非公開会議
第84話 非公開会議
王城の中へ入った瞬間、僕は思わず足を止めた。
外から見ても十分に大きかったけれど、中はそれ以上だった。天井は高く、黒い石を基調とした壁には赤と金の装飾が施されている。床には長い絨毯が敷かれ、その両脇には鎧を着た魔族の兵士たちが並んでいた。
「……すごい」
「ソル、止まらないで」
前を歩いていたアンが振り返る。
「いや、だって思ってたよりちゃんと王城だから」
「ちゃんとって何?」
「もっとこう、魔王城って感じかと思ってた」
「ここは魔王城だけど」
「そうなんだけどさ」
僕が周囲を見回していると、隣を歩いていたベラが鼻で笑った。
「お主が想像しておる魔王城とやらは、どれだけ禍々しいのじゃ」
「暗くて、炎があって、なんか骨とか飾ってある感じ」
「趣味が悪すぎるわ」
「ですよね」
アンが即座に同意する。
「いや、僕の中の魔王城のイメージだから!」
「妾の城にも骨など飾っておらんかったぞ」
「ベラの城、もうないんでしょ?」
言った瞬間、少しだけ空気が止まった。
「あ」
しまったと思ったけれど、ベラは特に気にした様子もなく前を見た。
「そうじゃな。もうない」
「……ごめん」
「なぜ謝る」
「いや」
「五百年経ったのじゃ。残っておる方がおかしいものもある」
ベラはそれだけ言って歩き続けた。
ただ、その視線は時折、城の柱や壁、窓の形を確かめるように動いている。
ここはベラの知っている城じゃない。
それでも。
魔族の王が住む場所。
その意味だけは、五百年前と変わらないんだと思う。
「陛下」
少し前を歩いていた銀髪の女性が振り返った。
王城の入口でアンを笑顔で迎えていた人だ。
笑っていたのに、なぜかすごく怖かった人。
「会議室の準備は整っております」
「分かった」
「主要な者たちも、すでに集めてあります」
アンの足が一瞬だけ止まる。
「……全員?」
「必要と思われる者は全員です」
「早いね」
「陛下がお戻りになるまで、どれだけの時間があったとお思いですか?」
「……そんなに長くないよ」
「そうですね」
女性は笑う。
「私どもにとっては、とても長く感じましたが」
アンが目を逸らした。
僕は小声で聞く。
「アン、やっぱり怒られてるよね?」
「まだ怒られてない」
「まだって言った」
「言ってない」
「言ったよ」
「ソル」
「何?」
「静かにして」
「はい」
この人の前だと、アンまで少し弱くなるらしい。
それが面白くて。
でも笑ったら絶対巻き込まれる。
僕は黙って歩くことにした。
しばらく進むと、大きな扉の前に着いた。
左右には二人の兵士が立っている。
銀髪の女性が止まり、僕たちへ向き直った。
「この先は非公開の会議となります。現在、この城内でも事情を知る者は限られております」
アンが頷く。
「それでいい」
「外ではすでに噂が広がっておりますが」
「それは仕方ない」
「ええ。五百年前の魔王ベラトリクスが現れた、という噂を止めるのは難しいでしょう」
女性の視線がベラへ向く。
「……」
ベラも黙って見返す。
さっきから。
この人はベラに対してだけ、少し違う。
驚いている。
でも。
ヴァルドみたいにすぐ跪いたりはしなかった。
「お主」
ベラが口を開く。
「妾を知っておるのか?」
「もちろんです」
女性はすぐに答えた。
「直接お会いしたことはありませんが、知らぬ魔族の方が少ないでしょう」
「今の魔族も?」
「少なくとも、名を知らぬ者はほとんどいません」
ベラの目がわずかに動く。
「そうか」
「ただ」
女性が続ける。
「生きておられるとは、誰も思っておりませんでした」
「当然じゃな」
「ええ」
女性は少しだけ頭を下げた。
「ですので、私自身もまだ信じ切れておりません」
「正直じゃな」
「陛下の側近ですので」
アンが口を挟む。
「この人はセラ」
「セラ?」
「私の側近。王城の実務をほとんど見てる」
「ほとんど、ではありません」
