の方からも猫さん達が攻撃をする様で俺が乗せられたガレー船が無数に海上に浮かんでいた。その無数のガレー船がその黒い何かの背後に回ろうとしている。
先頭のガレー船から豆粒のような岩や。嗚呼、彼等から見たら大岩だけど。その大岩をガレー船に乗せている投石器でその何かに投げつけ始める。
中には火のついた何かを投石器で打ちつけ、その黒い何かにあたり激しく燃え広がる。次第に距離が近くなると石弓の矢に火をつけた火矢を打ち始める。
もうそれは無数の矢がその黒い何かに突き刺さり激しく燃え広がる。どうやら油壺のようなものも投石器で投げつけているようで、海上からの攻撃が効いているのか若干黒い何かの進撃速度が鈍る。
そこに陸上からなにやら石弓の親分みたいな床子弩? 確か昔の中国の話に出てきたような‥‥‥。その石弓の親分からぶっとい丸太のような矢を打ち始める。
高い放物線軌道で見事に黒い何かに突き刺さる。どうやら海上のガレー船からもおなじようなぶっとい丸太の矢が飛んでくる事から同じような武装を積んだ船が居るようだ。
それでも黒い何かはこちら側に向かってくるようでじわりじわりと、なんだか俺の方に向かってくるような気がしてならない。次第に黒い何かの周りにあった黒い霧のようなものが晴れ始め、ようやく敵の正体のような物が姿を現す。
それは細長い鎌首をもたげた巨大な蛇であった。しかも頭が三つもありそれぞれの方向を見て紫色の長い舌をチョロチョロと出して辺りを探っているようだ。
比べる建物がないので高さは分からないが5階建てのビルようりは高いような気がする。いや、ひょっとして10階以上のビルの高さ以上あるかもしれない。
そいつに結構な矢が刺さっているのだがそんな事は些細な事といったようにウネウネしながらゆっくりこちらのほうにやって来る。結構な数の弓や丸太のような矢が刺さっているのだが何も問題ないのか?
‥‥‥。分からない。
やがて頭上を黒い何かが通り過ぎ盛大な音がする。どうやら大型の投石器がこの見張り台の上部にあるようでそこから空を見上げると黒い粒が一つ飛んで行く。
試射のようでそれが偶々三つ首の大蛇の頭の一つに当たる。すると、上のほうから「ニャー!!!」と、いう歓声がどっと沸き、次々につるべ打ちのように黒い粒が俺の頭上を飛んで三つ首の大蛇に岩の雨を降らせる。
流石にこれは当たると利くようでよろよろと頭に当たった蛇は上を見上げて岩をかわし始める。その間も大小の矢や油壺などの攻撃は続いており、今は遠距離武器での戦闘真っ盛りである。
すると、今度は頭上から三角の凧のようなものが飛び上がる。その一つが飛び始めると次々に同じような三角の凧が飛び始める。あれはグライダーか?
それが次々に三つ頭の蛇の頭上に飛び回ると何かを落とし始める。その大蛇には効かない様で何かが当たるのだが当たってはじけて液体が広がる。
どうやら油壺のようで頭部に石弓や投石器の岩が当たらないので直接グライダーで三つ首の大蛇の頭に攻撃を仕掛けるようだ。
あらかた油壺を投げきったグライダーが蛇の頭周辺から飛び去って行く。その中で上空で円を描いて飛んでいた集団が3つ程、次々に持ち場の三つ頭の大蛇の頭上から火矢を浴びせ始める。
攻撃を受けた三つ首の大蛇も流石にこれは効いたようで、持ち上げていたそれぞれの大きな頭を振り回し火を消そうともがき始める。地面に頭を擦り始めたり、勢余って隣同士の自分の頭にぶつけてくらくらするような素振りを見せる。
まあ、色々な事を考えて攻撃をするネコさん達に呆れてしまう。いまだ古代兵器で攻撃している事に少し引っかかるが、あの陸ハトゥーの時よりは断然に段取り良く大物に攻撃しているではないか。あの時は攻撃がミリクナ医務長以外全てかわされていたみたいだからね。
そんな事を考えて三つ頭の大蛇がのたうち始める光景を眺めていると、またもや頭上に黒い細長い影が横切る。あの石弓の親分の床子弩の丸太のような矢よりぶっとい大木の一本の矢がその蛇の胴体を上かららぶち抜くではないか。
一体どうやってあのようなものを打ち放っているのかは疑問であるが何となく頼もしいようなワクワクしてきて思わず歓声を上げてしまう。結構訓練しているのか初弾から行き成り命中であった。
