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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第4章 振り回される年季奴隷 》
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<4-8>  「監視される年季奴隷  (前編)」

最新の本文修正日は2015年1月16日です。

 奴隷組合ゴルムディア支所の宿泊施設で久々にプイホンさんのアワアワタイムを堪能する予定であった俺ですが、彼は大人の階段を上ったようです。


 ゴナベル奴隷長の代わりに彼を浴室に連れて行ったのは良いのだが、一人で体を洗ってアワアワタイムを自己完結するではないか!!


 今迄、ゴナベル奴隷長に洗われていたのは、一体なんだったんだ?! まあ、別な意味で堪能したので構わないけどね。



 それに彼が成長したように自分自身も知らない内に成長したようです。いや、これは確信が持てない。それは別の奴隷旅団所属中隊の訓練風景を見学していて、そこの年季奴隷に組手を申し込まれる。全ての攻撃を交わして何がんだか分からない内に向うが勝手にへたり込む。


 結果的に勝ったのか分からない内に訓練終了の合図があったからだ‥‥‥。攻撃を一つも貰わなかったので勝ったのかな? 分からない。



 そのまま分からない事は続くもので、ゴルムディア支所の玄関でジョルジョネ大尉が来るのを待っていると、浮かない顔をした大尉がやってくる。指揮車の中に入って久々に彼の上司が居るではないか。どうやら俺に会いに来たのではなく、王女殿下に用があるようです。二人が前の席で話し込んでいるのを聞き耳を立てる俺であった。






 一通り儀礼的な挨拶が終わるとザルツベ大佐は無言になり、王女殿下。いや、シャムネアお嬢様だけが話し出す。ああ、ここでもあの大佐の心内を読んで会話しているようだ。


 あれほど不自然な物は無い。っと、言う事は皆には聞かせられない事を彼はシャムネアお嬢様だけに分かるようにしているのだろうか?


 ジョルジョネ大尉はちょっとムスッとしていて何か気に入らない様子であるが、俺が彼の顔を覗くと何時ものようににやけた顔つきになる。やはり大尉のポーカーフェイスのつもりのようだ。額に汗がにじんでいて全然ポーカーフェイスになっていませんよと言ってやりたい。すると、突然幼女が怒り出す。




 「妾は便利屋じゃないぞえ?! 黙って聞いておればぐだぐだと御託を並べおって!!


 おぬし等の方から先に注文をつけておきながらその言い草は一体何たることぞ?!‥‥‥」




 まるで何処かで見たことがあるようなシーンであった。頭から湯気が出そうで怖い。一体彼女は何に対して怒ったのであろうか?


 あの大佐も顔が引きつりながらもハンカチのような物を出して汗を拭き拭き幼女を見つめている。


 多分、今必死に心の中で弁解しているのだよね? 確か王女殿下は「傍観者たる妾は人族の出来事に感知しない」と、いっていた事を思い出す。


 それから考えると、一行に予測が出来ないというかその未曾有の厄災が何か、彼女であったならば知っているのであろうと聞きに来た感じに思える。


 一旦は人族の領分で力を使わないでくれとか要請していておきながらも都合が悪くなると力を示してくれと言ったに違いない。


 人間どうにでもならない事に直面すると神頼みしたくなるからね。あっ、それは俺のことか‥‥‥。


 今、神様かそれと同様の力がある存在を目前にしてそういった事でも心の中でお願いしたに違いない。すると、大佐が考えたというよりはあのハルーツン閣下あたりの命令であろうか? それともあの俺に南下する許可をくれたあの将軍であろうか?




 「まあ、別にそなた等の許可を貰わなくても簡単に押し通る事は出来るのじゃが、敢てそなた等の顔を立てて、最初にあの親書を渡したのじゃぞ?! その事を良く理解していないやからが居る様じゃな?!


 それに今回は祭りの年である。遥々遠い所からお越しいただいた客人まれびとを迎えなければ失礼に当たろう。前回も妾直々に祭りの下準備の為にあのそなた等が勇者と呼んでいる者を歓待したのじゃが?! まあ、そんな事は記録には残っておるまい! ‥‥‥」




 まあ、怒ったり諭すような物言いのシャムネアお嬢様を見ると、なんだかこのまま物別れになって俺だけ拉致してこのアラレスティ王国を旅しかねない勢いに感じるのは俺だけであろうか?


