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古代遺跡

第65話 古代遺跡

翌朝。

僕たちは早い時間に宿を出た。

アルカディアを離れてから二日目。

目的地であるアウレストラ帝国の旧王都は、まだ先にある。

けれど。

昨日の遺跡で見た光景が、頭から離れなかった。

千百年前。

まだ帝国と呼ばれる前の時代。

一人の王子が、この土地に立っていた。

そして。

《天曜》を使い。

星々から力を集め。

太陽の力を大地へ降ろした。

そこから。

アウレストラ帝国は始まった。

「……」

歩きながら。

僕は自分の右手を見る。

何もない。

けれど。

意識を集中させると。

ほんの小さな金色の光が浮かんだ。

「お」

アンタレスが横から覗き込む。

「今日は綺麗に出ましたね」

「昨日より安定してる気がする」

「昨日はもっと大きかったじゃろ」

ベラが言う。

「でも、あの時は勝手に出てきたから」

「なるほど」

僕は光を消す。

「今は自分で出せるようになってきた」

アルヴィスが振り返った。

「それだけでも大きな進歩だ」

「《天曜》は」

「単純な魔法ではない」

「分かってます」

僕は頷く。

「星の声を聞いて」

「星の力を使って」

「太陽の力も使う」

「でも」

僕は少し考える。

「昨日の王子を見て」

「それだけじゃない気がしてきた」

「どういう意味だ?」

「分からない」

「ただ」

僕は空を見る。

「《天曜》って」

「力を使う魔法というより」

「世界と繋がる魔法なんじゃないかなって」

アルヴィスは少し黙った。

そして。

「……アークトゥルスも」

「似たようなことを記していた」

「本当ですか?」

「ああ」

「星の声を聞く者は」

「星を利用するのではない」

「星と共鳴する」

「共鳴……」

「力を奪うのではなく」

「星の持つ力を理解し」

「必要な時だけ借りる」

僕は昨日の王子を思い出した。

荒れた土地。

乾いた大地。

そこへ降り注いだ金色の光。

あの人は。

太陽の力を。

何かを壊すためには使わなかった。

「守るために」

僕は呟く。

「え?」

アンタレスが聞き返す。

「昨日の王子」

「太陽の力を使って」

「土地を生き返らせてた」

「……」

「攻撃じゃなかった」

僕は自分の手を見る。

「でも」

「僕には」

「攻撃にも使える気がする」

ベラが笑う。

「ようやく魔王の隣を歩く者らしくなってきたのう」

「いや、ベラまで物騒なこと言わないでよ」

「冗談じゃ」

「絶対嘘だ」

アンタレスが小さく笑う。

そんな会話をしながら。

僕たちは街道を進んだ。

昼を過ぎる頃。

景色が少しずつ変わっていった。

人の手が入った土地が減っていく。

道も。

次第に細くなっていく。

そして。

森が増えてきた。

「ここから先だ」

アルヴィスが地図を広げる。

「旧王都へ向かう途中に」

「いくつか古代遺跡が残っている」

「遺跡?」

「アウレストラ帝国時代のものだ」

「昨日の場所とは違うんですか?」

「昨日の場所は」

「帝国成立以前のものだった」

「だが」

アルヴィスが地図の一点を指差す。

「ここから先にある遺跡は」

「帝国が成立した後に作られたものだ」

僕は地図を見る。

「何があるんですか?」

「正確には分からない」

「……分からない?」

「五百年前の大災害で」

「この辺りの地形そのものが変わった」

「多くの遺跡が地下へ埋まった」

「その中には」

「未だに誰も調査できていない場所もある」

ベラが眉を寄せる。

「それを」

「今から調べるのか?」

「その予定だ」

「旧王宮へ行くための道にも近い」

「何より」

アルヴィスが僕を見る。

「君が反応する可能性がある」

「僕が?」

「ああ」

「昨日のように」

「古代の魔力の残滓を感じ取れるかもしれない」

僕は頷いた。

「分かった」

森へ入る。

途端に。

空気が変わった。

静かだった。

鳥の声も。

風の音も。

どこか遠い。

「……」

僕は歩きながら。

周囲の魔力を探る。

何もない。

少なくとも。

今は。

「まだ見つからない?」

アンタレスが聞く。

「うん」

「でも」

「この辺りにあると思う」

「根拠は?」

「分からない」

「ただ」

僕は胸に手を当てる。

「昨日の場所と似た感じがする」

アルヴィスが頷いた。

「なら」

「もう少し進もう」

さらに進む。

森の奥。

やがて。

巨大な石が見えてきた。

ただの岩ではない。

表面が平らに削られている。

「……これ」

僕は近づく。

石の表面には。

古代語が刻まれていた。

「読める?」

アルヴィスが尋ねる。

「うん」

僕は文字へ手を伸ばす。

「『太陽の道』」

「……」

「その下に」

「『王都へ至る者は』

『星を見失うな』」

