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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第4章 振り回される年季奴隷 》
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<4-9>  「監視される年季奴隷  (中編)」

最新の本文修正日は2015年1月16日です。

 温泉街のような観光地や神社のような鳥居や神社建築、それに神道のようなアーベ神教の神事に驚いた俺ですが、一番驚いたのはあの巻き戻しというかジョルジョネ大尉の場違いな同じ台詞であった。


 ジョルジョネ大尉らのアラレスティ王国に都合の悪い事があるように、ここの神様にも都合が悪い事があるようです。その事に付いて今後シャムネアお嬢様から話してくれるまで待つしかないようです。そんな事を思う俺であった。






 俺がお嬢様の口の周りの汚れを拭い去るとジョルジョネ大尉は更に見せたい物があると言い俺等を導く。石作りのお社とは反対側に有るようで雑木林の中を歩いて行く。


 暫く歩いて行くと雑木林が切れて少し開けた場所に出る。またもや見た事があるような風景に驚いてしまう。大尉が言うにはアーベ神教の代々の神職の墓という話であった。


 土がこんもり盛ってあり少し小さい台地と言っていいぐらいの大きさである。表面は雑草が綺麗に抜いてあり、土が露出している。その土山の前に祭壇のようなものがあり、そこには埴輪のような素焼きの陶器のような物が沢山供えてある。馬だったり人型だったりどれも同じものはない。


 その祭壇の後ろの方に石の扉のような物があってあそこがこの墓の入り口らしい。まるで黄泉路へ続くかのような配置に記憶の奥底にあったみささぎや陵墓を思いだす。



 すると、何時の間に現れたのか分からないが白装束の神官のような人物が一人、俺等のほうに近付いてくる。


 黒い烏帽子を被っているが脇から見える白髪交じりの頭髪から結構ご年配の神主? 宮司だろうか?


 彼はジョルジョネ大尉にお辞儀をすると俺達を祭壇の後ろへいざなう。


 訳が分からずぼけっとしていると、その神主らしき人物が何かの呪文めいた言葉を発する。すると、頑丈そうな石の扉が音を立ててゆっくり開く。


 その神主を先頭に歩き出すと壁にかけてある松明のような物に火が燈る。それらに照らされて廊下の壁画が浮かび上がる。それと共に更に奥のほうにも扉があるようで、その扉も松明に照らされて浮かび上がる。




 「始めまして、皆様。わたくしはここのアーベ神教の筆頭神職の位を頂いております。一応、ここの責任者の()()()()()といいます。今日はアラレスティ王国軍たっての願いにより、特別にこの通路の見学を許可しました。


 その奥が墓所となっておりまして、さすがにその奥までは見学を許す事は出来かねますので改めてご了承ください。それで、これは『テンソン降臨』を示す壁画でございます。アーベ神が我らの魂を救済する為に天から降臨された時の様子が描かれています」




 そんな何処か聞いた事がある名前に対して驚く以前に「テンソン降臨」という言葉のインパクトが強すぎて言葉にならない。


 描かれている絵は馬に跨った男性の姿に、彼は左腕に鷹のような鳥を乗せている。嗚呼、教科書で見たことがある絵に顔をぶるぶる振って自分を落ち着かせる。


 その俺の驚いた表情を確認した大尉はまたもや何かに頷いた感じであった。後半色々とナキリシスさんが絵の説明をしてくれたのだが心ここにあらずの俺であった。そのお陰で、彼の説明を完全に聞き流してしまう。



 一通り説明が終わった所で彼が質問を受け付けてくれるようだが、絵に対しての質問よりは的外れの彼の名前の由来を聞く事になる。いたってどうでも言い事であるが、そんな事しか聞けない状況であった。


 ああ、彼の名前はその奴隷王と共に脱出して奴隷王事件後死亡したとされている人物の名前を熱心なアーベ神教の教徒であった両親がつけてくれたという事なのでまったくの無関係な話であった。はっきり言ってそんな事だろうとは思っていたのでどうでもいい。