 それでもまだ頭から湯気が出てきそうに怒っているのは腹の虫が収まらないからか?


 神様も感情を露にするものなんだよねと、感心してしまう。でも一瞬、太古の神々の話を思い出す。確か気まぐれで、度々人々に厄災をもたらしたり、暇つぶしにお告げのような宣託を告げに現れては英雄を祭り上げてみたりと、やりたい放題であったような。


 それに日本にいた神様なんかは畏怖する存在であって、人々を救済する存在ではなかったよね?


 建設現場で一番最初に行う儀式を思い出してほしい。最初にやるのは地鎮祭である。その土地に御座す土地神様に供物を奉げて建物を建てる事に対して許可を貰う事から始まる。


 と、いう事で、神は畏怖する存在であって人々を救済するのは稀であるから有り難がる存在なんだよね? そんな事が頭の中をぎる。




 「ほう、客人まれびとの方がよく理解しているようじゃな!! 妾は今は黙って傍観者を装っているが、そなた等が妾に無理難題を申し付けてくるのであらば、妾とて神じゃないぞえ?! 感情に任せて暴れようぞ?!」




 そこまで言って立ち上がろうとしたお嬢様に対して、横に座っていたラシャネスさんが何時ものように無表情ながらも、シャムネアお嬢様の頭の上にこれまた何処から出したか分からないが両手の持った氷の塊を乗せる。


 まるで頭に血が上ったお嬢様のお熱を取り除くような感じで湯気を上げながらお嬢様の熱が下がっていくようだ。見る見る内に氷が解けて、霧のような湯気が晴れると何処かすっきりというか、先程とは打って変わって冷静になったお嬢様がそこに居た。


 まるで赤く焼けた鉄の焼入れをするような感じで、それとも制御棒が挿入されて核分裂が収まっていく原子炉なのか? 放って置くとメルトダウンするという事か? 分からない。




 「嗚呼、そういう事でなので、無理なものは無理!!


 幾ら妾でも遥か先の事までは見通す事は出来ない。それに妾に敵意を持つ者であればそれはそれで感知出来るが、他人の事までは面倒は見切れん!!


 そなたもご苦労な事よ! 今元凶を連れて来てやろう」




 そんな事を言い放ったお嬢様が今動いている指揮車の扉を見た瞬間その出来事は起きる。急に中から扉を開けてはいないのに扉が外に開いて、この動いている指揮車の中にハルーツン閣下が入ってくる。


 指揮車の中に居た俺らも突然の事で驚いたが、当の本人のほうが大いに驚いたと思う。多分、何処かの扉を開いたらこの指揮車の扉に繫がったのだよね?


 慌てたジョルジョネ大尉が急いでハルーツン閣下の腕を掴んで開いた扉を閉める。若干青くなっていたハルーツン閣下であったが顔にはその心境を表さない。若干眉毛が上がった程度である。




 「ようこそ!! ハルーツンとやら。まあ、そこに腰掛けるが良い。今も話しておったがそなた等の要請は根本から無理難題で、妾にもどうにも出来ん!!


 先の事は色々と分岐があって定まってはおらん。今から備えても手の平ですくった砂粒が指の間から落ちるように先の事にも対処しても無駄である。しかし、何があっても良い様に対処できる体制を作るのは無駄ではないぞえ!!」




 「はあ?! 一体何の事か分かりかねますが、ひょっとして誰かの命令の事でしょうか? 一応は私が窓口なので御呼ばれしたという事ですか?