セラがアンを見る。
「陛下が不在の間は、ほぼ全てです」
「……」
「アン」
「何?」
「ちゃんと謝った方がいいんじゃない?」
「後で」
「今でもいいと思う」
「ソル」
「はい」
セラが小さく笑った。
「仲がよろしいのですね」
「まあ」
僕が答えると、アンは少しだけ困ったような顔をした。
「とにかく、中へ」
「はい」
セラが扉を開ける。
その向こうには、長い机が置かれた広い部屋があった。
すでに十人ほどの魔族が座っている。
全員。
明らかに普通じゃない。
見ただけで分かる。
魔力が強い。
一人一人の気配が濃い。
角を持つ者。
翼を持つ者。
獣の特徴を持つ者。
見た目はほとんど人間と変わらない者もいる。
その全員が。
扉が開いた瞬間。
立ち上がった。
「魔王陛下」
一斉に頭を下げる。
アンが小さく手を上げる。
「座って」
「はっ」
全員が座る。
でも。
次の瞬間。
視線が。
僕とベラへ向いた。
「……」
静か。
ものすごく静か。
僕は。
できるだけ普通にしていようと思った。
でも。
無理だ。
全員に見られている。
「アン」
小声で呼ぶ。
「何?」
「僕、どこ座るの?」
「私の近く」
「それ余計目立たない?」
「もう目立ってる」
「それもそうか」
ベラは。
全く気にしていない。
堂々とアンの隣の席へ向かう。
「ここでよいか?」
「ベラ、そこ」
アンが少し困った顔をする。
「何じゃ」
「私の席です」
「妾の時代なら妾の席じゃ」
「今は私の席です」
「細かいの」
「魔王なので」
「妾も魔王じゃ」
「元です」
「……お主、言うようになったな」
「五百年経ってますから」
僕は。
笑いそうになった。
でも。
周りを見ると。
誰も笑ってない。
むしろ。
全員固まってる。
「……」
そりゃそうか。
現魔王と。
五百年前の魔王が。
席の取り合いをしてる。
「ベラ」
僕が小声で言う。
「何じゃ」
「隣でいいんじゃない?」
「仕方ないの」
ベラが一つ横へ移動する。
アンが座る。
僕は。
アンの反対側へ座った。
セラは。
アンのすぐ後ろ。
少し離れた場所に立つ。
全員が席へ着く。
そして。
アンが。
静かに口を開いた。
「始める」
その瞬間。
空気が変わった。
さっきまでのアンとは違う。
旅をしていた時の。
いつものアンじゃない。
現魔王。
アンタレス。
「まず」
アンが全員を見る。
「この会議の内容は、現時点では外へ出さないで」
誰も。
質問しない。
「街で噂が広がっているのは分かっている」
アンが続ける。
「止める必要はない。でも、王城から正式な発表はまだしない」
「理由をお聞きしても?」
一人の魔族が手を上げた。
年齢は分からない。
灰色の髪。
右目に大きな傷がある。
「もちろん」
「五百年前の魔王ベラトリクスの帰還が真実であるなら、魔族領全体にとって極めて大きな出来事です」
その視線が。
ベラへ向く。
「民へ速やかに知らせるべきでは?」
「まだ」
アンが答える。
「確認すべきことが多すぎる」
「確認、ですか」
「そう」
アンが。
僕を見る。
次に。
ベラ。
そして。
全員へ。
「今回、私が外へ出ていた間に起きたことは」
一度。
息を吐く。
「かなり多い」
「どの程度でしょう」
「天使が現れた」
空気が。
一瞬で変わった。
「……天使?」
「今」
誰かが呟く。
「天使と?」
「そう」
アンが頷く。
「五百年前に現れた、あの天使」
「……」
全員。
黙った。
セラの表情も。
変わっている。
「陛下」
「何?」
「それは」
セラが。
珍しく。
少し言葉を選ぶ。
「確かなのですか?」
「確か」
「実際に?」
「戦った」
「……」
「雑兵だけじゃない」
アンが言う。
「大天使ゼファリエルも確認した」
今度こそ。
誰かが息を呑む音がした。
ベラが。
静かに座っている。
「ゼファリエル……」
灰色の髪の男が呟く。
「五百年前の記録にある」
「そう」