 その他の壁画も見た事があるようなものばかりで感情を抑える事に必死になる。この事から創世大陸から来たこの宗教にアラレスティ王家が向うにあった時、仮にも憶測であるが召喚者の中に古代の日本人が居たのは間違いなさそうだ。ここまで一致するのは天文学的な確立であるからで偶然とは絶対言いきれるとはいえない。


 その壁画に対して、プイホンさんはきれいな絵だねという感想に、シャムネアお嬢様はブスットしていてこれまた何を考えているか分からない。ラシャネスさんに至ってはまるっきり普段道理の澄ました表情でこれまた何を考えているか分からない。



 最後にこの壁画が書かれた年代を聞くと600年ほど前に描かれたという事らしい。奴隷事件後に一時壊されそうになったのだがこの墓だけは守り通し、現在に至るという話だあった。


 ジョルジョネ大尉が囁いた話では墓まで暴く事は人道的に非難されるのでそこまでしなかったという話であった。当然嘘かまことしやかな事で、もしかすると裏金が相当流れたのかもしれないよね? 実際の所は記録に残っていないと大尉は話していた。



 一通り壁画を眺めてある事に気付く。アーベ神って髪が黒かったんだね~。他に書かれていた人物の髪は各々、各種色が付いたアラレスティ王国に住む人達の容姿に似ていて最初に見たアーベ神といわれた人物とは何処か違っていた。


 そう、このアーベ神だけ日本人顔っていうか日本画風で書かれて違和感だけが俺の心に残る。それにその奥の石の扉も気になったが流石に向うが禁止しているのを押し通る訳には行かないし、ミイラのような死体を拝む勇気は俺にはなかった。


 ナキリシスさんが皆を外に誘導する。その後にについて外に出ると、僅かだがこの墓の周りの雑木林が動いた気がして空を見上げる。風が強くなって来たのか墓を覗いた俺らに怒った何かが雑木林を揺らしたのかは分からない。



 そんな風に流されて葉っぱのような物が飛ばされて行く風景を眺めた後、一人身震いしてナキリシスさんの後を付いて行く。


 元いた場所に戻ってくるとジョルジョネ大尉はナキリシスさんにお礼を言ってお辞儀をする。それに釣られて俺もお辞儀をしてしまう。そんな俺の様子にナキリシスさんが俺に微笑んだように思える。


 彼は俺の黒髪に対して何も言っていないし驚いた様子も見せなかった。あのアーベ神と同じ黒髪だというのに‥‥‥。興味が無いのか? それともポーカーフェイス? やはり間抜け顔なのでガッカリして興味が無くなったのか? 分からない。


 後は見るものが無い様で、また露店の前を通り過ぎ鳥居の下を通ると、上ってきた石段を降りる。ふと後ろを振り返ると、帰りも同じようにシャムネアお嬢様を抱っこしないといけないらしい。


 俺が階段を下り始めると幼女が俺に向って咳払いをするではないか。先に下り始めていた大尉が仕様がないといった感じで俺のほうを見る。その目の合図で俺はため息をして石段を登ってまた元に戻るとお嬢様を抱きかかえて石段を降りる。


 人を抱きかかえたまま階段を下りるのは結構しんどいもので、前というか足元が見えないので何度か石段を踏み外しそうになる。その際、不思議な事があったのは無視する。


 確かに踏み外してバランスを崩しそうになったはずであったが、何故だか不思議と元に戻るようになんとも無く階段を下りる感覚になってしまう。多分見えない石段が現れてちゃんと地に足が付いた状態に戻ったのだよね?


