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第二封印解放

第86話 第二封印解放

王城の地下深く。

普段は固く閉ざされている巨大な扉が、重い音を響かせながらゆっくりと開いていった。

その先にあったのは、王城の地下とは思えないほど広大な空間だった。

円形の大広間。

天井は遥か高く、壁には無数の魔石が埋め込まれている。

そして床には、何も描かれていない巨大な黒石の円盤。

「ここは?」

僕が聞くと、隣を歩いていたセラが答えた。

「封印の間です」

「封印の間……」

「四百五十年前、陛下を含む魔王軍主力が自らの魔力を封じた場所です」

僕は足元を見る。

何もない。

ただの黒い床にしか見えない。

「魔法陣は?」

「これから描く」

アンが僕たちの前へ出た。

いつもの服ではない。

王城へ戻ってから用意された、黒を基調とした衣装。

その上から深紅の外套を羽織っている。

現魔王。

アンタレス。

その姿は、旅をしていた時のアンとは明らかに違って見えた。

「陛下」

セラが呼ぶ。

「本当に」

「決めたでしょ」

「……はい」

「第二封印を解く」

アンはそう言って、右手を前へ出した。

赤い魔力が指先へ集まる。

「みんな、位置について」

その声に、魔王軍幹部たちが動き始める。

一人。

また一人。

円形の広間を囲むように立っていく。

ガレスもいる。

昨日まで本来の半分程度の力しかなかった魔王軍軍隊長。

その隣にはセラ。

さらに、五百年前から生きる古参の魔族たち。

全部で十二人。

そして中央。

アンだけが、誰も立っていない黒い床へ進んでいく。

「ソル」

ベラが僕を呼ぶ。

「少し下がっておれ」

「危ない?」

「分からぬ」

「分からないの!?」

「第二封印を解くところなど妾も初めて見る」

「え?」

僕はベラを見る。

「ベラも?」

「ああ」

「五百年前にやったんじゃないの?」

「封印したのは妾が眠りについた後じゃ」

「……そっか」

ベラが眠りについた後。

アンたちが決めたこと。

力を封じること。

魔族領を作ること。

人間との間に結界を張ること。

その全部を。

ベラは知らない。

アンが生きた。

ベラの知らない四百五十年。

「じゃが」

ベラが少しだけ笑う。

「術式そのものは分かる」

「分かるの?」

「基礎は古い魔族の封印術じゃ」

その時。

アンがしゃがんだ。

右手。

床へ。

指先が黒石へ触れる。

「――開け」

赤い光。

一本の線が走った。

「……!」

アンの指が動く。

それに合わせて。

赤い線が床へ刻まれていく。

円。

文字。

紋章。

さらに円。

そこから十二本の線が外側へ伸びる。

それぞれ。

幹部たちの足元へ。

「すご……」

アンが歩く。

指を動かす。

その度に。

魔法陣が広がっていく。

一つ。

二つ。

三つ。

複雑な魔族文字。

幾何学模様。

何重にも重なる円。

そして。

中央。

アン自身が立つ場所には。

最も大きな紋章。

炎のようにも。

星のようにも見える。

「アンが全部描くんだ」

「封印の主だからの」

ベラが答える。

「アンタレス自身の魔力を鍵としておる」

最後の線。

アンが指を滑らせる。

カチッ。

何かが。

繋がった。

瞬間。

ブォン――。

床全体が。

赤く光った。

「……」

僕は息を呑む。

巨大な魔法陣。

広間のほぼ全てを覆っている。

アンが。

その中央へ立った。

「確認する」

声が。

広間へ響く。

「第二封印を解放する」

誰も動かない。

「異論がある者は」

アンが全員を見る。

「今」

一拍。

「言って」

静寂。

誰も。

何も言わない。

最初に。

ガレスが拳を胸へ当てた。

「異論なし」

次に。

セラ。

「異論ありません」

「同じく」

「異論なし」

