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世界同盟

第94話 世界同盟

天使が消えたあとも、誰一人としてすぐには動けなかった。

空に走っていた亀裂は、もうない。

白い光も消えている。

それなのに。

さっきまでとは、何もかもが違って見えた。

「……」

僕は《明星》を握ったまま、自分の右手を見る。

熱は、もうほとんど残っていない。

それでも。

確かに反応した。

《天曜》。

僕の中にある太陽の力が。

あの天使を前にして。

勝手に。

「――アウレストラ王統」

声が、頭から離れない。

「――太陽の継承者」

僕を。

探していた。

天使が。

千百年前、アウレストラ帝国を滅ぼした可能性がある存在が。

僕を見つけた。

「ソル」

「……」

「ソル」

肩を掴まれる。

顔を上げる。

ベラ。

「大丈夫か」

「……うん」

「本当か?」

「びっくりしてるだけ」

「そうか」

ベラは僕の顔をしばらく見ていた。

でも。

それ以上は何も言わなかった。

周囲では、各国の護衛たちがまだ武器を構えている。

セレフィアの聖騎士たちは窓際へ。

結界術師たちは、大聖堂を覆う結界の状態を確認している。

魔族側の護衛も。

アンを中心に展開したまま。

誰も。

警戒を解いていない。

当然だ。

ついさっき。

この世界会談の真上に。

天使が現れた。

しかも。

セレフィアの結界を越えて。

「教皇猊下」

教皇の側近が近づく。

「一度、会談を中断いたします」

「……」

「各国代表の安全確認を最優先に」

「待て」

ベラ。

全員の視線が向く。

「続けよ」

教皇の側近がベラを見る。

「しかし」

「今じゃ」

「……」

「今だからこそ」

ベラが円卓を見る。

「話すべきじゃ」

誰も答えない。

「先ほどまで」

ベラが続ける。

「お主らの中には、天使という存在そのものを疑っておった者もおったじゃろう」

何人かが。

僅かに視線を逸らす。

「それを責めるつもりはない」

「……」

「五百年間、歴史から消えていた存在じゃ」

「……」

「信じられぬのも当然じゃ」

ベラが窓の外を見る。

「じゃが」

一拍。

「もう」

「……」

「見た」

静寂。

「この場におる全員が」

「……」

「自分の目で」

否定する者はいない。

「ならば」

ベラが円卓へ戻る。

「今」

「……」

「話さずして」

一拍。

「いつ話す」

教皇が。

静かに頷いた。

「私も同意します」

側近が教皇を見る。

「教皇猊下」

「結界の確認は続けてください」

「……」

「ですが」

教皇が各国代表を見る。

「会談は」

一拍。

「続行します」

数秒。

沈黙。

そして。

アステリア王が座った。

「異論はない」

続いて。

カグラ皇国。

ヴァルガルド。

アルカディア。

一人ずつ。

席へ戻る。

アンも。

赤い魔力を収めた。

「ソル」

「何?」

「座れる?」

「うん」

僕も席へ戻る。

ベラが僕の隣。

座る。

でも。

さっきより。

近い。

何も言わないけど。

多分。

わざと。

教皇の側近が、乱れた資料を整える。

そして。

再び。

円卓の中央へ立った。

「では」

一拍。

「世界会談を再開いたします」

空気。

違う。

完全に。

さっきまでとは。

違う。

「まず」

教皇の側近が言う。

「先ほど出現した存在について」

アルカディアの学者を見る。

「我々が共有した資料に記録されている天使と」

「……」

「同一種である可能性は?」

アルカディアの学者が頷く。

「極めて高いと考えます」

「根拠は?」

「外見的特徴」

一つ。

「翼」

一つ。

「魔力反応」

一つ。

「空間へ直接干渉したと思われる出現方法」

一つ。

「そして」

学者が古代文書を見る。

「千百年前の記録に残されている」

一拍。

「白き者」