 石段を降り切り、そのまま参道を通り抜けて駐車場に戻るのかと思いきやどうやら違うようだ。参道脇のみやげ物屋に並んで「旅籠イセ屋」と、看板が上がった建物にジョルジョネ大尉は入って行く。温泉でもご馳走してくれるのかと勘ぐってしまう。普通のお風呂も良いけど温泉は別バラだよね。




 「私の上司がお嬢様にお詫びという事で一席設けております。今宵は御緩りとこの旅籠でお過ごし頂、明日またゴルムディアの町に戻りたいと思います。何でもこの並びで一番料理が美味しい旅籠だそうで。その、なんと言いますか。お酒も一番の物が揃っているそうですよ?」




 そう大尉がシャムネアお嬢様に向ってこの旅籠に入った理由を述べる。美味しい料理という言葉を聞いたお嬢様はニコニコしだして俺に履物を脱がせという風に玄関框に腰掛けると足を差し出す。


 嗚呼、確かに従者なので文句はありませんよ。その手の趣味の人ならば喜びそうなシチュエーションであるが俺はそんな事は無い。


 旅籠の従業員がタライにお湯が入っているものを差し出してくれる。仕方なくお嬢様の履物を脱がした後にたらいの中に入っていた手拭を絞り、お湯の中にお嬢様のおみ足を入れて洗う。


 ここで初めてこの旅籠、旅館が土足禁止という事に気付く。今までの宿舎は何時も土足で問題なかったのにこの旅籠という名前の旅館は違うようだ。何処か和風の趣があってあの勇者の影響があるのだろうか?


 そんな事を考えながらお嬢様の足を洗い先程絞った手拭で足を拭く。気が付くともう一人俺に足を差し出して待っているではないか。ラシャネスさんであった。


 「嗚呼、はいはい」と、文句を言わずに引き続き彼女の足も洗い手拭で拭き上げる。


 最後に自分の足を洗うと早くしろと言う風にお嬢様が俺を見ている。脱いだ履物を従業員が仕舞い、それを視線で追いながらも素早く済ませる。


 流石にスリッパは無い様でそのまま素足で仲居のような旅籠の従業員に案内されて廊下を歩いていくと、和風の作りは玄関先だけで廊下は洋風の石作りでガッカリしてしまう。一応、廊下は絨毯のような物が敷いてあり壁は漆喰のような壁である。扉は木製のようで引き戸であった。


 引き戸を開けると障子があり、それを開けると洋室であった。皆はテーブルに着くと席に座る。応接セットもあるようでソファーのような物まである。そこは居間のような部屋でここで食事をするのか? それとも大広間のような所で食事をするのか? それは分からない。


 その居間には各部屋の扉があって女性陣と男性陣は別々に寝るようだ。どちらかというとスイートルームのようで、どこか落ち着かない。驚いた事に洗面所の奥にトイレと個室の浴室まであって、個室の浴室は露天風呂の仕様となっている。嗚呼、他人に裸を見られるのを嫌う人もいるからね‥‥‥。既に湯船にお湯が張ってあっていつでもは入れるようだ。



 個室に入るとそれぞれにベットが宛がわれるようで男性陣側には4人分のベットがあり、女性陣側の個室も同様な作りでベットが4つ置いてあった。ベットの上には湯浴み着のような浴衣のような物が置いてある。キョロキョロしていると大尉が教えてくれる。




 「ここは混浴だからな‥‥‥。混浴の露天風呂はその『湯浴み着』を着て露天風呂に入る。普通の男女別の浴室は裸で問題ないぞ‥‥‥。もう一つは「ユカタ」といって風呂上りに着る「キモノ」という勇者が伝えた寝る時に着る服だ。


 それを着ていれば旅籠内を移動しても問題は無い。ああ、あと貴重品は部屋に供えてある魔技箱に入れれば良い。使い方は分かるよな? ‥‥‥。嗚呼、そうだ。一回解除するとまた登録し直しだからな!」




 大尉の説明を聞いてまるで旅館にある金庫を思い出す。お金が入ったベルトや革袋を魔技箱にしまうと封印をする。それになんだか懐かしい物を目にしてその浴衣を眺めて着替えていると、プイホンさんが自分と格闘しているようだ。風呂に入るか入らないかで悩んでいるのだろう。俺と大尉が浴衣に着替える間も悩んでいたので声を掛ける。


