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太陽宮へ

第95話 太陽宮へ

世界会談から三日。

セレフィア神聖国では、《六星同盟》成立に伴う調整が始まっていた。

各国の使節。

情報共有。

警戒網の構築。

魔族領との正式な連絡経路。

やることは山ほどある。

当然。

アンは捕まった。

「……行きたかった」

魔王城へ戻る直前。

アンは本気でそう言っていた。

でも。

セラが許さなかった。

「陛下には陛下の仕事があります」

「でも」

「ありません」

「まだ何も」

「駄目です」

「……」

完全敗北。

結果。

今回、アルカディアへ向かうのは。

僕。

ベラ。

そして。

アルカディア側から派遣された案内役数名。

それだけになった。

「アン、本当に来なくていいの?」

僕が最後に聞くと。

アンは少しだけ。

悔しそうに。

僕を見た。

「行きたい」

「うん」

「でも」

一度。

息を吐く。

「今は」

「……」

「私がやることがある」

僕は。

頷く。

「分かった」

「ソル」

「何?」

「無茶しないで」

「それ」

ベラが横から言う。

「妾がおるのじゃぞ」

アン。

ベラを見る。

「だから言ってるんです」

「どういう意味じゃ!」

「そのままです」

「失礼な!」

僕は。

少し笑った。

いつものやり取り。

でも。

今は。

少しだけ違う。

世界が。

本当に動き始めている。

そして。

僕たちも。

次の答えを探しに行く。

千百年前。

アウレストラ帝国。

その王宮。

《太陽宮》へ。

*

セレフィアを出て。

数日。

僕たちは。

再びアルカディアへ戻ってきた。

「……なんか」

僕は街を見ながら呟く。

「戻ってくるの早かったね」

「そうじゃな」

ベラが答える。

「ついこの前までおった」

「今度は観光じゃないけど」

「前も観光ではなかったじゃろ」

「まあね」

でも。

前回来た時と。

今では。

見え方が違う。

あの時。

僕はまだ。

《天曜》について。

ほとんど何も知らなかった。

アークトゥルス。

アウレストラ。

王族。

太陽。

全部。

ただの謎だった。

今は。

少し。

繋がっている。

僕自身と。

「ソル殿」

前を歩く。

アルカディアの案内役。

年配の学者が。

振り返る。

世界会談にも出席していた人物。

「こちらです」

「はい」

街の中心部から。

少しずつ。

外れる。

そして。

地下へ。

続く。

巨大な階段。

「この下?」

「はい」

学者が答える。

「現在のアルカディアは」

「……」

「古代アウレストラ帝国の遺構の上に築かれています」

石段。

下。

続く。

「地上部分の多くは」

「……」

「長い年月の中で失われました」

「……」

「ですが」

学者が。

足を止める。

「地下には」

一拍。

「今も」

「……」

「多くが残っています」

僕たちは。

降りる。

さらに。

下。

下。

下。

明かり。

少ない。

壁。

古い。

現代のアルカディアの建築とは。

全然違う。

「……」

僕は。

壁に触れる。

文字。

刻まれている。

読める。

『星を仰げ』

その下。

『太陽は王を照らす』

胸。

少し。

熱くなる。

「読める?」

ベラが聞く。

「うん」

「何と」

「星を仰げ。太陽は王を照らす」

ベラ。

壁を見る。

「妾には読めぬ」

「古代文字だから」

「お主」

「うん」

「本当に」

一拍。

「ここの血を引いておるのじゃな」

僕。

少しだけ。

黙る。

まだ。

実感は。

ない。

でも。

読める。

感じる。

この場所が。

知らないはずなのに。

どこか。

懐かしい。

そんな感覚。

「……変だね」

「何がじゃ」

「初めて来たのに」

壁。

触れる。

「知ってる感じがする」

ベラ。

僕を見る。

「血かもしれぬ」

「血?」

「ああ」

「そんなことある?」

「知らぬ」

「適当」

「可能性じゃ」

少し。

笑う。

そして。

さらに。

奥へ。

*

地下遺構。

想像以上だった。

崩れた。

広場。

壊れた。

石像。

倒れた。

柱。

でも。

形。

残っている。

「ここ」

僕が聞く。

「昔の街?」

「はい」

学者が答える。

「帝都外郭部と考えられています」

「地下なのに?」

「地盤沈下です」

「……」

「帝国滅亡時」

一拍。

「極めて大規模な魔力災害が起きた痕跡があります」

ベラ。

周囲を見る。

「天使か」

「可能性は高いと考えています」

僕は。

地面を見る。

黒い。

跡。

焼けた?