 ‥‥‥。まあ、そのようにお伝えします。嗚呼、遅くなりましたが『スアーダ・ガリル・ハルーツン』と、申します。一応は今回の出来事の責任者のような事を任されております、魔人王まびとおう王女サグジュワーン殿下。それで、帰りは送って頂けないのでしょうね?」




 ハルーツン閣下は最後にやっとあのとぼけたというか飄々(ひょうひょう)とした態度に戻る事が出来たようで、帰りの心配をする余裕が出て来たようだ。


 「流石ハルーツン閣下!!」と、言いたいが後ろから見えていた姿は、実際の心境を現しているのかもしれない。若干足が震えていたのは内緒である。俺だって行き成りあんな状況になったら腰が抜けてしまう。



 暫くするとそれも収まる。そんな状況を見計らったように動いた指揮車が止まり、お別れの挨拶をしたザルツベ大佐と行き成り連れてこられたハルーツン閣下がこの指揮車を出て行く。


 やっと面倒な事が終わったとため息を付く幼女に俺と一緒に後ろの席に座っていたジョルジョネ大尉は御互いため息を更に付くと大尉とプイホンさんは前の席に、変わりに幼女と教師が入れ替わるようにして座る席を替わる。


 プイホンさんは難しい事は分からないといったふうにキョトンとしていてなんで席を移るのか分からないといった感じであった。若干俺も前の席に行きたくなるが幼女が素早く後ろの席に座って来たのでその機会はなくなってしまう。それに彼女等に対して何をいっていいのか考えるが今一言葉に出来ない。




 「嗚呼、ラシャネスは妾の侍女であるが監視役でもある」




 「主様それは心外で御座います。私はあくまでも主様の暴走を止めると言いましょうか、前科がある主様が暴走しないようにと親方様より賜っております。


 これ以上、地の形を変更されて色々と支障が出て海のお兄様にもご迷惑をかけるのは心苦しくは御座いませんか?


 私めはその為にきつく親方様にお叱りを受けたのですよ? 主様は何処かにお隠れになられたではありませんか!」




 今、初めてというか主人に対して意見するラシャネスさんを見る事が出来た。彼女はこの幼女の監視役なのか‥‥‥。海のお兄様? 分からない。それに対して面倒くさそうに幼女が答える。




 「分かった、分かった。皆まで言わなくても良い。と、いう訳でラシャネスは妾のお目付け役でもある。妾が感情に任せて暴走しないようにお主の言葉で「セイギョボウ」とかいうものじゃ」




 彼女達の会話に疑問が残るが間髪いれずにが彼女等の会話が終わったのを見計らって大尉が後ろの席にやってくる。別に前の席でも良いと思うのだが‥‥‥。どうやら今日の予定に変更がありそうで、それに俺の疑問はうやむやになりそうだ。




 「え~、こちらに向っている私の奴隷旅団所属中隊の馬車列に支障を出まして、到着が遅れると連絡が早朝に届きました。明後日の昼に着く予定だったものが若干、っといっても1日ほどですがずれ込みます。付きまして空いた時間を利用しまして当初はリョウジとの町見物の訓練と言いますか、‥‥‥」




 「う~、話が長い! リョウジにゴルムディア見物を案内するということかえ? そなた達が見せたい物がこの地にはあるからな! そうであろうジョネ?


 あの奴隷王事件の遺物がな。まあ、仕方が無かろう、妾は暇であるから付き合うのはやぶさかではない。素直に『我慢して付いてきてね』っと、言えばよかろう!」




 「はあ、その通りでございます。今では土産物屋なんか出来てまして、旅行く者達の名所になっております。美味そうな屋台もあるということなのでシャムネアお嬢様にも喜んで頂けますよ?」




 「なに?! そんな話は初耳でじゃぞ?! 今すぐ向おう、早く行かないと屋台が仕舞ってしまう!!」




 先程まで少し、ご機嫌斜め気味であったお嬢様が手の平を返すようにニコニコしだして、早くその場所に行きたいといった感じに変わってしまうではないか。何でもご存知であると思われたこの人でも知らない事は在るのだねと感心する。


 あっ、そうか。楽しみは自分の足で確かめるとか行っていたような‥‥‥。唯一の楽しみである食に対しては労を惜しまないということか。




 馬車は暫く進み、一旦止まった時に大尉が外に出てなにやら手続きをして来る。話によるとその名所はゴルムディアの町の外の山近くにあるという話で、町から小一時間馬車に揺られないと着かないそうだ。


 大尉の言う通りに馬車は一時間ほどして止まる。大尉が先に外に出ると手招きして俺やお嬢様方に合図する。


 外に出ると俺等以外にも観光客が居るようで屋根の無い席だけの馬車や屋根のついた荷馬車など数十台が観光客を降ろしたり、乗せているのはこれから帰るのかもしれない。何処にでもある観光地の駐車場のようで和んでしまう。


