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太陽を宿す王子

第64話 太陽を宿す王子


翌朝。

アルカディアの街は、まだ朝靄に包まれていた。

昨日までの賑やかな街並みも、今はどこか静かに見える。

僕たちは宿の前に集まり、最後の確認をしていた。

「食料、水、薬……」

アンタレスが荷物を一つずつ確認していく。

「魔力回復用の薬もあります」

「予備の装備も問題ありません」

「よし」

僕は頷く。

「これで大丈夫そうだね」

「本当に行くのじゃな」

ベラが僕を見る。

「うん」

僕はアルカディアの街を振り返った。

この街へ来てから、まだそれほど時間は経っていない。

それなのに。

ずっとここにいたような、不思議な感覚があった。

アウレストラ帝国。

千百年前に滅びた古代帝国。

そして。

その帝国の跡地に作られた、今のアルカディア。

昨日。

アルヴィスから聞いた話を思い出す。

僕は。

アウレストラ帝国の王族直系。

五百年前の賢者、アークトゥルスと同じ血を持っている。

そして。

僕が使っている《天曜》は、かつてアウレストラ帝国の王族が扱っていた古代魔法。

まだ。

全部を理解したわけじゃない。

星の声を聞く。

星の力を扱う。

そして。

太陽の力を使う。

それが《天曜》。

けれど。

それだけじゃない。

昨日、アルヴィスから聞いた話では。

《天曜》には、まだ僕の知らない力がある。

「ソル」

アルヴィスの声で我に返る。

「そろそろ出発する」

「はい」

僕は荷物を背負った。

「行こう」

僕たちは。

アルカディアを出た。

目的地は。

アウレストラ帝国、旧王都。

そして。

その中心に残る、旧王宮。

帝国が滅びた最後の日。

何があったのか。

なぜ天使は。

太陽の力を恐れたのか。

そして。

なぜ僕の血に。

《天曜》が受け継がれているのか。

その答えが。

旧王宮にあるかもしれない。

街を抜けると。

景色は少しずつ変わっていった。

アルカディア周辺には人の手が入っている。

畑が広がり。

街道も整備されている。

けれど。

少し離れるだけで。

その痕跡は薄くなっていく。

草原。

森。

そして。

遠くに見える山々。

「ここから先は」

アルヴィスが地図を確認する。

「古代帝国時代の街道を使う」

「今も残ってるんですか?」

「完全な形ではない」

「だが、地形そのものは千百年前と大きく変わっていない」

「なるほど」

僕は前を見る。

「アウレストラ帝国って」

「どんな国だったんですか?」

アルヴィスは少し考えるように黙った。

「巨大な国だった」

「それは聞きました」

「だが」

「単純に領土が広かったわけではない」

「帝国の中心には、他国には存在しない技術と魔法が集まっていた」

「《天曜》もその一つだ」

「……」

「当時のアウレストラは」

「魔法文明の頂点にあったと言われている」

「そして」

アルヴィスは地図を見る。

「その中心にいたのが、王族だ」

「王族……」

「《天曜》を受け継ぐ一族」

「星の声を聞く者」

「太陽の力を扱う者」

「彼らを中心に帝国は発展していった」

ベラが口を挟む。

「ならば」

「最初から巨大な帝国だったわけではないのじゃろう?」

「その通りだ」

「帝国が成立する前」

「この土地は、荒れ果てた大地だった」

「……荒れ果てた?」

「今のアルカディアからは想像できないほどにな」

アルヴィスはそう言って。

少しだけ空を見上げた。

「アウレストラ帝国は」

「一人の王子から始まったと言われている」

僕は。

その言葉に反応した。

「王子……」

「そうだ」

「まだ国王ではなかった」

「一人の王子が」

「この地に国を築いた」

「その人も《天曜》を?」

「ああ」

アルヴィスが頷く。

「初代王」

「後にアウレストラ帝国を築いた人物だ」

僕は。

なぜかその名前が気になった。

「名前は?」

アルヴィスは首を横に振る。

「正確な記録は残っていない」

「王朝名と帝国名だけが残されている」

「……アウレストラ」

僕が呟く。

その名前を口にした瞬間。

胸の奥が。

