魔族に残る記録
第98話 魔族に残る記録
六星同盟による。
古代記録の調査。
各国が。
動き始めてから。
数日。
最初に。
報告が上がったのは。
魔族領だった。
魔王城。
地下書庫。
アン。
セラ。
ベラ。
そして。
数名の古参魔族。
その前に。
一枚の。
古い石板が置かれていた。
「これが?」
アンが聞く。
「はい」
セラが答える。
「地下書庫の」
一拍。
「最深部に保管されていました」
黒ずんだ石。
所々。
欠けている。
表面。
見たことのない文字。
ベラが。
覗き込む。
「読めるのか?」
「一部だけです」
「妾にも見せよ」
ベラが。
石板を見る。
「……」
アンが待つ。
「どう?」
「分からぬ」
「ベラでも?」
「妾を」
一拍。
「何歳だと思っておる」
「八百七十年以上」
「言うな!」
セラが。
僅かに笑う。
「ですが」
「……」
「ベラ様でも読めないとなると」
「ああ」
ベラの表情が。
真剣になる。
「妾が生まれるより」
一拍。
「さらに前の文字じゃ」
その場にいた。
一人の老魔族が。
前へ出る。
「我が一族に」
一拍。
「伝わる古語です」
アンが。
老人を見る。
「読める?」
「全てではありません」
老人は。
石板へ触れる。
「ですが」
一つ。
文字を指す。
「この言葉は」
一拍。
「分かります」
ゆっくり。
読み上げる。
「アウレストラ」
空気が。
変わる。
ベラの目が。
細くなる。
アンも。
身を乗り出す。
「やっぱり」
老人が。
次の文字を指す。
「そして」
一拍。
「天より来たる」
「……」
「白き者」
静寂。
アンが。
呟く。
「天使」
「恐らく」
老人が。
頷く。
セラが。
別の資料を広げる。
「この石板が」
「……」
「作られた年代は」
一拍。
「正確には分かりません」
でも。
「少なくとも」
一拍。
「千年以上前です」
ベラが。
腕を組む。
「つまり」
「はい」
セラが答える。
「千百年前」
「……」
「魔族も」
一拍。
「アウレストラと天使について」
「……」
「知っていた可能性があります」
アンは。
石板を見る。
「人間だけじゃなかった」
「ああ」
ベラが言う。
「それどころか」
一拍。
「魔族が」
「……」
「アウレストラと」
一拍。
「関わっておった可能性もある」
老魔族が。
静かに頷く。
「我が一族には」
一拍。
「一つ」
「……」
「古い話が伝わっています」
全員。
老人を見る。
「聞かせて」
アンが言う。
老人は。
目を閉じる。
「遥か昔」
静かな声。
「まだ」
「……」
「人と魔族が」
一拍。
「今ほど互いを分けていなかった時代」
そして。
「東に」
「……」
「大きな国があった」
一拍。
「太陽を掲げる国」
ベラが。
呟く。
「アウレストラ」
「はい」
老人が続ける。
「その国が」
一拍。
「滅びた夜」
「……」
「一人の魔族が」
一拍。
「人間の子を連れて」
「……」
「東へ逃げた」
アンの目が。
見開く。
「子?」
「それ以上は」
一拍。
「伝わっていません」
ベラが。
立ち上がる。
「待て」
全員。
見る。
「ソルが」
一拍。
「太陽宮で見た記録」
アンも。
気づく。
「逃げた王族」
「ああ」
アステリオン。
最後の王統。
赤ん坊。
「じゃあ」
アンが。
老人を見る。
「その子って」
セラが答える。
「アウレストラ王族だった」
一拍。
「可能性があります」
静寂。
ベラが。
小さく笑う。
「そういうことか」
「何?」
アンが聞く。
「五百年前」
ベラが言う。
「妾たちは」
「……」
「人間と魔族が手を組むことを」
一拍。
「特別なことだと思っておった」
レグルス。
シリウス。
アークトゥルス。
アルデバラン。
ルナ。
そして。
ベラトリクス。
「じゃが」
ベラが。
石板を見る。
「妾たちが」
一拍。
「最初ではなかったのかもしれぬ」
千百年前。
人間と魔族。
既に。
同じ敵と。
戦っていた。
「その魔族の名前は?」
アンが聞く。
老人は。
首を振る。
「残っていません」
「他には?」
「一つだけ」
老人が。
石板の端を指す。
「ここです」
文字。
掠れている。
老人が。
ゆっくり読む。
「太陽を」
一拍。
「絶やすな」
ベラの目が。
細くなる。
「続きは?」
「ありません」
石板。
その先が。
欠けている。
「これだけです」
アンは。
しばらく。
石板を見ていた。
そして。
「ソルに知らせる」
「そうじゃな」
「アルカディアにも」
セラが。
頷く。
「六星同盟へ」
一拍。
「共有します」
その日の夜。
魔族領から。
一つの報告が。
世界へ送られた。
千百年前。
アウレストラ帝国が。
滅びた時。
そこに。
魔族がいた可能性。
そして。
最後の王統を。
逃がした者が。
魔族だった可能性。
歴史から。
消えていた。
人間と魔族の。
繋がり。
五百年前より。
さらに。
六百年前。
世界は既に。
同じ敵と。
戦っていた。




