動き出す魔王軍
第89話 動き出す魔王軍
《双王凱旋祭》が終わって、一週間が経った。
三日三晩続いた宴の熱も、ようやく魔族領から抜け始めている。
城下町を埋め尽くしていた飾りのほとんどは片付けられ、大通りを行き交う魔族たちも普段の生活へ戻っていた。
朝になれば店が開き、商人たちの声が飛び交い、子供たちが道を走り回る。
魔王ベラトリクスの帰還。
現魔王アンタレスの第二封印解放。
二人の魔王を祝った三日間は、既に一週間前の出来事になろうとしていた。
……もっとも。
「聞いたか? 昨夜、南区の酒場にベラ様がいたらしいぞ」
「また?」
「今度は三軒回ったらしい」
「金は?」
「ちゃんと払ったって」
「おお……」
「なんでそこで感心するんだよ」
そんな噂が。
たまに城下町を駆け巡ることはあったけれど。
本人に聞くと。
「妾ではない」
と否定する。
でも。
「じゃあ昨日の夜、どこにいたの?」
と聞くと。
「……寝ておった」
「どこで?」
「……」
答えない。
多分。
いや。
絶対にベラだ。
セラに散々怒られたおかげで、アンにつけることだけはやめたらしい。
そんな平和な騒ぎが続く一方。
日中の魔王城は。
祭りの最中とは比べものにならないほど活気づいていた。
「第三隊! 前へ!!」
怒号。
「防御隊、展開!!」
地響き。
「魔法隊! 後方支援!!」
魔力。
そして。
「遅い!!」
ガレスの声が。
巨大な訓練場全体へ響き渡った。
「相手が待ってくれると思うな!! 実戦なら今ので前衛が三十人死んでいるぞ!!」
「はい!!」
「もう一度!!」
「はい!!」
僕は。
訓練場の端で。
その光景を見ていた。
「……すごいな」
祭りが終わった翌日から。
魔王軍の再編成が始まった。
指揮を執っているのは。
軍隊長。
ガレス。
第二封印の解放によって。
ガレスをはじめとした魔王軍主力の多くが、本来の魔力を大幅に取り戻した。
だから。
今までの軍編成では。
その力を十分に活かせない。
そう判断したガレスは。
部隊そのものを。
一から組み直した。
前線で敵を食い止める。
近接戦闘部隊。
後方から大規模魔法を放つ。
魔法隊。
味方を守り。
攻撃を受け止める。
防御隊。
敵陣へ入り。
情報収集や攪乱を行う。
偵察・遊撃隊。
そして。
魔族領そのものを守る。
結界維持部隊。
それまでにも。
似た役割は存在していたらしい。
でも。
今回は。
違う。
天使。
五百年前。
六英雄と呼ばれる者たちすら。
命を懸けて戦った敵。
その存在を。
明確な仮想敵として。
魔王軍そのものを。
再構築している。
「ソル!!」
「はい!」
ガレスの声。
僕は。
《明星》を掴む。
「休憩は終わりだ!!」
「今まで休憩だったの!?」
「五分休んだだろう!!」
「五分しか休んでないよ!!」
「戦場で五分も休めれば十分だ!!」
「無茶苦茶だ!」
周囲から。
笑い声。
魔族の兵士たち。
最初は。
人間である僕を。
少し珍しそうに見ていた。
当然だと思う。
ほとんど人間が入ることのない魔族領。
そこへ突然。
人間の少年がやって来た。
しかも。
先代魔王ベラトリクスと。
現魔王アンタレス。
二人と一緒に。
そして。
勇者レグルスから。
力を受け継いでいる。
最初の数日は。
かなり注目された。
でも。
今は。
「ソル! 次は俺だ!」
「いや、昨日やったでしょ!」
「今日は勝てる!」
「昨日もそれ言ってたよね!?」
「今日は本当に勝てる!」
「根拠は!?」
「勘だ!」
「駄目じゃん!」
普通に。
訓練仲間になっていた。
毎日。
魔族と。
戦う。
一人。
二人。
時には。
複数。
魔族は。
人間とは違う。
身体能力。
魔力量。
魔力の性質。
全部。
違う。
力で押してくる者。
速度に特化した者。
魔法を使う者。
身体の一部を変化させる者。
飛ぶ者までいる。
だから。
毎日。
違う。
「始めるぞ!」
目の前。
大柄な魔族。
僕の。
倍近い身体。
「お願いします!」
構える。
《明星》。
鞘へ。
相手。
拳。
握る。
「始め!!」
ガレスの声。
瞬間。
ドンッ!!