それが合図のようで、またもや次々に頭上を黒い細長い影が無数に通り過ぎる。その黒い影を目で追ってその先を見ると三つ頭の大蛇を縫うようにその大木が多数突き刺さる。
先程までのたうちまわっていた三つ頭の大蛇であるが、流石に頭を大木で打ちぬかれ、胴体部分にも多数突き刺さった大木に身動きが出来ないようでピクリともしない。
大木の矢が多数突き刺さって動かなくなったので何時の間にか石弓や投石器の攻撃が止んでいる。今はただ地面に縫われた大蛇が横たわりあちこち火がくすぶっていている状況であった。
すると、陸上から攻撃していた集団の中から勇ましいというか、ご主人様には似つかわしくない勇敢な何人かのネコさんがゆっくりと盾のようなものを構えながらその亡骸と思われる三つ首の大蛇に近寄って行くではないか。
そこで何となく嫌な予感がしてこの見張り所にも在った伝声管を引張りプイホン一号へ命令を言い放つ。
「こちら見張り所からアサガ・リョウジである。嫌な予感がするので完全に燃やし尽くすまで火を放て!! 消し炭も残らないほど焼き尽くせ!! それに部下を不用意に近寄らせるな!!」
「ニャー?」
「急いでプイホン1号へ回せ!!」
「ニャー!!」
「どうしましたか、ご主人様?」
「嫌な予感がする。完全に燃やし尽くすまで火を放て!! 消し炭も残らないほど焼き尽くせ!! それに部下を不用意に近寄らせるな!!」
「大丈夫ですよ、ご主人様? あの大木で縫われて大丈夫なはずがありませんよ?」
「いや、いいから遠距離からありったけの火を浴びさせろ!! 凄くいやな気持ちというか吐き気がする気持ちだ、大至急やれ!!」
そんな命令をしてから思わず嘔吐いてしまう。まあ、内容物はこんな世界なので出る訳無いのだか何故だかそんな仕草をしてしまう。
それに何故だか何処にもぶつけていないのだが体中の痛みが急に現れてくる。それは何処からか落ちて体をしこたま打ちつけた衝撃が走る痛みに似ている。思わず屈んで体のあちらこちらを抑えてしまう。
そんな体の苦痛に耐えながらも眼下の様子を覗くと先程勇気あるネコさんが誰かに呼ばれて先ほど居た所に戻るようだ。
そして、要塞内部から何かを引張りまわしてくる集団を見つける。車輪がついているのかロープで引張り大蛇の亡骸の側、20mぐらいの手前の位置から何かを放つように見える。
やがてその装置から火線が延びる。ああ、火炎放射器のようなものらしい。火に照らされてその装置を扱っているネコさん達は防護服のようなものを着て作業している。
次第に準備が出来たのかその火線が四方八方から伸び始めてようやく嗚咽に似た嘔吐く原因が無くなったのか吐き気が遠のいて行く。そして、安心感なのかいつの間にかその場にへたり込んで気を失ってしまう俺であった。
気が付くと、現実の世界に戻って最初に聞いた音は悲鳴に似た叫び声であった。俺が心の中であの三つ頭の大蛇との戦闘を見ていた間に一体何が起きたのか分からないが、その泣き叫ぶ声だけが耳に着いて離れない。
思わず体を起こして声の方向を見て驚く。一応はこの地、アラレスティ大陸に来てからは血の気が引く状況なんかは数え切れないくらい拝んだ俺であるが、さすが火達磨になった人らしいものを見て正気を保てるほど肝が据わった訳ではない。
立ち上がってその光景を呆然と眺めてしまう。それは火に照らされて時々腹部や体中から血のような液体が噴出す。そして、顔は目や口、開口部という所から青白い炎が噴出している光景であった。何か現実離れしたその光景に、俺は身動き出来ずただその光景を立って見るだけであった。
その光景を眺めていると妙な音が響く、多分喉がその青白い炎に焼かれてつぶれたのか? 先程の叫び声ではない妙な音。ヒューヒューと息苦しいそうに空気が吐き出される音が妙に周囲に響く。
次第に身の中を焼かれ地面に倒れると、のた打ち回りそれもやがて動かなくなる。すると、より一層激しくその身を焼く青白い炎が立ち上る。
