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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第4章 振り回される年季奴隷 》
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<4-11> 「混乱と年季奴隷  (前編)」

最新の本文修正日は2015年1月17日です。

 夜明け前に目が覚め、唐突に外で起き始めた状況をシャムネアお嬢様に本の不思議な挿絵で見せられた俺ですが、また何かが起き始めるようです。


 思い当たる事は複数ありすぎて俺の原因なのか、それともあの浴室で会った第二王子という人物が原因なのかは分からない。もしかするとシャムネアお嬢様目当てなのかもしれないので俺には判断できない。


 しかし、前者の場合は軍や奴隷組合が頑張ってくれそうなので問題ないと思うのだが、後者であった場合、神に楯突く神経を疑ってしまう。


 だって、もしかするとあの回廊半島を吹っ飛ばした張本人かもしれないのだよ?


 ビックリ人間大会以前の話で幾ら魔素術が完璧でも大陸までは吹っ飛ばせないよね? ‥‥‥。吹っ飛ばせるのか? 分からない。



 俺が分からなくなった事柄はその他にもある。シャムネアお嬢様は六つの組織が絡んでいるといっていたのに指折り数えて困惑してしまう。その指折り数えた最後の組織の正体を窺い知る事は出来ない俺であった。






 俺は再び指を折って組織について考える。最初に敵らしき組織。二つ目がメルディム護衛分隊長らで、三つ目が奴隷組合のミリクナ医務長。四つ目がペルジャーネ先生の宮廷魔素術使い関係、最後に宿を包囲した軍人だよね? じゃあ六つ目はなんなんだ?


 王子の護衛は公的なものだから軍関係だとすると、メルディム護衛分隊長も同じ軍関係になってしまい、不明であった組織が一つであったのだが二つになってしまう。


 親指から指を折って行き折り返しに小指を立てる。立てた小指を見つめながら、ふと考える。ハルーツン閣下の特務部隊? ギュレイジーナ中尉らの情報参謀系から行くと軍の情報部?


 はたまた、軍関係で行くと軍の警察である憲兵関係か? それともその他の秘密組織? 私兵で雇っている斥候系だとするとそれを雇う貴族は無数にいる。


 最後に外国のスパイか工作員。はたまた、民族主義の過激派や宗教関係の過激派など、次から次へと考えて行くと片手では済まなくなる。それらの名前を読み上げていくとまるでスパイ小説を読んでいるようだ。



 統合参謀本部があるから軍関係は一本化するよね? すると、残るは過激派関係と他国のスパイ? 間諜? 


 それともシャムネアお嬢様がアラレスティ王国を旅する事を良しとしない人達?


 ‥‥‥。結局考えれば考えるほど分からなくなってしまい、ジョルジョネ大尉が話してくれるのを待つしかないようだ。



 これから向う港だか魔素結晶の欠片の取引場だかに訪れた時か、食事時にボソッと聞いてみるか?


 今はとても彼に聞ける状況ではない。その彼は熱心にミリクナ医務長の話に耳を傾け何か呟いたり頷いたりしていて、とても俺が質問しても答えてくれそうにも無い。


 一時間も経てば多分ゴルムディアの城門に着くだろうし、港までそれから一時間もしないで着くだろう。それまで何気なく今朝と同じような本を開いて見ているお嬢様の本に視線が行ってしまう。



 そこにはまたもや動く挿絵が載っているではないか。その挿絵の中は何故か騒然とした会議場のような場所で、描かれた人物達がせわしなく動いていた。思わす唾を飲み込んでその動く挿絵を覗いてしまう俺であった。






☆  ☆  ☆






 「一体状況はどうなっておる?! 誰か説明できるものはいないのか?!」




 そんな怒号が飛び交う会議場の一室で妙に冷静になっている人物が一人、その怒号の主が静まるのを待っていた。周囲は慌しく手紙ハトゥーが飛んできたり新たに飛ばしたりと忙しない。


 ある者は今飛んで来た手紙ハトゥーを開封すると、それを簡潔にまとめて報告書にする。その出来上がった物を直ぐに上司に見せる。その上司はその状況を地図に木の駒を使って移す。


 そして、上司からは新たな命令を貰ってまたそれを手紙ハトゥーに認めると、魔素陣を発動させて指示先の人物へと送る。そんな風景を一人落ち着いた眼差しで観察していた人物は「これでは駄目だ」と、一人呟く。