地面。
爆ぜる。
「っ!」
速い。
身体の大きさから。
想像できない。
巨大な拳。
正面。
僕は。
避けない。
金色の魔力。
全身。
循環。
「《星装》」
拳。
来る。
一歩。
前へ。
身体。
僅かに。
ずらす。
触れる。
受ける。
違う。
流す。
「《流転》!」
ドォン!!
拳。
僕の横。
抜ける。
地面。
砕ける。
「まだだ!!」
魔族。
身体。
回転。
左。
裏拳。
低い。
避ける。
上。
今。
「《無拍》」
音が。
消える。
抜刀。
一閃。
ガキィィン!!
「ぐっ!」
魔族。
腕。
防御。
でも。
体勢。
崩れる。
一歩。
二歩。
下がる。
僕は。
追う。
「《流星》!」
金色の軌跡。
連続。
斬撃。
一。
二。
三。
四。
「ぬぅっ!!」
相手。
腕で。
受ける。
硬い。
なら。
一度。
離れる。
《明星》。
構える。
魔力。
集める。
光。
刀身。
集束。
「《彗星》――!」
「そこまで!!」
「えっ」
止める。
寸前。
ガレス。
僕たちの間。
入っていた。
「……」
「……」
僕。
ガレスを見る。
「危なくない?」
「止められる」
「そういう問題じゃなくて」
ガレスが。
僕を見る。
「最後の《彗星》」
「はい」
「遅い」
「……」
「その前の《流星》で決められた」
「でも防がれて」
「防がせたのだろう」
「……」
「なら」
ガレスが。
自分の腕を指す。
「四撃目」
「……」
「ここではない」
少し下。
「こっち」
「……脇?」
「ああ」
ガレスが。
相手の魔族を見る。
「腕で受けることは分かっていた」
「はい」
「なら」
「……」
「守らせたい場所へ攻撃し」
「……」
「本当に斬りたい場所を空けさせろ」
僕は。
《明星》を見る。
「相手の防御を」
「利用する」
ガレスが。
頷く。
「《流転》で相手の攻撃を流すだけではない」
「……」
「攻撃も同じだ」
「攻撃も?」
「相手がどう守るか」
「……」
「それを」
ガレスが。
僕の額を指差す。
「流せ」
「……」
少し。
分かった気がする。
シリウス。
アルデバラン。
二人から。
教わったこと。
見る。
流す。
守る。
全部。
別々じゃない。
繋がっている。
「もう一回」
僕が言う。
目の前の魔族が。
笑う。
「いいぞ」
構える。
「次は勝つ」
「それ僕の台詞じゃない?」
「ガレス隊長!」
「始めろ」
「はい!」
再び。
地面が。
爆ぜた。
*
同じ頃。
訓練場。
反対側。
「構えよ!!」
ベラの声が。
響く。
防御隊。
約三十人。
巨大な盾。
構えている。
その前。
一人。
ベラ。
「全員で受けるのじゃ!」
「はい!!」
「よい返事じゃ!」
ベラが。
右手を上げる。
黒。
赤。
魔力。
集まる。
防御隊。
ざわつく。
「待ってくださいベラ様!」
「何じゃ」
「それ」
「うむ」
「昨日より大きくありませんか!?」
「気のせいじゃ」
「絶対大きいです!!」
「昨日耐えたであろう」
「ギリギリです!!」
「なら今日は」
ベラが。
笑う。
「余裕で耐えよ」
「無茶です!!」
「来るぞ!」
「待っ――」
黒炎。
巨大な塊。
「《獄炎》」
ドォォォォォォォォン!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
爆発。
訓練場。
揺れる。
僕。
模擬戦。
止める。
「……」
相手の魔族も。
止まる。
二人。
同時に。
見る。
煙。
黒炎。
その中。
防御隊。
立っている。
「……生きてる?」
僕が聞く。
隣の魔族。
「多分」
「多分!?」
煙。
晴れる。