ほんの少しだけ熱くなった。

「……?」

「どうした?」

アルヴィスが僕を見る。

「いや」

「なんでもない」

僕は胸に手を当てる。

気のせいだ。

そう思った。

けれど。

その感覚は。

それから何度も繰り返した。

街道を進んで。

数時間。

太陽は高く昇っている。

僕たちは途中で休憩を取ることにした。

「少し休みましょう」

アンタレスが言う。

「ああ」

僕たちは街道脇の岩場に腰を下ろした。

ベラは木陰に座り。

アンタレスは水を取り出している。

僕は。

少し離れた場所で空を見上げていた。

青い空。

雲一つない。

太陽が。

強く輝いている。

「……」

まただ。

胸の奥が。

暖かい。

昨日の光とは違う。

もっと微かなもの。

けれど。

確かに感じる。

「ソル?」

ベラの声。

「また何か感じたのか?」

「うん」

僕は頷く。

「太陽が」

「なんだか近く感じる」

ベラは空を見る。

「太陽など」

「昔からそこにあるじゃろ」

「そうなんだけど」

僕は自分の手を見る。

「今までとは違う」

「力が」

「僕の中からじゃなくて」

「外から流れてくる感じがする」

アルヴィスが近づいてきた。

「それは《天曜》の感覚かもしれない」

「天曜の?」

「ああ」

「星の声もそうだが」

「《天曜》は、自分の魔力だけで成立する魔法ではない」

「星や太陽」

「その力を感じ取り」

「自分の中へ通す」

「だから」

アルヴィスは僕の手を見る。

「力を扱えるようになるほど」

「周囲の魔力に敏感になる」

「……」

「ただし」

「それには注意が必要だ」

「どうして?」

「強すぎる力を無理に取り込めば」

「身体が耐えられない」

「昨日の記憶みたいに?」

「そうだ」

僕は頷いた。

「じゃあ」

「もっと練習しないと」

「焦る必要はない」

アルヴィスはそう言った。

「君はまだ」

「《天曜》を覚醒させたばかりなのだから」

「覚醒……」

その言葉を聞いた瞬間。

遠くから。

何かが響いた。

「……」

僕は立ち上がった。

「ソル?」

「静かに」

僕は目を閉じる。

風の音。

木々の揺れる音。

遠くの鳥の声。

その奥。

さらに遠く。

何かが。

僕を呼んでいる。

「……聞こえる」

「星の声か?」

アルヴィスが尋ねる。

「分からない」

僕は耳を澄ませる。

声ではない。

もっと曖昧なもの。

魔力の流れ。

残滓。

何かが。

この土地に残っている。

「こっち」

僕は街道を外れた。

「おい、ソル」

アルヴィスが声をかける。

「何かあるのか?」

「分からない」

「でも」

「何かが残ってる」

僕は歩き続けた。

森の中へ入る。

木々の間を抜ける。

地面には古い石が埋まっていた。

崩れた壁。

折れた柱。

誰かが作ったものだ。

「……遺跡?」

アンタレスが辺りを見る。

「おそらく」

アルヴィスが答える。

「アウレストラ帝国時代のものだろう」

僕は。

その場所に立った瞬間。

強烈な感覚に襲われた。

「……っ」

頭の奥が熱くなる。

昨日の比じゃない。

「ソル!」

ベラが駆け寄ってくる。

「大丈夫か?」

「大丈夫……」

僕は地面に手をついた。

その瞬間。

魔力が。

一気に流れ込んできた。

――古い。

――遥かに古い。

千百年前。

この場所に。

確かに誰かがいた。

僕は。

魔力の残滓を感じ取っていた。

「これは……」

僕の目の前に。

景色が重なっていく。

現在の森。

その上に。

過去の景色が浮かび始める。

木々が消える。

代わりに。

巨大な建物が現れた。

石造りの街。

白い壁。

金色の装飾。

空には。

魔法によって作られた光が浮かんでいる。

人々が歩いている。

馬車が走っている。

遠くには。

巨大な城。

「……すごい」

アンタレスの声が聞こえる。

「これが」

「アウレストラ……」

アルヴィスが息を呑む。

「違う」

僕は呟いた。

「まだ帝国じゃない」

「……何?」

アルヴィスが僕を見る。

僕には分かっていた。

これは。

もっと前。

アウレストラ帝国が成立する前の記憶だ。

そして。