その炎に照らされて自分の体中に何かの液体が降りかかっていることに気付いてしまう。思わず手でさすってその滑りにいやな予感がしてくる。手の平にべっとり付いたそれは青白い炎に照らされた血液であった。
それでようやく現実に戻った事を思い知り、立っていた俺は足がガクガクになり立っている事が出来ずその場に尻餅をついてしまう。
そこで自分の体はご多忙に洩れず、怪我だらけである事にも気付いてしまう。それは、地面に尻餅を付いた瞬間、節々は痛いしあちこち擦り傷や切り傷がありジワジワと痛みが甦ったからであった。
行き成りの状況にまだ燃えている彼なのか彼女なのかは分からないが、その炎の灯りで周囲を見回す。周囲を見回したが、どうも今までの風景とは違う気がする。それは植生が今まで通って来て見た森林の風景とは何処か違うからであった。
細い木が密集して生えているかと思えば見たこと無い大木が聳え立つ。それに木の生えていない所は俺の背丈以上ある何かの植物が生えていて、俺の周りは何故だか半径5mほどその植物が切り払われている。
次第に燃えるものがなくなったか燃え尽きたのか解らないが火の勢いが無くなって、回りが暗闇に支配されて行く。気分的には人と思われるもの燃えカスと一緒に、いや近くに居るのは良いものではない。
しかし、周りが暗くなって見えなくなるのでその事は大した事ではないかもしれない。その内、とうとうくすぶる程度まで火の加減が落ち着いて嫌な臭いの煙がこの周りに立ち込める。そんな何処か現実離れした状況にようやく落ち着いてくると、別な事を考えなければいけないような気がしてくる。
辺りが暗くなっても探査術を使えば問題ないがそれも精々、10分程度である。ここから動いていいものなのか、それともその亡骸の仲間がひょっとして俺の方に近付いてくるかもしれない。そんな事を考えると、ここから直ぐにでも離れたほうが良いのかもしれない。
完全に火が消える前に武器。いや、ここを切り払った時に使ったと思われる鉈か剣を必死に探す。良く見ると足元に鉈のような剣が転がっているではないか。しかし、それも俺の体に掛かった液体と同じものがタップリ掛かっているようだ。
仕方なく周りの刈り取られた草のような植物を拾い、それでふき取る。拭き取り終わった頃にポツポツと空から雨粒が降り始め、次第に土砂降りになる。ジャングル特有のスコールのように直ぐにその激しい雨は止んでしまう。
そんな突然の雨に複雑な心境になりながらも、雨が止む前に急いで身体についたと思われる血液を洗い落とす努力をする。必死に体中に付いた血液を落とす為に弄った結果、切り傷は大した事無くザックリと切り裂かれた傷は何処にもなかったので一安心する。
雨が完全に止んでから真っ暗闇の中、再び考える。何故、俺だけがあの燃えた人と一緒に居たのか? それに何故、人が燃えたのかである。
後者は思い当たるような無いような‥‥‥。余りその事を考えないようにしたいという気持ちが何処かから湧き上がる。事実を突き詰めれば、もしかして俺が殺したのかもしれないし、そんな事考え始めると鬱になりそうで怖い。
初めての直接手を下した訳ではないが‥‥‥。俺が殺したのか? 分からない。
そんな事で後者の事を考えるのを今は辞めた。後は前者の何故二人きりだったのかである。考えられる事は二つ。一つは皆と逸れて置き去りになった所をこの人が俺を拾い介抱してくれた。
もう一つはどういう事情か分からないが奴隷旅団所属中隊に何かが起きてその間隙を縫ってまたもや俺は攫われたという事である。
まあ、前者は希望的観測による所が大であり、考えられない事ではないが限りなくゼロに近い希望的観測だよね? 圧倒的に後者の攫われた公算が大である。
どうやってこの開けた空間に俺を連れて来たのかは分からないが、気を失っていた俺を担いできた所を考えると、力持ちの人だったんだね‥‥‥。いやいや、そうじゃない。一人ではなく複数と考えるのが正しい。
複数だと考えると、あの温泉街で襲ってきた集団の事が頭に浮び身震いしてしまう。何の目的かは分からないが俺を攫ったのはどうやら事実なのかもしれない。何らかの方法で俺を攫って、考えたくは無いが俺の心に侵入を巧み見て返り討ちにあったということか?