「ぐっ……」
「耐えた……」
「耐えたぞ……!」
防御隊。
全員。
立っている。
「おお!!」
歓声。
でも。
ベラ。
腕を組む。
「駄目じゃ」
「え?」
防御隊。
固まる。
「三列目」
「は、はい!」
「魔力を前へ流しすぎじゃ」
「……」
「己だけで受けるな」
「はい」
「隣へ流せ」
「……」
ベラが。
歩く。
「盾とは」
一枚。
触れる。
「壁ではない」
「……」
「受け止めるだけなら」
一拍。
「いつか砕ける」
アルデバラン。
僕は。
その言葉に。
少し。
反応した。
ベラが。
続ける。
「面で受け」
「……」
「全体へ逃がせ」
「はい!」
「もう一度じゃ」
「えっ」
「構えよ」
「今すぐですか!?」
「実戦で敵が待ってくれるのか?」
「……」
どこかで。
聞いた。
僕は。
ガレスを見る。
ガレスも。
ベラを見る。
「……」
似た者同士。
「何じゃ?」
ベラが。
こっちを見る。
「何でもない!」
僕。
すぐ。
前。
向く。
魔法隊も。
大変だった。
「遅い!!」
ベラの声。
「詠唱を終えてから相手を見るでない!!」
魔法。
飛ぶ。
魔法隊。
迎撃。
爆発。
「相手の魔力を見よ!!」
「はい!!」
「魔法が完成してから判断するな!!」
ベラが。
指先。
次。
魔法陣。
展開。
「魔力の流れ!」
一つ。
「属性!」
二つ。
「術式!」
三つ。
「そこから」
魔法隊。
構える。
「何が来るか読め!!」
放つ。
魔法。
衝突。
ドォン!!
「遅い!」
「もう一度!!」
「はい!!」
破天荒。
本当に。
破天荒。
でも。
一週間。
毎日。
見てきた。
ベラは。
一度も。
兵士を。
大怪我させていない。
ギリギリ。
本当に。
ギリギリ。
その兵士が。
耐えられる。
限界。
そこへ。
正確に。
魔法を撃つ。
弱点。
見つける。
指摘。
もう一度。
そして。
また。
もう一度。
その結果。
「防御隊!」
「はい!!」
「展開!!」
一斉。
盾。
魔力。
繋がる。
一週間前とは。
全然違う。
「魔法隊!!」
「はい!!」
詠唱。
速い。
互いの魔力。
干渉しない。
複数。
魔法。
同時。
展開。
精度。
上がっている。
第二封印解放だけじゃない。
ベラ。
ガレス。
そして。
戻ってきた。
主力たち。
魔王軍は。
明らかに。
変わっていた。
何より。
兵士たちの。
顔。
違う。
「次!!」
「はい!!」
疲れている。
ボロボロ。
でも。
笑っている。
活気。
ある。
五百年前。
魔族を率いた。
魔王ベラトリクス。
その存在が。
今。
自分たちの訓練場にいる。
直接。
教えている。
そして。
現魔王アンタレスは。
本来に近い力を。
取り戻した。
それだけで。
魔王軍全体の。
空気が。
変わっていた。
「ソル!!」
「はい!」
「余所見するな!!」
ガレス。
拳。
「うわっ!?」
吹っ飛ぶ。
「模擬戦中だぞ!!」
「待って! 今の不意打ちでしょ!」
「敵が声をかけると思うな!!」
「そればっかりだな!!」
*
魔王城。
執務室。
訓練場とは。
全く違う戦場が。
そこにはあった。
紙。
紙。
紙。
書類。
書類。
書類。
「……」
アンが。
机。
座っている。
目の前。
山。
「セラ」
「はい」
「減ってる?」
「何がでしょう」
「書類」
「減っております」
「本当に?」
「はい」
「朝より増えて見える」
「処理した分以上に届いておりますので」
「……」
アン。
止まる。
「帰っていい?」
「どちらへ?」
「訓練場」
「駄目です」
「ベラの手伝い」
「必要ありません」