 その人物は一人深く考える。


 ‥‥‥。確かに手紙ハトゥーは便利な物でも三千メタ((km))を半日もあれば届ける事が出来る。これは以前であれば素晴らしい出来事で伝令を馬で派遣していた時に比べれば遥かに早く皆に伝達出来る。


 しかし、今日こんにちでは誰もが、そうアラレスティ大陸の人々であれば誰もが使えて格差が無い。王国の仮想の敵が手紙ハトゥーを使った場合これでは遅すぎる。


 軍は常に素早く命令と報告を伝えないと意味が無いと自負している。相手と同じ速度では駄目なのだ‥‥‥。




 そんな事は表に出さないで現地から上がってくる状況を地図に表す様子を眺めるその人物は再び思考を巡らす。




 ‥‥‥。まあ、今起きている現場は10メタ((km))も離れていないので現状で起きている事象は同時刻と思っても差し支えないのだが。


 奴隷旅団所属中隊を常時アラレスティ王国中を動かせる奴隷旅団であれば問題ないが、王国軍本体となれば問題だ。時間稼ぎで中隊に対処させている間に本体を集結させねばならないからだ。


 それに王国軍本体が動くと色々と手続きが問題であった。特にこれから南下させる場合、直轄地は問題ないが半自治権がある領主の領地を王国軍が大っぴらに通過するだけならば良いが、軍事行動するのは面倒ごとが多すぎて思うように動けない。それどころか住民にいらぬ不安を与えかねない。


 その為にも手紙ハトゥーに代わる物を商工業組合で色々な仕組みの魔素道具を開発はしているのだが思うように行かない。


 学院でも研究はさせているし、個人というか本家でも逸早く手紙ハトゥーに変わる新しい伝令方法を考えて研究しているらしいのだが思い通りに行っているとは聞いていない。


 それに他家が先に開発できたという話も聞かないことから、未だにどの勢力も成功していないのかもしれない。しかし、事が起きるまで秘匿して使っていないだけかもしれない。


 その魔素道具に使われる不審な魔素結晶の欠片の動きについては鉱物や素材の流通を握っている奴隷組合に頼りっぱなしであるが、例の火縄を使わない新式の銃や大筒と共に監視はさせている。これはあの召喚者からもたらされた話であったかな?


 製法に着いては専門ではないから分からないようだが‥‥‥。あれ? 確か建物を築く現場の現場監督であったかな?


 それで計算が速かったような‥‥‥。まだ先進的な考えは我等には話してくれそうにも無いし。


 しかし、はまだ早い。嗚呼、何ていったかな? 「帯に長し襷に短し」と、そんな事をあの勇者が言っていたかな‥‥‥。




 そんな事をぼ~っと考える人物はハルーツンであった。


 ぼ~っと様々な事を考えていたハルーツンに対して何人かの将軍の位を頂いている同僚は文句こそ口には出さないが明らかに態度で侮蔑する。そんな彼等の態度に一々目くじらを立てるハルーツンではない。


 そんな彼等に対して無視すると、この部屋に勢いよく入って来た人物を見て、一度椅子から立ち上がったが、入ってきた人物の服装を見て奴隷組合に先を越されたかという感じでまた座っていた椅子に座り込む。


 「多分、奴隷組合主導で解決したという話であろう」と、呟くハルーツンはまた思考を巡らす。




 ‥‥‥。すると、今頃王子殿下の護衛が展開した頃か、更には応援部隊が到着した頃か‥‥‥。




 そんな事を考えハルーツンはため息をして報告にやって来たジンベ姿の人物を眺める。



 聞えて来た話は案の定、侵入者を撃退したという話に死体を数人分確保したという話であった。その後に軍の詳細な報告がやっと上がってくる状況に先程の考えていた事が急務である事を再認識するハルーツンであった。


 それは、同時に伝令が報告できたり、展開している部隊に状況をここにいながら説明したりと多岐に渡り同時に話が出来れば手紙ハトゥー以来の驚くべき出来事になると、ハルーツンは考える。



 そんなハルーツンの手元に手紙ハトゥーが一通舞い込んでくる。一体誰からの手紙なのか首を傾げ、送り主をの名前を見て彼は微笑む。


 ハルーツンは送り主の名を見て、内容は分かっているのだが敢て読む事にする。そこには「ザトウの実がる」と、書いてあるだけであった。一見何の事だかわからない文章だが、その文面を見てハルーツンは更に微笑む。