 「一応はこれもお仕事の一部ですよ? プイホンさん。普段から綺麗にしないと、折角専属のお仕事を貰っているのですからね‥‥‥」



 その仕事という言葉に意を決して浴衣に着替えるプイホンさんの浴衣にはしっかりと尻尾の穴が開いていた。ああ、予約していたのだから当然だよね。



 寝室から出ると早くしろと行った感じにこれまたお嬢様が俺を睨む。いや~、貴方がたとは作りが違うので一々着替えないといけないのですよと心の中で言い訳をする。


 備えてあった手ぬぐいと湯浴み着を肩に引っ掛けて皆と共に浴場へと向う。そういえば部屋に案内してくれた従業員というか仲居さんは部屋を案内した後直ぐに消えた。チップのような仕組みというかそういった仕来りは無いようだ。それに部屋には鍵が無かった。考えれば貴重品を仕舞う魔技箱があるので問題は無いのだが‥‥‥。不届き物が部屋を間違えて入ってこないのであろうか?



 廊下を歩きながら浴場に向う途中、ふとある考えが浮かんでくる。皆で温泉というイベントには必ず立つフラグである。皆で風呂に入ると必ず境壁が壊れて珍入者が現れたり、露天風呂での大イベントなどもり沢山である。


 俺は選択を間違えないようにしないと後が怖い。過去に華々しく散っていった多くの仲間? 戦友? 分からないがその人達の事を反面教師にしてここでミスする訳には行かない。少し気を引き締めて脱衣場に入る。


 お嬢様が脱衣場に入る前に何か言っていたようだがそんな事を考えていた為、耳には入らなかった。どうせ露天風呂で待っているとかそんなことであろう。俺はロリコンではないので幼女の湯浴み着姿を見てどうとも思わない‥‥‥。思わないはず‥‥‥。思わないよね俺?



 着替え中にさんざん考え事をしていた為、プイホンさんやジョルジョネ大尉が先に浴場に入ったのを気が付かなく、俺の横に知らないおっさんが着替えながら話をかけて来る。




 「珍しいな~、異国の人か? 何処から来たのだ?」




 そんな気軽な感じで話をかけられてつい答える為に彼の顔を見てしまう。彼はここら辺の住人と同じような西洋人顔で長い金髪で背丈は俺と同じぐらい。それに年齢も同世代のように感じて気軽に答えようかと考えるが、青い目が何かハルーツン閣下を思い出してしまう。


 「それが分からないというか。気が付いたらこの地に倒れていましてね。今はしがない年季奴隷でして。嗚呼、ここには使用人というか、ご主人様の特別のお計らいで風呂を頂ける事になりまして‥‥‥」


 何処まで正直に話して言いのか分からなかったので話を濁すような感じに話してしまう。しかし、彼は「ふ~ん」と、いった感じに俺と共に浴場に足を運ぶ。ますます、雰囲気がハルーツン閣下に似ていて疑心暗鬼に陥りそう。



 浴場は宿泊所と同じように洗い場は個室のように仕切り版があって、その仕切り版の中で体を洗う。まるで俺が体を洗い終わったのを見計らったように同じようなタイミングで洗い場の奥の浴槽に向うと先程の彼も付いて来る。


 ますます持って怪しい彼の様子に、俺に会いに来る人物の予想の思考を巡らす。金髪碧眼っていうと、この国では偉い人の人物像だよね? あのハルーツン閣下からして金髪碧眼だし‥‥‥。


 公爵家の関係者は皆会いに来ているだろうから、公爵以下の貴族の関係者か? 


 ‥‥‥。まさかと思うけど、そのまさかの王家関係者っていう事は無いよね?