 駐車場を出ると、まるで何処かの神社の参道のようにまっすぐとこれから向うであろう目的地の様子を窺い知る事ができた。道幅は6m程で、左側がこれから目的地に向う人々が歩いており、右側が目的地から帰ってくる人々がまばらに歩いている。真ん中は巾50cm程の石が連続して敷いてあり、誰もその石を踏んで歩く者はいない。


 何となくどこかの温泉街の雰囲気があって、その参道のような道の脇のみやげ物屋のような平屋の石作りの建物が並んでいる。売っているものは工芸品のような物や、饅頭のようなものまであって店の間には旅籠と書かれた看板が飾ってある。



 そういえば何処からか硫黄の臭いがして、見るからに温泉街のようだ。奥に行くほど旅籠の横に温泉マークのようなものが書いてあり、大尉に聞くと温泉の源泉からお湯を引っ張り込んで泊り客や温泉目当てにやってくる客に温泉を堪能させるらしい。


 俺がキョロキョロしている間もシャムネアお嬢様も同様に鼻をクンクンさせて、今蒸かしている饅頭をジイっと見つめている。それを見た大尉は彼女がてこでも動きそうもなさそうなので、プイホンさんにお金を渡すと早速交渉をさせているようだ。


 店先を覗くと饅頭2個で銅貨一枚と書いてある。一応俺も値切る事を覚えているのだが流石にこういった安そうなものまでは値切る事に対して気が引けてしまう。きっと薄利だよね?


 プイホンさんが買ってきた饅頭はこぶし大もあって結構大きい。これが二つで銅貨1枚、100円は安く感じてしまうのは俺だけであろうか?


 物流が整っている現代日本で工場による大量生産で作ったものであれば高いと文句を言ってしまうが、全部手作りである。今も店先の横で粉を練って、餡を入れる様子を見て取れる。


 ふかふかの饅頭を割ってみると中身はあんこではなく肉汁が溢れる肉まんであった。細かく刻まれた野菜のようなものにひき肉のようなものが入っている。味はまさしく肉まんであった。


 何個買ってきたのかプイホンさんに聞くと人数分とすれば5個であるが10個で銅貨5枚と言っていたので流石に値切る事は出来なかったようだ。


 プイホンさん曰く「料理屋さんで値切るのは下品な事で物品とは違いアラレスティ王国に住む住人で値切る人はいない」と、教えてくれる。



 大尉が補足で説明をしてくれる。物流を奴隷組合が一手に担っているので庶民の小売などに対しては原価に近い金額で卸しているとの事。その事が他の住民も分かっているのでああいった個人商店の料理屋なんかは同じようにそんなに儲けが出ない程度に値段を決めているそうだ。


 そういうものかと俺は一人納得する。流石にこの大きさの饅頭を二個はきつい。まだ昼間前だし、結局シャムネアお嬢様が美味い美味いといって皆食べてしまう。


 店によって味が微妙に違ったり中に入れている餡が違うので店の数だけ味が違うという事らしい。その事を聞いたシャムネアお嬢様が小さなポーチからメモ帳のような物を出して必死にメモ書きをする。


 嫌な予感がしてくるのだが‥‥‥。大尉がお願いをして先を急ぐように話し込む。舌打ちまではしなかったが何処か残念そうなお嬢様であった。



 参道の奥のほうに来ると道が傾斜し始め、石段になってくる。石段が始まると同時に脇に店が並んでいたのだが急に雑木林のような山林になってしまう。


 そこで初めてその道を跨ぐように石の構造物が目に入る。一瞬、目をシバシバさせて自分が今見ているものが何処かで見た気がして首を傾げてしまう。朱塗りではないが立派な石造りの鳥居であった。