 すると、ハルーツンの副官が部屋に入ってくると、その副官がハルーツンに対して耳打ちする。




 「どうせ、まだ全容が分かるのはまだ数刻は掛かるし、それに報告書にするまでにはまだ時はある」




 耳打ちしてきた副官にそう答えるハルーツンは勢いよく立ち上がると、席を外す事を周辺の者に告げる。そして、副官を伴って部屋を出て行くハルーツンであった。その際、同僚がまたかよといった感じに渋い顔をしたのは無視するハルーツンであった。



 ハルーツンは別室に着くと、梱包された物を指差し部下に梱包を解かせる。中から分厚い説明書が先に出て来ると、それをぱらぱらと捲り珍しく感情を露にして喜ぶ彼であった。


 説明書には「試作 長距離伝声魔素道具甲型 本部用」と書いてある。次々に部下に梱包されていた物を解かせて中身を出させると、人が背負う物から長い棒に線が着いたものなど、どれもそこにいた部下は何に使うのか分からないようで不思議そうに外に出された物を眺めている。


 そこに赤い軍服の上に白衣を着た、いかにも技術系の尉官がその部屋にやって来る。ハルーツンの子飼いの技術尉官でありその出された物を見てすぐ悟ると、ハルーツンから手渡された分厚い説明書を一気に読み上げる。瞬く間に要所を押さえ、その説明書を読破すると次々にハルーツンの部下である特務部隊の兵に指示を飛ばす。



 幸いまだ司令部が混乱しているようで意見が纏まらないのか、ハルーツンを呼びに来る者はいないようだ。そのお陰で彼は矢継ぎ早に部下に質問をぶつけ始める。




 「ガウツ!! 作戦半径はどれくらいだ? 何台同時に使えるのだ? 転送時間は距離にどれくらい比例している?」




 「閣下、これはまだ試作でございます。その棒の設置高さにどうやら左右されるようです。まだ解明されていない事柄があるようで同時に会話できる台数も限られているようです。


 それに声の転送距離ですが千メタ((km))。ああ、その棒によって距離に差が出るので20メト((m))の高さに設置をすれば、机上では千メタ((km))の距離を感じさせる事は無いようです。


 まあ、設置してからですかね。この仕様ですとアラレスティ大陸の山頂に上手く中継地点を設ければ全土を網羅するのも夢ではないでしょう」




 等と、要所要所掻い摘んで技術尉官はハルーツンに答える。質問をしたハルーツンはその答えを聞いて、そんな物かとため息を漏らす。試作品であるから仕方がないが、それでも新たな道が開けた事に満足するしかないようだと諦めるハルーツンであった。


 しかし、これは登録したものであれば己の魔素力に関係なく手紙ハトゥー以上の速度で伝達できる手段であると、考えるハルーツンは内心小躍りしてこの部屋の中で誰かを相手に共に踊りたい気分であるといった素振りは流石に皆には見せられないようだ。


 珍しく上機嫌になったハルーツンは「設置が終わり次第試験を実施する」と、その技術尉官に命令するとその部屋を後にする。


 ハルーツンは廊下を歩きながら会議室に向う間にある事が閃いて立止まると、また部屋に戻り先程命令した技術尉官に一言二言声を掛けて確認をする。確認取れた内容をかみ締めながら早速使い道を見つけたようで、少し足取りが軽そうなハルーツンであった。



 ハルーツンが出て行った部屋に残されたガウツと呼ばれた技術尉官は早速設置が完了すると同時に試験を実施させ、試験に合格した物を運び出せと新たにそこにいた部下に命じる。




 ハルーツンが会議室に戻ると、まだ上から下まで混乱している様子を見て、呆れる彼であるが声を張り上げ皆の注目を集める。




 「先ずは敵の侵入方向と場所を明らかにせよ! それから誰か、あの山の上の状況を確認した部隊があるのか報告をせよ! 確認した部隊がいないのなら直ぐに確認させよ!


 先ずは一番怪しい所から捜すのが先決である。それと確保できた死体や敵の武装など無力化出来次第、別室に陳列させ技術屋と魔素術屋に見させろ!