会議場。

静か。

「少なくとも」

学者が続ける。

「アウレストラ帝国を襲撃した存在と、先ほど我々が目撃した存在には」

「……」

「複数の共通点があります」

「五百年前の天使ともじゃ」

ベラが言う。

「ベラトリクス殿」

「あやつを妾は知らぬ」

「……」

「じゃが」

ベラの目。

鋭くなる。

「魔力の質」

「……」

「空間を裂く方法」

「……」

「そして」

一拍。

「あの不快な気配」

ベラが窓の外を見る。

「間違いない」

「……」

「あれは」

一拍。

「天使じゃ」

もう。

誰も。

疑わない。

教皇の側近が頷く。

「では」

資料。

一枚。

置く。

「次の議題へ移ります」

嫌な予感。

する。

「ソル殿」

「……はい」

やっぱり。

「先ほどの天使は」

「……」

「明確に」

僕を見る。

「あなたを認識していました」

「はい」

「さらに」

一拍。

「アウレストラ王統」

「……」

「太陽の継承者」

その言葉。

胸。

重い。

「この二つについて」

教皇の側近がアルカディア代表を見る。

「現在判明している情報を」

「……」

「共有していただけますか」

「承知しました」

アルカディア代表。

立つ。

先ほどの。

古代文書。

開く。

「まず」

「……」

「古代魔法《天曜》について」

全員。

聞く。

「《天曜》は」

一拍。

「約千百年前まで存在したアウレストラ帝国において発展した」

「……」

「特殊な魔法体系です」

僕は。

自分の手を見る。

「星々の力を借り」

「……」

「自身の魔力へ変換する」

「……」

「現在の魔法体系とは」

「……」

「根本から異なるものだったと考えられています」

アルカディア代表が。

ページ。

めくる。

「《天曜》を扱う者は」

「……」

「帝国内に複数存在していたようです」

僕。

顔。

上げる。

「王族だけじゃなかったんですか?」

「はい」

代表が頷く。

「《天曜》そのものは」

「……」

「王族だけの力ではありません」

じゃあ。

僕が《天曜》を使えるだけでは。

王族とは。

限らない。

「しかし」

続き。

ある。

「一つだけ」

「……」

「例外があります」

分かる。

聞く前から。

「太陽」

アルカディア代表が。

言う。

「《天曜》の中でも」

一拍。

「太陽の力」

「……」

「これを扱うことができた者は」

僕を見る。

「アウレストラ帝国」

一拍。

「王族直系のみ」

静寂。

僕の心臓。

鳴る。

「現存する複数の記録で」

「……」

「同様の記述が確認されています」

「……」

「偶然では?」

誰かが聞く。

「現代まで《天曜》そのものがほぼ失われている以上」

「……」

「可能性を完全に否定することはできません」

代表が答える。

「ですが」

「……」

「先ほどの天使は」

一拍。

「ソル殿を見て」

言う。

「王統と呼んだ」

僕は。

黙る。

「さらに」

代表が続ける。

「ソル殿がアルカディアで発見した遺跡」

「……」

「そこに残されていた太陽紋章の扉は」

僕を見る。

「ソル殿の《天曜》によって」

一拍。

「起動した」

「……はい」

「そして」

また。

資料。

「賢者アークトゥルス」

胸。

反応。

「アークトゥルスについても」

「……」

「今回の再調査で」

一拍。

「アウレストラ王家へ連なる血筋であった可能性を示す記録が確認されました」

「アークトゥルスも……」

「はい」

僕は。

アークトゥルスの姿を思い出す。

同じ血。

そう。

言われた。

なら。

「僕と」

「……」

「アークトゥルスは」

アルカディア代表。

頷く。

「同じ」

一拍。

「アウレストラ王家の血を」

「……」

「受け継いでいると考えるのが」

一拍。

「最も自然です」

言葉。

出ない。

僕。

王族?