「ソルの訓練」
「ガレスが見ています」
「城下町」
「仕事が終わってからどうぞ」
「……」
アンが。
机へ。
突っ伏す。
「魔王辞めたい」
「先週正式に就任を宣言したばかりです」
「知ってる」
「でしたら」
書類。
置く。
「こちらを」
「セラ」
「はい」
「ベラには?」
「魔王軍相談役として訓練場に」
「ずるい」
「適材適所です」
「私も戦える」
「存じております」
「強い」
「存じております」
「八十五%」
「存じております」
「……」
「ですが」
セラ。
書類。
アンの前。
「こちらに署名を」
「……はい」
アンが。
ペンを取る。
でも。
ただ。
溜まった仕事を。
片付けているだけじゃない。
机。
端。
何枚か。
違う文書。
魔族領の。
外。
各国。
送る。
正式な文書。
「セラ」
アンが。
一枚。
手に取る。
「セレフィアから返事は?」
「先ほど」
「教皇は?」
「全面的に協力するとのことです」
「そう」
アンの表情が。
変わる。
さっきまで。
書類に潰されていた。
アンじゃない。
魔王。
アンタレス。
「各国への通達は」
「教皇を通じ」
セラが。
資料を確認する。
「順次行われています」
「内容は?」
「天使――災厄の再出現について」
「……」
「セレフィア神聖国が保有していた五百年前の記録」
「……」
「そして」
セラが。
アンを見る。
「魔族領から提供した情報」
アンが。
頷く。
「全部」
「よろしいのですか?」
「うん」
「魔族側の情報には」
「……」
「これまで外へ出していなかったものもあります」
「構わない」
即答。
「隠して」
アンが。
窓を見る。
遠く。
訓練場。
爆発。
「また」
セラが。
呟く。
「ベラですね」
「多分」
アンが。
話を戻す。
「隠して」
「……」
「また五百年前みたいになる方が」
一拍。
「嫌」
セラ。
頷く。
「承知しました」
アンが。
次。
文書。
見る。
アステリア王国。
カグラ皇国。
ヴァルガルド。
セレフィア神聖国。
アルカディア。
そして。
その他。
周辺国家。
全てへ。
警戒。
呼びかける。
天使。
再び。
現れた。
五百年前。
世界を。
滅ぼしかけた。
本当の敵。
それが。
もう一度。
動いている。
「人間たちは」
セラが。
少し。
言葉を選ぶ。
「信じるでしょうか」
「分からない」
「……」
「でも」
アンが。
文書へ。
署名。
アンタレス。
魔王。
「信じなくても」
「……」
「警戒くらいはする」
「はい」
「それでいい」
「……」
「最初は」
アンが。
次の文書を取る。
「それで」
*
夕方。
「つっかれた……」
僕は。
城壁。
座り込んでいた。
身体。
痛い。
腕。
痛い。
脚。
痛い。
全部。
痛い。
「ガレス」
隣。
立っている。
「何だ」
「明日」
「うむ」
「休み」
「ない」
「まだ何も言ってない!」
「休みたいと言うつもりだっただろう」
「……」
「明日は朝からだ」
「今日も朝からだったよ!」
「明日はもっと早い」
「なんで!?」
ガレス。
笑う。
「若いうちに鍛えろ」
「十五歳を便利に使わないでよ」
ガレスが。
去っていく。
「……」
僕は。
城壁。
寝転ぶ。
空。
夕焼け。
「疲れた」
「情けないの」
「……」
声。
起きる。
ベラ。
「ベラ」
「なんじゃ」
「訓練終わったの?」
「うむ」
「防御隊、生きてる?」
「当然じゃ」
「本当に?」
「妾を何だと思っておる」
「破天荒な元魔王」
「誰が破天荒じゃ」
「全員言ってるよ」
「誰じゃ」
「言わない」
ベラ。
隣。
座る。
僕も。