その中心に。

一人の青年がいた。

黄金色の髪。

白い衣。

王族を思わせる装飾。

けれど。

まだ王冠はない。

青年は。

荒れた土地の中心に立っていた。

周囲には。

数十人の人々がいる。

「ここに」

青年が言った。

「新しい国を作る」

人々がざわめく。

「この大地には何もありません」

「水も」

「食料も」

「住む場所すら」

青年は。

空を見上げた。

「ならば」

「作ればいい」

彼が手を掲げる。

その瞬間。

周囲の魔力が動き始めた。

「……!」

僕の身体が反応する。

分かる。

あの魔力。

僕の中にあるものと。

同じだ。

「《天曜》……」

アルヴィスが呟いた。

青年の周囲に。

無数の光が集まり始める。

星。

昼間なのに。

空に星が現れる。

一つ。

二つ。

十。

百。

無数の星々。

青年は。

その全てに手を伸ばすように。

静かに目を閉じた。

そして。

声を発した。

「星々よ」

「我らに力を」

光が。

青年の身体へ降り注ぐ。

けれど。

それだけではなかった。

青年の胸の奥から。

一つの光が生まれる。

太陽。

小さな太陽のような光。

「……」

僕は息を呑む。

「太陽の力」

ベラが呟いた。

青年は。

その光を。

大地へ向けた。

黄金の光が。

地面へ降り注ぐ。

乾ききった土地に。

光が満ちていく。

ひび割れた大地が。

少しずつ変わる。

水が湧き出す。

枯れていた植物が。

芽を出す。

荒れ果てていた土地が。

生命を取り戻していく。

「……」

僕は。

その光景を見つめていた。

まるで。

世界そのものが。

目を覚ましていくようだった。

青年は。

息を切らしながら。

人々を見る。

「ここから始めよう」

「ここに」

「我らの国を築こう」

人々が。

一斉に声を上げる。

「王子!」

「王子!」

「王子!」

僕は。

その光景から目を離せなかった。

王子。

まだ王ではない。

それでも。

この人が。

後に帝国を築いた。

僕には。

なぜか分かった。

この青年が。

アウレストラ帝国の始まりだ。

「……」

その時。

青年が。

突然こちらを向いた。

「……え?」

僕と。

目が合った。

「……誰だ?」

青年が呟く。

僕は息を呑んだ。

魔力の残滓。

過去の記憶。

本来なら。

こちらから干渉することなんてできないはずだ。

それなのに。

青年は。

僕を見ている。

「お前」

青年が一歩近づく。

「そこにいるのか?」

「……」

僕は。

自分でも分からないまま。

一歩前へ出た。

「僕は」

「ソル」

青年が。

僕の名前を聞いて。

少しだけ目を細めた。

「ソル……」

「君は」

「誰?」

青年は。

しばらく僕を見つめた。

そして。

僕の手に浮かんでいる光へ視線を向ける。

「その光」

「……」

「それは」

「私と同じだ」

僕の心臓が跳ねた。

「君も」

「《天曜》を?」

青年は笑った。

「やはり」

「お前も星の声を聞いているのか」

「……聞こえる」

「そうか」

青年は。

嬉しそうに笑った。

「ならば」

「いつか」

「私と同じ道を歩く者なのだろう」

僕は思わず尋ねた。

「あなたは」

「誰なんですか?」

青年は。

少しだけ驚いたような顔をした。

「私を知らない?」

「はい」

「……そうか」

青年は空を見る。

「まだ」

「私の名が残っていない時代なのだな」

そして。

こちらを見る。

「私は」

「この地に国を築く者だ」

「この土地に?」

「ああ」

「いずれ」

「この国は大きくなる」

「多くの人々が暮らす」

「そして」

青年は。

大地へ手を伸ばした。

「太陽と星の力を」

「人々のために使う」

僕は。

その言葉を聞いて。

少しだけ胸が熱くなった。

「どうして」

「そんなことを?」

青年は。

少し考えてから答えた。

「力を持つ者には」

「責任があるからだ」

「……責任」

「そうだ」

「力とは」

「誰かを支配するためにあるものではない」

「誰かを守るためにある」

その言葉が。

僕の胸に残った。

ベラが。

少し離れた場所から。