千百年前。

滅びた。

帝国。

その王家。

あまりにも。

遠い。

実感なんて。

ない。

「待て」

ベラ。

声。

「一つ」

アルカディア代表を見る。

「おかしい」

「何でしょう」

「アウレストラは」

一拍。

「千百年前に滅んだのであろう」

「はい」

「ならば」

ベラが僕を見る。

「なぜ」

「……」

「今」

「……」

「その血が残っておる」

静寂。

「王族が」

「……」

「全員死んだのではないのか?」

アルカディア代表が。

少し。

黙る。

そして。

「今回」

一拍。

「新たに判明したことがあります」

ページ。

さらに。

奥。

開く。

「帝国滅亡直前」

「……」

「王族の一部が」

一拍。

「帝都から脱出していた可能性があります」

僕。

顔。

上げる。

「脱出?」

「はい」

古代文字。

指す。

「ここです」

僕も。

読める。

短い。

一文。

「太陽を……」

声。

出る。

「東へ逃がせ」

全員。

僕を見る。

アルカディア代表。

頷く。

「その通りです」

次。

「王統を隠せ」

一拍。

「名を捨てよ」

次。

「星の声が」

「……」

「再び太陽を呼ぶ」

僕は。

息を呑む。

「その後の記録は?」

教皇が聞く。

アルカディア代表が。

首を振る。

「ありません」

「一切?」

「一切です」

「……」

「どこへ逃れたのか」

「……」

「誰が逃れたのか」

「……」

「その後」

一拍。

「どのように血を繋いだのか」

代表。

首。

振る。

「何も」

「……」

「残されていません」

「意図的じゃな」

ベラが言う。

「私も」

アルカディア代表が頷く。

「そう考えています」

「天使から」

僕が言う。

「隠すため?」

「恐らく」

名前を捨てる。

記録を消す。

王族であることを。

誰にも。

伝えない。

そのまま。

子供。

その子供。

さらに。

その子供。

千百年。

血だけが。

残った。

それが。

僕?

「じゃが」

ベラ。

まだ。

何か。

引っかかっている。

「なら」

一拍。

「なおさらおかしい」

「何が?」

僕が聞く。

ベラ。

僕を見る。

「千百年じゃぞ」

「……」

「千百年間」

「……」

「天使どもは」

一拍。

「その太陽を」

「……」

「見つけられなかった」

僕。

固まる。

「それなのに」

ベラが続ける。

「なぜ」

一拍。

「今」

「……」

「見つかった?」

誰も。

答えない。

僕は。

考える。

今。

何が。

変わった。

僕は。

ずっと。

普通に生きてきた。

十五年。

何も。

起こらなかった。

でも。

最近。

僕は。

《天曜》を知った。

アルカディア。

太陽紋章。

扉。

そして。

「……使った」

声。

漏れる。

ベラ。

僕を見る。

「何じゃ」

「僕」

「……」

「使った」

分かる。

「アルカディアで」

一拍。

「太陽を」

静寂。

「扉を開けた時」

「……」

「《天曜》の」

「……」

「太陽の力を」

アンの表情。

変わる。

「まさか」

「それじゃ」

僕の胸。

冷たくなる。

「僕が」

一拍。

「使ったから」

「……」

「見つかった?」

自分の声。

震える。

「僕が」

「……」

「天使に」

「……」

「場所を」

「違う」

ベラ。

即答。

「でも」

「違う」

もう一度。

強く。

「お主が」

「……」

「天使を呼んだのではない」

「……」

「奴らは」

ベラが。

僕を見る。

「お主が《天曜》を使う前から」

一拍。

「動いておった」

樹海。

天使。

ゼファリエル。

そうだ。

「お主のせいで」

「……」

「奴らが戻ったのではない」

「……」

「そこを」

一拍。

「間違えるな」

僕。

ベラを見る。

「ただし」

続く。

「お主が」

「……」

「太陽を使ったことで」

「……」

「奴らがお主を」

一拍。

「見つけた可能性はある」

胸。

重い。

「ならば」

声。

別。

各国代表の一人。

「ソル殿を」

「……」

「厳重に保護する必要があるのではないか」

「保護?」

「天使が彼を狙っているのであれば」

「……」

「自由に行動させるべきではない」

別。

「同意する」

「……」

「安全な場所へ移し」

「……」

「各国共同で警護を」

また。

別。

「いや」

「……」

「それでは何も分からない」

「……」

「アウレストラの遺跡へ向かわせるべきだ」

「危険すぎる」

「だが彼にしか開けられない場所がある可能性がある」

「ならば護衛を」

「そもそも」

一人。

言う。

「天使が彼を求めているのであれば」

嫌な。

予感。

「その性質を利用し」

一拍。

「誘き出すことも――」

ドンッ!!