 その際、奴隷組合の関係者に同席して貰う様に! 背後関係はそれから探ればよい。今は何が起こったかを把握する必要がある。侵入者があそこに向っていたのは分かっているのだからな!」




 ハルーツンがその言葉を発すると先程まで混乱していた仮の司令部は統制を取り戻し各々自分の仕事に邁進まいしんする為に動きだす。


 その様子にハルーツンより年を召したは苦虫を潰した表情になる。そんな彼等をまたもや無視して、この部屋の主の顔を見たハルーツンに対して部屋の主は頷いて下から報告が上がってくるのを待つ為に目を瞑る




 結局全容が掴めたのは夜が明けてから二つ時が経過した時間であった。それはあの殺し合いが始まってから4つ時、8時間経過してからであった。






☆  ☆  ☆






 本当ならば、そろそろ城門に着いてジョルジョネ大尉が一回指揮車を降りるはずの時間であるのだが、この指揮車は仮なのか何時も壁に掛かっている時計もどきは掛かっていなかった。


 いい加減無声映画のような動く挿絵に飽きて。いや、あのハルーツン閣下が何か喚いていたのを見て、あの人も感情を露にするのかと何処か感心していたのだが代わり映えのしない挿絵に辟易した所であった。


 何で音声が出ないのかと思ったのだが、ここは密室ではない。アラレスティ王国の関係者が大勢いる為に音声は出ないのかと一人納得してしまう。まるで、その通りだよといった感じにシャムネアお嬢様は俺に微笑む。さすが神様なんでもお見通しという事らしい。




 「面白いの~、人がちまちま動いてあたふたするのは何時見ても飽きない」




 彼女はそんな事を囁くと、最後にクックックと笑みを上げるではないか。そんな事を呟いたお嬢様を見て大尉の言葉を思い出す。暇人がやる事は傍観か、事象を引っ掻き回してあたふたする者を見て楽しむ事ぐらいだという事を‥‥‥。そんな事を思っていると少し怒った感じにお嬢様が俺に呟く。




 「心外な!! 妾はただ見て楽しむだけじゃぞ?! 手を出す事は数えるぐらいしかない!!」




 そんな言葉を囁くと今度は俺を睨む。いやいや、数えるぐらいって実際は手出ししてるんじゃ? そんな事考えると罰が悪そうな顔をして本を閉じる。


 そして「あ~、五月蝿い五月蝿い」と、いった感じに耳を塞いでそんな仕草をするではないか。まあ、確かに幼女がそんな仕草をすればその道のプロはイチコロだが、俺はその道のプロではない。


 「誤魔化しても駄目ですよ」と、突っ込みを入れて、いまだに着かない指揮車がどこに向っているのか気になってくる。



 先程までミリクナ医務長と何か話し込んでいたジョルジョネ大尉がいつの間に届いたのか、手紙のような物を読んで一瞬何か苦虫を潰した表情をすると伝声管のような物を壁から外すと何か言葉を発する。相手からは「分かりました」と、どこか管を通ったようなくぐもった声がして来る。


 どうやら目的地が変わったようでひょっとすると今朝方起きたあの騒動のお陰なのか?


 大尉は席を立ち上がると態々俺等。いや、お嬢様の目の前にやって来るのか、指揮車に揺られながらも壁を伝って体を支え動き出す。そして、目の前にやってくると、半分感情がこもっていない口調で話し出す。




 「え~、真に言い難い事なのですが‥‥‥」




 「嗚呼、分かった分かった。ちゃんと次の目的地に例の店のお菓子は用意してくれるのかえ? それさえしてくれれば妾に文句は無い」




 その言葉を聞いた大尉は何時もの様にいやらしいニヤケた顔を晒して俺にもそういう事だからなといった感じに見下ろす。そして、前の席に急いで戻り何か手紙のような物を認めるとそれを折り畳んで手紙ハトゥーにして何処かへ飛ばしたようだ。


 嗚呼、あの慌てようから察するに、お嬢様の楽しみにしていた物を手配していなかったので次の目的地に急いで手配するらしい。


 手紙ハトゥーを飛ばした彼は頭の上に腕をあげて丸「OK」といった感じにお嬢様に示す。そんな大尉はどこかかわいそうに思えてくるのはこの場にいる俺だけではないよね。


 彼が段取りしたかは知らないがこの地に着いてからは全て上の都合で覆っているようで、中間管理職の行き場の無い憤りのような物を感じてしまう。



 ジョルジョネ大尉アタフタしていた時、同じように覗き窓から入ってきた手紙ハトゥーを受け取ったそれぞれの人物を見ていて飽きない。


 ミリクナ医務長は黙って何時ものように平静であるのだが、ペルジャーネ先生は両腕を上げて何かを呪っているふうで小声で何か呟いているのを目撃してしまう。あの様子からするとペルジャーネ先生ではなくデウシー先生のようだ。


