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太陽の真実

第96話 太陽の真実

太陽宮。

最深部。

王座の奥に現れた階段を。

僕とベラは。

ゆっくりと下りていた。

壁には。

一定間隔で金色の魔石が埋め込まれている。

僕たちが近づくたび。

一つ。

また一つ。

光が灯る。

まるで。

僕がここへ来ることを。

ずっと待っていたみたいに。

「……千百年か」

ベラが呟く。

「何?」

「千百年じゃ」

階段の先を見る。

「それだけの間、誰にも開けられなかった場所が」

一拍。

「お主が来た途端に」

「……」

「次々と開いておる」

僕は。

自分の右手を見る。

太陽の紋章に触れただけ。

何か。

特別なことをしたわけじゃない。

それなのに。

太陽宮は。

僕を拒まなかった。

むしろ。

奥へ。

奥へ。

僕を招いている。

「やっぱり」

「うむ」

「僕の血なんだね」

「恐らくな」

「……」

「怖いか?」

少しだけ。

考える。

「ちょっと」

「そうか」

「でも」

前を見る。

「ここまで来て」

一拍。

「帰る方が嫌だ」

ベラが笑う。

「なら進め」

「うん」

階段を下り続ける。

そして。

最後の段。

その先に。

巨大な円形の空間が広がっていた。

「……」

僕は。

足を止める。

部屋の中央。

何かが。

浮いている。

金色の光。

拳ほどの大きさ。

炎のように揺らめいているのに。

燃えていない。

まるで。

小さな太陽。

「ベラ」

「ああ」

ベラの表情が変わる。

「凄まじい魔力じゃ」

「これが?」

一歩。

近づこうとする。

「待て」

ベラの腕が。

僕の前に出る。

「妾でも分かる」

「……」

「あれは」

一拍。

「ただの魔力ではない」

僕にも。

分かる。

《天曜》。

胸の奥で。

勝手に反応している。

でも。

嫌な感じはしない。

むしろ。

懐かしい。

ずっと。

離れていた何かに。

ようやく会えた。

そんな。

不思議な感覚。

その時。

部屋の壁。

金色の文字が。

一斉に浮かび上がった。

「っ!」

ベラが構える。

僕も。

《明星》へ手を置く。

でも。

攻撃は来ない。

代わりに。

声。

『――王統を確認』

身体が。

固まる。

『――天曜適合』

『――太陽反応』

『――血統照合』

金色の文字が。

僕の周囲を回る。

そして。

『――継承資格を確認』

静寂。

「継承……?」

中央。

金色の光が。

強くなる。

その中から。

人の姿が。

少しずつ。

現れる。

長い金髪。

白と金の衣装。

額には。

太陽の紋章。

「……」

僕は。

息を呑んだ。

知っている。

謁見の間で見た。

あの王。

でも。

今度は。

顔まではっきり見える。

男は。

僕を見る。

そして。

僅かに笑った。

『ようやく戻ったか』

「あなたは……」

『我が名は』

一拍。

『アステリオン・アウレストラ』

ベラの目が細くなる。

『アウレストラ帝国』

「……」

『最後の皇帝』

最後の皇帝。

千百年前。

天使と戦い。

滅びた帝国。

その最後に立っていた人。

そして。

『お前の』

アステリオンが。

僕を見る。

『遠き祖先にあたる者だ』

胸が。

鳴る。

「やっぱり……」

『驚かぬのだな』

「ここまで来たら」

「……」

「そうなのかなって」

『そうか』

アステリオンが。

少し笑う。

僕は。

一歩前へ出る。

「教えてください」

『何だ』

「天使は」

一拍。

「どうして」

「……」

「アウレストラを滅ぼしたんですか」

アステリオンの表情から。

笑みが消える。

「僕たちが見つけた記録には」

「……」

「太陽を奪わせるなって」

「……」

「何度も書かれてた」

さらに。

「王統を逃がせとも」

僕は。

中央の光を見る。

「全部」

「……」

「僕の《天曜》と」

一拍。

「関係があるんですよね」

長い。

沈黙。