会議場。

揺れる。

全員。

黙る。

ベラ。

拳。

机。

置いている。

ひび。

入ってる。

「……」

顔。

笑ってない。

「今」

低い。

声。

「何と言った?」

「いや」

「もう一度」

「……」

「言うてみよ」

魔力。

黒。

赤。

僅かに。

漏れる。

「ベラ」

僕が呼ぶ。

でも。

止まらない。

「ソルを」

一拍。

「囮にすると」

「……」

「そう申したか?」

「可能性の話だ」

「ほう」

ベラ。

笑う。

怖い。

「ならば」

「……」

「お主が」

「……」

「囮になれ」

「ベラ」

アン。

声。

ベラ。

見る。

アンは。

怒ってない。

いや。

多分。

怒ってる。

でも。

静か。

「私から言う」

「……」

ベラ。

座る。

アンが。

円卓を見る。

「ソルは」

一拍。

「どこの国の」

「……」

「所有物でもありません」

誰も。

口を挟まない。

「魔族領のものでもない」

「……」

「セレフィアのものでも」

「……」

「アルカディアのものでもない」

アンが。

僕を見る。

「一人の」

一拍。

「人間です」

「……」

「どうするかを決めるのは」

「……」

「ソルです」

静寂。

僕は。

アンを見る。

ベラも。

僕を見る。

教皇。

各国代表。

全員。

僕を。

見ている。

僕が。

決める。

逃げる?

隠れる?

守ってもらう?

それとも。

答え。

探す?

怖い。

当たり前。

さっき。

天使が。

僕を見つけた。

あれより。

もっと強い奴が。

来るかもしれない。

でも。

逃げて。

何も知らないまま。

ずっと。

怯える?