「魔王陛下の決定に従う」

次々と。

声が上がる。

アンが。

最後に。

ベラを見る。

「ベラ」

「何じゃ」

「見届けてください」

ベラが。

少しだけ笑った。

「そのために来た」

アンが頷く。

そして。

目を閉じた。

魔法陣へ。

両手を広げる。

「始める」

空気が変わった。

赤い魔力が。

アンの身体から。

ゆっくりと魔法陣へ流れ込んでいく。

一つ。

また一つ。

魔族文字が。

光り始める。

そして。

アンが。

口を開いた。

「――我、紅き星を戴きし魔の王、アンタレスの名において命ずる」

低く。

静かな声。

でも。

広間全体へ響く。

「五百年の静寂に伏し、四百五十年の永き眠りに沈みし我らが力よ」

魔法陣が。

脈打つ。

ドクン。

「戦火を遠ざけるため眠り、争いを絶つため鎖を受け入れ、我ら自身の意志によって深淵へ沈めし魔よ」

ドクン。

「我らは誓いを忘れず。我らは契約を違えず。我らは平穏を捨てず」

赤い光が。

強くなる。

「されど今、再び災厄は天より降り、閉ざされし境界は裂け、五百年前に封じし敵は再びこの世界へ手を伸ばした」

空気が。

震える。

「故に告げる」

アンが。

目を開く。

紅い瞳。

「これは侵略のための力にあらず」

一つ目の円が。

回転を始める。

「これは支配のための力にあらず」

二つ目。

「これは復讐のための力にあらず」

三つ目。

「これは――」

アンが。

右手を握る。

「守るための力なり」

ドンッ!!

魔法陣から。

赤い光が立ち上がった。

「眠りし魔よ、我らの血を思い出せ」

幹部たちの足元。

十二の紋章が光る。

「我らの魂を思い出せ」

魔力が。

渦を巻く。

「我らの名を思い出せ」

アンの赤髪が。

魔力で浮き上がる。

「第一の鎖は既に断たれた」

ガチン。

何かが。

外れる音。

「故に今」

アンの声が。

さらに強くなる。

「第二の門を開け」

ガチン。

「封じられし炎よ」

ガチン。

「眠りし力よ」

ガチン。

「我らが魂に刻まれし本来の姿へ」

魔法陣全体が。

真紅に染まる。

「帰れ」

ドクン。

「戻れ」

ドクン。

「目覚めよ」

ドクン!!

アンが。

両手を広げた。

「我、魔王アンタレスの名において、四百五十年の契約を今ここに更新する!」

魔法陣が。

爆発するように輝く。

「――《第二封印・解》!!」

轟音。

「っ!」

僕は腕で顔を覆う。

最初。

一番外側。

一人の魔族の紋章が。

赤く輝いた。

「ぐっ……!」

その身体へ。

魔力が戻る。

目に見える。

赤い光。

黒い光。

紫。

それぞれ違う魔力。

床から。

身体へ。

吸い込まれていく。

「……戻ってくる」

一人目。

魔力。

解放。

次。

二人目。

ドンッ!

空気が震える。

三人目。

ドンッ!!

さらに。

四人目。

五人目。

六人目。

一人。

また一人。

封じられていた力が。

戻っていく。

広間の圧が。

どんどん。

上がる。

「すごい……」

僕は。

無意識に。

《星装》を展開していた。

金色の光。

身体を守る。

そうしないと。

立っているだけでも。

苦しい。

七人目。

八人目。

九人目。

「……っ」

壁が。

震える。

天井から。

細かな砂埃。

十人目。

十一人目。

そして。

セラ。

彼女の足元。

紋章。

輝く。

「……!」

銀髪が。

大きく舞い上がる。

淡い紫と。

深紅。

二色の魔力。

一気に。

身体へ戻る。

「っ……あ……」

セラが。

拳を握る。

「……懐かしい」

その声が。

少しだけ震えていた。

「四百五十年ぶり……」

そして。

次。

ガレス。

「来たか」

ガレスが。

大剣を地面へ突き立てる。

両足。

踏ん張る。

紋章。

赤。

黒。

一気に。

輝く。

ドォォォン!!