 確かに文化が違ってもそこに住む人々の習慣や風習、それに言葉など似か寄る事がある場合が少なくないが、今目の前にそびえ立っているものはどう見ても鳥居である。


 しかし、良く見ると、ギリシャ神殿のようにただの円柱ではなく下から上に向って細くなっているエンタンシス状になっていて、一見パルテノン神殿の一部かと思ってしまった。


 その二本の柱の上にはしっかりと石の梁が乗っかっていてどう見ても鳥居である。これで真ん中に何々神社と書いてあれば自分の世界に戻って来たかと勘違いしそうになる。




 「どうやら、リョウジはこれが何か分かっていそうだな。多分似たような意味のある石柱だと思うよ。住む所は離れていても似たような風習はあるからな。これは君はもう知っているか分からないが、昔アーベ神教という宗教があってな。ここはアラレスティ大陸にあるアーベ神教の中心的な所の一つでもあった。


 今でこそこの石柱が立っているが昔はその山頂の教会まで階段の数だけ立っていたそうだ。ほれ、そこの茂みに焼け爛れた石柱の残骸があるだろ。例の奴隷事件があってからこういった立派なアーベ神教の教会は廃れて廃墟となっていったものが多くてな。危険な思想やあの奴隷王に加担した教会とその教会の責任者なんかは歴史から排除されていった。


 それでもおかしな事で、そのアーベ神教を信じて生き続ける者は後を絶たない。最近ようやく嘆願書が認められて一部であるが認められたらしい。但し、政治的な事や民を惑わすような扇動的思想は禁止されている。


 あくまでも、なんていったかな? 魂の救済を願う民の願いを叶える。まあ、実際は判らないのだけど、その魂の救済所といった精神的な拠り所として認められたらしい。らしいというのは憶測でね、前まではこういった石柱を立てただけで翌日には軍が出張って破壊したもんだ。


 そういう事で表立って許可はしていないが内々的に許し始めたらしい。まあ、宗教とは本来そういうものであって、政治に介入したり民を先導する為の道具ではないからな。やっと本来の形に戻ったといったほうがいいのかもしれない‥‥‥。じゃあ先に進もうか‥‥‥」




 そういってジョルジョネ大尉は階段を上がって行く。大尉の話したアーベ神教の事は確か誘拐される前の。いや、もっと前のあの平和な日常の時に読んだ「奴隷王物語」という本で出てきた事を思い出す。


 奴隷王と結託して。いや、もしかしたらそのアーベ神教に操られてといった方がいいのか? 実際の出来事は分からないが、あの本ではスポンサーの役割をした事には変わりない。


 資金や蜂起の手引きなど奴隷一人が起せるものではないよね? それと、何だったかな~‥‥‥。確か奴隷王と一緒に逃げたナキ何とかさんも確か教会関係者だったような‥‥‥。



 ふと、後ろを見るとシャムネアお嬢様が鳥居の真ん中を通って参道の真ん中の一段高くなっている石段を上って来るではないか。嗚呼、そこは神様が通る所だったような‥‥‥。まあ、神様本人か。じゃあ問題無し。


 幼女なので石段を上がるのも苦労するのかと思ったらピョンピョン跳ねて楽しそうに石段を上ってくる。重力は関係なさそうです。そんな重力を無視したように石段を一段一段を跳ねていたのだが途中で飽きて段を飛ばし始める。周りにいた他の観光客が驚いて目を丸くし始めたので慌ててお嬢様を捕まえて耳打ちする。


 「困りますよお嬢様!! 周りの注目集めすぎです!!」




 「あ~、面倒になってきた。抱っこして!」




 そういって、今度は悪魔のように微笑みながら俺が彼女をお姫様抱っこをするのを待っている。暫く考えたがこのまま何も無く大人しくして貰うにはこれしかないと思い、仕方なく人生初めてのお姫様抱っこを体験する。プイホンさんを抱っこした時の事はノーカウントですからね!!