アルヴィスが息を呑む。

「太陽の道……」

「何か知ってるんですか?」

「古い文献に」

「似た言葉がある」

「アウレストラ帝国の王都へ続く」

「古代の巡礼路だ」

「巡礼路?」

「ああ」

「王族が」

「太陽神殿へ向かうために使っていた道だと言われている」

「じゃあ」

僕は周囲を見る。

「この近くに」

「神殿が?」

「可能性は高い」

ベラが石を触る。

「しかし」

「ここには何もないぞ」

「……」

僕は目を閉じた。

その瞬間。

ほんの少しだけ。

何かを感じた。

「……ある」

「何が?」

「地下」

僕は地面を見る。

「下に」

「何かある」

アンタレスが周囲を見る。

「入口は?」

「分からない」

「魔力だけが」

「残ってる」

アルヴィスが杖を取り出した。

「なら」

「探してみよう」

僕たちは周囲を調べ始めた。

崩れた石。

古い柱。

土に埋まった壁。

けれど。

入口らしきものは見つからない。

「何もないな」

アンタレスが言う。

「うん」

「でも」

僕は。

さっきから。

同じ場所が気になっていた。

森の中。

少しだけ地面が盛り上がっている。

近づく。

「ここ」

「何かある?」

ベラが聞く。

僕は地面へ手を置く。

「……」

魔力が。

微かに流れている。

「間違いない」

「下に」

「空間がある」

アルヴィスが杖を地面へ突き立てる。

「《探知》」

淡い魔法陣が広がった。

地面の下が。

薄く透けるように見える。

「……なるほど」

アルヴィスが呟く。

「地下に巨大な構造物がある」

「どれくらい?」

「かなり深い」

「そして」

アルヴィスの表情が変わる。

「入口は」

「ここではない」

「え?」

「少し先だ」

僕たちはアルヴィスの指示に従って進んだ。

数十メートル。

そして。

木々の向こうに。

巨大な石壁が現れた。

「……」

誰も言葉を発しなかった。

森の中に。

壁だけが残っている。

高さは十メートル以上。

表面は苔に覆われ。

ところどころ崩れている。

それでも。

圧倒的な存在感があった。

「これが」

アンタレスが呟く。

「遺跡……」

アルヴィスが近づく。

「違う」

「これは」

「建物の外壁だ」

「……」

僕は壁を見る。

古代語。

そして。

その中央。

太陽の紋章。

「また」

僕は呟く。

「この紋章」

昨日見たものと同じ。

王子の衣にもあった。

そして。

僕の《天曜》にも。

「触ってみるか?」

アルヴィスが聞く。

「うん」

僕は壁へ手を伸ばした。

指が触れた瞬間。

――聞こえる。

「……っ」

頭の中に。

声が響いた。

けれど。

昨日の王子ではない。

もっと遠い。

もっと大量の声。

――守れ。

――閉じろ。

――王都を。

僕は手を離した。

「ソル?」

ベラが僕を見る。

「今」

「何か聞こえた」

「何と?」

「『守れ』」

アルヴィスの表情が変わった。

「……」

「それと」

「『閉じろ』」

「閉じろ?」

アンタレスが聞き返す。

「誰かが」

「何かを閉じようとしてた」

「……」

アルヴィスは壁を見上げた。

「この遺跡」

「ただの神殿ではないかもしれない」

「どういうこと?」

「古代帝国には」

「重要な施設を地下に作る文化があった」

「特に」

「王族に関係するものは」

「地上から隠されていた」

「じゃあ」

「ここも?」

「可能性は高い」

僕は壁を見る。

その瞬間。

壁の一部が。

金色に輝いた。

「……!」

太陽の紋章。

光が走る。

そして。

地面が震えた。

「何だ!?」

アンタレスが身構える。

ベラも。

すぐに魔力を高める。

「攻撃ではない」

アルヴィスが言う。

「これは」

「起動だ」

壁の中央に。

巨大な魔法陣が浮かび上がった。

古代語が。

次々と現れる。

僕には。

その意味が分かった。

「『王の血を持つ者』」

「……」

「『太陽を宿す者』」

「そして」

僕は。

次の文字を見る。

「『星の声を聞く者』」

アルヴィスが息を呑む。

「昨日の記録と同じだ」

僕は。

魔法陣へ手を伸ばした。

触れる。

光が。

一気に広がった。

地面が。

ゆっくりと割れていく。

「下に階段がある!」

アンタレスが叫ぶ。

土と石が左右へ動く。

隠されていた地下への入口が。

姿を現した。

階段。

暗い。

どこまで続いているのか分からない。

けれど。

その奥から。

確かに。

魔力を感じる。

それも。

今まで感じたものとは比べ物にならないほど強い。

「……ここ」

僕は。

階段の前に立つ。

「ここに」

「何かある」

アルヴィスが頷く。

「間違いない」

「ただし」

「まだ入るのは待て」

「どうして?」

「古代遺跡は」

「入口が最も危険な場合がある」