 横に座っているボフボーニャさんも同様で一瞬立ち上がると俺のほうを恨めしそうに睨む。嗚呼、まじまじとこの俺を睨んだ。一瞬横の傍観者である幼女を睨んだのかと思ったが、彼女がこの幼女を恨む理由が見つからない。


 睨んだ後に何かブツブツいっていたのは無視する。プイホンさんは背もたれに寄りかかって何かの本を読んでいる。相変わらず勉強熱心で宜しいのだが‥‥‥。どうせ移動する時間があるのならまた勉強を復活させたいな~‥‥‥。しかし、肝心の道具袋が無いのでどうしようもない。



 指揮車の中の観察に飽きた頃、急に何かの上を乗り上げたかと思うと指揮車がゆっくり速度を落としたかと思うと止まってしまう。すると、指揮車の扉を叩く音がしてだれが開けるのか躊躇していると、急に覗き窓が開いてメルディム護衛分隊長が顔を覗かせる。




 「大尉?! なんだか見知らぬご同業が外にいますよ?」




 そんな彼女の言葉に「いいんだ」と一言返すジョルジョネ大尉が扉を開ける。扉を開けると画板を持った見たことがある人物がその画板ごと外に出たジョルジョネ大尉に書類のような物を渡す。その様子を出入り口越しに見ていると、渡された画板に一通り目を通した大尉は最後に自分のサインをしたようだ。


 何かの受領書か? 何か新しい装備か、もしかしたらあの宿に置いて来たものを受領するのかもしれない。すると、大尉は出入り口から顔を覗かせ「乗換えだ」と言い放つ。


 まあ、外の様子も覗けるので問題は無いのだけど‥‥‥。勢いよく指揮車を降りて焦ってしまう。


 ちょっと足を進めさせれば崖であった。その状況に恐る恐る崖から顔を覗かせると遥か下のほうに海が白波を立てているではないか。どうやら海沿いの崖を進んできたらしい。崖沿いに道がしかれており、くねくね曲がっているようでその様子が遥か向うまで見て取れる。


 進行方向に対して右側に海が見えるということはひょっとしてゴルムディアから南下しているのか? それならそれで問題は無いのだけど、もう少し町の見物をしたかったな‥‥‥。きっと街中は獣耳けもみみで溢れていたに違いない。



 プイホンさんが俺を呼んでそんな事を考えていた俺は我に返る。プイホンさんから声を掛けられた方向に視線を動かすと、俺等が乗ってきた指揮車の二倍までは無いがそれでも細長くなった6輪の箱型の馬車が乗ってきた指揮車の前に駐車してあった。今まで見た馬車より大きく頑丈そうだが横幅は対して変わらないようだ。


 そういえばそうだよね。あの石畳の溝に合わせなければならないからね。外周をじっくり見る暇はなさそうだが、俺はその馬車の中に入る前にその外観を眺めてしまう。


 両側に扉があるようでこれは今までの指揮車と変わらない。窓も当然あるわけ無いのだが覗き窓はある。


 後ろの車輪を見ると、まるで大型トラックだ。前の車輪は馬が曳く事によって進行方向に動く。後ろの並んだ二列の車輪は指揮車よりは少し小さめで車体が大きい分万が一、車輪が一個ぐらい外れても問題ないのだよね?


 そんな予測をしていると再びプイホンさんに呼ばれて慌てて横の入り口から中に入ると、中は指揮車と同じような作りに座席の数が二列ほど今までの指揮車より多い。


 中間にある二人掛けの座席が3列、先頭と後部にそれぞれ3人掛けの座席が有る。指揮車より余裕があるようなので二人掛けの席の間隔は結構広い。


 一番後ろに何時ものようにというかシャムネアお嬢様とラシャネスさんが座っている。前の三人掛けの席に先程と同じように大尉とミリクナ医務長、その対面に魔素術使いコンビ。


 3列目の席に俺の道具袋とプイホンさんが座っている。4列目の席にはあのお嬢様の旅行鞄が置いてあった。後部座席と4列目の席は前側と同様に対面になっているのでお嬢様はその間にあるテーブル越しに鞄を空けて何かごそごそやっている。新しい本でも探しているようだ。



 直ぐに出発するのかと思いきや、前の席のテーブルの上にも何か箱型のものが置いてあるようでジョルジョネ大尉は説明書のような物を見て何かいじっているようだ。


 その箱のようなものが気になって前の席を覗くと「ガ~~~」とか「ピ~~~」という音がしてこれはラジオか? ひょっとして無線機?