僕を見ている。

「ソル」

「……」

「お主」

「今、誰と話しておる?」

僕は振り返る。

ベラにも。

この青年が見えているのか。

そう思った。

けれど。

ベラの視線は。

僕の隣を通り過ぎている。

「……見えない?」

「何がじゃ?」

僕は。

もう一度青年を見る。

青年は。

僕にしか見えていない。

「なるほど」

青年が呟く。

「これは」

「残滓か」

「……分かるの?」

「ああ」

青年は自分の胸に手を当てる。

「私も」

「星の声を聞く者だ」

「だから」

「お前が」

「過去の私の魔力に触れていることが分かる」

僕は驚いた。

「じゃあ」

「これは本当に」

「あなたの記憶?」

「そうだ」

青年は頷く。

「この地で」

「私が初めて太陽の力を使った日の記憶だ」

僕は。

周囲を見渡す。

今は森。

でも。

千百年前には。

ここに人がいた。

そして。

ここから。

帝国が始まった。

「あなたの名前を」

「教えて」

僕が尋ねる。

青年は。

少しだけ笑った。

「まだ」

「名乗るほどの者ではない」

「でも」

「僕は知りたい」

青年は。

しばらく僕を見つめた。

そして。

静かに答えた。

「アウレストラ」

「……」

「私の名は」

「アウレストラ」

「それが」

「私の名だ」

その瞬間。

僕の胸の奥で。

何かが大きく震えた。

「アウレストラ……」

その名前を口にしただけで。

頭の中に。

無数の光景が流れ込んできた。

広大な帝国。

黄金の城。

星を観測する塔。

太陽を祀る神殿。

そして。

たくさんの人々。

その中心に。

この青年が立っている。

王冠を被っている。

帝国が。

完成している。

「……っ」

頭が痛い。

僕は膝をついた。

「ソル!」

アンタレスの声。

「大丈夫か!」

ベラが駆け寄る。

「触るな」

青年の声が。

響いた。

僕は顔を上げる。

「まだ」

「見るには早い」

「……え?」

青年は。

僕を見る。

「私の記憶には」

「まだ先がある」

「だが」

「今のお前には」

「受け止めきれない」

僕は。

歯を食いしばった。

「何を知ってるの?」

「天使のこと?」

青年の表情が変わった。

その瞬間。

空気が。

一変した。

「……天使」

青年が。

初めて笑顔を消した。

「お前は」

「奴らを知っているのか」

「500年前に」

「僕たちは天使と戦った」

「……500年前?」

青年は目を見開く。

「そうか」

「それほど先の時代か」

「ならば」

青年は空を見る。

「もう」

「奴らは来たのだな」

「あなたの時代にも?」

「ああ」

青年は頷く。

「奴らは」

「この力を恐れている」

「太陽を?」

「そうだ」

「なぜ?」

青年は。

答えなかった。

しばらく空を見上げ。

やがて。

小さく呟いた。

「太陽は」

「奴らにとって」

「消せない光だからだ」

僕は息を呑んだ。

「消せない?」

「そうだ」

「天使は」

「太陽そのものを恐れているわけではない」

「この力が」

「奴らの存在を否定することを恐れている」

「……」

その言葉の意味を。

僕は理解できなかった。

「どういうこと?」

「まだ」

青年は首を横に振る。

「今のお前には」

「知る必要がない」

「でも」

「いつか」

「お前自身が」

「その答えへ辿り着く」

青年の身体が。

少しずつ薄れていく。

「待って!」

僕は手を伸ばした。

「まだ聞きたいことがある!」

青年は。

最後に僕を見る。

「一つだけ」

「お前に伝えておこう」

「何?」

青年は。

僕の手に宿った金色の光を見る。

「その力は」

「王族の証ではない」

「……え?」

「王族だから太陽を使えるのではない」

「太陽を使える者が」

「王族として選ばれたのだ」

僕は。

言葉を失った。

「それは」

「どういう意味?」

青年は答えなかった。

ただ。

静かに笑う。

「いつか」

「お前なら分かる」

「……待って!」

光が。

弾けた。

次の瞬間。

目の前の景色が。

一気に崩れた。

巨大な城が消える。

人々が消える。