違う。

溶けた。

石が。

一度。

熱で溶けて。

固まったような。

「これ」

「はい」

学者が。

しゃがむ。

「通常の火災では」

「……」

「まず起こりません」

「魔法?」

「恐らく」

ベラ。

触れない。

少し離れた場所から。

見る。

「……嫌な魔力じゃ」

「残ってる?」

「僅かにな」

「千百年経ってるのに?」

「ああ」

ベラの顔。

険しい。

「これ」

一拍。

「天使どもの」

「……」

「魔力に似ておる」

僕。

息。

止まる。

やっぱり。

ここ。

天使が。

来た。

*

さらに。

数時間。

進む。

何度も。

封鎖。

扉。

崩落。

迂回。

でも。

僕たちは。

少しずつ。

中心部へ。

近づく。

そして。

ついに。

大きな空間へ出た。

「……」

僕は。

言葉を失った。

広い。

地下。

なのに。

巨大な。

宮殿。

半分。

崩れている。

それでも。

分かる。

圧倒的。

巨大。

壁。

白。

金。

そして。

中央。

大きな。

太陽の紋章。

「これが」

学者が言う。

「旧アウレストラ王宮」

「……」

「我々が」

一拍。

「《太陽宮》と呼んでいる場所です」

ベラが。

口笛。

「見事じゃの」

僕は。

何も言えない。

胸。

鳴る。

ドクン。

《天曜》。

反応。

してる。

「ソル?」

ベラ。

見る。

「……呼ばれてる」

「何?」

「分からない」

「……」

僕は。

前へ。

歩く。

「でも」

一歩。

また。

一歩。

「行けって」

身体。

勝手。

進む。

「ソル殿」

学者。

言う。

「お気をつけください」

「はい」

王宮。

入口。

巨大な。

門。

閉ざされている。

中心。

太陽。

周囲。

星。

見たことがある。

アルカディアで。

前に。

開いた扉と。

似てる。

でも。

規模。

違う。

大きい。

もっと。

複雑。

「これ」

僕が聞く。

「今まで開かなかった?」

「はい」

学者が答える。

「千百年間」

一拍。

「一度も」

「……」

「我々が確認できる限り」

扉。

見る。

僕。

右手。

上げる。

「ソル」

ベラ。

呼ぶ。

「何?」

「本当に」

一拍。

「開けるのか」

僕。

ベラを見る。

「分からない」

「……」

「でも」

手。

扉へ。

近づく。

「開く気がする」

触れる。

その瞬間。

ドクン。

「っ」

光。

太陽。

扉全体。

走る。

金色。

一気に。

広がる。

「……!」

学者たち。

息。

呑む。

ベラ。

一歩。

前へ。

「来るぞ」

ゴゴゴゴゴゴゴ――。

扉。

動く。

千百年。

閉じていた。

王宮。

今。

開く。

隙間。

光。

溢れる。

「……」

僕。

目。

細める。

完全に。

開いた。

その先。

暗い。

でも。

奥。

遠く。

光。

一つ。

金色。

「ソル殿」

学者。

震える。

「開いた……」

「うん」

「千百年」

「……」

「誰にも」

「……」

「開けられなかったものが」

僕。

扉。

見る。

手。

まだ。

熱い。

ベラ。

僕を見る。

「疑う余地も」

「……」

「なくなってきたの」

「何が?」

「お主の血じゃ」

「……」

僕は。

何も言えない。

でも。

今。

少なくとも。

僕にしか。

開けられなかった。

その事実。

重い。

「行くぞ」

ベラが。

僕の隣。

立つ。

「うん」

「待ってください」

学者が。

止める。

「何?」

「ここから先」

「……」

「我々は」

一拍。

「何があるか」

「……」

「全く」

「……」

「知りません」

僕。

奥。

見る。

「だから」

学者が続ける。

「先行調査隊を」

「駄目じゃ」

ベラ。

即答。

「ベラトリクス殿?」

「魔力が」

ベラ。

目。

細める。

「濃い」

「……」

「ソルのものと」

「……」

「同じ」

僕も。

感じる。

星。

太陽。

でも。

その奥。

何か。

別。

「それに」

ベラの顔。

険しくなる。

「嫌なものも」

「……」

「混ざっておる」

「天使?」

「分からぬ」

「……」

「じゃが」

一拍。

「普通の人間を」

「……」

「先へ入れるのは」

首。

振る。

「危険じゃ」

学者たち。

黙る。

僕。

ベラを見る。

「じゃあ」

「妾と」

ベラが。

僕を見る。

「お主で行く」

「二人?」

「ああ」

「……」

「怖いか」

聞かれる。

僕。

少し。

考える。

「うん」

正直。

「でも」

《明星》。

握る。

「行く」

ベラ。

笑う。

「よし」

学者。

心配そう。

「ソル殿」

「大丈夫です」

「ですが」

「もし」

僕。

少し。

笑う。

「戻ってこなかったら」

「……」

「アンに」

「……」

「怒られるので」

ベラ。

笑う。

「妾もセラに怒られる」

「じゃあ絶対帰ろう」

「それがよい」

二人。

王宮へ。

入る。

*

《太陽宮》内部。

静か。

本当に。

静か。

千百年。

誰も。

入っていない。

でも。

不思議。

埃。

少ない。