「っ!」

僕は。

思わず。

一歩下がった。

「昨日と……」

違う。

全然。

違う。

昨日。

僕を吹き飛ばした。

あの魔力。

あれでも。

ほんの一瞬。

封印を越えただけ。

今は。

正式に。

戻っている。

赤黒い魔力が。

柱のように。

天井へ。

突き上がる。

ガレスの身体。

筋肉。

魔力。

全部が。

変わる。

「ぐ……おおおおおおっ!!」

咆哮。

床。

亀裂。

壁。

震える。

そして。

魔力が。

収束。

ガレスが。

ゆっくり。

目を開く。

「……」

拳。

握る。

空気が。

弾ける。

「戻った」

低い声。

「これが」

僕は。

ガレスを見る。

「本来の……」

「まだ全てではない」

ガレスが答える。

「第二封印だけだ」

「これで!?」

ガレスが。

少しだけ笑う。

「そうだ」

僕は。

思わず。

アンを見る。

まだ。

中央。

一人。

立っている。

「……」

そうだ。

まだ。

終わってない。

最後。

アンタレス。

幹部たち全員の魔力が戻った。

でも。

中央の紋章だけ。

まだ。

光っている。

「アン」

返事がない。

アンは。

目を閉じている。

「……」

ベラの表情が。

変わった。

「ソル」

「何?」

「こちらへ来い」

「え?」

「早く」

声。

さっきまでと違う。

真剣。

僕は。

すぐに。

ベラのところへ走る。

「どうしたの?」

「構えよ」

「え?」

「《明星》を抜け」

「なんで?」

「早くせい!」

僕は。

反射的に。

《明星》を抜く。

その瞬間。

魔法陣。

中央。

アンの足元。

小さく。

赤い光。

「……」

弱い。

さっきまでと。

比べれば。

あまりにも。

小さい。

一本。

細い。

赤い光が。

アンの身体へ。

入る。

「……これだけ?」

僕が呟いた。

ベラは。

答えない。

アンが。

小さく。

息を吸う。

次の瞬間。

ドクン。

「……え?」

音。

違う。

さっきまでの。

魔法陣じゃない。

もっと。

大きい。

ドクン。

「何……」

胸が。

震える。

ドクン。

広間。

いや。

王城そのものが。

脈打っているような。

そんな感覚。

アンの髪が。

ゆっくり。

浮き上がる。

「ベラ」

「……来るぞ」

「何が?」

ベラが。

叫んだ。

「全員!!」

広間にいた。

全員が。

ベラを見る。

「防御せい!!」

「え?」

「ソル!!」

「何!?」

ベラが。

僕を見る。

「《星域》を展開しろ!!」

「星域!?」

「ここにおる全員を包め!!」

ベラの声が。

広間へ響く。

「最大出力じゃ!!」

僕の身体が。

勝手に動いた。

《明星》。

床へ。

突き立てる。

金色の魔力。

全身。

循環。

レグルス。

ルナ。

アルデバラン。

全部。

繋ぐ。

「《星域》!!」

金色の光が。

爆発的に広がる。

僕。

ベラ。

セラ。

ガレス。

幹部たち。

全員。

包む。

「最大出力!!」

金色の領域。

さらに。

濃くなる。

「っ……!」

魔力。

減る。

一気に。

持っていかれる。

「ベラ!」

「維持せい!!」

「何が来るの!?」

ベラが。

アンを見る。

そして。

笑った。

「魔王じゃ」

「え?」

「本物の」

一拍。

「魔王が戻るぞ!!」

瞬間。

アンが。

目を開いた。

紅。

真紅。

いや。

それより。

もっと。

深い。

赤。

そして。

世界が。

爆発した。

ドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!

「――っ!?」

音が。

消えた。

一瞬。

何も。

聞こえない。

次の瞬間。

熱。

「うわああああっ!!」

紅い魔力。

アンから。

噴き上がる。

炎じゃない。

なのに。

熱い。

空気そのものが。

焼ける。

視界。

全部。

赤。

魔法陣。

見えない。

床。

見えない。

アンすら。

見えない。

ただ。

紅。

紅。

紅。

圧。

「ぐっ……!!」

《星域》。

揺れる。

金色の領域が。

アンの魔力に。

押される。

「嘘だろ……!」

最大出力。

なのに。

押される。

ガレス。

セラ。

幹部たち。

全員。

自分の魔力で。

身体を守っている。

それでも。

立っているのが。

やっと。

「ソル!!」

ベラの声。

「切らすな!!」

「分かってる!!」

僕は。

《明星》を。

さらに。

床へ押し込む。

「星よ!!」

呼ぶ。

「貸して!!」

《天曜》。

星。

繋がる。

金色の光。

さらに。

増す。

《星域》。

拡大。

強化。

紅。

金。

二つの光が。

ぶつかる。

その時。

王城。

大きく。

揺れた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――!!