アンが答える。
「同一個体と考えていい」
「あり得るのか」
別の魔族。
背中に黒い翼がある男が口を開く。
「五百年前に封じられたはずでは?」
「封じられた」
今度は。
ベラが答えた。
全員の視線が。
ベラへ向く。
「妾たちが」
一拍。
「封じた」
「……」
「じゃが」
ベラの手が。
自分の胸へ向く。
「完全には終わっておらぬ」
誰も。
何も言えない。
僕は。
少しだけ。
ベラの横顔を見る。
「五百年前」
アンが続ける。
「人間の歴史では、五英雄が魔王ベラトリクスを倒したことになっている」
誰かの眉が動く。
「でも」
一拍。
「それは違う」
「……」
「五英雄と」
アンがベラを見る。
「魔王ベラトリクス」
そして。
「六人で」
「……」
「天使と戦った」
静寂。
この場にいる魔族たちは。
どこまで。
知っていたんだろう。
魔族側には。
ベラが魔族を逃がした。
そのまま帰らなかった。
そういう伝承は残っている。
でも。
本当の戦い。
人間の英雄と。
共に戦ったことまでは。
知らない者もいる。
「……人間と」
一人が呟く。
「共に?」
ベラが頷いた。
「そうじゃ」
「魔王ベラトリクスが?」
「そうじゃ」
「五英雄と?」
「何度言わせる」
ベラが少し不機嫌そうになる。
「妾とレグルスたちは共に戦った」
「……」
「人間だから敵」
ベラが言う。
「魔族だから味方」
「……」
「そんなことを言っておる状況ではなかった」
五百年前。
本当の敵。
天使。
世界そのものを脅かす存在。
「妾は魔族を逃がした」
ベラが続ける。
「それから」
一度。
目を閉じる。
「人間どもと共に」
「……」
「残った」
その言葉を。
誰も。
疑わなかった。
多分。
ベラの声が。
嘘を言っているようには。
聞こえなかったから。
「そして」
アンが。
再び話を引き継ぐ。
「天使は今」
一拍。
「戻ってきている」
「……」
「それだけじゃない」
アンの視線が。
僕へ向く。
嫌な予感。
「ソル」
「え?」
「説明して」
「僕?」
「《天曜》のこと」
「……ここで?」
「ここで」
全員の視線。
また。
僕へ。
「……」
逃げたい。
すごく。
逃げたい。
「ソル」
ベラが。
横から。
小声で言う。
「頑張れ」
「他人事だなぁ……」
でも。
仕方ない。
僕は。
少しだけ。
姿勢を正した。
「僕は」
一度。
息を吸う。
「ソルです」
「……」
誰も。
何も言わない。
緊張する。
「人間です」
「それは見れば分かる」
灰色の髪の男が言う。
「ですよね」
少しだけ。
気が楽になった。
「僕は」
自分の腰へ手をやる。
《明星》。
「旅の途中で」
勇者レグルス。
剣聖シリウス。
守護騎士アルデバラン。
聖女ルナ。
賢者アークトゥルス。
「五百年前の英雄たちが残したものを辿ってきました」
「……」
「そしてアルカディアで」
一度。
言葉を止める。
「《天曜》について知りました」
「《天曜》?」
誰かが。
反応する。
「知ってるんですか?」
僕が聞く。
「名前だけなら」
翼を持つ男が答える。
「古代アウレストラ帝国の魔法だったと」
「そうです」
僕は頷く。
「それを」
「……」
「僕が使えます」
今度こそ。
少しざわついた。
「人間が?」
「アウレストラの魔法を?」
「なぜ?」
「それは」
僕は。
少し迷った。
でも。
ここまで来たら。
隠しても仕方ない。
「僕が」
一拍。
「アウレストラ帝国の王族直系だからです」
静まり返った。
「……」
「……」
「……」
本当に。
音がない。
アンが。
少しだけ。
目を閉じた。
「ソル」
「何?」
「一気に言ったね」
「駄目だった?」
「いや」
「隠す話でもないでしょ?」
「そうだけど」
ベラが笑う。
「分かりやすくてよい」
「ですよね」
「お主はもう少し慎重になれ」
「どっち!?」
でも。
周囲は。
そんな僕たちのやり取りを。
聞く余裕もないらしい。