王子が消える。

太陽が消える。

そして。

僕は。

森の中へ戻っていた。

「ソル!」

ベラが。

僕の肩を掴む。

「大丈夫か!」

「……」

僕は。

しばらく何も言えなかった。

「ソル」

アンタレスが心配そうに覗き込む。

「何が見えたんですか?」

僕は。

ゆっくり立ち上がる。

そして。

目の前に残る。

古い石柱を見る。

さっきまで。

ここに巨大な街があった。

今は。

ただの森。

「……王子」

「王子?」

ベラが首を傾げる。

「うん」

「アウレストラ帝国を作った王子」

「会ったのか?」

アルヴィスが。

驚いた表情で尋ねた。

僕は頷く。

「魔力の残滓を通して」

「彼の記憶を見た」

「それだけではない」

「僕と」

「少しだけ話した」

アルヴィスは。

言葉を失っていた。

「そんなことが……」

「あり得るんですか?」

アンタレスが尋ねる。

アルヴィスは。

しばらく考えた後。

「普通ならあり得ない」

「だが」

「ソルは」

「星の声を聞く者だ」

「さらに」

「王族直系の血を持っている」

「だからこそ」

「過去の魔力と」

「ただの残滓ではなく」

「記憶そのものとして繋がったのかもしれない」

僕は。

自分の手を見る。

まだ。

金色の光が残っている。

「彼が」

「何と言っていたのじゃ?」

ベラが尋ねる。

僕は。

ゆっくり答えた。

「力を持つ者には」

「責任があるって」

「誰かを支配するためじゃなく」

「誰かを守るために使うものだって」

ベラは。

少しだけ目を細めた。

「……良い王だったのじゃな」

「うん」

「それから?」

「天使について」

僕は空を見る。

「太陽は」

「天使にとって」

「消せない光なんだって」

「……」

アルヴィスの表情が変わった。

「それ以上は?」

「分からない」

「記憶が途切れた」

僕は。

王子が最後に言った言葉を思い出す。

『王族だから太陽を使えるのではない』

『太陽を使える者が』

『王族として選ばれたのだ』

「……」

この言葉だけが。

頭から離れない。

僕は。

王族だから《天曜》を使える。

そう思っていた。

でも。

本当は違うのかもしれない。

「アルヴィスさん」

「何だ?」

「《天曜》って」

「王族に受け継がれる魔法なんですよね?」

「ああ」

「でも」

僕は。

自分の手を見る。

「王子は違うって言ってた」

アルヴィスは。

しばらく黙っていた。

「……アークトゥルスの記録にも」

「そのような記述はなかった」

「じゃあ」

「新しい謎が一つ増えたな」

「そうですね」

僕は笑う。

「でも」

「嫌じゃない」

「何?」

「謎が増えるの」

僕は。

空を見上げる。

「少しずつ」

「分かっていけばいい」

アルヴィスは。

静かに頷いた。

「その通りだ」

僕たちは。

再び街道へ戻る。

けれど。

さっきまでとは。

少しだけ世界の見え方が違っていた。

ただの森。

ただの遺跡。

ただの古い石。

そう思っていた場所に。

千百年前の記憶が眠っていた。

そして。

その記憶の中で。

僕は。

初めて。

自分と同じ力を持つ人間に会った。

アウレストラ。

帝国を築いた王子。

僕の遠い祖先なのかもしれない。

けれど。

まだ。

確かなことは分からない。

ただ一つ。

確かなことがある。

僕の中にある《天曜》は。

ただの古代魔法じゃない。

この世界のどこかで。

まだ眠っている何かと。

深く繋がっている。

そして。

それを知るためには。

もっと先へ行かなければならない。

旧王宮。

そこに。

帝国最後の日の記録がある。

そして。

もしかしたら。

アウレストラが残した。

最後の答えも。

僕は。

歩きながら。

もう一度だけ。

自分の手を見る。

金色の光が。

小さく瞬いていた。

それは。

炎ではなかった。

ただ。

静かに。

暖かく。

僕の手の中で輝いていた。

まるで。

遠い昔の太陽が。

今もなお。

僕の中で生き続けているように。

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