「地震!?」

「違う!!」

ベラが叫ぶ。

「アンタレスじゃ!!」

王城だけじゃない。

*

魔族領。

城下町。

「……?」

店に並んでいた。

魔族たちが。

一斉に。

顔を上げた。

カタカタカタカタ。

窓。

震える。

食器。

揺れる。

地面。

小さく。

震え始める。

「地震?」

誰かが言った。

次の瞬間。

ドンッ!!

大地。

揺れる。

「きゃあっ!」

「何だ!?」

「王城だ!」

全員が。

見る。

王城。

その地下から。

紅い光。

空へ。

突き上がった。

巨大な。

紅い柱。

雲。

貫く。

空。

赤く染まる。

「……」

街中。

静まり返る。

子供。

老人。

兵士。

商人。

全員。

空を見る。

そして。

魔族だから。

分かる。

その魔力を。

知らなくても。

本能で。

分かる。

「……魔王陛下」

誰かが。

呟いた。

その声が。

震えていた。

「アンタレス陛下の……」

紅い魔力。

広がる。

王城から。

城下町。

さらに。

外へ。

魔族領全体。

結界。

揺れる。

森。

魔獣たちが。

一斉に。

伏せる。

鳥。

空から。

逃げる。

兵士たち。

無意識に。

王城へ。

顔を向ける。

紅。

熱。

圧倒的な。

魔力。

四百五十年。

眠っていた。

魔王の力。

*

「ぐっ……!!」

僕は。

歯を食いしばる。

《星域》。

まだ。

維持。

「ベラ!!」

「もう少しじゃ!!」

「これいつまで!?」

「アンタレスが制御するまでじゃ!!」

「無理だって!!」

「やれ!!」

「簡単に言うな!!」

魔力。

減る。

《天曜》。

星の力。

借りる。

それでも。

足りない。

アン。

中央。

ようやく。

見える。

赤髪。

完全に。

浮き上がっている。

外套。

激しく。

靡く。

瞳。

紅。

周囲。

赤い魔力。

渦。

まるで。

巨大な。

恒星。

「……」

アンが。

自分の手を見る。

握る。

その瞬間。

バンッ!!