そして。

『そうだ』

アステリオンが。

右手を上げる。

空間が変わる。

星。

無数の星々。

暗い世界。

その中心。

巨大な太陽。

『《天曜》とは』

一拍。

『星の力を借りるだけの魔法ではない』

「え?」

『この世界と』

「……」

『天に存在する星々を繋ぐための術だ』

星々から。

無数の光が伸びる。

この世界へ。

繋がっていく。

『星々は』

「……」

『ただ空に浮かぶ光ではない』

一拍。

『それぞれが』

「……」

『巨大な力の源でもある』

僕は。

その光景を見る。

「だから」

一拍。

「星の声を……」

『聞くことができる』

アステリオンが頷く。

『だが』

「……」

『その中でも』

一拍。

『太陽は別格だ』

太陽。

光が強くなる。

僕の手が。

熱を持つ。

『太陽は』

「……」

『この世界を守るための力』

そして。

『奴らが』

一拍。

『最も恐れる光だ』

空。

裂ける。

その向こう。

白い存在。

天使。

一体。

十体。

百体。

空を埋め尽くしていく。

僕は。

息を呑む。

五百年前。

ベラたちが戦った。

あの災厄。

『奴らは』

「……」

『この世界の存在ではない』

ベラの表情が変わる。

「やはり……」

『境界の外から』

一拍。

『この世界へ侵入する存在』

「では」

ベラが言う。

「五百年前」

「……」

「妾たちが戦ったものも」

『同じだ』

アステリオンが答える。

『千百年前』

「……」

『我々も』

一拍。

『奴らと戦った』

景色。

変わる。

巨大な都市。

アウレストラ。

空を覆う天使。

そして。

それに立ち向かう。

人々。

身体に。

金色の光を纏っている。

『我々は』

「……」

『《天曜》を用いて戦った』

太陽の光。

天使を。

焼き払う。

「効いてる……」

『奴らは』

一拍。

『太陽を恐れる』

だから。

狙われた。

『奴らは理解した』

「……」

『アウレストラを残せば』

一拍。

『いつか』

「……」

『自分たちを滅ぼす者が現れると』

天使。

増える。

空が。

白く染まる。

『ゆえに』

一拍。

『我々を滅ぼすことを選んだ』

「……」

『国だけではない』

アステリオンが。

僕を見る。

『血を』

胸が。

鳴る。

『太陽を扱える』

「……」

『王統そのものを』

一拍。

『この世界から消そうとした』

僕は。

拳を握る。

『我々は敗れた』

帝都。

燃える。

建物が。

崩れていく。

人々が。

逃げる。

『だが』

一拍。

『最後の太陽だけは』

「……」

『逃がした』

一人の女性。

その腕。

赤ん坊。

後ろでは。

アステリオンが。

天使と戦っている。

『名を捨てさせた』

『身分を捨てさせた』

そして。

『王族であることすら』

一拍。

『子へ伝えるなと命じた』

「そこまで……」

『奴らは』

「……」

『血を追う』

女性と。

赤ん坊。

遠ざかっていく。

『だから』

「……」

『我々は』

一拍。

『王家そのものを』

「……」

『歴史から消した』

僕は。

赤ん坊を見る。

僕へ。

続く血。

千百年間。

誰にも知られず。

繋がってきた。

「アークトゥルスは?」

アステリオンを見る。

「同じ血筋だったんですよね」

『そうだ』

「なら」

一拍。

「どうして」

「……」

「太陽を使わなかったんですか」

『血を引くことと』

「……」

『太陽に応えられることは』

一拍。

『同じではない』

「……」

『アークトゥルスは』

一拍。

『星を聞く者だった』

胸が。

鳴る。

『極めて優れた』

「……」

『《天曜》の使い手』

一拍。

『だが』

「……」

『太陽は』

一拍。

『彼には応えなかった』

「じゃあ……」

『お前には』

アステリオンが。

僕を見る。

『応えた』

僕は。

自分の手を見る。

「なんで?」

『それを決めるのは』

「……」

『我々ではない』

僅かに。

笑う。