「アウレストラ王族……」
セラが。
僕を見る。
さっきまでとは。
目が違う。
「確かなのですか?」
「はい」
「証明は?」
「太陽の力を使った」
今度は。
アンが答える。
「……太陽」
セラの目が。
僅かに見開く。
「アークトゥルスの記録でも」
アンが続ける。
「太陽の力を扱えたのは、アウレストラ王族直系だけ」
「……」
「そしてソルは」
ベラが。
少しだけ。
誇らしそうに言う。
「その太陽に応えられた」
「ベラ」
「何じゃ」
「なんでベラが得意そうなの?」
「妾の同行者じゃからな」
「そういうもの?」
「そういうものじゃ」
でも。
その場にいる魔族たちは。
誰も笑わなかった。
むしろ。
さらに。
表情が険しくなっている。
「それで」
灰色の髪の男が聞く。
「《天曜》と」
「……」
「天使に」
「……」
「何の関係が?」
僕は。
少しだけ。
迷った。
でも。
話す。
星の声。
星と繋がること。
星から。
世界を見ること。
そして。
星の届かない。
黒い領域。
裂け目。
「五百年前」
僕は言う。
「アークトゥルスも」
「……」
「同じものを見ていました」
「……」
「天使は」
少し。
喉が乾く。
「この世界のどこかにいるわけじゃない」
「……」
「別の場所から」
「……」
「裂け目を通って」
「……」
「来ている可能性が高い」
誰も。
何も言わない。
「そして」
続ける。
「千百年前」
「……」
「アウレストラ帝国が滅びた時にも」
「……」
「同じ裂け目があった」
セラが。
小さく息を呑む。
「では」
「はい」
僕は頷く。
「五百年前が」
「……」
「最初じゃない」
天使は。
千百年前にも。
この世界へ来ている。
そして。
今。
再び。
「五百年前」
僕は言う。
「六人が災厄を封じた後」
「……」
「裂け目は小さくなった」
「……」
「でも」
一拍。
「消えなかった」
「……」
「アークトゥルスは」
「……」
「死ぬまで」
「……」
「それを観測していた」
誰かが。
拳を握る。
「そして」
僕は。
アンを見る。
アンが。
小さく頷く。
「今」
「……」
「裂け目は」
一度。
息を吸う。
「アークトゥルスが最後に見た時より」
「……」
「遥かに大きくなっている」
重い。
沈黙。
さっきまで。
僕を見る目には。
警戒があった。
人間。
どうして魔王と一緒にいるのか。
そんな目。
でも。
今は違う。
全員。
僕の話を。
聞いている。
「……一つ」
セラが口を開いた。
「お聞きしても?」
「はい」
「ソル殿は」
「殿?」
思わず。
聞き返す。
「何か?」
「いや」
急に。
呼び方が変わった。
「何でもないです」
「では」
セラの表情が。
真剣になる。
「その裂け目を」
「……」
「見たのですか?」
「見ました」
「現在のものを?」
「はい」
「そして」
セラが。
一度。
言葉を止める。
「向こう側も?」
僕の背中が。
少しだけ。
冷たくなる。
「……はい」
全員が。
僕を見る。
「僕は」
手を握る。
あの声。
『――見つけた』
「向こうを見た」
「……」
「そして」
「……」
「向こうからも」
「……」
「見られた」
一瞬。
誰も。
息をしていないような。
そんな空気。
「見られた?」
灰色の髪の男が聞く。
「どういう意味だ」
「分かりません」
僕は。
正直に答える。
「姿は見えなかった」
「……」
「でも」
「……」
「天使より」
「……」
「もっと奥に」
あの。
無数の光。
「何かがいた」
誰かが。
唾を飲み込む。
「それが」
「……」
「僕を見た」
セラの表情から。
完全に。
笑みが消えた。
「何か」
「……」
「言われたのですか?」
僕は。
ゆっくり。
頷く。
「一言だけ」
「何と?」
「見つけた」
「……」
誰も。
声を出さなかった。
現魔王。
五百年前の魔王。
人間。
王族。
天使。
裂け目。
全部。
この部屋の中へ。