それは。

嫌だ。

「僕は」

立つ。

「行きたいです」

誰かが。

聞く。

「どこへ?」

僕は。

アルカディア代表を見る。

「アウレストラ」

静寂。

「僕が」

「……」

「何者なのか」

「……」

「どうして」

「……」

「天使が僕を探しているのか」

手。

握る。

「太陽って」

「……」

「何なのか」

「……」

「知りたい」

ベラ。

何も言わない。

「逃げても」

僕は続ける。

「多分」

「……」

「何も終わらない」

「……」

「だったら」

一拍。

「僕は」

「……」

「答えを探しに行きます」

アルカディア代表。

僕を見る。

「ソル殿」

「はい」

「一つ」

「……」

「お伝えしていないことがあります」

「何ですか?」

「アウレストラ帝国の」

一拍。

「王都跡についてです」

「王都?」

「現在のアルカディアは」

「……」

「旧アウレストラ帝国領の一部に築かれています」

知ってる。

でも。

「帝都の全てが」

「……」

「失われたわけではありません」

僕。

顔。

上げる。

「地下です」

「……地下?」

「現在のアルカディア地下深く」

一拍。

「古代帝都の一部が」

「……」

「今も残されています」

ざわめき。

「しかし」

「……」

「我々も」

「……」

「その全域を」

一拍。

「調査できていません」

「どうして?」

「入れないのです」

「……」

「帝都中心部」

代表が言う。

「旧王宮へ続く区画は」

「……」

「千百年間」

一拍。

「閉ざされたままです」

僕の心臓。

鳴る。

「扉?」

「はい」

「もしかして」

「太陽紋章です」

やっぱり。

「我々は」

「……」

「その先を」

「……」

「《太陽宮》と呼んでいます」

「太陽宮……」

「正式名称かは分かりません」

「……」

「ですが」

一拍。

「アウレストラ王家の」

「……」

「最重要区画であったことは」

「……」

「間違いありません」

僕は。

自分の手を見る。

「僕なら」

「……」

「開けられる?」

アルカディア代表。

少し。

間。

「恐らく」

一拍。

「あなたにしか」

「……」

「開けられません」

決まった。

次。

行く場所。

千百年前。

滅びた帝国。

その中心。

アウレストラ王宮。

《太陽宮》。

そこに。

答えがある。

そんな気がする。

「その前に」

アステリア王が言った。

全員。

王を見る。

「決めるべきことがある」

「何じゃ」

ベラ。

見る。

アステリア王。

ベラを。

真っ直ぐ。

見る。

「魔王ベラトリクス」

「なんじゃ」

「先ほど」

「……」

「貴殿への謝罪を受け入れるか」

「……」

「今」

「……」

「私一人では決められぬと話した」

「ああ」

「その考えは」

一拍。

「変わっていない」

ベラ。

頷く。

「それでよい」

「魔族についても」

「……」

「五百年の断絶を」

「……」

「今日一日で」

「……」

「無かったことにはできぬ」

アンが。

静かに聞いている。

「だが」

アステリア王。

窓。

見る。

天使が。

現れた空。

「一つだけ」

「……」

「疑う理由が」

一拍。

「無くなった」

ベラ。

見る。

「天使は」

王が言う。

「我々の敵だ」

静寂。

「五百年前」

「……」

「勇者レグルスが」

「……」

「魔王と並んでまで」

一拍。

「戦わねばならなかった敵」

「……」

「そして」

空。

見る。

「今」

「……」

「我々自身が」

「……」

「その存在を見た」

王が。

立つ。

「アステリア王国は」

一拍。

「天使への対抗を目的とした」

「……」

「共同戦線への参加を」

一拍。

「表明する」

胸。

熱くなる。

次。

カグラ皇国。

代表。

立つ。

「カグラ皇国も」

一拍。

「参加する」

次。

ヴァルガルド。

「ヴァルガルドも異論はない」

アルカディア。

「アルカディアも」

教皇。

立つ。

「セレフィア神聖国も」

そして。

最後。

アン。

ゆっくり。

立ち上がる。

深紅の外套。

揺れる。

現魔王。

アンタレス。

「魔族領も」

一拍。

「参加します」

五つの国。

一つの。

魔族領。

五百年前。

交わることのなかった者たち。

今。

同じ敵を。

見る。

アンが。

円卓を見渡す。

「五百年前」

「……」

「世界を守ったのは」

一拍。

「六人でした」

レグルス。

シリウス。

アルデバラン。

ルナ。

アークトゥルス。

ベラトリクス。

「でも」

アンが言う。

「今度は」

一拍。

「六人だけに」

「……」

「背負わせない」

ベラが。

アンを見る。

「人間も」

「……」

「魔族も」

「……」

「国も」

「……」