いや、あれは巨大な三つ頭の大蛇であってこの人ではなかったような‥‥‥。分からない。デウシー先生とペルジャーネ先生が俺に耐心魔素術をかけた時、彼女等はあの王女様に姿を変えて現れたよね?
そうすると、彼か彼女かは分からないこの人物が俺の心の中でのイメージではあの大蛇であったのか? そうやって他人の心に侵入して一体何をやらかそうと考えていたのか?
‥‥‥。分からない。
しかし、良からぬ事を考えているのは間違いない。洗脳や俺の知識を引き出すとか‥‥‥。そんな考えが湧き上がってくると何故だか再び身震いしてしまう。それは雨に濡れて肌寒くなっただけではない。
「うぉ~~~アラレスティ大陸こえ~~~~よ!! 自白剤の要らない魔素術こぇ~~~~よ!! あ~、ペルジャーネ先生やデウシー先生に耐心魔素術掛けて貰ってて良かった? ‥‥‥」
そんな事を心の中で叫び自分を落ち着かせる。声に出すと危険だよね?
それにしても鬱蒼と茂る密林のお陰なのか、月明かりが辺りを照らす事は無く真っ暗闇の中、俺はただ立ち尽くす。さて、どうした物か‥‥‥。
今まで考えていた事を整理すると、俺を攫ったやつ等は複数のはず。と、いう事は全部ではないがミリクナ医務長やデウシー先生なんかに片付けて貰った人数を引いてもあそこに横たわって燃えてしまった人物の他にまだ一人か二人は俺を攫った奴の仲間がいるはずである。
真っ暗闇の中を動くのは大変危険ではあるが、ここにいても危険な事には変わりない。取り合えず武器は手に入ったことだし、この場から離れるのが先決という結果に至る。
しかし、どちらに向う? 考えろ俺! 先ずは水の確保か? 生水は飲むと危険と誰かが頭の中で囁く。川、川か、湧き水。ああ、川があれば海に通じるはずで川沿いに辿れば河口に行き着くはずである。
嗚呼、もうそれしか思い浮かばない。耳を澄ますと微かに水の流れる音が‥‥‥。こうも都合良く事が運ぶと幸先がいいはずなのだが嫌なフラグが立ったような気がしてならない。お約束といえばお約束だが‥‥‥。
その水の流れる音を頼って良く分からない形状の何かの植物を分け入り、時には先程拾った剣のような鉈を振るって前に進む。
もう破れかぶれというか恐怖が先に立ってしまう。前を進む間、追っ手が来ないか、時には静かに耳を澄まして追跡者の足音やジャングルを分け入ってくる音が無いか確認する。何も音がしなくてほっとした所に水の流れる音がする‥‥‥。また、滝が流れるような水の音を聞いて歩く方向を確かめる。
お約束通り暗闇の中、周りに生えている何かの植物と共に急激な速度で何処かに下降する俺であった。必死に周りの植物に掴まりながら‥‥‥。嗚呼、お約束。お約束~~~~~~~。
激しい衝撃と共に水しぶきが立ち上がり暗闇の中、俺は水の中に放り投げられる。その俺はしこたま水を飲みながらも必死にもがく。
犬かき全開でもがくがどうやら川の流れには逆らえないようで、流れに揉まれながら必死に水面に顔を出して息継ぎをしたかと思うと、再び誰かに足をひっぱられるが如くまた水面下に‥‥‥。
そんな必死の犬かきの中、突然足が川底に着く。慌てて足を蹴り上げてその浅瀬と思われる方向に力いっぱい蹴り上げる。
必死に犬かきをした事が公を奏したのか分からないが、何とか石ころが転がる川原か?
そこが何処だか分からないが、その足元の石に躓きながらも必死に川岸に上がりそこで力尽きる俺であった。
次話へつづく
今月一杯は色々と忙しく予想通り週一になってしまいます。
次話は5/28水曜日に投稿する予定です。
余計な事かもしれませんが文中の大陸消失事件のお話は3章の13話目をご参照ください。