 王家ならたぶん取り巻きが半端無く多いはずで、お一人で風呂になんか入れるはずは無いと思うけど‥‥‥。分からない。



 浴槽に浸かって肝心の温泉を楽しむはずであったが今はそれでどころではない。必死に考えて目を瞑って温泉を堪能する振りをして、思わず周囲の探査をして声を上げて驚いてしまう。


 その俺の声に驚いたのか隣に一緒に座った彼が同じように驚く。一体何があったのかと俺の顔の様子を見ているではないか。思わず立ち上がったのだが何事も無かったように振る舞いまた浴槽に浸かってしまう。驚いた理由を聞いて来るのかと思いドキドキしているのだが‥‥‥。


 いつの間にかタライというかおぼんのようなタライにお銚子にお猪口が二つ、つまみのような豆が載った皿がその隣の彼の側に浮いている。彼は徐にその乗っかったお銚子を手に取りお猪口に注ぐ。今度はそれを俺に勧めてくるではないか。


 まあ、確かに温泉にタライのお酒は付き物であるが、果たして下賎の年季奴隷であるこの俺が受け取っていいのか分からない。先程探査して驚いたのはこの人を囲むように何人かの波紋が見えたからであり、その姿は実際の俺の目には見えていなかったからである。


 多分浴場の天井裏か屋根、それに周囲にまぎれてこの人の護衛が隠れいるのだと思う。勘違いであれば問題ないのだが、その護衛は微動だにしないで彼を囲んでいたのである。


 浴場にいる他人の波紋であれば動いたりするよね? それに彼を取り囲むほどの人影はこの浴場には見当たらない。そんな事でこの人は公爵以上の地位の方で間違いないと思う。すると、そんな俺の考えを見透かしたのか彼が突然大声を出す。




 「あ~、これ!! 周りが五月蝿くては酒がまずくなる‥‥‥。これで良いかね? では一杯ぐらい付き合いたまえ!」




 そういって俺にお猪口を勧めてくる。さすがに断る理由が見当たらないので仕方なく頂く事にする。今迄飲んだどのお酒よりも飲みやすく上品な味で、す~っと喉を通って行く。そんなお酒であった。


 つい目をつぶってその余韻に浸る振りして探査をすると、先程の波紋が全て消えている事にまた驚いてしまう。誤魔化すように今飲んだ酒が美味くて驚いたような台詞を吐いてしまう。


 「このお酒は美味しいですね! このようなお酒は初めて頂きました」




 「そうかい? 気に入ってくれたなら選ん甲斐があった。なんでもここの温泉水を使って作ったお酒らしくこの甘口でスッキリした喉越しが評判らしいよ。名前はなんていったかな? まあ、おみやげ物屋で見るといいよ」




 その答えに俺は何時もと同じように「はあ」と、だけしか口から出ない。そして、酒に満足したのか、俺の姿にガッカリしたのかは分からないがお銚子の酒が空になるとその彼は「お先に」と、言って浴槽から出て行ってしまう。俺はてっきり、自己紹介をして実は‥‥‥。と、いったような事があるものだと勘ぐっていた。


 しかし、彼は何事も無かったように風呂から去っていった。浴槽の水面には空になったお銚子が載ったお盆だけが浮いている。



 う~ん、自己紹介もするほどの事も無いと俺に失望して出て行ったのだよね?

そうだよね? ‥‥‥。分からない。しかし、片付けぐらいしていってほしい。俺がお盆を持ってどうしようか悩んでいるとジンベ姿の従業員? その従業員らしい人物が俺からそのお盆を受け取って何処かに消えて行く。



 その後、周囲を窺うようにキョロキョロしたのだが、先に入っていたジョルジョネ大尉らはどうやらここにはいないようだ。もしかして外の混浴の露天風呂に行ったのかと思い。一旦脱衣場に行って湯浴み着を着用して露天風呂のほうに向う。


 浴場にまた戻って矢印が書いてある方向へと向う。湯浴み着は浴衣のショート版のようなもので膝下まで丈がある。当然下着は身に着けていないので、つい股間に手拭を当てたまま露天風呂に向う。