「種族も」

一拍。

「関係ない」

アン。

静かに。

でも。

強く。

言う。

「五百年前の続きを」

一拍。

「今度は」

「……」

「世界で」

一拍。

「終わらせましょう」

誰も。

反対しなかった。

この日。

五百年間。

互いを。

遠ざけていた。

人間と魔族が。

初めて。

正式に。

同じ敵へ。

立ち向かうことを決めた。

後に。

この日結ばれた共同戦線は。

一つの名で。

呼ばれることになる。

――《六星同盟》。

五英雄の国。

そして。

魔王の国。

六つの勢力から始まった。

世界初の。

対天使同盟。

それは。

五百年前。

六英雄だけが背負った戦いを。

今度こそ。

世界全体で背負うという。

最初の約束だった。

*

世界会談が終わったのは。

夕方だった。

僕は。

大聖堂の外。

広い。

回廊にいた。

夕日。

セレフィアの街。

照らしている。

さっき。

天使が現れたなんて。

嘘みたいに。

静か。

僕は。

自分の手を見る。

「アウレストラ王統」

呟く。

「太陽の継承者」

まだ。

全然。

実感ない。

僕は。

王子でもない。

王でもない。

普通に。

生きてきた。

それなのに。

千百年前の。

王族。

その血が。

僕に。

流れている。

「難しい顔をしておるの」

後ろ。

声。

振り返る。

ベラ。

「ベラ」

「なんじゃ」

「終わった?」

「ようやくの」

ベラ。

隣。

来る。

二人。

街を見る。

「ソル」

「何?」

「本当に」

一拍。

「行くのか?」

「うん」

「アウレストラへ」

「うん」

即答。

ベラ。

僕を見る。

「怖くないのか」

「怖いよ」

「……」

「でも」

僕は。

自分の手を見る。

「知らない方が」

一拍。

「もっと怖い」

ベラ。

少しだけ。

笑う。

「そうか」

「うん」

「なら」

ベラが。

前を見る。

「妾も行く」

「……」

僕。

笑う。

「言うと思った」

「当然じゃ」

「ベラもアウレストラ知らないんだよね」

「ああ」

「千百年前だもんね」

「妾が生まれるより前じゃ」

「ベラより古いんだ」

「どういう意味じゃ」

「いや」

「妾を年寄り扱いしておらぬか?」

「してないよ」

「本当か?」

「本当」

「怪しいの」

「私も行く」

後ろ。

声。

僕とベラ。

振り返る。

アン。

「アン」

「私も行く」

「……」

ベラ。

僕。

顔。

見合わせる。

「何?」

アンが聞く。

「いや」

僕が。

言う。

「アン」

「うん」

「魔王でしょ」

「うん」

「《六星同盟》」

「うん」

「できたばっかりだよね」

「うん」

「仕事」

「……」

アン。

止まる。

「いっぱいあるんじゃない?」

「……」

沈黙。

「行ける」

アン。

言う。

「本当に?」

「行ける」

「アンタレス陛下」

後ろ。

さらに。

声。

アンの肩。

僅かに。

跳ねる。

セラ。

立っている。

「どちらへ?」

「……」

「陛下?」

「……アウレストラ」

「駄目です」

即答。

「まだ何も」

「駄目です」

「でも」

「六星同盟設立に伴う協定書」

一つ。

「各国との連絡手段の構築」

二つ。

「魔王軍への正式な指示」

三つ。

「各国から魔族領へ派遣される使節の受け入れ準備」

四つ。

「帰国後には」

「……」

「決裁待ちの書類が」

一拍。

「現在、四百七十二件ございます」

「……」

アン。

固まる。

僕。

思わず。

「多っ」

ベラ。

笑う。

「魔王とは大変じゃのう」

セラ。

ベラを見る。

「相談役にも」

「……」

「一部」

一拍。

「お願いする予定です」

ベラ。

笑顔。

消える。

「ソル」

「何?」

「アウレストラへ行くぞ」

「今!?」

「今じゃ!」

「逃げる気でしょ!」

「違う!」

「ベラ様」

「離せセラ!!」

回廊。

声。

響く。

僕は。

笑った。

でも。

胸の奥。

分かっている。

次。

向かう場所。

千百年前。

天使によって。

滅ぼされた可能性がある国。

古代帝国。

アウレストラ。

その地下に。

今も眠る。

王宮。

《太陽宮》。

僕の血が。

本当に。

そこから続いているのなら。

きっと。

あそこに。

答えがある。

なぜ。

アウレストラは。

滅びたのか。

なぜ。

王族だけが。

太陽を扱えたのか。

なぜ。

天使は。

太陽を求めるのか。

そして。

なぜ。

千百年後。

僕が。

その力を。

受け継いでいるのか。

天使が。

僕を見つけた。

なら。

僕も。

探しに行く。

奴らが。

千百年前から求め続けている。

《太陽》の正体を。


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