「魔法?」

僕。

聞く。

「保存術式じゃろう」

ベラが。

壁。

見る。

「かなり高度じゃ」

「まだ動いてる?」

「ああ」

「千百年?」

「それだけ」

一拍。

「重要な場所じゃったのであろう」

廊下。

長い。

壁。

絵。

描かれている。

太陽。

星。

人。

王。

そして。

翼。

「……」

僕。

止まる。

「ベラ」

「ああ」

壁画。

天使。

白い。

翼。

人々。

戦っている。

「千百年前」

「……」

「やっぱり」

ベラ。

壁画。

見る。

「天使は」

一拍。

「ここへ来た」

僕。

次。

壁画。

見る。

王。

一人。

太陽。

手。

掲げる。

その光。

天使。

焼いている。

「これ」

「王じゃろうな」

「太陽で戦ってる」

「ああ」

次。

壁画。

複数。

天使。

王宮。

襲う。

次。

王。

傷。

次。

子供。

誰かに。

抱かれて。

逃げている。

その背中。

太陽。

紋章。

「……これ」

僕。

近づく。

文字。

下。

刻まれている。

読める。

「最後の」

一拍。

「太陽を」

声。

小さく。

「逃がせ」

ベラ。

僕を見る。

「王族じゃな」

「多分」

僕。

壁画。

触れない。

見るだけ。

子供。

誰か。

抱いて。

東。

向かう。

後ろ。

王。

残る。

戦う。

「……」

胸。

痛い。

千百年前。

何が。

あった。

誰が。

逃げた。

その血が。

僕?

「ソル」

「何?」

「行くぞ」

「うん」

さらに。

奥。

そして。

大きな。

部屋。

扉。

開いている。

その先。

王座。

「……」

僕。

止まる。

広い。

謁見の間。

中央。

長い。

道。

最奥。

巨大な。

王座。

でも。

誰も。

いない。

当然。

千百年前。

滅びた。

王宮。

「……」

僕。

歩く。

一歩。

二歩。

その時。

――カチッ。

「ん?」

床。

光る。

「ソル!」

ベラ。

叫ぶ。

瞬間。

王座。

前。

魔法陣。

起動。

金色。

広がる。

僕。

動けない。

「何これ!?」

「下がれ!」

「動けない!」

光。

僕。

包む。

《天曜》。

勝手に。

出る。

「っ!」

頭。

何か。

入る。

映像。

違う。

記憶?

声。

聞こえる。

『――ようやく』

誰?

『――帰ってきた』

「誰だ!」

ベラ。

僕の腕。

掴む。

でも。

光。

弾く。

「ソル!!」

「ベラ!」

目の前。

世界。

変わる。

王宮。

消える。

戦場。

空。

裂けている。

天使。

無数。

そして。

一人。

王。

立っている。

金色。

太陽。

全身。

纏う。

僕。

息。

呑む。

顔。

見えない。

でも。

分かる。

血。

何か。

反応。

する。

『――我らは』

声。

王から。

『――敗れた』

天使。

空。

埋める。

『――だが』

王。

振り返る。

僕。

見ている?

違う。

記録。

なのに。

目。

合う。

『――太陽は』

一拍。

『――消えてはならぬ』

胸。

熱い。

『――いつか』

「……」

『――再び』

太陽。

光。

強くなる。

『――この地へ』

王。

手。

僕へ。

伸ばす。

『――帰る』

世界。

白。

染まる。

そして。

最後。

声。

「――継承者よ」

僕。

固まる。

「……」

「僕?」

声。

続く。

「太陽宮の最深部へ来い」

「……」

「そこに」

一拍。

「全てを残した」

光。

弾ける。

*

「ソル!!」

「っ!?」

目。

開く。

王宮。

謁見の間。

僕。

床。

膝。

ついている。

ベラ。

肩。

掴んでいる。

「ソル!」

「……ベラ」

「大丈夫か!?」

「うん」

息。

荒い。

「何が見えた」

「王」

「何?」

「アウレストラの」

一拍。

「王だと思う」

ベラ。

顔。

変わる。

「何を」

「僕に」

「……」

「最深部へ来いって」

静寂。

「全部」

僕。

王座。

見る。

「残したって」

ベラも。

王座。

見る。

その奥。

今まで。

壁。

だと思っていた場所。

ゴゴゴゴゴ――。

動く。

「……」

隠し扉。

開く。

階段。

下。

続く。

さらに。

深く。

暗い。

でも。

一番奥。

金色。

光。

見える。

僕と。

ベラ。

見る。

「……最深部」

「ああ」

僕。

立つ。

《明星》。

握る。

胸。

鳴る。

怖い。

でも。

答え。

近い。

「行こう」

ベラが言う。

「うん」

千百年前。

アウレストラ帝国。

天使に。

滅ぼされた国。

その王が。

今。

僕を。

呼んでいる。

太陽宮。

最深部。

そこに。

全てを。

残した。

なぜ。

天使は。

アウレストラを滅ぼしたのか。

なぜ。

太陽を。

求めるのか。

そして。

僕は。

何者なのか。

その答えは。

もう。

すぐそこまで。

来ていた。


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