 すると、困った顔をして早く逃げたいといった表情をしたジョルジョネ大尉を目撃してしまう。彼は同じように湯浴み着に着替えたメルディム護衛分隊長に掴まってお酌をされながら露天風呂に浸かっているではないか。


 そこには見た事がある人物ばかりでミリクナ医務長やマイネンスさん。それにシャムネアお嬢様にラシャネスさん、最後に俺の背後に回るペルジャーネ先生かデウシー先生である。


 何故だか彼女に羽交い絞めにされて露天風呂の浴槽の中に連行されてしまう。幸いボフボーニャさんがいなかったので安心していると浴槽の少し離れた所に赤くなって寝転がっている彼女と同じようにいびきをかいて寝転がっているプイホンさんを発見してしまう。


 どうやら先に撃沈してしまったようだ。さすがに真っ裸でなく湯浴み着を着た彼女等であるが目のやり場に困ってしまう。若干お湯に濡れて肌が透けていたからで、幸いお湯の色が白く濁っていたのがせめての救いである‥‥‥。救いなのか? 救いなのか俺?


 「な、なんで皆さんがここにいるのですか?」




 『何って。おめえらばかり、ずるいじゃねぇか!! 俺等だって大事な仕事を終わらしたんだぞ?! そのご相伴に預かってもいいじゃねぇか!!』




 「いや、駄目という訳じゃなくて、ですね。何時来たのかということでして。朝はお姿を見せていなかったですよね?」




 「私は朝からずっといたよ、リョウジ!!」




 そんな事を言ったのはメルディム護衛分隊長である。彼女は俺達の護衛なので理解できる。どうやら別手配で合流したのかもしれない。いいのかな? ‥‥‥。


 今、ジョルジョネ大尉の変わりにアミュネス少尉やユロジェン少尉らは必死にこちらに向っているというのに。そんな考えをしていると湯気が一瞬風に吹かれて奥のほうに人影を発見してしまう。酔っ払いが二人、赤くなった顔をしながら浴槽に浸かっているではないか。アミュネス少尉とユロジェン少尉であった。


 えっ? 中隊はもう着いたのかと疑問に思ったところで。嗚呼、また担がれたようです。目を瞑り心を落ち着けて探査術を行うと揺らぐ影が一つ。アクティブの方の探査術に切り替え彼女の姿が浮かび上がる。


 もう慣れたもので無表情のラシャネスさんが隣に座っており、シャムネアお嬢様がお盆に載ったお銚子からお猪口にお酒を手酌している場面であった。ジョルジョネ大尉も何か顔の表情が緩んでいて温泉でリラックスしているようだ。


 それ以外は誰の姿も見えなかった。なんと言う罠であろうか。確かに俺を羽交い絞めにしたデウシー先生の胸が背中に当たった感触は俺の背中に残っている‥‥‥。嗚呼、直にではないが湯浴み着越しに感じた。それに何時からラシャネスさんの術の中に入ったのかは分からない。



 「あの~、ラシャネスさん? 何時からが現実なんでしょうね? 先程あった青年の方は本物ですよね?」




 すると、僅かにだが彼女は頷く。逆にジョルジョネ大尉のほうが夢から覚まされたように急に厳しい顔つきになる。




 「あ~、もう会ったのか? あの方が第二王子であり、ゴルムディア地方を任されている。名前は聞いたであろう?」




 「いっ、いえ! まるで私に興味が無いような感じに去っていきましたけど‥‥‥。あっ、手酌で酒をご馳走になりました」




 「あ~、またか。あの方も気難しい方である。しかし、酒を賜ったという事は‥‥‥。逆に気に入られたのかも知れんな。幼い時からの英才教育の賜物で他人に対して心を開かない方でな。