「罠?」

「そうだ」

アルヴィスは杖を構える。

「千百年前の魔法は」

「今のものとは構造が違う」

「解除できない罠もある」

ベラが階段を見る。

「ならば」

「妾が先に行く」

「待って」

僕が止める。

「僕が行く」

「ソル」

「魔力の残滓を感じ取れるのは僕だから」

「罠があっても」

「何か分かるかもしれない」

ベラが少し不満そうに僕を見る。

「無茶をするでないぞ」

「分かってる」

アンタレスが僕の後ろに立つ。

「なら」

「私も行きます」

「アンタレス」

「一人で行かせるつもりはありません」

「……ありがとう」

アルヴィスが頷く。

「私も続く」

「ベラは」

「当然じゃ」

「妾だけ置いていくつもりか?」

「思ってないよ」

僕は笑った。

四人で。

階段の前に立つ。

その時だった。

地下から。

風が吹いた。

冷たい風。

けれど。

その中に。

ほんの少し。

太陽の匂いがした。

「……」

僕は息を吸う。

懐かしい。

昨日の王子と同じ。

いや。

もっと深い。

この場所には。

王子が生きていた時代の魔力が。

まだ残っている。

「行こう」

僕は一歩。

階段へ足を踏み入れた。

カツン。

靴音が響く。

二歩。

三歩。

後ろから。

ベラたちが続く。

階段は。

想像以上に深かった。

「……まだ続く」

アンタレスが呟く。

「どれだけ地下に作ったんだ」

壁には。

一定間隔で。

古い壁画が描かれている。

太陽。

星。

王。

そして。

白い翼。

「……」

僕は足を止めた。

壁画の中に。

天使が描かれている。

けれど。

昨日見たものとは違う。

この天使は。

王に対して。

跪いている。

「……なんだこれ」

アンタレスが呟く。

「天使が」

「人間に跪いてる?」

アルヴィスも。

壁画を見つめる。

「……あり得ない」

「何が?」

「現在知られている歴史では」

「天使は」

「五百年前に突然現れた災厄だ」

「人間と共存した記録はない」

「でも」

僕は壁画を見る。

「ここでは」

「王に跪いてる」

ベラが。

壁画の奥を見る。

「その王」

「太陽を持っておるな」

「……」

確かに。

壁画の王の手には。

金色の光が描かれている。

そして。

その王の前に。

天使が跪いている。

何かを。

差し出しているようにも見える。

「何を渡してるんだ?」

僕は近づく。

けれど。

壁画はそこで途切れていた。

その先は。

崩落している。

「続きがない」

「意図的に壊されたのかもしれない」

アルヴィスが言う。

「……」

僕は。

壁画へ手を触れる。

その瞬間。

また。

声が聞こえた。

――まだ。

「……っ」

僕は手を離した。

「何じゃ?」

ベラが尋ねる。

「また声がした」

「何と言った?」

「……『まだ』」

「それだけ?」

「うん」

僕は。

暗い階段の先を見る。

この遺跡には。

何かが残っている。

昨日の王子の記憶よりも。

もっと古いもの。

もっと深い何かが。

「行こう」

僕は階段を下りる。

一段。

また一段。

やがて。

階段の先に。

巨大な扉が現れた。

高さは。

僕の倍以上ある。

中央には。

太陽と星を組み合わせた紋章。

そして。

その下に。

古代語が刻まれている。

僕は。

その文字を読む。

「……『王の間』」

「王の間?」

アンタレスが聞く。

「そう書いてある」

アルヴィスが。

扉へ近づく。

「旧王都の地下に」

「こんな場所があるとは」

ベラが周囲を見回す。

「ならば」

「この先に」

「帝国の秘密があるかもしれぬな」

僕は。

扉の前に立った。

不思議と。

怖くない。

むしろ。

懐かしい。

初めて来た場所なのに。

ずっと前から。

ここを知っていたような感覚。

「……」

僕は。

扉へ手を伸ばす。

すると。

太陽の紋章が。

淡く輝いた。

そして。

僕の頭の中に。

声が響いた。

――ようやく来たか。

僕は。

目を見開いた。

「……誰?」

返事はない。

ただ。

扉の奥から。

巨大な魔力が。

ゆっくりと目を覚ます。

ゴゴゴゴゴ……。

地面が震えた。

「全員、下がれ!」

アルヴィスが叫ぶ。

僕たちは一斉に身構える。

けれど。

扉は。

攻撃してこない。

ただ。

ゆっくりと。

開いていく。

その隙間から。

金色の光が漏れ出した。

僕は。

その光を見た瞬間。

理解した。

これは。

ただの遺跡じゃない。

ここには。

アウレストラ帝国が。

千百年前に残した。

何かが眠っている。

そして。

僕たちは今。

その中へ。

足を踏み入れようとしていた。


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