空気が。

弾ける。

「うわっ!」

また。

《星域》が揺れる。

「……多い」

アンの声。

聞こえた。

「アン!!」

僕が叫ぶ。

「多いじゃないよ!!」

「ソル?」

「早く抑えて!!」

アンが。

僕を見る。

「……なんで《星域》?」

「ベラに聞いて!!」

アンが。

ベラを見る。

ベラは。

笑っていた。

「何がおかしいの!?」

「いや」

ベラが。

紅い魔力の中。

笑う。

「懐かしくての」

「何が!?」

ベラが。

アンを見る。

「この魔力じゃ」

「……」

「アンタレス」

ベラが。

笑う。

「強くなったの」

アンの目が。

少しだけ。

見開かれる。

「ベラ……」

「妾についてきておった頃とは」

一拍。

「まるで違う」

アンが。

少し。

黙る。

そして。

笑った。

「四百五十年」

「……」

「魔王やってますから」

「そうじゃな」

アンが。

目を閉じる。

深く。

息を吸う。

「……戻れ」

紅い魔力。

少しずつ。

アンへ。

集まり始める。

空へ伸びていた。

巨大な柱。

縮む。

広間を満たしていた。

熱。

薄れる。

圧。

消えていく。

赤い光。

身体へ。

吸収。

一つ。

また一つ。

最後。

小さな。

紅い光。

アンの胸へ。

入る。

静寂。

「……」

僕は。

《星域》を。

解除。

「……無理」

その場へ。

座り込む。

「もう無理……」

魔力。

ほとんど。

空。

《明星》を。

杖みたいにして。

身体を支える。

「ソル」

アンが。

近づいてくる。

「大丈夫?」

「誰のせいだと思ってるの?」

「私?」

「アン以外いる!?」

「ごめん」

「軽い!」

でも。

アン。

違う。

見た目は。

ほとんど。

変わってない。

なのに。

立っているだけで。

分かる。

魔力。

深さ。

量。

全部。

今までと。

全然違う。

ガレスが。

ゆっくり。

アンの前へ。

そして。

膝をついた。

「魔王陛下」

セラも。

続く。

「陛下」

一人。

また一人。

幹部たち。

全員。

膝をつく。

アンが。

少し困った顔をする。

「やめて」

「しかし」

「いつも通りでいい」

セラが。

少しだけ。

笑う。

「いつも通りには」

一拍。

「少々難しいかと」

「なんで?」

ガレスが。

答える。

「魔力が違いすぎます」

「……」

アンが。

自分の手を見る。

「どれくらい?」

ベラが聞く。

「分からない」

「感覚でよい」

アンが。

少し。

目を閉じる。

自分の中。

確かめる。

「……八十」

「うむ」

「いや」

もう一度。

確認。

「八十五」

僕が。

顔を上げる。

「八十五?」

「多分」

「多分!?」

「正確には測れない」

「じゃあ」

僕は。

アンを見る。

「今」

「……」

「八十五%くらい?」

「うん」

「……」

僕は。

さっきの。

紅い魔力を思い出す。

魔族領。

全部。

揺れた。

《星域》。

最大出力。

さらに。

《天曜》。

それでも。

押された。

「あれで」

「……」

「八十五?」

「そうみたい」

「残り十五%あるの!?」

「ある」

「……」

僕は。

ベラを見る。

「ベラ」

「何じゃ」

「昔」

「……」

「これについていけたの?」

「逆じゃ」

「え?」

ベラが。

笑う。

「アンタレスが」

一拍。

「妾についてきた」

「……」

そうだった。

唯一。

ベラについていけた魔族。

アンタレス。

でも。

今。

そのアンは。

五百年前とは。

違う。

四百五十年。

魔王として。

生きた。

戦った。

守った。

そして。

強くなった。

ベラが。

アンを見る。

「八十五か」

「はい」

「十分じゃ」

「……」

「今のお主なら」

一拍。

「五百年前の妾が知るアンタレスより」

「……」

「遥かに強い」

アンは。

何も言わない。

ただ。

少しだけ。

嬉しそうに。

笑った。

その時。

遠く。

王城の外から。

音が聞こえた。

声。

何百。

何千。

魔族たち。

「魔王陛下!!」

「アンタレス陛下!!」

「魔王陛下!!」

地下まで。

響いてくる。

アンが。

少しだけ。

目を見開く。

「……何?」

セラが。

小さく笑う。

「当然です」

「何が?」

「今の魔力」

一拍。

「魔族領全体に届いております」

「……」

「おそらく」

セラが。

天井を見る。

「国中が」

「……」

「陛下の魔力を感じました」

アンが。

固まる。

「……」

僕は。

少し笑う。

「正式発表」

「……」

「いらなかったね」

「ソル」

「何?」

「今それ言わないで」

「だって」

「言わないで」

ベラが。

大きく笑った。

「よいではないか!」

「ベラまで」

「隠す必要もなくなったの」

「そういう問題じゃ」

アンが。

途中で。

諦めたように。

息を吐く。

そして。

天井。

その向こう。

魔族領を見るように。

顔を上げる。

四百五十年前。

平和のために。

封じた力。

その第二封印が。

解かれた。

魔王軍主力。

そして。

現魔王アンタレス。

約八十五%。

紅く。

熱く。

魔族領全土を震わせた魔力。

五百年近く。

戦いから離れていた国が。

今。

再び。

力を取り戻した。

天使と。

そのさらに向こうにいる。

まだ名も知らない何か。

それらと。

再び。

戦うために。

魔王アンタレスが。

帰ってきた。


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