一気に。
落とされた。
そんな感じだった。
しばらくして。
アンが。
静かに口を開く。
「だから」
全員が。
アンを見る。
「今は」
「……」
「ベラの帰還だけを」
「……」
「国中へ知らせている場合じゃない」
「……」
「先に」
一拍。
「私たちが」
「……」
「状況を理解する」
誰も。
反対しなかった。
「それから」
アンが。
続ける。
「魔族領に残っている」
「……」
「五百年前の記録を」
「……」
「全部調べる」
僕が。
アンを見る。
「全部?」
「可能な限り」
「そんなに残ってる?」
「分からない」
「え?」
「私も」
アンが言う。
「全部を確認したことはない」
「魔王なのに?」
「五百年分ある」
「……それは多い」
「だから」
アンが。
少しだけ。
目を細める。
「今回」
「……」
「魔族側に残っているものを」
「……」
「調べる」
ベラが。
静かに頷いた。
「よい」
そして。
アンが。
この場にいる全員を見る。
「異論は?」
誰も。
手を上げなかった。
「ありません」
最初に。
セラが答える。
「私も」
「異論なし」
「同じく」
次々と。
声が上がる。
アンが。
最後に。
小さく頷いた。
「決まり」
会議が。
終わった。
……と思った。
「では」
セラが。
一歩。
前へ出る。
「これで緊急事項の共有は終了ですね」
「うん」
「それでは」
笑顔。
戻った。
「陛下」
「……何?」
「私からも」
一拍。
「いくつか」
「……」
「確認させていただきます」
アンの顔が。
固まった。
「今?」
「今です」
「明日でも」
「今です」
「……」
「まず」
セラが。
手元の紙を開く。
「無断で予定を延長した件」
「……」
「次に」
一枚。
「帰還予定を三度変更した件」
「……」
「さらに」
一枚。
「こちらから送った連絡への返答が遅かった件」
「……」
「そして」
さらに。
一枚。
「政務を大量に残したまま」
「……」
「長期間、王城を空けた件」
「……」
アンが。
ゆっくり。
僕を見る。
嫌な予感。
「ソル」
「何?」
「助けて」
「無理」
「即答?」
「だって全部アンのせいじゃん」
「一部はソルのせい」
「一部でしょ!」
「一部でもある」
「だからって!」
ベラが。
横で。
肩を震わせている。
「ベラ」
アンが睨む。
「何じゃ」
「笑ってます?」
「笑っておらぬ」
「絶対笑ってます」
「気のせいじゃ」
「ベラも」
セラが。
笑顔のまま。
視線を向ける。
「はい?」
珍しく。
ベラが。
少しだけ。
姿勢を正した。
「陛下が長期間不在となった理由について」
「……」
「後ほど」
「……」
「詳しく」
「……」
「お聞かせください」
「……」
ベラが。
僕を見る。
「ソル」
「何?」
「助けよ」
「無理」
「なぜじゃ!」
「僕も絶対巻き込まれるから!」
セラが。
今度は僕を見る。
「もちろん」
「……」
嫌な予感。
「ソル殿にも」
「……」
「お話を伺います」
「やっぱり!?」
誰も。
笑わなかった。
いや。
会議に集まっていた魔族たちの何人かは。
明らかに。
笑いを堪えていた。
五百年前の真実。
天使。
裂け目。
世界の危機。
そんな話をした直後なのに。
現魔王は。
側近に怒られている。
「……」
僕は。
少しだけ。
安心した。
何でかは。
分からない。
でも。
世界が危ないからって。
全部が。
急に変わるわけじゃない。
アンは。
魔王で。
ベラは。
五百年前の魔王で。
僕は。
人間で。
それでも。
僕たちは。
僕たちのままだ。
ただ。
一つだけ。
大きく。
変わったことがある。
これから。
人間側だけじゃない。
五百年前。
魔族側に残されたものも。
僕たちは。
探す。
六人が。
何を見て。
何を守って。
何を残したのか。
そして。
天使の正体へ。
もう一歩。
近づくために。
魔族領での調査が。
始まる。