『太陽だ』

分からない。

でも。

僕は。

太陽の力を使える。

そして。

その力を。

天使が知った。

「僕が」

「……」

「《天曜》を使ったから」

一拍。

「天使が戻ってきた?」

『違う』

即答。

僕は。

顔を上げる。

『奴らは』

一拍。

『既に動いていた』

「……」

『五百年前に封じられた境界は』

「……」

『永遠に保つものではなかった』

ベラの顔が。

険しくなる。

『お前が』

「……」

『奴らを呼んだのではない』

一拍。

『お前が太陽を使ったことで』

「……」

『奴らは』

一拍。

『王統がまだ残っていると知った』

拳を握る。

でも。

『そして』

アステリオンが続ける。

『我々も知った』

「何を?」

『太陽が』

一拍。

『帰ってきたことを』

中央。

金色の光が。

さらに強くなる。

『千百年前』

「……」

『我々が守り切れなかった世界』

『五百年前』

「……」

『六人の英雄が』

一拍。

『命を懸けて繋いだ世界』

そして。

『それを』

僕を見る。

『今度こそ守れ』

何も。

言えない。

その時。

中央に浮かんでいた。

小さな太陽。

動く。

僕の前へ。

「ソル」

ベラが構える。

でも。

僕には分かる。

これは。

僕を待っていた。

『これは』

一拍。

『《天核》』

アステリオンが言う。

『アウレストラ王家が』

「……」

『最後まで守った』

一拍。

『太陽との繋がりを』

「……」

『この世界に固定する核』

「僕が?」

『継承せよ』

僕は。

手を伸ばす。

光へ。

触れる。

瞬間。

「っ!!」

全身。

熱い。

「ソル!」

光が。

胸へ。

入る。

「ああああっ!」

熱い。

でも。

燃えているわけじゃない。

星。

太陽。

世界。

一瞬だけ。

全部が。

繋がった。

そして。

遥か外。

暗い場所。

無数の。

天使。

さらに。

その奥。

何か。

巨大な気配。

『――太陽』

「っ!」

僕は。

目を開く。

「ソル!」

ベラが。

肩を掴んでいる。

「大丈夫か!?」

「……うん」

胸へ。

手を当てる。

暖かい。

《天核》。

確かに。

僕の中にある。

『継承完了』

アステリオンの姿が。

薄くなる。

「待って!」

『時間だ』

「まだ」

「……」

「聞きたいことがある!」

『ならば』

一拍。

『探せ』

「え?」

『我々は』

「……」

『全ての記録を』

一拍。

『一箇所には残さなかった』

僕は。

顔を上げる。

『天使に』

「……」

『全てを奪われぬためだ』

「じゃあ」

『アウレストラと共に戦った者』

『我々から記録を託された者』

『帝国滅亡後も』

「……」

『真実を守り続けた者』

声。

遠くなる。

『世界にはまだ』

一拍。

『千百年前の真実が残っている』

「どこに!?」

アステリオン。

最後に。

僕を見る。

『探せ』

光が。

消えていく。

『そして』

最後の声。

『世界を知れ』

静寂。

アステリオンは。

消えた。

僕とベラだけが。

残る。

「……消えた」

「ああ」

僕は。

胸へ手を当てる。

千百年前。

アウレストラは。

天使と戦った。

敗れた。

でも。

全てを失ったわけじゃない。

王統を残した。

記録を残した。

そして。

《天核》を残した。

僕は。

《明星》を握る。

「ベラ」

「何じゃ」

「探そう」

「千百年前の記録を?」

「うん」

アウレストラだけじゃない。

世界中に。

残っているかもしれない。

「天使のこと」

一拍。

「もっと知らないと」

ベラが。

笑う。

「そうじゃな」

僕たちは。

太陽宮最深部を。

後にした。

千百年前の戦い。

五百年前の戦い。

そして。

これから始まる戦い。

バラバラだった歴史が。

少しずつ。

一つへ。

繋がり始めていた。


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