 10歳児使用なので見た目で30kgはあるだろうか? 実際は力を使ってくれたのか10kgぐらいの重さしか感じなかった。しかし、石段の段数が半端なく途中何度も一息をついて休み、ようやく石段が終わって頂上に辿り着いた時には足腰はガタガタであった。聞くところによると石段は2000段以上あるそうだ。


 上りきった所にも石の鳥居が聳え立っていた。ふと、麓を見渡すと真っ直ぐな参道が見えて景観はすばらしい。俺と同じように麓の景色を眺める人達が歓声を上げている。



 一息ついたのでまた先の様子を眺めて驚いてしまう。まるで何処かのお祭りのように縁日の出店のような露店が所狭しと参道を挟んで並び、色々な物を売っているようである。


 良い匂いや香ばしい匂いがして、またもやお嬢様がクンクン鼻を動かしてその匂いの元を辿り始める。屋台はどれも立ち食いが出来るようなもを扱っていて、屋台の終わる場所まで200mほど歩くと両手には持ちきれないほどの何かを持ってそれをぱく付くお嬢様であった。



 俺も実家の神社の縁日ではイカ焼きやら焼きトウモロコシ、おでん等食べた記憶があったが最近は忙しすぎてそういったものを食べていなかった。


 プイホンさんがジョルジョネ大尉からお金を受け取り皆の分を買い漁っているようで、屋台の横に設置したあるテーブルと椅子に腰掛け本格的にご馳走になる。


 はっきり言って今食べている物の原料が何なのか知りたくはない。教えてくれてもこちらのものであるから想像ができない。どれも美味しく味わったのは事実であるので問題は無い。プイホンさんも何かの肉まみれになって喜んでご馳走になっていた。



 暫く屋台のご馳走を堪能していたのだが、大尉は俺に話をして来る。




 「ここから見えるあの石作りのあれが最近復興したアーベ神教の教会施設だ」




 そういわれたのでその言われた建物を見て今飲んでいた何かの甘い汁を噴出してしまう。幸い前には誰もいなかったのでテーブルを汚しただけで済んだのだが、横に座っていた大尉は何事かと驚いたようだ。


 なんと目前の光景は神社のお社そのものであった。木造ではないものの、本殿らしき建物はどう見ても神社の建物で屋根は藁葺きで屋根の頂上には千木や鰹木まで乗っている。そんな状況を目の当たりにして、俺は夢を見ているのか疑ってしまう始末である。


 自分のほっぺたを抓って痛さを確かめると、大尉の制止を無視してその本殿まで近付いてしまう。そこには木造であれば完全に神社建築である。最近再興したばかりなのか葺きあがったワラはまだ新しくこけなどは生えていないし色も茶色く変色していなく、まだ真新しいままであった。


 建物の正面と思われる場所に階段があって障子のような扉が閉まっている。多分あの奥に御神体が鎮座なさっているはず。まさか、三種の神器なんか置いていないよね?



 すると、烏帽子のような冠を被った神職の出で立ちの人々が何処からか現れて俺が見ている目の前で祝詞のりとのような文言を読み始めるではないか。


 例の「カシコミ~、カシコミモ~ス」と、いった文言まで聞えてしまう。その内、祓え串のような白木の棒に半紙の切れ端が着いたものを横に振り回し始める。その様子にただ驚くばかりで言葉が出てこない。ようやく大尉が俺の肩を掴んで俺の名前を呼んで我に帰る。




 「一体どうしたというのだ? いきなり教会の神事を邪魔しにいったかと思ったぞ?! やはり見たことがあるような素振りだな。その驚きようから勇者が残した記録は正しかったようだな。


 あの救国の勇者もあの神事を見てたいそう驚いたと記録に残っている。その神事は君が居た時も続いているようだな。まあ、それが分かっただけでも収穫はあった」




 そういって俺の肩をつかんでそのまま先程のテーブルの所までやって来ると、口の周りに何かの汁をつけた幼女が俺に「何をやっておる」と、仁王立ちになって文句を言っている。


 俺はラシャネスさんに手拭は無いかと聞いて彼女は何も無いところから手拭を出す。細かい突っ込みどころは無視してそれをプイホンさんに水を出して貰い濡らすとお嬢様の口の周りを綺麗に拭きあげる。


 綺麗になって改めて俺が驚いた話に「そんな事で驚くとはこれから体が持たないぞ!!」と、突込みが入る。確かにこの地に来て、驚く事ばかりで飽きる事は無いのだが余りにも俺が知っている身近な神道と似通っていたので変な疑問が浮かんでくる。