 「まさかそんな~」と、心の中で否定したのだがここは異世界。何でもあるよね?


その真新しい箱から察すると最近出来たばかりで多分試作かな? それに大尉が説明書を見て操作している様なので最近出来上がった物だろう。


その内、気恥ずかしそうに「こちら黒鉄、本部聞えますか?」と、いった無線で話すコールのような物をやっている大尉の顔を見ると若干緊張しているのが分かる。そんなコールを何度か続けていると応答するのか別の声が聞えてくる。




 「こちら洞穴ほらあな、実験は成功。引き続き定時の報告に応答をしたまえ」




 なんだか向うの方も少し緊張した感じで話しているようで少し声がうわづっているようだ。何処か聞いた事がある声にひょっとしてハルーツン閣下なのか?


 さすがに電話のように長話は出来ないようで直ぐに雑音が混じり慌ててつまみのような物を回す所を目撃する。あれがボリュームか。あのメモリは周波数を合わせるのに使うのかな? 等と何処かで見た事がある無線機のようで想像が出来る。



 この俺が彼等を観察していたように、そんな俺の様子を観察しているのはミリクナ医務長であった。彼女は今画期的な道具を目にして驚くどころか依然見たことがあるのかもしれない。そうでなければ物珍しそうにその無線機を見ているデウシー先生やボフボーニャさんのように驚いているはずである。


 そのミリクナ医務長は俺が感心している姿を見逃さないといった感じに俺の様子を見ていたので、俺が彼女を見ると僅かに目を反らす。大尉もそのことに気付いて俺が別段驚いていない事に対して何か頷いた様子でもある。


 嗚呼、失敗した。少し驚けばよかったかな? 今更であるが彼等が俺を観察していた事を忘れていた。少し反省をして、今更であるが連絡が終わったようなので驚いた風に大尉に質問してみる。


 「たっ、大尉? これって何ですか? 箱から声、ハルーツン閣下の声が聞えてきましたが?」




 「嗚呼、なんでも今朝届いたばかりの装備でな。えーと『試作 長距離伝声魔素道具乙型 部隊用』という長ったらしい名前の魔素道具らしい。


 手紙ハトゥーは手紙を相手に届ける仕組みであるが、なんでもそれを応用して考えられたようで、その手紙の代わりに声を相手に届けるらしい。


 この俺に仕組みを聞くなよ? それにそこ! ペルジャーネ筆頭! これは軍の器物だから仕組みを調べようとして壊す事は厳禁ですからね!」




 俺に説明したはずなんだが、俺より不思議そうにその無線機を見ていた魔素術使いコンビに念を押したようだ。




 へぇ~、無線が実験配備されたとなると、嫌な予感がして来る。最新装備をジョルジョネ大尉の部隊に装備するという事はその装備の使い道を模索するという事だよね。


 多分これはハルーツン閣下辺りが俺に口を出させて運用面に取り入れるとか考えていそうで少し考えてしまう。素直に口出しして技術と運用面で彼等の発展に力を貸せば、これから起きる何かに対処する時に役に立つ事があるのかもしれない。


 例えそれがオパーツ的な情報でも俺が前に進む事に必要ならば‥‥‥。そうはいったものの‥‥‥。その情報のお陰で歴史が変わってとんでもない事になった場合や、俺の責任というか自分のその意見によって人の生き死に係わった場合、寝覚めが悪い所の話ではなくなってしまう。


 その意見に対して俺は後悔の嵐に襲われ、自分の世界に帰るどころの話ではなくなってしまう。特に身近なものが死んだ場合、俺は果たして耐えれるのであろうか? その事で立止まってしまった時に直ぐに立ち直れるのか俺?



 そんな事は経験した事は無いから分からない。




 自分でそんな事を考えて行く内に、答えが見つからなくなってしまう俺であった。




 次話へつづく

次話は4/20頃の投稿となります。

詳しい事は活動記録の4月の予定を見てください。

今頃は病院のベットで唸っている頃だと思います。

皆様には大変ご迷惑かけます。

なるべく早く復活して再び投稿できるようにと思っています。

また、誤字脱字等の修正も同様に暫く出来ないので復活するまでお待ちください。

それでは次回の投稿までお別れです。。

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