身体。
起こす。
城壁から。
魔族領。
見る。
一週間前。
祭り。
だった。
道。
人。
溢れ。
酒。
音楽。
笑い声。
今は。
違う。
兵士。
走る。
武器。
運ぶ。
訓練場。
魔法。
光る。
結界術師。
王城。
出入り。
忙しい。
「……変わったね」
僕が言う。
「何がじゃ」
「一週間で」
「……」
「全然」
ベラが。
魔族領を見る。
「そうじゃの」
「みんな」
「……」
「戦う準備してる」
「うむ」
少し。
沈黙。
僕は。
夕焼けを見る。
「ベラ」
「何じゃ」
「戦争になるのかな」
ベラは。
すぐには。
答えなかった。
風。
吹く。
「分からぬ」
「ベラでも?」
「ああ」
「……」
「妾とて」
ベラが。
少し笑う。
「未来が見えるわけではない」
「そっか」
「じゃが」
「……」
ベラの声。
変わる。
「五百年前とは」
一拍。
「違う」
僕は。
ベラを見る。
「何が?」
ベラは。
訓練場を見る。
魔族たち。
今も。
訓練。
続けている。
「五百年前」
「……」
「妾たちは」
「……」
「何も知らなかった」
空。
見上げる。
「天使という存在も」
「……」
「奴らの目的も」
「……」
「何故」
「……」
「戦わねばならぬのかも」
拳。
僅かに。
握る。
「分からぬまま」
「……」
「戦いが始まった」
僕は。
黙って聞く。
「じゃが」
ベラが。
前を見る。
「今度は」
一拍。
「来ると」
「……」
「分かっておる」
訓練場。
声。
響く。
「だから」
「……」
「備えられる」
魔法。
空。
上がる。
「鍛えられる」
兵士。
走る。
「伝えられる」
王城。
アンが。
各国へ。
文書。
送る。
「そして」
ベラが。
僕を見る。
「一人ではない」
「……」
五百年前。
勇者。
剣聖。
守護騎士。
聖女。
賢者。
魔王。
六人。
戦った。
でも。
今は。
その意志を。
受け継ぐ者たちがいる。
「ソル」
「何?」
「五百年前は」
「……」
「突然」
「……」
「世界が戦場になった」
夕日。
沈む。
「じゃが今度は」
ベラが。
立ち上がる。
「世界そのものを」
一拍。
「戦う前に」
「……」
「一つにできるかもしれぬ」
僕は。
ベラを見る。
「人間と魔族が?」
「ああ」
「……」
「できるかな」
ベラが。
笑った。
「そのために」
「……」
「妾たちがおる」
風。
吹く。
黒髪。
揺れる。
ベラが。
魔族領を見る。
「五百年前」
「……」
「できなかったことを」
一拍。
「今度こそ」
その時。
王城。
鐘。
鳴った。
一度。
二度。
三度。
僕は。
顔を上げる。
「何?」
ベラも。
王城を見る。
鐘。
さらに。
続く。
さっきまで。
穏やかだった。
ベラの顔から。
笑み。
消える。
「……連絡じゃ」
「連絡?」
「ああ」
ベラが。
立ち上がる。
「外から」
僕も。
立つ。
その直後。
城壁へ。
一人の兵士。
走ってくる。
「ベラ様!」
「何じゃ」
「ソル殿も!」
息。
切れている。
「魔王陛下がお呼びです!」
「アンが?」
「はい!」
「何があったの?」
兵士が。
答える。
「セレフィア神聖国より」
一拍。
「教皇猊下から」
「……」
「緊急連絡が届きました」
僕と。
ベラ。
顔を見合わせる。
一週間。
魔族領は。
備え続けた。
魔王軍を。
作り直し。
兵を鍛え。
各国へ。
警告を送った。
五百年前とは。
違う。
今度は。
来ると。
分かっている。
だから。
備えることができた。
そして。
その備えが。
終わるよりも早く。
世界は。
次の動きを。
見せ始めた。