 ひょっとして奴隷王事件の前にも召喚者が呼ばれる事が有って、その召喚者が神道を伝えたのかもしれないという疑問であった。しかし、そういった話は聞かない。もしかするとまだ読んでいない「アラレスティ王国建国正史」の文中にヒントが出ている気がして考え込む。



 そこで初めて今までのシャムネアお嬢様の会話の内容を反芻する。客人まれびとを歓待するとかなんとか、勇者の話は出たが肝心の賢者の話は出ていないよね? あの人も確か召喚者だったような。思わず思っていた事を口に出してしまう。



 「そういえば大尉? 救国の賢者様も召喚者ですよね? 記録ではそうなっているという記憶があるのですが?」



 実際は聞いた記憶など何処にも無かったのだが今の疑問を解消する為にそう話してしまう。




 「ん? そうだったか? あれ、言ったかな? まあ、いい。別に隠すことじゃないし。記録では創世大陸にいた所、例の儀式によって召喚者となったとある。彼は創世大陸の出身で魔法術などにも長けていたそうだ。だから長年の研究で魔素術を編み出すことに成功したといわれている。


 言われているというのは詳しい記録が残っていないんだ。前にも話したが名前を出されるのを極度に嫌っていたのと、自分の素性を話すのが嫌な人物らしい。


 そういったことで魔素術の記録は多数残っているのに、その開発者である救国の賢者の記録は極端に少ない。弟子の中に回想録を残した物がいて、師匠の賢者の話が少しだけ出てくる。弟子にも創世大陸でのことや過去の事は話さなかったらしい」




 そんな大尉の話を聞いていたシャムネアお嬢様が話し出す。




 「あの勇者は遠方の客人まれびとゆえ丁重に歓待したが、地元民までは面倒は見切れない! 妾は面倒ごとが嫌いじゃからな!!」




 まあ、確かに創世大陸出身というかこの惑星の地元民には変わりないので文句は無いと思うけど。じゃあ、遠方から来る客人まれびとのみ直にシャムネアお嬢様が歓待するという事なのか? そんな疑問が浮かんだ所でまたお嬢様が口を開く。




 「あっちで召喚された者の事は分からん! このアラレスティ大陸と呼ばれた土地ならば妾の鼻が利くが。嗚呼、創世大陸と呼ばれた所は管轄違いじゃ!!」




 「えっ?! 管轄があるのですか?」




 思わず聞き返してしまったのだが返事は返ってこなかった。それに先程の海の兄上も気になってくる。しかし、なんていうか、それ以上聞くと殺されそうな雰囲気というか、向うの管轄している人物の事や海の兄上の事を聞かれるのが嫌いか話せないのかもしれない。


 その証拠に今話した内容に着いて大尉の様子がおかしい。巻き戻した感じで俺の肩をつかんで「何処に行く?」と、場違いな質問をして来るではないか。まるで俺がゴルムディアのあの屋敷に着いた時を思い出す。このお嬢様に拉致され屋台で発見された時に大尉の会話がフラッシュバックする。


 嗚呼、これは禁則事項なんだなと納得してそれ以降はその事に着いて聞くのを辞めるというか頭の隅、それも奥底に仕舞う事にする。その俺の思考を読んだのか俺の顔を見た口の周りを汚したお嬢様がニコリ俺に微笑む。流石神様!! 時空を曲げたようだ。



 そのお嬢様の顔を見た時、俺の後ろの方で誰かが祝詞のりとを読み上げる声がして、先程俺が驚いた状況が始まったようだ。


 もう完全に時空を曲げちゃったんだよね? 分からない。ひょっとすると違う空間での話だったのかもしれないし、俺の脳内出来事だったのかもしれない。それほど精密な記憶だけ俺の頭の中に残っている。


 そんな事を考えながら大尉にはごまかしの言葉を吐く。先程と同じようにラシャネスさんい手拭を出してもらいプイホンさんに水を出して貰うと、手拭を濡らして口の周りを汚したお嬢様の汚れをその濡れた手ぬぐいで落とす。その時、耳元でお嬢様が囁く。




 「そういう事で、禁則事項じゃ‥‥‥。まだ早い」




 最後に「まだ早い」という言葉だけが頭の中に残る俺であった。




 次話へつづく

次話は4/1火曜日に投稿する予定です。

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