 まあ、他の御兄弟も同様なのだけど。昔みたいに兄弟で争うことがなくなったのはいいのだけど。ほら、前にも話しただろ? 皇太子になるための試練、時期王に選ばれる為の例の試験だよ。そういう事で他人には感情を露にする事は無い」




 「ふん!! 人の王と寂しい物だなジョネ。嗚呼、妾も大した変わらん」




 そうシャムネアお嬢様が呟いたかと思うとお猪口に入ったお酒を煽るように一気に飲み干す。その杯を大尉に渡すと彼女自らそのお猪口にお酒を注ぐ。それを大尉も同じように一気に喉に通す。この流れから良くと当然俺もやらなければならないのか? 


 大尉がお酒を飲み干すと皆が露天風呂から上がるようで、お嬢様が俺に「料理が待っている」と、一言。



 風呂から上がるとプイホンさんがお腹を空かせた感じに皆の帰りを脱衣所で待っていた。考えればそうあよね。もう日は落ちかけて、夕方である。いつもなら晩飯の時間であるから仕方がない。先程の夕日に染まってピンク色になった露天風呂の浴槽を思い出す。


 脱衣所を出ると、ここでもお嬢様が俺に遅いと文句をいう。すると、いつの間にか現れたのか知らないが従業員が俺等を招き食堂の方に連れて行くようだ。俺はてっきり部屋食だと思っていたのだが違ったようだ。



 大広間のような感じの部屋は何時も泊まっている宿泊所と同じような食堂の広さでテーブルが10個ほどあり100人前後は食事できそうである。その中の一つの席に俺等は案内される。


 旅籠と書いてありながら何処かホテルのような感じの旅館に今更ながら呆れてしまう。どうせなら和で統一すればよいものを‥‥‥。本当によく分からないアラレスティ大陸の文化である。



 テーブルに並んでいた物は和食のようで刺身の盛り合わせまで置いてあった。パンではなく銀シャリまである。その他にも何かの煮つけや野菜の煮物、吸い物の変わりに何かの味噌汁まで置いてあった。


 早速それらに箸をつける。普通刺身って生だと思っていたのだけど、ここではそれはどうやら間違いのようです。全て湯通しか火であぶってあって、どれも火が通った物であった。


 確かにそれも美味しい事は間違い何のだが、視覚と上手くマッチしなくて困惑してしまう。他の皆は美味しそうに食べていたのであの王女様との会食を思い出して出された物を別な料理と認識する事にする。


 それに先程ご馳走になったお酒がついていて、手酌しながらも料理と共にご馳走になる。そのお酒が美味しくて何杯も飲んだ記憶があるのだが‥‥‥。気が付くと部屋のベットの上で目が覚めた。



 夜中なのか、まだ大尉やプイホンさんは寝ているようだ。なんだか喉が渇いて水を飲みに行きたくなる。灯りをつけると皆が起きそうなので探査術を使って歩きながら探査してみる。


 思うように探査が出来て暗闇でも難なく部屋の出口に辿り着き、部屋の外に出ることが出来た。嗚呼、こんな事が出来るならこの前のあの屋敷でもやればよかった。そうすればしこたま弁慶の泣き所を打たなくても済んだのに‥‥‥。後の祭りである。



 寝室を出て居間に出ると、暇そうに手酌をしながら本を読んでいるシャムネアお嬢様を見かけてしまう。その姿をじっと見つめるラシャネスさんも同様である。嗚呼、彼女達には睡眠は必要ないのかもしれない。




 「ん~、なんじゃ? もう起きたのかえ?」




 「いや、その。便所に起きたのと喉が渇いたので目が覚めました」




 「じゃあ、こちらに近こう寄ってここに座るがよい」




 俺は便所に行って水でも飲んで直ぐに横になろうと思っていたのだけど、彼女の誘いを断る理由が見当たらない。いや、何故だか断れない俺であった。




 次話へつづく

次話は4/3木曜日に投稿する予定です。

今月、4月の予定を活動記録に載せています。


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